ブルーアーカイブ RE:teaching 〜男でもあり女でもある先生は嫌いですか?〜 作:白だし茶漬け
「私は亡霊。何者でもないわ」
嘘偽りのない事実を言い、生徒を騙そうとした二人の男に近づいていく。
「ちょっとある人に頼まれてこれについて聞きたいんだけど」
今朝ミヤコに渡された資料を見せ、彼らは一瞬固まり、直ぐにしらばっくれる。
「な、なんだねそれは。そんなもの知らん!」
「あっそ。でもこれ貴方のサインだよね。知らんぷりは出来ないんじゃないかな~?」
オーナーは悔しがる表情を浮かべながらこの資料を取り返そうと腕を伸ばす。だけど遅い。
私は資料を後ろに回し、おいたをしてきたオーナーに銃口を向ける。
「ふ、ふん。そんなの脅しにもなr」
瞬間、オーナーの横に向けて引き金を引く。マズルフラッシュが彼らの顔を照らし、サプレッサーで銃声が握りしめられるような音が耳を貫き、弾丸はオーナーの横を通り過ぎ、ビルの壁に小さな弾痕が出来上がった。
「次は当てる」
オーナーは声を出さず、店長は一足先に逃げようと走り去るものの、逃げ道の先に銃を撃ち、彼の足元に着弾すし、弾痕の痕が出来上がる。
「こら、人の話は最後まで聞くものよ」
店長に銃を構え、壁際まで誘導する。これでもう2人とも逃げられ無くなり、ゆっくりと会話が出来る。
「わ、私は何もっ関係ないっ。オーナーに脅されただけで」
「オ、お前……!!」
逃げ場を失った店長は自分だけ助かろうとオーナーを切り捨て、オーナーはそれに激怒した。
このまま仲間割れして組織が瓦解するのならばこのまま無視したけど、残念。
店長さんも同罪という証拠である、ボイスレコーダーを再生させる。
『あの店の店長の報告によれば、生徒6人が侵入している筈だ』
『だが、報告では4人までしか確認できていないと……』
ボイスレコーダーの再生を止めると、店長の顔が変わった。どうやらこれを意味する事が理解できた様だった。
「おかしいね~? なんで侵入者の数が正確にわかるのかな~? もしかして、最初から誰が来ることが分かっていたから?」
「そ、それは」
「生徒がそう言ったからでしょう? 日時も侵入場所も聞いたから」
店長は言葉を失った。言い逃れすることができないと悟ったのだろうが、それとは別に店長は別の話題をあげた。
「お、お前こそなんでその事を知っているんだ! ……いや、待て。生徒以外にもそれを知る存在がいた……そうだ、お前はまさか……シャーレの先生か!?」
「残念。私はただの雇われただけ~。あの子とはただの個人的な関係~」
本当は体そのもの本人そのものなんだけど、あまりにも性格が違うのと顔を隠したマスクをしているせいで彼らは目の前にいる人間が誰なのかも分からないし、知る必要も無い。
ここにいるのは、先生でもあの子でもない。
ただの亡霊なんだから。
もう一度意識をこっちに集中させる為と、次に喋る言葉を聞き取らせる為に軽く咳払いをしながら、懐かしい言葉を私は言う。
「貴方たちの誤算は生徒たちを過小評価した事。そして、生徒たちを利用しようとした罪もある」
声は静かで、どこか哀しみを滲ませていた。それでも、その言葉の一つ一つが店長の心を鋭く抉る。まるで裁きを告げる鐘のように、重く、逃れられない事を悟った男たちは泣き顔を映し、咽び喚き、懇願する。
「た、頼む! 金ならやる! だから命だけは……」
「そのジャンクフード
何度も聞いた耳障りの悪い言葉を聞き流し、涙を流さない泣き顔の画面を目にすると、私の左手が勝手に動き、右手で銃を構えようとする。
あの子は多分、生かす価値は無いと結論付けたのだろう。でも早すぎる。
人には……この人たちはヒトなのかしら……でも言葉を使って意志もあるらしいから、人ととして扱おう。
人には【更生】という権利が与えられている。罪を償い、もう悪い事をしないようにと祈りを込めながら罰を与える。それが償うという事であり、更生、赦しを得るという事だ。
だけど全員が更生のチャンスを得られる訳でなはい。それを見極めなければ、更生の意味はない。
「今からいう問いに貴方たちは応えて。内容によっては撃たないであげる」
「見逃してくるのか!?」
「そんな訳ないじゃない。殺さないだけでヴァルキューレには通報するよ」
オーナーの舌打ちが聴こえた瞬間、私の意志で銃口を向けると、オーナーは情けないかすれ声を出して無言になった。
「では、授業を始めます」
久しぶりに使う言葉を口にし、銃を教卓棒のように掌の上でゆっくり叩く。
あなたに大切な物はありますか?
オーナーは金と答えた。店長は無言を貫き、何も答えられなかった。
いや、この状況で最も最適な答えを探しているのだろうか。まるでいきなり先生に当てられて正解がどれか悩んでいるようにずっと悩んでいた。
無ければ無いで良いと伝えると、彼はうなり声を止めた。
大丈夫、大切な物はこれからいくらでも気づける。
では次に、ある貧しい子供がおなかをすいて、ある時我慢できずにお店の物を盗んでしまいます。
けど子どもの親はとてもとても悪い人で、そのせいで貧乏であり、子供を虐めます。
あなたはこの子どもをした事が悪い事だと責めますか?
オーナーは責めないと言い、店長も責めないといった。
(……ふーん)
では最後の授業。貴方はその子供に何かするとしたら何をしますか?
2人は悩み、最初に声を上げたのは店長さんだった。
「わ、私ならヴァルキューレに通報します」
「ふむふむ、通報してそれから?」
「は? 家庭の事情を暴露させて……こ、更生させます!」
「更生ね? ふふふ……」
意味深な笑いに店長は困惑する中、オーナーも続けた。
「私なら何もしないな」
「へぇ? なんで?」
「する義理もないからだ。他人の人生なんて知ったことかっ!」
命を握られているとは思えない程の口調は、流石オーナーと言わしめるだけの事はあると感心した。
まぁ別に最初から殺そうとした訳ではない。……この体の持ち主はそう思っていないけど。
私だって最初は許せなかったし、殺意も沸いた。けどさっきの質問で確信した。
「オーナーは罪の傍観者なのね」
1つ目は金。2つ目は責めない事を。3つ目に至っては傍観を答えた。
「貴方は罪を自覚しながらも、それを傍観している。無関係であると主張することで、自分は悪くないと言い張る。そして逃げ続けているのね」
「何が言いたいんだ?」
次の瞬間、私はオーナーに向けて発砲した。弾丸は彼の綺麗で艶のあるスーツを貫通し、その胸元に穴を開き、オーナーの顔面がぷつんと切れ、仰向けに倒れる。
高性能のサプレッサーのお陰で発砲音は無く、聞こえるのは店長のかみ砕いたような小さな悲鳴だ。
「ひ、ヒィィィ!!」
「はいはい、騒がないの。大丈夫、寝てるだけだから」
店長の頭を掴み、横たわった姿のオーナーを見せる。店長は気が動転して暴れるものの、オーナーの安らかな寝顔を見ると、落ち着きを取り戻しつつあった。
「ちょっと寝てるだけだから。心配ないわよ」
「はっ…………は?」
「じゃあね、おやすみ」
今度はちゃんと頭に銃口を押し付け、引き金に指をかける。店長さんは声にならない声を叫び、泣きわめき、銃口から逃れようとするけど、壁を背にした状態ではもう逃げられない。
この引き金を引いた瞬間、頭の中のパーツがバラバラに弾け飛び、血痕の変わりに茶色いオイルが床を汚すでしょう。
だけどそうはならなかった。引き金を引いた瞬間に離れた弾丸は機械に対して強い電流を引き起こす特殊な弾丸。いわゆる、スタンガンの弾丸バージョンと言ったところからしら。
2人ともぐっすりと地面のベッドでおねんねしている中、サイレンの目覚まし時計が近づきつつあった。
「おっと、早くここから逃げないと」
奥のフェンスをよじ登り、ヴァルキューレが来る前に急いでこの場から抜け出した。
遠くまで逃げ、周りに誰もいないことを確認してからマスクを脱ぎさり、新鮮な夜の空気を目一杯吸う。
冷たい空気が喉を通り、肺を冷やしていく。お腹の底が冷えている感覚が生きてるっていう実感を湧かせ、お腹がくぅくぅと叫んだ。
「ん〜! お腹空いた! 柴関ラーメンで食べてから帰ろっと!」
今日は豚骨の気分だ。あれ? あそこに豚骨ラーメンってあったっけ?
まぁとにかくあそこのラーメンはどのラーメンよりも美味しいから、醤油でも味噌でも何でも美味しいに決まっている。
「君もそう思うでしょ?」
私にしか見えない隣にいる男の子に私は声をかける。
『俺には分かりません』
「ええ〜? そんな事無いでしょ? 君もあそこのラーメンが美味しいって……」
彼の言葉でさっきまで笑っていた私の口は笑みを無くし、彼の言葉を黙って耳を傾けた。
『あの二人を本気で殺そうとしましたしよね』
その言葉は冷たい風よりも鋭く、私の胸に突き刺さった。
「……違うわよ。ただちょっと怖がらせたかっただけ」
自分でも信じられないほど薄っぺらい言い訳だった。私の言葉に、彼は何も言わず、ただじっとこちらを見ている。目は暗く、深い井戸の底のように感情の読めない深さをたたえていた。
「でも、結果的には何も起こらなかったじゃない。あの二人は無事だった。でしょ?」
彼は黙って何も言わず、私の答えを待っていた。
「大丈夫よ。ここではよほどのことが無い限り誰も殺さないから」
私はそこには存在しない彼の頬に手を添える。
「貴方や生徒に危害を加えない限りね」
もう二度と大事な生徒を失わない為なら、私はどんなことでもする覚悟はある。
正直、今回ばかりは本気であの二人を殺そうとした事は認める。
ミヤコ達や生徒達を奴隷の様に売買……いや、それどころか子供を戦いの道具にしようと見ている時点で許せなかった。
今回は釘を刺す程度で見逃したけど、恐らくあのオーナーはまた同じ様な事をするでしょう。
その時は……後ろから存在を悟らせずに終わらせるつもりでいる。
生徒には健やかに育って欲しい。悪い大人に騙されたのなら、私が全力で何とかする。
助けての一声で私が全てを背負うつもりでもある。けど、それをするのは私ではなく、私の生徒の1人である、目の前の彼だ。
「貴方は、自分がやりたい事や生徒に寄り添ってあげて。貴方はもう、あんな寂しい地獄に戻らなくていいの」
響き渡るのは銃声と血飛沫を上げる断末魔。ウジ虫が湧く死体を見ない日が無かったあの地獄と、生徒達を助けられなかった過去の日々。
行方不明が相次いでしまったアビドスの生徒達。
世界を守る勇者になる筈が、世界を滅ぼす魔王になってしまったアリス。
泣きながら魔女としての役目を最後までやり遂げてしまった
悪い大人に利用され、最後は捨てられた
私の選択が間違ったから次々と生徒が赤黒い血を流して倒れた。
崩れ落ちる音が、やけに耳に残っていた。誰の声かも分からない叫びと、銃声。そして、そのたびに染まっていく制服と、動かなくなる体。
喉の奥がひりついた。呼吸が浅く、肺にまともに空気が入らない。視界の端で、花音が倒れ、焔が膝をつく。
手を伸ばしたその体はさっきまで暖かったものが、固く冷たくなっていた。守れなかった生徒の名前が、頭の中をぐるぐると回って、抜け出せなくなり、今でも頭の中でその地獄が思い出す。
キヴォトスで起こった地獄と、ここに来る前に見た地獄が今でも私を縛り付けていた。
「私は大きなミスを犯してしまった。けど、貴方ならきっと……私よりも上手くやれるはずだから」
自分では気づいていないその優しさは、きっと貴方の助けになる。
「だから、貴方は皆が大好きな先生でいてね」
そこには誰もいないけど、私にしか見えない大事な生徒の頭をぽんと心からの願いを込めながら手を乗せる。髪の質感を感じる事も、髪を指の隙間に通すこともできないけど。
「私があなたを支えるから」
私の生徒が、自分や誰かが誇れる先生になる為なら、私はいくらでもこの手を汚すから。
「先生っ!!」
気づくと、体の主導権は俺に移っていた。
さっきまで見ていた自分の顔は自力では見えず、目には手と夜の路地が移っていた。
「先生? 先生!?」
返事が無い。多分、だんまりを決め込んたんだ。
「ずるいですよ先生……」
あの人はこういう時にいっつも逃げる。そして朝になったら何食わぬ顔で俺の前に現れて、子供扱いする毎日に戻る。
たまにふざけて、たまに優しく諭し、俺に先生としてどうあるべきか教えてくれる。
「俺は、貴女がいたからここまで……」
きっとこの声が届いていても、先生は何も言わない。
ずるくて、いつも心を掻き乱して、最後まで放って置かない先生はこれからもそうあるんだろう。
「……ラーメン、食べに行こうか」
風の音だけが、返事の代わりに吹き抜けていった。
そこにはもう誰もいないのに、俺は自然と歩き出していた。
今日の気分は……豚骨だ。