手向けにカトレアを   作:さわたり

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第十五話「シルヴァリアは曇った目で。」(2)

くっついた首に包帯を巻きながら、サフランはメンバーの後ろについて歩く。気にした様子のパトリシアが彼女の元に歩みを寄せ、サフランもそれをチラリと見上げ。

 

「どうかしたの?」

 

「……あー」

 

先頭を歩くリンと、プラニスに視線を送ると、サフランは小声で語り始める。

 

「僕が、プラニスの枷になってたり、ね」

 

「え……リワちゃんにかぎって、そんなこと……」

 

「どーでしょ。仲がいい、自信はあります。その、仲がむしろ……彼女に鎖をつけているのではと」

 

「んー……仲いい子に怖がられたくないって、普通だと思うけどなー」

 

「そう、でしょうね……」

 

だが、プラニスは普通ではない。言外のそれに意外と気づけるようで、笑ってパトリシアは首を振る。

 

「結構普通の子だよ、プラニス」

 

「……でも、昔とは変わりました」

 

「もっと明るかったんだっけ? そのころに、戻りたいのかな」

 

「……。」

 

「仮に、そうでも……。待っててくれって言えるの、それってまたなんか、友達だからじゃない?」

 

パトリシアは、そこまで口が上手いわけでもないながら、言葉を選ぶ。

 

「……それは、分かってるんですけれど」

 

「まあ、付き合い長いからこそ、だよねー」

 

「そうですね。あなた、最近プラニスとよく話すんですよね。……どうなのですか」

 

「んー……まあ、普通に、怖がってるかも。あ、えっと、あれね。性格変わっちゃうのを、見せたがらないみたいな」

 

「分かってます。……そうですか、まあ出来た居場所だったら、どこだろうと失うのは怖いか……」

 

「でも、わたしに見せる後ろめたさみたいなのは、ないんじゃない?」

 

「……後ろめたさですか」

 

パトリシアは自分の髪に触れながら、続ける。

 

「わたし相手には、まだ『本当の姿を出せないこと』とか、『戦力として、本気の存在じゃない』とか、気にしてそーだよ。……んま、わたしがナナカマドだからかも!」

 

それだけ言うと、行くよと続けプラニス達に追いつく。サフランはすこしだけうつむいた後、駆け出す。……プラニスは、本当はどうなりたいのだろう。

人は、人の心を覗けない。

 

 

 

 

フロフキは降る時は雪が降る地域の生まれで、陽が落ちるだとか、その程度の寒さは慣れている。アイリーンもあまり自分に気遣わず生きてきたので、同じく。

ともかく、二人は焚火なしで暗くなりつつある森で座り込んでいた。遺物のランプは持っているので、何も見えなくなるということはなかろうが。

 

「逃げて、どうすんの? 故郷とか言わないよねーまさか」

 

「あんなとこ誰が帰るかよ。……でもそうだな、ツテもねえし」

 

「傭兵とかやる~? 外にアイくん連れて行けるかな」

 

「でもよ、仮に外で名前広まったら騎士団が血眼で探しに来るだろ」

 

「あーあー。でもなんか、世界滅びるんじゃなかったっけ」

 

アイリーンの言葉を聞いて、フロフキは考え込む。

 

「……じゃあ、いいか。もう武器持って外出ちまおうぜ。ッハ、どうせ滅びるなら好き勝手してやろうじゃん」

 

「名案。じゃやっぱこのまま西海岸ね」

 

「寝てる暇とかねえよなァ~……。なんかメシもってねえ?」

 

「携帯食料しかない。一個あげる」

 

「どーも」

 

暗闇のなか、二人はまた歩みを進める。

 

 

 

シルヴァリアの追撃は早く、脚のすくむプラニスへと、一撃が放たれる。それをパトリシアが防ぎ、サフランが藥の追撃。シルヴァリアに蹴り上げられたそれを拾い直すと、また、構え。

 

「……その、私、」

 

「怖いんでしょ? 力を出しちゃうの……」

 

「それで気持ちが昂りすぎるのものね。そうならなくていいよう、僕らが頑張る……それも、まあ仕事なんで」

 

「ずっと、そんな負担を、強いられない……よ、わたし」

 

「士気を管理するのも司令官の役目だよ。戦いを強いて、兵を潰したら元も子もない。……大丈夫、パトリシアもわかってくれるし、待ってくれる子だよ。君が、少しずつ結論を出すのを」

 

リンは、プラニスに目くばせをしながら剣を構えた。

 

 

___メンバー、

 

___パトリシア・バティスティ

___プラニス・プレイヤー

___リワ・サフラン

 

___作戦開始

 

 

「パトリシアは前線で防御し続けて! 閃光攻撃の時はすぐに下がってプラニスと交代! プラニスは援護しつつ、かく乱で距離を作れるよう構える! サフランはそっちの判断で! 基本の位置は僕の横!」

 

「おっけー!」「うん」「はぁ~い」

 

口々に応えつつ陣形を作り、やはりまずパトリシアが突きを放つ。それをシルヴァリアはいなしつつ、投げつけられたダガーが炸裂しても気にせず斬りかかり。まずパトリシアを潰すために鏡の剣が光を放つ。

 

「プラニス!」

 

「……うん」

 

そして交代して出たプラニスがダガーと眼の剣で応戦する。しかしシルヴァリアは強く、どんどんと追い込まれ、……さなか、いきなりプラニスが姿を消す。

煙幕に隠れた感覚は、サフランの調合した薬品。……植物による腐葉土のにおいを強化したらしい。

 

「なるほど、しかし空気の動きで……!」

 

だが鈍っているのは確か。プラニスが地面に刺したダガーが炸裂し、空気を乱す。

 

「おりゃあ!」

 

「回復しましたか……」

 

そして今度はパトリシアが迫り……。態度は軽いが、しかしジーリオの懐刀が一人。素早い振りぬきと水圧の刃で魅せる剣術は、シルヴァリアと互角に斬り合う。

 

「……なら!」

 

「二度も三度も喰らわない!」

 

閃光は水の壁が拡散し軽減。……が、しかし。水の壁を閉じて放った斬撃を前に、シルヴァリアは『地面に刺さったままのダガーを蹴る』ことで応えた。

……プラニスのしかけていた罠が閃光を放ち、パトリシアを惑わせる。

 

「っぐ……!」

 

「やはり枷になっているではありませんか!」

 

パトリシアを蹴っ飛ばし、防ぎつつも眼がくらんだままの彼女を一瞥。リンの指揮通り攻め込んだプラニスと鍔迫り合い。今度は匂いにも炸裂にも惑わされず、小石を蹴り上げ作った風の流れで、今一度位置関係を把握。プラニスの首根っこを掴み、叩きつける。

 

「粗暴なやりかたで申し訳ないですが。……ですが、見ていられないのです。あなたは、あなたらしさを封じ込めて、そして本当のあるべき姿をひた隠しにする。それでしか生きられないと感じている……!」

 

「それが、何……!!」

 

「僕は、彼のもとで、本当にやりたい戦いをさせてもらっているのです」

 

そんな脅迫まがいの説得に、リンが、水を差す。

 

「本当に、やりたい戦いなの? こんなことが?」

 

「……イチムの計画の事ですか」

 

「君は、やっとやりたいことをできる場所、見つけたんだろ。だったらもっと、そこに居られるためにさ! 『滅び』に立ち向かうとか!」

 

「それは、イチムが望むことではない」

 

「じゃあ、結局君も同じだろ」

 

話を切って攻撃するほど、非紳士的な男ではない。プラニスから手を離しつつ、今度はリンに顔を向けた。

 

「同じ、ですか」

 

「……わたしも、居場所が、ほしい。…………守るために、自分を、ちょっと抑えてる。……それがいい、そう、してでも、居場所が、ほしい」

 

「ですから、そこはあなたの居場所では……!」

 

「なら、あなた、も。……本当は、イチムと、違う志が、あるように……聞こえる」

 

プラニスの言葉を聞いて、眉間にしわを寄せて剣を構え。

 

……そして、その手をゆっくりと降ろす。

 

「……なるほど。僕は、自分に嘘をついていると。そうかもしれませんね」

 

「だったら、こんなことやめて、」

 

「ですが。それこそ同じ話です。……僕は、イチムのくれた居場所のために、彼の理想に沿うことを選んだ。それは揺るがないことです」

 

「……。」

 

「ありがとう、プラニス・プレイヤー。僕は、自分の今を肯定するために、必死になり過ぎていたようです」

 

「それは、どうも……!」

 

サフランの投薬で抑制された星の剣と剣戟をはじめ、しかし、やはり簡単に追い込んで。……それでも、彼は、プラニスにこう告げる。

 

「あなたに敬意を払わせてほしいのです。見えないからと曇らせたままの目に、今一度心を思い出させてくれました」

 

引き裂かれ、植物に飲み込まれていくプラニス。それを見て、パトリシアはがむしゃらに斬りかかる。閃光も気合いで切り抜け、さらにサフランの投薬。強化された感覚と嗅覚で、同じ条件下のパトリシアが剣を振るう。

 

「次蹴り!、左前方から斬撃! 突いて!」

 

リンのサポートも入り、シルヴァリアの剣をはじき上げ。がら空きになったその胸に、海の剣が突き立った。

 

「まだ、です……!」

 

「そう来る!」

 

しかし、そのままパトリシアの腕をつかみ、己に剣を突き刺し続ける形でパトリシアを目の前まで引きずり込み。手刀で、パトリシアの喉を突き当てる。

怯んだ一瞬、今度は眼の剣を盗み取り、肩に突き刺し。双方、剣でつながったまま。

 

「イチム、頼みましたよ」

 

「う、嘘……まずい!」

 

シルヴァリアの手の中にあったのは、小さなツタの欠片。それはシルヴァリアごとパトリシアを包み。……そこへ、サフランが割って入る。

 

「パトリシアさん……!」

 

「待ってサフラン!」

 

リンの静止も聞かず、パトリシアへ筋力強化の薬品を打ち込み。草を引きちぎる彼女を前に、変わって飲み込まれたのはサフランであった。

 

「……任せ、ました…………あとの、こと」

 

「サフラン!」

 

「ソウジ、くんも……」

 

そのまま、木の根っこへと、消えていく。

 

……戦いが終わったが、しかし落ち着いてはいられない。パトリシアは、リンに歩くよう促した。

 

「……行かないと、南拠点に。」

 

 

 

放逐された車両だが、案外これが心地いい。屋根のない車両が、二人を風でゆする。

 

「あはは! アイくん、いい風だね~」

 

「ガキかよ。……ま、悪かねぇけどさァ」

 

「っは、そっちこそガキだ」

 

「うるせえ。……結局なんなんだよ、アイくんって」

 

「んー、剣だし、アイリでもある」

 

「……あー、なるほど?」

 

よくわからないが、わからないと聞き返して面倒な話を広げる気はない。相変わらず薄情なフロフキだが、そんな話が吹き飛ぶ光景が、森の奥に広がる。

 

たどり着いた海岸線。……沖に、巨大なツタが壁を作っている

 

「……なんだ、あれ」

 

「また結界みたいな作ろうとしてんじゃないの」

 

「っち、そういやアルテルナが言ってたか……ガーデナーが、ここを封印したのは、『滅び』を封印するためだって。今のイチムみてえなこと、やってたわけだ」

 

「でもなんか、イチムの目的って植物の世界で永遠の幸せとかそーいうのじゃないの?」

 

「ガーデンだけに封印をとどめて後の時代にぶん投げたんだろ。イチムは、それはやめて皆で一緒に死のうってわけだ」

 

アイリーンはそれを聞いて、「趣味ワル」などと呟く。フロフキは複雑な表情でそれを眺め、そして。

 

「あの人倒さねえと、出れねえかもな」

 

「…………できんの?」

 

「さあな。……はァ、ああやって別れた手前、あんまり戦うとか考えるのは、気分良くねえけど」

 

「なんかあんたらしくない」

 

「俺の何を知ってんだお前は」

 

「確かに。クズって事しか知らないかも」

 

「っせぇな。……とにかく、」

 

そんなふたりの会話を、砂を踏む音が遮った。

 

「ボスを、倒すって言ったな」

 

「……テルト・イイル」

 

「なんだっけ、イチム派の奴だっけ」

 

テルトは爆破から再生した体ながら、戦えるほどにはなっているらしい。乗ってきた機械を軽くなでると、ため息。

 

「姉貴はもうあっちに行ったみたいだが……オレはお前らを倒してからかもな」

 

「なんで? アイリたちは関係ないでしょ」

 

「バカ言えよ、ボスを倒すんだろ?」

 

「別にアイリは、」

 

しかし斬りかかるテルト。それを張った糸で防ぎつつ、フロフキは後ろのアイリーンを一瞥する。

 

「どうせ取り込まれるんならあがいてからだろ。……っち、腹立つぜ、チフキのバカと、身の程知らずがうつったかもな」

 

「はァ~~わかったよ、ま、アイリが強くなるいい機会かも」

 

張られた糸ノコを取り込み、放った斬撃は鞭のように糸ノコを振るう。

 

「おい無茶苦茶に振るなよあぶねえな!」

 

「うっさい! アイリに合わせろ!」

 

「っち、ザコの癖に」

 

「バカが生意気言わないでよ」

 

軽口をたたきつつ、ハチャメチャながらどうにか合わせるだけの連携。張った糸で行き場を防ぎ、砂の剣を突き上げ。砂を蝙蝠に変えて地面に潜入するが、跳び出す地点で糸ノコが待っている。

 

「あっぶねえ!」

 

「っち、おい! 海水取り込めるか!」

 

「はいはい!」

 

体を蝙蝠に変えてバラバラに移動するテルトへ、水圧の斬撃を散らし牽制。集まり直す位置に、すでに罠が張られている。

 

「テルト・イイル!てめえはゴーマンなバカだからなァ、罠を張る側だと思ってんだよ! 常に!」

 

「てめェに言われたくねえな!」

 

砂の中から、糸を分解したコウモリがフロフキに迫る。それを押しのけると、合の剣にすべてを取り込み、そして振るう。……コウモリにわざわざ変えたものを、合の剣を通し戻される。相性は最悪だ。

張り直された糸が引っ張られ、砂を巻き上げ視界を潰し。こうなれば、単純に二人組が有利だ。

 

「くそッ!」

 

「逃がさない!」

 

そして、コウモリ化したテルトの身体を合の剣が取り込み、糸ノコを混ぜ込んで返却。人間の形に戻ったところで、体に埋め込まれた糸を、フロフキの張った糸が引きずり出した。

 

「っぐぁああ!」

 

「っは! ばらばらだなァ!」

 

引きちぎられたテルトがぼとぼとと落ちて。砂の上ですこし這いずったあと、彼はあきらめることを選んだらしい。一瞬にしてツタに還っていく彼からすこし、距離を取る。

 

「どうするよ、こんな感じの連中と今後も戦うのか?」

 

「イチムを倒すって、フロフキが言ったんじゃん」

 

「……そうだな。あー、気まじぃ」

 

「あんたにもそういう感性あるんだ」

 

「その言葉そっくり返すよ」

 

「はァ?」

 

軽く小突かれてもフロフキはいつものように性格の悪い笑みを浮かべるのみである。

 

 

 

 

南拠点は、地下遺跡の発掘現場とそのままつながっている。

 

月光の差し込むそこで、ジーリオの行く手を阻んだのはゴールドバーグであった。

 

「……まずは、あなたですか」

 

「少しだが、楽しみにしていたよ。貴様と戦うことを」

 

「光栄です、と言いたいのですが。今ばかりは本当にそれどころではなく。」

 

「その割には一人か。ナナカマドの連中と居ると思ったが」

 

「固まるよりは散って対処した方が良いのは瞭然でしょう。」

 

続けて、刃の剣からブレードたちを分離し。指揮棒のようになった刃の剣基部を、向ける。

 

「それに、私は一人で十二分に強いので。」

 

「っふ、そうか」

 

ゴールドバーグは笑みを浮かべ、靂の剣を抜く。

 

銃撃のような、雷鳴が響いた。

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