元連邦生徒会副会長は征く 作:ふしあな
答えはきっと……
目に見えなくても、確かに“やつ”は存在しています。
よろしくお願いします。“やつ”はいました。
そう言えば、カヨコは元々ゲヘナの重鎮だった説があるみたいですね。
それからの話をしよう。動けなくなった先生がシロコにアビドス高等学校まで道案内を頼みシロコがその背に先生を背負いながら自転車を走らせた結果、先生の尊厳が死にかけたのはここだけの話だ。……まあ突然、安全ベルト無しのジェットコースターに乗らされたと考えれば多少同情できるかも知れない。
アビドス高等学校に着き、少し落ち着いた頃にようやく互いの挨拶を始めた。
ここまで先生を運んできたシロコ改め砂狼シロコに、その同級生である十六夜ノノミ。そして先生にお手紙を出した張本人である奥空アヤネにその同級生である黒見セリカ。更には唯一の最高学年である小鳥遊ホシノの五人でこのアビドス廃校対策委員会は運営されているのだ。あくまで紹介するのはこれだけと言う少女たちに先生はあくまで言葉を溢したと言うかの様に質問を口にした。
「………あれ?アビドス生徒会は?……?」
「…………………へー。誰から聞いたのかなぁ?それ」
小鳥遊ホシノという少女はアビドス生徒会に名前があったと覚えている。だと言うのにその肝心のアビドス生徒会についての話が出てこない事に先生は首を傾げる。そんな先生を前にホシノは少し目を細めて先生を眺める。最初に紹介された時のフニャリとした笑みとダラけた様な姿とは打って変わった姿に少しだけ驚きながら、失踪した副会長から残された資料には、アビドスには生徒会のみが残っていたという文があったことを伝えた。
「あちゃー…その情報少し古いんだよねぇ……」
「え?そうなの?」
連邦生徒会副会長が残した資料辺りからホシノの顔色が変わりまるで懐かしいモノを聞いたとばかりの顔に少しだけ安堵したかの様に椅子の背もたれに体を投げ出す。どうやらアビドス生徒会は現在廃止され、アビドス廃校対策委員会が事実上の生徒会になっているらしい。
「そうそう。……今回の手紙でその辺りの話もしようとしてたんだけどねぇ…」
「……ああ。彼、失踪してしまったからね」
どうやら梔子ユメ…ひいてはユメ先輩もアビドスに席は置いているものの、アビドス外に働きにいったりと最近では滅多に姿を見せない事が多いらしい。その為、元アビドス生徒会副会長であったホシノの独断と偏見(一応ユメに許可は貰っているらしい)でアビドス生徒会はアビドス廃校対策委員会として名前を統一したらしい。その辺りの話も定期的に副会長とアビドス生徒会の間にある手紙で伝えるつもりだったのが副会長の失踪によってアビドスについての資料が2年前で止まっていると言う事だったのだと先生も納得した所だった。
「……………あれ?そんな───っっ!!??」
「っ!!ヘルメット団!?」
何か言いたげなセリカが口を開いた瞬間、盛大な爆発音と共に銃声が響いた。間違いなく学校が襲撃されている惨事に窓からアヤネが声を荒げる。同じ様に先生も外を見ると、そこにはヘルメットを被った少女たちがアビドスを奪ってやると息巻いている姿が見えた。
「くっ、面倒な儀式は後にして今は……ホシノ!」
「ん?どしたの先生?……出来れば手早でお願いしたいんだけどー」
「これを一回受け取って!!」
先生が見せたシッテムの箱の画面。そこに書かれていたのはアビドスへの物資支援の正式な書類。本来なら説明が必要だったり、名前を書いたり、正式に物資を渡した書類やキチンと明記されている文を渡したかなどのやりとりが必要だが、そんな時間は無いと先生はこの今のシッテムの箱の画面をホシノに一旦受け取って欲しいと声をかける。
声を掛けられたホシノは訝しげに準備していた銃を片手に先生の画面を覗く。そこに書かれてあったのはホシノにも見覚えがある。それは最近滞っていた分も含めたアビドスへの支援物資の数々。特に見せてきた画面には違和感が無いと、頷いたホシノは少しだけ先生のシッテムの箱に指を触れる。
「………よし。これでどうかな!?」
「わ、わぁ〜不足していた物資がこんなに〜!!」
「ん……凄い、これなら……!」
「ま、まあ…感謝するわ……!」
これで正式に支援が出来ると先生はシッテムの箱の中から、多くの物資を取り出す。とりあえず今は襲撃されている以上、戦闘系の物資が必要になるだろうとそっちメインで用意して行く。三者三様の反応だがノノミもシロコもセリカも決して悪い反応では無いから間違った対応はしていないと先生は少し安堵する。流石に最初来た時に誘拐と間違われて殺されそうになったのが応えたのだろうか。
「そだねー……じゃあシロコちゃんは先生を安全な所に案内して〜」
「…分かった。すぐ追いつく」
急足で案内された先は職員室よりも明らかに上等な部屋でどうやらここに居ればいいらしい。急ぎながらも話してくれた内容と先生が見た現状を合わせて考えてみれば相当アビドスは追い込まれているとしか言えなかった。校内にさえも砂が入り込み、廊下にさえも砂が積もっている様にも見える。今もこうして不良たちに攻め込まれているのを考えると、どうしてそこまでアビドスを守りたいのか。先生は問わないといけない気がした。
「話は後……先生はここで隠れてて」
「シロコ!?」
案内の後、窓の縁に乗ったシロコはそのまま戦場である校庭に飛び降りる。キヴォトスの生徒の耐久力の強さは知っているつもりだったが、まさか3階レベルの高さからフリーフォールしても落下の衝撃が無視できるほどの耐久力は少々現実離れしている。その自由落下の間にもワンマガ打ち切らん勢いで発砲してしかも八割方当てているのは想像も付かない身体能力だろうと激務で自覚できるほど落ちつつある自分の体力を前に先生は少し鍛え直そうと思ったのだった。
『……危ない!』
「うおっ!!……ありがとう、アロナ」
凄い身体能力だなぁ…と思いながら窓の外を覗いていたら、胸元にしまっていたシッテムの箱から声が上がる。その瞬間、間違いなくこちらを狙って発砲してきた銃弾をシッテムの箱のバリアを使って弾く。
『はいどういたしまして!お役に立てて嬉しいです!』
バリアはおおよそ全ての攻撃を弾くが場合によっては貫通するし、防げるダメージ量を上回ったら、バリアを維持できない。それを先生は痛いほどよく知っている。その為、あまりバリアを過信しすぎない様にしないと先生は心掛けている。
そんな間にも戦況は変化して行く。幾ら物資の支援があってもそれで度重なる襲撃に対する疲労感が消えるわけがない。更にはヘルメット団も本腰を入れてきているのだろうか。幾ら烏合の衆とは言え攻める側がアビドスの三倍以上の兵力を投入しているのがよく分かる。このままでは劣勢の後に押し切られるかもしれない。
「……………………」
だが、先生の腹は既に決まっていた。
◆
「…………ん、しつこい……!!」
「お仕置きの時間ですよ〜♤」
視点は変わり、アビドスの生徒たちに移る。
少女たちは先生が思っている以上に戦いにくいと感じていた。理由は先生が察した通りに疲労が大きく占めているが、それ以上に相手の装備が制圧や破壊を主にする特徴があるせいで下手に相手を暴れさせない程度に鎮圧したいがそれも難しい。とは言ってもこのままではジリ貧だ。膠着した状態を覆す手段はあるとホシノは密かに瞳を細め敵のヘルメット団を見る。……あまり土足で踏み入れて欲しくない所を触られたこの激情はコイツらで晴らそうかと盾を地面に突き立てたその時だった。
「みんな!」
「………先生」
ふと背中に響く男の声。急いでここまで降りてきたのだろうか。息は上がっていながらも、その声はとても魂に訴えかけてくる様な気がしてならない。
「どうして、君たちはこの学校を守りたいんだい!?」
「……それは……」
「どうしてだ!!」
決して嘘偽ることは許さない。その気迫を前に、真っ先にシロコが答える。
「……ここが私たちの居場所だから!!」
「………みんなも同じかい?」
このアビドスが、生きる世界だから。このアビドスが、この五人が揃ったアビドスが大好きだから。その想いを込めてシロコが答える。そんなシロコの回答に満足したのか、みんなも同じ意見か先生は問う。その答えは勿論……
「「「「はい!」」」」
力強い芯の通った声。そしてシロコの言葉を疑わない輝く真っ直ぐとした眼差し。ああ、きっと自分はこれを護る為にこの場所に来たのだと先生は感慨深く思う。
なら、先生である自分もここは声を上げないといけないとヘルメット団の少女たちが飛ばす野次に先生は堂々と見つめ、宣誓する。
「私は……先生だ。今この場のいるのは多くの想いを受け継いだからこそ」
『先生と生徒間への波形形成!……シッテムの箱の支援、開始します!』
「君たちには、立ち去ってもらう。」
シッテムの箱を持った右腕に、指揮をするかの様に踊る左腕。
堂々と立つその姿に一体どれほどの生徒が息を呑んだのだろうか。少なくともアビドスの少女たちにとって、不思議とここから先に負けは無いと思わせるほどの高揚感。それは間違いなく先生の指揮にあった。
シッテムの箱の戦闘支援はあくまで戦況を整理して先生が見やすい様に整えた以上の効果は持たない。それでも敵陣営と自軍の消耗状態を一目でわかる様になっているのは十分に破格だが、今こうしてヘルメット団を追い込んでいるのは間違いなく先生の指揮の腕とアビドスの少女たちの練度があった。
「最後……シロコ!」
「…………んっ!」
最後の一人。ヘルメット団を率いていた赤いヘルメットの少女に向けて、先生はシロコを繰り出した。一番相手との距離が近く残弾が多いはずのシロコなら手早く片付けられる筈だと思っていたその時だった。
(…………え?)
その瞬間、先生は目を疑った。
まさかのシロコはそのままヘルメットの少女に近付きまさかのインファイトを仕掛けたのだ。腰を低く下ろして相手のお腹に昇竜拳からの、浮いたところに回し蹴り。そして最後には一発撃ち込むというあまりに近距離スタイル。
(……ま、まあ確かに弾薬を節約するんだったら……)
有効的な手段ではあるが…と先生は少し困惑しながら考える。確かに今まで見たキヴォトスの生徒の中でそうやって近距離で戦う子を見た事がなかったが、確かによくよく考えてみればとても理にかなっている戦法なのかもしれないと先生は考え始めた。
(近づく事で命中率は上がるけど……)
それと引き換えに被弾率も増える。メリットとデメリットを考えた結果、幾らキヴォトスの生徒が弾丸で傷を負わないにしろダメージはある以上、当たらない方が良い。と考える。
(そういえば、“あの子”も……)
ふと先生の脳裏によぎった過去の情景。もう思い出せないほど脳内から薄れゆく感傷だがそう言えばと思い出した事があった。“彼”とは何度も何度も肩を並べて戦ったが、先生である貴方は後ろから支援が仕事だが彼は基本的に先生に従って戦うのと追加で前線指揮の様な事も出来るので前が視認しにくい時とかは彼の頼りになる事があった。
そんな中、彼の戦い方のひとつに非常に特別な技があった様な気がする。
いつかの彼が語ってくれたその戦い方。非常にリスキーであると言うのにその戦い方を辞めない理由は誰かを必要以上に傷付けたくないというあまりにも善性に満ちた戦い方という名の制圧術。インファイトの距離感でありながら恐ろしい程に極まった脚技と身体、或いは空間全体を使った“誰も傷付けずに戦闘不能”へとする技量。
(……ここで、こうして……っ!?)
先生もいざという時のためにと少しだけ教えてもらった記憶がある様な気がして、その脚技を少しだけなぞって再現してみる。だがそうして動いた瞬間、先生の脚は攣り動けなくなってしまう。それもそうだろう。幾ら“彼”がそんなに銃撃戦を好まないにしてもその身体はれっきとしたキヴォトスの生徒である。そんな彼が作り上げた制圧術が只の一般人である先生がそう簡単に習得できるわけがない。
「やぁ〜先生お疲れ〜……ちなみにさっき何してたの?」
そうして側から見れば変に足を動かして攣って悶絶している不審者になっていた先生に、ホシノが真っ先に問う。その時のホシノの目は少し目を細めたのでもなく、いつもの様に笑っているのでもなく何処か懐かしそうに、それでいて複雑そうに微笑んでいた。そんなホシノなんてつゆ知らず先生は、昔少しだけ教えてもらった足捌きを思い出していたとザックリ概要だけ伝えるのだった。
「……ん。何はともあれ、先生のお陰」
「やっぱり先生は凄いですね〜」
そんな話をしているとシロコとノノミが近づいてくる。とりあえずはヘルメット団たちを退けられたのを全員で喜び、その襲撃はひとまず終わりを迎えたのだった。
◆
その後、ホシノの提案で逆にヘルメット団たちを攻める作戦に出た。
物資の支援に先生の指揮という二重の意味で強くなったアビドスをただの不良たちであるヘルメット団だけで止められるわけがない。先生率いるアビドスの少女たちはヘルメット団の基地を強襲後、破壊。とりあえずしばらくは安全である事になった。
先生である貴方はその一件の後、アビドスを取り巻く問題の一端に触れることになる。その問題とはズバリ…借金である。今までのアビドス生がこの砂漠化を止める為に作ってきた負債は返す事もままならず、今となっては9億もの大金の借金が今のアビドスにある事を知った。
勿論、先生はアビドスを少しでも好転させる為に手伝うつもりでいたのだが大人は信用できないという事でしばらく先生は生徒たちの信用を貯める為に動く事を決意した。
何かと言いながらアビドスの借金返済のためにラーメン屋でバイトをするセリカに先生たちは顔を出して、柴関ラーメンに舌鼓を打った。……だが幸せな時間はそう長く続かず、その夜にセリカは誘拐されてしまう。
先生の伝手のおかげでどうにか大事になる前にセリカを救出する事が出来、多少の信頼は得る事が出来たと自負するがあくまでそれは始発点であり、アビドスの借金はどうやって返済するか、先生を含めた少女たちはまたセリカのバイト先のラーメン屋で頭を悩ますのだった。そこで出会った便利屋68というこのアビドスで依頼があってこれから働くという少女たちと親交を後にした。
◆
「……ねえ。社長気がついている?」
「何か?」
「……………アイツら、アビドスの生徒だよ」
「アビドスって……」
「アルちゃんアルちゃん…次の襲撃先だよ?ニシシ」
「な、ななな……なんですってぇぇぇぇぇええ!!??」
「はぁ……やっぱり気がついていなかった。」
「あ、あの……そうなると一緒にいた大人って……」
「連邦生徒会傘下、シャーレの先生ってなるね……カヨコちゃん」
「!そ、うね。カヨコ課長……」
「……気にしないで。アル社長、ムツキ。あの連邦生徒会への復讐の機会がやってきただけなんだから……っ!!」
◆
そしてその後。アビドスに帰ってきたアビドスの少女たちと先生は一時休憩を味わっていた。だが勿論、そんな時間は長くは続かない。慣れなくは無いだろうがいつもの様にアビドスに襲撃してくる門への銃声を前に、少女たちは手慣れた様に動き出した。
「……!待ってください!あれは傭兵!?」
「………傭兵?」
声を荒げるアヤネに先生が訝しむ。キヴォトスにおいて傭兵と言うのは結構ありふれたバイトのひとつだ。ただヘルメット団や不良とは違うところはあくまで雇われて戦う以上、雇っている誰かがいるという事だ。
「傭兵を率いているの……ってええ!?」
その時、後ろから支援していたアヤネも先生も前線までできたホシノたちもその目で傭兵を雇っているのが誰か知る事となる。……そう、その雇い主とは先ほどまで柴関ラーメンを一緒に食べていた便利屋68のメンバーである。
「ぐ、くく……」
「誰かと思えばあんたたちだったのね!?」
板挟みなった事を苦しそうに唸るアルを前にセリカは特に怒った様に声を荒げる。それもその筈、お金がないとラーメン一杯を四人で分けようとしていた便利屋68の為に無料で特盛にしたのは柴関ラーメンの店主であり、バイトのセリカである。
「あはは。その件はありがと。でもそれはそれ、これはこれ。こっちだって仕事だしね」
「……悪いけど、手加減はできないよ。公私は分けるべきだし」
便利屋68の室長であるムツキと課長のカヨコが笑う。
これからの戦いを楽しみな様に無邪気に笑うムツキとは対照的に、カヨコはまるで怒りすら滲ませた眼差しでアビドス…いや。どちらかと言えば先生を睨んでいる様だ。どうしてそこまで睨まれているのか分からないが、それでも今はこの傭兵たちを撤退させないと行けないとアビドス生に戦闘オペレートを開始する。
「………ぅっ!」
「ハルカちゃん!?……ってきゃぁ!!」
戦闘は進んで行き、もう傭兵たちは気絶させてある。後は便利屋の少女たちだけだとアビドスの少女たちにも攻撃する手が加速していく。1番前で戦っていたハルカが落ちそうになると同時に、ムツキも大ダメージを負ってしまう。後は追い込むだけだと思ったその時だった。
「………アル社長」
「ええ。いいわ。約束だものね」
比較的後ろの方にいたアルとカヨコが言葉を交わした後、アルがまるで時間稼ぎするかのように前に出てくる。先にリーダーが出てくるのかとアビドスの少女たちはリロードしながら待ち構えたその時だった。
カヨコが後ろで、とあるモノを掲げたのは。
「【偽誓の天秤】よ、応えて。………接続ッッッ!!」
カヨコが掲げたのは天秤。鈍く銀色に輝くその天秤はカヨコの言葉に応じるかの様に怪しげに紫色に輝き、その光はカヨコを包む。数秒の極光にアビドスの少女と先生は目を覆ってしまう。その隙だった。ホシノの眼前に蹴りの前動作の様な伸びた脚が映ったのは。
「…………っ!?」
「案外、勘がいいね」
ホシノが反応できたのは本当に偶然にも似た直感だ。片手に構えていた盾でどうにかカヨコの蹴りをパリィして防ぐ。だが防がれたというのにカヨコはそれを見越していたとばかりに冷静にバク宙で衝撃を殺し、地面に脚を付けて近距離戦の様に構える。
「うへぇ……一体何さ。それ」
「………答える必要、ある?」
『な!?あれは……天秤?!いや、でも……』
「いや、答えてもらおう」
驚きと気色悪さを全面的に顔色に乗せたホシノと、それを見下すかの様に顔を顎を引き上げるカヨコ。そんな一瞬の攻防、先ほどまでのカヨコとは全く実力が違う戦い方に、アロナの気になる呟き。連邦生徒会副会長を探している先生にとって、副会長の持ち物であった”天秤”と似たようなモノを所持しているのなら話を聞かないわけにはいかない。
「それが“彼”に連なるモノであるのなら、話は聞かせてもらうよ」
「……………………はぁぁぁぁ……」
一瞬の眼光の鬩ぎ合い。勝ったのは先生であった。諦めた様にカヨコは盛大なため息を吐き、答える。カヨコ自身、その目に弱いのだろう。ずっと、ずっと近くで焦がれていた瞳。真っ直ぐで、それでいて力強い眼差しに観念したかの様に口ずさむ。
「これの名前は【偽誓の天秤】断じて彼とは関係ないモノだけど………」
またカヨコの姿が眼前から掻き消える。
次に聞こえたのはまた鈍く響くカヨコの蹴りとホシノが盾で弾いた音だった。
「こうして特別な力を得られるのを考えると…関係あるかも、ね」
「……ちなみにそれを使った理由はなんなのさ〜」
更に追撃してきたカヨコのストレートをホシノは首を傾げながら避ける。相変わらず自分しか狙わない事に関してはどうでも良いが、それを今使った理由だけは知りたいとばかりに声をあげる。
「そんなの簡単」
言葉に出来ないほど屈折した感情。
それはシャーレの前身である副会長をよく知っているからこそ。今の連邦生徒会と新しく来たシャーレの先生を認められないという所謂懐古厨の解釈違いというのが今のカヨコの心理に近いのだろう。
だからこそ今の手段がよく効く。
彼のモノによく似た粗悪品を目の前で誰とも知れない輩に使われる。カヨコはホシノのその動きからそれを見抜いていた。まあまさか、先生まで釣れるとは思わなかったけど。
「よく効くよね?これが」
「………ああ。ほんとうにね」
いつでも飛び出せると銃を構えていたアビドスの少女たちと先生に合図で手を出すなと伝え、ホシノはカヨコに向けて構える。今から始まるのは一騎打ち。それも何よりも不毛で、互いに特定の彼に屈折した感情を抱く。本当に無意味な決戦が始まった。
「この動き、この足捌き。」
「………………っ!」
カヨコの動きは一言で言うのならトリッキーと言えるだろう。三次元的な動き。側から見れば拳が、脚が無数に分裂してホシノを強襲している。
「見覚えあるでしょ」
「もっと早く………っ!!??」
ただでさえ分裂している様に見えるのに、カヨコの位置もまるで瞬間移動しているかの様にホシノの周りを攪乱し続ける。盾で防ぐこともままならず、ただひたすらにタコ殴りにされ続けるホシノ。誰もがカヨコの勝利を確信し
(……この程度、か)
カヨコ自身も完全な勝利のために、一瞬の貯めが入る。力とは重さと速さ。それを今全てホシノにぶつける。その一撃を以てカヨコはホシノを下した。そうなる筈だった。
「…………もういい?」
「なっ!?」
今まで追い込まれていた筈のホシノ。カヨコの絶え間ない攻撃は間違いなくホシノを削っている様に見えていた。やけによく聞こえたホシノの呟きの後に、ホシノはカヨコの脚と腕を掴み、地面へと叩き付ける。正確無慈悲なホシノのカウンターにカヨコはなすすべなく地に堕ちた。
「稚拙な脚使い、あまりに乱雑な動き……」
本当に話にならないとホシノは心の底から憐れむ様な眼差しでカヨコを見下す。
確かにカヨコが使った動きには少し驚いた。それは、忘れもしない過去の記憶の中の決して忘れられない彼との春の記憶。……その中にあるホシノが彼に教えた近距離戦闘のやり方
「まぁ認めるよ。お遊戯としてはいい出来じゃない?」
「……………っっ!!??」
それから更にそこから進化した動きは確かに彼の動きの幻影があった、でもそれぐらい。彼がもしも、もしもだが私と喧嘩別れした後でもそのやり方を元に自分の動きを積み重ねていたのを、他の誰かが劣化して覚えてそれが更に劣化したのならこの動きにもなるだろうなとホシノは彼が捨ててくれなかった事を喜んでいた。
けどまあホシノは今、非常に機嫌が悪かった。
ただでさえ信用できるかどうか分からない大人に不必要に触られた過去。更には彼にはその信頼できない大人が彼によく似た眼差しをする。更には彼の持ち物であるはずの天秤の偽物を自分の力の様に使い、あまつさえ彼の動きを踏襲したかの様な動きで攻撃してきた。
もはやホシノにとって尾を踏んづけたというレベルでは無い。龍の逆鱗を蹴っ飛ばすレベルの蛮行に、既に堪忍袋の尾は切れ切っていた。
「けどさ。その借り物の鈍でイキるのも大概にしなよ、ね?」
「っ!?ふ、ふざけ……ッ!!」
ただまあ本当に弁解するのならカヨコは運がなかった。
先ほどまでの動きは確かに先生の指揮を含めたアビドスの少女たちを十分に蹂躙できるほどの実力はあった。だというのにこうして立っているのはホシノで、地に伏せているのはカヨコという結果が出来てしまった。
まあ分かりやすく言うのなら古参のファンが解釈違い故のお気持ち表明したら、更なる最古参オタクがお前の解釈も解釈違いなんだよボケェ!!と横から思いっきりぶん殴られた結果である。とは言ってもわざわざぶん殴りにくる様な過激派が横から殴られた程度で、大人しくなるだろうか。………答えは否だ。
(………もっと、もっと、もっと寄越せっ!!)
輝きを少しずつ失いつつある【偽誓の天秤】を前にカヨコは脳裏でもうタイムリミットが迫ってきていると直感で理解している。でもこんなところで、あんな奴に借り物の鈍と愚弄される事は我慢できないと天秤に祈る。
「……………接続、」
そしてその祈りを、天秤は聞き届けた。
「我が─────────」
【偽誓の天秤】が点滅する。鬼方カヨコの意思と渇望を元に、不可逆の変性が叶えられようとする。宙に浮かびながら激しく、まるで卵から雛が孵るかの様に点滅する天秤の輝きはカヨコに降り注ごうとしたその時だった。
一発の赤い弾丸が、天秤を貫いた。
「そこまでよ。カヨコ」
「っあ……アル、社長」
貫かれた天秤はバラバラになりながら地に落ち、輝きも消えて元の姿の影も形もない。元々、天秤は一回使いっきりの物とはいえこうして後ろから見守ってくれると言っていたのを裏切られた感傷と、そして天秤を使ったデメリットである目蓋を今すぐにでも閉じたくなるほどの疲労を前にカヨコは小さく社長の名前を呟く。
「カヨコ、それ以上はダメよ。きっと悪いことが起きてしまう」
「…………で、も……」
「あなたの代わりは居ないのよ。カヨコ課長」
ああ。本当に、どうして私の憧れる人たちはそんな目が出来るのか。意識を失うまでの間、カヨコはふとそんな事を思ってしまった。アル社長の疑いようの無い私への熱い信頼と想い。これを決して濁らせては行けないと確信するほどの社長の輝きに目を眩ませながらカヨコは意識を闇の中に沈めていった。
「私の社員が失礼したわね」
「………………」
意識を無くしたと分かる様に首がガクンと落ちたカヨコを肩に抱きながら、アルはアビドスと先生に頭を下げる。幾ら襲撃したとは言え、こうして自分の部下が醜態を晒しているのならアルは迷いなく頭を下げられる。
「今回はここまで。でいいかしら?」
どうやら傭兵も時間切れという事で帰ったみたいだと、見渡せば周囲にはもう便利屋68のメンバーしかいない。戦闘不能になっていたハルカもムツキも多少は回復したのだろうか。いつでも動き出せると警戒心を露わにしていた。
「………うへ〜。逃すと思うの?」
「いえ、思えないわ……なので」
そんな便利屋68にホシノはいつもの様な笑みを浮かべながら決して逃さないと銃を構える。その後ろで成り行きを見守っていたアビドスの少女たちも思い思いに銃を構えていた。そして緊張の瞬間が始まる。果たしてどちらが先に仕掛けるのか。
誰かが唾を飲み込んだ。その瞬間だった。
「全力で逃げるわよ───────!!!」
まさかの便利屋68、全員合図もなしに逃走。特に社長であるアルは白目になりながらBダッシュよろしく全力疾走の風となってアビドスから撤退していったのだった。
「あはは!アルちゃんださーい!!」
「うるさい!流石に勝ち目無いわよー!!」
「アル様!こっちです!!」
「………えーっと………」
「とりあえず、勝った……みたいですね」
想像もしてなかった潔過ぎる便利屋68の逃げ足の早さに、流石のアビドスの少女たちに木枯らしが吹く。……これで攻めてきた傭兵たちが居なくなった以上、今回も一件落着と言っていいのに、この沈黙とした空気を前に流石の先生も苦笑いするのだった。
小鳥遊ホシノ
さぁ、今日が始まります。
黙ってください。この狂った世界で。
【副会長式制圧術】
副会長の動きを元にした相手の動きを奪う事に特化した我流の武術。ゲーム内効果で言うのなら対象に数秒のスタンを入れる事が出来る(人型のみ)勿論これはあくまで源流の武術であり、そこから更に白兵戦に特化したSRT式、鎮圧・制圧に特化したヴァルキューレ式、閉鎖空間戦に特化したハイランダー式などなどに枝分かれし、一つの戦い方として根付いている。
ちなみにどの学校も自身の制圧術が源流を汲んでいると信じている為、割とこの話になると険悪なムードが蔓延る。
【偽誓の天秤】
鬼方カヨコが所有、使用していたある時よりアングラに取引されている強化ユニット的な何か。接続(アクセス)との一言と後々の莫大な疲労と言う代償で一定期間並外れた力を得る事が出来る(ゲーム内効果で言うのなら一定期間レベル上限限界、星5、装備レベルMAXの状態になり、その後戦闘を離脱する)使い切りの強化ユニットだが、アングラで流れている噂によれば【偽誓の天秤】のうちの特定の七つだけ砕けず、更なる強靭な力を得る事が出来るらしいが果たして。
実情はどうであれ、少々のデメリットで莫大なメリットを出せるのはキヴォトスにおいてこれぐらいだろう。
今の先生の状態:好感度の綱渡りをしている