手向けにカトレアを   作:さわたり

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第四話「戦士の在り方」(1)

クモ型の巨大機械の襲撃から、何週間か……。

新人クロエは、解体部隊と行動を共にしていた。新人でもすぐに配属が決まることもあるし、なかなか決まらないこともある。クロエはまだどちらとも言い難いが、彼女は自身に難があるから……もしくは、騎士団側に難があるから決まらないのではないかと、少し考え込む部分もあった。

 

とか、考えて……そんな隙を見せると。

 

「……あなた、お腹がすいたの?」

 

付け加えると、場所は前線拠点の部隊控え室。解体部隊の面々と昼食のさなかである。

……コルニカ・ナイトロナ隊長は、いささか押しが強い部分がある。今この瞬間、クロエに「空いたのねそうね」と、彼女はコメを盛っていた。

チフキの生まれ育った地域の、炭水化物豊富な食材である。

 

「ああ、えっと……その」

 

「無駄だと思いますよ」

 

やはり多めに盛られたご飯を、淡々と食する少女。シザーリィ・プラトーニク・カカルコフ……解体部隊の最年少メンバーにして、狙撃担当。クモ型機械を沈めた一撃の、あるじ。

ともあれどこか呆れ気味の彼女とは対称に、大食いらしいチフキは意に介さずニコニコと食らっているが……。

 

「いや、十分で」

 

「あなたは……いい、体格。維持は……大事」

 

そう、別にクロエは食べれないという事では全くない。むしろ、チフキに並んで、この面々ではよく食べるだろう。

故郷でもよく食べれば、祖父母が喜んだものだ。

だが……そう、別に、乙女のプライドとかではないのだが、思えば、ローゼの食事姿はどれだけつつましく上品であったか。騎士らしい凛々しさ、そこには雄々しく猛々しい大喰らいも似合わないわけではないのだが……。

 

「……。要らない?」

 

「え」

 

「そう、わかった」

 

相も変わらず無表情だが、その背はどこか小さく見える。まあ、彼女自家製のそれなりに自信のあるであろう、そしてなおかつ味は見事な料理たちだ。

いたたまれない気持ちのクロエに、よぎる声。

 

「ご厚意でしたら、受け取らない方が失礼ですものね」

 

それはアドーネからプレゼントを渡されたときローゼの言った、まあ恥隠しの混ざったひとこと。

それでもやはり、師の言葉。クロエは息をのんだ。

ああ、そうだ、騎士は騎士でも、戦場で激しく戦い、その分かっ食らう豪胆の騎士になってやろうではないか!

……って、ほどではないが。

普通に、胃は、筋肉はもっとよこせと言っている気がして。

 

「いえ、おかわり……。いただけますか?」

 

「……!」

 

振り返るコルニカ、頷くクロエ。意に介さずぱくぱく中のチフキ。

これまた淡々とした目で、シザーリィはその様子を眺め。……食事を終え、席を立った。

 

「お兄ちゃん。」

 

「あ……バレちゃった~」

 

「ええ、よく見えますよ。」

 

部屋の少し端っこの方、190cmを超える長身の、されどふんわりした雰囲気の青年が、そこに居た。

揚げ物と米をほおばりつつ視線を向けるクロエ。彼のことは話には聞いている。なにせ、ローゼの部下だから。

ニトパール・プラトーニク・カカルコフ、シザーリィの兄である。

 

「コルニカ隊長は、相変わらずです。……二人がよく食べるので、隊長は一般的な食事量をどんどん誤解してしまいます」

 

「いーじゃん、コルニカちゃんのご飯おいしいし〜」

 

「いえ、そういう話では……」

 

ない、と言おうとするも、キラキラした目の兄を見てその口も止まる。

ニトパールはコルニカのことが好きだ。

恋愛か親愛か友愛か、はたまたそれらを超えた何かか。少なくとも尊敬の感情は少なからずあり、彼のその目を見ると、コルニカに否定的なことを言い難いのも確か。

善意によって、コルニカのズレは加速するばかりである。

 

「……なにか、用かしら」

 

「ふふ~ん!コルニカちゃんにー、会いに来たに決まってるじゃん!!!」

 

「そう。……いいわよ、ここ」

 

彼女も彼女で、何を考えているかわからないツラのままニトパールに隣の席を薦める。

ニコニコふわふわとした兄を見て、シザーリィも少し嬉しそうに。表情の起伏は少ないがコルニカほどではない。

 

「ってゆーかさ、テトラはどうしたんだ?」

 

食事を終え軽い運動中のチフキがふと顔を上げる。

 

「検査だそうです。」

 

「そっか。この前の任務も怪我で居なかったし……最近会ってねえ気がするぜ」

 

「そうですね。」

 

シザーリィが視線を向けたのは、解体部隊の集合写真。正面を陣取るコルニカがイカつい無表情なのが目立つが……。

ともあれ、シザーリィよりかはいくらか大きい、それぐらいの小さな少女がにっこりと笑んでいる。

 

彼女が、テトラ……解体部隊のメンバー。

 

「ごちそうさまでした」

 

「うん」

 

さて、食事を終えて窓際で休むクロエの元に、小さな足音。

チフキが、まずその足音に気づく。

 

「リンじゃん! 元気してたか?」

 

「おかげさまで」

 

「リン殿?」

 

「それはいいって。僕は若手だし、たぶん歳も君とそう変わんないし……」

 

クロエに敬語を外すように語る彼に、チフキは容赦なく「まあタッパもデカくないしな!」と語る。

……少しの思案ののち、失礼だったかも焦り出すのはかわいげと言ったところか。

 

「ごy、……用は何だ?」

 

「そう、その調子。いやほら、普通に君の様子見に来たんだよ。やたらデカい指揮権もらったとはいえ……僕は人事の人間なわけで」

 

そう言いながら、彼はチフキの横に座り込む。クロエもすぐ目の前の位置だ。

 

「解体部隊、なかなか過ごしやすいんじゃない?」

 

「そう、ですね、だな」

 

「いやまあ、過ごしやすさの大部分はチフキとかの作ってる空気かもしれないけどね」

 

「え、オレ?」

 

「うんオレオレ。まあ、コルニカ隊長も不思議だけどいい人だし、シザーリィもテトラも素直な子だから……気にいるようなら、それも言って」

 

「はい……じゃなくて、わかった」

 

「うん、それでよし。まあ、騎士ってよりは解体職人みたいな人たちだし……君自身の適性は未知数だから、思うことあったらそこも言ってね」

 

「ありがとう。手厚いな」

 

「まあクロエはどこでもやってけると思うぜ!」

 

チフキなりに考えた結論はそれらしい。リンも肯定するように笑むと、いささか気恥ずかしげにクロエは頷いた。

さて、クロエの近況の話が終わると、視線が向くのはコルニカ達。……すぐ隣でニコニコしたニトパールと、揚げ物を皿に乗せ続けるコルニカ……異様な光景である。

 

「仲、良いんですね」

 

「だね」

 

「お兄ちゃんは、隊長のことが大好きなんです。」

 

シザーリィはそう言いながら、クロエ達のそばの席へ。見慣れたものなのか、特に快不快いずれでもなさそうな様相である。

まあ、コルニカ隊長にそれなりに信頼か愛着がある証とも言えるか。

 

「シザーリィ……きみは、どうしてこの……クリサンセマム解体部隊に?」

 

クロエの問いに、少し首を傾げ考えるシザーリィ。思案というよりは、時系列やら説明やらをどうまとめようかという整理作業のようで、少しすると語り出した。

 

「最初に配属された段階では、まず、銃撃が得意であったこと。加えて、周辺状況の把握能力が優れていたこと。そして、前線で戦闘をするとなると、筋力が不足していること。これらが要因でした。」

 

しっかりした……というか、いささか固すぎかつ論理的すぎる物言いをする少女である。

 

「現在も居る理由は適性が正しかったこともありますが、……メンバーや雰囲気が気に入っている側面もあります。」

 

「兄が気に入っているからという面も、」

 

「はい、少なからずあるかと思います。」

 

なるほど……と、クロエは考える。

適した居場所はどこか、という結論はそうすぐ出るものではないが……。そう考えると、やはり尊敬する誰か……ローゼか。

 

と、言うところで視線が向くのはやはり部下ことニトパール。どこか頼りなく感じる彼を見ると、アコナイト対人戦闘部隊だからとローゼのような凛々しい姿を描くのもしづらいわけだ。

 

「……」

 

「彼が気になる?」

 

「え? いや……」

 

「大丈夫だよ。対人戦最強が選んだ仲間だぞ? いざという時は……」

 

リンの言葉を遮る、ラッパの音。

続いて響くのは遺物を利用した全館アナウンス。……いざという時は、想像よりすぐ来たようだ。

 

「……コルニカちゃん、僕」

 

「ええ、そうね」

 

人型木製兵器の大量襲来……ちょくちょくあるし、聞かされてクロエのような新人も知っている。

そして、やはり相手は人型戦術兵器、その形状を活かした戦いをする。……まあ要は、対人戦闘部隊の出番である。

 

「……連れてる、親が居るかもだから。」

 

そして、人型兵器を率いる巨大機械の襲撃もよくある。解体部隊員達は一目見合わせると準備を始めた。

クロエもそれに続き、リンは別行動。彼は指揮官として、見通しの良い場所に行く必要もある。

 

ともあれ、臨戦態勢は既にできていた。

 

「リンさん、ちょうどいいところに。」

 

「ジーリオ団長!」

 

「状況把握と指揮の手が足りていません……リンさん、お手伝いをお願いします、西側で対人部隊が対応していますので。」

 

「了解ですっ!」

 

駆け降りたリンが視察用ドローンを飛ばしつつ声を上げる。

 

「皆さん、対大量機械戦はあまり慣れていないと思います。ですので僕が状況の把握と位置の指示を行います! コレはポピー評価監察部隊長臨時人事であり、皆さんには指示に従っていただきます!」

 

「了解致しましたわ!」

 

「おっけ〜」

 

「ふふ、わかりました」

 

ローゼやニトパールと同じく、目立つメンバーの1人……サクラ。

中性的かつ線の細い青年だが、その長い脚から叩き込まれる蹴りは強烈。攻撃を身で受けるあたり耐久にも自信アリらしい。

 

「戦闘の方向性自体はお任せしますので、位置と注意対象の敵に関しての指示が中心になるかと思います!」

 

___メンバー、

 

___ローゼ・ラ・グレッグス

___ニトパール・プラトーニク・カカルコフ

___サクラ

 

___作戦開始

 

 

「まずサクラさんが最前線であることが前提で、今の通り傷をつけて気を引く方向でお願いします!」

 

「ええ、了解です」

 

忍耐力と耐久性を活かした、注目を集める役……防衛戦においてはもっとも重要なポジションである。

 

「っふ!!」

 

「ローゼ隊長はより後衛で、水際の処理をお願いします! 西側から東側にかけて往復しながらにはなりますが」

 

「ええ、簡単ですわッ」

 

「ニトパールさんは中央側で撹乱を」

 

「りょうか〜い」

 

さて、概ねポジションさえ指示してしまえば十分。ひとまず周辺の様子見がリンの仕事になる。

 

「よいしょっ」

 

ニトパールが取り出したのは、双剣。迫る二体を一瞬で斬りふせると、両手の剣を変形させる。

少し角度の変わった持ち手の、その「磁の剣」を向け……放つ。

 

機械の体を貫くのは、鉄の弾丸。……磁力を与え、反発させる。その力を利用した射撃こそこの武器の強みだ。

シザーリィのそれとは違い、中距離戦が主だが。

 

「そっち、いっぱい来てるよね……!」

 

「間に合いますかニトパールさん!」

 

「もちろんだよ〜!」

 

こめ直し放った銃弾は、ワイヤーがつながったもの。……磁力による銃撃ゆえ、装填する物は自由が利く。

そこら辺の木を使って一気に接近、道中敵どもをなぎ倒しながら、一気に戦場を変えた。

さらに敵をワイヤーで縛り上げ、みきみきと縛り上げ。

 

「おっとっと、」

 

態度は軽いが、取る戦法はなかなかエグめ。……人間と同じ方法で壊せるなら、そうする、シンプルな話だ。

関節を蹴ってブチ折ると、反対から迫る一体に剣先をぶつける。そして銃撃、1、2、3発!

 

「……なんか、違和感あるな~」

 

「お気づきですのね」

 

「ローゼ隊長もなんかありましたー?」

 

「ええ、なにか……一部の個体に、悪意を感じるといいますか」

 

「そうですねぇ……私も、何か……動きに明確な意思を感じると言いますか」

 

「遠隔操作、というものでしょう。本人は出てこず、遠くからコソコソ。腑抜けたチキン野郎のやり口ですわね」

 

前線拠点に迫る機械たちは、明らかに、数が減っている。ローゼたちによる防衛は上手くいっているようだ。戦力としてはもとより、ひとまず、リンの指揮も的確であったと言えよう。

 

___作戦終了

 

前線を押し返し、追撃戦。戦況は変わり、指揮系統も動く。

 

そんな様を、木の上から眺める女の影。

 

「……ン~、チキン野郎だのひっでー言われようですね。ま、挑発に乗る気はありませんよ~、傷つきはしましたが」

 

その手に剣を抱き、双眼鏡片手に。イヤホンをつけているあたり、機械にマイクも仕込んでいるようだ。

 

「にしても、私の(まじない)の剣の干渉を一瞬で見抜く……やっぱり強いですねェ。ローゼ・ラ・グレッグス……さすがって感じです。あとサクラ、ニトパール・プラ、なんでしたっけ、まあとにかく……彼女直属なだけあって、うん、さすがの観察眼」

 

魚の塩漬けを載せたパンをほおばると、木からゆっくりと降り、てこてこ歩き始める。

 

「油断、嘲笑、見下し、それで死ぬようなバカとは私は違いますからねぇ。これ以上眺めるのは……やめにしましょうか」

 

と、いうところで、すこし立ち止まり。

 

「そういえば……アイツの力量も気になりますね。……うん、暴走、暴走とかで行ける気がします。だめでも、殴る理由はひねり出せますし。アルテルナ……彼の焔の剣は、はかっておかないと」

 

振り返り、その手の剣を構える。

 

「場合によっちゃあ、ゴールドバーグと遊ばせてあげてもいいかもしれませんねえ」

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