手向けにカトレアを   作:さわたり

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第十話「嘘」(1)

ジーリオのペンダントには、イチム……彼女のかつての仲間の写真が入っている。

 

ローゼに対する指令の説明を終えると、アドーネと彼女の関係について、ジーリオは過去の経験から、なにか含蓄のあることを言っているようであった。

 

「コルニカ解体部隊長とは、どういった関係で?」

 

そんなふたりを遠巻きに眺めつつ、対人戦闘部隊の居室でお茶を片手にサクラのひとこと。時間も夕方、ぼんやり眠りかけだったところからすぐに覚め、むせるニトパールはゆっくり調子を取り戻しつつ。

 

「えと〜……幼馴染、っていうには、一緒にいた期間は短いですかね〜……僕がちっちゃい時に、メルルカッテ……コルニカちゃんの故郷に行くことがあって〜」

 

「その頃に仲良く?」

 

「はい、えっと〜、プラトーニク家と、ナイトロナ家がちょっと交流あって……。でも、会えなくなってから、ナイトロナさんは……。っていうか、そのせいで会わなくなったのかな」

 

コルニカは、貧困にあえぎ荒れていた頃がある。その頃に住んでいたスラムも手が入り、国全体マシになってはいるようだが……。

母国について語るコルニカの目に宿る複雑な感情はサクラも知っている。

 

「なるほど……騎士団での再会だったのですね」

 

「すっごく嬉しかったんですよ〜〜」

 

にこにこ。どこか気の抜ける笑みだなと、サクラもローゼも、おそらくコルニカも感じている。

 

「……コルニカさんとの再会がそこだったということは、入団自体は」

 

「まあ、えー、なんか恥ずかしいな……いろいろ役に立ちたいみたいな……あっでも! コルニカちゃんを探したい気持ちも!」

 

「ふふ、素敵じゃありませんか」

 

なんだかんだと、サクラの笑顔もそれはそれで掴みどころがなく妖しさがある。

 

「じゃあサクラさんは……なんで騎士団に?」

 

「んー……まあ、自分のやるべきことがあまりわかっていなかった頃でしたし、とにかく人の役に立つことをすれば変わるのかなと」

 

お茶を啜りながらそんな風に笑って。

 

「やるべきことって、今は……」

 

そんな会話を遮るように、戸の音。対人戦闘部隊の隊員が、招集の伝達のために来たのだ。

たとえローゼが別の任務に向かおうと、名に冠するアコナイト(トリカブト)の通り、仕事は明確。

 

「……これ、ですね。やるべきこと」

 

「頑張りましょ〜ね〜〜」

 

あくびをしながら、優雅に振る舞いながら、しかし二人の眼光は鋭い。

任務は、黒百合騎士との戦闘。……裏切り者の騎士たちだ。

 

「どう思う? 勝てるかな」

 

「不可能だろうな。まあ、小生らはやることやるだけだ」

 

「サクヤさんのために」「隊長殿にために」

 

背の高い銀髪の男、あまり高くない黒緑二色髪の男。相対する精鋭を前に、構え。

 

「行くよユウロン」

 

「ワカバに合わせよう」

 

 

 

手向けにカトレアを

 

 

独立国編 第十話

「嘘」

 

 

 

柔和そうで、しかし体格は良く。長い黒髪の男こと黒百合騎士カルサは、ペラペラと資料をめくった。

クルドアール正教会の神父でもある彼は、『こういう案件』を任されやすい。

 

「リン・アゾットさん……ポピー評価監察部隊の隊長、ですか。仕事内容を見るに、将来は確約されたようなものでしょうに」

 

「ジーリオ団長やみなさんは今でも尊敬しています。彼らも救いたいからこそ……といえば仰々しいですけど、他の在り方に気づいて欲しくて」

 

「高い志をお持ちだ」

 

微笑んだ彼の、次の視線の先。結んだ黒髪と高い身長の目立つ、眼帯の男。

 

「そして、サクヤさん……あなたはお聞きしましたよ。団長直々の何でも屋集団だと」

 

「ああ」

 

カルサはアゴをいじるような仕草と共に考え込む。マクロフィラ特殊部隊、危険視もしていた相手だ。

そんな連中が、黒百合に合流しようというのだから、信じがたい。

 

「理由を、お聞きしても?」

 

「意見が合わなくなった。人事官……あー、ええと」

 

「リンです。カルサさんも知っておいて欲しいんですけど……サクヤさん、人の事をあまり覚えられないんです」

 

「そういう性分でね」

 

淡々と言い放つ様を眺めると、カルサは次に移る。サクヤの横斜め後ろにピッタリつくふたり組。銀髪のこれまた高身長男と、黒緑の二色髪の男。

 

「ヤン・ユウロンさん、そしてワカバ・ガルヴァニーさん。……サクヤさんに着いてきて、という形です?」

 

「ええ」「はい」

 

一切の澱みもなく、答える。

 

「サクヤさんと居られればどこでもよいと」

 

「ええそうです」「そうですね」

 

今度も澱みなし。カルサ神父は苦笑しつつも、リンの「マジで言ってますこの人たち」という補足に頷く。

 

「お話によると……アルテルナさんの元で戦いたいと」

 

「ガーデンに対し真摯な態度だと……心をすごく打たれた、というと大袈裟ですが、すごく納得したんです」

 

「目的もなく武器を振るう気はないよ。明確な正義がある……あー、」

 

「アルテルナさん」

 

「……アルテルナ、彼の下で、俺なりに、正しいことをするつもりだ」

 

カルサの気にした様子に対しても、サクヤは何か含みのある雰囲気を放ちそれ以上の追及を拒むように。カルサも怪しむことはなく、いろいろあるようだ、とそこで会話を終えた。

 

説明しておくのであれば、これは潜入任務。黒百合の内情を暴くための作戦、そういう面倒なヨゴレ仕事も任されるのが、ジーリオの左腕であるサクヤと、彼の率いるマクロフィラ。

リンまでいるのは、彼の強い要望によるものだ。……実際、記録ができる剣と、人間の評価能力に優れる彼自身は、適任であった。

 

「随分クソ強い新人が来たわね……」

 

「よろしく頼むよ」

 

「ま、やっぱマトモそうな子が来てくれたのは普通に助かったわねェ」

 

ため息をついたアルテルナの顔には苦労が浮かぶ。

 

「騎士団が騒ぎになっていたようですけど……そんな大変な子なのですか?」

 

「あのアドーネちゃんの弟。アイツがンまァ〜問題児!」

 

「えーっと……なあ」

 

「アビス・アドニスですよ。小生もあまりお話をできたわけではございませんが」

 

ユウロンの補足で、「そうだったか」と思いだしたんだか、そうでもないんだか。

ともあれ、他の面々からしてもアドーネにべったりだった印象が多少あるぐらいで、そこまでイカれていた思い出もない。それを聞くとアルテルナは苦笑。

 

「あの子は多分もともとブッ壊れてた。アドーネちゃんと離れたこととかいろいろ重なって顕在化しちゃった感じィ?」

 

「それでも手元に置いておくのか?」

 

「鋭ォい! うん、置いておく。アタシを裏切るかもしれないけど、あの子の、自分自身の根っこは多分裏切れない。その部分を大声で喧伝するんだもの、実は御し易いと思わなァい?」

 

「思えません」

 

キッパリと切ったのは、リンであった。

 

「損得で繋がってること自体は、雇用だってそういうものだし……悪いとは思いません。でもアルテルナさん……あなたのガーデン中央王国という理想で引っ張っていくなら、信頼関係と思想への共感が一定以上ないと、いつか……」

 

「へえ……」

 

興味深げなアルテルナが、口角を上げる。

敵に塩を送るような厳しいアドバイスだが、ジーリオの指令は「本気でアルテルナに共感した気になれ」であり、そこで生まれるリアリティこそ潜入には必要。

 

「アンタ、いいわね、めっちゃいい。まあ、みんな共々歓迎するわ。損得じゃない、信頼を築ける側であることを願ってるわ」

 

「ええ、ありがとうございます」

 

「それにマ……アビスとかフロフキとか……なんならアイリーンとかも気付いてないけど。アタシこれでも結構目をかけたげてんのよォん? だから信頼は構築中。王国を作り上げた暁には……ああいうはぐれモノも受け入れる国でありたいわね」

 

微笑んで握手を求める彼は、なるほど人を惹きつける力がある。さて、そんな彼の元に、黒百合騎士がひとり駆け寄る。

そしてその耳元で何かを言うと、アルテルナの眉間に皺が寄る。

 

「ンもォ〜〜! やっぱりぃ? ホントはアタシも……まいいや、そりゃそうよね、アッチには突飛な独占行為……でも『ガーデナー』を明かすには時期が……今からもう停戦協定の準備を……いや……むしろアタシが…………」

 

なにかぶつぶつと言い始めるが、目の前の新参者が手持ち無沙汰であることに気付いたようだ。アルテルナは騎士といくつか会話した後、向き直り。

 

「アタシは宣戦布告の準備してくる。騎士……いや、国民達に演説しなきゃ、ちょっと集めといて。で……アンタたち、分散して行動いける?」

 

「僕はサクヤさんから離れたくはないです」

 

「小生もです」

 

「俺はひとりでいい」

 

「僕は……ひとりでは戦えません」

 

「うん、じゃあユウロンちゃんとワカバちゃん行ってきてもらえる?」

 

「「えっ」」

 

驚く二人に対し「サクヤちゃんとリンちゃんはもうちょっと様子みたい」とのこと。要するに、二人のコトは大して話していないうちにわかった、という話。

言ってみれば「サクヤさんバカ」という認識のようで、人事官リンにしてもあまり変わらない認識である。

 

「ですが……」

 

「行ってこい、……あー、ユウロン」

 

「覚えてくださったのですか!?!?」

 

「いや……今は流石にコイツが呼んだから」

 

「小生のお名前は?」

 

「ヨ……いいから行け」

 

「いまアタシのことコイツっつった?」

 

言いながらもアルテルナはクスクスと笑う。王国だどうだという割に上下にはあまり厳しくないようだ。

 

「んで……行き先は仮設拠点D。騎士団の回答は技術独占どうこう関係なく独立を認めない。つまり国家じゃない叛逆者のアタシらをいつも通りブン殴りにくるはず。その子についてって」

 

「まあ、サクヤさんが言うなら……」

 

「致し方ないですな」

 

去っていく二人に、ひらひらと手を振る。

 

「どうするワカバ」

 

「僕たちのこと覚えてくれるかなあ? っふふ……あぅふ、想像だけで止まらなく」

 

「? 仮設拠点Dは……ここか」

 

「え? ああ、ありがと。で、ここに……」

 

一応の警備、というのが名目だが。しかし騎士団にバレている拠点である。何かしらが来ることは想定しての配備だ。

アルテルナ的には、早速だが元同志と戦わせてやろう、ということだ。いささか意地が悪いが……ともかく、ふたりはこういうとき、武器を抜けるタイプ。

 

相対する対人戦闘部隊の二人を前に、容赦なく構える。

 

「どう思う? 勝てるかな」

 

「不可能だろうな。まあ、小生らはやることやるだけだ」

 

「サクヤさんのために」「隊長殿にために」

 

「行くよユウロン」

 

「ワカバに合わせよう」

 

まず前線に出るのはユウロン。己の剣と空を見比べたのち、サクラの徒手空拳を、その得物で受け止めた。対し、ワカバはニトパールに向かおうとはせず、構えつつも下がる。

 

「半月か……まあ構わない」

 

「憑の剣、月光のエネルギーで動作し、満月であるほどその性能を向上させる」

 

「む、知っておられるか」

 

「当然です。我々アコナイトは……全員の裏切りを想定しているので」

 

サクラの蹴りは距離を作るための様子見の一撃。かわしつつ、ユウロンはワカバに視線を送った。

 

「え~っと、裁の剣、まち針で拘束と位置情報把握ができる……だっけ」

 

「あなたも覚えてるんですか」

 

「そりゃそうだよ~。僕もアコナイトの隊員だからね」

 

距離を取る相手こそニトパールの得意分野。銃撃がワカバに放たれ、さらにワイヤー。かわしたもののそれは木に絡まり、一気に距離をつめるワイヤアクション。斬撃を剣で受け止めつつ、切り替えしワイヤーでつないだ剣を振りリーチ上昇。

今の斬撃で針をつけた。……ダーティな戦い方をするニトパールは、剣を隠したり視界の外に置いたりする、有効と言えば有効。

 

「そっちか!!」

 

裁の剣はハサミを模すが分断可能。磁力で引き寄せられる磁の剣の片割れを、まち針でサーチしガードする。すぐにニトパールが駆け寄り斬りつけ、それをガードすることで双剣同士がぶつかり合う形に。

 

「よっこいしょ」

 

「っづ!!」

 

ニトパールが蹴って、砂を巻き上げ塞がった視界、ニトパールの突きがワカバの眼を狙う。のけぞってかわすも、左眼を掠め。

 

「あっサクヤさんとお揃いになっちゃう♡」

 

「むっ、そう聞くといささか羨ましいが」

 

飛び退いたユウロンと、背中合わせの形に。相変わらずだと苦笑されつつ構えたユウロン、憑の剣。その力は使用者の変身……だが、半月であれば不完全で、それも半分どころかほんのちょっとの変化。

狼を感じなくもない、という程度の牙と尖り耳。いずれにせよ肉弾戦に特化したもので……ハッキリ言うと、サクラとの食い合わせは悪い。

 

だが、マクロフィラは「なんでも屋」。臨機応変力ならある。ワカバとユウロンはくるんとその立ち位置を変えた。

 

「っはァ!!」

 

「グゥオオァ!!」

 

ワカバの裁の剣が迫り、かわし、掌底。サクラの次の一撃、蹴り上げを防ぐと、眼の剣の一撃をのけぞって回避。

 

「おっと、」

 

「だああ!!」

 

ユウロン、狼がごとき脚力で、銃撃より先に一撃。ニトパールはニトパールで回避し、手から落とした剣はわざと。足で地面に突き立て、張ったワイヤーでユウロンを引き裂こうと構え、ユウロンはそれを地面に剣を立てたブレーキで阻止。

脚の力でワイヤを蹴り、びよん、とたわみ、一瞬の隙に一撃……は、まあ防がれるが。

 

「僕、思ってたんですよ……貴方サクヤさんと名前似すぎです!」

 

「それは……どうしようもないのでは」

 

正論ついでのサクラから次の一撃を義足で受け止め、斬り上げを当てた。まち針が、サクラの身体にぶすぶすと突き刺さる。

 

「ッ、」

 

「知ってますよね、僕の剣の……拘束、っていうか、麻痺能力」

 

「っぐ!!」

 

飛び退いたユウロンを背中で受け止め、かがむワカバの上で回転、再び立ち位置を入れ替え、憑の剣の斬撃が、サクラにぶちあたる。

解けた麻痺だが回避は遅れた。肩回りに大きな傷を作った。

 

「っぶない!」

 

同時に、ニトパールの銃撃をはじき、磁力で戻ることを考えピン止め。位置を確認しつつ、ワイヤを義足で巻き取った。そしてハサミの一撃は、ニトパールの剣を両方吹っ飛ばすことに成功。

 

「ど~しよっかな……」

 

動きだしたら、また戦況が動く。緊張の瞬間、黒百合の騎士が駆け付け。警戒するサクラたちをよそに、ユウロンとワカバへと、剣を向けた。

ガーデンの植物による木製の剣は、下手な金属の剣より、優秀だ。

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