元連邦生徒会副会長は征く   作:ふしあな

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今回少し短め。黒服と契約が終わった後の少年の話です。
あ。今更の報告ですが本作において“原作死亡キャラ生存”のタグは使われません。



外伝・元副会長はかく語りき①

 

 

元連邦生徒会副会長の一日の始まりは、ご機嫌なコーヒーの一杯から始まる。

ドリッパーの中に入ってあるコーヒー粉は元同僚である連邦生徒会のかつての友人から熱心に布教されたモノだ。その友人は防衛室長なだけあって、話をする機会も多かったとふと何となく思い出した。

 

最終的には忙しくて親交が途切れてしまったが途中までは、よくコーヒーを一緒に飲みながらチェスや将棋を楽しんでいた思い出がある。その他のテーブルゲームでは自分の方が強かったのに、その二つはよく負け越していたのだっけと思い出した。……連邦生徒会に思い入れはないが

 

(結局、決着を付けられなかったんだよな……)

 

その子との最後の遊びの時、時間の都合上、途中になってしまったチェスを思い出した。互いに一進一退の大勝負。中盤になったと言うのにどちらが勝ってもおかしくない所で入ってきた急ぎの仕事に邪魔されて結局、勝ち負けが決まらなかった事だけは少し惜しいなと沸いた湯をドリッパーに注いでいく。

 

「…………ふぅ」

 

マンションの一室。朝日が十分なほど部屋に入るこの家こそが今の少年の棲家である。連邦生徒会にいた時よりも部屋は間違いなく狭く設備も型落ち感があるが、それでも少年はこの寝室とリビングそして水廻りの至って普通の家を気に入っていた。

 

広めのベランダに置いたロッキングチェアに座り、近くの小さめの机にコーヒーを置き少年は読書を始めていた。連邦生徒会に居た時はこうして静かで緩やかな朝なんて夢のまた夢だったのが、今では現実になっている。それだけでも仕事を辞めただけの価値があると少年はいつからか積んでいただけになっていた本を丁寧に、それは丁寧に読んでいく。

 

(………本を紹介されても読む時間がなかったからな)

 

少年が思い出すは同じ様に本を楽しむ子たちから紹介された記憶。あのいい感じに男の理想って感じの巨乳で、よくよく見てみたらうお…でか……ってなった巨尻の持ち主である財務室長から紹介された本やら、ミレニアムの書記から送られた自作の詩集(数ページ読んだだけで抗えない睡眠への誘いが来たから泣く泣く封印してしまったが)、本当に意外だがゲヘナにも本を楽しむ為、話の合う子がいた様な気がする。…まあその子とは、色々とあってあまり関わる事をしなくなったが。

 

ちなみにミレニアム書記の名誉のために言っておくと、本のチョイスは良いセンスをしているのだ。ただ本当に自作する才能が睡眠学への貢献になってしまうだけであって。

 

(………………………)

 

ただひたすらに本を読む。買うだけ買って手をつけてない本を、1ページずつ今までの時間を取り戻すようにめくる。誰にも邪魔されず、軽やかで、それでいて満たされる時間を少年はようやく手に入れた。きっと自分に足りなかったのは【青春】と同時にこうして自分を見直す様なゆっくりと流れる時間と静寂だったのだと自分の行いは間違っていなかったと少年はこの瞬間を噛み締める。

 

『 〜‼︎』

 

「………もうこんな時間か」

 

新しく買ったまだ慣れないスマホからアラームが鳴る。

そろそろ朝食の準備しないと学校に間に合わないぞと言うアラームだ。

昔の、それこそ連邦生徒会で働いている時は朝食より寝る時間の確保に執心していたのが今では自分の朝食に凝っているのだからつくづく不思議なモノだ。

 

手慣れた様に冷蔵庫からハムと卵を出して、フライパンで焼いていく。

その横ではポップアップトースターが食パンを焼いている良い匂いがしてきた。ベーコンが焼ける匂いとパンが焼き上がり飛び出してくる音に、これぞ朝食だなぁと感慨深い思いが浮かんでくる。

 

幾つか皿を出しその内の1つの深皿に勿論、野菜も盛り付けていく。最近では温野菜にも拘っているが朝はやはり普通にサラダが1番だと思う。ミニトマトを入れて、その上からドレッシングを入れる。ドレッシングは手作りの和風だ。これが意外と良い出来なのだと密かに成功を誇っている。

 

最後に飲み物はご機嫌な豆乳バナナジュースを。個人的にはここに蜂蜜やらきな粉を入れて調整するが今日はそのままの気分なのだとグラスに注ぎ、これで準備完了。

 

「………………いただきます」

 

パシャリと一枚だけ写真を撮ってサラダから手を付けていく。

朝の雲雀の囀りを音楽に、満遍なく食べていく。誰かが言ったモノを食べる時は誰にも邪魔されず自由で、独りで静かで豊かなんというか救われてなきゃあダメなんだという心理にはめちゃくちゃ理解できると思っている。……まあキヴォトスにおいてこの既に微かに聞こえる銃声と爆発の音が、非常に台無しにしている感あるが。

 

「ご馳走様でした」

 

一通り食べ終わり、少年はシンクで皿に水を入れておく。

今、皿を洗わないのであればこうして水に付けておくと後々楽だと言うのはライフハックである。その後は少年も一通り準備をして軽くはない学生鞄を手に取り家を出ようとしたその時。

 

「………ああ。忘れてた忘れてた。」

 

玄関に置きっぱなしにされた両手大の箱。

その中から取り出すのは紫色に怪しく輝く宝石である。

 

その宝石を少年は手慣れた様に片手で砕き自分の真上に投げる。その瞬間カケラだったその宝石は半透明の輝きの粉になり少年に降りかかった途端、少年の姿は節々に男らしい筋肉質の四肢が可憐な少女の様なしなやかな四肢になり、全くの膨らみがなかった胸には慎まやかながら確かにある乳が盛られている姿になっている。下品なことを言うのなら股間の膨らみも今はフラットになっている。そう、分かりやすく言うのなら今の少年は少女の姿になっているのだ。

 

「……よし。これで後は……」

 

勿論それだけでは低くなった声を騙せない。少年は更に箱の横に立てかけてある黒色のチョーカーを首に巻く。銀のバックルが付いており、そこには幾何学的な魔法陣が刻まれているのを少年は男心を擽られると気に入っている。

 

「…………あーあ。よし」

 

少年(少女)の首に巻かれたチョーカーを固定すると低かった少年の声が、まるで少女の様に高い声になっていた。そう、これら一式こそが少年と黒服の間に交わされた契約のひとつである“姿を偽る装置”である。

 

とは言ってもこれらの道具は黒服お手製という訳ではなく黒服が誰かから契約を交わして持ってきた物であるが、その辺りのことは少年はノータッチである。まあおそらく記号…或いは『テクスト』の概念を用いて『作品』として仕上げたのだろうと言う制作者の意気込みを感じる逸品である。

 

この宝石の効力だってきっかり12時間、24時間、48時間と三種類もあり重ねがけする事で何のデメリットなく時間の延長が可能な上、薬として検出される事もなくキヴォトスに現存するシステムの全てが自分を少女だと誤認するというこのヤバさに流石の少年もビックリである。

 

「じゃあ行ってきます」

 

 

元連邦生徒会副会長。そして今の名前は“紫青ライラ”という少女は今日もまた青春を謳歌するのであった。

 

 

「ライラー!おはよう!」

 

「おはよう。」

 

通学路の向こうから手を振る少女の姿。少年…ライラがよく関わるクラスメイトの一人だ。編入してきた転校生であるライラは意外にもすぐに学校、クラスに馴染んでいる。……まあ元の仕事を考えればこうして人付き合いが上手いのは当たり前かもしれないが。

 

「そーいえば今日も見たよ。」

 

「……?ああ。あの」

 

相変わらずライラって器用な事するよねー!と笑うクラスメイトにライラは微笑む。そうクラスメイトがライラに言っているのは毎朝作っている朝食の事だ。少年もライラとなってから気がついた事だがキチンと自炊をしていると言うのは中々珍しい事らしい。

 

料理店。或いは出来合いモノなど、買って食べた方が早いし楽であるのは確かに間違いない。だからこそ、ゲヘナの給食部が何かと言われながらも仕事が無くならない激務である事の一例と言えるのだろう。……まあ単純に美食研究会がゲヘナに出来た手頃な料理店を吹っ飛ばすから、食べるところがないというのも理由だろうが。

 

「おはようございます。ライラさん」

 

「あっ!おはよー!ライラ姉!」

 

また別のクラスメイトにも、仲の良い後輩とも挨拶してライラは学校の中に入っていく。小規模の学校だからか少年自身も名前を覚えやすい。すれ違う同級生やら後輩と挨拶しながらこうしてクラスの中にある自分の席に座るだけでライラは謎に満足感が湧いてくる。

 

クラス全員が同じ方向で黒板を見て授業を聞く。学生なら飽き飽きとしたこの授業方式も今のライラにはとても目新しいモノのように見える。

 

(………ん?)

 

BDで映像授業というのもまだ副会長だった時は遠方への出張の合間に受講したり、仕事とのマルチタスクで受講していたりしていたがぶっちゃけなんの面白味の無い知識の詰め込みだけだったりする。

 

今のように隣の席から小さく折り畳んだ紙の切れ端の手紙が来るなんて、このような授業方式じゃないとあり得ないのだから。

 

(なに何……今日の放課後、カフェ行かない?、か)

 

わざわざ今聞かなくても休み時間に聞けば良いものを、授業中に秘密の手紙回しにするのもある意味青春だ。チラリと視線を隣に寄越すと手紙の主がヒラヒラと小さく手を振っていた。

 

同じ様に小さく手を振り返し、手紙にサラッと“いいよ”とだけ書いてバレない様に上手く手首だけを使ってその子の机に投げ返す。その子は待ってましたとばかりに四つ折りの紙を開けてやったぁと言わんばかりに両手で握り拳を作った姿を愛くるしく見守りながらもキチンと授業ノートは取っておくのだった。

 

「ね゛え゛ライラ様ぁ〜」

 

「はいはい。授業ノートでしょ?」

 

授業終わり。ライラは自分の椅子で伸びをしていたら、前から濁音付きのダミ声で半泣きしながらクラスメイトが飛びついてきた。そんな少女の様子にライラは手馴れたかの様に先程の授業の内容を纏めたノートを見せていた。

 

元副会長時代に一応全ての授業の履修が終わっているとは言え、記憶は劣化する。

だからこそライラは対面授業を聞きながら内容をどれほど分かりやすく凝ったノートを録るかという方向にシフトチェンジした。そんなこんなで暇つぶしの為に色々と工夫したノートは、こうして授業を寝てしまった子やバイトで遅れてしまった子の授業教材と化したのだった。

 

「ありがとー……相変わらず賢過ぎない?ライラ」

 

「だよねー。うわっ。髪サラサラ……ライラもしかしていいところのお嬢様説ない?」

 

ノートを一目見るだけで重要な語彙や知識などが纏められており、誰が読んでもその授業の内容を理解できる様に作られているライラお手製の参考書ノートは、日々の授業終わりだけでなく、テスト前などいつの間にかコピーされてクラス全員に回されている始末だ。…まあライラとしてもこうして感謝されるのは悪い気もしないし、手慰みの暇つぶしがこうして誰かの助けになっている事は純粋の嬉しいのだ。

 

間違いなくミレニアムとか行けたでしょ…と言いながらノートを写しているクラスメイトの後ろで、ライラの髪を弄っているさっき手紙を交わしていたクラスメイト。ライラの髪型がいつも変わらない事をいい事に(ライラ自身、そこまで髪型にこだわりが無い為)こうして勝手に三つ編みにされたりとかしている。

 

「あはは……無い無い。普通の生徒だよー」

 

ライラ自身、口で否定しつつもいつの間にかクラスで囁かれている噂。それは“ライラいいところのお嬢様説”である。少なくとも料理の腕前は人並み以上で、更には文武両道。かと言って性格が悪い訳ではなく、勉強が分からなければ分かるまで砕いて説明してくれるぐらいの優しさ。そして何故か浮世離れしているかの様な雰囲気。それら全てをまとめて“実は、ライラはいいところのお嬢様で。身分を隠してこの学校で生活している”と言う物だ。

 

(うーん。勘が鋭いと言うべきか………)

 

まあどうやってもバレる事は無いとはいえ、割とこの噂が変に掠っているのにライラは苦笑する。いいところ…あの連邦生徒会所属だった事をそう言うのならそうだし、身分を隠していると言うのも事実だ。人の噂も七十五日と言うがまだまだ過ぎそうに無いなとライラは思うのだった。

 

 

 

 

「おつかれー!ばいばーい!!」

 

「はーい。また明日ー!」

 

授業が終わり、放課後。急いでバイトに向かう子たちを見送って、ライラと一緒に行こうと言ってた子と更に追加で計五人で言っていたカフェに向かうのだった。

その言っていたカフェに着くとそこは結構色んな生徒で埋まっていた。キョロキョロと見渡すとトリニティの少女たちが集まっているのが見えるし、遠くではゲヘナの悪名高い銀髪と赤髪と金髪と銀髪の影が見えた。流石に爆破しないと思いたいが、頼む…静かに……と祈るほかない。

 

「すみませーん!」

 

「はーい。ご注文をお伺いします」

 

どうやらここでのおすすめはミラクルパフェ…かのトリニティで大絶賛のお菓子であるミラクル5000をリスペクトしたパフェらしい。版権的にどうなんだと思わざるをえないが繁盛している辺り見逃されているのだろうか。

ライラはブラックコーヒー…と言いたい所だが、他全員がミルクティーにしているからライラも一応気を使って、今日はミルクティーにした。

 

「ねーねーこれさ───」

 

「そう言えばトリニティ学区で……」

 

「ミレニアムの新作みた?」

 

話は二転三転しながら進んでいく。例えば最近では不良やスケバンの数が増えてきているとか、トリニティ学区近くの郊外にあった既に廃園となった遊園地の中で夜な夜なマスコットだけが動いてショーをしているだとか、ミレニアムが作った新商品たちの品評会で見事一位を取ったモノが発表されたとの話題など……ライラ、ひいては少年自身も興味のある話題にも掛かる。

 

(うーん。久々に紅茶飲んだけど悪くないんだなぁ……)

 

思い出すのは招待されたトリニティでのお茶会。古くからある学校だからとは言え学校内だけでも色々と派閥があり、それによって挨拶の順番やらお茶会での作法が変わるというマナーがあるのだ。……殆ど形骸化しているとは言え連邦生徒会がトリニティを蔑ろにする訳ではないというアピールの為に、少年は必死にマナーを覚えたのだ。

 

そういう過去があるせいか間違いなく最高級の茶葉での紅茶の味は思い出すだけ苦痛になりかけていた。所謂、トラウマというやつだ。だがそんな過去も今は昔、少しずつ紅茶の美味さにも気がつき始め少年は落ち着いて紅茶を楽しめるようになったのだった。

 

(…………あれは)

 

勝手に話は進みライラは半分聞き流しながら外に目を向ける。

その瞬間、目に映った一人の生徒…の胸に掛けられた“アビドス”の校章。

 

(アビドス高等学校……か)

 

懐かしいものを見たとばかりに少年は目を細めながらティーカップに口を付ける。

少年にとって見覚えのない生徒だから、おそらく“手紙”の中にあった新入生の内の誰かだろうとそんな事を考えたのだった。

 

「ねーねー。ライラ?」

 

「……はいはい。どうしました?」

 

そんなこんなを考えていたら横から声がかかる。

ライラが先ほどまで考えていた事は結局、この集まりが解散するまで思い出される事は無かったのだった。

 

 

 

 

 

 

「………ただいまー」

 

暗くなった頃、家に帰ってきたライラは真っ先に首元のチョーカーを外しドカリと椅子に腰掛けた。時計を見るとあと数時間もしないうちにこの化けの皮も剥がれるだろうと少年は時計を見ながらふとそんな事を考えた。

 

そのまま過ぎていく時間を前に少年は深く考え事の様に思考の中に潜っていった。

考える事はただ一つ……今日見たアビドス高等学校の生徒。その校章の特徴はいまだに記憶に残っている。

 

(アビドス高等学校……)

 

かつてはキヴォトス最大級の学校と名高かったのにアビドスにあったオアシスが枯れ、記録上にあるだけでも数十年前から発生し続けた大規模な砂嵐が原因により砂漠化を止める事が出来ず学区の衰退を招き、少年が1番知っている時代ではたった二人で学校を運営していた時期があった。

 

勿論、衰退だけでなく砂漠化対策の為の資金繰りに失敗した事による大規模な借金が原因である。その借金の数、およそ9億強。その上で利子などを考えたら少なくとも数百年は借金漬けの日々が続くはずである。

 

(……一応、視察した事があるが……)

 

法外に半分足突っ込んでいた利子などはカイザーの権力をある程度削いでおきたい自分と借金を減らしたいアビドス生徒会の間で合致し、アビドス代理として利子の低下や無闇矢鱈なアビドスの地上げなどを解消してきてはいるがそれもあくまで時間稼ぎにしかならない。

 

それでもあそこまでアビドスに執着する企業というのも違和感しかなかったと当時、連邦生徒会代理としてアビドスに単身視察していた頃を少年は思い出した。最初は外から来た自分を警戒しているのか、今まで何もしてこなかった連邦生徒会がこんな生徒一人送ってきた事に苛立ったのか、当たりが強かった同級生だったあのクソガキピンクオッドアイロリを思い出した。

 

(懐かしいな……)

 

何かと言いながら喧嘩ばかりだったあのピンクとは途中から“コイツ嫌いだけど認めている”みたいな変な関係になっていって……そうそう、と少年は懐かしいものを思い出したと言わんばかりにクスリと笑った。

 

(あのピンクを敵陣にぶん投げる作戦が結局1番手軽だったんだよな)

 

物資や弾薬などはポケットマネーだけでなく、連邦生徒会への報告において“使われなくなったとは言えあれほど大きな土地を企業に渡すとパワーバランスが崩れる”という名目で連邦生徒会から多少アビドスに支援の手を回す事が出来たがそれでも物資は有限だ。

 

という訳で結局、クソ強いインファイターであるあのピンクを自分が南斗人間砲弾よろしくぶん投げてピンクが暴れている間に自分と当時の生徒会長…ユメ先輩がトドメを刺していくという作戦が1番簡単で物資を使わなかった。

 

(“投げるのは良いですけど、もっと丁寧に投げてください!!”……なんて言われたかな)

 

懐かしい懐かしいと少年は微笑む。ある意味で少年が1番少年らしい時間だったのがアビドスでの視察だ。宝探しの時の溢れんばかりのスクール水着の中のおっぱいと言い、おそらく少年の中でデカパイが性癖になったのは間違いなくあの視察時のユメ先輩の距離感の近さが原因である。(尚、少年の煩悩を感じ取ったのかよくあのロリピンクに蹴られたが)

 

 

けどそんなある日だった。ユメ先輩はともかく、あのピンクとも嫌々ながら友人と言えるぐらいには仲良くなった頃。……下されたのは自分への帰還命令。連邦生徒会へと帰ってこいという姉からの命令だった。

 

(……あの時が、初めての喧嘩別れだっけ)

 

自分が原因の喧嘩だったと少年は昔を懐かしみながらも黒歴史と言わんばかりに顔を少しだけ顰める。喧嘩の理由は、最後の最後まであのピンクに自分が帰る事を言えなかったのだ。どうして言えなかったのか。今思えば謎だが、そんなモノだ。

 

(……………泣かれたな)

 

帰る日。いつもの様に学校に行くと迎えにきたピンクを出迎えたのは連邦生徒会の制服に着替えて、荷物を纏めた自分だった。目を見張るピンクを前に、自分はなんて言っただろうか。と記憶を遡る。だけど少年の頭に浮かんでくるのは、大粒の涙をいっぱいに浮かべながら平手打ちをして去っていくピンクの姿だけだった。

 

結局その後一度もピンクとは顔を合わせることもなく自分はアビドスから連邦生徒会に帰り、それからのアビドスとの交流は手紙とメールだけになってしまったが結局、自分が副会長の時にはあの後一度も行けてなかった事を思い出した。

 

(そう言えば…()()()()()()()()()()()()()()()()()()())

 

半年に一回ほどそれまでの出来事を報告するかの様な紙の束の手紙がアビドスから届く。新入生が入ってきたとか、これからのアビドスが気になるから留年しちゃったとか、アビドスで拾った子がピンク…ホシノに似てきて困るだとか、また新入生ちゃんが詐欺に騙されそうになったとか言っていた。

 

勿論手紙には近況報告だけでなくどうやら砂漠にいるらしい“ビナー”という機械仕掛けの怪物についての情報も書かれていた。その姿は大蛇であり地中から姿を現すらしい。おおよそ全てに敵対的で背中に付いたVLS、口から吐き出す熱光線。そしてビナー自身の巨体を生かした砂の津波と、竜巻。更にはビナーの周囲に浮いている光球から放たれる熱光線(追尾型、威力はそこまで大した事ないらしい)など、色々と攻撃手段があるようだ。だが、目撃例は最初の手紙だけでそれ以降は砂に沈んだアビドス本校を開拓して出てきたデータを整理して共有してきてくれているらしい。

 

こちらもビナーについて調べていたが少なくとも数十年前から出現が確認されており、それ以降度々目撃情報などがあるとしかデータが残っていなかった。だがビナーはどうやら神の存在証明とか考えているAIの一部らしいのだ。おそらくここでミレニアムの廃墟区域の捨てられた研究などが話として繋がってくるのではないかと思うがあくまで机上の空論に過ぎない。忘れよう。

 

(………ただまあ、地下。か)

 

カイザーのアビドスへの執着心。そしてきな臭い機械仕掛けの怪物。

それらを含めて少年は今更ながらアビドスの地下にはおそらく誰も知らない何かが眠っていてもおかしくはないと考えている。例えばゲヘナの“アビス”、トリニティの“カタコンべ”やミレニアムの“廃墟”と言った未探索領域に近しいものが眠っているだろうと少年は考える。

 

まあそれも、今更の話ではあるが。

 

(やめよう。自分はもう副会長じゃない)

 

それもこれも邪推だ。副会長という激務から逃げ切った以上もう自分が考える事じゃないと少年は晩御飯のためにキッチンに立ち始めた。………何もかも放り投げたとは言え、各学校への対応は既に引き継いでいる。その為の書類も分かりやすく各学校の権力者への対応も纏めて置いてきた。

 

(…………そうだな。それでも)

 

これは余談だが少年が連邦生徒会に帰ってからもアビドスへの支援は続けており、振り込んだ口座から使われているのを見るとアビドスも頑張っているんだなと言う気持ちになってくる。今日久々に見たアビドスの生徒らしい子も荒れ荒んだ様子ではなく普通の生徒と変わらない様子だからきっときっとユメ先輩もホシノも頑張ってきて、これからも頑張るのだろう。

 

(………一度、見にいってみてもいいかもしれない)

 

ユメ先輩もホシノもライラが副会長である事には気がつかないだろう。

でもそれでいい。と少年は思っている。だけどあの暖かなユメ先輩の笑みに、何かと言いながら頑張っていたホシノの顔を一度遠くから元気している姿を見ればそれだけで十分なのだからと少年はふと思うのだった。

 

 

 

 






紫青ライラ

元連邦生徒会副会長がただの生徒としてキヴォトス生活を楽しむために作った偽の姿。
由来は“ライラック”という花の名前と色から取った。とされている。

だがなんの価値もない。
意味なき名前に力なぞ、あるわけが無いのだから。



姿変えの宝石、声変えのチョーカー

ゲマトリア、マエストロ製作の逸品。
少年という姿の上に“少女”のシールを貼って上書きしているというのが分かりやすい原理。だからこそシールを剥がせば“少年”である事には変わりがないが肝心のシールを剥がす事は少なくともキヴォトスに属する存在や、知識のない者には不可能だろう。



少年の記憶、アビドス編

元連邦生徒会副会長が今までに関わってきた事柄の過去の追憶。
今回はアビドスの校章を付けたアビドス生を見た事で思い出したのだろう。
真実はどうであれ、少年の中では記憶が事実である。


割と人の心ない感じで物語が進んでるなとは思う。
けどごめん。まだ序盤なんだ……
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