手向けにカトレアを   作:さわたり

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第十二話「要求」(1)

手向けにカトレアを

 

 

独立国編 第十二話

「要求」

 

 

 

 

がたごと揺れる車内で、アイリーンは膝を抱え座り込んでいた。隣でアルテルナは足を組み、贅沢に空間を使っている。

 

「アンタがシザーリィ・プラトーニク……長いわね。とにかくあの狙撃手ちゃんにこだわる理由はなんなの?」

 

「……フロフキにチフキのこと聞かないのに、アイリにはそういうの聞くんだ」

 

「弱いったら怒るけど別にいちいちこういうのでキレないでしょアンタ」

 

機嫌を試す側面もあるのか、弱いという単語に視線が鋭くなるがその先はアルテルナ。

勝てる相手ではない。

 

「……あの子は、全部持ってる。私のことなんかどうでもいいみたいな顔だけど、そりゃそう。…………あのこはあたしなんかどうでもいいんだ!!」

 

壁を殴りつける一連の感情の動きを、彼は黙って見守る。

 

「アイリね、お姉とパパが嫌いなんだ。おにーちゃんとも、その彼女とも仲がいい、シーちゃんと違ってね」

 

「コルニカちゃんは別に彼女じゃないハズだけど」

 

「そんなのどうでもいい。あの子は何も求められてないくせに、あんな強い」

 

「そうね」

 

「……っふ、でもいいの。アイリにはアイくんが居るから」

 

彼女は、愛おしげに己の合の剣を撫でた。

 

「お姉もパパも、あたしをザコ扱いする……。いや、違う、雑魚でいせたがる。女の子らしくらしくってさ、」

 

「ここにはアンタのパパもネーチャンもいやしないわよ」

 

「……ホントにあたしを必要としてくれるのはアイくんだけ」

 

どこか歳に不相応なほど幼なげな様相で、アイリーンは膝を抱えなおす。

 

 

 

 

ジーリオ、ユリ、そしてもう一人。大きなビンで酒を飲むヒゲの大男は二代目団長のダンガス・ダンデリオ。

たまにいろいろと限界を迎えたジーリオが、弱音を吐きに行く相手だ。

 

「イチムの坊主が……そうか。ま、生きてたのは嬉しいな」

 

「でも敵ですよ? 目的も不明だけど、レレルみたいな部下は「騎士団を攻撃するのがイチムのためになると思ってる」ってこと」

 

「……ええ、まあ。彼女もテルト・イイルも……狭い視野で暴走するタイプには見えません。」

 

「てことはァ、アイツはやらかす気か」

 

ジーリオが重い面持ちを見せれば、ユリもため息をつく。

 

「気休めかもしれないけど……占ったげましょうか?」

 

「あー…………お願いします。」

 

ジーリオの返事を見ると、帽子の中からじゃらじゃらと石を取り出し。机の上で規則的に転がし始める。

 

「魔女の家系と聞きますけど、あなたも占いはお母様から?」

 

「ええ。騎士団に来たのもきっかけはお母様の占いよ」

 

「おい俺それ初耳だぞ」

 

「言ってませんしね」

 

占いが終わったらしい。だがユリは言葉を続けることはなく、石をしまい始めた。聞いても「聞かないほうがいい」の一点張り。

ため息のジーリオは、酒という気分にもなれず熱い茶に口をつける。

 

「気休めどころか余計に気にさせたわね」

 

「全くです。……団長も、こんなことがありました? 仲間だった人と、戦うとか。」

 

「団長はあんただぞジーリオ。……それに、そりゃあ黒百合なんて組織が出る前から気の惑った連中はぶった斬ってきたさ。でもジーリオ、お前ほど深い仲の奴と戦う羽目にはなってねえよ」

 

ダンガスはヒゲをいじる。視線の先は、ジーリオが手に取ったペンダントだ。

 

「次期団長でしたからね、彼は。」

 

「……」

 

露骨に話を逸らそうとする彼女を、追求はできない。だがその空気を察してか、ジーリオは笑った。

 

「何度か『ありました』けど、しかし実は明確に恋仲だと確認したことはなかったんですよ。」

 

「あァ!? あんなにべったりだったのにか!?」

 

「えぇ!? あんなにベタベタだったのに!?」

 

「……。二人揃って言うことですか。結婚のことを話題に出してみようと思った時にああなっただけです。」

 

「そりゃなんというか……。普通にそっちの話をしてえよ、俺は。イチムの坊主ァ、どっからどー見てもお前さんにべた惚れだった。同じ隊ってのもあるし、性格が合ってた」

 

「隊って言うなら私もそうですけどね」

 

「こいつらとは5は離れてたろ」

 

「イチムが好きだったんですか?」

 

「えっ?まさか」

 

隠し事もなく、本気でその気はなさそうに。だったら自分が同じ隊という話も余計だが、いささかユリにはマイペースなところもある。

優秀だが不思議で、二人してかわいがっていた後輩だ。

 

「ホワイトリリー特殊部隊……なんだってメンバーも刷新して名前まで変えたんだ?」

 

「私のエゴですよ。思い出の場所なんです。」

 

「……そうね」

 

「そうか……」

 

「しかし意外です。団ちょ、ダンガスさんなら、私にシャキッとしろと言うものかと。」

 

「おいおい! まあ確かに部下が言うこと聞かねえって今までのことならそうだったかもだが……今回ばっかりは泣いたって仕方ねえようなことじゃねえか……! ま、どーもお前さんはそういう時に泣くことのできるヤツではないみたいだけどな」

 

「はは……そういえば、そんな人でしたね。」

 

忘れたのか?と冗談めかして豪快に笑う。ビールを2本、まだまだ顔が赤くなる様子もない。

 

「そういえば前団長はイチムと飲みに行ったことはありますか?……ジーリオから愚痴を聞いていたのは、昔かららしいですけど」

 

「何度かはな。だがあいつは俺から嫁さんの話を聞き出すばっかで自分のことを話さねえんだ」

 

「立派なんだか、そうでもないのだか。」

 

「家庭の話聞くってそう言うことじゃないのかしら?」

 

「え? あっ」

 

「え? あ、あー…………。

 

ユリが、くすくすと笑う。

 

「黒百合という組織は、扱い次第で逆に国々や人々の反感を買う。一定以上丁重に扱うのは、必要な一手だと思うけど」

 

「政略結婚も手だな」

 

「よしてください。もうその気はありません。……彼とはきっと戦う、そういう相手です」

 

「取らねえうちに皮算用はやめとくか」

 

そう言って、この静かな飲み会を終えようかというとき。少し小さな光が見えた気がして、ジーリオが窓を覗き込む。

同時に、トキワが駆けてくる。

 

「っ、あ……っふぅー、っふ、」

 

「トキワ!? 目からも血が……一体何秒使用したんですか!?」

 

「団長……北、拠点が……北拠点の、半分近くが、吹き飛んだ」

 

 

 

 

瓦礫を押し除け、拘束された騎士たちを投げ捨てながら。発着点へ辿り着いたガーデン縦断鉄道の戸が開き、アルテルナが悠々と姿を表す。

続いて黒百合の騎士たちが、ゾロゾロ。

 

「パンピー居ないわねェ? 宣戦布告の通りガーデン中央王国が戦争行為を開始するわよォ〜〜」

 

「アルテルナさァん、ここさァ」

 

「居るわよ」

 

「やった」

 

奥へと駆け出していくアイリーンを見守ると、アルテルナは大雑把に指揮を開始。斬りかかる騎士を焼き払いながら、前線拠点行きの車両に乗り込む。

 

「待て!」

 

そこに待ったをかけたリンも、もう一台、別車両でそれを追う。

 

「待ちゃしないわよ、だって等速でしょォ?これ」

 

「急げない?」

 

「分かりました!」

 

運転手が速度をいじり、ぐんぐんと接近。窓から顔をのぞいていたアルテルナも、マズいとばかりに車の天井へ這い出た。

 

「いける?」

 

「うん、あいつの剣とは相性いいハズ!」

 

そして、同じく追跡車両の屋上へ上がる。その姿はリンではない。水色の髪とリボンを揺らし、登ってきたのはパトリシア・バティスティ。

 

「あらま、おひさ」

 

「えーっと、でも倒すからね」

 

「そりゃそうでしょ」

 

上を覗き見る形で、リンがその様を見上げる。録の剣を握り……まあ似たデータはないが。

 

 

___メンバー、

 

___パトリシア・バティスティ

 

___作戦開始

 

 

「パトリシア、火を消すのはあまり期待しないで」

 

「おっけー」

 

だんだんと近づく車間、いつ動くかと様子を見た状態を破ったのはアルテルナ。放った突きを交わしつつ、二発目をのけぞってかわし。

 

「おわわわわわ!!」

 

「あんまりバランス崩さないようにね! 逆に……」

 

「でもアルテルナって体幹凄そー……」

 

「実際アタシってば結構鍛えててね!」

 

切り返した斬撃と同時に火の粉が散り、あちちちとかわしながらも声をこぼす。ふたたび車間が開き状況は変わるが、今度は黒百合の運転手がスピードを落とす。

勢いままに斬撃を放ち、しかしパトリシアは動じず、床……天井へ剣を突き立てる。

 

「うぉぉい気をつけて! 下に僕ら居るから!!」

 

「あはは……」

 

締まらないが、しかしパトリシアの行動は的確。彼女の『海の剣』が作り出した水の壁が、焔の剣を弾き返す。

 

「うおっと、っと……!」

 

「アルテルナさん!? 焔の剣刺さないでくださいよ!?」

 

「大丈夫アタシの手持ちナイフ」

 

崩れかけた姿勢を戻しつつ、アルテルナは敵を見据え直す。消えかけの蒸気の奥、パトリシアは水の壁で防御姿勢を取り続けている。

 

「こうなりゃヤケクソよ! もうちっと森側寄って!」

 

「木とか危ないですよ?」

 

「構いゃしないわよ!

 

位置をずらしたアルテルナに合わせ、パトリシアたちの車両も位置を調整。しびれを切らして斬りかかったのはパトリシアであった。

 

「行かせない……!」

 

「そうねェ、アンタたちと違って着いちゃえばアタシはいくらでもやりようあるしぃ」

 

パトリシアの突きが水圧と共に放たれ、かわしても水の刃がアルテルナの肩を裂く。少し庇いつつも距離は取りづらい。

単に範囲が広い攻撃は、それだけでも脅威である。アルテルナは回避は悪手と判断してか剣で受け止めることに。じゅう、と音を立てて熱い蒸気が噴き上がる。

 

「あっつつ!!」

 

「どうやら相性がいいのはアタシ側だったみたいね、熱いのには慣れっこよ!!」

 

そのまま倒れ込むように切りかかり、熱気に顔を歪めたパトリシアへを突き落とそうと迫る。

しかしパトリシア、体が柔らかい。のけぞったままアルテルナの横を回り、位置の入れ替え。姿勢を少し崩したアルテルナと避けたパトリシアで、立つ車両が切り替わる形に。

 

「ああ、もうっ!!」

 

「そう簡単にはやられないよ!」

 

苛立ちながら切り掛かった焔の剣を受け止めつつ、今度は無理やり押し返し。反撃と追撃同士でぶつかり、姿勢の崩れを恐れず放ったアルテルナの蹴りを回避、晒した隙とばかりに突きを放つが、それは跳ね返し。しかしパトリシアは二発目を続ける。

 

「ふん、当たってないわよォ?」

 

「そりゃ当ててないし」

 

海の剣の切先が捉えたのは、アルテルナの立つ天井。水の壁が出来上がったかと思えば、耐えきれず天板がべりっと剥がれる。

リンとウインクを送り合うように、彼のアドバイスだったらしい。

 

「私が突き刺しまくって水の壁作りまくりの床だもん、落ちてくれるよね!!」

 

「な……」

 

天板ごと落下し……そして、アルテルナは不敵に笑う。服から黒いリボンを引きちぎり車両後部に絡め、ウェイクサーフィンのような形に。

 

「アタシの作戦はしゃがむだけで良かったけど……まさか落としてくれるとはね」

 

「え?」

 

「後ろ見たらァ? もっとも……アタシが切りまくって出てきた蒸気のせいで……全然見えないかもだケド」

 

晴れつつある蒸気と共に、パトリシアは巨大な枝が眼前に迫るのを見た。本当に、眼前に。

そのために脇に寄ったのか、とか考える暇もなく、かわしきれず顎をぶん殴られ、落下。地面を転がるパトリシアを後ろ目にアルテルナは笑う。

 

「あっはっはっは!! 勝負あったわね!!」

 

「最悪……!!」

 

録の剣でリボンを斬ろうとした、その、瞬間。熱と衝撃が両車両を襲った。

 

「うおぉ!?」

 

「コレ、ミサイル……!?」

 

木っ端微塵になる車両と道路。運転手は車両と運命を同じく吹き飛んだようだが、身を乗り出していたリンとサーフィン中のアルテルナは別。ぶっ飛ばされ、二人仲良く崖を転がった。

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