手向けにカトレアを   作:さわたり

35 / 44
第十六話「リン・アゾットはあきらめない」(2)

トキワは爆破でぶっ飛び、再生の遅れる体を引きずっていた。剣を発動させっぱなしで走ってここまで来た。眼も血で曇ってあまり見えないが、それでもどうにか立ち上がって、そして、転がり込んだ地下遺跡。

遠くで戦うリンの影を前に、もう一度だけ、無茶を。

 

そんな彼女に、ツタが迫る。

 

「……っ、」

 

どうにか抵抗しようとして、そんなトキワとツタ、両方を諌める影。焔がツタを薙いだ先で、アルテルナが手を振った。

 

「どけ」

 

「どかない。もうツタもある程度勝手に動くようになっちゃって、あとはどんどん膨れ上がるだけね」

 

「……」

 

「でも、イチムちゃんを狩れれば事態は変わる。……まあ、まだ足りないでしょーけど」

 

「……」

 

「んも~、美人の癖に無愛想。までもそんぐらいのほうがモテるのかしら」

 

「お前は、イチムと意見を異としていたはずだ」

 

アルテルナとの会話をするつもりはなく、目的は詰問。アルテルナは分かりやすく不貞腐れたふうの顔をした後、ため息。返答を始める。

 

「つまり敵は同じって言いたいのよね? 残念だけど、そうじゃない」

 

「では、リンを倒すか」

 

「それもしない。アタシがするのは、無粋なお邪魔者の排除。……王たちの決闘は、邪魔してはいけない」

 

「このまま草に飲み込まれるとしても、それでいいのか。貴様の言った、ガーデナーへの返還には、不都合だ」

 

「ツンとした顔しといてあんた意外と話聞いてんのね。……そうねえ、ま、アタシもちょっとどうかと思うし。王への諫言は道化師の仕事ってことで」

 

ピエロを意識してか、ベロを出しておどけるふり。……とにかく、避けられない戦いであることを理解し、トキワは鞘で殴りかかった。

 

「んまあ乱暴!」

 

アルテルナはそれを簡単にいなし、焔を放つ。それを喰らいつつも下がらず二撃目。今度はかわされ、しかしアルテルナの反撃もかわす。

一進一退に見える状況だが、トキワは剣を抜き、すぐしまうという形で負担を背負い続けている。

 

「っぐ、う…………!」

 

「あのねえ、ただでさえボロボロなのに、避けるために瞬の剣いちいち抜いてちゃあんた持たないわよォ?」

 

「ぅ、ッフゥ……」

 

「ほら、すぐやられちゃう。アタシってばいっぱい寝て元気満タンなのよ」

 

蹴っ飛ばし、そして膝をついたまま立てないトキワを前に剣を振り上げ。

 

その瞬間に、天井がぶっ壊れる爆音。振り返った彼を襲ったのは、すさまじい渦のような衝撃波の突き。……それ自体は大したものではないが、血みどろでなお輝くその眼に感じた気迫こそ、アルテルナがたじろいだ理由。

 

「っぶなァい!」

 

「……お助け、いたし……ますわ」

 

「嬉しいが、まだ私の方がまともな負傷状況に見える」

 

「その、剣……脳みそが、ぶっ飛んじまうん……でしょう? わたくしは、外側だけです、から。」

 

左腕から先はなく、右脚も膝から下は程よいサイズの瓦礫で補い、髪の毛はほどけ切った長髪。それでも美しいのが、ローゼ・ラ・グレッグス。

 

たまたまカトレアの近くに肉片が吹っ飛んだとか、体の全力の再生がツタの浸食を阻んだとか、他にも状況が重なって……ではあるが。

だが、最後、最後に眠りを振り切って立ち上がらせたのは、彼女の精神に通る、一本の筋であった。

 

「……行きましょう」

 

「ああ」

 

喉もだんだんと再生して来た。ようやく右目が開き、内臓もどうにか腹部に収まった。絶対に離さなかった貫の剣はなかば手とくっついている。

 

眼と鼻と、それとついでに耳と口、血がとめどなくこぼれ全身の骨がきしむ。内臓が悲鳴を上げてなお、しかし剣を鞘から抜くのはためらわない。

 

最強と最強は、目の前の敵を見据える。

 

「……あっは、あはははは! それでこそってもんよォ!!」

 

アルテルナが炎を放ち、もうローゼはかわさない。出血を止めるちょうどいい機会とばかりに、髪ごと肌を焦げ付かせながら突きを繰り出す。

反撃の蹴りを瓦礫の脚で止め、その隙にすでに眼前に居るトキワが頭突きを叩き込む。負担など気にしないが、それでも今は一秒でも長く継戦。

 

「っぐ、いっだいわねェ!!」

 

「……っ!」

 

放たれる炎をかわし、純粋な斬撃は二人揃って弾き返し。しかし反撃もアルテルナには届かない。

とはいえ、二人はそもそも限界に限りなく近い。こうして戦えているのも根性だが、それでも万全のアルテルナに迫るからには『最強』である。

 

「そこォ!!」

 

「っづぁぁ!! この……!!」

 

全身を一気に炎に包まれるが、それでもローゼは耐える。突きの手は止めず、アルテルナの肩を引き裂いた。

 

「やるじゃないのよ……!」

 

「そちらも!」

 

そしてアルテルナの蹴りをかわす形で距離を置き、瞬間、その隙間に顔を血みどろにしたトキワが割り込む。

 

「ああもう、無茶を!!」

 

「っはぁ!!」

 

鞘で殴りつけ、姿勢が崩れた瞬間を眼の剣で狙い。それを剣で斬り上げられれば、一瞬でふっと姿を消し。

そこには構えたローゼがいる。

 

「連携……! あんたたちが組んで訓練して、一体何倒す気だったてのよ!」

 

「知らない。だが、今役に立っている」

 

「常に上を……目指し続けるから、わたくしたちは最強!」

 

「あっそ、カッコよくて結構!」

 

離れた突きを防ぎつつ今度は押し切る。姿勢を崩しそのまま後ずさった彼を前に、トキワ、再接近。放った蹴りを防がれつつ、そんなトキワを踏み台にジャンプ。

瓦礫の脚で踵落としを放ち、アルテルナの頭にぶち当てる。

 

「んの……!!」

 

「っはぁ!」

 

瓦礫も崩れ、片足がないまままともに戦うなどできるはずがないが、それは普通なら。ローゼはそのまま重心を傾け、貫の剣はアルテルナをぶちぬいた。

 

「タダでやられるかってのよ!」

 

「……っ!」

 

そんなローゼを貫かれたまま固定。一気に炎を放ち、二人揃って豪炎に包まれ。

 

「い、まです……わっ!!!」

 

「わかった」

 

そして、トキワが瞬の剣を抜く。

もう目や耳には頼らない。風が吹かない地下の屋内で、頼れるのは「さっきの視界」と「さっきの声」。しっかり押さえつけてくれるだろうというのは、ローゼに対する信頼でもあり、アルテルナへの評価でもある。

 

とにかく、放った瞬の剣は、二人をもろとも斬り払った。

 

「任せ、ました…………」

 

我が王(マイロード)の、邪魔はさせない……」

 

ツタに飲み込まれるふたりから離れ、すれ違いに刻まれた焔の剣の傷からじりじりと火が上がる。ふらついたトキワは、炎と争い遺跡を崩していくツタたちを背に歩く。

 

「っぐ……あ、あああ…………!!!」

 

もう焦げていくことだけを運命と受け入れる。そんなわけもなくトキワは歩みを止めず、そして水をかぶせられて、ようやく火は収まった。

 

「隊長、だいじょぶ?」

 

海の剣を抱え、水色の髪を揺らして覗き込む影。

 

「パトリシア……」

 

「崩落がひどくて、すぐにリンと合流はできないよね。ジーリオ団長の方に行かなきゃ」

 

トキワはうなずいて応えると、おもむろに。

 

「パトリシア、頭を寄せろ」

 

「え?」

 

「偉いから、撫でてやる」

 

「あはは! それはジーリオ団長と一緒にね。絶対勝とう」

 

肩を貸した彼女に、半ば引きずられるようにトキワはまた歩き始める。

 

 

 

 

録の剣が光り、どんどんと編成が成されていく。人を見る目のリン・アゾットはそれも手当たり次第ではない。

 

 

___フーシェ・テーナー(軍服)

 

 

___ヤン・ユウロン(メイド)

 

 

いつだったかの式典でしていた格好だとか、悪ふざけで着せられた格好だとか。そんな姿で呼び出すこと自体は悪ふざけではなく、その時に取った戦法の記録を参照するから。

しかしチーパオのコルニカが落とされ、そのまま陣形が崩れ……流石に、リンも脳が疲弊して来ている。

 

「限界があるよ!」

 

「だったらそれなりの対応を取る!」

 

憑の剣がイチムを防ぎ、蹴りで転がる幻影を飛び越え飛の剣が迫る。それを、左腕でガード。肉を切らせて骨を断つ形で、飛の剣を気にたたきつけてブチ折る。

偽物ゆえ、実際の剣ほどの耐久はない。蹴りかかるフーシェとアドーネをかわし、同士討ちを狙い。迫るローゼは回避して無視。本人のような判断力はないのだから。

 

 

 

___クワコ・ユリシーズ

 

 

 

……なら、副官を用意すればいい。ソルツの剣士たちがわらわらと迫り、それを眺めながら、幻影のクワコは指示を続ける。さらに、彼女の戦いを見た時を思い出し、コンビネーションにも思いを馳せる。

 

 

 

___リナリア・リーベ(制服)

 

 

 

焦の剣を構え、騎士団制服を風に揺らしながら一気に迫り。クワコをもってしても「ただ暴れろ」と指示される駒。それがリナリア。誰を想っての奮闘だとかそんなことは反映されないが、しかし見て来たリンだから本物に迫る気迫はある。

彼は、諦めない者たちをずっと見て来たのだ。

 

「諦められなくて苦しむ人もいた、他者を傷つけてしまう人もいた。それでも、本当にやりたいことを見極めて、そのために一番の方法をみんな探してきてる! あんたは胸を張って、『彼女』とやらの前に立てるのか!」

 

「……っ、立ってみせるさ! 僕は、私自身を納得させなければいけない!!」

 

そして、イチムの脳裏にはジーリオが現れる。瞬間、彼は駆け出す!

 

「うおおおおお!!!」

 

「っ、リナリア、ローゼ隊長!」

 

指示した二人が立ちはだかるが、その身を引き裂かれてもイチムは駆け抜け、そして幻影をツタで叩き壊し。跳びあがって放った突きを前に、録の剣を構え。

だが、リンはいきなりふらついて膝をついた。録の剣は、答えない。

 

「……っ、」

 

「あまり一気に呼び出して無茶はできないようだね!」

 

「それでも!!」

 

迫るイチムに録の剣を放ち、花の剣と激しくぶつかり。着地したイチムの横なぎを防ぎ、迫る斬り上げで剣を吹き飛ばされ、鋭い枝に変えた手刀で貫かれ。

最後はツタと葉と枝と苔に花に全身を覆われていく。

 

「……っはぁ、あ…………。ふう、けっこう、苦戦しちゃったな。ふふ、凄いよ、君は……」

 

「それはどうも」

 

「おかげで、目が覚めたよ、リンくん」

 

「……。」

 

「私は、『彼女』から与えられた役割を、私の意思でこなす。諦めなんかじゃなくてね」

 

「それって、」

 

「分かってるよ。でもさ、"器"としての生き方ばかりしてきた男なんだよ。……器ぐらい、全うさせて?」

 

笑った彼は、言葉に反してとても清々しい笑顔であった。

 

「……でも、僕みたいにならないでね、リンくん」

 

幻影たちにつけられた傷をかばいながら、彼は歩み始める。まだ"救えていない"者たちが、いくらでも居る。

 

 

 

 

がちゃり、がちゃり。

 

手あたり次第薬品を打ち込み、割れたアンプルからも無理矢理流し込み。荒れた息とふらついた足取りで、アビス・アドニスは研究施設跡を漁っていた。

 

「……お前、アビスか?」

 

「ぁあ……? っは、ぐ……雑魚に用事はないんです、失せろ…………」

 

振り向いたその顔は、充血した目と開ききった瞳孔が目立ち、血管がいくらか光始めている。顔をひきつらせたフロフキに、アイリーンはもう行くよと告げる。

 

「……でも、ただごとじゃねえだろ」

 

「あんたそんな優しい奴だっけ?」

 

「知るか。オレはこいつが嫌いだし野垂れ死のうとどうでもいい。……けど、いまからイチムさんに、イチム・リリィズに会うんだ、多少はマトモなことしときたいんだよ」

 

そう言って近づく彼など気にせず、アビスは薬品を漁る。

 

「お前一体、」

 

「邪魔すんなァ!!!」

 

叫んだその喉からツタがあふれ、それを無理やり引きちぎって、吐き出す。

 

「あの世界で……あの生ぬるくて気味の悪い世界で……兄様は、どいつにこいつにも愛想ふりまいて、ぼくの知らない連中と、馴れ合わされる!! 違う!! ヒーローは、兄様は!孤独で僕と兄様が一つなんだよ!!!」

 

「……は? あの世界って、お前、まさか取り込まれた後に、拒めたってのか?」

 

「反吐が出る……だれがあんな、ばしょに、ご、が、ががが……」

 

口から出てくるツタが抑えきれず全身を覆い、それでも拒み、腕を出して、腕をツタが取り込み……そして、ツタを腕が取り込み。

手あたり次第、薬品をビンごと取り込んでいき……。その身体がどんどんツタを取り込みながら膨れ上がった。

 

「ぐ、ご、ぁぁぁああ……」

 

「おい、おいおい……バカとか、マヌケの言葉で済ませられるかよ……イカれてる!」

 

「気違いの相手なんてしなくていいでしょ」

 

踵を返したアイリーンに、振動の刃となった手刀が迫る、

 

「ご、ぁ……がああ!!」

 

「……っち、倒さなきゃだめなの? はぁ…………まいいや、アイリの敵じゃないし」

 

「知能のないバケモンに堕ちたってのは、デカい的になったって事だ。バケモンの頭でも分かるように教えてやる」

 

悲鳴のような方向をあげた"アビス"を前に、二人は構えた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。