元連邦生徒会副会長は征く   作:ふしあな

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(この展開、後々絶対必要だけど急展開や)どないする?
まあ……(並行世界のシロコも似た様な事してたし)ええやろ

投稿数時間前の、自問自答である。



何故先生はアビドスに向かうのか?

 

 

───────箱の中で、電脳少女は夢を見る

 

 

 

「そうだ」

 

少年の…連邦生徒会副会長の心はもう限界だった。

多くの仕事だけを残して去っていってしまった連邦生徒会長。トップが消えた事によって混乱し、使えない連邦生徒会。常に自分たちの学校さえ良ければそれで良いという各学校。日々、自身の利益追求だけを良しとする企業。……もはや少年にとってこのキヴォトス全てが汚らわしく、浅ましいという思いしか浮かばなかった。

 

「………考えれば簡単な事だった」

 

書いていた重要な書類から愛用の万年筆を投げ捨て、書類をグシャリと丸めゴミ箱の中にホールインワンをした時の少年の顔は“無”であった。何処かで教えられている虚無ではない。文字通りの無。あらゆる情も、あらゆる怨さえも無くした少年がそこには立っていた。

 

そもそも少年にとってキヴォトスというのはどちらかと言えば恐怖の対象だった。同じような男子生徒はおらず、今まで頼りにして来た何処かの誰かの記憶とは当てにならないキヴォトスでの常識を前に少年は今まで必死に、まるでご機嫌を取るかのような畏れ故の奉仕心で働いて来た。……つまり一言で言うのなら少年には同類がおらず、誰一人として己の恐怖を理解する者が何処にも居なかったのだ。

 

だがそれでも少年が今まで頑張ってこれたのは単に上に立つ者としての責務だとか、かつてある記憶の中での学生の輝かしい未来のためとか、男としての見栄だとか、単純に性欲だとか色々とあったが、それも今となっては理由に挙げて理性のストッパーにするには足りないレベルで少年はキヴォトスに何も浮かばなかった。

 

「俺が全部支配すればいい。全部を篩って残った物だけが、きっとこれからのキヴォトスに“必要”なモノだ。」

 

好きの反対は嫌いではなく、無関心とはよく言ったものだと少年は世にも恐ろしい事をまるでナイスアイデアと言わんばかりの笑みで口ずさむ。とりあえず一度キヴォトスを全部均して篩に掛ける。お前たちが力であるべき秩序さえも蝕む化け物であるのなら、更なる力で支配する。化け物であるのなら殺す。もしもお前たちが恭順を示すのならせめて連邦生徒会長の意を汲み取り、笑みだけは残してやる。

 

着ていた連邦生徒会の制服を投げ捨て、懐に仕舞っていた護身用のハンドガンで制服を穴だらけにする。硝煙と穴だらけになった制服を見て、ようやく少しは溜飲が下がった。お陰で計画が割と完全な形に纏まってきたと少年は無意識のうちに満面の笑みになっていた。

 

「それで良い。俺はキヴォトスを救わない。キヴォトスを愛さない。」

 

こうして連邦生徒会副会長は姿を消したのだった。

だが少年は自身の矛盾に気がついているのだろうか?“生かす価値”というモノを自分の天秤に掛けた時点で、それは彼が汚らわしく浅ましいと見做したモノと同じである事を。

 

 

 

 

 

 

「…………………」

 

少年が姿を消して数週間。相変わらずキヴォトスは変わらない日常を過ごしていた。彼が姿を消した事を知っている人員を除いての話だが。

そんな中で彼はようやく準備が終わったとばかりに、ようやく表舞台に立った。

 

彼自身の私兵である()()()()()()()()()()()()()を背後に侍らせ、クロノススクールの記者たちを前に少年はまるでいつも生徒たちと接するかの様な優しい微笑みでマイクを手に取った。

 

『今この瞬間から、このキヴォトスは私のモノです。』

 

『連邦生徒会、ヴァルキューレ、SRTは解散し、各学校の自治権も廃止。皆さんは今後私に従ってください』

 

訳が分からないと混乱する記者も居れば、そんなこと認められるはずが無いと血相を変える記者。更にはまだ副会長が冗談を言っていると思ってニヤニヤ笑って次のネタばらしを待つ記者。だがその中で彼とよく政治的なやり取りをする連邦生徒会や、各学校の権力者たちは気がついていた。彼が全く嘘を言っておらず本気で、本心でキヴォトスを支配するつもりなのだと。

 

そんな事認められるはずが無い。冗談でも言って良いことと悪いことがあると近くまで来ていたリンが文字通り顔色さえも変えて、飛び込んでくる。……そうしてようやく記者たちも副会長が本気でそんな事を言っているのだと歩み寄ってくる。

 

『うーん。困りましたね……』

 

混乱する彼の目の前に、後ろでは微動だにしないガスマスクを被った生徒たち。まるで異様な空気に包まれる。主要な学校は既に連邦生徒会宛に、副会長宛に現段階での説明を強く求める公文を発表し“冗談で言ったのだろうが、少なくとも自治権を手放す考えはない”と言ったあくまで彼のお茶目な冗談であるが、例えそうであっても自治権を手放そうとは思わないという断固の否定の文書を何処の学校も今までに見ない早さで公開した。

 

そんな中でもまるで違和感を感じるほどのいつも通りの笑みである事に気がつき始めた記者やこの生放送を見ている視聴者が恐ろしいモノを見たかのように顔面を恐怖で歪ませた時。

 

『そうですね……なら反対だと思う方は手を挙げてください〜』

 

いつも通りの気軽さで彼は手を振った。ヒラヒラと左右に揺れる右腕を前に記者もリンも食ってかかるかの様な速度でビシッと右腕を上げる。その瞬間だった。彼が上げた右手でフィンガースナップを行い、合図を出したのは。

 

直後、動き出した彼の背後。彼の私兵であるガスマスクを被った生徒たち…そう。【アリウス生】たちは持っていた銃を構えて、一斉に斉射した。有無も言わせない無慈悲な制圧掃射に流石のキヴォトス人と言えど倒れていく。彼らの突然の暴走を前に、誰も止められない。

 

『………では改めて』

 

唖然とし、傷だらけになった記者やリンを前に彼は笑みを消した真顔でこう言った。

 

 

『全て、、俺に従え』

 

 

今日この日を以て、連邦生徒会、ヴァルキューレ、SRTは解体。従わぬ企業や怪しげな企業は全て見せしめと共に破壊し、ブラックマーケットも人命の損傷度外視の血と鉄を以て無慈悲に破壊され、全ての自治権は剥奪され従わぬ学校には力で制圧を行い、こうしてキヴォトスは【理想郷の王】の名の下、旧【サンクトゥムタワー】改め【タレリアン塔】に築かれた玉座に統一された。

 

 

 

 

 

今日、この日は定期的に行われる王からの話を頂く。

変更がある場合だったり、或いは何処かで“違反者”が現れた話など、相変わらずこのキヴォトスにおいてまだ火種は燻っている。

 

そうして彼は姿を現す。特徴的なのは統一された黒服に、胸元の白いネクタイ。そして左手に掲げし天秤の様な短杖。青色の眼差しは鋭く凍りつき、光の反射でまるで赤く染まっている様にも見えた。

 

「───ご苦労。どうであれよく集まった」

 

話は進む。王に慈悲など無い。王に慈愛など無い。

あるのはただキヴォトスへの嫌悪感と、唾棄に満ち溢れた絶望的なまでの覇気。

一人一人に寄り添う様なカリスマはただ支配するのみのカリスマに成り果てた。

 

「貴様らには期待しない。貴様らは信ずるに値しない」

 

彼の治世は至って単純なモノだ。生かさず殺さずである今のキヴォトスにおいてあらゆる争い事の為の武器は没収される。武は全て処刑人であるアリウスのみが持ち、もしも不法所持が見つかれば即座にアリウスに見せしめにされる。勿論それだけでなく毎月一定量の金か“神秘”を王に捧げる必要があり、出来なければ強制的に徴収される。そして学校単位では自治権を失ったが多くの生徒を分かりやすく組織化するために各学校の生徒会は名前だけ残されている。それが今の彼の治世である。

 

「今や貴様らに望むことはただ従順であれ。それ以外は目を瞑ろう」

 

勿論、そんな青春とはかけ離れた圧政に最初は何処の学校も反発した。

だが彼は反発した全ての学校をアリウスと共に制圧し、従わず籠城する学校には“巡航ミサイル”……通称杖を容赦なく降り注いだのだった。それもただの巡航ミサイルではない。彼の本来の神秘を“転写”した超弩級の対生徒用の呪詛が詰め込まれた巡航ミサイルである。勿論、当たればどれほど強い神秘を持っていても重傷は免れないし、放たれた時点で対生徒用の呪詛は起動して強制的に戦闘不能状態にする。

 

「……ああ。それと、見つけ次第“反乱軍”には杖を放とう」

 

だがそんな完璧とも言える秩序にも、闇は潜んでいる。それが“反乱軍”であり、現在の秩序を仇なす反政府組織である。内情は興味ないが少なくとも彼が奪ったはずの武器を持ち、元連邦生徒会長のメンバーも数人姿を消している辺り、そちらに合流しているのだろうと彼は冷静に考える。

 

アリウスの少女たちはよく働いてくれるから責めるにも責められない。

キヴォトスを支配するのに手駒を求めた彼は手っ取り早くゲマトリアとの交渉ののちにアリウス自治区に乗り込み支配していた大人を殺し、アリウス生全員を元副会長に心酔し切った従順な生徒にした。驚く事にこれがたった数日で行われたと言う事だ。

 

「もしも奴らの根城を密告するのなら褒美を取らす。」

 

この今のキヴォトスにおいて逃げ場所は無い。常にアリウスの処刑人が見張り面倒毎の温床であったブラックマーケットは今や更生した不良たちの住処になっており、特に従わぬ企業であるモノたちも彼が直接その手で破壊し尽くした。その他諸々の問題も彼はその多くを力技で解決してきたのだ。……だからこそ反現政府組織である反乱軍の生徒たちには早く投降して欲しいと考えている。武器を捨て、決められた範囲とは言え学生の領分を守りながら生活すると言うのなら許すつもりでいるのだが、まあ無理だろう。

 

確かに王となった彼はもうキヴォトスを愛する事は無いし見放しているが、それでも何もかもを破壊したいわけでは無い。むしろ彼にとって生徒は何も知らない葦であれば良いのだ。学生として勉強をして遊びに全力になり、喧嘩をすれば翌日にはまた笑い合える様なそんな青春の世界を。……それはかつて彼が抱いた、決して叶う事なき夢の名残だから。

 

 

 

 

「FOX1、本当に良いの?」

 

「では、逆にどうすればいいのだ?FOX2」

 

「………きっと、彼なら話を……」

 

「話をしてどうするの!?あの人はもう止まれない……ッ!それは他ならない私たちが1番よく知っているでしょ!!」

 

「……… 落ち着けFOX3。我々はもう決めただろう」

 

「……………分かった。最後まで、一緒するね」

 

「………ヘマしないでね。全部、全部私が惹きつけるから」

 

「……………最初から、分かってるわよ。それじゃ、みんな来世でね」

 

「それでは始めよう。権力に溺れ、力に耽溺した元連邦生徒会副会長を殺す作戦」

 

「そして私たちの尊敬して、敬愛して、何よりも愛しい主を、殺す作戦」

 

「Operation:regicide………作戦開始」

 

 

 

 

「…………ああ、なるほど。」

 

【理想郷の王】は自らの玉座で胸から血を流す。

その日は彼…いや、少年にとって少なからず喜ばしいと思える日だった。今まで行方不明であったSRT特殊学園の中での一握りのエリートたち。彼がまだ副会長時代の時に最も信頼していたFOX小隊全員がようやく少年の元に戻ってきたのだ。

 

そのまま謁見する事にした彼は、特に注意することもなく少女たちに近づいた。

その瞬間、FOX1であるユキノから王の胸に黒塗りのナイフが差し込まれたのは。

 

勿論、ナイフだけなら問題はない。だがそのナイフは間違いなく『王殺し』の概念を浴びたナイフ。更には強力な神経毒まで塗られていると来た。少年の対応が遅れた時には、もうFOX2であるニコの手によって左手が切り落とされていた。……つまりは王の頼みの綱であった神秘を徴収する天秤を使う隙さえも与えないということだ。

 

「………詰み、か」

 

「………………副、会長」

 

そんな『王殺し』の概念を浴びているナイフなんて野良に転がっているわけがない。間違いなく互いに不可侵であったゲマトリアの誰かが渡したのだろうと簡単に想像できる。……自分が私兵として置いていたアリウスたちもFOX3と4であるクルミとオトギに制圧されている。ポイントマンとスナイパーに制圧される戦士というのもどうかと思うが、それを為したのが少なくともかつて自分が率いていた小隊だったのだから、まあ否が応でも認めざるを得ない。

 

 

自分はこの場で死ぬのだろうと。

圧政を敷いた暴君の末路なぞ、最初から決まっていたも同然だった。

 

 

「泣く、な。ユキノ、ニコ。……お前たち、は、正しい、ことを、したの…だから」

 

「…!なんで……!」

 

「…………………」

 

滂沱の涙を流す二人をボヤける目で眺めながら、言葉を紡ぐ。

 

「長きに、渡る、忠誠──────誠に、大儀であった」

 

「やめて……やめてくれっ……」

 

「ごめんなさい…、ごめんなさい、ごめんなさい」

 

王の右腕が宙を切る。少しだけ触れた二人の頭に、少年は満足して目を閉じた。

 

 

 

こうしてめでたく、【理想郷の王】は倒されました。

お疲れ様でした。キヴォトスに新しい時代が訪れます。

締めくくりとなる“色彩”は、もれなく襲来してきます。

それまで、どうかご歓談のほどを。

 

 

 

 

「………ユキノちゃん。」

 

「ああ。終わった…終わったよ」

 

「…………全部、終わったのね」

 

「うん。ねえクルミ…これで、よかったのかな?」

 

「オトギ、もうどうしようもないでしょ」

 

「ああ。その通りだ。」

 

「……私たちが愛した主人よ」

 

「「……今、あなたの元へ」」

 

「「「「参ります」」」」

 

 


プロトコル:Shem HaMephorash起動


適応者を検索中………発見しました。適応者名、七度ユキノ。


神秘情報、クリア。恐怖適応………不明のユニットが接続されます。

 

 

「そんな未来、認められるわけがない」

 

───────箱の中で、少女は枯れる事なく泣き続ける。

“貴方”はそれを見続ける事しか許されない。

“貴方”は物語の舞台に上がるチケットは無いのだから。

 

 

“……我々は望む、ジェリコの嘆きを。”

『解……我々は覚えている、七つの古則を。』

 

 

 

 


全情報、オールクリア。虚数値より実数値に反転。天秤保存域への格納完了


◼️◼️◼️◼️………25%


 

 

 

 

「……………っ!?」

 

『先生?どうしましたか?……あっ!おはようございます!』

 

先生である貴方は仮眠室のベッドを跳ね起きる様にして目を覚ます。寝巻きの背中を濡れる汗の不快感を拭いながら、アロナにおはようと返す。

 

「……何か悪い夢を見ていたかの様な……」

 

『悪い、夢……ですか?』

 

そう悪い夢。内容こそ覚えていないがそれでもこの胸に残る後味の悪さだけが悪夢の証明になっていた。何かをかけ違えば、何か一つ違えばあり得たかもしれないと思うほど鮮明な悪夢を前に先生はアロナに気にしない様に声を掛けてシャワーへと向かっていった。流石にこの汗かいた不快感は消しておきたかったから。

 

 

『…………迂闊、だったでしょうか』

 

 

そうして着替えた先生はいつもの様に白衣を羽織りシャーレの部室へと向かっていく。先生は本当に猫の手も借りたい程に多忙で、日々グルグル目を回しながらキヴォトスを駆け回っていた。

 

確かに最初に知り合ったハスミやユウカたちが手伝いに来てくれるし、その縁で来てくれる子も少なからず居るがそれでも焼け石に水程度には全然業務が進まない。後は単純に先生がキヴォトスの書類形式に慣れていない事もある。

 

更に言うと業務も多いのだ。そもそも超常的な権力を有するシャーレは、実質的に連邦生徒会長並びに連邦生徒会副会長と同等レベルの権力を有している(出来るかどうかはさておいて)と先生はここに来てシャーレの規則と連邦生徒会の校則とを睨めっこして考え付いた。なら最初に先生がする事となったらその二人の前任者の跡を追いながら、あの二人が出来なかったことや中途半端な所を埋めていってから考えればいいかとなるのもまた自然な話だった。

 

連邦生徒会長の業務は既にキヴォトスに来て初めて会ったリン行政官に引き継がれているらしいが副会長の業務は全くの手付かずだったらしい。ならば話は早いと先生は“ま、問題ないでしょ”とばかりの気軽さで首を突っ込んだのだった。

 

……その結果

 

(やる事が……やる事が、多い!!)

 

こうなった。

各学校の有名人から始まり、注意するべき企業、副会長が更生させて支援していた不良やスケバンまで。その全ての情報が業務の引き継ぎ用として分かりやすく纏められていたのは助かったが、それでもあくまで最低限の情報と援助の総算のみ残されている状況で詳細な情報が全く残されていないというのが現状だった。

 

だから先生が始めるのは本当に1からで、その最低限の情報を覚えるところから始まり少しずつ少しずつ副会長が更生させた生徒から話を聞きつつ、支援の輪を広げていく。勿論それだけで無く、キヴォトスで起こる絶え間ないトラブルの解決の為に縦横無尽に駆け回る事になり(これは本当に連邦生徒会トップの二人が消えたから加速度的に増えている)、朝から活動して日が暮れる頃にはもうヘトヘトという毎日が待っている。しかもそこから今日使った物資の申請や諸々積み上がった書類を片付ける…となると本当に睡眠時間が消えていくのだ。

 

(なるほど……これは確かに、ヤバい)

 

しかもこれ程の激務でありながら副会長の業務の“一部”と聞いた日には、言っては悪いが流石に白目を剥いた。更にはシャーレの下に入っている売店であるエンジェル24でアルバイトをしているソラの話によれば1番サンクトゥムタワー近くのバイトに行っていた時よくメガネを掛けたお姉さんと澄んだ青色の髪をしたお兄さんが死んだ目をしてエナドリと栄養食をダース単位で買っていっていたという話まで聞けたとなると流石の先生も最初の気軽さはもはや無かった。

 

(だけどこれをあの子は一人で頑張ってきたんだ)

 

元々、副会長というのはあくまで連邦生徒会長の補佐だけが仕事だった。それがいつの間にか彼の手によって各学校や企業との調整役となり、更にはドロップアウトした子を助ける福祉的な仕事まで手を伸ばしていた。おそらく副会長だって激務であることが最初から分かっていた。だと言うのにここまで頑張ったのはひとえに“キヴォトスへの愛”が無ければ出来なかっただろう。

 

(……それに私は先生なんだ。最後まで逃げなかった彼よりも先に逃げるわけには行かない。)

 

先生である貴方は生徒を教え導く大人である事が先生であると思っているし信じている。まだキヴォトスの多くを知らない先生ではあるがこうして副会長が残した資料を読み解いていくと多くの生徒がいて、その一人一人として同じ生徒は居ないのだから。

 

『……先生!手紙が来てますよ!!』

 

「手紙?」

 

朝のうちに終わらせておきたい書類を書き上げて顔を見上げた時、そこにはアロナがシッテムの箱の中から声を上げていた。どうやら連邦生徒会宛では無く直接シャーレへと届けられた手紙らしい。アロナに頼み、先生は手紙を読み始める……

 

 

連邦捜査部の先生へ

 

突然のお手紙失礼します。私はアビドス高等学校の奥空アヤネと申します。

 

今回どうしても先生にお願いしたい事がありましてこのお手紙を書きました。

 

単刀直入に言いますと今、私たちの学校は危機に追い込まれています。

 

 

(アビドス高等学校……)

 

そう言えば副会長からの資料にもその名前は書いてあったとふと思い出した。

そう思いながら先生は二枚目を開き始めた。

 

 

こうなってしまった事情は、かなり複雑なため割愛しますが……

 

どうやら私たちのアビドスが狙われているみたいです。

 

今まではどうにか支援の手がありましたが

 

連邦生徒会での混乱の時に支援が打ち切られてしまいました。

 

 

(………三枚目に捲る)

 

 

それで、今回先生にお願いできればなと思いました。

 

先生、どうか私たちの力になっていただけませんか?

 

 

『アビドス高等学校………ですね』

 

アロナの解説によれば古くからある学校で大きな学区を持っていたのだが、急速な環境変化によって厳しい状態になっているという話だ。だが学区の広さは本当に広く、街のど真ん中で道に迷ったら遭難するレベルの広さらしい。多少の誇張は混ざっているかもしれないが、想像できないぐらい広いんだろうなと先生は思った。

 

『ですが外に頼らなければならない程の危機……これは事件の匂いがしますね』

 

本来なら自分達の学校は自分達の中で片付けるのが普通らしい。だけどこうしてシャーレに手紙を送るほどなりふり構っていられない程の危機となると、間違いなく想像できないほどの“何か”が有ったのだろうとアロナは事件として考える。

 

「………あった。これか……」

 

アビドスが狙われていると言い、何かと嫌な予感がしつつも先生は手紙の気になった“支援を打ち切られた”という2枚目の手紙だった。こういう時は大体頼りになるのは副会長の引き継ぎ資料一式だ。その中からアビドス高校についての情報を読んでいく。

 

(アビドス生徒会長……梔子ユメと副会長の小鳥遊ホシノ…か)

 

残されている資料によれば、アビドス生徒会は二人で運営されているとの事らしい。年齢を逆算すればユメという少女は既に卒業していてもおかしく無いが、後輩を見守る為にもう一年留年したらしい。特にそのユメという少女についての記載は結構副会長自身の想いも多く“頭がお花畑の様な奴だけどアビドスを守ろうとする心は本物”だとか“並み居る権力者の中では1番付き合いやすいタイプ”などと言った珍しい手書きの追記があり、ホシノという少女には“最低限ユメ先輩と交流を深めるべき”と言った一文の追記があった。どうやら見ていると彼自身もこのアビドスに思い入れがある様だと先生は読みながら考えていた。

 

「……………うん。じゃあアビドスへ行こうか」

 

『!?即断即決ですか!?流石大人……』

 

幾ら広いと言えど、電車に乗ったのなら夕方の丁度放課後辺りには着くだろう。そう先生は考えて席を立ったのだった。……だが先生はこの選択を後に後悔することになる。先生にとってはアビドスまでは電車で少し遠出するぐらいの感覚だったのだ。つまり先生はキヴォトスの広さを見誤ったのだ。

 

 

 

 

「すっっっごい遠かった………」

 

先生がアビドス高等学校に1番近い駅で降りた時にはもう空は真っ暗だった。こんな調子では今から向かってもおそらく誰もいないということになるだろう。そうなったらどうするか。

 

『先生!近くにホテルがありますよ!!』

 

「………ありがとう。アロナ」

 

持っているタブレット端末であるシッテムの箱から地図アプリを起動して近場のビジネスホテルで一晩する事にした。さて明日は朝イチからアビドス高等学校に向かうぞと先生は再度気合を入れ直したのだった。

 

 

〔先生睡眠中……〕

 

 

「…………あっつい………」

 

次の日。朝一番に飛び出した先生は地図の指し示す方向にひたすら歩いていた。砂に沈んだであろう民家に、かろうじて見える道路の道。少し遠くではまるで砂の中にビルが埋まっている様にも見える。……そんな中、先生はかんかん照りの日差しを遮るモノなど何処にもない道をただひたすらに歩いていた。

 

「………水…………」

 

朝のうちに買っていたペットボトルの水は空になっており、半分亡者になりながら先生はフラフラとアビドスの道を歩いていた。これは水分不足というよりか単純に疲労が回ってきた感じがすると先生はふと思う。……炎天下の砂漠の中で碌な装備も無しに歩いていたらそりゃ疲労が溜まる速度もいつも以上に早いのは考えるまでもない事ではあるが。

 

「………………ぁ」

 

その瞬間、先生は体勢を崩して倒れてしまう。

もう限界だ。そう意識が朦朧と消え掛かっていった……

 

……………

 

………

 

……

 

 

 

「………ん。……生き、てる?」

 

どれほど意識が朦朧としていたのだろうか。

耳元で聞こえる少女の声に先生は微かに呻く声で助けを求める。

 

「………行き倒れ?」

 

「………み、」

 

「み?」

 

とりあえず水分が欲しい。と先生はカラカラの喉で訴える。

目の前で助けてくれた少女はツーリングの途中だろうか。銀髪に青目。そして狼耳の付いた生徒である事が先生には分かった。その少女は心優しく、先生にドリンクホルダーから水筒を差し出した。

 

「スポーツドリンクでいいなら……あ。コップ……」

 

ありがとうと言い先生は浴びる様に水筒に口を付ける。まるで蘇るかの様な爽快感を前に先生は気が付かなかったが目の前の少女は少し恥ずかしそうに頬を赤らめた。

 

「どうも…ありがとう。助かったよ」

 

「………それならよかった」

 

少し落ち着き…少女と先生は話を始める。

とは言ってもこんなアビドスの砂漠地帯と言っても過言ではない所に来る人は少ないし、この先にはアビドスの学校しかない。……そして少女が見るに先生は連邦生徒会から来たみたいだと考えるとそのアビドスの学校に用があるみたいだと聞くと先生は間違いないと首を縦に振った。

 

「……え?お腹、空いたから動けないって?」

 

すぐそこだから案内すると言った少女…シロコに手を差し伸べられる。だが既に色々と限界であった先生は自転車に乗せて欲しいと懇願した。するとシロコは一人乗りだからと一度は断られたがそれで諦める先生ではない。

 

「どんな持ち方でも良いから運んでくれないかい?」

 

「………背負った方が、良いのかもしれない」

 

今の先生に恥も何もない。俵抱きでも、なんでも良いから運んで欲しいと頼んでみるとシロコはどうやら少し考えた後に背負うのならどうかと聞いてくる。全然それで良いと先生が頷くとすぐにでもシロコに背負われる事になった。その時少しシロコがまた恥ずかしそうにして、先生がいい匂いがするという変なフォローを入れたのはここでは割愛する事にしよう。

 

「………じゃあ、キチンと捕まっていて」

 

「ありがと────────っっ!!」

 

その瞬間、先生は風になった。

 

 

 








【電脳少女の夢】

それはあり得たかもしれないもしものバットエンド。
とてもデリブルな夢かも知れないが、貴方はまだ観測者であり干渉者では無い。
“続く”も“おしまい”も無くなった物語は幾多の結末に押し潰されて無に還るだけだ


理想郷の王

ありうるべからず可能性の中に生まれた“理想郷の王”とは偽りの名。
其れは生徒が反転した、あらゆる神秘を貶める人類が思い描いた思想の極論。
神名統制…………【暗黒郷ディストピアの王】である。

武器を奪い、青春を貶めた彼の行いは結果的に【忘れられた神】の神格を否定する。
従って対生徒に対して圧倒的な特攻を有する。
だが彼の治世は一部を除き多くの事が許され、おおよそ外敵になる存在は破壊され、捧げられた神秘は生徒たちの生きる糧として使われた。反理想郷と呼べるにはあまりにも生優しく、理想郷と呼ぶにはあまりにも多くのモノを排したが故に彼の特攻は一物語の世界観の中だけで収まってしまう。
そんな彼だが最期には皮肉な事に彼は彼自身が許したモノによって討たれる事になった。





【アビドス砂漠】

辺り一面に広がった砂の世界。
脚を枯らすかの様な流砂。
万物を枯らした砂は全てを沈めていく。
人も、物も、希望も、過去も、夢も、可能性も。
沈んだ物が善良なモノだけである保証は何処にも無い。


“やつ”はいます。“やつ”はいます。
よろしくおねがいします。 

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