手向けにカトレアを   作:さわたり

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第二話「レッテル」(1)

「……つまり、僕がこれを扱えと」

 

「ええ。今後は、あなたを流動的な指揮官として扱います。その剣自体は持ち回りで担当者を決めていたので、参考資料自体は十二分に入っているはずです。」

 

「なるほど」

 

リンの手に持たされていたのは、『録の剣』……今まで正式な持ち主の現れなかった剣である。

見た目は非常にシンプルな剣で、眼の子剣とそう大差はない。団長の説明を受けながら、リンは急なことに当惑していた。

 

「でも、本当に僕でいいのですか? ……指揮なら、より優秀な人が居るはずでは。経験が豊富な……あ、例えばルータスの……」

 

「いえ、あなただからこそなんです。もともと他者の能力を見て評価することに長けていますし、特定の部隊だけでなく、様々なところに顔を出されていますからね。」

 

なるほど、と今一度呟きつつもリンは完全に呑み込み切った様子ではなかった。

やはり、とジーリオは少し気にした様子を見せ、話を続ける。少し、内容は切り替えて、だが。

 

「今回あなたを推薦したのは……クワコさんなんです」

 

「クワコ……って、ソルツの?」

 

騎士団第三者委員会ソルツ……各国の同盟からなる、騎士団やその母体組織GRTOの暴走を見張る組織である。

クワコ・ユリシーズは監察官、実際に造園騎士団を見守り進言をする立場の者である。……同時に、

 

「眼の剣の、親……ですよね」

 

「ええ、ですからあなたや皆さんの活動を見守っている方の推薦なのです。」

 

言い切って、少し考え。

 

「……いえ、見張っている、の方が正確ですね。あの方は優しい方で、親騎士団的はありますが。」

 

複雑な顔でつぶやく、ジーリオ。

『眼の剣』の能力は、子剣を生成し第二第三の視野にすること。……親剣の持ち主、クワコはあまりにも多数の視界を捌きながら監視していることになる。当然選んで見てはいるようだが。

 

「わかり、ました。ジーリオ団長のご提案ですし」

 

「あと、これ。遺物を用いた偵察装備です。使い方は後程。」

 

「了解しました」

 

「……では、現時刻よりポピー評価観察部隊長を、正式にリン・アゾットとします。以前は私が兼ねているような状態でしたから。任務に応じ、私直接の認可の下臨時で部隊編成を可能とします。」

 

「……。……!? え、なんか想定してない権限をいっぱい貰ったんですけど!?」

 

「流動的な指揮官とあなたを成立させるうえでの障壁を最初から除いておいている形ですね。もちろん異論は聞きますが……試してみてもいいのでは、と思いますよ。」

 

驚きながら、リンは少し思い返す。

……まあ、自分を高く買ってくれている傾向はもともとあったわけだが。相変わらず当惑しながらも、リンは頷くことを選んだ。人を見る目においてリンはプロフェッショナルだが、団長はそれを超えている。

彼女が勧めた剣は、どれも使い手に気に入られているのだ。例外なく。

 

「頑張ります。」

 

リンの決意に、団長は優しく笑むのであった。

 

 

 

 

 

手向けにカトレアを

 

 

前線拠点編 第二話

「レッテル」

 

 

 

 

 

鋭い、突き。

頭の防具にブチ当たり、クロエは思いっきりのけぞり……。すぐさま踏みなおして前を向くが、対応不可能な速度で二撃目が繰り出されていた。

 

「ッ!!」

 

「力任せ、ですわねェ!!」

 

「っく、」

 

さらに続くのは回し蹴り。思いっきり喰らって、クロエはそのまま仰向けに倒れ。その上から、鋭く振り下ろしが迫る。

息をのみとっさに目を背けた彼女の、その数センチもない眼前で剣は……木刀は止まった。

 

「っは、ああ、」

 

負けを認めて自らの木刀を手放す、クロエ。

眼前に居たのは、金色の髪を巻いた令嬢であった。険しい顔で剣を向ける彼女はローゼ・ラ・グレッグス……騎士の一人だ。

アコナイト対人戦闘部隊、その隊長。

 

最強に数えられる、騎士の一人。

 

「……いいですこと? 敵をブチ殺すその瞬間まで一切目を背けてはなりませんわ。それは勝つためでもありますが」

 

ゆっくり歩み寄り、向ける視線。

厳しさの中に、教え導く先達としての温かみを込めた、その目。

 

「これから奪う命に目を背けず、背負うことのために必要なことなのですのよ。……まあ、我々の敵は簡単には死にませんが、殺す気でぶつからねばくたばるのはこちらです。勝者の『殺すつもりはなかった』などとクソくだらない言い訳は無様ですから」

 

「……はいッ!」

 

いささか言葉遣いにクセはあるが、やはり騎士道。

輝く目線をローゼに向けながら、クロエはそそくさと立ち上がった。

 

「訓練をつけていただき、ありがとうございますッ!」

 

「いえいえ。アコナイトがそもそも普段からずっと訓練ばかりですから」

 

「実際に、戦うこともあるのです、よね?」

 

「ええ。もちろんです。……ブラック・リリー=ナイツ(黒百合騎士)、あなたも聞いているでしょう?」

 

「……騎士団の裏切り者、たち。ガーデンの何かに魅入られた、とか。誇りも捨てた、愚かな者たちですッ」

 

「そうですね、本当に愚かですわ。……ですが、侮るべきできではありませんのよ。裏切り者だけで構成されているわけでもないようですし……彼らなりの思想もあるようです。煽動であれ洗脳であれ、啓発であれ、彼らが外から"スカウト"しているのは事実のようですから」

 

人を切り伏せて来た者として、何か思う部分があるのか。

どこか深さを残す視線を落とし、ローゼは複雑な表情を浮かべていた。騎士らしい、思慮深さ。クロエは、こうあらねばと、彼女の姿を見上げるのであった。

……まあ、体格的には見下ろす形になるのだが。

 

「そろそろ、一度終わりにしましょうか。午前も終わります」

 

「了解しました」

 

びしっと返答。退出するローゼの誘いに乗ってついていくことに、とりあえず食堂に向かおうとのことだった。

騎士団の拠点はガーデンの南北端に二つあるが、そのどちらも立派な食堂がある。現在いるのは北拠点。新しい前線基地も、こちらの近くに作る予定である。

さて、訓練室からの移動の中、クロエに声がかかる。

 

「クロエさん。あの……こちら」

 

「……あ、どうも、ありがとうございますッ」

 

技術者の青年に渡されたのは、修理された私物のレイピアであった。受け取って頭を下げると、そっと腰に装備。

どこか申し訳なさそうな彼女にローゼが問うと、壊して修理のループをすでに数回繰り返しているとのこと。

 

「そのたび、技術者や修理屋の皆さんが張り切って、『前より硬いぞ』と言ってくださるのですが……たびたび折ってしまって。申し訳なく思うのですが、彼らの、なんというか、技術者としての根性?のようなものに火をつけてしまった、とか、なんとか……」

 

「……その剣、構えていただいても?」

 

「……? はい」

 

「間違ってはいませんわね。……ガーデン素材で補強されたレイピアを突きで折るなんてのも、そう簡単なことではありませんし、なんというか……凄まじいですね」

 

「お、お恥ずかしい限りです……」

 

うつむくクロエだが、曰く「騎士らしくしたい」という理由で若干レイピアにこだわりがあるようだ。……その枕詞に、最近「ローゼと同じように」というモノがついているようだが。

ローゼの扱う武器も、刺突剣。騎士としてのあこがれ故に、彼女と同じ武器にこだわっている側面もなくはないようなのである。嬉しく思いつつも、クロエにはもっと合う武器があるのでは……そう思う面もあるようだ。

 

「お、ローゼ様じゃないか。ふふ、相変わらずお綺麗、……でもこの空間全てがイケイケな存在で占領されているから……どこからどこまでが君のかがやきか分からないかも、って感じ?」

 

「ふふ、相変わらずそれでは誰を褒めてるか分かりませんのよ」

 

「少なくとも、君たちと俺ちゃんがまばゆいダイモンドなのは変わらない……ってワケ」

 

「……アドーネ殿」

 

食堂で声をかけたのは彼だった。相変わらずかっこつけた様であいさつをすると、ローゼはクスクスと、鈴を転がすような声で笑むのであった。

クロエは、『また』か、とため息をつく。最近、ヘレニウムやアコナイトのもとで戦ううちに、双方の隊長が仲が良いことに気づいた。まあ、不和より絶対に良いのだが、よりにもよってこの騎士道精神の欠片もなさそうな相手とである。

 

「そこで、オヴィくんが俺ちゃんのバクバクどきどきザリガニボンバーキャッチ作戦に対して、文句をつけたワケ」

 

「ふふ、作戦内容自体は完璧ですのにね」

 

「……内容自体は? まいいや、それでさ」

 

別に、疎外されているというほどではない。クロエにも普通に話題が飛んで来る。しかし、やはりアドーネとローゼは仲がいい。同じクォーツ帝国の生まれというのもあるだろう。

クロエはあまり面白くはなかった。

 

「にしても……ローゼ様、ラーメン食べるの上手になったね」

 

「今でも抵抗はありますけれどね、すするなんてのには……」

 

時折クロエの二倍はありそうな大盛りをチラチラ見ながら、二人は会話を続ける。

クロエ自身は特に気づかず、食べ終えて食器たちを戻した。少しだけ離れた位置から先輩たちを見て、それから少し考えて。

 

「用事があるので、お先にお暇します。失礼いたしますッ」

 

「あら、了解しました」

 

「うん、また」

 

頭を下げる彼女を見送ると、二人はまた向き直り。

 

「イケイケだしキラキラ、マナーもバッチシでいい子だね。俺ちゃんの美しいガラス玉のような眼がそう言ってるんだから、それも最高クラスに……!」

 

「ふふふ、そうですね、真面目で実直な方ですわ。まあ、いささか肩ひじを張ってしまっている部分はありますけれど。……ワタクシに対する、あなたみたいに」

 

「……! 別に俺ちゃんは、ローゼ様、」

 

「"様"。」

 

「……それは許して、ほら、あふれ出る気品がさッ」

 

自分の後ろでそんなやり取りが続いているなどとは知らず、クロエは進んでいく。

さすがに日々鍛えたマッチョもそろう騎士団の拠点というのもあり、その肩をぶつけてしまうなどという機会も減った。……が、たまに体躯が小さい相手だとぶつかるなんてことも。

 

「……リン殿? も、申し訳ありませんッ!」

 

「え!? かしこまりすぎだよビックリしたなあ、大丈夫大丈夫」

 

食堂の出口で、ぶつかってよろめくリンを心配げに見守りつつ。

ともあれ、行き先が近いということで歩みの方向が重なった。話題を切り出すのはリン。

 

「二人、仲いいよね」

 

「ああ、アドーネ殿とローゼ殿ですか。ええ。非常に」

 

「何か気にかかることでもあるの?」

 

「……いえ、ただローゼ殿のような気品のある方がアドーネ殿のような……まあ、確かにお強いですしお優しいですが、おちゃらけたような方と仲がいいのかと。別に嫌とか、面白くないわけではありません」

 

「あはは、クロエ、ローゼさんのことお姉さんみたいな感じで接するもんね」

 

予想外の扱いに驚いて、振り向きつつ、どうも否定しきれずクロエはしばしの間黙ってしまう。

リンは気にすることなく続ける。

 

「それにしても、あの二人分かりやすくそういう感じだしね。まあ、付き合ってるのかどうかはよくわかんないけど」

 

「……え?」

 

「え?」

 

「付きあ、え?」

 

少し顔を赤らめたクロエを見て、リン、少し顔を引きつらせ。

 

「あー、いや、なるほどそういうの疎めね、なるほど……。別に僕の言ったことあんまり気にしなくていいからね、うん」

 

「ふ、ふたり……いや、い、言われれば……?」

 

困惑しながらも用事……制服の修理窓口に到着。騎士団の白い制服は、好きな色のリボンを通すことで自己主張ができる。着崩す者も多いのだが、クロエは出来得る限りしっかり着ている。狭い前を開けたり鎧を重ねたりはしているが。

その様を見守りつつ、リンは用事……自分の制服の受け取りに来ていた。大きいアウターにそでを通しつつ見ると、クロエは制服の修理はすぐ終わるから待つ、とのこと。

 

「じゃあ、僕も居ようかな。ほかに用はないし……」

 

「あれ? リンだ」

 

そこに顔をのぞかせたのは、体格のいい緑髪の青年。褐色の肌の彼はハマダのチフキ……解体部隊のメンバーである。

 

「お、チフキ。最近どう?」

 

「元気だぜ。リンはどうよ」

 

「なんか指揮官としてさ、やたらデカい役割貰って困惑中……。まあ、頑張るよ」

 

「指揮官? なんか部隊率いるの?」

 

「いや、臨時でいろいろやれる地位ってさ」

 

「へえ~? なんかよく分かんねーな」

 

リンと仲良さげな様子を見つつ、ひとまず初対面の相手ということでクロエは挨拶。握手のための手を差し出した。

 

「よろしくお願いします」

 

「お? おお、よろしくな!」

 

にっこり笑い、朗らかに彼は応えた。思慮深いタイプでもないが、裏表がなく接しやすい人物である。

さて、チフキのすさまじい破れ方をした服を預けつつ、待ちのモードへ。他愛ない雑談の中で、チフキが最近の任務について語った。

 

「そういえば、ヘレニウムのオヴィってわかる?」

 

「ええ、作戦でご一緒してます」

 

「僕も。……にしても、どうかしたの?」

 

「いやなんて言うかさー、この前機械、こんぐらいの、あんまデカくない機械を捕まえるぜ、って作戦をやったわけよ」

 

「うん」

 

そこから彼が語ったのは、コルニカがオヴィを詰めていた時と同じ……作戦内の行動についてであった。

ハッキリ言うと、あまり行儀がいいとは言えない……命令無視と言っても差し支えのないもの。それでなぜ任をはずされないんだ、という怒りまじりのクロエに、「優秀な人ではあるんだよ」とリンはフォローを残す。

 

「いや、俺もさ、はぁ~?ってなったよ? でもまあ、バカなりに俺も考えて、まあ、オヴィのやつが有能だし、アドーネさんの言う事はそれなりに聞いてるっぽいから、ああいう立場なのかな、ってさ。……まあシザーリィの、あ、俺の仲間ね。まあ、とにかくそいつの言ってたことと合わせて考えてるわけだけどさ」

 

あまりまとまっていない言葉で、チフキからもフォローが続く。

 

「まあ、実際、彼はヘレニウムが一番肌に合ってるみたいだし。……そこに配属するよう進言したのも、一応僕だから」

 

「ですが……ッ!」

 

「まあ分かるよ、問題行動が多い、ってのは」

 

「あれでも昔よかマシみたいだけどな」

 

「彼なりに、意図とかあるのかも」

 

「意図、ですか……?」

 

「えッ、考えること増えちった」

 

チフキ、『思考停止はよくない』という彼なりの哲学がある。浅学な方だが、彼なりに考えることはライフワークなのだ。その様を見て、クロエももやもや悩んでいる。

 

「僕が、いろいろ聞いてみようかな。……まあ、失礼のない程度に」

 

リンは微笑んでそう告げた。

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