手向けにカトレアを   作:さわたり

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第八話「だから戦う」(3)

身を庇うゴールドバーグの前に、再び立ちはだかる影。ただ、アルテルナを前にした時と同じようなヒリつきはなく、眼前のリンとドゥーゲンを、ただただ「排除」すべき敵として認識する。

 

「手負いのまま来るとは……舐めているのか? それとも戦力が欠けに欠けた状態と見るか……。いや、本拠地の防衛に割いているか」

 

「どうだろうね」

 

ふたりの後ろで構えたサフランとプラニス。リンは一瞥すると録の剣を握り下がっていく。

 

 

___メンバー、

 

___ドゥーゲン・モリオン

___プラニス・プレイヤー

___リワ・サフラン

 

___作戦開始

 

 

「正面、来る!」

 

「まさかリン人事官からそんな頼りない指示される日が来るとは思いませんでしたね~」

 

「だったら僕の剣の処理能力あげられない? 近いデータが少ないんだよ」

 

藥の剣による強化を剣に入れつつ、リンは眼前とドローンの送る映像を交互に見る。言った通りの正面からの攻撃は、黒水晶をブチ割り、プラニスに叩き込まれる。

星の剣で防ぎ、飛び退いたゴールドバーグに、剣から取り外した光の短剣を投げつけるが……大方の想像通り簡単にはじき返される。

 

「プラニスはその位置を保って! ドゥーゲンが防ぐ役割をお願いするよ、この際僕も出る! サフランはドゥーゲンに対して優先的に薬を渡して!」

 

「了解」「はい!」「は~い」

 

口々に応えつつ、フォーメーション完成。ドゥーゲンに並んで、リンも眼の剣との二刀流で構え。

 

「他愛もない」

 

「ッ!!」

 

砕かれる水晶、リンとドゥーゲンが剣で押さえる中、ゴールドバーグは押し切る方を選ぶ。押しのけられるドゥーゲンと、抑えにかかるリン。瞬間、目くばせと共にリンが下がり、そしてドゥーゲンの肌を一気に水晶が覆う

地面から突き上がる水晶に弾き飛ばされ、ゴールドバーグはそして、剣を握り直す。

 

「すこし、侮っていたかもしれん。……が、やることは変わらん」

 

瞬間、走った雷がリンを上下に真っ二つに分けた。

 

「っぐぁああ!!!」

 

「グリセレ・グリサコフなら、直前で防いだんだがな。」

 

「ぅ……ドゥーゲン、とにかく壁を作って!」

 

「っはぁ!!」

 

プラニスの投げつけた短剣を簡単に弾き飛ばし、目の前の水晶を叩き割り。置きっぱなしのテルトがすげえなどと気の抜けたひとこと。

強化もあってか、ドゥーゲンもしばらく対等に斬り合って耐えるが、その身体をおおう水晶が少しずつ大きくなっていき、その動きが鈍る。

 

「悪くはないが……」

 

「っぐ、」

 

水晶をすべて砕いたのは、銃撃。欠けた体を再生しながらのドゥーゲンのやけくその一撃も、蹴りで簡単に返される。

プラニスは剣を展開し、弓のように構える。

 

「フン、効くか」

 

「っはァ!!」

 

「効くものかと言っているんだ」

 

がむしゃらに駆け出したサフランに、重い拳が入る。それでも突き立てた藥の剣が、靂の剣を鈍らせる。蹴っ飛ばされ岩に激突し、サフランはもぞもぞとうごめくだけ。

 

残されたプラニスは、その手の剣をゆっくりと展開する。

 

展開し……立ち尽くす。構えていたゴールドバーグも、どこか訝し気にその構えを解いた。気づいたのだ、どちらが動くかの駆け引きなどではないことに。

 

「戦う気がないなら通るぞ」

 

何ともなさげに歩き出すゴールドバーグを、見ているしかできない。改めて投げつけられ短剣を、ゴールドバーグはすべて指で挟んで受け止め、一瞥だけして投げ捨てる。

 

「何がしたい?」

 

「……プラ、ニス? いいんだよ、いまなら、なにをしたって……星の剣を解放、したって君に、失望なんか」

 

「分かってるんだ!」

 

プラニスの髪と目が、いささか激しく明滅した。

 

「分かってる、分かってる分かってる分かってる!! 怖い! 力を使いたい、使いたい自分が怖いから使いたくない!! これを使わなきゃいけないことが怖いけど、けど、使いたい! だって楽しいから!!」

 

「……プラニス、さん」

 

ゆっくり立ち上がったドゥーゲンが、リンに目くばせをして頷いて。まだ水晶に覆われていたり、再生しかけだったりするまま、構えた。

 

「リン人事官も、僕も、きっと同じことを言いたいと思うんです」

 

「……。」

 

プラニスから借りた光の短剣を片手に駆け出し、ゴールドバーグ目前でスライディング。斬撃に短剣をぶつけ、閃光、一瞬の怯みを狙い、ゴールドバーグに剣を突き立てた。

 

「……!」

 

黒水晶により腕が傷つき、しかしそれも軽く仕切り直しも簡単。次の一撃は、防ぎつつもドゥーゲンを大きく弾き飛ばす。

 

「僕みたいになってしまうかもしれない、ですから。だから……使うのが怖い、使いたくないという気持ちが勝つなら、それに従ってもいいんです。作戦行動の範囲外ですし」

 

「……でも、変わらなきゃ、いけない」

 

「違うでしょ」

 

声をあげたのは、サフランだった。

 

「変わりたい、ですよね。だったら、怖いうちは保留で良いんですよ、多分」

 

「……そ、れって」

 

「あと、……今はこれで、折り合いつけましょ~よ。」

 

投げ渡された藥の剣、カートリッジには、すでに薬品が入っている。ギリギリで声を上げ指揮を続けるリンと、防戦で時間を稼ぎ続けるドゥーゲン。

それも破られた今、ゴールドバーグはテルトを拾い前線拠点へ歩みを進めようとしている。

 

「再現性はない、です。保証も……しません、賭けです。いま、……調合したんで」

 

「いや、十分だよ、大丈夫」

 

今一度剣を展開し、藥の剣を突き立てる。自身の身体と紐づいた星の剣ゆえか、その効果はすぐにわかる。言ってみればデチューン……剣の性能を落とすものだ。

 

「っふゥ~……はァ!!」

 

「来るなら早くしろ……待たせてくれたな」

 

靂の剣に突き立てられた、光の刃、星の剣。髪とその眼を光らせ、獣のごとき笑みと共にプラニスは斬り払った。

 

「……。こんなものか、拍子抜けだな」

 

「プラニス、制御できてる……」

 

「出力、感覚としては1/6がいいところだし。……でも、いいんだ、怖いから。まだ覚悟ができてないから。だから!!」

 

1/6でも多少声を荒げつつ、プラニスはのこぎりのような禍々しいそれを振るった。衝突と同時に光が放たれるが、それは本質ではない。ただただ、光の巨剣として、質量と共にブチ当てる連撃。

ゴールドバーグの口角が、少しだけ上がる。

 

「舐められたものだな」

 

「まさか、君相手なら本気を出すしかないけど、出したくないって言う葛藤の結果だよ!」

 

「本気を出さない選択肢こそが、舐められているという話をしているのだ」

 

「どうだろうね、君と違って私には戦い以外の人生がある!!」

 

「……それで人生をおろそかにするか?」

 

「君と違って一人じゃないからね、私という駒をすり減らすのもよくないからさァ!! あっはは!! 調子乗ってるわりに押されてるじゃん!!」

 

「長引けば本気が見れるかもと思ってな。期待は出来なさそうだ」

 

体を雷にしてかく乱、隙をついて放った一撃が、プラニスに叩き込まれる。だが、プラニスは笑っている。

 

「そうだよ、これができるなくなるのが怖いから、いま、こうしてるんだ!!」

 

「な、」

 

藥の剣を離せば、ゴールドバーグの死角でサフランがキャッチ。カートリッジを挿入し、靂の剣に薬をブチ込んだ。その効果は即座に現れ、オーバーヒートして雷撃があたりに放たれる。衝撃音と共に手を離すが、左手で刃を掴み、どうにか抑えて。

 

「驚かされはしたが……。」

 

そして斬りかかるインパチェンスふたりを同時に斬り捨て。

 

「……はァ。それなりに時間は稼がれた、それは認めよう」

 

今度こそ、前線拠点へと向かっていく。その様子を見送り、リンは下半身がくっついたことを確認してズルズルと身を起こす。

 

「目的は、達成かな」

 

「撤退の余力、あります?」

 

「それぐらいはね」

 

 

 

前線拠点を目前に、ゴールドバーグは歩みを止めた。おもわず、くつくつと笑ってしまう。

 

「ジーリオ・オブ・アクエイディア、トキワ・カシ……ふたりでわざわざお出迎えか」

 

「初めまして。造園騎士団団長のアクエイディアのジーリオです」

 

「……。」

 

そして、あたりを見回す。

 

「私も単純に思われたものだな。お前たちであれば釣られて飛び出すと……「戦いたいものだ」と駆け出すと。……そして、張り巡らされた罠にかかる、と」

 

「察しはいいようだな。覚えておこう」

 

「ふん」

 

剣に手を伸ばしつつ、機械に運ばれるテルトを一瞥。彼の視線に気づき、ゆっくりと下がる。

 

「お前も無謀だっていうのはわかンだろ。それでもレレル姉ェを取り戻したいのは意外だけどな」

 

「私は強者を味わいたいだけだ。……まあ、奴がそれに足る場を用意する、その点で有用であるのは認めるが」

 

「御託はそれで終わりですか?」

 

ジーリオの武器……(やいば)の剣。剣の一部が分離し、あたりを漂い始め。それが臨戦態勢であるのは容易にわかる。

 

「御託じゃねえよ、取引だ。オレの頭部……要は今喋ってるコレだけど、そいつを持って行っていい。捕虜と情報が欲しいだろ?」

 

「テルト貴様……私を侮辱する気か?」

 

「あ? 違ぇわ。オレは油断する悪癖をなおそ~としてんだぜ、力量の事は頑張って把握するようにしてんだ。お前の戦力は絶対に黒百合(おれら)に必要だからな」

 

「……その気にさせるのが上手いのは、姉譲りだな」

 

「はいはい大好きな姉上と一緒で嬉しいザマスよ」

 

「我々のメリットは?」

 

聴く姿勢がわりに、トキワの構えを解かせ、続けるようジーリオが促す。

 

「天秤賭けてみろって、未知の情報vs既知の敵の情報・疲弊と消耗とリスク付き」

 

「あなたが情報を吐くという保証は?」

 

「有用情報その①。アルテルナ・オブ・メゲオイデはオレたちの派閥と敵対している。黒百合も一枚岩じゃない、つまり俺たちにも得。アーユーオーケー?」

 

「……団長」

 

「分かりました、飲みましょう。テルト・イイル。あなたがこちらに来るのが先です」

 

「シザーリィ嬢の狙撃も解かせろよ。それ避けて反撃に出るぐらい余裕だからなこいつも」

 

「なぜ貴様が得意げかはわからんが、そういうことだ」

 

テルトの頭部を機械が渡し、受け取ったトキワは視線を外すことなく下がっていく。ジーリオも不服そうに踵を返すゴールドバーグを見送り、剣を元に戻して前線拠点へ戻っていく。

当然シザーリィにも、狙撃姿勢終了の合図を出して。

 

「お得意サマってことで今後もよろしくなァ?」

 

「……。」

 

「なんか言えって。で、オレどうなるの?」

 

「捕虜は捕虜としてそれなりに扱います、不自由はさせませんよ」

 

言葉通りと言っては何だが、あまり遠くないうちにテルトは己の身体と再会するのであった。

 

 

 

 

「まあ、信用に足る証言だと思うことにしよう……だァ~~が、……待てそうこわばるな、こっからはただの雑談だよォ」

 

「……そうですか」

 

結論から言えば、「黒百合が狙った分断」ということで、ソルツへの反乱だとか、黒百合との内通だとか、そういう疑いは晴れつつある。

それでも、グリセレのネチネチした様子にジーリオはたじろぐのだが。

 

「アルテルナと敵対していると言っていたなァ? その戦いに我々を利用する気だったのか? ならなぜ分裂を?」

 

「雑談というには内容が公的すぎませんか。聞いたところ、我々を崩すのが無理だから利用する方向に舵を切ったという感じに受けます。まだ個人の感想ですが」

 

「そうか……仲間の情報は?」

 

「名前や武器については極力言わない方針のようです。あまり非人道的なこともできませんから、まあ、彼らの得にもなるようアルテルナ派の情報を引き出すようにしています。アルテルナとの敵対自体は、戦闘を目撃した隊員が居ますので、事実のようですから」

 

「ふむ……正式な報告は追って頼むよォ。人道的なやり方というこだわりも大変結構……捕虜への悪待遇はいびつな結束と亀裂を生むからなぁァ」

 

「分かっています」

 

会議は終わった。ため息をつきつつ、ジーリオの向かう先は、ナナカマドだ。トキワに案内された先、三人が何かボードゲームのようなものをしている。

少し離れたところで、リンも眺めている。

 

「今日は食堂の端っこではないんですね」

 

「団長も認識していたんだな、それを」

 

「黒百合の捕虜もいる、会議の内容に機密も関わって来る」

 

「ふふ、まあそりゃそうですよね。……開始まで20分。早めてもいいんですが、まあ私も疲れていますし……休憩しても?」

 

促されるままにジーリオが椅子に座り、様子を眺め。どうやらラヴィニアは敗退したようで、残り二人が勝負中。大きな声で「負けた~!」と叫んだ水色髪の、どこか幼げな女性がパトリシア・バティスティ。

もう一人の、勝ったわりに「あっ」しか言わなかった線の細い青年が、ヤナギ・アサミ。気の抜けた連中だが、ジーリオ直属の懐刀である。

 

「え、あ、団長……会議、そろそろ、ですよね…………準備します」

 

「ああ、ゆっくりでいいですよ」

 

「あ団長! えっとー、会議ってどれくらいかかりますかねー……。いやこんなこと聞くのも失礼なんですけどもー……」

 

「少なくとも1時間は超えませんよ。捕虜の方々についてはまた後日深い話はするので。大丈夫です、半休に合わせて組んでいます」

 

胸をなでおろすパトリシアに、ラヴィニアが顔を向けた。

 

「パトリシア、午後に予定か?」

 

「レディにそれ聞く~~? まあでも、普通にお茶しようって、プラニスから」

 

「プラニスから……」

 

かみしめるように呟いたのは、リンだった。気にしてリンを見たジーリオが、彼からもらった目くばせに微笑む。

 

「…………私も、今後のことを、考えなきゃいけないかしら」

 

ひとり呟いたそれは、ペンダントの写真に向かって吐き出された。

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