手向けにカトレアを   作:さわたり

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最終話「さよなら愛しき面影よ」(1)

重い足取りのジーリオは、真っ黒なリボンを身につけて南拠点へと現れた。逃げてきた人員や捕らえたガーデナーで、南拠点はごった返す。

特に強敵であった四人以外にも、かなりの人数の融合ガーデナーが居るのだ。

 

「……団長?」

 

「その、リボンは?」

 

察して重く口を閉ざしたのは、リンである。

 

「あの大樹になったのは……イチムちゃんだったのね」

 

王をひとり失い、道化アルテルナが俯いた。ざわつく黒百合の騎士たちや、イチムを知る騎士たち。

だが折れてしまうわけにはいかない。ジーリオは歩みを進め、塀の上へと登る。渡された拡声器を構え、そして続ける。

 

「皆さん。イチムによる封印も長くはないでしょう。来たる決戦がいつかは分かりませんが、それは、すぐにわかるよう調べましょう。……私は…………私、は、先ほど……大切な人を失いました。」

 

震える声をごまかすように、張り上げる。

 

「でも、彼が戻ってくるかもしれないと信じて、諦めるつもりはありません! そうでなくとも、任せてくれたんですから!……だから、いや、でも…………むしろその日が来るまで、皆さんは大事な人と過ごして、体を休めて、戦いに備えてほしいです。ついて行けない、もう無理だというのも、止めはしません!」

 

それでもごまかし切れない涙と共に、彼女は続けた。

 

「でも、ひとりの騎士のお願いとして、どうか私に力を貸してほしい! ガーデンと、『滅び』のことを知って動揺する人も居るかもしれません、でも! 私は戦います! ついてきてくれたら、嬉しいです! ただ、嬉しいだけで、これ以上の先が見えない危険に、飛び込めと命令はしません! それだけの事です、以上!」

 

塀から少し勢いづけて降りると、そのままくずおれていく。支えに入ったトキワの服を硬くつかみ、いつもの様子からはあまり想像できない、か細い声で彼女は泣き声を上げた。

 

「……団長」

 

 

 

 

手向けにカトレアを

 

滅亡編 最終話

「さよなら愛しき面影よ」

 

 

 

 

異変に気付いて、声を上げたのはアルテルナであった。……ガーデナーの脳波が弱まっていること、そして、内部の『滅び』の反応が激化していること。

 

「まさか、吸い上げていると?」

 

ここのところずっと暗いジーリオに、さらに陰りが刺さる。だが、相変わらず飄々とした態度でマキナが首を横に振った。

 

「えっとねー、『滅び』はむしろ弱まってるっぽいんだよね」

 

「どうも、封印に使うエネルギーを『滅び』の消耗に割いてるっぽいのよ」

 

「でも無理やり出てこようとしてて……ってのが拮抗してるっぽいですねー。イチム・リリィズと、融合体にさせられず、囚われたままのガーデナー。総出でエネルギーを消費して、削りながら止めてる!」

 

「……王命よ、ジーリオちゃん。アンタが戦えるように、イチムちゃんは必死にやってる」

 

「出来得る限りの準備をします。」

 

「今から訓練とかしても、消耗するのは分かるわね? ンマ作戦確認とかは大事だけど……これ明日には出てくるわよ」

 

「最後の晩餐を、しましょう。」

 

彼女が幹事に任命したのはリン。とはいえ、南拠点の門の前の大広場で机を広げて飲み食いをして、それで片付けは全部終わってから……という投げやりな会である。

彼の仕事は完璧で、命じてから4時間後。18時ごろに、しっかり夜の食事会が始まっていた。野外でも照らせるような照明もここにはある。

 

「……緊張しますか?」

 

「オヴィ殿。……しないと言えば、嘘になるだろうな。立派な騎士になると息巻いてここに来たはいいが、まさかここまでの事になるとは思わなかった。っふ、気の抜けた事しか言えない」

 

「流石に僕もこうなるとは思ってませんよ。しかもなんか、聞けば僕ら侵略者の子孫らしいじゃないですか」

 

「……思うが、混乱のもとになりそうなことだし、隠さなくていいのだろうか…………」

 

そんなクロエの疑問に、トキワが突然現れて答えた。

 

「隠した方が、面倒になるから、と。『滅び』の影響下にあるガーデナーは知っているから、どこかで知ることにはなる」

 

「その瞬間に軋轢を生むよりは、ということですか……。」

 

「どうやらな」

 

それだけ告げると、また歩き始めオレンジジュースに口をつけるトキワ。……この会には、さすがに酒は出ない。

自分の部下がどこかつまらなさそうに座っているものだから、彼女はその横に腰を下ろした。

 

「酒がないのは、嫌か?」

 

「不本意ではあるけど、納得はしていますよ。僕ばかり飲むのも、不公平です。」

 

「そうか」

 

どこかウイスキーにも見えるウーロン茶に口をつけ、そんなことを言う。とはいえ、不本意過ぎて不貞腐れているとかではなく、少し離れていたヤナギを待っていただけのようだ。

 

「あ……トキワ、隊長」

 

「ヤナギ、大丈夫か? 泣きそうに見えるが」

 

「あ、はは……人いっぱいだと、ちょっと……あ、でも別に嫌とかじゃなくて、ああ、嫌かも、あはは……………でも、ジーリオ団長、すっごい頑張ってて、みんなの力を借りて団結したいみたいで、……おれも、頑張って話してきました」

 

「まあ、君は団長にゲロを吐きかけて許してもらったことがあったからな」

 

「別にその後ろめたさじゃないですよぉ……!」

 

そんな様子を目の前で聞いていたようで、パトリシアがケラケラと笑った。純粋で陽気で、ごく普通の感性を持つ彼女だが、こういう時に笑って立ち上がれる強さを持つ人物だ。

幼い雰囲気に反し、しっかりした部分もある。……さて、ヤナギもどうにか歩き回って騎士たちと交流したということだし、パトリシアも少し移動することに。遠くに見えたプラニスに手を振り、軽く振り返され。それでも「あとで話す機会はある」と言うのは、パトリシアの強さだ。

 

「おや、お嬢さん」

 

「あ、サクヤ隊長」

 

「えー……」

 

「パトリシアね。元気してた?」

 

「ああ、この通りだ」

 

親指を雑に向けた先で、ピザを作って焼いている二人組。話し合っている「サクヤさんは何が好きかな」「体の一部は入れるなよ」「僕をなんだと思ってるんだ」……という旨を聴けば、その目的は分かる。

 

「おかげで、少なくとも飽きることはない。……落ち着くこともあまりないけどね」

 

「あっちでラヴィと飲んで来たら? お茶だけど」

 

「冗談じゃないよ……」

 

ため息をつくが、しかしパトリシアは「どうせだし誰かとは話してきなよ」としつこい。背中を押された先で、眼が合ったのはアルテルナ。

 

「あら、色男が何の用かしら」

 

「見てただろ」

 

「っふ、でもあんた、イチムちゃんのこと気に入ってたんでしょ? 仲間ねェ」

 

「…………イチム・リリィズは、強かった。俺に、傷をつけた」

 

「そうね、それに彼、すっごいカリスマなの」

 

「……彼を悼むのは、全てが終わってからがいい」

 

「そーね」

 

アルテルナが注いだリンゴジュースに口をつけ、空を見上げる。……と、同時に、アルテルナの隣に居たレレルもリンゴジュースを飲み込む。

 

「でも、あんたたちボス以外共通の話題あるんスか」

 

「失礼しちゃうわ! ほら、剣術とか」

 

「ああ、剣術……とか」

 

「っく、なははは! ないじゃん! 全然ないじゃん!」

 

「っさいわねえ!」

 

アルテルナが言い返そうとしたところで、「ピザが焼けましたよ」と、ユウロンのやたら大きな声。アルテルナを連れて戻っていくサクヤを見送り、彼女は席を立った。

さなか、コップを持ったゴールドバーグが奥に引っ込んでいくのを見かける。

 

「一人寂しくパーティですか?」

 

「こういう、馴れ合いをしに来たわけではない」

 

「うひゃ~~いつもの奴だ。じゃあいいです、私が慣れ合ってやるっすよ」

 

それを無視し、彼はコーヒーに口をつける。つまんねーと吐き出しながらも、レレルは隣に座っている。ふと、二人のもとに影がかかった。……グリセレだ。

 

「グリセレ・グリサコフ。何の用だ」

 

「レレル・イイルと言ったかァ。……いや、なんだ。コリアンダーのサンドイッチ、私も食べたいんだよ」

 

「おお! ツウですねえあんたも!」

 

渡されたパクチーサンド片手に礼を言うと、一口。これはなかなか、と笑うのを見て、ゴールドバーグはため息。馴れ合う気はないが、こういうことにこだわっている自分がコイツと引き分けだったと考えると、勝手に手がサンドイッチに伸びていた。

 

「お、お!おおお! ゴールドバーグ! ゴォォ~~ルドバァァア~~~グ!!」

 

「うるさいぞ」

 

「フン」

 

そんなふたりを尻目に立ち去る彼。向かう先には、ドゥーゲンとフーシェが立っている。

振り返り手を振るドゥーゲンと、わかりやすく「げっ」という顔のフーシェ。

 

「おォいおい来てやったのにどういう了見だァ?」

 

「するでしょこんな顔も……てかソルツの人なのに居るんすね」

 

「人類の危機だ。流石に文句を言う段階ではない」

 

そんなことを言うと、ドゥーゲンの視線は「本当は優しいって知っていますからね」というやけにニコニコしたものに。

なんだかクワコを思い出す相手で、いつもながら調子が狂う。

 

「しかしどォする? これが本当に最後の晩餐となったら」

 

「どうするもこうするも、死ぬだけだもんなー」

 

どこかドライな価値観を覗かせつつも、平気というわけもなく彼は俯いた。ドゥーゲンも覚悟の見える面構えだが、完全に平気かと言えば話も違う。

 

「……俺は、リナリアと食事の約束がある。死ねない」

 

「え?」

 

「おお!!」

 

「なんだドゥーゲンちゃん急に楽しそうになったね」

 

「えっ? いやいや、ほら、そういう生きる希望って素敵、ですし!」

 

「生きる希望っていうと大仰だが……ま、お前たちも今後の予定を入れたらどうだ?」

 

ドゥーゲンとフーシェはなるほどと目を見合わせ、しかし少し後にうーんと考え込む姿勢に。

 

「俺らじゃない方がいいよね? なんか同じ隊でいっつも飯とか食ってるし」

 

「んー……僕、ちょっと動いてきますね!」

 

「おー、行ってら…………待って俺監察官殿とサシ!?」

 

「ほォ? お前のコミニュケーション能力じゃあ、私の相手はできないと?」

 

「はぁぁ? 喋れますが? 好きな食べ物なんですかぁ?」

 

「ガキか」

 

ギャーギャー騒ぎ始める二人を楽しげに見つめ、それからドゥーゲンは席を立ち。

ウロウロとしていると「よぉ」とどこかから声が掛かった。振り返れば、そこには手を振るテルトが居る。

 

「……おや、テルトさん」

 

「もっと嫌な顔すると思ってたけどそうでもねえか」

 

「まあ、今は共に戦う仲間です」

 

しかし、隣に居るガルザルクに視線を送ると、表情も流石に訝しげなものになる。

 

「私が居て大丈夫か、という顔ですか」

 

「いえ……ただ、テルトさんとどんな話するのかと」

 

「俺も迷ってたとこ。オッサン趣味ある? 子供いじめるの以外で」

 

「人聞きの悪い。これでも神父をやっていたものですから、世俗らしい生き方はしていませんよ」

 

「……なるほどねー」

 

言いながら、テルトはドゥーゲンに隣に座るよう促した。

 

「俺はね、感謝してんの。腹立ったりしてもあんたに負けた時のこと思い出すと冷静になれるからさ」

 

「それはどうも。僕もあの時は苦戦したので、いい勉強でしたよ」

 

「……っは、そりゃどうも」

 

別に気の合うタイプでもないが、お互い気さくではある。ガルザルクは、流石に居心地が悪くなりその場を後にした。

そして、目をやればサリスとカスティが話しているのを見かける。

 

「私の被害者の会という感じですか」

 

「うげ!来やがった!!」

 

「失せろっすよ!」

 

「待ってください今は協力関係でしょ。世界が滅びるのは、私とて本意じゃあないんですよ」

 

そう言って座り込んだガルザルクをびしりとサリスが指差す。

 

「わかってるっスよ! そう言って、あっち側に着く気って!!」

 

「……どーだろ。おれは、今は大人しくすんじゃないかって思うけど」

 

「カスティ?」

 

「この人、力以外に自己表現を知れなかったんだって思う。サリスは結果的に恵まれたけど」

 

「……こーゆーの、ホダされるって言うんすよ! 行きましょカスティ!」

 

サリスの誘いを、カスティは手を振って断った。

曰く、「もう少し哀れなおじさんと話してみる」ということ。最後かもしれない機会でそれを選ぶような、そういう強さを案外持つらしい。ガルザルクはずっと眉間にしわを寄せたままだが。

 

サリスは仕方なく一人で行動開始。そして、アドーネを見つけ駆け寄った。ローゼの横にはコルニカも居て、水入らずを邪魔するという形にはならない。……というのを、サリスが気遣えるタイプかというと、そうでもないが。

 

「アドーネ隊長!!」

 

「お、サリスくん。今日もキュートでパッションだね……! 俺ちゃんの輝きとともに、」

 

「どもっす。ローゼ隊長と、コルニカ隊長も!」

 

「ごきげんよう」

 

「ごきげん、よう。」

 

元気なサリスを見て、どこか真面目な面持ちであった彼女らも雰囲気が軽くなる。世界が滅びるかの瀬戸際でも、彼女はまっすぐだ。

 

「サリスくん、これが終わったら何したい?」

 

「どしたんですか。んー……まあ、いつも通りがいいっすね!」

 

机に乗せられた軽食を食べながらへらへらと笑う、サリス。横の二人が「南居住区のいいレストランで」みたいな話をしていたのを聞いていたからか、コルニカは気にした様子で顔を上げた。

 

「……? なんか変なこと言ったっすかね」

 

「いえ……その、すっごく強い方だな、と」

 

「……さっき聞いていた、私がやることも、今ので、決まったわ」

 

コルニカがそういうと、アドーネとローゼが振り返る。サリスも少しだけ席を乗り出し、そしてコルニカは微笑んだ。

 

「ニトと、いつも通り過ごす。それだけでいいわ」

 

「……なるほどね。俺ちゃん達ヒーローが、絶対に平和を取り戻すって、信じてるんだ」

 

「そこに、私は入ってる?」

 

「もちろん。みんな、輝けるヒーローさ……✨」

 

「ならその通り。……それは、そうと。またお茶をしましょう、ローゼ」

 

「ええ、もちろんです」

 

微笑んだローゼに珍しく微笑み返すと、コルニカは「さっき作ったの」と、机の上の大量のブリトーを引っ張り寄せた。

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