手向けにカトレアを   作:さわたり

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最終話「さよなら愛しき面影よ」(2)

酒も無ければ気持ちとしては最後の晩餐である重苦しい会だが、それでも懸命に楽しもうとしている。

 

なんとなく隊単位でまとまっていた解体部隊が、打ち上げられた花火を眺めた。

どうせだし、これから勝つための祝砲の兼ねているようだ。無邪気に笑うチフキとテトラ、落ち着いた様子だが笑うシザーリィとコルニカ。平穏である。

 

「隊長が作ったサンドイッチ、めっちゃうまい!!」

 

「ありがとう」

 

モリモリと食べるチフキと、先ほどまではそうだったがギブアップのテトラ。そしてそもそも土俵に乗らないシザーリィ。三者三様だが、会食全体の人数が人数なので消費には困っていない。

 

「『滅び』って、機械も操んだよな……」

 

「そういう技術を持ったガーデナーを……操っているだけかも、しれないけれど」

 

「とにかくわたしたちも戦うんだよね……頑張らなきゃ」

 

「はい、頑張りましょう。」

 

淡々と答えるシザーリィに視線に送ると、コルニカはどこか心配したように、声をかける。

内容は「兄と話さなくていいのか」というもの。ちょうどいいしということで、彼女は席を立った。

 

「お兄ちゃん」

 

「あ、シィだ〜」

 

「コルニカ隊長のサンドイッチです。サクラさんもどうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

受け取ったサンドを食べつつ、話の続きを促すサクラ。どうやら、ちょうどコルニカの話題だったようだ。……というか、ローゼ隊長とアドーネの仲の話もしていたようだ。

少しだけ顔を赤くして、ニトパールは口をとんがらせる。

 

「サクラさんこそ、僕より上なんですからー」

 

「お兄ちゃん、結婚を強いる考えは、貴族的なものです。騎士として、」

 

「違うんだよシィ~……」

 

「私も別に様子を聞いてただけで、結婚だとかの話題を出したつもりでは……」

 

困るように笑ったサクラを見て、ニトパールは「そっか」と引っ込む。酒もないのに、なんだか酔ったような雰囲気を醸し出すのは、ふわふわした気性が流されやすいためか。

ドカ盛りのサンドイッチも、会食ならどんどんと減っていくからコルニカは気分がいいだろう。それを眺めると、シザーリィは少し重い面構えで口を開いた。

 

「この戦いの後……お兄ちゃんは、どうしますか。」

 

「……んー、まあ、こうしてねー、コルニカちゃんの多すぎるご飯、食べられればいいなー」

 

ふんわりと笑う兄を見ると、彼女もつられて笑ってしまう。しかし、サクラとニトパールも隊員に声をかけられ、シザーリィに申し訳なさげに去ってしまう。

とはいえ、ぼーっとしていても、ということで、再び席を動くことに。マキナと、パスオンのいる席だ。

 

「シザーリィさん」

 

「シザーリィちゃ~ん」

 

「お二人に、交流が?」

 

「ン~~ふふいっつもいいデータ持って来てくれるんだよおパスオンくんは! でも私の剣になる気はないって」

 

「僕はみんなのパスくんですよー」

 

パスオンは相変わらずのらりくらりとしている。

 

「わたしが剣になってくれと言ったら、どう思うでしょう。」

 

「!? 珍しい冗談を言いますね……それは、まあやっぱりみんなのパスくんなので……?」

 

「狙撃手としてならさ、コルニカ隊長以上の剣なんて居ないでしょ! あの人私のことぶん投げるしチョット乱暴だけどねー」

 

「まあ、そうですが」

 

ちょっと慣れない感じで、不思議な居心地のパスオンだが、花火を聴くと安らぐように眼をひらいた。

 

「綺麗ですね」

 

「そうですね。……ほんとうに」

 

「なんか、皆戦いが終わったら何するかーみたいな話してるよね。パスオンくんとか、シザーリィちゃんはないのー?」

 

「…………わたし、は。……平穏に過ごしたいなとは、思うのですが。」

 

パスオンは、少し考えて、そして、花火から視線をそらさないまま、語る。

 

「妹の、近況を知りたいかもしれません。…………もしかしたら、もう少しばかり、自分を誇った方が良いのかもと、あれから時折考えます」

 

「…………では、わたしはレシーヴァさんと会ってみたいです」

 

驚いて振り返るパスオンだが、シザーリィはただ花火を見ている。……気は抜けているけれど、立派な自分の兄を知っている。パスオンという騎士を兄に持つ人の事を、知りたくなったのだ。

 

一人っ子のマキナは疎外感と言うわけでもないが、「兄妹」のような関係に自分は居ないなと考えてか、席を立った。同じく、というわけでもないが、とにかく一人でおにぎりを食べているソウジが目に写ったので、ちょっかいをかけることにした。

 

「やあ!」

 

「お? マキナ。元気かー?」

 

「それなりにね。これから世界を救うんだし、不思議な体験で心躍ってはいるけどね」

 

「ふふん、俺も!」

 

「やりたいことをやる、っていうのは上手になったかな?」

 

ソウジの返答はマッスルポーズ。聞けば鋭の剣で融合ガーデナーにとどめを刺したとか。……ハリーの話である。

 

「あいつ、マキナみてーな感じで分析して調べるの好きっぽい感じだったぜ」

 

「それはぜひ話を聞いてみたいねえ! ガーデナの技術力はほんっとうに知りたい事ばっかりだし!」

 

「俺もこの剣改めて見せなきゃだしな」

 

技術者と研究者で全てが重なるわけではないが、知的好奇心の徒として通じ合うものがある。この星の真相についても、同じだ。

 

「俺らの先祖が侵略してたわけだろ。アースって、どんな星なんだろな」

 

「まあ、『母』が私達とそう変わらない姿のようだし環境の性質が大きく変わるわけでもないんだろうけどねえ」

 

「でも気になんだろ~~~!」

 

「同意! いつか話を聴ければいいねぇ」

 

それこそ、マキナの「戦いを終えてやりたい事」と言えるか。そこで話を区切って、また別の騎士に絡みに行くマキナ。その様子を見届けると、ソウジは恋人と戦友のもとへ向かうことにした。

 

「よ~~お疲れさま」

 

「あ、ソウジちゃん。サフランが、君の話してたよ」

 

「そう。あの、しくじって拠点の壁ぶっ壊したときのやつです」

 

「俺が団長に投げられた時の話?」

 

「……あは、それ何度聞いても笑える」

 

かすれた細い声だが、プラニスの表情は言葉と違わずにこにこである。

 

「あれから俺ちゃんと考えて反省してんだからな!」

 

「そばで見てたらわかりますよ」

 

「回り道という方法を知った、ってことだね」

 

「プラニスは回り道しすぎだったんで、ハリーとかいうのの相手で暴れてくれてよかったですよ」

 

「……恥ずかしいな」

 

まだすべてを振り切ったわけでは当然ないが、それでもプラニスは汗をかいて苦しむでもなく笑っている。どうあれ、前進だ。

と、いうところでサフランがいきなり席を外す。どうも遠くから手を振られたようだが、フリーダムな人物である。プラニスとソウジは共通の友人と言う接点がないと何を話すべきか……と言う相手だが、まあいい機会だ。

 

そんなふたりに構わず、サフランは気ままにリナリアのもとへ向かった。

 

「こんちはー」

 

「リワさん!」

 

「っふふ、リナリアちゃんってば、あなたの事凄い綺麗って褒めてたのよ?」

 

「え。光栄でーす」

 

無表情だが、ピースで応えるような愛嬌はある。

 

「あんな風になりたいな~って」

 

「グリセレさんにモテたいんですか」

 

「え!?!?!??! あ、いや、ぅ、あの……」

 

「そこでそんな詰まるからバレるのよぉ。」

 

「あ……あはは」

 

恥ずかしげに頭をかいたリナリアを、クワコは楽しそうに見つめる。

 

「えっと、でも、グリセレさんにとかだけじゃなくて、純粋に憧れるって言うか、自分で、もっと綺麗になりたいなって思うんです」

 

「でも、わたしとかリワちゃんのするお化粧とか恰好よりは、あなたの良さがあるとおもうの」

 

「まあ、元気な感じが似合うかもしれませんね」

 

「今度お洋服見に行きましょ!」

 

手を合わせて、にっこりと笑うクワコは、妖しいがそれでも温かさを抱えたものである。

しかし、少しよそ見をしたかと思うと唐突に彼女は席を外した。……そして話しかける相手はリンだ。

 

「リンくん、元気?」

 

「え、ああ、はい……」

 

「私が見込んだ録の剣使いなんだから、頑張ってね? 大丈夫」

 

「……はい。」

 

彼が固まっていること察しての事らしい。くすくすと笑う彼女は、どこか怖さもあるが心安らぐところもある。リンはしっかりと頷いて、戻っていく彼女へ手を振った。

さて、彼の向かう先は、門である。端っこで落ち着いていたシルヴァリアが気にかけると、どうせならついてきてとリンは言う。

 

「なにか、あったのですか?」

 

「敵襲とかではない。野暮用だよ」

 

「ふむ……」

 

「その、イチムのこと、残念だったね」

 

「…………そう、ですね。彼が居なくなったことで、多くの人が居場所を失うでしょう。僕が、その居場所であらねばならないのですが。彼よりいくつか歳は上でも、こういうところは未熟を感じます」

 

シルヴァリアは、王ではなく騎士の器であると言えるだろう。

 

「頑張ってね。……まあ、しばらくは牢の中だろうけど」

 

「どうでしょう」

 

こういうところは、一応敵対する黒百合である。

……さて、リンの目的地は、すぐそこの森であった。

 

「遠巻きに眺めてるつもりだったかな。いちおう、レーダーとかちゃんとしてるんだよ」

 

そこに座り込んでいたのは、フロフキとアイリーンだ。

 

「おや、アビス・アドニスは居ないのですね」

 

「あいつがついてくるわけないでしょ」

 

「ま、でも流石に人類絶滅は本意じゃねーだろ。手ぐらいは貸してくれるかもな」

 

「借りたい?」

 

「別に」

 

そんな雑談をしながら、そこらで採れる果物をほおばる。リンとシルヴァリアが座り込むと、面倒そうな顔をするが、まあ拒みはしない。

 

「で、追い出しに来たのか?」

 

「僕は……イチムを失ったものとして、それなりに思うところがあるのですよ」

 

それを聴くと、フロフキの顔が翳る。騎士たちが動き回っていたし、盗み聞く瞬間などいくらでもあったのだろう。アイリーンは一瞬気にしたように一瞥すると、こんどは花火に視線をやる。

 

「『滅び』ってさ、強いの?」

 

「イチムや、ガーデナーたちが弱らせてくれているけど、それでも、尋常じゃないだろうね」

 

「じゃ、倒しがいはあるね」

 

その言葉だけが真意かは読みかねるが、ともかくアイリーンはそう言った。

 

「……僕たちの指揮下じゃなくていいからさ、『滅び』を倒すの、手伝ってほしいな」

 

リンの言葉には、否定も肯定もない。とにかく、踵を返す彼の背中をフロフキが一瞥するばかりだ。

 

「彼も、居場所を見つけたみたいですね」

 

「どうやらね」

 

宴もたけなわ、というころ。そろそろ騎士たちも休んで、備えなくてはいけない。寂しげなジーリオのもとに、ユリが座り込んだ。

 

「……悲しいわね」

 

「そう、ですね…………」

 

「……」

 

「……。」

 

かつての仲間が、己の身を犠牲に時間を稼ぎ続けている。会食も落ち着き静けさが姿を見せると、改めて事実と直面することになる。

 

「ねえ、占いましょうか」

 

「……お願い、します」

 

ガーデナーの文化だという、『タロットカード』をユリは作っていたらしい。アルテルナが見たデータベースの通り、練習して見たとおりに、引いてみて。

 

……『塔』の正位置である。

 

「崩壊……」

 

「っは、はは……不吉じゃないですか」

 

「いえ、確か……大きな状況の変化全般を指すはず」

 

「好転を願え、と」

 

「私もだけど、あなたは願うんじゃなくて、掴み取りに行くタイプじゃないの?」

 

ユリの言葉に、ジーリオはしっかりと頷いた。

 

「……勝ちましょう」

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