「ってことで、ここからは俺ちゃんのイケボによる任務内容の読み上げだよ……! というわけで本『スーパーしあわせドッキリガッツ!猛獣ゲットはぴはぴライオン大作戦』は、」
「縮めて捕獲作戦でいいですか?」
「まあ……いいよ。 で、これはね、前線拠点を設営するにあたって該当地域の生物を捕獲!って感じの作戦で……」
ちょこちょふざけた物言いであるが、作戦内容は非常にわかりやすく端的に説明される。……しかし、ふざけた物言いではある。クロエは、さっそくため息をひそかにつくのだった。
「……まあ、そういうワケで! 死んじゃわない程度に弱らせて捕獲が基本だよ。この表にない生物とか装置があったら距離を取ること! いいかい? チーム分けなんだけど……」
部隊は固まって動くわけではなさそうだ。指示を受けた部隊の面々が集まって行き、クロエは最終的にサリスと同じチームへ。問題児らしきオヴィと組まされなくてよかったと、内心若干失礼なことを考えつつクロエは面々を見渡す。
あのアドーネ直属の部下という事で、なかなかおちゃらけた雰囲気のある部隊だ。
複雑な顔をするクロエの目に、ひとり物静かな青年が飛び込む。背はあまり大きくはなく、武器として眼の剣……つまりクロエと同じ武器を持っている。
ガーデンの技術を使った特殊な剣ではなく、全員に渡される量産型の剣だ。
「……初めまして、新人のクロエ・エレムルスです」
「よろしくね。僕はリン・アゾット。人事課で……まあ、いろいろしてる人」
「よろしくお願いします。……人事課?」
「通称ね。……ああ、いや通称でもないんだけど。部隊としてはポピー評価観察部隊っていう……まあ、定期的に現場の動きを見て適材適所を探す、みたいな部隊なんだ」
「って、ことは?」
「うん、君の正式な配属は僕の意見も参考に決まる。……でもだからって、肩ひじ張らないでね! 今回だけで決まるわけでもないし、しばらくは見ることになるからさ」
「わかりました」
「っつってもキンチョーするっスよね~……ウチはそうだったっす」
横でわかるわかると頷くサリス。なかなか騎士らしくもなく、頼れる感じもない、早くも後輩属性の彼女だが、まあなんだかんだ世代の近いものとして、クロエは安心感がある部分も少なくないようだ。
そんな自己紹介などもそこそこに、移動開始。指示のあった場所で、待機が始まった。
とはいえ、優秀な偵察部隊の報告をもとにした作戦だ。お目当ての生物はすぐそこに居た。
「ダングルスクワール、っスね」
「一体だけか……」
「無力化して捕獲っすよ!」
他の隊員と目を合わせ、頷き。隊員の一人の指示の元、部隊が動き始めた。敵のダングルスクワールは、巨大なリスのような怪物だ。
クロエは息をのんで。
「ぎああ!!」
「来るっす!」
食べていた木の実を構え、投げる敵!
ちょうどいいとばかりに、サリス、抜刀。片足を上げ、体の側面を向け、振りかぶり。
「えいや!!」
スイング!!
サリスの剣……『離の剣』の能力は単純、剣とぶつかったものを吹き飛ばす……ダメージは少なく、ひたすら距離を離すものだ。
これで殴ったところで、普通は仕切り直しが起きるだけだろう。……普通は。敵ではなく、投擲物を打った、という事は。
「もぎゅ!」
「当たったっす!!」
「いや、深くはないみたいだ」
体勢を立て直し、駆け出すダングルスクワール。サリスは一旦距離を取り、他隊員の元へ誘導。
「ぎががが!!」
「来るッ!」
スクワール、飛び掛かり。……クロエが一番近い位置だ。指示をしている、少し先輩らしき隊員の目くばせを受け、眼の剣を構え。
「だァ!!」
側面で殴るッ!
殺してしまうと研究物としての価値が下がってしまう。そもそも捕獲作戦だ。
上手いことダングルスクワールは怯むのみにとどまった。
……の、だが。
「あれ? え……!?」
眼の剣、ぼっきり。
複製物故強いものではないが、しかしこんなすぐ折れてしまう物か。もろいな……などと呟く180超えの女の背に、「君が強いだけじゃない……?」などとリンはこぼす。
とはいえ、剣にばかりかまっても居られない。バッグからすぐさま私物のレイピアを出して、クロエは構えなおす。
「ぎぎぎ!」
「……構えててくださいっす!」
そして、怯んでるダングルスクワールに離の剣ッ!
吹っ飛んだスクワールが、綺麗に隊員の構えたネットに引っかかるのであった。
「行けたっす!」
「じゃあ、次は指示通り合流場所に……」
「待ってなんか、」
リンの言葉に立ち止まった二人。
瞬間、物陰から影が飛び出て。焦るクロエと驚くサリスが、脚を踏み外すのであった。何事か、そんな思考の暇なく、落下。……先は遺跡、地下遺跡である。
「まずッ」
そして影こと別個体のスクワールに飛び掛かられたリンも落下。
綺麗に着地するスクワールをよそに、落ち葉の上に叩きつけられた。すぐさま立ち上がり、リンは構えなおす。……別に訓練をしてないわけではない。騎士の端くれとして、やらねば。
同時に、サリスとクロエも起き上がり構えた。
「ぐげげ……」「ぎぎっ」「があああ!!」
「うげー、一体じゃないみたいっすよ」
「五体は居るね」
「ッ……騎士として、これぐらい」
「……」
リン、あたりを見て考える。新人と、新人。
自分よりも経験の浅い騎士二人を見て、彼は少し下がる選択を取った。
___メンバー、
___サリス
___クロエ・エレムルス
___作戦開始
「……サリス、真ん中に飛び込んで敵同士の距離を離して」
「っす!」
「クロエもそれについて行って! サリスの背後を見てあげて。とにかく彼女の剣で距離を離すことを一手目にするように」
「っはい!」
「二体以上来たらサリスに任せて離しつつ、一体一体クロエが処理! できそうならサリスが倒してもいいから」
指示を受け、行動開始! 言葉通り背中合わせの状態で、二人は構える。
「サリス!」
「はいっす!」
1、2、3体を弾き飛ばし、くるっと位置を入れ替えさらに数体。近づいてきた一体にクロエ渾身の突き! さらにもう一体、
「リン殿、」
「大丈夫いけそうならそのまま叩きのめして!」
「はいッ!」
指揮の元なら迷うこともない。スクワールの頭蓋に柄をブチあて、さらに突くッ!!
「あ、折れ、お、折れましたッ!」
「君ならたぶん腕力で行ける! あと……!」
リンの蹴り渡した石をキャッチ。サリスが弾き飛ばしたスクワールと自らの手の石を交互に見て、彼女はため息をついた。
まあ、合理的だ。……だが、夢見た騎士とは程遠い、蛮族のようなやり方。
「あわわわ想像以上に居たっす!!」
「……ッ!」
しかし、やるしかない。掴んだ石を思いっきり、投げる!
「ぎゃおおん!!」
情けない声を上げて吹き飛ぶスクワール。どうやら群れの長だったようで、他の個体が慌て始める。
「ぎいいい!!」
やけくそに飛び出した一体。無鉄砲な性格なのか、次期ボスなのか……ともあれ。
「サリス、やれるね!」
「ほいっす!!」
「もぎょっ」
そいつぐらいはサリスの突きで終わりだ。
『離の剣』のノックバック効果、全てをつぎ込む衝撃の一発。……そいつも情けなく吹き飛び、群れたちは撤退を選ぶのであった。
___作戦終了
「……っはぁ、あ……キンチョーしたっす…………!!」
「そう、だな。……その、リン殿。感謝いたします」
「いやいや、僕は前線に出てないわけだし。ありがとうね。……それにしても、これは報告した方が良いね。前線拠点つくるならここの遺跡の事考えなきゃだ」
「……確かにっすね。あ、こっち上がれそうっすよ!!」
遺跡の奥に見つけた階段を指さし、サリスが駆け出す。クロエとリンも目を見合わせて微笑むと、向かった。
まあ、終始騎士らしくないことばかりでやはりクロエとしてはうつむく部分はあるのだが。
リンは自分の作戦が上手くいった安堵、サリスは出れたことによる油断。
その隙を狙ってか、駆け寄る音があった。
「がぎゃああああ!!!」
「カバ!?」
「ソイルヒッポ……まずい強いよこいつ!!」
疲弊した騎士たちに、カバが駆け寄る。クロエが対応しきれず、体当たりを喰らう。
「っぐあ!」
「危ない!!」
迫る二撃目から、クロエをとっさに庇うリン……その腕を、ヒッポが思いっきり噛み折る。
「うっぐぁあああ!!!」
「リンさん!!」
「う、え……リンさん、」
「大丈夫、だからッ」
造園騎士は、回復力が高い。……"カトレア"によるものだ。
だが、今この状況では回復などしている暇はない。焦りが迫る……その中。
「ほい!!」
金属のリボンのようなものが、ヒッポの体に絡みつく。何事かと驚くクロエをよそに、サリスの顔は笑みに変わる。リンも、少し安堵するように腕をかばい。
「ええっと、キラキラ、いや、うーん? まいいか……。 ……カバちゃん、捕まえたよッ」
「アドーネ隊長、殿!?」
「スーパーキラキライケメンが助けに来た、ってワケ……!」
暴れるカバをかわし、リボン……その根っこである『拘の剣』を引っ張り、的確に姿勢を崩させる。水色の髪を揺らす美青年、アドーネ・アドニスは不敵に。
巨大な体躯の敵だが、ものともしていない。
「がぼおおお!!!」
「まだ居るッ!」
リン、今度こそ立って剣を構える、が……その必要もない。
「そこ、危ないですからちょっと避けてくださると」
オヴィの持つ剣から、土が解き放たれる。そして水と熱が立て続け。乾いた土がその身を阻んだならあとは一瞬。
「隊長さん、こいつ倒しても構いませんよね」
「こっちは俺ちゃんがしっかり捕まえるから大丈夫!」
がり、とその手の『混の剣』で木を引っ掻き、ジャンプ。木の横を駆け抜け、そして。
「っは!」
木が生えるかのような衝撃波が、ヒッポを貫いた。
「完了です」
「……その使い方ってさ」
「なんですか、別にいいでしょ今は緊急事態なんですから」
「いやいやいや、俺ちゃん別に今は責めるつもりじゃなくて!」
言いながら、踏み込みぐるっと一回転。ソイルヒッポを大地にたたきつけた。
一瞬で全てを終えた騎士たち。それでも軽口を叩き続ける姿。
クロエは、改めて、フクザツな気分であった。……まあ、少なくとも、その強さは認めるべきところであると、確かめることになったのだが。
「……」
まあ、やはり納得は行かないようだが。
「……クロエ?」
「いえ、その……。……リン殿は、……比較的、騎士らしい方だなと」
「え、今比較的って言った?」
「え? あ、いえ、失礼いたしましたッ、」
「いやいやいや、まあ僕は確かに緊張感ないし……そうだね、みんな、み~~んなあんな感じだし、間違いじゃないや。あは」
ため息まじりに、リン、笑んで。
「まあ、……とにかく、造園騎士団にようこそ、クロエ」
「……はは、は」
「つまりね……リンくんはすっごく指揮能力が優秀みたいなの!」
薄暗い部屋で、布を目にかぶせた女性がつぶやく。騎士団制服の上に、黄色い東洋風の羽織ものをした妖しげな女性。
そのすぐ後ろで、ジーリオが答える。
「人を見る目……そういう意味では、非常に優秀な方ですからね。」
「私がこういうことに口を出すのはあまりよろしくないかもだけれど……。持ち手が居ない剣に、指揮向きのものがあったわよね」
「……録の剣。」
「あらゆる情報や状況を記録して、瞬時にアクセスする能力。そうね、過去の事例をすぐに見て、最適解を出す……なんて言う手間はあるけれど」
「彼なら使えると?」
「あ、あくまで提案ね、提案!」
清流のような声で、金の髪を揺らし、笑む女。
「いえ、参考になります、監察官殿。」
「いーえ! うふふ。あ、ねえ」
ジーリオが退室しようとする、その背中に、監察官と呼ばれた女は今一度声をかける。
振り返る彼女に、相変わらず顔は見せないまま、視線もむけないまま、その手の上のものを差し出す。
「この腕輪……私が
「……と、言うと。」
「リン君が有能そうなら、貸してあげて! 戦況を俯瞰するのに役立つわ。 うふふ」
「ありがとうございます。」
頭を下げ、また踵を返すジーリオ。監察官はその背中だけは一瞥して。
そこに、また一つ声がかかる。
「随分とぉ、肩入れ気味じゃないかねぇえ……?」
「あらあら! ……貴方はどう思うの、グリセレくん」
「どおぉもこうもないねぇ。私の仕事は疑うこと……そぉいう立場だからねェ」
背中で語るコートの男に、監察官はただクスクスと笑うのであった。