ブルーアーカイブ RE:teaching 〜男でもあり女でもある先生は嫌いですか?〜 作:白だし茶漬け
私は何も守れなかったただの人殺しです。
家族も、友人も、生徒さえも守れなかった罪深き大人の1人です。
私の両手には暖かい手ではなく冷たい鉄の二丁の銃が血の匂いが染み付いてどんなに綺麗な水や聖水であろうと取れない血がこびりついている。
あぁ神様。どうして私にこんな目を与えるのですか?
どうしてこんなにも絶望を与えるのだろうか。
神様は乗り越えられない試練は与えないというが、ならその試練の為に犠牲になった人達はどうなるのですか?
私の中に憎悪が生まれる。弱い自分が許せない、こんなことを起こした大人が許せない。
生徒を……未来ある子供達を犠牲にしたこの世界が許せない。
憤怒、憎悪、絶望……この世の悪意を消し去る為に私は神様だって殺してみせる。
例えそれが、いかなる代償を払ったとしてもだ。
今日も今日とてキヴォトスは平和です。
銃弾が飛び交い、それを受けても血どころかかすり傷さえ付けられない生徒達は、暴動を起こすヘルメット団やら暴走したドローンに弾を撃ち続ける。
このキヴォトスは私目線からするとかなり異常な世界だ。
まず、このキヴォトスでは2種類の人がいる。
ヘイローを持っている人と、そうではない人だ。
まず、ヘイローが無い人。一般市民はこのキヴォトスの外の人と同じく一発の銃弾が致命傷になるけど、姿形は犬や猫が二足歩行していたり、ロボットが主な見た目だ。
私のような見た目の一般市民は少なくとも見ていない。姿形自体似ているロボットは見るが、顔が異形な人達が多かった。
だけど、ヘイローを持つ者、ここでは生徒と言う。
そもそもヘイローとは生徒が頭の上に浮かばせている物であり、言ってしまえば指紋見たいなものだ。
一人一人ヘイローの形は違っており、眠ったりだとか意識を失ったりでもすれば一時的に消えるらしい。
そしてこのヘイローが破壊されたりでもすれば、その生徒は死ぬ。つまり、ヘイローは生徒にとって命そのものなのだ。だけど、余程の事が無い限りはヘイローは破壊されず、破壊される事はほぼ無いらしい。
まぁ……ヘイローを破壊する爆弾はあった。全く、悪趣味な物を作る人がいたものだと思い返してみると腹が立つ。
そんな生徒達は絶賛仲良く道路の十字路でヘルメットを被った団体と交戦しており、戦況はややこちらに傾いていた。
だけど向こうも生徒であり人間だ。如何に銃弾が通らなくても、追い詰められたらどんな事だってするのは同じ筈だ。
追い詰められた獣は、どんな事をする凶暴さになり得る。嫌な予感がした私は、ある生徒に通信を飛ばした。
「……カリン、この場から離れる子っている?」
『向かいのビルから見ているけど、2人がここから離れたのを確認した。狙う?』
向かいのビルと言うのは、私から数キロ離れているビルの事だ。
カリンという、C&Cというエージェントのスナイパーであり、彼女の言うことから2人の敵が戦場から離れているらしい。
敵前逃亡……にしては妙だ。そういうのは2人では無く1人でするものであり、何か奥の手があると私は考えた。
ビル街の十字路という横幅が狭い空間で2人がかりで持ってくる物と言えば……戦車かな? 確かに火力を一点に集中させられるのは厄介だし、生徒が危ない。
カリンの狙撃なら1人は狙えるだろうけど、カリンがいるビルでは遮蔽物が多くて1人しか狙えないだろう。
「そのまま待機して、合図があれば狙える子を狙って」
『分かった』
早速行動開始と行きましょうかね。持っていたライフルバックから銃を取り出し、このビルの窓からの狙撃を狙う前に、風速機で風の方角と速度を測る。
「……南西の風、風速は大体2m辺りかな」
銃口初速、弾頭重量、抗力係数、重力、風、標高、高低差、気圧、湿度、気温、経度と方角の数値を全て頭に叩き込み、その頭の中で弾道の計算を行う。
膨大な数値と公式を暗算でやるせいか、頭と左目がゆっくりと締め付けられるような痛みに襲われる。だけど時間が無い。残りの数秒で最後の公式を解き、この位置から狙える弾道の軌跡を浮かぶと同時にライフルを構える。
アイサイト越しの光景は、急いでこの場所から離れて奥の手を出そうとしている赤いヘルメットを被った生徒……では無く、恐らく奥の手がある廃ビルだ。
「位置よし、角度よし、周囲に人は……居ないよな?」
念の為にスコープで廃ビルの周りやここで確認出来る所まで隅々まで観察する。
幸い廃ビルは外壁が崩れている所が多く、この高さなら1階と2階の内部がハッキリと見える。
予想通り廃ビルの中にはブラックマーケットから仕入れたのか、戦車が隠されてあった。あんなものをここで使わされたらこの地区の被害は大きくなる一方だ。
だからこそここで止めなければならない。戦車に狙いを定め、引き金に指をかける。
超長距離狙撃は何年ぶりだっけ……やばい、不安で指が震えるし、計算を間違ってないか不安になる。
_大丈夫、計算は合ってるし、貴方の腕なら問題ないよ
「そう言うけどなぁ……」
頭の中の声が私を諭し、不安を取り除こうとしていたけどますます不安になってしまう。まぁ……根拠の無い慰めは先生の得意技だ。そのおかげで何度かの戦いを乗り越えてきた訳だし、やれるよね。
そろそろ時間が無い。逃げてきたヘルメットの生徒が廃ビルに入り、戦車の起動準備を開始していた。
息を整え、照準の戦車のキャタピラ部分に定め……引き金を引いた。
放たれた弾丸は空を切り、ビルとビルの間を縫うように通り抜けた。
その後のビルとビルの間も通り、割れガラスに当たることなく廃ビルにある戦車のキャタピラに命中し、キャタピラの切断面が切れ、キャタピラのベルトが外れた。
「お、おい! 戦車のキャタピラが壊れてるぞ!」
「えぇ!? ブラックマーケットで調達したって言うのに……あの詐欺師めぇ〜!」
遠すぎて何を言っているか分からないけど、戦車が使い物にならなかった事を知って混乱している様子だ。こうなってしまえば、私の力はもう要らないだろう。
「カリン、撃って」
「了解」
合図を出して2秒経つと、ライフルのスコープ越しでヘルメットの女の子が1人撃ち抜かれた。
キヴォトスの生徒は丈夫だから死にはしないと分かっていても、普通なら死んでもおかしくない。カリンはまた次々とヘルメットの生徒を撃ち抜き、廃墟内は大騒ぎとなって統率力を失った。
もう彼女達に抵抗の意思が無いことを確認した私はカリンに撃ち方を止め、別の生徒に通信をいれた。
「カンナ、後はよろしく」
『了解です。あとはこちらにお任せ下さい』
スコープ越しに警察服を来た金髪の生徒……尾刃カンナが廃ビルにヴァルキューレ生徒を引き連れ、廃ビルの扉を勢い良く開けた。
「ヴァルキューレ警察学校だ! 全員その場から動くなっ!」
ヴァルキューレが来た事により、ヘルメットの生徒達は戦意を失い、降参の意を込めて全員両手を上げた。
被害も無く、無事に問題が解決した事にほっと胸を撫で下ろし、ライフルを片付ける。
_お疲れ様、相変わらずいい腕してるね
「貴方が教えたからでしょ」
いつものように先生と話しながらビルの階段を下りる。ここには私しか居ないけど、確かにここにはもう1人の先生がいた。そんな先生は、まるでマシンガンの様に話を続けた。
_ねぇねぇ、最近トリニティの生徒達とビーチに行ったでしょ? 誰が良かった?
「先生……俺、貴方と同じ先生になったんですよ? そんな邪な目で生徒は見れませんよ」
_えぇ〜? でも、ハナコちゃんの彼シャツ水着みて鼻の下伸ばしたでしょ? きゃ〜エッチ!
そう言って先生は俺の後ろで顔を赤らめ、体をくねらせた。年甲斐も無くはしゃぐ姿に苦笑いしながらビルを下り、ようやく地上へと辿り着いた。
廃ビルの扉を開けると、生徒達が出迎えてくれた。
「皆。怪我はない?」
「いえ、先生の采配のおかげで被害はゼロです。ご協力、ありがとうございました」
金髪の長髪で狼の様な耳にギザギザ歯が特徴な生徒の尾刃カンナが、礼儀正しく敬礼していた。そんなにかしこまらなくても良いのにと言ったが、カンナの真面目な正確はではそうも行かなかった。
まぁこの真面目な所がカンナの良いところだ。この子には随分とお世話になったもので……いい思い出だ。そんなカンナは敬礼を止めると、不思議そうに廃ビルの階段に目を向けた。
「……どうしたの?」
「いえ……先生、さっき誰かと会話していた様子でしたが、誰かいましたか?」
私が振り返ると、そこには誰もいない埃と瓦礫が支配している灰色で殺風景の階段があり、そこには誰も居なかった。
それは当然だ、何故なら……
最初からこのビルには私1人しか居ないのだから。
「私以外誰もいないよ? カンナの空耳じゃないの?」
「そうですか……失礼しました」
「気にしないで。じゃあ、私は仕事があるからこれにて……ドロン!」
忍者の真似をする様に手を組み、そのままライフルを背負ってシャーレへと戻っていく。チラリとカンナの方に視線を向けると、カンナはどこか納得がいかない眼差しをしていた。
_やっぱりカンナは勘がいいね。刑事の勘ってやつ?
先生はキリッとした目をしながら猫のような口をしてカンナの事を褒めるようにそう言った。
……さっきから私の隣で喋ったり歩いたりしているこの先生は、言わば私が見ている幻影だ。私以外誰も先生は見えないし、声も聞こえない。
この体になってから、こう言う事が起こるようになった。最初は驚いたが、毎日毎日こうして会話を続けていく内に気にしなくなった。
こういうのって二重人格の人にありそうな光景だけど、あいにく私は二重人格者でも何でも無い。
いや、あの人の体を使って生きているからあながち二重人格者……なのか? うーん、これ以上考えるとややこしくなりそうだから深く考えないでおこう。うん、それでいいのだ。
「まっ、そんな感じでしょう。さて……この後は……」
_あっ、見て! 新作のコスメある! 買って買って〜
ふと通りかかった店のポスターには新作のコスメが大々的に宣伝しており、化粧にはうるさい先生が目を輝かせていた。
幻影の先生は私に抱きつき、何も感じられないのにも関わらず、見た目通り頬を人差し指でつついてきた。
元々男の私に取って化粧はあまり必要ない物だが、先生にとっては命の次の次の次ぐらい大事ぐらいらしい。年甲斐も無くねだってくる姿はあまり見たく無い。
_ねぇ買って買って〜!!
「えぇ〜……」
_もし買ってくれないとえぐいほど泣き叫んで駄々こねるよ!? 良いの!?
そう言って先生は地面に仰向けで倒れ、目に涙を浮かべ始めた。
まずい、このままでは本気で赤ん坊の様に泣き叫ぶ未来しか見えない。勿論他の人には見えないけど、私には嫌でも見えてしまうから無視は出来ない。
その光景を見て良心が痛み、私は諦めて店に足を向けた。
「分かりましたから。早く行きましょう」
_やった! 貴方のそういう優しい所大好き!
「ほぼ同じ顔の人にそれ言われると変な気分ですね」
別人というのは分かっているけど、まるで自分に告白されているようで少し不思議な感覚だ。
頑張って言葉にするのなら……鏡で自分で自分の顔を見て、その鏡の向こうの自分に好きと言われていると言えば良いのだろうか。
まぁ、悪い気はしない。だって顔は似ていても別人なのだから。
「じゃあ、化粧とか分からないので、一旦主導権預けますね」
_ほいほーい。コッスメ〜コッスメ〜♪
目を閉じて深呼吸すると、目の前が暗転する。
そして目を開けると、そこには三人称視点の景色が広がった。
薄い空色の髪で、インナーカラーで桃色を添えている長髪と黒いコートを身にまとった女性が目の前にいる。
そう、私だ。
「んっ……んん〜! 久しぶりに体を動かせますな〜! さーて、早速お部屋に入ろう!」
体をグイッと伸ばした後、心を踊らせながら私の体の主導権を握った先生は早速部屋に入り、先生についていくように景色は動いていく。
これがこの体になって出来ることのひとつ。意志の入れ替えだ。いや、性格には先生の魂をこの体に移している。
この体は確かに私のものであり、先生はもう死んでいる。しかし、一旦この体を先生に預ける事もできる。
先生の体を使って生き延びたせいなのか、それとも先生自身が特別なのか分からないが、事実こうして体を預ける事はたまにある。
例えば、今回みたいに化粧品を買いに行ったり、スイーツを食べたり、たまに起きる室内戦で体を貸している。
……そして、これのせいで私の性格に誤解を持たれているのは事実だった。
例えば、このキヴォトスにはゲヘナという学園があり、そこにはイオリという生徒がいるのだが……その子相手に足を舐めたり、セクハラ行為を働いてたりしてる。
そのせいで私の人格像が場所ごとに違い、ちょっと苦労している。因みにどうして先生がそんな行動しているのかは不明。
そんな中で店の中に入ると、店内の甘い匂いが少し鼻に広がった。桃色のエプロンを来た帽子をかぶった店員が元気よく接客してくれた。
「いらっしゃいませ……っっ!?」
その声はとても聞き覚えのある声だった。低いながらも女性らしさのある声は聞き待ち構え用が無く、恐る恐るピンクのエプロンを来た店員に顔を向けると、そこには赤面して身体を震わせたサオリ……錠前サオリがいた。
「せ、せせせ……先生っ!?」
呂律が回らない程驚きながらも、サオリはすぐ側の棚の裏に隠れた。棚に背を向け、後ろ向きで私の事を橋目で様子を見ているが、私は構わずサオリと目を合わす為にサオリの元に足を運んだ。
「あっサオリだ。バイトかな? えっ、何そのエプロン可愛ね! 一緒に写真撮る? というか撮りたいんだけど!!」
「こ、これはこの店の制服と言うから着てるだけで……」
「モジモジして可愛いね」
先生の言う通り、こういうサオリを見るのは新鮮なせいか確かに愛くるしさはあった。まだぎこちない着方に慣れない接客姿は初々しく、応援したくなる気持ちが湧き出て思わず笑みかこぼれた。
「な、何を笑ってるんだ!」
「あはは。まぁまぁ怒らないでよ。じゃあ私、商品見てくるから〜」
サオリは帽子を深く被って赤くなった顔を隠し、新鮮なサオリを見た先生は満足した笑みを浮かべながら新作のコスメを探した。
「いや〜サオリがこういうお店で働くなんて……私感動で涙が出ちゃうよ」
_そうですね。……前は契約書を見ずに騙されたりとかしたり、1人で抗争とか止める無理難題を押し付けられたりもしましたから。
「だからこそ嬉しいのよ。サオリも、アリウスの皆も、頑張って成長している。教師にとって生徒の成長って、何よりも嬉しいものだと思わない?」
_……ですね
アリウス……アリウス・スクワッドという、キヴォトスではもう無くなった学校であり、同時にキヴォトスではテロ組織的な意味合いを持っている。
細かい経緯は省くが、このアリウス・スクワッドはキヴォトスに最悪の事件を引き起こし、私の命を奪い掛けた過去がある。
だけど、それは心無い大人の間違った教育によって引き起こした出来事であり、彼女達自身は悪くは無い。
だけど彼女達は過ちに向き合い、それぞれのやり方で今も生きている。今は何をしているのだろうか。
クールなサオリがこんな可愛い所でバイトしているのを見たら、どう思うのだろうか?
そう考えたら、笑みが止まらなかった。
「んー? 何楽しそうな顔をしてるのー?」
_なんでもないですよ。それよりも、2つも買うんですか?
先生の手には2つのコスメがあった。1つは新作の物、もう1つは別のコスメがあった。
_2つも買うんですか?
「んー? これはね、サオリの分。サオリって化粧したら絶ッ対に可愛いと思うの!」
確かにサオリの顔立ちは美人だ。キリッとした目が特に印象的で、初めてみた時は抜きみの刀のように鋭かった覚えがある。
それ故に少し怖がられる所はあるけど、仲間からは信頼されており、決めたことは曲げないとても良い生徒だ。
それに、知識に対しての吸収力も高く、何かを教えるのも上手い。将来はきっと、良い先生になるだろう。この人みたいに……
「さーて早速買おうっと。サオリ〜お会計お願い〜!」
そんな先生はレジへと向かい、わざわざサオリを呼び付けるように会計をお願いした。