手向けにカトレアを   作:さわたり

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最終章 滅び編
第十八話「ヘッジホッグ」(1)


「なぜ、ガーデンの固有種が草食動物しかいないのか、わかる?」

 

イチムの問いを見下ろして、ジーリオは訝しげにシワを寄せる。

 

「『彼女』とその文明を喰い滅ぼし、蘇るためさ」

 

「……まさか、『滅び』が?」

 

「そう。だから生態系を弄り続けてた。そういうことが、できる相手なんだよ」

 

イチムの言葉通り、その日は狂乱の日となった。

 

 

 

 

手向けにカトレアを

 

滅亡編 第十八話

「ヘッジホッグ」

 

 

 

 

まず結論を言うと、北拠点はぼろぼろに破壊された。作戦的な行動ではないので動物どもから逃げることは難しくないが、それを吹き飛ばすために火力兵器を用いた影響が大きい。

 

カムフラージュした前線拠点に野営、という状況下。

まあ狩った動物を活用できるるので補給についてあまり苦労はないが……。

 

「迎撃隊は俺ちゃんの指示に従うように。 状況に応じてリンくんとかオヴィくんの言うことも聞いてね」

 

いつになく真面目なアドーネを先頭に、ぞろぞろと騎士たちが迎撃に向かう。そして、その後ろには黒リボンの男も続く。

己の剣を眺めつつ険しい目つきのアルテルナの両手には、木製の腕輪が嵌め込まれている。

 

「アルテルナ、大丈夫だよね」

 

「あーはいはい命令違反かました瞬間電撃で焦げて炭になるってんでしょ? べつにアタシには裏切る理由ないわよ。ガーデナーに返すっつってる土地ぼろぼろにして何が面白いのよ」

 

彼に同調するように頷く物たちが、その後ろに続く。道化を自称するアルテルナだが、彼のやり方に従う者も多い。

……捕虜を条件付きで使うほど、今は追い込まれているのだ。

 

「じゃ、行こうか」

 

アドーネの指示に応え、騎士たちが進軍を始める。暴れる動物をとにかく狩り、できそうなら追い払い、中央の大木への道を開くことが重要だ。

縦断鉄道はぶっ壊れ、南拠点から向かうことだけができる。ここからは、とにかく歩いて突き進む地獄の行進というわけだ。

 

旅路の一発め、襲いかかってきたのはダングルスクワール。凶暴なリスどもだ。

歯を剥き出し飛び掛かるそれをアルテルナが蹴っ飛ばし、構える。

 

「アドーネちゃ〜ん? 次どうしましょ」

 

「群れで囲んでくるから円形に陣を組んで、南が俺ちゃん、北がアルテルナくん。サリスくんとリンくんは中央、あとは各々で遊撃。じゃ、作戦開始……!」

 

気取った指パッチンを合図に、陣形を組む。リンが全体を俯瞰した報告を行い、逐一アドーネがそれを組んで陣を組み直し。

アルテルナの剣は、植物のことを気遣おうと相変わらず凄まじい面の制圧力を誇る。焼き焦げるスクワールは、他の個体をビビらせるのに大きく寄与し、彼を中心に殲滅が動いていると言える。

 

「オヴィくん発破!」

 

「はい、はい……!」

 

「アルテルナ君はこっちを!」

 

「らっじゃ〜!」

 

とはいえそれを動かすのがアドーネ。オヴィの巻き上げた土に紛れスクワールを絡め取り、ぶん投げ。

何かにぶつかったときにあげる悲鳴も、他の個体を追い払うのに有効だ。

 

「捕獲部隊がこういうことやるのも、なんだか複雑だけどね……!」

 

「でもまあ、仕方ねーっすから!!」

 

捕まえる技術でもって押さえつけ、苦しめずにとどめを刺す行いはなんだかいつもの仕事と矛盾して感じる。

だが暴れるスクワールや拠点を襲った牛……グリーンカトルを見れば、宥めるだとか追い払うのが通じないのは確かだ。サリスは慣れた様子でスクワールを吹っ飛ばしている。

 

ともかく、『滅び』は、生き物の在り方すら好きにできてしまうらしい。

 

「巨獣討伐の方ってどう! 連絡取れたかな、リンくん……!」

 

「通信手がどうにかメッセージは送ってきました。南拠点は人員も十分で防衛できてるみたいです!」

 

「ならいいけど……!」

 

こちらも順調である……が、これは野生の暴走ではあるが計画的な襲撃の側面もある。何をどういじったか定かではないが、カエル型の巨大機械が殴り込んでくる。

 

「なんだってんですか……!!」

 

「どきなさい」

 

素材はガーデン内の植物である。つまり、程度に差はあれど火がつく有機物。アルテルナの焔の剣は有効である。

 

「この子はアタシが食いとめるから、先行ってなさいな!」

 

「リンくん残って! 俺ちゃんたちはこのまま中央部まで群れを追い払うから!」

 

「分かりました!」

 

解体部隊を見送り、残った黒百合騎士やアルテルナに指示を出し……。とはいえ、焔の剣を握るに至った騎士だが機械戦は不慣れらしい。ジリジリと追い込まれる中、突然巨大機械が揺れた。

 

「……今よ」

 

「コルニカ隊長!」

 

「あいっかわらず機械には強そうねえ!!」

 

「強そうじゃ……ない。強いの」

 

彼女のハンドサインに合わせ、チフキが木から飛び降り、その勢いままに伸びてくる鋭い針先……カエルで言うなら舌先を削りきる。

 

「っしゃあ!! 削ってやったぜ!」

 

「ナイス。行けるわねテトラ」

 

「もちのろん!」

 

続いて飛び出したテトラはチフキの腕に飛び乗り、彼の助けで大ジャンプ。そのまま、重力とブースターを使った剛の剣を叩きつけた。

 

「ギ……」

 

「悲鳴あげてる!このままやっちゃお!」

 

「待って、頃合いを見てシザーリィに連絡、を」

 

それを言い切るよりも先に、何かが彼女を叩き折った。一気に視線が向き、その隙に機械は体勢を立て直し飛びかかり。テトラとチフキがどうにか抑える横で、コルニカを襲った巨影がアルテルナに迫る。

 

「1、コルニカ・ナイトロナの排除。2、アルテルナ・オブ・メゲオイデの排除。3、リン・アゾットの排除」

 

「……なんだってのよ!!」

 

踏みしめる四足の巨体はゾウのそれだが、途中から歪に人間の体が生え、右腕は鼻のように妙に長い。その腕のブレードが迫り、アルテルナの反撃は左手に構えたビームシールドが弾いた。

斬りかかる黒百合騎士を簡単に斬って捨てながら、ずしずしと歩み迫る。

 

「まず1つ、僕はアンティゴネ。2つ、君たちを排除する。3つ、今すぐ去った方が統計的に賢明。別に戦いは好きじゃない」

 

「何フザけてんのよ!!」

 

「アルテルナ、防がれる! 潜り込んで」

 

「知ってる!」

 

飛びかかった斬撃は焔と共に繰り出され、当然のように防がれ。アンティゴネの突きはかわしたアルテルナの頬を裂いた。

リンの指示を聞かなかったのは、自分が囮を買って出るためだったらしい。機械を怯ませた隙を見て、潜り込んでいたチフキとテトラが同時に大剣を振りおろす。

 

「2人で来ても、同じ事だよ」

 

ふたりもろとも蹴っ飛ばそうと言うのを、チフキがテトラを抱える形で防護。ふたりぶんの重さで吹っ飛びは幾分かマシだ。

だが、再生力があるとはいえ幼い体にはキツいらしい。チフキのおかげでバラバラにならずに済んだとはいえダウンし、庇う形でチフキが構える。

 

「アルテルナ、君は4手で詰む」

 

「ずいぶん偉そうに語るじゃない!!」

 

「1」

 

まず放たれた蹴りを防ぎ、炎も押し返すと地面を踏んで衝撃を伝える。

 

「俺たちだって居んだぜ!!」

 

「……だったら!」

 

「……2」

 

チフキが放った一撃はシールドを削って散らすが、そこにいてくれるなら突きを当てるだけ。喉元をぶっ刺され、よろめき落ちる。

同時にリンが召喚したレレルのビジョンが襲いかかるが、こちらは体勢を立て直した機械の方が対応。隙を見たアルテルナが飛びかかるも、それを頭突きで吹っ飛ばす。

 

「3。隠れても無駄」

 

草陰や木陰での回復を図るが、アンティゴネは背中から翼……のように、ゾウの耳を広げて地面を踏み鳴らす。振動を聴くレーダーというわけだ。

 

「ダメだアルテルナ来てる!!」

 

「場所わかるっての!?」

 

木もろともリンをぶっ飛ばすと、改めてアルテルナを補足。シールドを装備していたアームが変形し、巨大な手として彼をぶん殴る。

 

「2……」

 

「んのっ!!」

 

ヤケクソの焔はかわされる。……剣術の腕で対抗できる相手ではないのだ。アームは彼を掴み上げ、アンティゴネが剣を構えた。

 

「1。王手だよ」

 

「……王手? それって。…………待って、あんたまさかソフォクレスの……!?」

 

「へえ、僕たちのこと2、3は知っているということかな」

 

彼の抵抗も虚しく、背後からは機械が光線を放ち、代わりにアルテルナを消し飛ばしてやろうとアンティゴネを気遣う。

……無論、下半身がベキベキになろうと、それを防ぐのがコルニカのやることだが。

 

「チフキ、起きなさい……!!」

 

「おう、よっ!!」

 

「テトラは、もう行けるわね……!!!」

 

「はい!!」

 

無理やり身を起こしたチフキが足を削り取り、テトラがぶっ壊して姿勢を崩し、最後にコルニカが機械で放つ渾身のパンチが、カエル型を粉々にぶっ壊した。

 

「シザーリィ、持ち場を離れて、潜んで」

 

『了解しました。』

 

それを最後にぶっ倒れるが、だがコルニカはアルテルナへ視線を送った。何がわかったか言え、と。

 

「ーっ、でなっ。…………ガーデナーよ、こいつら!!」

 

「……なに?」

 

「そう。1つ加えれば、『滅び』の手で、ただの人間を超えたから、そんな単純な存在でないけれど」

 

「『滅び』に操られ……動物とくっつけられた手駒……なんたる侮辱!! アタシは、ガーデナーにこの大地を返したいんだ、『滅び』よ、あんた、こんなことしてタダでおかれると思ってんの!?」

 

「返す? この大地は『滅び』のものだよ、1歩めから!」

 

どこか顔をしかめながら、アンティゴネはアルテルナを叩き斬った。

 

「……2、3の用事を済ませたらアドーネ・アドニスたちを追わなきゃ。ほかの2人……いや、3人も上手くやっててよ」

 

そんな事を呟きながら、アンティゴネはコルニカへと巨体を振り上げた。

 

 

 

 

「アンタ……追われる、わよ」

 

「どうだかね」

 

アルテルナに肩を貸しながら、リンは急ぐ。どうも「回復する敵と戦う」ということに慣れているわけでもないようで、意外とふたりを探し回るようなこともないらしい。

 

「通信機で一応敵の出現は伝えられたよ。中央に向かっての対応は南拠点に任せて……僕らは戻ろう」

 

「そうね、マイロードのご意志のままに」

 

「結局イチムと僕どっちが王なのさ」

 

「どっちもよ」

 

「ゼータクだなあ」

 

呆れ笑うリンをみて、アルテルナも心地よさげに微笑んだ。だが、そんな時間も長く続くわけではない。突如地割れでも起こるのかという衝撃と共に、黒い塊が飛び込んだ。

 

「何をッ!」

 

「……ええと、右、じゃないから、こっちだ」

 

立ち止まった一瞬、それが「人面の黒ヤギ」であることを理解する。ガーデン固有種のもののなかでも、特に大柄な個体。6mほどあるように見えるので、ほぼほぼ巨大機械なんかと同じ気分で相対することになった。

 

「……今の速度で突っ込んでくるのか、次が!」

 

「また融合ガーデナー!?」

 

迫った巨躯を、とっさに召喚したクロエと機械装備のコルニカが防ぎ、消耗する前に消滅させ。空中を舞いつつ姿勢を戻すと、次を構えるその姿を見据える。髪の毛とそのままくっついた白い毛と…………それと、前足ではない、『腕』が目立つ。

遺物を用いた、平べったい木製の義手である。結果的に、六本脚のように見える。

 

「中央行こうとしたの、やめてよかった。……俺の直感って、外れる」

 

「……君もガーデナーか?」

 

「マクベス。ガーデナーは名乗る礼儀を重んじるんだ。……君の名前は?」

 

「リン・アゾット」

 

「アルテルナ・オブ・メゲオイデよ」

 

納得したようにうなずくと、一瞬ためらうようにマクベスの動きが止まる。

 

「君らに構ってる暇はない……と、感じたから、やっぱり、倒すのがいいのかな。俺の直感って外れるし…………」

 

どこか気弱で、うだうだと悩んでいるように見えるが、少し深呼吸をすると、また構えた。そこまでの間に逃げる判断を取ったリンへ、再び迫り、こんどはアームによる拳が叩き込まれた。とっさに召喚したテトラが剛の剣をふかすと、その勢いでリン、アルテルナともども回避。

ふらつきながら、目の前の巨体へ向き直る。避けられても、それは飛び掛かりをかわしただけ。走っての追跡は撒けないと考え、とった手段は迎撃だった。

 

「えっと、どっちに逃げるかな。……ああ、直観だったか、考えだったかよくわかんなくなって来た。俺の直感は外れる……。まいいや、どっち行ってもいいように、するか」

 

ぶつぶつ呟いたのちに放ったのは地面への鋭い踏み込み。振動で姿勢を崩したところにつかみかかり、それをかわし。

……二撃目の前脚蹴り。かわしきれないこれを、割りこんだ影が防いだ。

 

「……サクヤ隊長!?」

 

「君は……あー…………」

 

「評価観察部隊長です。とにかく、今は助かりました!」

 

「そうだね。逃げろ」

 

マクベスのうっとおし気な蹴り上げを、飛び退く形で相殺。両腕で放ったつかみかかりもかわし。呼びかけた剣からは魚が勢いよく放たれた。

 

「俺は今、なんて思ったっけ……本体を潰した方が良いと感じた、気がするから、こっちだ」

 

ガーデナーの技術は、アームの伸びも見事に作り出す。放たれた拳が金魚を押し返し、しかし形を変えて、こんどはダツのように鋭く変わる。

さすがに貫通するのは好ましくないのかそのまま飛び退くと、もう一人を見据えた。

 

「俺はマクベス。ガーデナーは名乗ることを、」

 

言い切るよりも先に、もう一人の騎士こと、トキワ・カシは斬りかかった。それをたたき潰そうと平手を合わせ、かわされて顔面へと蹴りを叩き込まれ……。

反射的な反撃はいい結果にならない。分かっていることだが、反対のことばかりはすさまじい疲弊がある。

 

「だから……戦いは嫌いだ。」

 

理由はどうあれ、ガーデナーは争いたがる者たちではないらしい。

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