手向けにカトレアを   作:さわたり

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第十九話「星命学」(2)

遺跡の方で物音がするからと、アドーネや衛生兵が向かったのと頃合いを同じく。イチムは中央へと追いついてきていた。クロエ、オヴィ、そしてチフキ……他の戦闘に巻き込まれなかったメンバーという妙に歪な構成だが、それすらも今崩れる。

 

森の中で割りこんできたヤマアラシの融合ガーデナーが、どこかぼんやりした表情で立ちはだかる。腰あたりから上半身が生える異常な形状は、四つん這いの人間に、ヤマアラシの尻尾が生えているようにも見える。

ともあれ、接敵だ。イチムを先に行かせると、三人が構えた。

 

「えっとねぇ、おれはガゼミアってゆーの。よろしくね」

 

「……クロエ・エレムルスだ」

 

「え、これ名乗った方が良いのか? オレはハマダのチフキ!」

 

「バカですか、何だってわざわざ乗ってあげるんです」

 

ドライにも、オヴィは真っ先に石と風を混ぜ合わせた、ツブテの突きを放つ。……が、それを防ぐのは針。空中に浮いた針は、よく見ると木製の小さな装置が取り付けられている。

ある程度意志で動くようで、網状のシールドにも、針状の武器としても機能するようだ。

 

「硬ッッてえ!!」

 

チフキの剣でも粉々にはならず、すこし削れて軌道が逸れる程度である。ガゼミアはくすくす笑って棘を放ち続けている。

上半身を起こすこともできるようで、こうなると腹のポケットから青年が体を出しているようにも見える。いずれにせよ、異形。

 

迫る針を防ぐ方法として、やはり最善はクロエ。背面についたチフキも卸の剣を盾にして防ぎ、オヴィもそこに挟まるように固まる。

 

「いいのぉ? 固まりっぱなしだと、それはそれでさぁ~ねえ?」

 

飄々とそう述べれば、その体重でもって押しつぶす攻撃をするのだから、ふんわりした雰囲気に反し凶暴である。だが、それで当然終わらない。

鎧を着てなお怪力のクロエがそれを持ち上げ、チフキなりに考えた作戦は相手の体重を利用すること。鎧の剣と卸の剣を突き立てれば、さすがにそれを刺しに行く愚行はせず、ガゼミアは飛び退いた。

 

「痛いな~もー……まいいや、もっとしっかり攻めちゃおー」

 

とはいえ、針を警戒すれば大きく動くことはできない。その隙を狙うように、一本の針を、防御網を縫うようにオヴィに放った。かわしても、振り返り狙ってくる以上固まるのは得策ではない。

 

オヴィは、賭けに出る方を選んだ。

 

「なら、本体を叩きますよ」

 

「あ~~まあ来るかあ」

 

針の使い方は盾や矢だけではない。何本かまとめたものをその手に持てば、それはレイピアのようにふるまう。爆発を利用し跳びあがったが、空中で斬り合うとなれば有利になるはずもない。地面に突き飛ばされ、その下でクロエが盾を構える。

 

「行けェ!」

 

「はい、はい!」

 

そこを踏み台に今一度ジャンプ、相手の腹部あたりに、剣を突き立て、火炎を放つ。……が、効き目は薄い。

 

「針のもとになってるのは毛なんだよ~? そっちも高耐久じゃんね、どう考えても~」

 

「っぐ……」

 

ヤマアラシの方の頭部……まあ、こちらは近未来的なゴーグルのせいで、あまり頭部らしくは見えないが。ともあれそちらからの頭突きを喰らい、今一度落下。下のクロエがキャッチして、その隙に飛び交う針はチフキが押さえる。そのまま、硬いなら削るのは自分の役割とばかりに駆け出す……が、そもそも小回りの利かない剣では苦しい。

 

「チフキ殿、下がるんだ!」

 

「でもよ、俺が今出ねえと……」

 

「僕が向かうので、」

 

「だが!」

 

一向に状況がまとまらないままだが、以前共闘した仲ではある。敵の攻撃が来るのであれば即防御の陣を組めるあたりは、成長だ。

しかし防戦にただ摩耗する状況下。ガゼミアの攻撃も激しくなり、隙も見えてか、ガタイが大きく剣が隙間だらけのチフキはところどころブチ抜かれ始めている。

 

「……どう、する、」

 

「どうする、って、オレ、ええと、考える!考えっから!」

 

「ですから、僕がこの場では俯瞰力に長けると、」

 

「オヴィ殿の! 無鉄砲さは! こういう時はあまり信用にならない!」

 

「っは、ひっどいこと言いますねぇ」

 

「いいの~? 君らで言い争っててさー」

 

迫るのはいわゆる鉄山靠のような、背面突進。棘の塊を防ぎきれず、主にチフキが針にブチ抜かれながら、押しのけられる。……そんな緊迫の瞬間を割って、声が響く。

 

「リン・アゾット! 君らガーデナーの礼儀に則って名乗らせてもらうよ!」

 

「ありがと~。おれはガゼミア」

 

「行こう、みんな! みんな、ちゃんと力を合わせれば、負けない!」

 

「そうっス!」

 

「……サリス殿?」

 

「動物の追い払い、上手く行ってたみたいだから拾って来た。行こう!」

 

「ハイっス!」

 

指揮官の到着があれば、やはり空気は変わるというもの。いくらか統率を感じ、ガゼミアも構えなおす。……そして、リンも録の剣を強く握りしめ。

 

 

__メンバー、

 

__クロエ・エレムルス

__サリス

__オヴィ・D・エンス

__チフキ・オブ・ハマダ

 

__作戦開始

 

「まず前線に出るのはサリスとクロエ! 行けるね!」

 

「了解っす!」

 

「ああ!」

 

まず、駆け出したのは()()()()()である。針が飛んで来たら鎧で防護するのは当然として、問題はサリス。だが、こういう時に機転というか野性のカンが利くのが彼女である。

離れの剣をぶん回し、狙って迫った針はホームラン! 吹っ飛んだ針が、ガゼミアの肩をぶち抜いた。

 

「っぐ……いったいなあ!!」

 

「……そうか、あいつ自身の針なら、行けんのか!」

 

「隙はじゅうぶんに作れるけど、あれで撃破まで行くのは無理! チフキが削ってほしいけど、そのためにはもっと怯ませる必要がある。だからサリス!」

 

「もちろんっス!」

 

「クロエもいけるね!」

 

「当然ッ!」

 

針を跳ね返す作戦のために、サリスの位置取りはコロコロ変えねばいけない。気を引くためにも、クロエは脚力で持って一気に駆け寄り、瞬間的に鎧を装備して重みを加えた突きを放つ。

 

「んも~~やだなぁ!!」

 

無茶苦茶に針を飛ばすやけくその作戦には、サリスの適当ぶん回しがそれこそよく効く。姿勢を崩すガゼミアを見ると、リンが合図を飛ばし、それに応えチフキが駆け出した。

 

「じゃりっじゃりに!! すりおろォす!!」

 

サリスの離の剣を踏み台にして、着地はクロエの盾。とにかく、その往復の間に正中線を削り下ろし、次の一手はオヴィ。これまた離の剣をカタパルトに飛び出し、その勢いままに突き刺す。……だが、一歩足りない。ぶ厚い毛皮がそれを阻む。

 

「ど、どうするっすか!」

 

「まず、」

 

「私が行く!」

 

誰よりも先にクロエが駆け出し、サリスが頷いて、かちあげる。人間の方の上半身がなにか抵抗をしようとしているので、それをチフキが押さえ。

組み付いたクロエはオヴィの手の上から混の剣を固く握り、押し込む! 光線と拡散の力が、内部からガゼミアをぶっ飛ばした。

 

 

__作戦終了

 

 

「っは、あ、勝ったぞ!」

 

「あ、ちょ……落ちる落ちる、落ちますけど……!」

 

「ん……相変わらず軟弱だ」

 

オヴィを抱えたまま飛び退き、お姫様抱っこのような姿勢で、着地。いつぞやのような構図で、オヴィは恥ずかしげに笑った。

 

「……こいつもさ、操られてるんだよな」

 

「チフキ。……そうだね、どうやら」

 

「……自分で考えてえのに、それを許されねえのって…………嫌だよな」

 

考え抜いたチフキは、ふらつきながらも立ち上がった。どのメンバーも消耗は激しいが、『滅び』を打ちのめすという、ギラ付きの中に居た。

 

 

 

 

『母』と呼ばれる大樹の下で、長い耳を生やした少女が待ち受ける。たどり着いたイチムとジーリオの方を見上げると、少女は玉座と言うべき大きな椅子に座り込んだまま、微笑む。

 

「あなたが、アリスか」

 

「ええ。母とも、彼女とも呼ばれる者です。……お顔を見たかったです、ジーリオ、イチム」

 

「……てっきり、襲いかかってくるものかと」

 

「冥土の土産と言うでしょう」

 

言いながらも、アリスはむしろ理性を保つが故の冷静さにも見受けられる。依然、2人は構えるが。

 

「あなたは、何者なの? この大木そのものだと、言うけど」

 

「そうですね。この大木の心臓であり、操舵手であり、原初のガーデナーであったと、言えます」

 

訝しげなふたりを一瞥し、くすりと笑ってアリスは続ける。

 

「ソフォクレスのアンティゴネ、シェイクスピアのマクベス、JKローリングのハリー・ポッター、C・Bのガゼミア・ロッキー、そしてルイス・キャロルの……鏡の国のアリス」

 

「……ガーデナーのデータベースにあった、書物かな」

 

「その通り。我々は地球を忘れないため、船団や、その子孫たちに小説から取ったお名前をつけました」

 

どういう意味だ?と顔を顰めるジーリオと、対し冷や汗のイチムは。アリスは依然微笑む。

 

「大樹の人間を取り込む力は、有機巨大宇宙船として人類を眠りにつかせたまま運ぶためのもの、繁殖と回復の力は都合よくテラフォーミングをするためのもの。……あなたたちはね、侵略者の子孫なんですよ」

 

「『滅び』が先住する生物であると言うのですか」

 

「それどころか、この星は『滅び』の卵ですよ」

 

「……滅びは、産まれようとしている?」

 

アリスは、頷いた。

 

「ホントは、ずっと、何万年も新天地の子孫を見守ってきたものですから、地球人類にこそ生きてほしいのですがね。……『滅び』は、それをお許しにならない」

 

立ち上がったアリスは、脚を大きく曲げた。ウサギのそれは、跳躍の予備動作だ。

 

「うううぅぅうああああ!!!」

 

咆哮と共に剣を振るう、アリス。

『母』を使うからには、徹底して理性を潰すようだ。かわしながら、刃の剣を展開する。

スタンドアローンになっているのかそれともアリスはそこだけは残してくれたのか。ともかく花の剣もしっかりイチムに応え、ツタの突きをアリスへ放った。

 

「っふ!!」

 

「かわす!?」

 

「速い!」

 

ふたりをして届かない速度で、刃も蔦も置き去りに駆け抜ける。そしてかろうじて目に追える速度でターンをすると、ふたたび接近。刃と花の盾がどうにか防ぐが、暴れるような連撃は目に止まらぬ速さである。

 

「ジーリオ、対応速いねっ!」

 

「最高速度はトキワに遠く及びません。彼女とは根本的に速さの使い方が違いますが……それでもっ!」

 

「ぎぐっ、」

 

移動を予測して刃を置く……まあ当然かわされるが、しかしそれを予想して挟み撃ちにするぐらいの対応は可能。

致命傷には程遠いが。

 

「がああ!!」

 

「防げば、脚は止まる、か!!」

 

そして花を盾にして隙を作り、イチムも斬り結ぶ。純粋な剣術であれば上回る余地はいくらでもあるようで、斬り払いを当てることには成功した。

 

「ジーリオ、分析できた?」

 

「もちろんです」

 

そして太刀筋と動きの癖を見て、誘い込んでの刃による包囲を繰り出す。しかしいくつか刺さるも大概は弾きかえされ、抜け出されてしまう。

 

「対人で張る程度の罠ではダメですね……」

 

「相手は高速で動き回る獣と考えるべき? だとすれば!」

 

今度はイチムによる罠。網を張り、当然破られるがしかし一瞬の足止めとなる。次々にツタの罠が絡まり、ジーリオが刃を向ける。

 

「っぐ!」

 

「……かわす!」

 

操られ理性を失っても知能は変わらず。ジーリオの刃をむしろ脱出に使い、しかしそれをとらえるように鋭い花びらが舞う

 

「っぐ、邪魔、ダ!!」

 

苛立ちながら、アリスはイチムへと狙いを定める。

 

「させません!」

 

「っが、……ぐ、イチム、悪く、思ワナイで!」

 

「……!」

 

ジーリオの刃を高速でかわし、アリスの放った突きは、イチムの体をブチ抜く。どんどんと深く鋭く突き立てられ、そして、イチムは不敵に笑った。

 

「私を狙うだろうと思っていた。……まあ、ここからは君が『母』としての力を使えないという、賭けだが!」

 

瞬間、剣の突き刺さる穴から体が解け、ツタの塊としてアリスを覆う。アリスも植物化し抜け出そうとするが、『滅び』の与えた融合ボディがそれを中途半端に終わらせる。

苛立ち気味にツタを引きちぎりジーリオに襲いかかるが、アリスの腕に絡まったツタから腕が伸びアリスの首を締め始める。

 

「私が絡み付いたからには、逃げられない! いけるね、ジーリオ!」

 

「食らいなさいッ!!」

 

そして放つ突きから、体内で刃たちが炸裂する。血反吐を吐いて暴れたのち、アリス、沈黙。

ツタに縛り上げられ、ゆっくり立ち上がったイチムが彼女を王座へと再び座らせる。

 

「……僕たち、侵略者らしいじゃん」

 

「侵略者の子孫というだけでしょう」

 

「……。」

 

「イチムは優しすぎます。我々は正義の執行人でもないんですから、人間が生きていけるようなことをしますよ」

 

「だから、君が好き」

 

ジーリオの微笑みという答えを聞くと、イチムはアリスの元へ。ジーリオもそれを追い、二人の騎士を、『母』が見上げて。

 

「…………とどまりたければ、走りなさい。」

 

「戦え、と?」

 

アリスは、優しくうなずいた。

 

「……ごめん、なさい。ありがとう、ジーリオ……イチム」

 

それを最後に、ぼろぼろとアリスが朽ちていく。すでに限界だったのだろう、大樹も揺れ、ばりばりと砕け始め……。

 

そして、大樹が、アリスが塞いでいた裂け目から、巨大な腕が現れる。光の塊のような腕は、人間のものに似ている気がするが、そうでもない気もする。

 

ともかく、手が広がったその瞬間、辺りが薙ぎ払われる。

振り返ればわかる、森を少し超えた先が、ぽっかりと焦土になっているのだ。それが、容易にできる生物なのだ。

ただ言葉を詰まらせるジーリオ。彼女が己を奮い立たせるより先に、イチムが歩みを始めた。……ジーリオを、木々へと縛り付けて。

 

「……前は色々とカッコつけたことを言ったけど、結局僕、君が好きで、その感謝を伝えたいんだよなって、思う。ありがとう、愛してるよ」

 

「…………は? 何を、言ってるの?」

 

「わかるでしょ、遺言なんだから君が伝えてくれなきゃ」

 

振り返って、彼が微笑む。

 

「花の剣から、感じるんだ。大樹と共にあったガーデナーは、まだ根として頑張ってくれている。アリスが散ってしまった、今も。……僕らが戦わずとも、遅かれ彼女は朽ちてしまっただろうから」

 

「待って、ダメ、やめて……やめなさいイチム!!」

 

「頼んだよ、ジーリオ」

 

アリスだったかけらを握りしめると、イチムは花の剣で己の首を引き裂く。

傷口から溢れかえった花束が彼を埋め尽くし、植物の巨人がその姿を現す。その巨体で『滅び』を押さえ込むと、体が解け、巻きつき、からめとり……。

呆然と見上げたジーリオの前に、『滅び』を包み込んだ巨木が現れる。

 

「あなたが……封印を、請け負うと、いうこと…………ですか?」

 

目の前で見届けたアリスの最期と、イチムが重なる。ああやって、彼は散ってしまう?

 

「そん、な……」

 

震えた手を硬く握る彼女の目の前、小さな花が咲いた。ゆっくり、息をして、それから真っ白な百合のようなそれを手に取れば、引き上げた茎たちが剣の形を成す。

 

「……そう、ですか」

 

不思議と、とても暖かい『(はなむけ)の剣』を握りしめてジーリオは立ち上がった。

 

「イチム……私、頑張る」

 

気丈に放った声は震えていたが、それでも決意をまとうもので。

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