第九話「因縁」(1)
「助けたいのォ? あの子達」
ゴールドバーグも、アルテルナも剣は抜かない。だが素手で殺し合いでもするような気迫が、あたりを包む。
「だったら何だ? 邪魔でもするか?」
「んーずっとあっちに居てベラベラ余計なこと言うよりはアンタが抱えてる方がマシだけど。意外ね、アンタにそんな情があるなんて」
「勘違いするな。レレルには私が戦うために働いてもらわねばならんだけだ」
「あっそ。ま、せいぜい頑張りなさい? 次は負けないわよ」
「……。」
睨みつけるゴールドバーグ、くすくすと笑うアルテルナ。激しい緊張が走るが、それはアルテルナは踵を返すことで解かれる。
どこか期待でもあったのか、ゴールドバーグはつまらなさそうに拠点の様子見へと戻った。
手向けにカトレアを
独立国編 第九話
「因縁」
アルテルナたちの居場所を特定するにあたり、役立ったのはレレルとテルトだ。拘束されつつも丁重に移送されながら、二人は顔を見合わせる。
お目付役はパトリシアとトキワ……随分のゲスト扱いである。
「襲撃うまく行ってくれればこっちも嬉しいんですけどね」
「……アルテルナ派は派閥が違うと言っていたな」
「言ったでしょう黒百合も一枚岩じゃないって」
「反騎士団……ってよりは反GRTO組織か。ま、そーいう奴らだから、“反”の理由もそれぞれ」
「あなたたちはどうして“反”なの?」
パトリシアの問いに、2人ともわかりやすく『さあなんだっけ』のポーズ。拷問・尋問は人道性ゆえにやるわけにはいかない。
トキワは面倒そうに視線を逸らし、パトリシアはコロコロ変わる表情をわかりやすく不平のそれに変えた。
「では、アルテルナは?」
「んー……」
思い出すような溜めの中で、テルトに目配せ。意図としては『言っちゃっていいのか』であり、おそらくテルトのそれは『好きにしろ』。
レレルは向き直る。
「ガーデンの独立……ですかね」
流石に隠れ家まで迫られれば、迎撃の手を選ぶだろう。概ねの想定通り、仮設キャンプに黒百合の騎士・そしてタコを思わせる巨大機械の襲撃。
コルニカの指示で構えつつ、全体的な指令はリンへ。アコナイト対人戦闘部隊の面々に目配せをしつつ、対応が始まった。
「……大したことないわね。シザーリィ、準備を、」
そんな戦いの最中。シザーリィとの通信に声が入り込む。シザーリィの息も荒い。
だが、気にしていては機械が暴れるばかり。コルニカは取っ組み合いをやめられない。
「……っ」
「やっと会えた、シィちゃん!!」
「アイリーン、さん」
狙撃姿勢はとっていられない。逃げるシザーリィと追うアイリーン、追撃戦の旨をコルニカに伝えるが、しかしすぐに援護が来れる状況かは疑わしい。
「アッハ!!」
「……っ」
合の剣を突き立て、シザーリィを追うように隆起が走る。岩の刃を回避しつつ、低出力の狙撃。
しかし、それは合の剣に取り込まれ……。
「おりゃあ!!」
「っぐゥ!!」
打ち返されるのだ。
「っの!!」
「無駄無駄」
すぐさま斬りかかるも、これもまた簡単に防がれ。鍔迫り合いにおいても、優勢を取るのはアイリーンだ。
「なァ〜んだ、弱いんじゃん!! バカみたい!バカみたい!!」
「……っ」
と、そこに蹴り込み。かわしつつ、アイリーンは眼前の敵を見据える。妹に手を貸し起こしたのはニトパール。
次の一撃はサクラによる拳だ。
「いってて……あーあ、やっぱり『持ってる』よねえ、シィちゃんは」
「下がってて、シィ。でもあんまり離れすぎないでね」
いつになく真面目なニトパールを前に、クルクルと己の髪をいじるアイリーン。いらついた様子で剣を振るえば見た目以上に大きな範囲を切り裂く。
「振ってる間だけ……黒くなっていますね」
「刀身が伸びたって事ですかね~~……」
そうして視線を送る先はアイリーンの足元。報告にあった通り、カゲがない。
「影ってそういう使い方出来るものでしたっけぇ~?」
「出来ないでしょうけど、ガーデンの技術は私たちの想像を簡単に超えますからね」
影の刃をかわしつつ、ニトパールは銃撃を放つ。しかしやはりと言うか、アイリーンは何も気にせず突撃してくる。
「サクラさ〜ん!!」
「ええ!」
それを抑え込むサクラの横蹴り。防ぎつつも、磁の剣から放たれるワイヤーが地面に埋まり込んだ弾丸めがけて発射。分かっていたかのようにサクラがかわせば、アイリーンの肌が思いっきり引き裂かれる。
「……バカに、してッ!!」
「何の話〜……?」
「正気を失っているのでしょうか……」
「食らえっ!!」
地面に突き立てた剣を床が飲み込んでいく。報告を受けて相手の手は知っている。地面から突き出る剣をかわしつつニトパールの放った銃撃。
やはり気にせず繰り返すアイリーンだが、手応えがない。隆起した剣状の床に埋もれ視界が怪しい。
「まさか隠れるわけじゃ、な……」
キョロキョロとするアイリーン目掛け、岩をぶち抜く一発。
シザーリィの銃撃で蒸発した腕を庇いつつ、アイリーンは迫るニトパールを防ぐ。
「やってくれるじゃない!!」
「まだですよ」
そんなふたりごと、サクラの剣が斬り伏せる。頭がおかしいのかと傷を抉られながら思うのも束の間。斬られたはずのニトパールが双剣をアイリーンの喉元に突き立てた。
「っぐ、が……味方には効かない剣ってわけェ!?」
頷きもしないが、天の剣はそういう武器だ。二撃めが迫る中、アイリーンは自分の身へと剣を突き立てた。
正確には、その先にある、地面に。
「ぶごっ」
発生する剣の隆起をカタパルトにぶっ飛び、草陰へ。姿はなくなっていた。
「逃げられちゃいましたね〜〜……」
「ここで捕まえておきたかったのですが……」
探し回る二人の背を見て、シザーリィは少しだけ俯いた。
「あーあ大変だこと」
大型機械を打ち倒した一行の前に、悠々自適に歩み寄る。ブロンドの髪をなびかせ、アルテルナは姿を晒した。
「アルテルナ……」
「コルニカちゃんだったかしら。隊長になったのねえ? あっは、似合ってるわよ」
「目的は?」
「えェ? 教えてあげなァ〜い。知りたけりゃ……」
続きを吐こうという一瞬。滑り込むように斬りかかったふたりを、アルテルナは己の剣で受け止める。
すぐさま飛び退いたヤナギとラヴィニアを一瞥すると、けたけた。
「ちょっとォ〜? 話を切らないでよォん。せっかく冗談にしてちゃんと目的のこと話してあげようとしてるんだからさーァ」
迫る騎士を蹴り倒し、簡単に関節を外し。……そして、異常再生するような形に組み替えて。
放っておいてもそこは治るが、一時拘束として有用で、何よりアルテルナの手早さは異常である。……ともかくその騎士の上に腰をかけて。
「ガーデン中央王国はGRTOより独立しガーデン全域について領有権を主張、これに侵入し脅かしたものとして中央部への侵入者に緊急性ゆえ無警告の攻撃を行った。これを持って全体への警告とし、継続して領地の侵犯を行うようであればGRTO、第三者委員会ソルツに対し戦争行為を開始する」
「何を……」
「言ったでしょ、独立国家の誕生よ」
訝し気な面々を置いておいて、ヤナギが『涙の剣』を振るい斬りかかる。アルテルナは即座に対応するが、剣の切っ先は地面。
ぬかるみ始めたそこから、アルテルナは素早く飛び退いた。
「……あら、やだ。血の気が多いのね」
「その……えっと、たぶん、あなた達って、主権国家として…………認められてなくて。ガーデンの、国家を引き継ぐとしても…………その権限、ないし」
「なんていうか言う時やっぱズカズカいうわねアンタって……」
「……そうだったな。僕らが怯む理由はないか、君らはこちらに明確な侵害をしているし」
「後程最後通牒として改めて言うけど……期日までの退去の宣言と、そこから一年以内の退去をしなさい。それが交渉」
「……その、飲むかどうかは今は関係なく、」
ヤナギの目くばせに、アルテルナとラヴィニアはお互い前に出る形で答える。
「そうね、お互いにとって……」
「僕たちからすれば……」
「領地侵犯」「不法侵入」
「…………えェ~? こういうの同時に言ってカッコよく合うもんじゃないのォ?」
「そうだね、悪かったな。」
言いながら、ラヴィニアが斬りかかる。コルニカは機械の対処に追われ、今戦えるのはナナカマドのふたり。ラヴィニアの一撃はかわされ地面に当たるが、そこを蹴り込めば生み出された『割れ目』から地面が爆破、炸裂する土煙を薙いでヤナギが突く。
「あっぶなァい!」
かわしたアルテルナの髪が、炎をまとう。それを合図に攻守交替、焔の剣を振るい、反撃を防ぎ、熱で火傷を生み出し、剣戟は炎で追い込む。
初歩、全て初歩。……問題は究極に磨き上げられているということ。
「……強い、ですね…………」
「そうだね、マズいかもしれない」
「あいっ変わらず冷静ねェん? 美徳ね美徳!!」
「君に褒められてもうれしくはないな。どうだろう、強さに関しては認める所だし、案外嬉しいかもしれないけど」
こんな時でもどこか掴みがたい雰囲気の男だ。こんなことを言いながらも気は抜かない、炎そのものに作った亀裂を割いて、爆発するように火炎が散る。
「だァ!!」
「っづあ!!」
その隙を狙い、放たれる涙の剣の突き。防いでももはや遅い。涙の剣は、物体を液化する武器。炎そのものを溶かし、そこにラヴィニアによる斬撃が入った。
「ヤナギ、いけるね」
「っは、はい!!」
「行けるわけないわよッ!」
涙の剣の突きを蹴り返し、二撃目は剣で跳ね返し。液化には多少のインターバルも必要だ。再び燃え盛る炎の攻撃をかき消せない。
怯むヤナギを蹴り飛ばし、防がれて放たれる反撃をかわし、そしてアルテルナの突きはラヴィニアへ。
「……、っ」
「遅いわよ遅い遅い!」
「っぐ!」
剣戟はどんどんと加速していき、押し切ったのはアルテルナの方。肩の切り傷が燃え盛り、ラヴィニアが姿勢を崩す。
「あーあ、ナナカマド相手はさっすがにつらいわね……」
ラヴィニアと、そこに駆け寄るヤナギと。構えなおす二人を眺めつつ、アルテルナは通信機に触れた。
『アタシのお話聞いてたでしょ? もうやっていいわよ』
「とっくにやってるよ」
全身に切り傷を作った、少女テトラを踏みつけながら、続ける。
「今しがたバカを捕まえたところでさァ。しっかりわからせといてやるから」
「っぐ、放して……!!」
「ヤだね。っく、クヒヒ……惨めなバカを眺めるのは気分がいい……ケド、同時にイライラもすんだよな」
「……ぐ、う」
緑がかったの白の髪を揺らし、けたけた。淀み切った眼光で、己の『糸の剣』をいじりながら、かがんで見下ろす。
「テトラ・なんとかトプス……チフキんとこのガキだっけ? あっちはガキふたり……いやあのゴミカス含めりゃ三人いんだよな、っは、幼稚園かっつーの」
「うちの隊の事、知って……」
「知ってるも何もなァ。愚弟が世話になってるぜ。……ハマダのフロフキ。あいつがどんぐらい恥晒してるか聞きに来たよ」
「ぐてい……」
「チフキだよチフキ! おれはあのボケのにーちゃんなの、最悪なことにな」
「……っ、チフキは、優しいし、強くて」
「あーあー別にそういうのいいんだわ」
踏みつけられたテトラが、うめく。だが、それだけで終わるわけにはいかない。剣のブースターを作動させ無理矢理身を起こすと、腕をごきごき鳴らしながら、ぶん回す。
依然、見下すようにフロフキは笑っている。
「うわわ!」
「チフキ以下じゃねえ? 糸の防御に力は要らない……軌道にちょ~と張っておけば勝手に逸れる寸法だ、バカなガキにはわかんねえか!」
「っぐ、この!!」
勢い任せに、糸ごと切ってやろうと、最大出力。今度は、張られた糸ノコによる切断がテトラを待っていた。ぶっ飛んだ片腕を拾おうとするが、ゴミでも退けるようにフロフキはそれを蹴っ飛ばす。
刃となっている糸ノコをしかける、シンプルな武器である。
「っは!!ブザマだなあ!!」
糸を引いてまた絡め取ろうとする瞬間、勢いをかけた剣から手を離し、ブースターが火を噴きめちゃめちゃに暴れまわる。かがんだテトラをよそに糸ノコをちぎりまくって剣が暴れまわる。
推力が切れたそのころ、冷や汗をごまかすようにぬぐいながら、フロフキがテトラをにらむ。
「てめェ~……」
「っは、ははは! ちょっと凝ったことやったら焦るんだ、あはは、大したことないじゃん!」
ニトパールだったかが言っていたことを、思い出す。挑発は判断力を鈍らせ、相手の動きを単純にする。まあ、内心「こんな挑発は効かないよね」と子供ながらに、考え……。
そして、その予想に反しフロフキは目をかっぴらいた後テトラへと迫った。
「てめぇ……俺のことを笑うってのか? チフキ以下のアホのゴミカスの癖にか?」
震えながらゆっくり駆け出す、彼とテトラの間に、暴風と共に巨体。機械をのし終わったコルニカが、その機械でもってフロフキを叩き潰さんと拳を振るう。
「邪魔すんじゃねえ! っはァ!! まあその図体じゃ飛んで火に入るってやつだな!」
「そうかしら」
糸ノコたちが舞い上がり、縛り付けるようにコルニカを囲む。だが、彼女は冷静。簡単なことで、コルニカのシルエットを機械で捉えていたなら、脱げば隙間だらけ。
単身、眼の剣で喉を引き裂いた。
「っぐ、がひゅー、っ、ひゅゥゥ……」
「甘い」
「どりゃあ!!!」
そして、剣と腕を拾ったテトラの斬撃。かわすが、張った糸はすべて取り払われてしまった。焦りながら、後ずさり。
乗り直した機械で迫る、一瞬。強烈な高音と共に、機械の剣が防がれる。コルニカが押し切ろうとする勢いを流し、そのまま連撃。攻めに慣れた相手を前に、コルニカは一度距離を取った。
「逃げといてくださいね、御前がつかまっても困るので……」
「……チッ」
「僕も長居する気はないですけどねぇ?」
二股に割れた『
「食らえッ!」
「おっと、危ない……」
大ぶりな攻撃をかわし、少し飛び退いて。白兵戦はフロフキより慣れているらしい様子を見せつつも、攻めに出るつもりはないらしい。
適当に木の葉を舞い上げて煙幕を張ると、また去っていき。黒百合は逃げ方の教育でもしているのかとそんなことを考えつつ。
今の敵は、コルニカには見慣れた相手。
「あのひと……その、似てましたよね、えっと…………」
「……アビス。」
「え?」
「アビス・アドニス……行方不明になった、彼の弟。」
「…………え?」