手向けにカトレアを   作:さわたり

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第十九話「星命学」(1)

「昔、故郷でダンスをやってて」

 

縦断鉄道ではないにせよ、南拠点にはまだ車両も残っている。プラニスは、自分を落ち着けるように淡々と語り始めた。一緒に居るのはサフランだ。

 

「……そこで、あんまりうまくいかなかったんだよね。弟は私をよく褒めてくれたけどさ。私、自分の好きなことだけやってた。ダンサーになるとか、言ってたし」

 

「怖いんですか、好きなようにやるの」

 

「もっと言えば、やりやすいようにやるのも、かな。」

 

俯いて、プラニスはどこか自嘲的に笑う。

 

「自分から、なんとなく苦境に飛び込むようなところが、あってさ。……多分、『やりたいようにやってる』『やりやすくやらせてもらってる』っていうの、耐えられないんだよね」

 

「……。」

 

「それを許してくれて、ゆっくり待ってくれるのは、すごくうれしいんだ、って多分、思うよ」

 

「いいですよー別に。ま……プラニスは、プラニスなんで」

 

「難しい話だよなー」

 

急にサフラン以外の声が聞こえて、どこか驚き気味にプラニスが見上げる。そう言えば、天井の上で通信装置をいじるソウジの事を忘れていた。

軽い調子で言ってくれるものだが、ソウジは常にこういう部分のある人物で、不真面目故と言うわけでもない。それに、

 

「おれはさ、やりたいことやってたらさ、ほんとーのやりたい事、見失うぜみたいな。そういう説教を団長にされたわけよ。マだから反省してだな、じっくりやりたい事のために……みてえなさ」

 

「ふふ、思ったよりちゃんとしたこと言うんだね」

 

「シツレーなやつだな! リワに免じて許してあげるけどさ」

 

「これはごめん。……どう、彼って、面白いっていうけど」

 

「面白いし、なんかかわいいし結構いいヒトですよ。人の話聞かないんですけど、ま僕が言えたことじゃないんで」

 

サフランは、相変わらず淡々と告げる。

 

「サフランって、楽しそうだよね」

 

「そーですか? 僕よく仏頂面って言われますけど」

 

「でもわかるよ。ね、ソウジちゃん」

 

「え、あー、リワって結構、いつも楽しそうだもんな」

 

「……もう着きますよ、あの遺跡、見えたでしょ」

 

窓から覗き込むと、ソウジの長髪が全部ひっくり返ってカーテンのようになってしまう。うっとおしげに髪の間をかき分け、外を眺めるのはサフランなりの戯れだろうか。それとも照れ隠しの類か。

 

 

 

 

手向けにカトレアを

 

滅亡編 第十九話

「星命学」

 

 

 

 

「えっと、それで、弟さんの話でしたっけ」

 

「付くんじゃないの? えっとね、私の……」

 

「ごめん喋ってる場合じゃねーかも!」

 

突如、やけに必死なソウジの声が割り込む。上方ですさまじい熱が吹きあがり、それをかわしたソウジが天井から転がり落ちた。

同時に二人も飛び降りると、その瞬間車両が四枚おろしにされる。

 

「ンーふふふ! バラして差し上げま……ンマ? こりゃガーデンの車両ですねェ」

 

車両を見下ろしたのは、巨大なかぎづめの、怪物。見上げた顔は妖しくも知的なメガネの女性と言う風貌。……融合ガーデナーである。

ソウジを襲ったのは、かぎづめの腕より下に生えた、人間の腕。木製の銃は、光線銃のようである。

 

「ン、ンマア! そっち、そのプラニス・プレイヤーさん! ワタシがバラすに値する方!」

 

「顔合わせるなり、失礼ですね。誰ですかあんた」

 

「あら! これはガーデナー的礼節に欠きました。ワタシはハリー。ご覧の通り、この身体はテリジノサウルスのもの。『滅び』直々に私を選び、この肉体をお与えくださりました! 眠っている同胞たちが、滅びと共に有れるよう、」

 

「今のうちに逃げましょう」

 

サフランの指示に応えるふたりだが、ハリーもそれで置いて行かれるような鈍足ではない。振り下ろしたかぎづめをかわし、その勢いままに、プラニスは遺跡へと転がり落ちる。

追って落ちていく二人を覗き込むと、ハリーも狭い通路に体を押し込み始めた。

 

「……迎撃しか、ないですね」

 

「よし、いっちょ俺が!」

 

勇んだソウジを制し、前に出たのはプラニス。星の剣を抜刀し、深呼吸を一つ。ずるんと体を押し入れて、遺跡に入って来たハリーを前に、構える。

 

「弟は、多分一度、私に失望してる。……でも、この前くれた手紙で、言ってくれた……私に、憧れてたとか、まあ、社交辞令なのかも、だけど」

 

髪が、眼が、そして、剣が光を放つ。

 

「団長も、アドーネ隊長も、サフランも、パティも、みんな……私の居場所であってくれようとして、私が自分を受け入れるのを、待ってくれてる。……いま、私が、したいのはッ」

 

光線をかわし、爪をかわし、大きく星の剣を振り下ろすプラニスは、笑っていた。

 

「それに応えることだ!!」

 

「アハハ! 見せてくださいよ、それからたっぷりバラして、調べて差し上げます!」

 

星の剣と爪がぶつかり、鋭いレーザーを薙いで広範囲を焼き払う。貴重な遺跡だが、そもそもガーデナー製。本人たちはあまり躊躇わずに破壊をするようで、なりふり構わなくなるプラニスには好都合である。

 

「あは、あははは☆!! ぶっ飛ぶ、ぶっ飛んじゃうなァ★!!!」

 

「ンマア! 楽しいですか! ええ、ええ、ワタシもですよォ!」

 

自らが放った光を足場に駆け上がり、一気に星の剣を振り下ろすも、それは爪でガード。光線銃を向けられ、しかしプラニスは避けるのではなく、飛び込む!

 

「ぶっ飛んでさ、キラッキラ★☆しちゃおう!!!」

 

「あはは、確かにキラキラしてますねえ!」

 

光線銃がかすめるのも気にせず、ハリーの頬を引き裂き、しかし頭突きでぶっ飛ばされ。駆け寄ったサフランに光線銃が放たれるが、それをソウジが防いだ。

 

「うおお! おれ、やった!!」

 

「ソウジちゃんいいねえ!! ギラギラ☆★!!」

 

「はは……こんなウザかったでしたっけ」

 

「嫌? 嫌かなーあはは!」

 

「まさか、最高ですよ」

 

藥の剣による簡単な治療を施すと、何も聞かずにプラニスはまた駆け出す。なけなしの落ち着きで聞いた「この姿が嫌か」も、聞き終わったなら必要はない。

放たれた弓のように、山吹色の光が駆け出す。

 

「ソウジくん、援護できますか」

 

「当然!」

 

これまた藥の剣で効果を上げられた鋭の剣を掲げ、駆け出す。

 

「あっは、あははは★!! はひ、っは、っっひゅううーーッ、かひゅはは★☆!!」

 

「おおう、すさまじい気迫ですねえ!」

 

久しぶりに出す大声に喉が追い付かない。ずっと陽気であったハリーさえ気圧されるほどのテンションで剣をぶん回し、「距離を取るため」の攻撃が通用しない相手としてハリーを惑わせる。

同時に迫るソウジの方は、小難しいことが嫌いとはいえ理性で戦ってはいる。それに一応技術者。プラニスと段違いの空気感での襲撃は、ハリーを惑わせることに大きく寄与している。

 

「んい~~、めんどくさい方々ですネぇ。やっちゃえ」

 

ハリーも研究者肌のようだ。どうも「綺麗なまま捕まえたい」をかなぐり捨てた瞬間があったらしく、いきなりソウジの右腕と左脚を光線でぶっ飛ばし、プラニスもそのかぎづめで上半身と下半身に切り分ける。

そしてハリーは飛び退くと、斬られた腕周りを気にしながらも構えなおした。

 

「……っ、」

 

「ン! リワ・サフラン、でしたね。倒させてもらいますよォ~あなたももちろん!」

 

「させないよッ!!」

 

上半身だけでも汗すらかかずニコニコ笑うプラニスは、どこか不気味でもある。だが、本人はそんなことを知っている。剣から引き抜いた光のダガーをぶん投げると、ソウジが残る腕で剣を振り、ダガーが空中で炸裂。

迫る爪を止めるだけの目くらましにはなったようで、サフランはその隙に二人を引きずった。

 

「……大丈夫ですか」

 

「あー、大丈夫だけどめちゃくちゃいてえよォ~……立てねえし、戦えねえし」

 

「しかも丸ごと吹っ飛んでるから、再生には時間が……プラニスはくっつけばいいので、早いかなと」

 

差し込まれた藥の剣が浸透し、じんわりとくっつき始めるがそれもまだ時間はかかる。どうにか物陰に隠れたのだが、しかし覗いてみればハリーは目元を操作して、きょろきょろとしているようだ。おおかた、メガネにレーダーでも積んでいるのだろう。

 

「このカトレア炉心の研究所はね、ガーデナーをものすごく発展させてくれたんですよぉ。……まあ、それも用意されたことでしょうけど。『母』……アリス直々にご用意いただいた花ですからね」

 

誰に話しかけるでもなく、ハリーは語り始める。

 

「この大地に居たのは、『滅び』であり、それを侵略した者こそ、『母』というのは、ご存じですか?」

 

こんどの発話は、完全にサフランたちの方を向いていた。「見つけた」の宣言がわりに、彼女は語り続ける。

 

「無論、アリス自身も侵略というシステムに組み込まれた者ですから、善悪を追求するのは今はやめましょう。賢い騎士たち、あなた達はそれなりにガーデナーへの敬意を持ってくれたので、好きなんです。……ワタシはね、『滅び』が世界を平伏するのに、一定の説得力を感じちゃっています。だから、これは……ハリーとしてのなけなしの理性なんです。」

 

覗き込み、サフランと視線がぶつかり合う。彼女は、眼の剣と藥の剣を合体させる。……そういうアタッチ面とを作っていたのだ。

 

「どこかへ行ってください。……さもないと、いひひ、ワタシが、ワタシが!! フヒヒ!!」

 

「どーでもいいです。僕達の世界は、脅かされるわけにはいかないので。」

 

再びテンションを上げ、ぎらついた眼で「バラして」やろうと爪を振り下ろすハリーを前に、サフランは耳をふさいで、『音量』を増加させた眼の剣を叩きつける。

ぎいいいいんと、鋭い高音が鳴り響き、さらに今度は薬品を差し替え、衝撃波を飛ばす。後ずさるハリーを追い詰めようと、さらに薬品を差し替え。

……瞬間、ハリーがスイっと手を上げ、サフランの胸から腹部の正中線をなぞる。ごぽり、いやな音がして、血と『中身』が少しこぼれ出る。そのまま血を吐いてうずくまる彼女を、楽しげにハリーは覗き込んだ。

 

「敬意をもって、ばらっばらに調べて差し上げます!」

 

「っぐ、あ…………」

 

ほんの少しならダメージは入っているのに、追い詰めるだけの多種多様な薬品はあるのに。だが、サフランはあきらめず、どうにか傷が軽くくっついたら立ち上がって。

……そんな彼女を制し、リボンのように揺らめく銀色が走り、ハリーのかぎづめを片方縛り上げた。

 

「俺ちゃん、華麗に参上……✨」

 

「おや、おやおや! おもしろい! あなたもバラして差し上げます!!」

 

「残念だけど、それはヒーローの役どころではないかな……!」

 

振り下ろされたもう片方のかぎづめをかわし、それを足場に駆け上がる。そして、遺跡には物が多い。気を引きながら、ワイヤーアクションらしく動き回って、……そう、時間を稼いでいる。

 

「っは! あははは! ギラギラ完全復活☆★!!」

 

「プラニスくん! いけるね」

 

「アドーネ隊長!! もっちのろん!!!」

 

プラニスが胸元から取り出したのは、派手で、バカバカしいデザインのサングラス。サフランも、それを見てくすりとわらい、グラスに少しカラフルなアタッチメントを取り付ける。

 

「たまには、こういうのもいいですね」

 

「懐かしい! ぶっ飛んでて、ぶっ飛ぶ☆★!!!」

 

「ビューティフルなヒーローのトレードマークって、ワケだね」

 

サフランが、ソウジの治療に専念する中、プラニスとアドーネがハリーを翻弄する。爪もそうだが、光線銃の薙ぎ払いがほぼ限りない範囲を引き裂くのが面倒だ。

サフランたちに迫った光線を光のダガーが受け止め、それを踏み場にしてプラニスが跳び、剣の重心で大きく回った彼女に一瞬拘の剣を引っかけ、一気に跳びあがり。

空中で鞭のように振るって、爪の一本に巻き付いて気を引ければ、その間にプラニスが斬り上げを放つ。

 

じんわりと追い詰められていく後ろに、こんどはサフランの渾身の斬撃が叩き込まれた。大きなオーラをまとった剣は、薬品の力か。

 

「……よし、俺もいける!」

 

「蚊帳の外みたいで、すみませんね、なんか」

 

「ダイジョブ。別に寂しくネーシ。」

 

「あはは! ……そういうとこ、かわいいと思いますよ、僕は」

 

「んなはは! ほら、行くぞ!」

 

サフランを守るように立ったソウジに、ハリーのやけくそのかぎづめが迫って。それを、大きく、大きく伸ばした鋭の剣が斬り飛ばした。

 

「……あれ? それって、ワタシの、作った……………っは、なんで今まで、気づかなかったんでしょ、あはは………」

 

突如、彼女のどこかおかしかったテンションが静まり、その目が静かにソウジの手元に向いた。

 

「やっぱ、ワタシの……剣だ」

 

「………はい?」

 

アドーネの拘束とプラニスの突進を喰らって、膝をついたハリーの眼前には、鋭の剣がある。

 

「ま………そりゃ、ビーム剣になってりゃ気付かない、ですよね、あはは………でも、なんで、追い求めたロマンの粋が目の前にあったのに。………ワタシの一番、やりたかったことが、目の前に、あって、ワタシ、」

 

また正気を戻しつつあるハリーを前に、ソウジは鋭の剣を振り上げる。

 

「……俺たち、滅びとかいうのブッ倒して、お前らを正気にする! そしたら、おれが引き継いだあんたの剣、見せてやるよ。たっぷり!!」

 

吹っ飛んだハリーの首は、穏やかに笑って。

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