元連邦生徒会副会長は征く   作:ふしあな

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勘違い(双方)


何故少年はその結論に至ったか

 

 

「………俺バカだからわかんねぇけどよぉ…」

 

ここは、キヴォトス。【学園都市キヴォトス】。

学園都市と言うだけあってこの都市に住む少女たちは全員生徒であり、頭に特徴的な天輪を持ち合わせている。……ただその少女たちは銃を所持し、引き金は非常に軽く、街中には戦車が普通に動いていると言う異世界感満載の都市である。

その多くの学園が集まってできているこの都市の中でも特に目立つほど大きな塔の中の一室にその()()は不貞腐れたように座っていた。

 

そう()()である。このキヴォトスにおいておそらくたった1人の男子生徒である彼は、特徴的な白い制服に青いネクタイを付けた最早スーツと言っても過言では無い姿で机の上に置かれた大量の紙をゲンドウポーズで眺めながら呟いた。

 

「もしかしてこれが労働はクソってやつなんじゃねぇか?」

 

オフィスかと言わんばかりに広い部屋に全面窓張りの外からは夜になりつつある黄昏が綺麗に少年の机を映していた。その机の上には、少なくとも1メートルを有に超える紙の束が両手両足の指の数で数えられないほど積み上がっていた。

 

ここキヴォトスにおいて生徒は頭の天輪が齎す“神秘”という効果によって、銃弾だけでは死なないし下手をすればクラスター爆撃を受けても気絶で済むほど身体が丈夫なおかげで日々、争いや器物破損が絶えない。

 

更には生徒だけでなく、大人の代わりに居るヒューマノイドみたいな機械たちが先導する企業が利権やら生徒の身柄を狙う為下手に貸しを作ることは出来ないし、犯罪組織みたいなのから単純な不良の集まりに縄張り争いと称した小競り合い(普通に戦車が持ち出される)が発生するわ、本来なら協力し合っていてもおかしく無い学校同士の権力争いまで、その全てのトラブルとキヴォトス全土の行政を賄い、学園都市の運営を行う組織である【連邦生徒会】の1人がこの少年である。

 

「労働はクソだ。本当にクソだ……」

 

机の上で唸り声を上げながら決して万年筆を離さないその少年をよく見てみると特徴的な澄んだ青色の髪はボサボサになっており、同じ様に青い瞳の上にはクッキリと消えないクマが存在していた。足下の買い物カゴの中には無数のエナジードリンクの缶が山盛りになっており、その横には乱雑に開かれた栄養食品の数々の残骸が積み重なっていた。少年の頭の上の白い円に赤い十字架が刻まれた天輪…ヘイローも心なしか萎びている様にも見える。

 

それもその筈、今一度彼の一室に掛かったプレートにはこう書かれているのだ。

【連邦生徒会副会長】と書かれており、その上に一本の訂正線が書かれて、【連邦生徒会長代理】と書かれているのだ。……そう、つまり彼はここキヴォトスにおいての行政のトップの代理であり、学園都市の事実上のNo.1である。

 

「そろそろ天下の三百日連勤とかじゃね?」

 

失踪した実の姉である連邦生徒会長の弟である少年は、元より【連邦生徒会副会長】の唯でさえ一日中書類に缶詰になる多忙な業務の上に【連邦生徒会長】の業務まで上乗せされたのだから、もはや少年の心は既に限界を迎えつつあった。

 

「ハハッ………特級連勤術師………アハッ……ハハ……ハァ……」

 

流石の少年も…そうそれこそ、何処か別の世界を生きてきたという記憶がある少年であろうとも流石のこの激務はあの世逝き〜となりかねない。と言うかむしろこの極限状態化においてまだ生きてるのはおそらく頭のヘイローが原因だろう。

 

既に少年の頭の中はハチャメチャ★ナイトフィーバー状態に入っており、変な造語を作り出してはもはや引き攣った笑いと、謎に湧き出てくる笑い声に半分発狂しながら仕事を全うするのだった。

 

 

「…………おわりぃ?おわった……違う終わったのは姉の業務だけだ」

 

発狂しながら進めていたそのおそらく数時間後。窓の外から眩しい朝日が見えてきた時間になってようやく少年は発狂状態から帰ってきた。両手両足の指の数で数えられないほど積み上がっていた1メートルを有に超える紙の束が、ようやく辛うじて両手両足の指の数で数えられる程になってきた頃、ようやく連邦生徒会長“だけの”昨日の分の仕事が終わった。

 

エナジードリンクの空き缶が入った買い物カゴは2つに分けられその両方が満杯になった惨状から目を逸らして、とりあえずまだ生きていることを喜びながらクソがと心の中で太陽に向かって両手で中指を立てる。

 

「…………はぁ。何徹目だこれ」

 

何処かの世界で生きた記憶の中でもここまで酷い労働環境は無かったぞと異臭になりつつあるエナドリの空き缶を持って部屋を出る。そもそも学生だけで学校の運営どころか、生活基盤の全てを賄っているのだから何処かでボロが出るのは当たり前田の天の介と思いながら、両腕に持った空き缶入りの買い物カゴを抱えて、バカみたいに長く広い廊下を歩く。

 

「………?あら。おはようございます。副会長」

 

「ああ。おはよう、財務室長」

 

フラフラと幽鬼の様に歩いていた姿は横から歩いてくる誰かの気配を感じ取った瞬間、まるで人が変わったかの様に背筋を伸ばし顔を上げて澄まし顔で挨拶をする。目の前に映った少女の名前は扇喜アオイ…ここ連邦生徒会の財務室のトップであり、文字通り予算関係の管理を行う部署の長である。

 

少年よりも濃い青色の髪に、特徴的なエルフ耳。そして何より

 

(……クッッッソデッカいんだよなぁ)

 

おっぱいおっぱいである(誇張表現)

最低だとは思うが少年だって変な記憶があるだけの年相応な少年である。勿論それなりに女体に興味があるし、女の子に良い格好したいという欲望だって人並みにある。………だがそうも言ってられないのだ。

 

(おっと…この子は財務室長、財務室長)

 

徹夜続きでハッスルしている本能を秒で沈めながら、魔法の言葉で抑える。

そう。忘れてはいけないのは、この少女は財務室長と言うそれ相応の権力を持っていて決して絆されてはいけないのだ。連邦生徒会副会長兼連邦生徒会長代理として財務室長と懇意にしているという噂が一瞬でも流れてしまえば、終わりだ。……それに、

 

(よくよく考えても女の花園に男1人が勝てるわけないだろ良い加減にしろ!)

 

この世界…キヴォトスは少年を除いて誰1人として同じ様に少年と同じである男子生徒は存在しなかった。……そうそれこそアビドスから百鬼夜行まで。少年はその脚で直接出歩いて、同じ様な男子生徒がいない事を知ったのだ。

 

なら単純にハーレムか?……いやアホかと少年は思う。連邦生徒会副会長として多くの学校と顔を合わせてきた彼だからこそ言えるのだ。女の恐ろしさに。少しでも、自分がやらかせば噂話は簡単に回る。そう思えば誰かに色目を使おうとは到底思えなかった。ある意味での自己保身である。

 

「………また、徹夜したんですか?」

 

「少々忙しくてな」

 

心配するアオイに微笑で返す。少年の業務には多くの学校との繋ぎだけでなく企業との利益の調整やマネーゲームも少なくない。それ故に財務室とは持ちつ持たれつの関係が続いているが、それでも少年は多くを話そうとは思わなかった。

 

「最近続いていますね…心配ですよ。先p…」

 

()()()()……これで、失礼する」

 

油断できない現状。唯でさえトップが不在の中こうして下の2人が顔を合わせて密会している様に見える現状が1番危険だと少年はアオイの役職を強く呼び、これ以上話すことは無いと遮りながら、足早に立ち去る。

 

まるで政敵と言わんばかりの冷ややかな少年の対応。だがその実は……

 

(やっっっっべぇぇぇぇぇぇぇぇ。めちゃくちゃえっち、めちゃくちゃエッチだった!!……こえぇぇぇぇぇぇ。色気こえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇ!!)

 

アホほどチキンである。としか言いようがないのだろう。

 

 


 

 

「…………先輩」

 

足早に立ち去っていくその後ろ姿をアオイは眺める。

連邦生徒会長とは似ていて、それでも違う鋭く釣り上がった瞳。後ろに乱雑に纏められた長髪も世にも珍しい男子生徒だと言うのに顔の作りが連邦生徒会長とそっくりだからか一目で見ればあまり差異がない様に見えた2人。……そしてたった1人置いて行かれたアオイの尊敬する先輩は今も尚、苦しみながら足掻いているとアオイは歯噛みしている。

 

「どうして、どうして……頼ってくれないのですか」

 

喉から絞り出したかのような声。分かっているし、知っている。

だって、彼はこのキヴォトスのトップ。それがたかが傘下組織のトップと癒着していたと見られかねない行動は慎むべきだと言う話だろう。……だけど、それでも同じ連邦生徒会なのだから頼ってほしいと言うのがアオイの本音だった。

 

日に日に増えていっているエナジードリンクの空き缶の量。そして全く使われている気配のない副会長専用の仮眠室。少し考えれば分かるぐらい彼が無茶を重ねている。それもそうだろう。今このキヴォトスは連邦生徒会長を失い、行政権を彼に一任した状態で動いている。……唯でさえ副会長の仕事があると言うのに、だ。

 

「………今晩からは、強引にでも仕事を奪いましょうか」

 

 

 


 

 

 

「ああ。行政官か」

 

「…………副会長」

 

そうしてゴミ捨て場に辿りついたらそこには既に先客が居た。

メガネを掛けたエルフ耳の黒髪美女。その人の名前は、七神リン。ここ連邦生徒会の主席行政官であり失踪した連邦生徒会長の代わりに連邦生徒会内部の業務を引き受けてくれている人である。

 

何より特徴的なのはやっぱりおっぱいおっぱいである(誇張表現)。先ほど顔を見合わせたアオイよりもデカいそのおっぱいは何回少年が見抜きしようかどうか血迷ったレベルのデカさがある母性の塊である。アビドスで会った生徒会長もデカかったが、甲乙つけ難いと澄ました顔の下で考える。

 

「やはり、副会長も」

 

「ああ……全く、ままならんな」

 

勿論、手は空き缶やらゴミを片付けながらである。連邦生徒会長が居なくなった以上、仕事は副会長と主席行政官が全面的に担っている事もあり、互いが互いに社畜の仲間みたいになっている。…考えている事もどうやら似ている様で、積み上がった互いのエナドリの空き缶の量に苦笑しながらまだ仕事が残っている以上、早く片付けないと行けないと、手早くゴミを分別して捨てていく。

 

「そういえば副会長の行っている業務ですが……」

 

「……ああ。あれら、か」

 

頭の中にリストアップする業務。それは全部リンに引き継ごうとしている仕事だ。かつての三大校であったアビドスは今や衰退しているが、それでも持っている土地は膨大なため復興或いは連邦生徒会への復帰、連邦生徒会長が主導して副会長である自分が繋いできたトリニティとゲヘナの協力協定。ミレニアムに偏在する棄てられた研究棟の内部解明。連邦生徒会直属の武装組織の再編成その他諸々、連邦生徒会が間に入るべき業務は今まで副会長がやって来たがそれをリンに引き継ごうと言うのだ。

 

「……本当によろしいので?」

 

「構わんよ。もう終わりかけだ」

 

リンはそれを手柄の横取りになりかねないと危惧しているが、それを副会長は杞憂だと切り捨てる。何故ならそれらはもうほとんど纏まっており、後は実働するだけで終わる業務だからだ。…つまり結果を聞いて承認するので終わりだけをリンに任せるつもりだ。まあそれもこれも……

 

(いやこえーのよ。本当にこえーのよ。)

 

少年の脳裏に浮かぶ数多の各学校の権力者たちの顔。“なんやコイツ…”みたいな視線はまだ軽い方で、下手すれば“なんでこんなところにいるんだよ…”的な確実に敵意どころか背中から撃ってきそうなほど鋭い目で見られた事もある。ぶっちゃけ最後の方は内心泣きながら、何処かでもうこれで来ないで済むかな…帰りてぇ〜〜と思いながら他校との連携業務に通っていた。

 

(いやほんと……これならまだ企業との話し合いの方がマシ、ほんっとうにマシ)

 

更に思い出すのは企業との会談。一言でも隙を見せれば喰われかねない環境下で、ただひたすらに分前のパイを奪い合う。ドロドロとした闇の中でのやり取りだったがどうやら自分はその刹那の緊張が意外と好物なのだと思い出すと虚しくなってきたとため息を吐く。

 

「………副会長?」

 

「どうした?」

 

気づかぬうちに漏れていたため息はらしからぬ響きを持ってリンの腕が止まる。

あっ。ヤベと気がついた少年はまるで“ため息なんて吐いてないが?ホントだが?”と言わんばかりの微笑でリンからの追及を防ぐ。それもこれも……

 

(ぶっちゃけリン行政官もなー。エッチだけどなー)

 

思い出すのは連邦生徒会長とリンちゃんの会話。姉である連邦生徒会長は本当にサボり方が上手くてよくリンに詰められていた事を覚えている。その時のリンの荒れ具合と言ったらもう、それを見た日からしばらく少年の心の中ではリンをリン“さん”と呼んでいた程だ。

 

(いつ背中からズドン…なんてハメにならないか怖いし)

 

極論、少年の本心はそこだ。幾らキヴォトス人の身体の耐久力がバケモノレベルであろうとも死ぬ時は死ぬだろう。傷が付いて血が流れる以上、必ずどこかで耐久値の限界が来る。それにここキヴォトスは非常に引き金が軽いのも恐怖を助長している。連邦生徒会と言う上の立場だから更に顰蹙を買い易い立場な上、少年が今までに見て更生してきた不良たちの中では、好物の違いで戦車が持ち出されたとまで聞くといつ背中を撃たれるか分かったものではないとまで考えるだろう。

 

「………いえ。ご自愛くださいね」

 

「ああ。ありがとう。君もそろそろ休むといい、主席行政官」

 

分からないモノは怖い。理解できないモノは恐ろしい。

日々の小さな争いでさえ爆発物が使われて、大きな争いでは戦車の砲撃が絶えないのがこのキヴォトスだ。幾ら強いこの肉体と言えど精神面は銃器なんてレプリカでも触る気配が有るか無いかの平穏な世界の記憶がベースになっている以上、少年自身も恐れが止むことはおそらく無いだろうと思い、また足早に去っていく。

 

(…………皮肉なことに)

 

(………………こうして仕事まみれだから変な事を考えずに済むのだろうな)

 

 

 


 

 

「………副会長」

 

足早に去って行くその後ろ姿をリンは眺める。私たちがトップと讃える連邦生徒会長によく似た副会長はここキヴォトスにおいて、おそらく初めてとなる男子生徒である。

 

副会長の業務は忙しい。基本的な彼の仕事である連邦生徒会との外部の連携業務に、色々と面倒事を運んでくる学校や企業との折衷案の作成。そして学校間、学校・企業間の連携締結の間に入るなどなど本当に仕事が絶えない、唯でさえ毎日がギリギリの中での連邦生徒会長の失踪だ。

 

私も人の事を言えないが、日に日に顔色が悪くなっているとリンは分かっていた。

 

「頼っては、くれないのですね」

 

それでも、それでもだ。正直に言うとリンは楽しみにしていた。期待していた。

連邦生徒会長が居なくなった以上このキヴォトスを支えるのは私たち2人だと思っていた。居なくなったあの人の代わりの穴を2人で埋めるのならきっと何事もうまく行くと思っていた。……思い上がったのは私だけ、だった。

 

彼はたった1人で先に行く。後ろから追いかける私たちなんて見もせず。

アビドスの利権の件だってそう。エデン条約に関してもそう。ミレニアムの廃墟の件だってそう。SRTの件だってそう。全部が全部、連邦生徒会長が居なくなってから彼1人で場面を整えた。私たち連邦生徒会が失踪の煽りを受けて混乱している中、彼だけが何も言わずに、全部を片付けた。

 

何故?とも思った。どうして?とも思った。けどそれはお門違いの思い上がりだと理解できるのはそんなに遅いことではなかった。……簡単なこと、彼にとって私たちは“頼れる相手”では無いのだ。あくまで連邦生徒会として同じ名前に名を連ねているがそれだけ。彼にとっては私たちも他の生徒と変わらないということなのだ。

 

「………随分と、ふざけた話ですね」

 

理解できるが納得はできない。それがリンの感想だった。

確かに、連邦生徒会は会長がいなくなった事で醜態を晒した。だけどそれだけで、それだけで私たちを彼は見放したと言うのか。だから私たちは彼にとって頼るに値しないという事なのだろうか。当然、リンにはそれが受け入れ難かった。貴方が望むのなら、きっと今ならなんだって出来るだろうし、よほどのことで無い限りそれに賛同する学校が殆どだと言うのに。

 

「それにそもそもアイツは自己評価が低すぎるんですよ全く」

 

ドシドシと地団駄を踏みながら空き缶を片付けるリンの頭の中では先ほどの澄ました顔に何発も蹴りを入れている。……そうだ。だってよくよく考えて欲しい。あまり連邦生徒会傘下の学区から出ないはずの連邦生徒会の生徒がわざわざ他の学園に出向きその学区の小さなトラブルから大きなトラブルまで介入し、トラブルを解決してくれる生徒なんて彼以外にいるのだろうか。いや、居なかった。だからこそ、多くの学区の権力者たちは彼の言うことなら従うと言った。連邦生徒会ではなく、副会長一個人を“連邦生徒会の声”として聞いているのだ。つまり彼が居なければきっと混乱はもっと酷いことになっていて学校も連邦生徒会の言う事を聞かなかっただろうと思う。

 

「もう少しこう、信頼してくれたらいいのに……」

 

やろうと思えば連邦生徒会長を罷免して、彼が連邦生徒会長に就く事だって難しくは無い。と言うより多くの学校がそうなる様に動いているし、何なら三大校連名で副会長を連邦生徒会長にするのなら連邦生徒会に便宜を図る的なニュアンスでのさっさと彼をトップにしろ。という密書も絶えない。

 

副会長を信頼してくれるのは嬉しいが、そこまで行くと盲信・信仰の域だ。そうして彼への仕事が増えて、また休めなくなり、不眠不休で解決をして、また信頼を集めて仕事が増えるといった最悪の悪循環に入ってきているとリンは自分を棚に上げて他校に怒りを燃やす。

 

そんな極限状態でも彼は全く弱音を吐かず、たった一人で代行としての仕事もこなしている。そんな事、超人と名高い連邦生徒会長でさえも無理だ。彼女はよく逃げ出していた。おそらくそれがストレス発散なのだが、今の彼はそれさえもないと考えると本当に溜め込んでいるのだろうと想像するのは容易かった。

 

「決めました。……今回という今回は流石に休んでもらいます。」

 

明らかに隠しきれていない目のクマに傷んだ髪。幾ら連邦生徒会副会長と言えど流石にそろそろ強制的に休ませないと不味いとリンも考える。……今日の業務が終わる時間にアオイとアユムを連れて副会長を強制的に仮眠室に放り込んで寝かせようと意思を固めたのだった。

 

 

 


 

 

「あっあの!副会長!これ本日の……」

 

「ああ。ありがとう、調停室長」

 

朝、他の連邦生徒会の生徒が一堂に集まる時間帯に少年はその場に立っていた。今日の業務の説明の為である。朝礼の時間も取れないほど忙しい日にはこうしてクソデカ紙の束を調停室長であるアユムから受け取って仕事に戻る。

 

(はいはい。エッチエッチ)

 

受け取った紙の束にはリンほどある豊満な胸の跡がついており丁度胸の辺りに紙が歪んでいるのを見て、少年はいつも通り“はぁ〜でっっけぇおっぱいだなぁ…揉んでみてぇなぁ……”と感嘆の息を心の中で漏らしながら紙を受け取る。

そうして歩いていると目の前に朝からポテチの袋片手に歩いてくる1人の少女の姿が見えた。

 

「副会長じゃん。おはよう」

 

「ああ。おはよう、由良木幹部」

 

その少女の名は由良木モモカ。交通室所属のまだ幼いこの少女はそれでも幹部という立場の1人だ。流石にこれほど幼い子には勃たないし、エッチだなぁ…と思うことは少年でも無いがそれでもよく自分に絡んでくる人懐っこい子だと多少親しみは覚えていた。

 

「……また寝てないの?そろそろ先輩たちが強制的にベッドに押し込もうって話をしてたよ」

 

「それは……まあそうか。ありがとう。そろそろ寝よう」

 

そろそろ寝よう(この紙の束の処理が終わるまで寝れない)という頭の中で嘘では無い弁解をしたところで、仕事は終わらない。間違いなく今夜も徹夜になるだろうと考え、何処で仮眠を取れるか考える事を脳内のタスクに記入した。

 

強制的にベッドに押し込まれるのは間違いなく事実だとモモカのタレコミに感謝する。今までにも何回かあったがリン行政官、アオイ財務室長、アユム調停室長に腕を掴まれ、拘束されてあのクソデカおっぱい×3に包まれながら仮眠室に強制連行された事がある。最初はすわ反逆か、謀反か。と命を諦めた事があったが何度も何度も天丼の如く連行される事になる頃には三つのおっぱいの柔らかさや温もりをその身で感じる至福になった。まあそれよりも陰茎が苛立たない様にする方に苦心したが。

 

「ホントに気をつけてよね。……先輩が倒れちゃうと私……」

 

しおらしくなるモモカに流石の少年も内心揺れる。

こうして慕ってくれているだろう後輩が自分を例え胡麻擦りであろうとも心配してくれているのを見るともう少し頑張ろうと思える様になる。いつもはサボり癖が多いモモカだとアユムから小さな苦言が上がってくることもあったが、それでもこうして人の事を心配してくれる辺り、心優しい子なんだなとキヴォトスも捨てたもんじゃ無いと思う。

 

「大丈夫だ……心配してくれてありがとう由良木幹部。」

 

内心ああ〜^癒されるんじゃ〜^と心ぴょんぴょんしながらも、鉄壁の表情筋はピクリとも動きはしない。ポーカーフェイスでないとどうしようもない交渉の場面では非常に役に立つ場面が多いこの面だが、一瞬だけでも本当の笑みが出来ないことについては、少しだけ惜しいなと少年は思ったのであった。

 

 

 

「身体は書類で出来ていた〜なんてな」

 

部屋に戻った所で、少年がする事は書類の片付けだけだ。今日の副会長としての業務は遠方への出張もある。シャワーを浴びて着替えてとなると時間は刻一刻と迫るのに書類の山は変わらないジレンマが発生してしまった。

 

精密機械の様に腕を動かしながら少年は並行して並べた幾つもの書類の中から早急に片付けないといけない物や、別の部署の管轄であるものを目視で考えて、頭の中で印を付ける。

 

「………………あ゛」

 

そうする事数時間。気がついたらそろそろ出張の準備の時間になったところで、少年はようやく顔を上げた。口から漏れ出る音はもはや死人の呻き声だ。夜中に聞いたら普通に怪異認定される事間違いなしの声さえもお構いなく、少年の脳内はもはや一つのことで埋め尽くされていた。

 

(どうしよ……めちゃくちゃムラムラする)

 

………まあ少年の名誉的に弁解するのなら彼も男子高校生ということだ。しかも周りには凄くプロポーションの良い女性ばかりの世界で性欲が湧かない訳がないのである。幾らキヴォトス人が引き金の軽い野蛮人でも全員が全員美人ばかりだし良い匂いもする。しかも最悪な事に少年は最近の激務で発散もできていないと来た。どうしてこうなったのか。少年の天才的(笑)なまでの思考はひとつの結論を生み出した。

 

──────そうだ。この役職が悪い。

 

どうしてそうなってしまったのか。天才的(爆笑)と言いたいかもしれないが待ってほしい。今まで少年が我慢してきた原因はこの仕事が他人に自分の弱みを見せられないからであると認識してしまった。

 

(ああ。そうだった……俺はなんか自分と気が合う女の子と仲良くなって、付き合いたかったんだ………)

 

それもこれもこの仕事のお陰で華の青春がぶっ壊されたと思うと、もう耐えられなかった。脳内で描いていたはずの華の青春が現実は灰色の毎日。気が狂いそうになる書類に、エナドリが恋人と言わんばかりの現実についに少年は我慢の限界だった。

 

「そうだ」

 

………まあ何というか、だ。

深夜テンションと性欲の暴走は未曾有の被害を生み出す。

 

「ゲマトリアに入れてもらお」

 

普通の学校は今の権力的に面倒事に巻き込まれる未来しかないからバツ。ならゲマトリアに入ったら、連邦生徒会からは名前が無くなって普通の恋愛が出来るだろう。これで今度こそ華の青春生活が送れるのだ!と思い描くのは少年ばかりである。

 

 

 

「つーわけで!俺をゲマトリアで雇ってくれよ黒服のアニキ!!」

 

「…………………?ちょっと待ってください」

 





To be continued...?


少年

連邦生徒会長の実の弟。役職は連邦生徒会副会長。
キヴォトスでは初となる男子生徒。勿論頭にヘイローはある。
その容姿は連邦生徒会長とよく似ているため胸の部分などを見なければ見分けがつかないほどである。

連邦生徒会長失踪後。自らの身を挺してキヴォトスの秩序を守り続けた番人。
連邦生徒会長の業務だけでなく自分の業務まで完璧にこなすその姿はまごう事なき超人の一種。しかも合間合間に各学校の視察に赴いて直接話を聞いているその姿は多くのキヴォトスの生徒の瞳に焼き付いた。

本来の彼の業務は連邦生徒会と各学校、各企業との連携や折衷が基本業務。権力が集中しない様にや、学校の自治がバランス良く維持できる様にする事が基本業務。後は個人的に学校からドロップアウトした不良生徒などの更生にも手を出していたりする。

まあ一言で言うのなら“シャーレの前任”をたった一人で行なっていた少年。
だから今まで多くの他生徒の脳を焼いて来たのを知らぬのは本人ばかり。

……と言うのはあくまで表の姿。
その実は“非常に小心者で臆病”である。生まれつき持っていた何処かの誰かの記憶を頼りに生きて来たが、あまりにもキヴォトスとの常識と違い内心怯えながらも美人ばかりのこの世界に鼻を伸ばしているのが彼の本性である。

彼の仕事が完璧なのも、彼がわざわざ各学校に自ら赴き話し合いに行くのはあくまで自分の身を守る術である。引き金が軽い見目麗しい蛮族であるという認識の色眼鏡を外せない彼にとって、下手に機嫌を損ねてしまって自分が殺される羽目になるという恐怖から決して逃れられない。……だからこそ、彼はおそらく姉である連邦生徒会長の次に付き合いが長いであろうリンにさえ弱音を吐く事ができず、内心でさえもリンの事を行政官と付けて呼んでいるほどの筋金入りである。

本当はハーレムを築けるほどの好感度があると言うのに

だからこそ今回は遂に爆発した。今から彼は自分の青春を全うする為に連邦生徒会長代理という立場も、連邦生徒会副会長という立場も捨てた1人のただの生徒である。(それが全うできるとは言っていない)
キヴォトス人は怖いと言っておきながら、青春を全うしたというあまりに矛盾した精神は彼の心の表れである。おそらくその恐れが無ければ“先生”も出来たであろう傑物である事は間違い無いのだろう。





七神リン

この後、置き手紙ひとつだけ置いて失踪してしまった副会長を見てSANC……失敗!(笑)
めちゃくちゃ信頼していたのに2回も何も言わずに自分の前から消えたリンちゃんの精神は完全にぶっ壊れる。あの人から託されて、あの人が維持して来たキヴォトスの平穏を守る為に自らの心を錬鉄にする姿はとても鬱くしい。

アビドスの件を切り捨て、エデン条約を切り捨て、ミレニアムを切り捨て、SRTを切り捨て、全部を切り捨ててキヴォトスの平穏に執着するその姿はもはや最果ての魔女にそっくり!あの人たちが守った中身はすでに何の意味もないのに側だけの平穏に邁進するその姿は自分が頂点に立つと腐心する自称超人とよく似ている。やっぱり同じ連邦生徒会の仲間だね♡

リンちゃん。どうして泣くんだい?
あの日、連邦生徒会長の手も、副会長の手も取れなかったのは他ならぬ君じゃないか。




扇喜アオイ

あの日、全部が壊れたと理解している少女。
それでも天秤は動かない。天秤はお前を認めない。何故なら彼女の仕事である財務は自分の心情ひとつで覆して良い仕事である事を知っているから。リンが断腸の思いで切り捨てたその全てから誹謗中傷が鳴り止まなかった事をアオイだけは覚えている。

自分でも気がついていないかも知れないが副会長の強火勢。
本来なら彼専用の仮眠室に何度も入ったとなるとそれこそ忍び込んだ他ないのだから。


反応があれば続きを考えようかな……
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