トキワは爆破でぶっ飛び、再生の遅れる体を引きずっていた。剣を発動させっぱなしで走ってここまで来た。眼も血で曇ってあまり見えないが、それでもどうにか立ち上がって、そして、転がり込んだ地下遺跡。
遠くで戦うリンの影を前に、もう一度だけ、無茶を。
そんな彼女に、ツタが迫る。
「……っ、」
どうにか抵抗しようとして、そんなトキワとツタ、両方を諌める影。焔がツタを薙いだ先で、アルテルナが手を振った。
「どけ」
「どかない。もうツタもある程度勝手に動くようになっちゃって、あとはどんどん膨れ上がるだけね」
「……」
「でも、イチムちゃんを狩れれば事態は変わる。……まあ、まだ足りないでしょーけど」
「……」
「んも~、美人の癖に無愛想。までもそんぐらいのほうがモテるのかしら」
「お前は、イチムと意見を異としていたはずだ」
アルテルナとの会話をするつもりはなく、目的は詰問。アルテルナは分かりやすく不貞腐れたふうの顔をした後、ため息。返答を始める。
「つまり敵は同じって言いたいのよね? 残念だけど、そうじゃない」
「では、リンを倒すか」
「それもしない。アタシがするのは、無粋なお邪魔者の排除。……王たちの決闘は、邪魔してはいけない」
「このまま草に飲み込まれるとしても、それでいいのか。貴様の言った、ガーデナーへの返還には、不都合だ」
「ツンとした顔しといてあんた意外と話聞いてんのね。……そうねえ、ま、アタシもちょっとどうかと思うし。王への諫言は道化師の仕事ってことで」
ピエロを意識してか、ベロを出しておどけるふり。……とにかく、避けられない戦いであることを理解し、トキワは鞘で殴りかかった。
「んまあ乱暴!」
アルテルナはそれを簡単にいなし、焔を放つ。それを喰らいつつも下がらず二撃目。今度はかわされ、しかしアルテルナの反撃もかわす。
一進一退に見える状況だが、トキワは剣を抜き、すぐしまうという形で負担を背負い続けている。
「っぐ、う…………!」
「あのねえ、ただでさえボロボロなのに、避けるために瞬の剣いちいち抜いてちゃあんた持たないわよォ?」
「ぅ、ッフゥ……」
「ほら、すぐやられちゃう。アタシってばいっぱい寝て元気満タンなのよ」
蹴っ飛ばし、そして膝をついたまま立てないトキワを前に剣を振り上げ。
その瞬間に、天井がぶっ壊れる爆音。振り返った彼を襲ったのは、すさまじい渦のような衝撃波の突き。……それ自体は大したものではないが、血みどろでなお輝くその眼に感じた気迫こそ、アルテルナがたじろいだ理由。
「っぶなァい!」
「……お助け、いたし……ますわ」
「嬉しいが、まだ私の方がまともな負傷状況に見える」
「その、剣……脳みそが、ぶっ飛んじまうん……でしょう? わたくしは、外側だけです、から。」
左腕から先はなく、右脚も膝から下は程よいサイズの瓦礫で補い、髪の毛はほどけ切った長髪。それでも美しいのが、ローゼ・ラ・グレッグス。
たまたまカトレアの近くに肉片が吹っ飛んだとか、体の全力の再生がツタの浸食を阻んだとか、他にも状況が重なって……ではあるが。
だが、最後、最後に眠りを振り切って立ち上がらせたのは、彼女の精神に通る、一本の筋であった。
「……行きましょう」
「ああ」
喉もだんだんと再生して来た。ようやく右目が開き、内臓もどうにか腹部に収まった。絶対に離さなかった貫の剣はなかば手とくっついている。
眼と鼻と、それとついでに耳と口、血がとめどなくこぼれ全身の骨がきしむ。内臓が悲鳴を上げてなお、しかし剣を鞘から抜くのはためらわない。
最強と最強は、目の前の敵を見据える。
「……あっは、あはははは! それでこそってもんよォ!!」
アルテルナが炎を放ち、もうローゼはかわさない。出血を止めるちょうどいい機会とばかりに、髪ごと肌を焦げ付かせながら突きを繰り出す。
反撃の蹴りを瓦礫の脚で止め、その隙にすでに眼前に居るトキワが頭突きを叩き込む。負担など気にしないが、それでも今は一秒でも長く継戦。
「っぐ、いっだいわねェ!!」
「……っ!」
放たれる炎をかわし、純粋な斬撃は二人揃って弾き返し。しかし反撃もアルテルナには届かない。
とはいえ、二人はそもそも限界に限りなく近い。こうして戦えているのも根性だが、それでも万全のアルテルナに迫るからには『最強』である。
「そこォ!!」
「っづぁぁ!! この……!!」
全身を一気に炎に包まれるが、それでもローゼは耐える。突きの手は止めず、アルテルナの肩を引き裂いた。
「やるじゃないのよ……!」
「そちらも!」
そしてアルテルナの蹴りをかわす形で距離を置き、瞬間、その隙間に顔を血みどろにしたトキワが割り込む。
「ああもう、無茶を!!」
「っはぁ!!」
鞘で殴りつけ、姿勢が崩れた瞬間を眼の剣で狙い。それを剣で斬り上げられれば、一瞬でふっと姿を消し。
そこには構えたローゼがいる。
「連携……! あんたたちが組んで訓練して、一体何倒す気だったてのよ!」
「知らない。だが、今役に立っている」
「常に上を……目指し続けるから、わたくしたちは最強!」
「あっそ、カッコよくて結構!」
離れた突きを防ぎつつ今度は押し切る。姿勢を崩しそのまま後ずさった彼を前に、トキワ、再接近。放った蹴りを防がれつつ、そんなトキワを踏み台にジャンプ。
瓦礫の脚で踵落としを放ち、アルテルナの頭にぶち当てる。
「んの……!!」
「っはぁ!」
瓦礫も崩れ、片足がないまままともに戦うなどできるはずがないが、それは普通なら。ローゼはそのまま重心を傾け、貫の剣はアルテルナをぶちぬいた。
「タダでやられるかってのよ!」
「……っ!」
そんなローゼを貫かれたまま固定。一気に炎を放ち、二人揃って豪炎に包まれ。
「い、まです……わっ!!!」
「わかった」
そして、トキワが瞬の剣を抜く。
もう目や耳には頼らない。風が吹かない地下の屋内で、頼れるのは「さっきの視界」と「さっきの声」。しっかり押さえつけてくれるだろうというのは、ローゼに対する信頼でもあり、アルテルナへの評価でもある。
とにかく、放った瞬の剣は、二人をもろとも斬り払った。
「任せ、ました…………」
「
ツタに飲み込まれるふたりから離れ、すれ違いに刻まれた焔の剣の傷からじりじりと火が上がる。ふらついたトキワは、炎と争い遺跡を崩していくツタたちを背に歩く。
「っぐ……あ、あああ…………!!!」
もう焦げていくことだけを運命と受け入れる。そんなわけもなくトキワは歩みを止めず、そして水をかぶせられて、ようやく火は収まった。
「隊長、だいじょぶ?」
海の剣を抱え、水色の髪を揺らして覗き込む影。
「パトリシア……」
「崩落がひどくて、すぐにリンと合流はできないよね。ジーリオ団長の方に行かなきゃ」
トキワはうなずいて応えると、おもむろに。
「パトリシア、頭を寄せろ」
「え?」
「偉いから、撫でてやる」
「あはは! それはジーリオ団長と一緒にね。絶対勝とう」
肩を貸した彼女に、半ば引きずられるようにトキワはまた歩き始める。
録の剣が光り、どんどんと編成が成されていく。人を見る目のリン・アゾットはそれも手当たり次第ではない。
___フーシェ・テーナー(軍服)
___ヤン・ユウロン(メイド)
いつだったかの式典でしていた格好だとか、悪ふざけで着せられた格好だとか。そんな姿で呼び出すこと自体は悪ふざけではなく、その時に取った戦法の記録を参照するから。
しかしチーパオのコルニカが落とされ、そのまま陣形が崩れ……流石に、リンも脳が疲弊して来ている。
「限界があるよ!」
「だったらそれなりの対応を取る!」
憑の剣がイチムを防ぎ、蹴りで転がる幻影を飛び越え飛の剣が迫る。それを、左腕でガード。肉を切らせて骨を断つ形で、飛の剣を気にたたきつけてブチ折る。
偽物ゆえ、実際の剣ほどの耐久はない。蹴りかかるフーシェとアドーネをかわし、同士討ちを狙い。迫るローゼは回避して無視。本人のような判断力はないのだから。
___クワコ・ユリシーズ
……なら、副官を用意すればいい。ソルツの剣士たちがわらわらと迫り、それを眺めながら、幻影のクワコは指示を続ける。さらに、彼女の戦いを見た時を思い出し、コンビネーションにも思いを馳せる。
___リナリア・リーベ(制服)
焦の剣を構え、騎士団制服を風に揺らしながら一気に迫り。クワコをもってしても「ただ暴れろ」と指示される駒。それがリナリア。誰を想っての奮闘だとかそんなことは反映されないが、しかし見て来たリンだから本物に迫る気迫はある。
彼は、諦めない者たちをずっと見て来たのだ。
「諦められなくて苦しむ人もいた、他者を傷つけてしまう人もいた。それでも、本当にやりたいことを見極めて、そのために一番の方法をみんな探してきてる! あんたは胸を張って、『彼女』とやらの前に立てるのか!」
「……っ、立ってみせるさ! 僕は、私自身を納得させなければいけない!!」
そして、イチムの脳裏にはジーリオが現れる。瞬間、彼は駆け出す!
「うおおおおお!!!」
「っ、リナリア、ローゼ隊長!」
指示した二人が立ちはだかるが、その身を引き裂かれてもイチムは駆け抜け、そして幻影をツタで叩き壊し。跳びあがって放った突きを前に、録の剣を構え。
だが、リンはいきなりふらついて膝をついた。録の剣は、答えない。
「……っ、」
「あまり一気に呼び出して無茶はできないようだね!」
「それでも!!」
迫るイチムに録の剣を放ち、花の剣と激しくぶつかり。着地したイチムの横なぎを防ぎ、迫る斬り上げで剣を吹き飛ばされ、鋭い枝に変えた手刀で貫かれ。
最後はツタと葉と枝と苔に花に全身を覆われていく。
「……っはぁ、あ…………。ふう、けっこう、苦戦しちゃったな。ふふ、凄いよ、君は……」
「それはどうも」
「おかげで、目が覚めたよ、リンくん」
「……。」
「私は、『彼女』から与えられた役割を、私の意思でこなす。諦めなんかじゃなくてね」
「それって、」
「分かってるよ。でもさ、"器"としての生き方ばかりしてきた男なんだよ。……器ぐらい、全うさせて?」
笑った彼は、言葉に反してとても清々しい笑顔であった。
「……でも、僕みたいにならないでね、リンくん」
幻影たちにつけられた傷をかばいながら、彼は歩み始める。まだ"救えていない"者たちが、いくらでも居る。
がちゃり、がちゃり。
手あたり次第薬品を打ち込み、割れたアンプルからも無理矢理流し込み。荒れた息とふらついた足取りで、アビス・アドニスは研究施設跡を漁っていた。
「……お前、アビスか?」
「ぁあ……? っは、ぐ……雑魚に用事はないんです、失せろ…………」
振り向いたその顔は、充血した目と開ききった瞳孔が目立ち、血管がいくらか光始めている。顔をひきつらせたフロフキに、アイリーンはもう行くよと告げる。
「……でも、ただごとじゃねえだろ」
「あんたそんな優しい奴だっけ?」
「知るか。オレはこいつが嫌いだし野垂れ死のうとどうでもいい。……けど、いまからイチムさんに、イチム・リリィズに会うんだ、多少はマトモなことしときたいんだよ」
そう言って近づく彼など気にせず、アビスは薬品を漁る。
「お前一体、」
「邪魔すんなァ!!!」
叫んだその喉からツタがあふれ、それを無理やり引きちぎって、吐き出す。
「あの世界で……あの生ぬるくて気味の悪い世界で……兄様は、どいつにこいつにも愛想ふりまいて、ぼくの知らない連中と、馴れ合わされる!! 違う!! ヒーローは、兄様は!孤独で僕と兄様が一つなんだよ!!!」
「……は? あの世界って、お前、まさか取り込まれた後に、拒めたってのか?」
「反吐が出る……だれがあんな、ばしょに、ご、が、ががが……」
口から出てくるツタが抑えきれず全身を覆い、それでも拒み、腕を出して、腕をツタが取り込み……そして、ツタを腕が取り込み。
手あたり次第、薬品をビンごと取り込んでいき……。その身体がどんどんツタを取り込みながら膨れ上がった。
「ぐ、ご、ぁぁぁああ……」
「おい、おいおい……バカとか、マヌケの言葉で済ませられるかよ……イカれてる!」
「気違いの相手なんてしなくていいでしょ」
踵を返したアイリーンに、振動の刃となった手刀が迫る、
「ご、ぁ……がああ!!」
「……っち、倒さなきゃだめなの? はぁ…………まいいや、アイリの敵じゃないし」
「知能のないバケモンに堕ちたってのは、デカい的になったって事だ。バケモンの頭でも分かるように教えてやる」
悲鳴のような方向をあげた"アビス"を前に、二人は構えた。