ブルーアーカイブ RE:teaching 〜男でもあり女でもある先生は嫌いですか?〜   作:白だし茶漬け

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釣り人は何を教えるか

 救えなかった。

 

 守れなかった。

 

 私には何の力も無かった。

 

 ただちょっと人よりも射撃が上手くて、敵を何度も倒す事が出来るだけで、戦場は1人の力では何も変わらない。

 

 青い空の炎天下の中で、腐った死体は蛆虫に食われて酷い臭いを出しながらその場に佇んでいた。

 

 死体は1つでは無く、2つあり、片方が片方に寄り添うかのようにしていた。

 

 顔もぐちゃぐちゃで眼球が取れた穴には有象無象の虫達の住処になっているけど、不思議と羨ましさを感じた。

 

 私も大切な人が出来たら、こんな風に誰かと寄り添い会う事が出来る死が訪れるのだろうか。

 

 もし理想な死があるとすれば……私は……

 

 

 

 

 

 ______

 

 

 ____

 

 

 __

 

「……また先生の夢か」

 

 先生の体を繋いで出来たこの身体になって、度々こんな夢を見るようになった。

 

 先生の過去なのだろうけど、先生はまるで死にたがっているようでもあった。

 

 この夢について聞いても先生は何も答えてはくれず、ただ沈黙を貫くだけなので聞くだけ無駄だ。よくある事だと割り切って、今日も俺は意識を覚醒させ、朝を迎える。

 

 顔を洗って、コンタクトをつけて、そして勝手に動く両手になされるがまま簡単な化粧をされる。

 

「……先生、勝手に俺の手を動かすのやめてください」

 _えー、だって貴方に任せたらすっぴんのまま勤務することになるからいやー! 

「でもこのメイクもほぼすっぴんみたいなものじゃないですか。変わりませんよ」

 _いーや! 女の子はこういうちょっとが気になるの! 

 

 自分の中にある【先生】と会話しつつ、勝手に動く腕によって俺の顔は少しだけ変わる。肌は美しく、目元は肌の色と変わらないアイラインで綺麗に見せ、薄い口紅を塗って潤しく魅せる。

 

 後は手を入れていない本当にすっぴんの状態だ。あまり変わらないんだから洗顔だけで充分だと毎回言っているんだが、先生は聞かずに俺の腕だけを乗っ取って化粧している。

 

 感覚的に言えば、先生に化粧されていると思った方が良いだろう。どうする事も出来ないから、もう諦めて従っている。

 

 _でもキヴォトスの化粧品って凄いよね〜。料理を食べても口紅が取れないけど、付属のクリームを塗ると簡単に水で落とされる。流石、ミレニアムのエンジニア部! 

 

 先生はウキウキした声色で化粧を終え、腕の自由が元に戻った事を確認し、携帯で今日のスケジュールを確認する。

 

(今日はミヤコ達のところに行く約束か)

 

 SRT「Special Response Team」(特別対応チーム)の頭文字をとった特殊部隊で、政治的中立を志向した法執行機関の学園だ。

 

 キヴォトスでは何かと犯罪が絶えず、正直治安は最悪だと言っていい。そんな治安維持に当たっているのが、ヴァルキューレ警察学校だ。しかし、公に出来ない事件、またはヴァルキューレでは対応できない案件を担うための特殊部隊の運用と養成を主目的としたエリート校、それがSRTだ。

 

 ……しかし、連邦生徒会長失踪に伴ってSRTの活動に対して責任を負う存在が不在となってしまったことから、宙ぶらりんとなったSRTの武力に危機感をもった連邦生徒会内での協議の末に、閉鎖が決定されてしまった、

 

 SRTの力は他の学園と比べてかなりレベルが高く、個人的に最も力が強い学園だと思っている。

 

 ほかとは違って訓練を重ねているんだ、それは強いに決まっている。そんな学園が好き勝手暴れられると考えたら……解体はやむ無しだ。だが、解体されても生徒はいる。

 

 今日会うのはそんな生徒達……ラビット小隊と呼ばれる四人の生徒だ。

 

 彼女達を見ているとむかしを思い出し、過去の自分と重ねてしまう。昔……キヴォトスの外の世界で無意味に戦っていたあの血なまぐさい戦士になった自分を……

 

 先生も同じ事を思いだしていたのか、先生も彼女達の事を気にしていた。

 

 今日で食料が心許無くなっているはずだからと、前もって用意していた食糧をダンボールに詰め込み、後はドローンで彼女たちがいる公園へと運べば、朝の予定は終わりだ。

 

「……このままでいいんだろうか」

 _どうしたの? 

「いや、このまま与え続けるのもどうかなと思って」

 

 時折こうして食べ物や弾薬を差し入れをしているが、果たしてそれは生徒の為なのだろうか。

 

 よく聞く話だ。釣り人が他人に魚を与えれば、与えられた者たちは釣り人に縋り、責任を押し付ける。

 

 だけど釣り人が魚を釣り方を教えれば教わった人は自給自足が出来て、自立が出来る。

 

 俺がやっている事は魚の釣り方を教えずただ魚をあげているだけの行為に等しい。先生として、大人として堕落に導く事をしてはいけない。

 

 だが案がある訳でも無い。恥ずかしい事に生徒達の年齢の時には青春を謳歌した覚えが無いからアドバイスらしいアドバイスを出来るかは不安だ。

 

「先生、どうしたらいいと思います?」

 _今は貴方が先生よ。

 

 そう言って先生は何も答えてくれなかった。どうやら自分で考えろと言いたいらしい。

 

 まぁ、確かに今の先生は俺だ。俺の言葉じゃないといけない。

 

 と言われてもなぁ……どうしたらいいものか。頭を悩ませながら机に突っ伏していると、昨日の夜もらったポケットティッシュに書かれたバイト募集の文字が目に映った。

 

「……あ、そうだ」

 

 ___

 

 __

 

 _

 

「1番卓にナポリタンのオーダー入ったぞ!」

「3番はBランチ! 6番がAのサラダに和風ドレッシングです!」

「客が止まらない……ここは戦場か!?」

 

 止まらないオーダー、そして入れ替わりの激しい客足にサキが悲鳴をあげていた。

 

 他のラビット小隊の面々もサキと同じ言葉を口にしつつも、忙しさに飲み込まれないようにせっせと働いている所を、奥のテーブル席で見守っていた。

 

 俺が提案したのはとあるレストランのバイトだ。

 

 ここのレストランはどうやら従業員が突然のストライキで経営が止まっているらしく、一週間の短期でもいいからバイトを雇いたいらしい。

 

 かなり焦っているのか、短期バイトにしてはかなりの高額な賃金だ。これを4人でやれば備蓄も蓄えられる。そして何より健全だ。

 

 やれ銀行強盗やら、やれ物資の横領とかよりかは遥かにマシだ。

 

「ん、銀行を襲った方が早い」とシロコの幻聴が聞こえるのは気のせいだ。

 

 ラビット小隊の皆はバイトの提案を二つ返事で受け入れてくれて、今は忙しくしてる訳だ。

 

 ……にしてもすごいなここのレストラン。休みの昼時だからというのもあるが、立地もいいから人が雪崩こむのは容易だ。

 

 生徒だけではなく、一般人も多くこの店に出入りしていて賑やか……だが、やはりその弊害に行くのはその客自身だった。

 

「料理遅いな……腹減った」

「おい! 注文無視すんなよ!」

「早く席空けろよ……」

 

 こういった苛立ちの声が上がるのは必至だった。毎回毎回このようなクレームや忙しさがあるのだから従業員がストライキするのも無理は無い。

 

 ……けど、今は違う。何故ならここには頼りがいのあるバイトが【6人】いるのだから。

 

「オーダーは私が取るから、バッシングお願いね!」

「料理の提供は済んだ。次までには余裕があるはずだ」

「ありがとう〜セリカちゃん、サオリちゃんー!」

 

 偶然にもここにいたセリカとサオリが良い動きをしていた。

 

 やはりバイト経験が多いとほかの所にもその経験は活かしやすいのが目に見えて分かり、日頃から頑張っているんだなと父親目線でついつい見てしまう。

 2人の動きにキッチンで料理している従業員が涙を流しながら感謝していた。

 

 もちろんミヤコ達も負けてはいない。SRTの日々の訓練とチームワークによって協力し、客をスムーズに案内し、食器も迅速に片付けられて上手く店を回してくれている。

 

 こうして、頼もしい助っ人と共に激戦の時間をくぐり抜け時は流れ去っていった。

 

「ふぅ……疲れた……」

 

 サキが大きく息を吐き、それに続いてみんなも安堵の息を漏らした。

 

 準備中という名の休憩時間に皆は休憩室で体を休め、俺はそんな皆の為に差し入れを渡していた。

 

「お疲れ様、皆」

「せ、先生!?」

「なんでアンタがここにいるのよ! やっぱりストーカー!?」

 

 セリカがフシャーと猫のように威嚇しながら後ずさりし、皆から引き気味の目線を向けられた。

 

「ち、違う! たまたま。私はミヤコ達にここのバイトを教えて様子見ていただけだって」

 

 いつもの服ではなく、バイトの制服姿のミヤコ達に目を向ける。

 ミヤコは心なしか嬉しそう小さく手を振り、ピークを過ぎて今は客が来ない束の間の休息を過ごした。

 

「それにしてもここの賑わいは凄いね……いつもこうなの?」

「ああ。安くておいしい、しかも立地もいい。客にとっては都合の良い店だからな」

 

 サオリは淡々と店の事を話してくれた。

 メニューの値段、質、サービス、立地、その他諸々の事を教えてくれた。だけど客がなだれ込んでくる最大の要因は……

 

「無駄にメニューが豊富すぎない? ここ」

 

 生徒全員が一同に頷くほどの最大の理由がこれ、メニューの多さだ。

 和洋中の料理はもちろん、麵系から丼系まで多彩であり、ついでにデザートもあるときた。これによって客層の幅広い取得が獲得できているのだが……そのぶん、客が多くなるのは必須だった。

 

「そのせいでみてよ先生。このマニュアルの多さ。覚えるの大変だよ」

 

 モエが持っていたこの店のマニュアルは少し分厚く、しかもこれは全て料理マニュアルだ。

 ……だめだ、流石にこれは半日じゃ覚えきれない。メニューが多い分使う食材も作る工程も多くなる。これじゃ店員は潰れてしまう。

 

 ミヤコ達を助けるどころか苦しませてしまった罪悪感に苛まれていると、1人の一般人がこちらにやってきた。

 一般人といっても、頭はロボットの一般人だ。……だんだんここの常識に染まってきて最初に驚いた記憶が懐かしくおもってきた。

 

「失礼します。シャーレの先生でしょうか?」

「ええ。貴方は?」

「ここの店長です。すみませんお時間よろしいでしょうか?」

 

 何やら深刻そうな表情を浮かべたロボット店長に対し、私は二つ返事で返し、生徒達を一旦ここから離れさそうとしたが、店長は逆に聞いて欲しいと言って生徒を留まらせた。

 

「実は折り入ってお願いがあって……」

「お願い?」

「はい。オーナーをどうにか説得して欲しいんですよ」

「オーナーを説得ですか……」

 

 なるほど、何となく話が見えたような気がする。

 

「察している通り、私達のお店はかなりキツい状態です。金銭面的な話ではなく、労働的に」

「確かに……これを毎日って言われるとしんどいわね」

 

 セリカが疲れきった声で椅子に座った。

 だけど目に見えては疲れておらず、他の生徒もまだまだ余裕そうだ。

 だけどそれは生徒のバイタリティがあってこそだ、一般人には応えるだろう。現に、生徒以外の従業員は今バックヤードでグロッキーになっている。

 

「ええ。従業員の負担は増すばかり……なので、シャーレの先生にこれ以上負担をかけないようにとオーナーに説得をと……」

(……先生、どう思いますか)

 _うーん、何とかしてあげたいなとは思っているけど、ウチって完全中立でしょ? 一個企業に肩入れするのはどうかなって思うな。

 

 先生の言う事は一理あった。シャーレは完全中立であり、どこかに肩入れする事は無い。

 それと、説得だけと言ってもシャーレの先生が一企業に肩入れをしたという噂が広まるとそれはそれで面倒くさい事になる。

 

 心苦しいがこちらから何かしらアクションをする事は出来ないと断りを言おうとしてしたその時、店の扉が開かれた。

 準備中の掛札があったのを見えなかったのか、或いはそれを気にしない程の立場なのかと扉に注目すると、高級そうなスーツを身にまとった少し小柄なロボットが現れた。

 

「お、オーナー! 本日は来客の予定は無かった筈ですが……?」

「いやぁね、君の店にストライキが起こったと言うから様子を見に来たんだ」

 

 一見和やかな雰囲気の人だが……オーナーの様子がおかしい。微かな怯えと距離を離そうとしている仕草で、オーナーの今の顔が仮面を被っている性格だと理解した。

 

 _なーんか、嫌な感じ

(同感です)

「おや? そこにいるのは生徒さんかな。なるほど、生徒のバイタリティならどんなに働かせても良いって訳だ。ハッハッハ!」

「いや、彼女達は臨時のバイトでして……オーナー、やはり今の労働環境を見直さないと従業員は……」

「心配要らないよ。変わりを増員させる。ストライキした人達は全員クビにすれば解決さ」

「はぁ!? それじゃ店の人があんまりじゃない!」

 

 この場にいたセリカが机を叩き、勇敢にオーナーに言葉を向けた。

 他の生徒たちも、セリカと同じ言い分なのか、オーナーに対してはよくない顔を向けた。

 

「大体、貴方がこんな劣悪な労働環境をさせてるのが問題じゃない! 皆困ってるのよ!」

「はぁ? 困ってるのかこっちなのだが。考えてもみたまえ、突然従業員が働くのを止めたんだぞ。そのせいで廃棄になる食材や、店の売り上げが落ち、はたまたこの後のイメージを損ねることになる。そんなことも分からないのか」

「元はと言えばそっちが……」

「セリカ、やめるんだ」

 

 これ以上セリカが何を話しても平行線になる。セリカを落ち着かせ、話を無理にやめさせると、オーナーはディスプレイの眉の上に怒りマークを浮かばせながら、セリカをにらんだ。

 

「フン。まぁいい。とにかく、ストライキした奴らは全員クビだ。来週には帰るから準備しておけ」

 

 オーナーはそのままバックヤードから帰っていき、店長は止めて息をすべて吐き出すようにして

 近くの椅子に座る。

 

「はぁぁ~……スト中の皆になんていえばいいのか……ああ、あのオーナーの悪態が証明できれば……」

「先生、そのストライキ中に解雇されるとどうなるんだ?」

「ケースバイケースだけど、正式なストライキで不当な解雇はない。ちゃんと手当は貰えるけど……」

「けど?」

「正直あのオーナーは不当なものとして扱うんじゃないかなぁとは思う」

「そんな! そんなのあんまりです……」

 

 ミユの言うことはもっともだ。だが、こちらの介入が出来ない以上、手は出せない。

 どうしたものかと悩んでいると、ミヤコがこちらを見て何かを言いたそうにしていた。

 

「先生。私はこんな不当なことを見過ごせないですし、見過ごしたくありません」

 

 正義感の強いミヤコはこの不当な扱いをされ続けている店員と店長をみて、正義感が振るわせていた。ミヤコだけではなく、ラビット小隊全員もミヤコと同じ気持ちなのか、同じように力強い目をしていた。

 

「……どうするつもり?」

「あのオーナーの悪態を見つけて、それを公表します」

 

 確かにあのオーナーは見るからに叩けば埃が出るほどの悪い事をしているのは明白だ。現に、ここの店を初めとした他系列店でオーナーの情報をシッテムの箱で調べた限り、言い噂は聞いていない。

 

 恐らくはこの重労働が可愛く見えるほどの悪態をしているのは間違いない。

 それにミヤコの正義感を尊重したい。それは本当だ。先生として生徒の自主性を重んじるのは大切な事だが……それ以上に生徒には安全に健やかに成長して欲しい。

 

 オーナーの情報からして、身の回りの警備はかなり厳重にしている事は予想出来る。

 悪態をしていると自覚しているが故の防衛本能だ。

 

 しかし悪態を暴くと言うことはつまり、その厳重な警備を突破するという意味にも繋がる。

 

 SRTであるラビット小隊の実力を過小評価している訳では無い。出来ることなら悪態は潰したい……だが、どうしても生徒の安全を確保したい自分もいた。

 

「先生には迷惑をかけません! ……なんなら、先生がダメだと言っても、私はやりますから」

 

 言葉に詰まっていた所でミヤコが更なる追い打ちをかけてきた。

 

「……私が勝手にやった事ならば、シャーレにも先生にも迷惑はかけられない筈です。だから……」

「なら、私も同行しよう」

「さ、サオリさん?」

「私は訳あってアウトサイダー(はみ出し者)の身だ。協力出来るかもしれない」

「わ、私も協力する! こんなの黙っていられないわ!」

 

 サオリとセリカも協力する形となり、いよいよ止まることはなかった。

 早速ミヤコ達は計画を練っており、店長も有難く思っているのか、ミヤコ達の後押しをした。

 

 ―これは、先生としては引率した方が良いんじゃない? 

「……ですね」

 

 どうやら……久しぶりに本気で引率する必要がありそうだ。

 

 

 

 

 ──-その日の夜。

 

 闇に紛れるような黒い臨戦装備。夜の中でも見える暗視ゴーグルにコンパクトナイフ、ハンドガンを携帯する。

 今回は隠密作戦だから、それほどの火力は要らない。

 シャーレの先生がこんな事してるとバレたら大騒ぎ。かといって、ミヤコ達が危険な所に行くというのに、放っておく訳には行かない。

 

 向かった先は昼に出会ったオーナーが所有している高層ビル。そこの最高層がオーナーの部屋なのが調べて分かったことであり、ミヤコ達もそこに向かうだろう。

 私がやることはそのサポート兼、脱出経路の確保だ。

 

 まぁ、ミヤコ達とサオリがいるからそこまで心配は要らないと思うが一応のお守りはしないと気が済まない。

 

 彼女達はまだ子供だ。一般人よりも頑丈だとしても、特殊な訓練を受けて強かったとしても、大人が守るべき子供だ。

 

 子供の未来を守るのが大人の役目だ。……まぁ、その役目を果たすのだったら、こういう事を止めるべきだと思うんだが。あの時のミヤコは止めれると思って止められるものでは無い。

 

 それならいっその事全力でサポートするのが、大人だ。

 

「夜戦は久しぶりだな……」

 

 物思いに耽る中、前方の曲がり角から規則的な足音と駆動音が耳に入る。近くの壁際まで背中を合わせ、手持ちのスタンガンを右手に構えて何時でも気絶させるように待ち伏せをする。

 

「……ん? 誰っd……ぐはっ!」

 

 巡回中の警備手早く無力化し、一応弾薬をその辺りに捨てる。後は知らない誰かがこいつを起こすだろう。

 人間とは違う急所をうまく狙えて、キヴォトスでの戦いにも慣れなものだと自負する。最初は戸惑っていたのにな……。

 

「さて、皆はどこにいるんだ……? アロナ、わかる?」

『はい! お任せください!』

 

 機械音声で元気よく声を出すアロナは、このビルの監視カメラの制御を掌握し、ミヤコ達の姿を映した。

 

『およそ20分前に14階まで辿り着いてます! このままいけば、最上階まではおよそ38分ほどで到着します!』

「20分で14階……結構早いな」

 

 流石はラビット小隊とアリウススクワッドのリーダーに、セリカといったところか。本当によくできた生徒だ。……『俺』とはずいぶんと違う。

 

 そこまで早いならここを脱出するのも早いはずだと考え、予定よりも少し早いが、脱出経路の確保に向かう事に決めた。

 

「アロナ、セキュリティの状況は?」

『えーと、カメラや警報機の機能がダウンしてるみたいです!』

「モエのハッキングか……なら、その辺のサポートはいらないな」

 

 通りで警備が普通の状態だと思った。警備のシステムのハッキングしているのなら、脱出ルートの確保も容易な筈だ。

 

「ミユの狙撃位置……あのビルか?」

 

 推定でも数千メートル以上先には小粒程の大きさに見えるビル。恐らくあの屋上からミユはミヤコ達の掩護をしているはずだ。常軌を逸した射程だが、ミユは射程距離の倍以上からの狙撃を可能にする腕前をもっている。こっちも狙撃には自信あるんだが……ミユ程ではない。

 

 それにミユは目がかなりいい。もしかしたらスコープ無しでもこの場所を見渡している……かもしれない。

 

 生徒にもバレたら少し面倒だ。なるべく物陰に潜みながらもミヤコ達の脱出ルート確保に移行しようとしたその時、突然のビルの入口に大量の警備員とドローンが押し寄せるようにして入っていくのを目にした。

 

「緊急! 緊急! 最上階に『6名』の侵入者がいるとの通報を得た! 見つけ次第確保せよ!」

 

 恐らく司令塔らしき警備ロボがそう叫びながら数々の警備ロボを引き連れ、最上階へと向かって行った。

 

「もうバレたか?」

 

 だけど早すぎる。モエのハッキングがバレた様子も無い。通報を得たと言うことは、何処からか情報が漏れた……? いや、そんな事よりもこれはまずい。

 

 このビルは構造上、脱出ルートは非常階段に絞られる。つまりそこを抑えられたら最上階にいるミヤコ達の逃げ場は無くなる。

 ヘリを使えば脱出ルートは増える筈だが、恐らく今の作戦にヘリは使われていない。

 

 この状況でミヤコ達がとる脱出方法は……なんだ? 

 

 彼女達ならどう対応するか考えるべく、今までの傾向を頭の中で掛け巡らせる。ミヤコなら、サキなら、サオリなら、セリカならどうするか。

 

 生徒の事を第一に考えている先生ならこれぐらい、

 

「アロナ、このビルの変電設備があるところは?」

『地下1階です!』

「ここの電力を落とす。アロナ、なるべくミヤコ達の同行をチェックしてくれ」

『任せてください!』

 

 電力を停止させ、一瞬でも警備達の混乱を誘う。後はミヤコ達の能力を信じて……いや、心配はいらないだろう。

 あの4人だったらこの援護だけでこの状況を乗り越えられる確信はあった。なんて言ったって自慢の生徒達だ。

 

「それにしても……【6人】か」

 

 警備がいっていたあの言葉が気になりつつも、誰にも見つからないようにビルへと近づく。

 監視カメラなどのセキュリティがモエによってハッキングされているなら、カメラに見つかったらモエにバレてしまう。だが、変電設備がある地下に扉のすぐ傍には監視カメラがあり、死角もなければ障害物はない。

 

 だが、恐らく警備は最上階にいるミヤコ達に気を向けている筈だ。なら、強行突破は可能だ。

 弾丸を跳弾に変えて銃に装填し、大理石の壁に向かって銃口を向け、引き金を引く。

 

 警備員たちの足音とサプレッサーによって発砲音は誰の耳にも届かず、跳弾は壁を反射させてカメラを撃ち抜く。カメラのフレームに風穴が空き、断線されたコードから火花を散らせる。

 

 警備員がこっちを向いていないか確認した後、滑り込むように変電設備に続く扉を開き、その中へと入ると、輝く大理石の部屋から一変し、薄暗い廊下が俺を出迎える。

 

「さっさとやるか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこにも証拠らしきものがありませんね……」

 

 難なくビルの最上階に到達したミヤコ達はオーナーの不正や悪事に繋がりそうな証拠をくまなく探していた。しかし、これと言ったものはあまり見つからず、ミヤコ達の捜索は続いた。

 

「こういうのは金庫に隠してあるのが相場だな!」

「意外と机の中にあったり!」

 

 サキとセリカはそれぞれ怪しいと思った箇所を調べたがそもそも金庫は無く、机の中はありふれた資料だけであり、二人は両膝をついてがっくりと肩を落とした。するとその場ばにいたサオリが何か気づき、椅子に向かっていく。

 

 椅子を横に向け、裏の方には小さなボタンがあった。何のためらいもなく押すと、椅子の全面が開き、ファイリングされた資料がミヤコ達の前に現れた。

 

「サオリさん、凄いですね」

「後ろめたい物は自分の手元に置くタイプだとみたからだ。……これは、確かに後ろめたい物だな」

 

 サオリは手に取った資料を机の上に広げ、ミヤコ達に情報を共有した。

 

「これって……」

「予想以上にとんでもない物が見つかったな……」

 

 資料の内容を見たミヤコは内容をモエに送るためにスマホでデータを送った瞬間、このビルに警報が鳴り響いた。窓ガラスに逃走を防ぐためのシャッターが下ろされた。

 

「rabbit2から3へ! 状況は!?」

『やばい! 突然警備隊がそっちに向かってる! 通報されてきたって言ってるけど……』

「通報? 誰によ!?」

 

 セリカが叫んでも状況は変わらない。こうしている間にも警備隊は着々とミヤコ達を追い詰めていき、距離を縮めさせていく。

 

「rabbit1から4。そちらから見て私たちの状況はどうなっていますか?」

『シャッターが降ろされてこっちからじゃ把握できないよぉ……』

 

 ミユの目には閉ざされたシャッターしか映らず、完全にミヤコ達を視界に捉える事が出来なかった。

 

『ただ、入り口から多くの警備員数名が来てるのは確認したよ。後……何人か生徒の人達も来てた』

「他校の生徒……?」

 

 何故生徒がこの場所に介入しているのかとミヤコは疑問に思った最中、モエが通信に割り込んでミヤコ達に状況を伝えた。

 

『ヤバイよ。騒ぎに気づいた警備員が一斉にこっちに来てるよ』

「ど、どうするつもりよ!? 急がないと!」

「いたぞ! 侵入者だ!」

 

 セリカが慌てるのと同時に警備員の1人がミヤコ達を発見し、後から合流した警備員が一斉にライフルの銃口を彼女たちに向けた。

 

「あとの二人が見えないぞ!?」

「構わん! まずは侵入者の確保だ!」

 

 警備隊はライフルを構え、ミヤコ達に引き金を引く寸前、警備の足に何かワイヤーが切る音と何かのピンが弾かれる音が響く。

 

 寸前に廊下の隅に爆発が起こり、警備員は爆発によって吹き飛ばされてしまう。

 その爆発にミヤコ達も驚き、爆発の発生地点に張り巡られたワイヤーに気づき、爆発に驚かないサオリを見たミヤコは、トラップを仕掛けたがサオリだと気づく。

 

「ワイヤートラップ!? いつから……」

「廊下に入る前に簡素だが仕掛けておいた」

「手際が良いな。それに、これで少し足止め出来たんじゃないか?」

「いいえ、小規模なので足止めもそれ程出来てないでしょう。皆さん、敵勢力の迎撃を!」

 

 ミヤコの合図で全員一斉に引き金を引き、鉛玉の嵐が警備隊に襲いかかる。

 銃声が鋭く鳴り響き、乾いた音が廊下の間に反響する。

 遮蔽物が無い長い廊下では、一発の負傷が命取りになるが、ミヤコは弾幕の嵐を掻い潜りながら、正確に警備隊の急所を狙い撃ち、次々と膝をつかせる。

 

 サキもポイントマンらしく前線で火力を押し付けるように敵陣に深く突撃し、次々と無力化していき、サオリも得意な屋内戦闘で無類の強さを発揮していく。

 

 SRT「Special Response Team」の名に恥じない動きにセリカも負けじとライフルを撃ち続け、警備隊を無力化していく。

 

 警備隊も応戦するが、相手はキヴォトスの生徒達だ。強靭な身体に数々の戦闘を経験している生徒達にとって敵ではなかった。

 

「くそっ! おい、バイトの奴らを出せ!」

 

 警備の一人がそう叫ぶと、廊下の奥から頭にヘイローを浮かべた者……つまり、生徒が現れた。後から現れた生徒は顔を隠すようにヘルメットやガスマスクを装着しており、顔は全く見えなかった。

 

 顔が見えなくても、ヘイローに見覚えがあればその生徒が誰なのかは分かる。だが、ミヤコ達は出てきた生徒のヘイローに見覚えは無く、全員初対面なのは間違いなかった。

 

「あいつらを倒せば、バイト代がたんまり入るって話だ! やれやれ!」

 

 バイト代の為に躍起になるヘルメットの生徒たちはミヤコ達に一斉に攻撃する。遮蔽物が無い中、この弾幕を避けるすべは無い。

 

 ミヤコ達は弾幕を避けるため、逃げ場の無いオーナー室へともう一度避難してしまった。その際、少しでも時間を稼ぐ為、サオリは手榴弾を警備隊に向かって投げ込んで隊列を崩れさせ、ここへの突入の時間を稼いだ。

 

 オーナー室に入ったミヤコ達は突入されない様にその場にあった机や本、金で作られたオブジェクトを扉の前に移動させたが、これも時間の問題だろう。

 

「や、やばいわよ! このままじゃ私達袋のネズミにされちゃう!」

 

 ただ1人セリカが慌てる中、3人は脱出の為に頭を捻って考える。

 するとミヤコは何か思いついたのか、シャッターが下ろされた窓に触れたり叩いたりしてシャッターの強度を確認した。

 

「rabbit1から4。こちらの現在位置を把握は出来てますか?」

『う、うん。レーダーでは見えてるよ』

「私達はこれからこのシャッターを破壊して窓から飛び降りて脱出します。そちらは狙撃で援護を頼みます」

「なるほどその手があったか」

「そうだな! その手があったな!」

「確かにそれなら脱出できるわね!」

 

 良い考えだと全員が賛同し、サキとセリカは笑顔でミヤコの肩に手を置く。ミヤコは絶賛されて嬉しく思い、頬を赤らめて笑顔になった次の瞬間、2人の笑顔が一気に変わる。

 

「「ってなるかー!!」」

 

 賛同なんてする訳が無い。そサキとセリカの顔にはそんな言葉が顔に書いているように見える程の怒りをミヤコにぶつけ、爆発させた。

 

「こんな所で飛んだら私たちでも大怪我じゃ済まないぞ!」

「そうよ! もう少し命大事にしなさいよ!」

「2人共落ち着け。大声を出したら敵に詳しい居場所がバレてしまう」

「というかなんでアンタは賛同してるわけよ!」

 

 セリカはサオリに指を指してツッコミを入れると、サオリは首を傾げた。

 

「……?? 良い考えだと思うが」

「え、本当に言ってる?」

「この高さなら腕を犠牲にすれば逃げられる」

「本気で言っているな……この目は」

 

 冗談という物が備わっていないサオリは本気でここから飛び降りる事を覚悟していた。だがミヤコは何も無策で飛び降りるとは言っておらず、とにかく話を聞かせる為に皆より一歩前にでて、割り込むようにして立ち位置を変えた。

 

「落ち着いてください。rabbit2。ファストロープありましたよね?」

「あ、あぁ」

「ではそれを使ってここから降ります。私のものと合わせればギリギリ着地は可能です」

「けどそんな事すれば……」

「敵に狙撃されるな」

 

 サキが答えるより早く、サオリがその後の言葉を言った。確かにロープを使えば安全に脱出が可能にはなる。

 だがその間、無防備になるのは確実だった。

 右手が完全に使えない状況になってしまうかつ、見下ろされての射撃戦は明らかに不利だからだ。

 あまりにも危険な脱出方法であり、ミヤコは成功確率を高める為にある提案をした。

 

「降下の危険度を下げる為に、Rabbit4の狙撃で援護してもらいます。ですがそれも限界があるので、降下するギリギリまで敵対勢力を排除します」

「シャッターはどうする」

「爆弾を使って開けます。この程度なら破壊できますから」

 

 ミヤコはシャッターに爆弾を取り付ける。タイマーを設定し、皆は安全な距離まで下がる。

 タイマーが作動した爆弾はミヤコ達が通れる程度の風穴を開けさせ、空いた場所に空気が流れ込み、ミヤコ達の髪を暴れさせる。

 

 時間が迫っている為かサキは口を結びながらミヤコの案に乗っかり、ファストロープを結び、穴からロープを下ろした。

 

「ほ、本気!?」

「やるしかないだろ! 大丈夫だ。ちゃんと固定して背負ってやるから」

 

 まずはサキとセリカから脱出しようとしたその時、扉をせき止めたオブジェクト達が吹き飛ばされ、扉が勢い良く開かれた。

 

「もう逃げられないぞ! とっとと捕まりな!」

 

 バイト達と警備員がとめどなく入る中、ミヤコとサオリがサキとセリカの前に立ち、応戦していく。

 

「早く降下を! ポイントcで合流しましょう」

「分かってる! ほら行くぞ!」

「うぅ……分かったわよぉ!!」

 

 覚悟を決めたセリカはサキに担がれるようにして抱かれ、サキは滑るようにして穴に飛び込み、右手で力強くロープを握りながらビルを降下していく。

 

 訓練を受けたサキにとってこの程度の重量はものともせず、右手の力だけで垂直降下の速度を操る。

 僅か数秒もの垂直ジェットコースターを終え、サキとセリカは地上の警備員に見つからないように急いでその場から立ち去る。

 

 残りは2人だけとなり、戦力差が見え始める中でミヤコとサオリは互いにカバーし合いながら善戦するが、狭く逃げ場の無い状況が続く中、弾薬も心もとなくなる。

 

 このまま抵抗するのは不可能と、唇をかみしめながらミヤコは判断し、サオリに脱出を促した。

 

「貴女も早く脱出してください! ここは私が何とかします」

「……それは出来ない」

「なっ、どうして!?」

 

 予想外の返答にミヤコは一瞬引き金から指を離してしまい、敵の弾に左頬をかすめられてしまう。それを皮切りに敵が一斉に攻撃をし始め、蜂の巣になる所をサオリがミヤコの頭を押しながら社長室の机に隠れ、蜂の巣を免れた。

 

 机を盾にサオリは応戦し、狭い室内のおかげで狙いが付きやすいのか、サオリの弾は確実に相手に命中していく。だが、このままでは囲まれるのは必須であり、脱出するためのロープを最悪切断されてしまう恐れがある。

 

 なのに何故そんな判断をしたのかミヤコは分からず、サオリを困惑した目で凝視した。

 

「何故逃げなかったのですか?」

「先生なら見捨てないと思ったからだ」

 

 サオリは当たり前の事を言われたかのようにそう言った。

 その言葉を聞いたミヤコは自分の中にあった疑問が納得に変わり、一瞬サオリの姿が先生の姿と重なり、納得出来た答えが見つかったおかげか、それとも性格が違うのに先生の姿が重なった事へのおかしさの笑みを浮かべた。

 

「言いそうですね、先生なら」

「あぁ。それにもしかしたらこの状況を何とかしてくれるかもしれないが……」

「ええ、先生なら……」

 

 その時、突然世界が暗闇になったかのようにビルの明かりが全て消えた。

 ミヤコ達の視界は闇に染まり、その瞬間一発の銃声が乾く鳴り響いた。

 

 ミヤコでもサオリでも無く、バイトや警備員のものでも無い。完全なる意識外の第三者の発砲は全員の戸惑いを誘うのには充分だった。

 

「だ、だrぐはっ!!」

「お、おいぐほっ……!」

 

 1人、また1人と警備員が倒れ始め、警備員とバイトの驚愕が恐怖へと感情が移り始める。

 どこから撃たれているのか分からない恐怖に警備員とバイトの動きが止まった。

 

 突然の出来事にミヤコ達は戸惑いつつあるが、この混乱に乗っかり、ミヤコとサオリは暗闇の中で唯一感じる事が出来る風の感覚を頼りに脱出口へと手を伸ばし、ロープを掴んでビルの外へと体を飛び出す。

 

「くそっ! 逃がすか!」

 

 ミヤコ達の動きに気づいた警備員が銃口をミヤコに向けたが、次の瞬間、割れたガラス穴を通る弾丸に脳天を撃ち抜かれる。警備員は仰向けに倒れ、弾が飛んできた方角をミヤコは確認する。

 

 ミヤコの目に映ったのは、ミユがいるビルの屋上だった。

 

『え、援護します! 早く!』

 

 ミユの援護と謎の第三者の銃撃により、ミヤコとサオリは脱出口からロープを辿って垂直降下し、数秒後地上に降りる事に成功する。

 

 ロープを辿られない様にする為、最後にミユがロープを狙撃して地上に降りない様にし、ミヤもその場から退避する。

 そんなミヤコ達の退避を見送っていたのが……先生だった。

 

「上手くいったか……」

 

 少しの安堵の息を漏らし、彼も誰にも見つけられないように闇に潜みながら闇に溶け込んで行った。

 

 

 

 

 

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