手向けにカトレアを   作:さわたり

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第二話「レッテル」(2)

前線拠点を設営するにあたり、周辺の生態系の調査などが実施された。

ヘレニウム捕獲部隊の成果もあり、早くも具体的な設営地点が決まったようだ。すでに仮設の拠点はあり、ガーデンの移動設備があれば北拠点から一時間もなく到着できる位置であった。

リンは、そこでの作戦における指揮をいくらか担当せよ、とのお達し。彼の選んだメンバーや、騎士団側で任命されたメンバーなど、十名そこらが前線拠点への移動を開始していた。

 

まだ蒸気機関なども、成熟しているとは言えない。そんな中で、ガーデンの馬も牛も要らず自走する車は非常に画期的な設備である。

数は多くないので、こういう荷物が必要な際以外には用いられないのだが。

……ゆったり走行する車の一台。リンの居るそこは、彼の選んだメンバーで固まっていた。

 

「……」

 

「それでさ、俺そこでコルニカ隊長にめちゃくちゃいっぱい薬塗られてさ、」

 

チフキ、オヴィ、クロエ。先ほど話題に上がった者たちである。『いろいろ聞いてみる』がまさかこんな直球かつ雑なものだったとは思わなかったようで、クロエはいささか当惑した様子のままであった。

そっとリンのそばに寄ると、小声で。

 

「……それで、いかがするんですか」

 

「うん、えっとね……」

 

まさか『なんで問題行動するの?』とは聞きに行けず、そもそも普段の行動に対し彼は『研究に必要じゃありませんか』とか、そういう返答を持ち合わせている。

いきなり聞いても、それが飛んで来るだけだ。

 

「まあ、僕は人事として彼の人間関係とかもある程度知ってる。それなりに……ちゃんと悩みを聞きだしたりとか、そういう、正しい形で話はできると思うんだ」

 

「……なるほど」

 

「利用するようで悪いけど、君とかチフキみたいな真面目……真面目?って言うか素直なタイプ、彼は正面から向き合おうとしないと思う。……まあ、衝突まで行かなくても、そういう不和の種があったら聞きに行く理由もできるし」

 

「円滑に、進んだら?」

 

「それならそれでもともと大丈夫って事に、って、あれ?」

 

リンが様子を気にしたのと同時に、みなぴたりと止まる。オヴィとチフキはさすがの慣れ、すぐさま外に出て、様子をうかがった。

 

「動物ですね、モスライノセラス、まあモスライノって呼びますが……僕たちも戦ったことがある生物です」

 

オヴィは捕獲部隊員。それなりにガーデンの生物には詳しいようだ。

車はモスライノを感知して止まったようだ。苔むしたサイというべき、怪力で気性も大人しいとは言い難い相手。目を付けられる前で助かったと、リンは息をついた。

 

「じゃあ、迂回しようか。こっちの、」

 

「何言ってるんですか。チャンスでしょう」

 

オヴィ、帽子の下で不敵に笑うとメガネを少しクイ、と上げ、駆け出す。

 

「え、ウッソ、マジかよ!」

 

戸惑いリンに視線を向けるチフキ、彼をよそにオヴィは駆け抜ける。

草と岩を軽く切りつけると、剣のグリップに光が宿る。緑と灰……斬りつけた物質の『性質』を吸収し利用するのが『混の剣』の力である。

 

「さあ、どう効きますかね……!」

 

放たれたエネルギーは草と石を混ぜた散弾のようなもの。ライノの体に傷をつけ、さらにすぐさま火打石で起こした火炎を取り込み、ライノの体に叩きつける。

 

「ちょ、ちょちょちょ、」

 

「……分かった、戦闘は避けられないね」

 

リンはゆっくり目をつむり録の剣を握る。戦いの記録から、近い状況と近いメンツを探り出し、今の状況の最適解を探す。

何度か試したが、まだ慣れない。……それでも。

 

___メンバー、

 

___オヴィ・D・エンス

___クロエ・エレムルス

___チフキ・オブ・ハマダ

 

___作戦開始

 

「オヴィはそのまま攻撃を続けて。チフキは角を削って威力を減らす! クロエは近づいていつでもやれるように構えてて!」

 

命令通り、接近。……まあ。オヴィは知ったことではないとばかりに思い思いの技を試しているのだが。

ともあれ、チフキは迫る角を回避。さらに二発目を倒れ込むことでかわし、そのまま地面を蹴ってバク転しつつ抜刀。

 

「よいしょォ!!」

 

ギラついた目つきで、角をいなす。……そう、いなす。それでいい。

見れば、ライノの角が大きくえぐれているのだ。

『卸の剣』。チフキの大剣は、言ってみれば巨大なやすり。

 

「次多分下から来るから振り下ろしで対応!」

 

「オッケーもういっちょォ!!」

 

リンの指示通りに一撃、そうして角はほぼほぼただの破片と化したのであった。間髪は入れない。オヴィの突きが続き、さらに彼は別の技を試すつもりらしい。

 

「チフキ、体表削れる?」

 

「もちろん! ジャッリジャリにすりおろしてやる!」

 

飛び掛かって足をかけ、そのままごっそり、肉を剥ぐような一撃。呻くライノを見たのち、リンはクロエと目が合う。

 

「うん、行けるね! 突きで狙って!」

 

「はいッ!」

 

渾身の一撃ッ! 折れずに済んだと安堵しつつ、さらに力を込めた攻撃が突き刺さる。

……が、なかなか倒れない。

 

「硬いな流石に……ねえオヴィ、」

 

「こいつは脂肪がぶ厚いんですよ。なのでぇ……」

 

「待ってオヴィ、君が詳しいのは分かるけど」

 

言い切るより先に、ダッシュ。すでに目をつけていたらしき、地面に転がる古代の金属製品に刃を突き立てた。

ばちり、たまるエネルギーは青の電撃……。そして、そのまま駆け出して持ち物のビンをその剣で叩き割り、さらに黒い粉からのチャージ。

リンがまさかと言い終わるよりも先に、オヴィの一撃は放たれた。

 

「伏せてッ!!」

 

瞬間、爆発ッ!

アルコール、黒色火薬、雷……その特性を乗せた突きを、ライノの内部にぶち込んだのだ。

 

___作戦終了

 

「っぶはァ!」

 

肉片から顔を出したチフキがあたりを見渡す。衝撃波によって吹っ飛んだらしきリンが、木に頭を打ってうめき声をあげている。

 

「おいおい大丈夫かリン」

 

「うん……それよりクロエ、は大丈夫だろうけどオヴィは?」

 

のそのそと起き上がって、視線の先。両者とも健在でそこに居た。

リンが良かったと、倒せたねと声をかけようとする……その、一瞬前に、放たれた。

 

「あなた本当にそれでも騎士なのッ!?」

 

クロエの、ひとこと。

 

「え、ちょっと……」

 

「結果的に倒せましたし、無事じゃないですか。まあ、失敗は反省して次やるなら別で、」

 

「私はそういう話をしてるわけじゃないのよッ!」

 

彼女は毅然と振る舞うのも忘れ、声を荒げていた。オヴィは分かってないな、と。そういった態度がまたクロエの神経を逆なでする。

少しの言い争いを見ていたチフキが、考え抜いて、止めるという結論を出す。

 

「おいおい、おい。な。ほら、落ち着こうぜ。まあ、何つーか、オヴィもだめだぞ、こーいうのは! クロエもさ、まあ怒るのもわかるけど……」

 

「……ふーっ、ふう……。そう、ですね、申し訳ない、です」

 

落ち着いたクロエが、背を向けて体についた汚れを取り払う。レイピアを強く、固く握って、彼女はぼそりと、つぶやいた。

 

「その姿は、親御さんに誇れるものなのですか」

 

「…………ふぅん、親御さんですか」

 

対し、オヴィは少し、声のトーンが下がり。一瞥。戸惑うチフキをよそに、ゆっくり彼は歩み出した。

 

「これ、片づける人が必要でしょう。欲しがるでしょうし、研究部隊の方を呼んできます。あなた方はここに居てください。聞かれることとかもあるでしょうし」

 

「え、ちょっと、」

 

「……」

 

去って行く彼の背中を、追ったのはリンであった。

まさかここまでのことになるとは、と、少し己の見積もりの甘さを恨みながら。

 

「……どうしたんです? あの行動なら、言っておきますが私は研究として有用で作戦上も効率的な、」

 

「君、ご両親と不仲なんだっけ?」

 

「…………。だったら、なんですか」

 

「原因までは聞いてないし、聞くべきではないと思ってたけど。……ポピーの、人事課の人間として……まあ、あと対等な仲間として聞かせてほしいな、って」

 

「……はぁ、」

 

立ち止まり、リンを一瞥。オヴィがそこら辺の木に背中をかけると、リンも近くの石に腰を下ろした。

 

「なんてことはありませんよ、別に。人生の行く先を縛られて不愉快だったんです。あいつらの言うとおりにしたら、思い通りじゃなかった~失望した~、だの、勝手なこと言って」

 

「……て、ことは、騎士になったのは」

 

「ええ、言われてですよ。僕が最初研究職だったのは知ってるでしょう? 戦闘に出ないと知った途端、勝手にあれこれ。……そうですね、それこそ"それでも騎士か"みたいなことを言われた気がしますね、ええ」

 

「……そっ、か」

 

すこし、騒がしくなってきた。他の騎士たちが車両で移動している様子が見える。

 

「両親への、意趣返しってこと……なの?」

 

「……はい?」

 

「君の命令違反の数々……。じゃあ、マシになったのも、ヘレニウムで戦闘で出ることが増えたから……クドクド言われなくなって……とか?」

 

「……それは、」

 

「他にも方法、あるんじゃないかな。どうかと思うよ、そういう、君の感情の表現に、理屈をつけてみんなを巻き込むって、それって、自分の意思がまるでないカラッポじゃないか!!!」

 

リンが大きな声を出すことは、作戦中でもなければあまり多くもない。少し驚いた視線を向けるオヴィに、彼は立て続けに言葉を吐く。

 

「チフキだって、苦手なりにあれこれ考えてるんだぞ……! それなのに君は、やりたくもないことをやってま~すって拗ね方で、ご両親とも向き合わず? そりゃ、ご両親がイヤな人なのはわかるけど、だからって! 反抗期のガキみたいなッ」

 

「リンくん」

 

リンを制したのは、アドーネだった。

……たまたま近くを通った、というよりはサリスたちとオヴィに近い車両で一緒に移動していた以上、そんなに偶然というわけでもないのだが。

ともあれ、リンの肩に手を乗せて、かぶりを振る。

 

「……憶測だけで追い詰めてるでしょ」

 

「え? あ、その……」

 

オヴィの表情は一瞬複雑に渦巻いたものになり、少ししてヘラヘラと笑む。

 

「別に、好きに言ってくれていいんで」

 

「……」

 

「お咎めならあとでまとめてお願いします」

 

のそのそ立ち去る彼を静止する気も起きず、リンはその背を眺める。ふっと、気づき。

 

「そのッ、ごめん。カッとなっちゃって、心にもないことを、」

 

「……分かりましたから。僕もまあ、大人げなかったんで」

 

結局視線は合わせず、オヴィは前線拠点の方に去っていく。

うつむくリンのそばに、アドーネがゆっくり座り、優しく、笑む。

 

「まあ、カンペキ人間の俺ちゃんも言う事間違えたりしちゃうから……」

 

「お気遣い、ありがとうございます」

 

「ま~~、オヴィくんのパワフル好き勝手が困るのもわかるけどね……ふふ」

 

「……そういえば、昔のもっとひどかった時、彼をかばったのがアドーネさんでしたね」

 

「俺ちゃんのイケメンオーラにあてられて、オヴィも目を輝かせちゃった……ってワケ」

 

「あはは……」

 

「……でも、少し芯を食ってはいた、かも」

 

いつものヘラヘラした様子が落ち着き、優しさの増した物言いで、アドーネは続ける。

 

「自分のやりたいことが分かんない、からっぽ……ってのはさ、オヴィくんもちょっと思ってる気がするんだよね」

 

「……」

 

それはすなわち、的確に言われたくないことを言って傷つけてしまった、という事にもなる。

リンは、あまり慣れない口げんかで、よりにもよって技術的に優れている『人物の評価』を武器にしてしまったわけだ。

 

「まッ、でもさ……! 俺ちゃんはそうは思わないワケ。オヴィくんの中にはキラキラがいっぱい詰まってると思うんだよね。俺ちゃんのように」

 

「……キラキラ」

 

「ジーリオ団長がオヴィくんを俺ちゃんのもとに置いてるのも、そういうの分かってのことだと思うんだよねー」

 

そう言うと、ゆっくりアドーネは立ち上がった。

 

「俺ちゃんも拠点向かっちゃうから。それじゃ……✨」

 

美貌を最大限生かしたウィンクと共に別れを告げる彼を見送り、リンもふたりのもとに戻るべく立ち上がる。

そうして振り返ると、目が合ったのはクロエであった。

 

「……すこし、遅いのでお迎えに。あ、決して盗み聞きのつもりではッ」

 

「大丈夫、わかるよ」

 

並んで歩み出す二人。一瞬の静寂ののち、クロエが口を開いた。

 

「……どうして、アドーネ殿とローゼ殿がその、ええと……仲がいいのか、理由の一端が分かった気がします」

 

少し思い出して照れながらも、彼女は納得をしたような様子であった。リンはそんな彼女を見上げ、また向き直る。

 

「ちゃんと、改めて話をしないと。オヴィと。……感情的になっちゃった」

 

「……そう、ですね」

 

彼女としては未だ気に入らない部分があるのは確かだ。

だが、『憶測で物を言っている』……言い換えれば偏見のような部分を持ち合わせていることに、自覚はあった。

 

……少し重い空気を纏って帰ってくる二人を見て、チフキにとって考えるべき事実が増え頭を抱えたことを付記しておく。

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