手向けにカトレアを   作:さわたり

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第十五話「シルヴァリアは曇った目で。」(1)

迫りくる草たちを薙ぎ払うために投入されたのは、火炎放射機能を持つ巨大機械。ソウジの程度を見極めた頑張りの結果、コルニカ不在という不安の残る状況でも北拠点に十分な防衛を敷くことができていた。

 

だが、長くは続かない。

 

「行くよ」

 

イチムは己の首に花の剣を添え、そして振りぬき。

 

あふれ出る血がすべて花束に変わると、ツタの濁流がイチムを飲み込んだ。瞬間、数十メートルはあろうかという、草の塊が人間の上半身のシルエットを成す。

 

「な、なんだ……これ!」

 

がむしゃらな火炎放射は効かない。……効いているが、追いついていないのだ。草のバケモノことイチムがそれを殴り倒し、脚部を破壊し。

……そして操縦者を優しく摘み上げ、抱きしめるように草へと取り込んでいく。

 

「せめて苦しまないように……!」

 

やることは、北拠点相手でも同じ。壁を抱きしめると、全身が這うように広がり、どんどんと加速度的に北拠点を覆っていく。逃げおおせるものもいるが、黒百合の騎士たちがそれを足止めする。

草の塊の中から、ぷちんとちぎれるようにイチムが落ちて、そして構えていたテルトがそれを受け止める。

 

「強い騎士が目ェつけてきて!ちょっとマズいので撤退っス!」

 

「そういうことなんで!いいですよねェ!」

 

「ありがとう……」

 

負担の大きいイチムを機械に乗せ、レレルが呪の剣でそれを操作する。植物化も負担がかなりあるようで、イチムは無理をしてそれを実行しているらしい。……一刻も早く救う、というその信念でもって。

 

だが、それを許さない者がいる。レレルの四足機械とは違い、二輪の駆動機械が音を立てて迫る。

 

「トキワさんちょっと飛ばし過ぎ!! ぼくとサフラン落ちそう!」

 

「プラニスは耐えている。リン人事官も耐えろ。追いつく必要があるからには、スピードは落とせない」

 

「おい姉ちゃんアレどうすんだよ!」

 

「巻きますよ!!」

 

「それが出来たら……だあ、もう!!」

 

苛立ったテルトは、機械の上に立ってトキワたちを見据える。

 

「……え、ちょ、何する気っすか」

 

「テルト、無理は……」

 

「俺はね、もうナメた結果の敗北はしねえって決めてるんだわ。『追いつかれる』……それがこの状況での判断としちゃ妥当だろうよ」

 

そう言うと、テルトは跳んだ。

 

「トキワ・カシィ! ご丁寧に負けに来てやったぜ!!」

 

「そうだな」

 

飛び掛かった彼を前に、瞬の剣を抜いて一撃。何事もなかったかのようにトキワは車両を加速させ。……そして、その腕が瞬の剣ごと零れ落ちる。

 

「な……ッ」

 

「最強は油断も最強だなァ! コウモリになってもらったぜ……ドゥーゲン・モリオンにいっぱい食わされてからずゥ~~っと練習してた時間差発動だァ!!」

 

「そうだな、舐めていたようだ。プラニス、運転できるか」

 

「やめて、おきたいかな。リンちゃん」

 

「行ける!」

 

「わかった」

 

トキワは飛び降りつつ、リンに追跡を任せ着地。転がりつつ駆け出し、腕ごと落ちたままの瞬の剣へと手を伸ばす。だが、テルトの方が近い。トキワは、左腕で眼の剣をぶん投げた。

 

「っぶねえなぁ!」

 

それをはじき返し、そして細かいコウモリに。剣はコウモリ化できないのが常だが、素材に『眷属』を付与し作り出す眼の子剣ならできるという賭け。それは、トキワへと向かう無数の刃と言う形で結実する。

 

「……。」

 

「動じねえか!」

 

しかしそれを潜り抜けてかわすと瞬の剣、回収。改めて鞘から抜こうと、構え……そして気づく。自身の周りが、コウモリに包囲されている。鉄くずとかでできたそいつらは鋭い羽を向けて、彼女を囲んだ。

 

「お前は動けねえ! 終わりだトキワ・カシ!」

 

「いや、動く」

 

迫るコウモリなど意に介さず、抜刀。全身の神経が覚醒し、自分以外の全てが遅くなったその世界。ゆっくりと迫る金属のコウモリが眼球をぶち抜こうと、関係なくトキワは走る。

血まみれで、引っかけられて体の『中身』がいくつか持ってかれても、彼女はテルトを引き裂くことを成し遂げた。

 

「……っは、ぁ…………」

 

納刀、テルトを拘束しようと迫ったとき、彼は笑った。

 

「言ったろ、負けに来たって」

 

「……っ」

 

テルトの服の下の爆弾は、すでに点火済み。最後まで火花の届いた導火線が消え、次は爆音。とっさに土を巻き起こして威力を下げるが、それでもぶっ飛ばされて、森の中を転がり。

けがは押さえたが、急いで無理をし過ぎた。そんな彼女に、優しくツタたちが迫り。……答えは、瞬の剣の、抜刀。

 

「今日ばかりは、無茶を許してもらおう」

 

今更、脳への負担で鼻血がこぼれようと関係ない。迫るツタよりも早く駆け出し、そして眼前のそれはぶった切って。彼女は向かうべき場所へとにかく足を進めた。

 

 

 

 

手向けにカトレアを

 

眠り編 第十五話

「シルヴァリアは曇った目で。」

 

 

 

 

「おバカですねえ! 追えば追うほど! 私は強くなるんです!」

 

彼女の言葉通り、どんどんと敵の数は増えていく。呪の剣、便利な武器である。プラニスの光のダガーの炸裂では、さすがに追いつかない。ぎゅうぎゅうに迫る小型機械が並走し、リンたちの車両を追い詰めた。

 

そして一体が跳びかかった時、馬のいななき。小型機械には小さなブレードがぶち当たり、そして瞬きをする間に、小型機械がぶっ壊れている。いつの間にか刺さっていた小さな刃たちが散って、馬を駆る者の手元に集まる。

 

「……ジーリオ団長!?」

 

「南拠点まで向かいましょう。散っていった騎士たちはむしろ潜伏してもらった方が良いでしょうから……イチムを倒すのは、私になるでしょうか」

 

「そうだね。僕も手伝えるとは思うけど、だけど彼は強い」

 

ジーリオの後ろに立つラヴィニアが淡々とそんなことを言う。馬の上で立ち乗りというなんとも器用な話だが、さらに器用なことに、彼はレレルの機械へと己の楔の剣をぶん投げてブチ当てた。

 

「うげッ!」

 

「だから今できることを、しておこう」

 

「そのつもりですよ」

 

そして、ジーリオの(やいば)の剣から破片が跳び、その跡を軽く突き立て。楔の剣は『弱点を作る』といった能力。レレルの機械が、いやな音を立ててひしゃげた。

速度が落ちて、ジーリオの馬と並走し……楔の剣を引き抜いたラヴィニアは、器用にもジーリオ越しに馬の手綱を取る。

 

「行けェ!!」

 

「無駄です。」

 

刃がすべて飛び去った剣をタクトのように操り、迫る機械を迎撃し。そして、一瞬のうちに、全方向からレレルをぶち抜いてバラバラに散らせた。

 

「仕留めました。」

 

「だけど団長、状況はよくなさそうだね」

 

あたりを駆け巡る雷光を見て、ラヴィニアはため息をつく。……だが、その追跡も。

 

「ゴールドバーグ……今は、だめっす、たて……なおして!」

 

「……フン」

 

レレルの言葉で、終わる。去っていく車両と馬を見届けると、ゴールドバーグはバラバラのレレルに手を伸ばし。……しかし。

 

「わたしなんかに構ってる暇、ないでしょ……立て直すってのは、あいつらを倒すために、あんたが準備するってことっスよ……!!」

 

「……そうだな。ああ、倒してくる。ジーリオ・オブ・アクエイディアを」

 

「がんばってっす……っく、あはは」

 

負けたらそうするようにイチムに言っていたのだろうか。手に持っていたツタの破片が一気にレレルを飲み込む。

ゴールドバーグは振り返らず、走る。……戦うだけの機会を用意するのが、また自分の仕事に戻った。

 

 

 

 

ジーリオとラヴィニアは、囮を兼ねた存在であるようだ。リン達にまで猛攻が迫るわけにはいかないということで、その行動を別にした。

 

が、だからと言ってリンたちが完全に安全というわけでもない。追跡者は最初からこの時を狙っていた。

 

「おや、防がれるとは……」

 

「誰、あなた」

 

「イチム・リリィズの部下ですよ。これで十分でしょう、今は」

 

敵こと、シルヴァリア・ファキーチ・オミニウ。その一撃目はプラニスが眼の剣で受け止めた。しかし簡単にそれを押しのけ、サフランとリンに迫り。

どうしても、戦力がないこの状況。リンのがむしゃらの攻撃もかわされ、サフランの薬品注入を狙った接近も、その武器の能力で足止めする。

 

鏡の剣……反射光で相手の網膜にダメージを与える、それだけの武器だが。だが盲目の剣士シルヴァリアには、戦闘における『一瞬』をノーコストで生み出せる武器。

 

「あなたは気にならないようで」

 

「光には慣れてるから……さ」

 

プラニスが対応しようと、光のダガーを矢として放つ。だがシルヴァリア……シルヴィは意に介さず、それを軽くいなしていく。そしてプラニスに迫ると、ダガーを振るう勢いを利用して軽く転ばせ。迫る彼女を回し蹴りで吹き飛ばす。

 

「……本気を出さないだけの理由が、おありなのですか?」

 

「だったら、何かな」

 

「いえ」

 

斬りかかるリンを真っ二つに引き裂き。サフランが振り下ろした藥の剣は彼女自身の喉に突き立て。しびれて膝をつく彼女はあがこうとするが、鏡の剣の光で完全に動きを止め。首を飛ばされてしまう。

 

「なるほど……事情が見えた気がします」

 

「なに?」

 

「あなたは、失望が怖いのですね。気持ちはわかります。僕も、こんな目ですから」

 

めくり上げた布の下、目元には斑点のようなものが浮かび、眼にも不気味な色彩。

 

「病を治すことは、カトレアではできなかったのです。……うっすら光は感じますが、戦いであればそれも邪魔なので」

 

布を戻すと、膝をついたままのプラニスに迫り。……そして、手を差し出した。

 

「彼女たちと言う、枷と共に居ることはありません。優しいからこそ、縛るというものもあるでしょう」

 

「……何、どういう、こと?」

 

「イチムは、あなたが全てを解き放とうと、受け入れる。それは積極的な優しさではなくとも、王の器としてあなたを認める者です」

 

「私に、来いって、言うんだね。」

 

「ええ、彼女たちを裏切るわけではありません。ですが、彼女たちに迷惑をかけることなく……」

 

そこまで言葉を紡いで、そして……なんだか気配がおかしいことに気づく。……リンたちは、ちぎれた体の一部を腕で引き寄せつつ、すでに気付いている。

プラニスの目や髪が激しく光を放ち始めていることに。

 

「……サフラン、を…………侮辱しないでよ……!」

 

放った斬撃を受け止め、その勢いで後ずさり。……冷静ながらどこか戦闘狂の気があるのか、シルヴィは笑みを浮かべていた。

プラニスは、剣の形に変わった星の剣を握る。

 

「っふ、あは……そうだ! おまえなんかがサフランを語るなよ!」

 

「語ったつもりはないのですがね。あくまで、あなたが本当のあなたらしさを、」

 

「わたしらしさはこんなのじゃない!!」

 

だが、プラニスも笑っている。脳にあふれる楽しさが否が応でもその腕を動かす。閃光に慣れたプラニス相手では、鏡の剣はよく切れるだけの剣。

勿論星の剣の閃光もただの衝撃波なのだが……。

 

「あははっは、そうだ! おまえなんか! おまえなんか!!」

 

「楽しそうに見えるのは見間違いでしょうかね……!」

 

「うるさい! こんなの、こんなのォ!!」

 

シルヴァリアを押しのけ、そして頭を抱え木に叩きつけ。怒り任せに放った斬撃が、光のダガーを散乱させる。しかし冷静さを欠いた敵。意に介さず、シルヴァリアが迫り、脳天から突きをブチ当てようという時。

間に入った斬撃が、剣を滑らせる。姿勢を立て直しつつ、迫る一撃を押しのけ。救援ことパトリシア・バティスティは水をまとった二発目を放つ。

 

「ごめん遅くなった!」

 

「パティ……!」

 

「なら……!」

 

「来ると思った!」

 

そして鏡の剣が放つ閃光を、水の壁が受け止める。そのまま水が大きく渦巻き、泥を散らして、においも気配もごまかして……。体勢を立て直すころには、一行はまるまる気配を消していた。

即興であろうが、盲目相手へのかく乱を綺麗に編み出して見せた。心の奥で称賛しつつ、シルヴァリアはまたあたりを探り始めた。

 

「敵を逃したか?」

 

そんな彼に、声がかかる。

 

「ゴールドバーグ……貴方にもぜひ探していただきたいのですが」

 

「私にはやることがある。そちらこそいいのか、貴様ほどの実力者が、あの連中などを追っていて」

 

「星の剣と、プラニス・プレイヤーはカトレアの神秘に触れた者です。『彼女』が気にすることもあり得ます」

 

「……そうか」

 

それだけ残すと、ゴールドバーグは南拠点へと足を向ける。

 

「……ゴールドバーグ、あなたは、何を?」

 

「ジーリオ・オブ・アクエイディア。……奴を倒す」

 

「おや! 大きく出ましたね……もっとも、あなたなら不可能ということもないでしょうけど」

 

「いや、出来るさ。……それにやると言った手前、ということもある」

 

己の剣触れながら、ゴールドバーグはそんなことを言う。

 

「……おや、約束ですか」

 

「いいや。だが、有言実行ひとつ出来ず武を語るのも滑稽だろうな」

 

それを最後に、彼は森の中へ消えていく。シルヴァリアは改めて、考える。己が戦う理由を。

 

「……僕の居場所は、ここなんですからね」

 

答えは、すでに出ているが。

 

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