結婚しよっか陸八魔   作:枕魔神

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03 便利屋ってホント仲良しだね陸八魔

 来るXデー、温泉旅行の日を明日に迎えた金曜日。

 

「あのぉ……ムツキ?」

「なぁに? アルちゃん?」

「これはどういう事かしら?」

「ん? アルちゃんが逃げられないように縛ってるんだよ?」

「何でよっ!!??」

 

 ゲヘナ郊外、便利屋68の事務所にて、陸八魔アルの尋問会が開かれようとしていた。

 

      ◇

 

「さてさて、ここ数日だけで二回も、しかも無断で? ミミミ先輩の所から朝帰りしたアルちゃんには、洗いざらいぜぇんぶ吐いてもらうよ?」

「どうしてこうなるのよぉ!?」

 

 事務所の社長椅子に括り付けられたアルが、お馴染の白目を剥いて叫ぶ。そんなアルの様子に、椅子の背もたれに寄りかかるように座った、便利屋室長の浅黄ムツキがクルクルと回りながら笑う。

 

「だってミミミ先輩の話しようとしたら、アルちゃん逃げるじゃん」

「そ、それは……」

 

 アルには言えなかった、ミミコの話をするという事は、普段の自身が揶揄われている様子を話すという事で、社長としての尊厳が損なわれるに等しい。

 元々そんなものが存在するのかは置いておいて、部下に尊敬される社長を目指すアルには、ミミコとのやり取りを明かす訳にはいかなかった。

 

 しかしそんな事情など、ムツキからすれば知った事では無い。むしろ彼女は、そう言う揶揄われているアルの様子を喜々として知りたい、そこから更に揶揄いたいタイプである。なので視線を反らし、この期に及んでも誤魔化そうとするなんて当然認められなかった。 

 

「明日からまた二人でどっかいくんでしょー? いい加減年貢の納め時だよ?」

「うぅ……ちょっとか、カヨコ! 見てないで助けなさいよ!」

 

 にっこにこの笑顔で、逃す気がない事を暗に伝えるムツキ。アルは堪らず、関与せずとソファでスマホをイジっている課長、鬼方カヨコに助けを求める。

 

「ごめんね社長、今回は無理。私も気になってるから」

「なっ!?」

 

 しかし、帰ってきたのはそんな拒絶の言葉。どうやらカヨコもムツキの味方らしい。すかさずアルはもう一人の平社員、伊草ハルカにも助けを求めた。

 

「ハルカは私を助けてくれるわよね!?」

「すみません! すみません! アル様! 私も気になります! すみません!」

「あはは! 今の便利屋68にアルちゃんの味方はいないよぉ?」

「私社長なんだけど!?」

 

 まさかの謀反っ!? と驚愕する、便利屋68の社長、陸八魔アル。

 

「ほらぁ、諦めて吐いちゃいなよ」

「も、黙秘権を行使するわ」

「むー、本当、ミミミ先輩の事に関しては頑なに話さないよねぇ……あ! もしかして、二人でいやらしい事してるんじゃ無いのぉ?」

「そんなわけ無いじゃない!?」

「うん! なら話せるよね?」

「くうぅ、墓穴を掘ってしまったぁ……」

 

 イタズラな笑みを浮かべてそう言うムツキに、しまったと頭を抱えたくなるアル。実際には肘掛けにガッツリ腕も固定されてる為、頭を抱えるどころか身動き一つ取れないのだが。

 そんなまな板の上の鯉状態のアルに、ソファから立ち上がったカヨコが声をかける。

 

「まぁ、社長も話せって急に言われても、話しにくいよね」

「か、カヨコ……」

「だから私達で、一つずつ質問していこうか」

「カヨコ!?」

 

 無慈悲なカヨコ、容赦無くはしごを外す。気が付けばハルカも近くにやってきていて、取り囲まれた状態のアル。これ以上の抵抗に意味がないと悟り、ようやく腹を括って覚悟を決めた。

 

「わ、分かったわ……私も一流のアウトロー、逃げてばかりじゃ駄目よね。何でも聞きなさい? 逃げも隠れもしないわ!」

「おっけー! なら一つ目の質問ね?」

「焼き肉の日、酔っ払ったミミコを送るって言って、社長とミミコ、二人で夜の街に消えてったよね」

「あの後、お二人は何をされてたんですか?」

「………………えーっと」 

 

 その日は確か、酔った先輩とホテルに行き、先輩が半裸になって私も脱がされて……そのまま寝て起きて、先輩が間違いがあったんじゃないかと誤解して…………いつも通り揶揄われて、ぎゅってハグされて気持ちよくて………………。

 

 どうしましょう、あんな事を言ったものの、一瞬たりとも言える事が無い。

 

「…………も、」

「も?」

「……黙秘権をぉ」

「「「駄目(です)」」」

「うぅぅ……言えないわよぉ……」

 

 顔を真っ赤にして、涙目になりながら小さな声を漏らすアル。

 そんなアルの様子を見て、3人の社員はまさかと顔を見合わせた。

 

「まさかとは思ってたけど……」

「あはは、あの辺歓楽街だったしねぇ……」

「社長がミミコの事、好きだってのは何となく分かってたけど……」

「酔っ払ったミミミ先輩をホテルに連れ込んで、そのまま……」

「あ、あああアル様がぁ!? おとおとおお大人の階段をぉお!??」

「登ってない! まだ登ってません!!」

「「「まだ!?」」」

「違うわよ!? そんな含みはないから! 私と先輩はただの先輩と後輩の関係なの!!」

 

「へぇ……そんな寂しい事言うんだ陸八魔」

 

 アルが3人の誤解を解くために叫ぶと、入り口の方から、聞き慣れた気怠げな声が聞こえる。

 そう、全ての元凶、十余三ミミコである。

 

「私は陸八魔の事、とても大事な、一番の後輩だと思ってるけど?」

「せ、先輩……」

「どうだい陸八魔、結婚する?」

「アルちゃん!?」「社長!?」「アル様!?」

「ややこしくなるからホント黙ってて!!」

 

 本日最大の叫び声が、便利屋68の事務所に響いた。

 

      ◇

 

「ふふっ、なるほどねぇ。それであんな感じになってたんだ……ぷっ」

「笑い事じゃないわよ!?」

 

 あの後、更にややこしい状況に陥るものの、ミミコの説得でようやく解放されたアルは、状況説明をしてからずっと、肩をぷるぷると震わせて笑い続けてるミミコに恨めしい視線を向けた。

 

「だいたい先輩のせいでもあるんだからね? ああやってすぐ揶揄うんだから」

「それが私の趣味だから、浅黄もそうでしょ?」

「ミミミ先輩とは趣味仲間だもんねー?」

「ねー」

「ねー、じゃないわよ全く」

 

 変な事で意気投合する先輩と幼馴染に呆れるアルは、深いため息を吐いて椅子に腰を下ろす。

 

「酷い目に合ったわ」

「まぁ、愛されてる証拠だよ陸八魔」

「私縛られて尋問されたんですけど!?」

 

 何なら社長としての威厳が足りてないんじゃないかとすら思っていたアル。そんなアルの言葉にミミコは、「信頼関係がしっかりしてるからこそだよ」と言葉を続けた。

 

「最近私が陸八魔を連れ回してばっかりだったからね。珍しく鬼方も便乗してたし、みんな寂しかったんだろう」

「え? そうなの?」

「私は別に……」

「わ、私は寂しかったです」

「もー、ミミミ先輩はすぐバラすー。そういうのデリカシーが無いと思いまーす」

「あなた達っ……!」

 

 ふいっと視線を反らすカヨコ、上目遣いでアルを見つめるハルカ、頬を膨らませて文句を言うムツキ。

 そんな3人を見て、やだうちの社員達可愛いと感極まったアルは、ひしっと三人に抱き着くのだった。

 

「ちょアルちゃん!?」

「アル様!?」

「社長!?」

「そうならそうと言いなさいよ! 全く素直じゃないんだから」

 

 満面の笑みのアルに抱きつかれて戸惑う三人。そんな四人の様子をミミコは微笑ましく見ていた。仲良きことは美しきかなとは、こんな景色を言い表すんだろうと一人で納得していた。

 

「相変わらず、羨ましいくらいに仲がいいね、君達便利屋は」

「でしょ? 自慢の社員達よ!」

「ミミミ先輩は相変わらずアルちゃんに甘いよねー。ほら、こんなに喜んじゃってるし」

「ミミコ、あんまり甘やかさないでよ。うちの社長、すぐに調子乗るんだから」

「ムツキにカヨコ!?」

「ミミコさん、アル様は単……ちょ……純粋なんですから程々でお願いします」

「ハルカまでっ!?」

 

 照れ隠しからか、やや辛辣な言葉を述べる部下にショックを受けるアルが、ショックから開いた口が塞がらないままピシリと固まった。

 その間にアルの腕の中から脱出したカヨコ、脱線しまくって聞きそびれていた事を、アルを見て再び肩を震わせているミミコに問うた。

 

「で? 今日は何の用があったの?」

「ふ、ふふっ……あぁ、そう言えばそうだった。陸八魔が面白くて忘れてたよ」

 

 そう言って背負っていた肩掛け鞄から、ある物を取り出した。

 

「明日は陸八魔を借りるからね、便利屋の社員にお土産持ってきたんだよ」

 

 ドンっと鈍い音を立ててテーブルに置かれるそれは、茶色い紙に包まれたナニカ。

 なんだコレはと四人が視線で尋ねれば、すぐに答えが帰ってきた。

 

「国産黒毛和牛のすき焼き用お肉、2キロだね」

「「「っ!!?」」」

 

 お肉。そうナニカの正体は高級なお肉だった。状況を理解した四人が目の色を変える。

 便利屋68、金さえ貰えれば何でもするがモットーの、法律と規律に縛られないハードボイルドなアウトローが集う会社。その実態はお察しの通り、手付き金を貰わない方針や、有り金全部を依頼に突っ込むスタイルのせいで、万年赤字の零細企業。ただの金欠無法集団なのである。

 

 誰が原因かはこの際置いておくとして、事実として便利屋68は貧乏だった。社長のアルに関しては口座すら凍結されている為、なお貧乏だった。

 だから食費も切迫しているし、一つのカップ麺も四人で分けて食べる事もしばしば。依頼で生じる危険よりも、空腹が彼女達にとって最大の敵。 

 

 そんな便利屋の面々にとって、ミミコの持ってきたお高いお肉は、まさに喉から手が出る程に嬉しいしお土産だった。

 

「この前は焼き肉だっからさ、すき焼きにしたんだけど良かった?」

「ミミミ先輩最っ高!!」

「ミミコ、ありがとう」

「お、お肉なんて贅沢な食べ物を……わ、私なんかが食べてもいいんでしょうか?」

「もちろんだよ伊草、君達に食べてもらいたくて持ってきたんだから」

「あ、ありがとう御座います! ありがとう御座います! やったぁ……お肉だ」

「ありがとう先輩! 美味しく頂くわ」

「あ、陸八魔は駄目だよ?」

「何でよっ!?」

 

 当然自分も食べれると思ってたアルがそう叫ぶ。そんなアルに、「だってコレは陸八魔のレンタル代だから」とミミコは答えた。

 

「留守番組が可愛そうだからね、あと社長を2日借りるんだからその賄賂も含まれてるかな?」

「どうぞどうぞ! アルちゃんを貸してお肉が食べれるなら、ミミミ先輩になら幾らでも貸すし! 何ならお肉のお礼にアルちゃんを食べてもいいよー!」

「駄目よ!?」

「行ってらっしゃい社長。お肉は私達が美味しく食べるから楽しんできてね。お肉は私達が美味しく食べるから」

「何で2回言ったのよ!?」

「お肉……お肉だ♪ ふふ、お肉だ♪」

「そしてハルカに至ってはお肉の事しか考えてないっ!?」

「喜んでもらって何よりだよ」

 

 賄賂の効果覿面、快くミミコに自社の社長を差し出す社員達。

 割と頻繁にこうやって、何か食べ物を恵みにやって来るミミコは、便利屋の社員達からの信頼を完全に勝ち取っていた。

 

「だから、陸八魔は明日。二人で美味しもの食べようね」

「そ、そういう事なら分かったわよ」

 

 頭を撫でられてミミコにそう言われれば、アルは頷くしかなかった。実際、自分だけミミコと温泉へ行く事に少し罪悪感があったのも事実。3人が喜んでるなら良かったなとアルは思っていた。

 アルが納得したのを見て、ミミコは立ち上がる。

 

「うん。じゃあ私は帰るかな。浅黄、流石に可愛そうだから、そのお肉食べるの明日にしてあげてね」

「はーい!」

「うん、素直でよろしい」

「お肉ありがとう御座います! ミミコさん!」

 

 ハルカのお礼に手を降って答えたミミコは、「じゃあ、また明日ね陸八魔」と言い残して事務所を後にするのだった。

 

      ◇

 

「ミミコ」

「ん? 鬼方?」

 

 便利屋の事務所があるビルから出たばかりのミミコが、背後から声をかけられて振り向くと、そこには同じ様にビルから出てくるカヨコの姿があった。

 

「あれ? 何か忘れ物したかな?」

「いや、そうじゃなくて」

 

 ミミコがそう問いかけると、一瞬視線を反らしたカヨコが「話があるんだ」と言葉を続けた。

 

「……うん、そういう事なら」

 

 カヨコの様子に何かを察したミミコは、肩掛け鞄から缶コーヒーを取り出し、カヨコに投げ渡す。

 

「それ飲みながら話そっか、私も一服したいところだったし」

 

 そう言って懐から取り出した煙草に火をつけて、肺を煙で満たす。ふぅと長いため息と共に煙を吐いて、カヨコに渡したのと同じ缶コーヒーを一口飲んだ。

 

 それに習って、カヨコもコーヒーを一口。ほっとお互いに息をついた所で、自身から会話を切り出した。

 

「……ミミコさ、便利屋に入んないの?」

「入らないね」

 

 言い淀むようなカヨコとは裏腹に、はっきりと拒絶するミミコ。いつも見たいなふわっと捉えようの無い声だけど、不思議と意志の強さが伝わる声だった。

 

「でも頻繁に来るじゃん、ムツキもハルカもミミコの事慕ってるし、社長だって……」

「ま、そこは嬉しいとは思ってるよ? だから良く遊びに行くわけだし。けど入るのは遠慮したいかなぁ」

「……やっぱ、まだ気にしてるんだ」

 

 カヨコの言葉にミミコは正解と短く答えて、深く煙草を吸った。

 

「ふぅ……もうゴメンなんだよね。責任とか期待とか? ほら、私クズだし」

「……元便利屋だった癖に」

「自分から名乗ったことは無いよ鬼方。と言うか、それ元々蔑称だし」

 

 困った生徒がいれば、誰でもすぐに助けようとする一人の生徒。

 いじめられっ子がいれば助けて、不良に困っていれば不良を退治して、何を頼んでも断らず、何でもお願いを聞いてくれる都合のいい一人の生徒、十余三ミミコは以前は便利屋と影で呼ばれていた。

 

「何でもかんでも安請け合いして、気が付けば依頼で首が回んなくなってさ。そんなタイミングを見計らったかのように、今まで恨み買ってた不良共が本気出して私を潰そうとして来てさ」

「……社長、気にして無いよ?」

「私が気にするんだよ……あの子、昔っから私を謎に慕ってたからね、格好の人質だったってわけ」

「まぁ、当時私はまだ社長と知り合って無かったから、又聞きなんだけど。社長、普通に自分で脱出したって聞いたけど?」

「まぁ、ポンコツだけど強いからね陸八魔は。最終的には浅黄も合わせて3人で不良共を殲滅したし」

 

 焦ってミミコが助けに行ったら、そこに居たのは大人数に追いかけ回され、何なのよ!と叫びながら全力疾走で逃げるアル。

 

 本当に今思い出しただけでも怒りが湧いてくる。当時中学生だったアルを人質にした不届き者共は、ミミコとムツキが責任を持ってミンチにしたが、数年たった今でもむしゃくしゃが収まらない。無事だったからミンチで済ませているけど、アルに跡が残る怪我なんてさせたらヘイロー砕く寸前まで殺るつもりだった。

 

 苛立ちを誤魔化すかのように喫煙ペースが速くなる。フィルターに達した煙草をグリグリと地面に押し付け、すかさず2本目に火を付けた。

 

「偶々なんとかなったけどさ、私が陸八魔を危険な目に合わせたのは変わらないし。本当なら距離を置いた方が良かったんだけど……」

「その事件から余計に懐かれたらしいね」

「そうなんだよねぇ……」

 

 先輩先輩と憧れの視線を振りまき、まるで仔犬の様にミミコの周りをうろちょろするアルに、距離を置くって考えはすぐに諦めた当時のミミコ。

 

「取り敢えず速攻で便利屋は廃業したよね。まぁ元々自分から名乗って無かったから、廃業ってのも可笑しいんだけど」

「それなのに、高校に入ってすぐに社長が便利屋をやるんだよね。二代目で」

「ホントそれ!」

 

 思わず普段の気怠げな感じからは、とても想像出来ないくらい大きな声が出るミミコ。

 自分の気遣いとか悩みとか色々な思いを全部吹っ飛ばすと言わんばかりに、唐突に便利屋をやると宣言したアルに頭が痛くなった事を思い出した。

 

 当時の事は本当に忘れられない。

 あの一件から何もする気も起きず、ただ煙草を吹かし、酒に溺れ、惰性で賭け事にうつつを抜かす自分の前に現れたアルが「今日から私が二代目便利屋です! 先輩も一緒にやらないかしら」と言い出したのだ。思わず口に加えた煙草が床に落ちて、家が火事になりかけたし、それくらい驚いたのを覚えている。

 

「それでとっさに警備会社やるから無理って断って、なんか思いもよらない形で社会復帰してるし」

「警備会社ってそんな経緯だったんだ」

「嘘から出た真ってね……そもそも便利屋は辞めときなって止めたんだけどねぇ。便利屋が蔑称って教えたら何て言ったと思う? あの子」

「……私が便利屋の名前を蔑称から、誰もが恐れる最強のアウトローの代名詞にする。だっけ?」

「……最強のアウトローって何?」

「知らない」

 

 「君、社員だろぉ?」 と漏らしながら、深い深い溜め息を吐くミミコ。そんなミミコの様子にカヨコは堪らず吹き出した。

 

「ミミコ、案外ナイーブだよね」

「私ほど繊細な生徒はゲヘナにいないさ」

「それはそう、元々優等生なのに、今は反転して喫煙常習犯の問題児だもんね。やる事が極端なんだ、最初見かけた時は驚いたよ」

「どれだけ私が頑張っても改善しない、ゲヘナの治安の悪さにブチ切れてたからね。取り敢えずグレてやろうって思って、まず煙草に手を出したんだよ」

「不良のイメージが煙草って、ミミコも社長の事言えないくらいアレだよね」

「今は様になってるからいいんですぅ。鬼方だって子猫に優しいヤンキーみたいなコテコテのキャラしてるじゃん」

「キャラって言うな」

 

 そう言って、顔を合わせて笑う二人。便利屋時代、いろんな要因が重なって、後輩のアル達しか仲の良い友達が居なかったミミコにとって、同い年の友達とこうやって冗談を言い合うのは少しこそばゆい感覚だった。

 

 そんな気持ちを誤魔化すかのように、ミミコはコーヒーを一気にあおり、一服終了と立ち上がる。

 

「そんな訳で、私は便利屋には入らないよ」

「……この頑固者め」

「なんとでも。そもそも来週には依頼でゲヘナを離れるからね。今は無理」

「……は? ちょっと待って、なにそれ聞いてない」

「今初めて言ったからね」

 

 そんな重要な話を、何でも無いようにサラっと言ったミミコに、カヨコは戸惑いを見せる。

 

「まぁなんかよく分かんないんだけど、連邦生徒会からの依頼だから断れなくてね」

「……それ、社長には言ったの?」

「あーうん……明日言うつもり」

 

 視線を反らしながらのミミコの答えに、溜め息を吐くカヨコ。ミミコの性格からして、絶対に言いづらくて引き伸ばしにしてただけだと分かっていたし、そんな大事な事を私に一番に話すなと言いたかった。

 本当にこの自堕落ニコチン中毒者め、心の中でそう毒づいたカヨコ。何か一言文句を言ってやろうかと思って、辞めた。

 

「……まぁ、社長が言うか」

「? 陸八魔がどうした?」

「何でもない……ただ、簡単に逃げれると思わないほうが良いよってだけ」

「?? だから何の事?」

「はぁ……お肉ありがとうねミミコ」

「あ、うん。ばいばい鬼方」

 

 きびすを返して事務所へと戻るカヨコに、ふりふりと手を降る。

 何だか呆れた様子だったけど何だったのだろうか、ミミコが考えてみても、てんで検討もつかない。

 

「ま、いっか」

 

 結局何時ものように、難しい事は煙と一緒に有耶無耶に忘れ、自宅までの道をだらだらと歩くのだった。

 

「………………先輩がいなくなるですって?」

 

 先程の話を、ミミコがゲヘナから離れるって所だけを偶然にも聞いてしまった、愛する後輩が隠れている事に気がつかないまま。

 





ここまで読んでくれた皆様、ありがとう御座います。
よろしければ高評価、感想等をよろしくおねがいします。
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