手向けにカトレアを   作:さわたり

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第九話「因縁」(2)

拮抗した戦況を崩すように、フロフキとアビスがアルテルナと合流する。どうせコルニカたちも戻って来るだろうが、そのかく乱の間に機械を呼ぶだけの時間はある。

どちらの援軍が先に来るか、という状況下でアルテルナは剣を収める。

 

「帰るわよ」

 

「……え?」

 

「なんだって?」

 

「帰りましょ。準備がないまま総力戦に持ち込まれたら物量で負けるわよォ? 長引いた時点でちょっとよくないしィ~……ま、今回はクギ刺せたら成功ってコトで。じゃあね~」

 

させるかとばかりに迫るヤナギも、ぴたりと立ち止まる。今の間で、フロフキが糸ノコを張っていたのだ。液状化させて突きに行くまでの隙で、逃げ去ってしまう。

 

「……やつら、…………逃げ方の教育、してるのかしら」

 

今度は口に出すコルニカを一瞥して、合流しつつ「だよね~……」などとニトパールも呟いた。

 

 

 

「あ、びす……? え?」

 

弟の名前を聞いて、ひきつった顔のままアドーネは微動だにしなくなる。相手が寡黙なコルニカであり、段々と「どういうことか」と聞くモードになったアドーネも、聞くに聞きづらい。

 

「名乗ったわけでは、ないわ。……でも、彼のようだった、それは確か。」

 

「そ、の……えっと、生き、てたんだよ…………な?」

 

「ええ」

 

「元気そう、だった?」

 

「私を、斬りつけようとするぐらいには。」

 

「え、と……」

 

コーヒーをすすりながら、アドーネをちらちら。喜ばないのかという疑問に、まあ黒百合に入っていたのだし、と結論をつけて。……アドーネの「味方が攻撃されてるのに元気だと喜ぶのも」という気づかいとは、いささかズレている。

 

「生きていた、それは……いい事。」

 

「うん……。」

 

「あと、アルテルナは、敵だけど……悪と断ずるべきかは、わからない。敵だけれど。倒すし、捕まえるけど」

 

「……そっ、か」

 

「正義の、ヒーローでは、ないわ。……私たちも、あちらも」

 

驚くように目を見開いて、コルニカの横顔を見て、そして、どこか嘲笑気味に。

 

「そう、だよね……うん」

 

「あ、いえ、あの……貴方の正義を、否定したいわけじゃ、ない。多くを助けたい、気持ちとか…………あるのはわかるし、私も、そこに……正義は、あるつもりで、」

 

対等な相手ゆえか、相手のフォローを間違えるような隙を見せ。気が抜けるように、アドーネが笑う。

 

「大丈夫、俺ちゃんは俺ちゃんなりの正義で、キラキラ邁進しちゃってるからさ………! わかってるよ、コルニカちゃんにもあるんでしょ? コルニカちゃんなりに『ヒーロー』が」

 

つややかな髪をなびかせる姿を見て、よかった、と一言。

 

「言いたいのは、アビスも……アビスなりの、正義を見つけた…………かも、と。彼は、あなたのヒーローらしさに、その、憧れがあるようだったから……」

 

「そっか。それで……俺ちゃんと戦うことを、選んだ? そういうと……話聞きたくなってくるかもね」

 

頷いたコルニカ。同時に、通りがかりに二人を気にした様子のローゼが目に入る。眼で促せば、彼女も合流。

 

「その……アビスさんのことだけど」

 

「ああ、今話してたんだよね」

 

「ええ、その……、どう思いますか?」

 

改めて、己の言葉でまとめて彼は語る。アビスが、敵であったこと。アルテルナの部下としてそこに居た事。正義のために戦っている立場であろうこと。

 

「それは……そう、そうですか…………」

 

かみしめるように、ローゼが頷く。

 

「でも、いいわね? 私は……必要なら。倒す」

 

「まあ、そう……だよね。でも、ほら、交渉の余地とか、ありそうな感じだったわけだし? 俺ちゃんのカリスマオーラで……」

 

「……あまり無理をなさらないでくださいね」

 

「あ、はは……ローゼ様ってば」

 

「様は結構ですのよ」

 

「あ、えと……ローゼさん?」

 

アドーネとローゼが、くすくす。天然気味なコルニカにしても、ふたりに流れる穏やかな空気は分かるし、なんとなく二人にしてあげるような気づかいもある。露骨に「用事を思い出した」などと言い出すのはどこか不慣れなのだが……。

 

 

 

機械によって届けられた小さな箱を、調査と分析ののちに起動し……グリセレ、ジーリオ、トキワ、あとはお偉方の前で、アルテルナのホログラムが現れる。

 

『まず、回答の期限は5月3日。方法は改めて指示するからよく聞くように。どうせ起動までにめんどい調査とかしてるでしょ~し、余裕ある期限じゃなァい? 感謝してよね』

 

「……」

 

『ンでェ~、一応聞いてると思うんだけどォ、ガーデン中央王国ってことで領地と主権を主張しててェ、あんたたちを追い出したいのよね』

 

「勝手なことを言ってくれるゥ……」

 

『まあ、アタシたちフツーに国家として認められてるわけないし、ここで認めるような抜け駆けしたら絶対立場なくすからね~。GRTO丸ごとブチ負かして仲良くする口実あげるわけ、優しいでしょ? 要は死人の出ない戦争で言い訳させたげようってんだから』

 

いろいろと聞きたがる国家のお偉いさんたちに、「一方向ですから」と諌めつつ、ジーリオは耳を傾ける。

 

『でも、話し合いで済むなら、それがいい。それはみんなそうよね、分かってるし、アタシもそう』

 

「どうだかねェ……」

 

「いちいち皮肉っぽいこと言わんでください」

 

『でェ~も、アンタたちは納得しない。だってガーデンの研究はさせないから』

 

「……なんだと?」

 

真っ先に反応するグリセレ。当然のことで、彼の理念はガーデン技術で救われる人を増やすこと。ジーリオも目指すところは同じ、睨むかのように、ホログラムへ向き直る。

 

『そんな怖い顔しないでェ~ん? シワ増えちゃうわよ』

 

「……。」

 

辺りを一瞥すると、みなかぶりを振る。当然だ、裏切り者に「超技術はすべて独占する」と言われたようなものだから。

 

『アタシたちは侵略者にはならない。でも……『ガーデナー』がどうかは知らない。知らないけれど、そこはあずかり知るところではない』

 

突然、話が変わった。訝し気な視線をよそに、アルテルナは『そう言う事だから』と終わらせてしまう。そして返答方法は返答を記録し、彼の指定した位置に置くようにというもの。

 

「……返答についての会議は、明日行いましょう。できますか?」

 

ジーリオの視線に、高官たちも頷き、しかし答えはもはや決まっているようなものである。だが、一応アルテルナを部下に抱えていたジーリオには、「単なる支配欲」だとかで片付けられる人物でないことは分かっている。

 

「……えっと、団長?」

 

「チフキ。」

 

会議室から出て、騎士団に戻る道すがら。頷いた彼は、渦中の人物の弟だ。いつも明るい彼でも、やはりどこか戸惑った様子を見せる。

 

「ハマダのフロフキ……貴方の兄で間違いありませんね?」

 

「です……。でも、なんていうか、優しくて、賢い兄ちゃんで…………。戦う事とか好きじゃない、感じで」

 

「聞いたところ……。なんというか、かなり歪んだ性格に、ああいえ、あなたの兄上がそうという話ではなく」

 

「俺、よくわかんないです。……でも、ええと」

 

「ゆっくりで構いませんし、無理して話すこともありませんよ。ただ、敵なら戦う。それはご了承を」

 

「……分かってます」

 

団長を前にした委縮もなくはないだろうが、テトラから聞く兄の姿に衝撃を受けているのだろう。

 

「あまり体は強くなくて、あっでも、あんまり体使わない武器だったんだっけ……でもなんだってここ(ガーデン)に!!」

 

「…………外からスカウト、ということもやっているようです。孤児を引き取る、ということも」

 

「じゃあ、えっと…………」

 

あまり得意ではないなりに、因果関係を考えこむ、チフキ。そんな姿をどこか痛ましげに見つめ。

 

騎士団北拠点についたころ、息を荒らしながらジーリオのもとに、駆け寄る姿。サリスだ。焦った彼女が、告げて曰く。

 

「アドーネ隊長が襲撃されました!!」

 

 

 

巨大なヤギの怪物とオヴィや隊員たちが組み合う横で、アビスとアドーネは向き合い。

 

「なあ、アビス、まずは生きててよかったよ、ふふ、俺ちゃんは今もさ……ほら、ヒーローだから、」

 

「違います」

 

「……え?」

 

「そんな兄様は……兄様じゃない」

 

戸惑うアドーネをよそに、アビスは剣の側面を木にたたきつける。巨大な音叉のような響の剣は、その振動によって威力を上昇させるものだ。

 

「あ、はは……まあ、アビスがガーデンの独立に、正義を見出すんなら……おれと違う正義でも、」

 

「兄様なら僕が正義でしょう……?」

 

すがるような、どこか涙を感じる声で告げる。

 

アビスは、涙を浮かべて笑っている。

 

「兄様を……兄様を返せッ!!!!」

 

「な、アビス、おまえ……」

 

「兄様の正義は僕の正義だ、違う!!! 『おれと違う正義』? 違うでしょう!!! 御前は兄様じゃない!! 返せ!! 返せ!!」

 

怪鳥のように叫びながら振るった響の剣が木々をなぎ倒す。

 

「僕を守ってくれて、僕のために手を差し伸べてくれて、なんで、なんでそんなどうでもいい連中と!! 兄様を砂粒ひとつも理解しない連中とつるんでいるんですッ!! わかっている! あんたなんか兄様じゃないからだ!!」

 

「待て、ま、待って、何の話を」

 

「アドーネ・アドニスは僕だけのヒーローだ!!」

 

苦し紛れの拘の剣も衝撃波で押しのけ、一撃を叩き込む。骨まで見えるほど、大きな斬撃。

 

「苦しい時、僕を救ってくれた、僕だけの……僕だけの!!」

 

「俺は……アビス、俺は皆を」

 

「みんな? みんな!!! みんな!? みんな!? あっははは!!! みんな、みんな、みんなみんなみんな!!!!みんなみんな皆皆皆皆みんな!!」

 

「っぐ、うぐ」

 

「うるさいうるさいうるせえうるさい!! 誰だよ皆って全人類か!? 僕いがいのみんな!? あっはは!!! ニセモノ!ニセモノだろ御前!!!」

 

「ニセモノなわけないさ、俺は、俺ちゃんは、」

 

「黙れ!!!」

 

無理矢理立ち上がったアドーネを、袈裟斬りで完全に真っ二つ。荒れた息のまま、まともに言葉を紡げないまま何かを口走り、剣を振るい続ける。どうにか動く片手で防ぐが、衝撃波でどんどんと骨が砕けていく。

 

「アドーネさん!!」

 

「……あ?」

 

ジーリオの送った救援は、対人戦最強の女。構えた貫の剣を見て、アビスはぐちゃぐちゃに自分の頭をかきむしる。

 

「女ですか、そうか、女、女ができたんですか、そのせいで、御前のせいで兄様はイカれたんだ!! ニセモノか?どっちでもいい!御前のせいだ、ローゼ・ラ・グレッグス!! 僕から奪って何が楽しい!!」

 

「……? 一体何の話ですの?」

 

「っふゥ~~……余裕ぶって!!」

 

ローゼが構えた一瞬、アビスが駆け出すその肩へと燃え盛る剣が突き立てられた。

 

「ここまで制御不能なことあるゥ~?」

 

「っはなせ! 離してください! あなたは知ってるでしょう!? 兄様の優しさを、僕のヒーローを!!」

 

「あーあー、うっさいうっさい。そういう私情は仕事終わってからって言ってんでしょ」

 

アビスを組み伏せながら、「ごきげんよう」などと告げ。ローゼは警戒を解かず「ごきげんよう」と小粋に返答。

 

「こいつの行動はアタシたちの息のかかってないもの。今回に関してはね。信用しろとは言わないけど一応言っておくから。返答忘れないでよォ~?」

 

「……。」

 

ここで、何も考えず倒しに行くローゼではない。その様子を……まあ、可能であれば帰り道を覚えてやろうと目論みつつ眺め。

完全に見えなくなったところで、再生しながらも呆然としたアドーネへ視線を送る。

 

「彼、一体何を……」

 

「っは、あ、わ、わかんない…………。」

 

拘束した動物を輸送班に渡しつつ、オヴィはその様子を眺めていた。ローゼについてきていたらしきクロエは、いささか落ち着かぬまま彼のもとへ。

 

「オヴィ殿。一体何が」

 

「……アビス、今話題のアドーネ隊長の弟さんですよ」

 

「ああ、黒百合に居たらしいという……しかし、あんなに憔悴するのか? あのアドーネ隊長殿が」

 

「そうですねえ……」

 

理想を押し付け、そうでなければ糾弾する。立場は違えど、オヴィには見覚えのある様子であった。……度合いは当然、大層な差があるが。

 

「ああいうタイプのカスは、御しがたいんですよ」

 

まるで反吐でも吐くようにオヴィはそう言い捨てた。

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