手向けにカトレアを   作:さわたり

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第二章 ソルツ編
第五話「塩と花びらと」(1)


「つゥまァりィ……我々騎士団第三者委員会ソルツとしてはねェ…………最近の君たちの動向は非常ォ~~に怪しいわけだぁ」

 

「そうでしょうか?」

 

いささか狭い会議室の中で、ジーリオと、もう一人。長い銀髪とふわふわしたコートが目立つ、男性。監察官、グリセレ・グリサコフである。

 

「まずはプラニスの処遇についてェ……決めあぐねるのは分かるんだがァ…………どうも怪しい」

 

「怪しいとだけ申されましても」

 

「何があった?」

 

「それは彼女からの聞き取りをしているところです。事実の精査が出来なければ混乱を招きかねません。そう伝えているはずですが」

 

「……ま、混乱の多い彼女の精神面でのサポートや職務への復帰が優先というのは分かるがねえ。こちらとしては何か企みがあるのではとね、疑ってしまうわけだァ。事故からもう一年は経ってるんじゃないかァ?」

 

「申し訳ありません。あまり頻繁に「分からない」と報告しては、想定しない意図を読み取られるのではと危惧しまして」

 

「仕事をむやみに増やしたくないのも理解するがぁあぁ、それを考えるのは君の仕事ではないんだけどねェ……」

 

ねちっこくそんなことを言いながら、グリセレはジーリオをにらみつける。対するジーリオは、どこかやりづらそうに視線を下げる。

 

「……まあ、事実の精査と状況の開示、ここはバランスを気にしろと言う話で終わりだ。…………モリオンの二の舞となればァ……私とて君たちのお取り潰しに躍起になるかもしれないぞォ?」

 

「肝に銘じます」

 

「報告をするように」

 

立ち去るグリセレの背中を、相変わらずジーリオは苦い顔で眺めるのであった。

 

 

 

「今日はずいぶん飲むな、団長」

 

「たまにはいいでしょう……。」

 

晩酌は、北拠点内のとある食事処。ジーリオの隣で淡々と飲む青年は、ラヴィニア……騎士の一人である。ナナカマド遊撃部隊のメンバー、要すれば精鋭の一人。

 

「それに、お酒の量に関してはラヴィニアに言われる筋合いはありませんよ。」

 

「別に悪いことだとは思わない。でも、僕はお酒が好きだけど、団長がそういう理由で飲んでいるようには見えないね」

 

「バレましたか。ええそうです、ストレス発散ですよ。トキワやリンと飲むと心配されがちなので、あなたを誘うわけです。」

 

「心外だな。僕が他人の体を気遣わないような男に見えるって?」

 

「いえ分かってますよ。ほら、慣れてるあなたは、私の酩酊具合を見極め、的確なところで止めてくれるのではと思うのです。」

 

珍しく、冗談を飛ばすようににやりと笑うジーリオ。あまり表情は変わらないにしても、ラヴィニアは眉を少し動かし。

 

「ヤナギが心配しますか? 一応は、二人きりで飲むという状況、危険に見えるでしょうね。しかも私は年齢で言えば、行き遅れもいいところです。」

 

「思ってもそれは言わない方が良かったと思うけどね。変な空気になるじゃないか。それに彼は分かってると思うし。いやどうだろう、彼は嫉妬深いではあるな」

 

そう言いながら、二人は一切本気ではない……そういう仲になることはないと分かり切ったが故の、程よい冗談。まあ、ジーリオの方がいささかタチの悪い酔い方をしているが……。

 

「…………今、触れにくいな~と思っているでしょう。」

 

「……何のことだい?」

 

「イチムのことですよ。自意識過剰な言い方かもしれませんが、気にしなくてもいいですよ。もう6年は前になりますし。」

 

「団長から言われるとなおさら触れにくいよ」

 

ダラダラとした時間が過ぎ、あまり夜も遅くならないうちに二人は解散。まあまあ酔っているジーリオだが、歩いて帰るぐらいは簡単にできそうな、まっすぐとした足取りである。

相変わらずよくわからない人でもあるなと、思い。少しして、己の上司であるトキワのほうがまあ、分かりづらいなと考えてみたり。ラヴィニアは頭も明瞭なまま、帰路についた。

 

 

 

 

手向けにカトレアを

 

 

ソルツ編 第五話

「塩と花びらと」

 

 

 

 

仕事前の食事はやはり多少豪華にしたい。騎士団の食堂はそもそもかなり凝っているが、少しお金を積むと、まあまあな高級食材も口に運ぶことができる。今日は、ローレル偵察・調査分隊の隊長もそういう日であった。

 

「前線拠点の完成後は、その周辺かと思っていましたが……」

 

「今回の調査エリアは南部か……マ、全体的に唾つけたいんでしょうよ。ガーデンには地底都市もあったって噂だしな。まずは調査エリアを増やしていって……」

 

「なるほど、拠点も同時並行で多く作りたいと」

 

服装も物言いも座り方もテキトーな青年こそ、隊長のフーシェ・テーナー。その前で資料を眺めている少年はドゥーゲン・モリオン。フーシェの部下である。

 

「ドゥーゲンちゃんは飯いいの〜?」

 

「もう食べてしまいましたから」

 

「一口いる?」

 

「大丈夫です。ありがとうございますね」

 

優しく微笑む彼に、いいならいいんだけど、と言いつつ肉を口へと運び。そんなフーシェの元へと近づく足音。彼は一瞥だけすると、ため息じみた苦笑いをこぼす。

 

「監察官殿が何の用かなぁ〜?」

 

「私の用事なんて決まりきってると思うけどねぇえぇぇ?」

 

「今度は俺のどこの揚げ足取りに来たのかな〜大変だなぁ〜」

 

「ふん、相変わらず風紀のかけらもない気の抜けた男だなァ〜? ま、君からは騎士団の独立なんて情熱は感じないしねェ。ただ単に腑抜けた組織だと思って良さそうだぁ? それはそれでェ、解体が」

 

「そこまでにしてください。食堂ですよ」

 

ドゥーゲンが二人の間に入ると、腕組みをして軽く睨み。幼い顔貌ゆえあまり威圧感はないが、グリセレは気にした様子で下がる。

 

「ま、今回はフーシェ・テーナー、きみみたいな奴が多いほうが助かる案件ではあるんだがねェ?」

 

「要はなんなんだよぉ〜……いっつも周りくどいしさー」

 

「人体実験の疑いだよ」

 

ひとこと、そうグリセレが放つ。何か言おうとしていたフーシェも、少し静まり、面持ちが真剣なものになる。

 

「……ドゥーゲン・モリオンの身体が『若返った』件と同じだよ。あれは剣の影響による事故であると片付いたわけだが…………」

 

視線を向けられたドゥーゲンが、すこしうつむく用に視線を逸らし、その先は彼の剣。手放すよう勧められつつも、彼が使うと言って聞かず、結局持つことになった『晶の剣』。

 

「調査中のプラニスの体の異常……君の時と同じく事故だといいなァ?」

 

「……ま、それに関しちゃ俺も同意だけどね」

 

「それで、僕のもとに来た、という事ですか?」

 

「その側面もあるがァ……。君たちの任務、少し概要が変わるようだぞ?」

 

相変わらずの迂遠な言い回しに少し苛立ちつつ、フーシェはグリセレの視線の先を追う。……居たのは、控えめに手を振るリンであった。

食事を終えたのを見守ると、リンの案内で、グリセレ、フーシェ、ドゥーゲンがそろって移動を開始する。

 

「つまり、ローレルの任務をサポートする部隊がついてくるんです」

 

「へぇ~?」

 

「リンさんの発案ですか?」

 

「僕も意見を出したけど、最終的にはジーリオ団長。フーシェ隊長と、ドゥーゲン君は性格的な面でも、まあ……過去的な面でも参加しやすいから」

 

「過去……に、何かあったと言えば僕ですね」

 

「えー? あ、まさか」

 

フーシェのつぶやきに、グリセレが『そのまさかだよ』と告げる。扉の前には、臨時らしい簡素なプレートに『インパチェンス支援部隊』と書かれている。

空けたその先、ソファに座り込む女性と、横で腰掛ける背の高い女性。二人の視線が、一行へと向く。

 

「リンちゃん? 随分、ぞろぞろ連れて来たね」

 

「ローレルのお二人と……おや、監察官殿ですか」

 

穏やかで、落ち着いた声色の二人。どこか独特な空気をまとうが、リンは特に怯む様子はなく

 

「一応は紹介しようか。プラニス・プレイヤー隊長。リワ・サフラン。で……フーシェ・テーナー隊長とドゥーゲン・モリオン。あと、グリセレ・グリサコフ監察官」

 

リンが間に立ち、それぞれに手を向けて軽い紹介。人事官という立場もあって、慣れた感じだ。それぞれが軽く挨拶を終え、リンはそれを見守る。

作戦開始はまだしばらくかかるようだ。

 

 

 

イチハツ探索部隊。名前の刻まれた部屋に、今は二人。隊長のユリ、そして、団長のジーリオ。

 

「最近はどうかしら?」

 

「好調ですよ。そちらは?」

 

「私も好調」

 

社交辞令のような挨拶をして、一瞬沈黙。二人、目を見合わせてくすりと笑う。

 

「こういう時に場を和ませるのは彼だったわね」

 

「6年前の話をする気です?」

 

「あなただって、そういう話をしに来たんでしょう?」

 

「……そうですね。」

 

ジーリオの面持ちが、一気に重苦しい物へと変わる。

 

「結果から言っちゃうと、大した成果はないわ。遺体もない……埋もれてしまったかもしれないけど、掘り起こすことは、できないし」

 

「ええ、そうですね……分かっています。」

 

「イチムも……彼女みたいに、帰ってきたらいいんだけど」

 

「……」

 

「ごめん、無神経だったわね」

 

「何を言うんですか。あなたも当事者でしょう……イチム、私、あなた。ホワイトリリー迎撃部隊の、仲間です」

 

ジーリオはそれだけ言って、視線を上げる。表情は、先ほどの重いものから無理矢理明るくしている様子で、それを汲んでかユリも同じ話を続ける気はなさそうだ。

 

「ええと、そう……インパチェンスが本格的に活動を開始する、というのは話しましたっけ?」

 

「まあ、聞いてはいるけれど」

 

「最初の任務がローレルの補助なのですが……ユリさんにも同行していただきたいと思いまして」

 

「ああ、なるほどね……。いいわよ」

 

二つ返事だが、まあイチハツは探索が専門の部隊。いちおう団長直々の指令ということもあり、わざわざ断る理由もない。

 

 

 

木々の中建てられたテントにレレルが座り込む。彼女の視線の先は、ハンモック。腰かけている男は、いささか暇そうに帽子を顔の上に置いている。

 

「で……どーするんです?」

 

「どうするとはなんだ? 私が戦う機会を提供するのは、貴様の仕事だろう」

 

「いやホラ、何と戦いたいとかありません?」

 

「ローゼ・ラ・グレッグスを連れてこいと言えば連れてくるのか?」

 

「……。そりゃそう言いますか」

 

男は帽子を置き、己の剣へと視線を向ける。それを一瞥すると、レレルは双眼鏡へと視線を通す。

 

「ほんじゃゴールドバーグ、とりあえずはしばらくこのお家に居てもらうことになりますね。私は行って来ますけど」

 

「そうか」

 

「ま……遠からぬうちに戦えますよ。グリセレ・グリサコフあたりとなら」

 

「……悪くはない。強い方だとは聞いている」

 

帽子をかぶり直すと、男ことゴールドバーグは少しだけ口角を上げる。

 

「期待だけはしておこう」

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