手向けにカトレアを   作:さわたり

39 / 44
第十八話「ヘッジホッグ」(2)

前線拠点近くのテントに、重い足音が響いた。迎撃に向かう騎士たちをアンティゴネは簡単に切り伏せていく。どちらかといえば『逃げる』という判断を賢明とした騎士も多い。

前線拠点に入る前に、リンたちもここで補給をしているところであった。飲みかけのスープを飲み干すと、録の剣を向ける。

 

「……僕はアンティゴネ……っと、すでに聞いてるかな、リン・アゾットは。5秒数える、ここで僕に2つに斬り分けられずとも死ぬなら、1秒でも長く生きていた方が、幾億も賢明だと思うけれど」

 

「バカで悪かったね」

 

__メンバー、

 

__チフキ・オブ・ハマダ(民族衣装)

__ユリ

__クワコ・ユリシーズ

__マキナ・ハイドレンジア(水着)

 

__作戦開始

 

幻影たちを召喚し、録の剣へと陣形を吹き込む。まず先にアンティゴネが右腕をくねらせて斬り払い、チフキがそれをガード。そのまま押しのけられつつも足元に迫り、ぶ厚い皮膚をすりおろした。

 

「クワコさん、部下の皆さんはチフキの後を追わせて」

 

露出した弱点を殴る戦法らしい。うっとおしそうに地面を踏み鳴らし、耳でもって背面まで正確な位置把握。

砂を巻き上げユリの視界を防ぎ、マキナが放つ突きをシールドで防ぎ。

とはいえ部下を引き連れるクワコの攻撃には腹立たしく後ずさった。巨体は小回りが利かない。義手でもなくそもそも伸びるブキミな腕だが、それで斬ったところで大した数に入らない。

 

「だったら、指揮官を潰すのが1番だよな……!」

 

「そう来ると思った!」

 

「思われていることぐらい、4度も5度も考えたよ」

 

シールドをクローにしてつかみかかり、それをかわされたら今度はビームガン。前線から距離を置いたことで統率が乱れ、クワコとチフキを簡単に吹き飛ばしてしまう。

とはいえ露出した傷にユリが剣を突き立てれば、夢の剣の力で視界が幻影にぼやけ始める。

 

「でもさ、この程度なら1度きりでも対処はできるよ」

 

ユリの幻影もろとも大地を踏みしめ、再び耳を広げ。把握したリンの位置を徹底し砲撃する。ビームガンの威力は可変であり、今まではそれなりに節約していたらしい。範囲攻撃をする気になったなら、やることはシンプルな破壊。

テントをフッ飛ばし、まだ残っていた補給部隊が逃げまどい。瓦礫や布が散る中、ぼろぼろの担架から起き上がり、包帯と肌着の上に布をまとってアルテルナがのっそりと起き上がる。

落下する器をキャッチし、残るクリームスープを飲み干すと誰に言うでもなく「ごちそうさま」と一言。焔の剣を抜いた。

 

「ったく、寝てらんない」

 

「ケガ、大丈夫なの?」

 

「ま、どーにかなるわよ。それに、こっからは道化のお仕事」

 

「道化って実力行使するかな……」

 

「アタシはやっちゃうピエロ」

 

駆け出し、光線の中を潜り抜け、まずはマキナの幻影を向かわせる。診の剣の情報がホログラムとして表示され、ガーデナー文字混じりだがアルテルナは多少読める。巨体を駆け上がり、最も熱に弱い部位、頭部へと火炎を放つ。

 

「思う? 1つも対策してないと! 君のやり方は単純だ、10手先は読める!」

 

「じゃ、自分の負けまで見えちゃってカワイソォ~!」

 

アルテルナの言葉に付き合う暇はないと、その身体をぶん回し、振り落とそうとする。だが眼の剣をどうにかブッ刺し、その姿勢を保ち続ける。

リンもそれに応え、こんどはソウジを呼びだし、鋭の剣をぶん回す。大ぶりな攻撃は簡単にガードされるが、多少気を引く効果はあった。アルテルナは背中の産毛をたどり、火炎を髪に放つことができたのだ。

 

「っぐ、あ……!!」

 

相手もカトレアを食っているようだが、その再生で簡単につぶされるような焔ではない。暴れながら、二人を蹴っ飛ばし、さらに背中に背負っていた機械が展開し始める。

 

「だったら、16連ミサイル! 君たち2人に使う事は不本意だけど、僕なりの敬意だと思ってもらおうか」

 

「ねえロードこれ防げる!?」

 

「ロード呼びやめてってば!」

 

呼びだしたパトリシアが水の壁を作り出すが、本物の持つ技術や能力にはどれも及ばない。水の膜を抜け、衝撃が二人を襲った。

……主に、アルテルナだが。

 

「アルテルナ!」

 

「王を、守るのが仕事よ……!」

 

傷の残る体には厳しい一撃だが、それでも立とうとする。そして、放たれる第二陣。リンもリソースに限りがある。パトリシアの幻影が消え、彼がふらついて。

そんなとき、ミサイルの遺す軌道がぴたりと消える。遅れて空中で爆風を上げると、ツタが縮み、刃が戻り。……刃の剣と花の剣を構え、二人は目を見合わせた。

 

「私だけでどうにかなる。彼らが追い詰めてくれたおかげで。ジーリオは先に行って」

 

「わかりました」

 

駆け抜けた彼女をミサイルが追うが、一瞥もせず刃が跳ね返し。そんなことにかまけていれば。眼前にまで植物が迫る。

 

「『母』の……『アリス』の力をォ! 2人そろって、好き勝手に扱う!」

 

「『彼女』の名はアリス……そうか、それを教えてくれたことはなかった」

 

放たれたミサイルをすべて絡めとり、アンティゴネへ叩きつけ。イチムは悠々と迫る。

 

「これから私は、攻撃に専念するから。リンくん、場所、教えてね」

 

「……! わかった! 後方まばらに13、前方仰角45度で放射状に3発来る! まず面で防御して!」

 

「ありがとう!」

 

「今!」

 

背面へ網状にツタを張ると、それがリンの合図でせばまりミサイルを挟み込む。全てをアンティゴネへ叩きつけながら、ツタによる突きは止まらない。シールドで防ぎつつも肩や脚はぶち抜かれ、そして。

 

「アルテルナ、燃やして」

 

「イェスマイロード!」

 

火炎がツタをたどって駆け上がり、アンティゴネの全身を燃やし始める。

 

「ぐ、ぐぅうううう!! 3、人程度に、この……僕がッ!」

 

「残念だけど」

 

最後に、伸びた枝がアンティゴネをぶち抜き、絡めとり、ぎちぎちに縛り上げる。カトレア摂取者の撃破は「拘束」が基本である。

 

「……倒せたね。立てる?」

 

ゆっくりかぶりを振る二人を見て、イチムは微笑んだ。

 

「じゃあ、私が頑張って来ようかな。衛生騎士!戻ってきてるよね! 二人の治療を!」

 

元団長候補だけあってか声が通る。駆け寄った騎士たちに治療される二人を見送り、イチムは駆け出した。

 

 

 

 

戦いの中で迫られる判断は、「直観の逆」だからストレスがすさまじい。首元を前脚でボリボリかきながら、マクベスは二人を見据えた。

とはいえ、武装を使いこなすアンティゴネと違って、シンプルに「強い」「速い」「長リーチ」であり、騎士視点では突けるような隙もどんどんなくなってきている。

 

「どうする、トキワ隊長」

 

「素早いが、行動は直線的だ。疲弊を狙う」

 

「そうだな」

 

ふたりのとった決断はとにかく避け続けることだ。とにかく質量が凄まじく、トキワほどの速さではないがスピードもある。

殴りつけて地面に巻き起こる砂嵐はマクベスの反射的感性によるもので、どちらかといえば彼自身の視界を悪くした。

 

「どこに行った?……あー、やっぱり俺の直感っ全部最悪だ」

 

とはいえ、方角については分かりやすく逆を行けばいい。蹴り込んだ木の裏にサクヤがおり、彼はぶっ壊されたそこから素早く退避する。

緑髪のほうをどうにかせねば。そんな意識を持ちつつ、今はとにかくサクヤを追い詰めることに専念する。

掴んだと思ったら身代わりに出てきた魚。マクベスは今一度サクヤを見失った。

 

「ここだ」

 

「……逃げるのか? どうする、追わない方がいいって……構わずアリスの方の様子を見に行くべきと感じる…………」

 

マクベスは、姿を見せたトキワの方へ迫る。トキワがどうにかよじ登った岩肌を、ヤギらしく軽く登り崖上へ。

その腕を伸ばし、瞬の剣の力でかわされ。潜り込んでからは蹴りをかわされ、傷をつけられている。致命的ではないが、さすがに鬱陶しげに地面を踏み鳴らし。

 

「っぐ……!」

 

「当たった。俺あんたすっごい嫌っていうか怖いんだけどさ、でもあれだよな……考えたら、うん、高速移動、多用できないだろ」

 

蹴っ飛ばされただけで内臓がめちゃくちゃになっている気がする。こうなるならもっと躊躇わず抜刀するべきだとも考えたが、そのせいで追い詰められたことも思い出す。

トキワは、とにかく立ち上がった。同時にサクヤも登り終えたようで、魚の剣を構える。面倒げにマクベスは後方へ視線を送った。

 

「理性で戦う相手だ。判断がつかなくなるまで駆り立てる」

 

「そうだね」

 

「……だから、嫌なんだよ」

 

スタートを切ったふたりを踏み潰そうと前脚をあげ、ついでに大きく踏み締めて地面を揺らす。だが意に介さずふたりは脚の間を抜けた。

 

「今日ばっかりは出ずっぱりで悪いけど、頼むよ」

 

レディへのお願いと同じ穏やかな口調で囁けば、魚の剣が再び応えた。ベタのようないつも通りの姿で翻弄し、サクヤ、そしてトキワと同時に動き回れば、攪乱作戦が始まる。

地面を踏みしめてまとめて潰したいので、逆をやってまずトキワ……いや、サクヤをぶん殴る。喰らったサクヤだが、巨獣の相手もある程度やっているので受け身は取れる。剣をはじいて合図を送れば、魚はそれに応え鋭い尾ひれでマクベスの背を引きずった。

 

「めんどくさい……なあ…………。」

 

ためいきをつきながら目を回し、もういいからと、地面を踏みしめ。ハチャメチャに蹴り上げ。ブチあたったトキワが血を吐き、そして離脱。崖から離れる形で、ついでにサクヤを引っ張り距離を置いた。

 

「……えっと、」

 

そして次の判断を下そうとしたとき。……直観の反対が頼りなわけだが、知覚できることでこそ直感は構築される。『滅び』による改造と洗脳でいくらか知覚力は上がったが、がけ崩れからは逃れられなかった。

とっさに岩肌を掴むと、そこごと崩れ……まとめてトキワとサクヤが転げ落ちた。

 

「……ぐ、う」

 

「いいのか、魚を、クッションにして。機嫌を取らなくてはいけないと、言っていた気がするが」

 

「たまに、こういうマズい時は進んでそんな役をやってくれるのさ。ありがとう」

 

エイのようになった魚を撫でてやると、眼前のマクベスを見上げる。重い体を持ち上げ、崩落にあっても立ち上がれるだけの強靭な体。再び、攪乱を行おうと。

そう考えるより先に。トキワが吹っ飛び岩壁へと叩きつけられた。……ほっといて『アリス』のもとへ向かうことこそ賢明であると感じたが、その理性より先に、本能が拳を放つ。

 

「……。」

 

「っぐ!」

 

直感に反するならトキワの追撃だが、もう目の前のサクヤの排除こそ先決であった。長期的・作戦的な視点ではともかく、この瞬間、追い詰められた本能とヤギの持てる靭力すべてをぶち込んだ高速の重量が二人を襲った。

 

「立てるか、トキワ隊長」

 

「当然だ」

 

それで怯む二人ではないが、しかしマクベスは速い。巻き起こった砂埃に構わず、思考の一切をかなぐり捨てた蹴りを放った。

瞬の剣を抜き、かわしつつサクヤを蹴っ飛ばし軌道から逸らし。風圧で肌が引き裂かれながらも、構え、しかし地面を蹴った振動に揺らめけばアームでつかんでのぶん投げが放たれた。地面を滑り20mほど土ぼこりを上げながらぶっ飛んだサクヤと、瞬の剣でそこに追いついた結果めまいがし始める、トキワ。

 

マクベスは眼前に迫り、そして、突如全身の毛を逆立てた。

 

「ゥォオオオオオオオオオオオオォォォォンッッッ!!!」

 

「……!」

 

目の前で響いた咆哮は、ユウロンの遠吠え。満月でもないが、剣は空気を読んで喉だけなら完璧にしてくれたのか。

本来ガーデンで天敵たり得る存在ではないのだが、どこか奥底に残されているもののようだ。マクベスの脚が止まり、その隙にワカバはユウロンの肩を踏み台に跳んだ。

 

「……行け、ユウロン!! ワカバ!!」

 

「だそうだが!」

 

「きっと、メモでもしてるんだよ」

 

「そうだな。……だが、気遣いそれ自体が……」

 

「気持ちいい!」「嬉しい!」

 

憑の剣を振るい片足をブチ折ると、裁の剣がぶん投げられ、両腕に刺さりその動きを止めた。戦場では、一瞬がすべて。足場になってくれた魚に礼を言いながら、トキワとサクヤが抜刀する。

 

敗北を前にようやく理性を思い出し、そして、自分の首が転がり落ちているという結論に、理性的にたどり着く。

 

「……は、あ…………」

 

「大丈夫か、トキワ遊撃部隊長」

 

「ああ」

 

ふらつくレディを気遣う様に直面しつつ、トキワの視線はワカバたちへ向いた。

 

「貴殿のピンチに、駆け付けてくれたようだな」

 

「感謝してる」

 

「……黒緑の、髪。彼の名前は?」

 

「ユ……ワカバだ」

 

「メモに、顔写真も乗せておいた方が良いかもしれない」

 

皮肉や小粋なジョークでもなく、トキワ・カシは真顔でこれを言う。サクヤは、手首に書いたかすれかけの「ワカバとユウロン。ラーメンを作ってた」という字を、眺めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。