『彼女』は本格的に、イチムに力を貸すようだ。吸い上げたカトレアのエネルギーを使い、草の巨人は下半身を持ち、今度こそ力でねじ伏せるという手段をとる。
だが、リンの与えた傷と稼いだ時間もあって、彼ら……騎士団の「なんでも屋」が、準備をするだけの時間を与えた。その手段は、巨大機械。
「サクヤさん号! 発進!」
「隊長殿号! 行くぞ!」
「あのな、こいつには正式名称が……まあ、覚えていないけど」
人の名前とか顔とか以前に、そもそもこの巨大機械の名前がなんであろうとどうでもいい。ともあれ、なんでも屋は操縦屋もこなす。サクヤがレバーを押し込んだのに合わせ機械は巨人へと掴みかかった。
『あはは! 私と戦いたいのかい?』
「一切違うと言えば嘘になるけどね……イチム・リリィズ」
巨人はその手に剣を出現させ、機械も対応する。両手に出現した双剣は、ワカバの裁の剣からエネルギーを引っ張った一振り。
そのものほどの効果はないが、クリーンヒットを当てれば巨人の動きが一部縛られる。瞬間、機械は狼のような姿勢を取って掴みかかる。
「隊長殿に!」
「サクヤさんに!」
「「名前を覚えてもらっている!!!」」
ふたりの気迫そのままの突進に怯みそして召喚される魚はエネルギーをまとって肥大化。巨人を切り刻んでいく。メインの駆動を制御するサクヤの腕か、巨人の反撃をもらうことはない。
「なんだっけ、あの解体部隊長。彼女。……機械戦を習っておいてよかったよ」
「コルニカ・ナイトロナ殿ですな。そして曰く! ガーっと行ってズバッとやれとかなんとか!」
「それユウロンは分かったの?」
「もちろん!」
言葉通りと言ってはなんだが、今一度一気に攻め込み、巨人の拳は「体で受ける」という選択。噛みつきはできないが、その手で引っ掻くような斬撃は放てる。おおきく姿勢を崩させ、そのまま双剣でぶった切り。
上半身だけになった巨人は、大きく口を開いた。ツタを這わせ機械を拘束すると、その口の中にカトレアの花が咲く。光を集め、そして。
「サクヤさんだけでも!!」
「分かっているとも!」
「……まさか、」
放たれた巨大光線は、巨人の体自身も耐えきれず朽ちていく。言うまでもなく、機械も爆炎を上げ……そしてツタがその残骸を覆う。
操縦席から放り出されたサクヤ、彼をキャッチしたのは、ほかでもなくラヴィニアであった。
「げ……なんだって、お前の顔をこんな状況で見なきゃならないんだ」
「助けた方が良いからね。一緒に戦ってもらいたい」
「せっかくならそっちのレディに助けてもらう方が良かったが」
言われたパトリシアはくすくすと笑いつつも、巨人から零れ落ちてくるイチムから目は離さない。立たされたサクヤはヤナギの複雑そうな表情を気に留めず、構え。
トキワの合図に応え、一気に5人が迫った。
「……そう簡単にはいかない。相手は私じゃない、『彼女』だから」
イチムが花の剣を掲げると、大地から枝と草が這い、巨大な手を成す。また、ツタたちが槍のようにとがって一行へと襲い掛かる。
まずパトリシアのもとに集い、彼女は突きを受け止め。ラヴィニアがそれを引き裂き。きまぐれに、魚たちがツタを迎撃していく。
「っは……!」
そして、トキワが一瞬のうちにまわりこみ、斬撃。これを花の盾が防ぐと、迫るラヴィニアへ回し蹴りで応えて。受け身を取りつつ姿勢を立て直す彼を踏み台にサクヤが飛び掛かり、突きに応え魚たちがイチムへ迫る。
高揚が伝わってか、その姿はいつもの金魚とは違い、ダツのような攻撃的なそれへ。
「そう来る……!」
「畳みかけるよ」
「は、はい……!」
今一度ラヴィニアとヤナギが構え、まず涙の剣の斬り払い。一瞬で植物をドロドロに溶かし、それを少し後方から海の剣が流し。切り開いた道を楔の剣が突き進む。
「さすが!」
「そうだね、あなたは強いし、評価されて嫌なことはないけれど」
花の剣と斬り結び、左肩につけてやった楔の傷を蹴り込んでさらに追い込み。その傷が一層深くなれば、距離を取る。攻め込み過ぎると手痛い反撃を喰らうのは、彼の後ろでうごめく草たちを見れば分かるというもの。
だが5人を同時に相手取ってなお健在。それどころか、ヤナギは攻め込まれつつある。一人ずつ落とす気である。
「うぁあああ!!」
だが、やはりナナカマド、ジーリオの懐刀。迫る草たちを斬り払い、そして溶かし……。それでも抑えきれないのは、『彼女』が味方する花の剣の力か。顎をぶん殴って、駆け寄るトキワには根っこで邪魔をして時間稼ぎ。一気に壁を作り、邪魔者無しで撃破を狙う。
「危ないよ、ヤナギくん」
「危ないのはそっちだと!」
「そうかもな。だけど僕はやるよ」
そこに、無理矢理突っ込んできたのはラヴィニアである。
楔の剣で根を叩き割って、そして眼の剣をぶん投げてヤナギを救助。割って入ったサクヤがイチムの斬撃を止めるが、しかしラヴィニアを貫くツタは止められない。
「っぐ……!」
「そんな……!!! なんで」
「僕、と違って……君の、剣の特殊な、力は……重要、だから」
淡々と語りながら草へと埋もれていき、投げ放った楔の剣が、イチムの頬をかすめる。
ヤナギは、震えた手で剣を握る。
「よくもおおおおお!!!」
「彼も平穏な世界に旅立った……それが器たる私の義務と言う!」
「知るかよ……ッ!!」
怒り任せに振るえば、いきなりぽつぽつと雨が降り始める。……『溶かす』というよりは『液体に変える』涙の剣は、空中の水分子という液体になろうとしている物質を『液体に変える』のだ。
「っはァ!!」
「……っ、」
それは範囲の拡大を意味してもいる。かすめただけで足が溶け、迫る枝たちを払い、払い!
「待て、ヤナギ……誘い込まれている」
「落ち着いて!!」
「喰らえェ!!」
話を聞く耳も持てずがむしゃらに振り、確かにイチムと斬り合うその腕は確か。……だが、気づかぬうちに誘い込まれ、一瞬を狙い、ツタがヤナギを一気に貫く。
それでも無理矢理斬り合い、右腕をかすめ……しかし、涙の剣を花の剣で押さえ、空いた片手を先に使ったのはイチム。貫手が、ヤナギの胸を貫いた。ふらついた瞬間、包み込み、そして苔が覆う……。
「おりゃあ!!」
そこに、パトリシアが迫った。一手遅いが、それなら倒す方へシフトする切り替えは騎士。トキワとサクヤも同時に斬りかかり、イチムの胸を引き裂く。
「花の剣を落とせ、それで勝つ」
「了解……!」
「おっけー!」
「させるものか……! 使命を成し遂げて来たんだ、今度は何も諦めない!」
しかし、追い込まれているのも事実。首をフッ飛ばそうと迫る魚に対応し、そこでトキワの兜割り。木の枝を這わせて防ぐが、やはり次の手は早い。
「だったら……!」
「っ、二人とも離れて!!!」
海の剣を地面に突き刺し、水の壁。対し、イチムは左腕を花に変え、構えた。"カトレア"の持つエネルギーをぶっこんだ、エネルギー放射を開始する!
「このまま、使い切らせる!」
「……迫るか!」
「どうせ、あの機械を倒した残りなんだからさ!」
「だとしても!」
イチムが力を籠め、大地を踏みしめ、同時にパトリシアも応え。……結果は、蒸発で終わる。吹っ飛ばされたパトリシアをツタたちが丁寧に呑み込み、イチムも膝をつき。
それを許さず、サクヤとトキワが斬りかかった。
「このまま倒すぞ」
「そうだね……」
サクヤは、不敵に笑う。魚の剣と眼の剣がぶつかり合うことなく横なぎ、それを身を逸らしかわすが、スライディングで迫ったトキワが間髪入れず斬り上げ。魚もサメのように姿を変え、一気に噛みつく。
「本気と言うわけか……!」
「そうも行かないようだけど……ね!」
全員が全員ボロボロのまま、剣戟は続く。サメをツタで押し返し、しかし瞬きの間にトキワ、接近。放った蹴りを防ぎつつ押し飛ばされ、そこにサクヤがトキワを飛び越え直下へ突き。
イチムの腕が吹っ飛ぶがそれは左腕。その場苔と融合し、爪を伸ばしてサクヤの喉を引き裂いた。
「むちゃくちゃな……!」
「そうでもしないと勝てないからさ……!」
人々と融合し、『彼女』こと『母』も力を増している。植物を操る力は、的確に二人を翻弄し。
「貰ったァ!!」
「っぐ……」
トキワの喉を突き刺すまで至る。だがまた瞬きの間に消え、しかし血の跡でどう移動したか読める。蹴り上げた土で視界を防ぎ、同時に魚を蹴り落し。背中を魚の剣に貫かれるが、そのままジャンプしてトキワの斬り払いを避ける。
「私に迫るっていうのはねぇ、私に押しつぶされるとも言うんだよ!」
「させるか……!」
「いいやさせてもらう!」
ジャンプの勢いのまま倒れ込み、自分にどんどんと剣が突き刺さろうが気にしない。生やした樹などを重みに加え、その背中でもってサクヤを叩き潰した。背中を苔が覆って彼を飲み込み、トキワが迫るより先に上半身を植物に変えて回避。
しかし人に戻って早々ふらつくあたり、もうエネルギー切れも近いらしい。
「そこ……!」
「っ、」
眼前に迫った瞬の剣を、もはや避けられない。だが諦めないというのは目をそらさないという事。切っ先をにらんだイチムの予想に反し、その剣は近づくことはなかった。
「、が……ぅ」
目からどぼどぼと血を流し、続いて鼻、口にもなだれ込み。トキワは、その場で倒れ伏せた。
「……っは、あ…………無理を、し過ぎたね」
左腕を拾い上げ、くっつけて……。再生力も落ちてきている、焦りとともに向き直った彼のもとに、草を踏みしめる音が迫った。
「イチム……」
「……ジーリオ」
彼女は間に合わず倒れた部下たち……言い換えれば、自分の到着までイチムを消耗させ続けた部下へ無念を感じ。
そして、その為に、眼前の男を見据える。
「私と対峙する事、避けていましたね。」
「……。」
「だから、花の巨人などと、面倒な手を使った。剣が鈍りますか?」
「うん。……でも、私には、僕にはやらなきゃいけないことがある。君みたいに誰かを導くなら、諦めるわけにはいかない」
「……そうですか。」
ぼろぼろのふたりは、ゆっくりと歩み始める。放たれる刃たちとツタが空中で激しくぶつかり合い、しかし二人は間合いを見ながらやはり、ゆっくり近づいて。
「だあああああ!!」
「っはああああ!!」
開幕のゴングが鳴るまでもなく、お互いの攻撃開始は同時。
今取れる最善の手は、拳であった。
アビスは理性を捨て、怒りのままに力を振るう。ぶん投げられたアイリーンにフロフキが駆けよれば、彼をうっとおしそうに退けて立ち上がる。
「……どうすんの、こいつ」
「倒すしかない、だろ」
「あっ、そ。」
張った糸を振動をまとった手で引きちぎり、そして影の斬撃を受けても怯まない。だが、それでもフロフキは罠を張ることやめない。
「これで、アビスが戻ってきたとして……どうすんの?」
「さあな……仲良く旅って野郎でもないし…………オレだって願い下げだ」
「じゃあ放置して行く? それってイチムの味方みたいじゃん」
「……あー、そうだな、そういや」
「はァ? 本気で馬鹿になったわけ?」
「あ? じゃ、元は『バカ』じゃなかったわけだ。っけ、なんだかんだでオレの頭脳を信頼してたわけだ」
「うざ……」
物陰で隠れて、フロフキは笑う。
「イチムの作る楽園が……アビスが拒んだ楽園が、どういうものか知りたい。オレは……決めつけてきて、そしてオレを縛って来た。お前もそうだろ」
「……ホントのこと知れっていうの?」
「ま、オレたちは言葉を聞くのが限度だけどな。一回取り込まれるなんて、人間業じゃねーし正気でもねえし」
と、そこで会話はぶった切られる。口から放った超音波が、機械の破片を吹き飛ばし二人を戦場へと引きずり出したのだ。
否が応でも戦うことになり、まず張った糸が再びアビスを捕らえる。
「っぐ、あ…………」
「引きちぎられる前に!」
「分かってる!」
そして組み付いたアイリーンが合の剣を突き立て糸ノコを巻き込む。引きちぎられる前に引っ張り、糸ノコの面目躍如。引っ張られ擦って切断。アビスの背から放たれたのは血ではなく、カトレアと薬品の混ざった溶液、あと樹液が混ざったと思しきどす黒い何か。血はすべて置き換わった。
「あぐああああ!!!」
「ぜんっぜんだめ!」
「それこそわかってんだよ!」
深い傷にならないにせよ、当たっているなら倒す! アビスが正気に戻る保証はないが、だがやる価値はある。糸ノコを張ることを止めず、そしてアイリーンが引っ張る。
ふらついたアビスへ、フロフキが体当たりを入れた。
「そのまま押せ!」
「分かってるって言ってんでしょ!」
「ザコでもわかるように言ってんだ、感謝すんだな!」
「ほんとにバカになったくせに、うっさい!」
アイリーンはアビスから離れつつ土と剣を合わせ、地面から突きあげる刃で誘導しどんどんと押し込み……。
ふらついたアビスが、仕掛けておいた落とし穴へ墜落。……だが、『張っておいた糸でバラバラに』という筋書き通りにはいかない。自重と落下を利用しても、そのツルと枝の表皮が阻む。
「ぐううっぅぅ」
「引きちぎる気かよ……!」
「…………っち、サイアク、なんでアイリがこんなこと!」
毒づきながらも、アイリーンは地面に剣を突き立て。ぶち上げられ、空中に舞った岩は、落とし穴の上を通り過ぎる。
……だが、それで終わらない。アイリーンは空中で剣とその岩を合わせると、その重さを利用し、落下。アイくんを、己を手放すなどあり得ないから、自分もろとも。
「重りになるってのかよ、バカはお前じゃねえか!」
「は、この程度で怖がるザコだったっけぇ?」
「っ、ああ、クッソ!」
脳裏に浮かぶ、「チフキもこうするだろう」がうっとおしい。とにかく、フロフキも重りとなることを選び、地面に伸ばした糸を引っ張り上げることで、押しのけようという算段だ。
「落ちろぉぉぉお!!」
「アツくなって、うっとおしい!!」
「っは、ヒス起こしてるときのお前に比べればマシだろうが!」
「はぁ? っふ、調子乗ってるあんたの方が、ウザかったし……!!」
言い合いながらも、どんどんと押しのけられ。刃がその身に入ってからは早く、どんどんと沈む勢いは止まらない。自分たちの張った糸で、フロフキは脚、アイリーンは腕を片方持って行かれる……が、アビスは見事バラバラに。ガラスや残骸が降り注ぎ、そこから、ゆっくりアビスの破片が身を起こす。
……人間サイズの、アビスだ。だが、もはや体中を巡る植物に飲み込まれつつある。
「っぐ、あ…………」
「おい、お前……」
「失せろ……!」
ふらついた彼は、アイリーンとフロフキに迫ったツタを掴んで。
「唾棄すべきクズどもと、ぬくい一生を送るのは、絶対に嫌だ……御前たちなら、わかるだろ……!!」
「……。」
「イチム・リリィズを、止めろォ!!」
そう言うと、あたりの草を抑え込み、食い合って、最後は、みんなと同じように、眠りの彼方へ。最後の抵抗か、アイリーンとフロフキの足元にだけは、迫ることはなかった。
「……バカが」
「ザコのくせに。……。ま、でも倒さなきゃなんだっけ? はあ」
アイリーンは、片腕でフロフキを抱え上げた。
「おい、なんだよ」
「あんた歩けないじゃん。感謝してよ」
「……っち」
「フン」
抱えられたフロフキは、小さな声を捻り出す。
「…………どうも」
「はぁーい」