手向けにカトレアを   作:さわたり

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第十二話「要求」(3)

「ミサイルかましたとするならガルザルクね」

 

「彼、サリスとかの孤児の仲間を暴力で従えてたらしいじゃん」

 

「は? 初耳なんだけど。……っち、アイツの剣ならそーゆーの隠すのは簡単でしょうね。性格悪いとは思ってたけどそのレベルとはねェ~……」

 

「信じるんだ?」

 

「一旦はね。今裏切ってイチムにいい顔でもする気かしら? アタシらの敗北を手土産に……」

 

「そんなに仲が悪いの?」

 

リンの問いに、アルテルナはなんともなさげに「いーえ」と応える。

 

「アタシもイチムも、志は違うけど結構仲良しなのよ」

 

「黒百合前も、お互い評価してるフシはあったよね」

 

「そ。嬉しいことにね」

 

遺跡の出口を目指す、短い旅。その少しの間の事でも、アルテルナとリンはなんとなく距離を縮めていた。まあ、かつて騎士団に居た仲間同士ではある。

お互いに、悪い奴ではないことは知っている。

 

「あんた、さっきからなんか悩んでるゥ?」

 

「……僕が居る戦場を見れば分かるだろ。弱いんだよ、僕は」

 

「あら? そう思ったことはないけど」

 

「指揮とか状況把握には一定の評価は貰ってるけどね。まあ、僕もその自負はある。」

 

評価観察部隊長は、やはり人を見る目には長けているようだ。アルテルナもその認識はあり、「アンタが言うならそうなんだろうけど」と軽く返す。

 

「でもさァ~あ、強さばっかりを求めると、キツいわよ。強くなりたいのは良いけど、強さが存在意義になったら……」

 

「アイリーンのこと考えてる?」

 

「あとフロフキ。うまくやってるかしらあの子たち……」

 

「僕としては上手く行ってないことを祈るよ」

 

お互い、くすくすと笑う。

 

「アビス捕まえちゃったよ」

 

「そーね……まあ、御しがたい子だったけど、やっぱり残念。どう、手を焼いてる?」

 

「そうだね」

 

「あんたなら、気づいてるでしょ。……あの子の本質。どうするつもりなの?」

 

指し示すのは、彼がアドーネいがい何も詰まっていない「からっぽ」の人間であること。アルテルナは上に立つものとして、リンは人事を管理するものとして、やはり人を見る目に自負はある。

ともあれ、リンはこともなさげに応える。

 

「どうもしない」

 

「……あら?」

 

「彼がそうあることを選ぶ限り、違う彼を求めることは僕はしたくない」

 

「迷惑こうむってるんでしょ」

 

「それはそれなりの対応をする。彼の選択で彼が害されることに、僕は一切関与しない」

 

「っは、あはは! さっぱりした価値観ですこと!」

 

アルテルナは、とても楽しそうに笑った。

 

「……何か変?」

 

「いーえ? でもそうね、うん。イチムもね、同じなの。彼もありのままを愛する人。……というよりは、ありのままであること、自体を。それは残酷だし、ときに究極の突きはなし」

 

「そうだね」

 

「だからこそ王の器」

 

「……へ?」

 

「あんた、王になれるわよ」

 

「冗談やめてよ」

 

「そうね、そういう子は王になりたがらない。イチムちゃんが嫌がるんだったらァ~、リンちゃんを我が主(マイロード)にしちゃおうかしら!」

 

「ちょっと」

 

アルテルナは「冗談よ」とくすくすと笑うが、しかしどこか本気さもうかがえる。リンからすれば、冗談ではないが……。

 

「ねえ、アルテルナ」

 

「なぁに?」

 

「ガーデナーは、なんで眠ったの? どうして目覚めるの?」

 

「なにかが、ガーデンに居る。それを乗り切ろうとした」

 

「……まだ、乗り切る最中、だったら?」

 

「そんときゃ頑張りましょ。行けるわよマイロード」

 

「はいはい……」

 

「イチムちゃんは、それを『滅び』と呼ぶ」

 

アルテルナの面持ちが、少し険しいものになる。

 

「あの子は、あの子なりの手段で対応しようとしている。アタシたちはガーデナーの手を借りるけど、あの子はそれ以外。っは、敵を知らないでどうやろうっていうのよ」

 

「イチムが、『滅び』のことをよく知っているとしたら」

 

「花の剣は、『彼女』に選ばれた証。ないとは言えない。……でも、アタシはそんなよくわからないものより、見える現実の事を考える。ゆっくりと現実の範囲を広げて、『滅び』をちゃんと理解するの」

 

「そっか。……こんなに話していいの?」

 

「んー……まあ、王の器を見込んで」

 

「騎士団に話すけどいいの?」

 

「あんたが信じた、って事実がくっつくのとあたしがイキナリ皆に言うのは事情が違うでしょ」

 

彼なりに色々考えた結論らしい。リンもリンで言いたいことはあるが、しかしそれは今は置いておくことにした。とにかく、今は出口を目指す。

 

満月が差し込む階段が、しばらくして現れる。

 

「どうする? 登り切ったら休戦終了よ」

 

「そうだね」

 

「王になる気は起きた?」

 

「悪いけど、その気はない。でも、君が王を求める理由も戦う理由も、理解した」

 

「そ」

 

登り切った先で、リンを迎えたのは戦闘中のマクロフィラの面々だった。

 

「……リン殿?」

 

「ユウロン。……ワカバも。じゃあ、サクヤさんも……ああ、居た」

 

「おや、これ以上は悪手ですか」

 

相手は、ガルザルク。押しつぶされたフロフキを放って、踵を返す。その背中で、アルテルナの気配を感じてゆっくり振り返り。

彼は不敵に笑った。

 

「アンタね?」

 

「ええ、そうです」

 

「単にイチムの味方ってことはないでしょうね。どーしましょ、ここで消しましょうか」

 

アルテルナは言葉より先に焔の剣を放つが、それは砂の人型。……逃げられた。

 

月光に照らされつつ、ため息。今度向き直ったのは、マクロフィラの三人だ。リンも、サクヤの後ろについた。

 

「……まあ、そりゃ、そうよね」

 

「僕は、騎士だから」

 

「やっぱり、強いわよ、アンタ。確かに実力勝負じゃイチムに届かない。でも、『自分ではできない』が明確なことも、才能だと思う。その点で、イチム以上の王の器だわ」

 

「ありがとう、アルテルナ。敬意をもって、僕が一番強くなれる、戦いをするね」

 

「そうね、お手合わせ願うわ、リン・アゾット」

 

事情を察してか、それとも能書きはどうでもいいのか。とにかく、サクヤは構えてリンの指示を待った。ジーリオの左腕にして隠し刀を、リンがその手につかんだ。

 

 

___メンバー、

 

___サクヤ

___ヤン・ユウロン

___ワカバ・ガルヴァニー

 

___作戦開始

 

 

「サクヤさんはお魚のご機嫌取りしつつ圧かけて! ユウロンはサクヤさん左、ワカバは右!ユウロンより少し後ろ取って!」

 

「ああ」

 

それぞれが応え、そして狙い通りアルテルナは攻めあぐね。焔の剣はひとり相手なら無理矢理に壁を切り開くだけのエネルギーがある。

包囲は得策ではない。

 

「ユウロン前に!!」

 

「ああ!」

 

そして静寂を崩すのもリンの合図。今日の満月は、憑の剣も万全に応える。人狼……ほとんど狼ような姿で飛びかかり、それは未知数の速度。

 

「綺麗な毛皮燃やしたげるわ!」

 

「ぐおおお!!」

 

炎を潜り抜け開いた口が、牙を剥き。かわしたアルテルナへ、魚の剣が斬撃を入れた。

 

「いっったいわねェ!!」

 

地面の草に炎を放って壁を作るが、高揚したユウロンには効かない。噛みつきをそこら辺の岩を噛ませて防ぐが、手から剣を離し放った引っかきが、アルテルナの髪を切り飛ばした。

 

「あァもうサイアク!!」

 

「サクヤさんお魚で炎に道を!! ワカバを行かせます!」

 

「でも彼女たちが素直に、」

 

「いいですねお魚さん!」

 

「だって、お願いできるかい?」

 

リンの必死さに応えてか、それに押されるサクヤに応えてか。魚の剣が呼び出した三匹が円環を作って回転し、風を起こす。火は消えないが、少し隙間ができればいい。

すり抜けたワカバが、裁の剣と焔の剣をぶつけ合わせる。

 

「サクヤさんも炎の壁超えて! とにかく圧をかけつついつでも斬れるように! ユウロン押し切って!!」

 

「はああああ!! ぐぉああ!!」

 

「ああもう、ヤだ!!」

 

ユウロンの激しい攻撃を炎と斬撃で押し返しつつ、ワカバの攻撃をかわし。草に火をつけても広がる前にとにかく迫ってくる。

 

「ユウロン少し抜いて!!今!!ワカバ全力でまち針!!武器にも!!」

 

「わかった!」

 

「っ、」

 

今度は無理矢理ワカバが押し切り、ユウロンの攻撃をかわした先でアルテルナにまち針を植え込む。

一瞬の麻痺が、戦況を決めた。

 

「サクヤさん!」

 

「ああ」

 

彼の頼みで魚たちがアルテルナを襲い、麻痺を振り切った彼の気を逸らす。

炎で薙いだその奥、サクヤの斬撃が、焔の剣を弾き飛ばした。

 

「そこっ!!」

 

「ンなっ」

 

そしてワカバのまち針で、剣の位置は正確に測れる。アルテルナが手に取るより先に、ユウロンが咥えてキャッチ。

 

手の空いたアルテルナは拳を放つが、サクヤはそれを受け流し、蹴りの一撃。怯んだ胴に、一閃を叩き込んだ。

 

「っぐ、あ……あはは! アタシの負け。やるじゃないの」

 

倒れ込むその瞬間、アルテルナは楽しげに笑って。

 

 

 

 

体を追う砂を取り払い、這いずって、逃げ回って。

 

あてのない逃走をがむしゃらに続けるフロフキの前に、影が姿を見せた。

 

「……かわいそうに」

 

「ボ、ス?」

 

「大丈夫……私には、君が必要なんだ」

 

月光に照らされたイチムは、逆光であまり表情が見えない。それでも彼は、差し出された手を取ることを選んだ。

目の前の彼の声色が、とっても、優しかったから。

 

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