元連邦生徒会副会長は征く   作:ふしあな

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ホシノ(の心)はおしまい!
略してホシまい。絶賛公開中。


5/20。内容調整。
流石によくよく考えたらやり過ぎた。今はまだこの時ではない。




銀行を襲うよ!/堕チル星

 

 

便利屋68との戦闘を一応は勝利で収めたアビドスwithシャーレの先生。そんなアビドスだが本日は借金の返済日。利息を含めたおよそ700万円を支払い、少女たちはこのままでは借金返済まで少なくとも300年は必要になるとの事だった。

 

とまあそんな果てしない事を言っていても現状は変わらない。今向き合うべき最優先は便利屋68の存在である。今までアビドスに侵攻してきた不良やスケバンではなく、明らかに誰かの影があって攻めてきた集団。つまりそこから一体どこの誰がアビドスを狙っているのか探ろうとなるのはなんら不自然な話ではない。

 

「便利屋68という……ゲヘナの部活です。」

 

便利屋68という名前、そして社長…まあ部活のリーダーの名前のアルという情報からアヤネが見つけ出したのはゲヘナでも有数の危険で素行の悪い生徒たちの集まりである事が分かった。金さえ貰えれば何でもする文字通りの「便利屋」…そしてもうひとつの報告として先日あったセリカの誘拐事件についてだ。その事についてもアヤネは根気強く全てを洗いそしてようやく今回、ヘルメット団たちの戦略兵器のカケラから現在はどこにも取引されていないモノと分かった。そしてそんなモノを取り扱っている場所となれば……

 

「……それは“ブラックマーケット”」

 

ブラックマーケット。その名前はキヴォトス有数の危険地帯と名高い場所である。そこはありとあらゆる理由により学校を辞めた/辞めざるをえなかった生徒が集まり群となっている。各学校で禁止されている武器類の流出、不法所持は勿論、連邦生徒会非認可の部活動も数多く存在しており、便利屋68もそこに出入りしているという情報が分かった。

 

「それでも一時はブラックマーケットをどうにかしようという連邦生徒会での動きはあったみたいです」

 

ただし、その連邦生徒会のどうにかしようというのは連邦生徒会副会長のみであったが。それでもその地域のみの炊き出しや衛生の充実など堕ちていくだけだった生徒をどうにかしようとしていた動きはあった。まあそれもあくまで副会長がいた時だけだが。

 

「………今は違う、って事か」

 

「言い難い事ですが……はい。」

 

そんな話、聞いたことがない。

そう暴れ狂う内心を抑え込みながら先生は冷静に聞き返す。そんな先生を察してかどうかアヤネも唾を飲み込んで憶測混じりに返す。……それは今に至るまで繋がってしまったブラックマーケットと連邦生徒会の怨恨。

 

「ブラックマーケットに住まう生徒にとって連邦生徒会副会長というのは一種の崇める対象であり、その勢力は止まるところを知りません」

 

それもそうだろうと詳細を語る。ブラックマーケットまで行ってしまう様な生徒は本当に“後がない”という生徒が殆どだ。誰も彼もが見て見ぬふりをし奪わなくては生きていけない。尊厳さえも踏み躙られる様な世界に、弱った生徒を積極的に食い物にしようとする悪辣な企業。そこは単に地の底、地獄と言えるだろう。

 

ならそんな地獄に救いの糸が垂らされたのならどうなるだろうか?

 

そんな救いの糸の名前は連邦生徒会副会長だった。彼はあろう事かブラックマーケットに住む全ての生徒が受け取れる支援を行い、不当に退学や追い込まれてここに来ざるをえなかった生徒を一人一人支援し新しい学校への転校を進め、逆に誰も彼もを傷つけて生きていくしか無かった手負の獣を癒し一人の生徒として更生させて来た文字通りの神様仏様副会長様となるのは時間の問題だった。

 

「尊敬は敬愛に…そして敬愛は信仰を生みました」

 

もうここまで言われなくても分かるだろう。

そもそもブラックマーケットという聞くだけで顔を顰めそうな危険で粗暴な輩を、彼は根気強く、粘り強く関わりここまで落ちてきた生徒たちを引き上げようと手を差し伸べ、自分の脚で少しでも歩める様にと肩を貸し続けた。そんな返せないほどの大恩が信仰になり、そしてその信仰が集まり教団となるのは何ら不思議なことではない。

 

だがその狂信もあくまで全て副会長への恩。多少暴走するとはいえ、あくまで副会長から貰った恩を返せるときに集まるような集団に過ぎなかった。こうして自分たちが救われたように副会長はこれからもきっと自分たちのような生徒を救うのだろうと誰もが思っていた。

 

そう、思っていたのだ。

 

「……彼が居なくなった事だね」

 

そしてそんなある日、突然連邦生徒会から報告された会長・副会長失踪事件。そしてまるで見計らったかのような連邦生徒会の各支援事業の即時撤退。……まあこれで疑うなというにはあまりにも無理がある。事実、アビドスもそれで切り捨てられたのだから多くの生徒が口に出さずとも連邦生徒会が支持を一手に受ける副会長を疎ましく思い、陥れたのではないかという考えが蔓延するのも時間の問題であった。

 

そしてその煽りを受けてブラックマーケットは一気に治安の悪化。副会長の受け皿がなくなった今、あの地帯は非常に治安が悪いことが想像できる。

 

「それでもいかないわけにはならないよね?」

 

「………そう、ですね」

 

連邦生徒会傘下であるシャーレの先生がブラックマーケットで見付かったのなら何されるか分かったものではない。それでも行くのかというアヤネの問いに先生はそれでもと答える。元より、彼の続きを任されているようなものだ。そんな自分が目の敵にされているかもという理由だけで見捨てるわけにはいかないだろう。

 

そんな先生の覚悟にアビドスの少女たちの腹も決まった。……今から向かう先はブラックマーケット。目標はアビドス襲撃の手がかりを得ることである。

 


 

居心地が悪い。そうブラックマーケットに入ってきたアビドス生と先生は思う。特別何か攻撃を受けた訳ではない。特別何か聞かれた訳でもない。だと言うのにただひたすらに居心地が悪いと思うのは単にこの張り詰めた空気が問題である。

 

「「………………………」」

 

見られている。見られている。

この場所に踏み込んだ時から、誰とも問わず常にずっと見られていた。それはスケバンだとかヘルメット団だとか関係なく、ただただ見られていた。

 

「「(居心地悪い)」」

 

武器を構えられた訳でもなく視線に敵意がある様には思えない。だけどただ見られていた。まるで見張られていると言っても過言では無いその衝撃は、前から走ってくる1人の少女の悲鳴によってかき消えた。

 

「何で追ってくるんですかー!?」

 

「うるせぇ!大人しく捕まれっ!!」

 

白を基調とした制服に鳥の様なバッグか何かを背負った少女がスケバンたちに追いかけられている。少女はどうにか避け続け、逃げ続け…その逃げ足の速さについにスケバンたちも我慢しきれなくなったのか発砲して気絶させようとしてきた。

 

「よっ!ほっ!」

 

勿論そんな事をすれば目の前に立っていたアビドスと先生に当たる。生徒は当たっても痛いで済むが先生は致命傷だと、ホシノが盾を振り回して銃弾を弾く。流石にこれは自分達への攻撃だと少女を守る様にアビドス生たちが前に立つ。

 

「おいおい。邪魔すんのか?余所者」

 

「早くそいつ渡したほうが身のためだぞ」

 

そんなスケバンに立ち向かおうとするアビドス生を不快そうな目で見下しながら、さっさと渡せとばかりに口にする。どうしてそこまでこの少女を追っているのかそれを問うとこの少女はキヴォトスでも有数の名門校であるトリニティ総合学園の生徒であるらしい。

 

「つまりそいつを攫って金にするんだよ」

 

「お前らの分け前は2.5でいいか?」

 

名門校であるのなら金は持っているはず。そんなあまりにも浅はかだが分かりやすい思想に顔を顰める。わざわざ分け前をチラつかせてこちらにも利があるように誘うのは小賢しいと思うが、流石にそんな人道外れた事は出来ないとアビドスの少女たちが下した結論は銃弾一発だった。

 

「………っちっ!やっぱな……っ!!やっちまえっ!!」

 

「大人しくしてろっ!!」

 

キヴォトスの生徒は銃弾一発では沈まない。シロコの撃った弾丸を受けて、スケバンはようやく余所者という認識から敵であるという認識に代わり、戦いが始まる。だがこれはあくまでこのスケバングループが売って買った喧嘩。周囲の先生たちを見張っていた生徒はサラサラ手を出す気はない事だけは確かと言えるだろう。

 

だがそんな威勢の良いスケバンだが、先生の指揮がある上にたった五人でアビドスを守り続けた猛者たちにただのスケバンが敵うはずもなく……

 

「「「「「お、覚えてろ〜!!」」」」」

 

瞬く間に殲滅され、気絶した仲間たちを背負ってスケバンたちはベタな捨て台詞を吐いて逃げ去っていく。ブラックマーケットでの初戦は終わったかと一息ついた後だった。

 

「えーっと……」

 

先ほど助けたトリニティの少女の話を聞く。こんなブラックマーケットという僻地のアビドスでも知っている危険地帯に入ってきた少女の名前は阿慈谷ヒフミという少女である。ヒフミはどうやらここキヴォトスご当地マスコットキャラクター的なペロロ様の大ファンであり、そんなペロロ様の今は流通していないプレミアのグッズがブラックマーケットで流れている事があり、よくここに探しにきているらしい。

 

そんなペロロ様とは間違いなく目がイっている白色の鳥で今もヒフミが背負っているバッグがそのペロロ様らしいが、ノノミがヒフミと話が合っている辺りは本当に人気キャラかも知れない。だがその横でホシノが“おじさんは着いていけないよ〜”というぼやきに、先生も密かに同意した。……ホシノが自称おじさんなら先生である自分はおっさんではないか、そんな考えが脳裏によぎったが今はとりあえず考えないようにしようと進んだ話に耳を傾ける。

 

「少し前までもう少し治安が良かった覚えがあるんですけどね……」

 

アテが外れちゃって……と自嘲するように笑うヒフミが語るとどうやらブラックマーケットには後ろめたい事をしている企業やブラックマーケット専用の金融機関や治安機関があるらしい。ただそれでも連邦生徒会の手が入っていた時には表だって企業が生徒を脅かす何てことは無かったが、最近では武器の流通も増えて、明らかに嫌な空気が流れている事をヒフミは分かっていた。

 

だけどそんな事ではペロロ様への愛は止まらない

 

憧れよろしく空気が変わったと明確に分かってからも何度か忍び込んでいたが、今回ようやく見つかってしまった所を運良くアビドス生に助けられたのだ。そう途中見つけた屋台のたい焼きを頬張りながら(先生の奢り)情報交換する。

 

「じゃあヒフミちゃんはこの辺りに詳しいんだね?」

 

「え?……ま、まあ多少は分かりますけど……」

 

なら話は早い。助けたお礼にこの辺りの案内をしてほしいとホシノが提案する。アビドスが探しているのはヘルメット団が持っていた本来なら流通していないはずの戦車。この辺りに詳しいのならそう言う武器が取引されている場所はよく知っているだろうとホシノはほぼほぼ有無も言わさずヒフミに問う。流石のヒフミも助けて貰ってそのままと言うのは嫌だったからそのまま口車に乗せられて一緒にブラックマーケットを調べる事になったのだった。

 

「おかしいですね……ここまで何も出てこないのは……」

 

そうして捜索すること数時間。結果は…何の成果も得られなかった。だがそれは明らかにおかしいとヒフミは訝しむ。間違いなく表で流通していなくても裏では密かにあっておかしくない。しかも戦車というデカいモノであるならどこかしらで繋がる線があるべき…それこそ販売ルートや保管記録などなど。まるで誰かが意図的に情報を隠蔽している様に思えるとヒフミは声を上げる。例えブラックマーケットを牛耳っている企業があってもここまで執拗に消す理由は無い。

 

「それこそ富者の天秤でも無いと……」

 

「………待って“天秤”?」

 

それまで静かに話を聞いていたホシノが声を上げる。まるでその単語を見逃すことはできないとばかりの突然のホシノの割り込みにヒフミは少し驚きながら解説する。

 

「え?…は、はい。富者の天秤」

 

聞き覚えありませんか?というヒフミの問いにホシノは

 

「う〜ん。聞いたことないねぇ……偽誓の天秤?ならあるけどさ〜」

 

「偽誓の天秤……それが7つのうちのひとつなんでしょうか?」

 

どういう事?と首を傾げるホシノにヒフミが答える。天秤というある意味特別なモノについている名前。その名前が富者やら知恵やらあるらしい。これは謂わばコードネーム的なあれであり、それが付いたネームドを7つ集めれば願いが叶うとかいう都市伝説が流れているらしい。

 

「ふ〜ん?ありがとね〜」

 

「いえいえ……」

 

それ以上は別に本筋には関係ないからホシノはその辺りで強引に話を断ち切る。

そして先ほどのまでの話に戻るがここで有名な(悪名高い)企業と言えばそれこそ目の前に見える闇銀行であるカイザーローンらしい。このキヴォトスでの犯罪によって起きた盗品の13%がここに流れているらしい。そしてその盗品から金に変えてそしてその金で武器を作り売る。ある意味カイザーローンが犯罪を煽っている死の商人である事に間違いない。

 

「信じらんない!!連邦生徒会はどうしてるのよ」

 

「まぁまぁ。多分どこも事情があるんだよ。」

 

そんな汚れた現実に義憤を燃やすセリカにホシノが落ち着く様に声をかける。

その時だった。目の目に見覚えるのある現金輸送車が走って行ったのは。

 

マーケットガードというブラックマーケット最大の治安機関の厳重な守りを得て、その現金輸送車はカイザーローンの中に入って行った。どう考えても数時間前にアビドスから借金の利息を回収して行った、あの車だ。

 

「………アイツら、カイザーローンだったの!?」

 

「え゛……もしかしてカイザーローンからお金を…」

 

「話すと長くなるんだけどね……もしかして“ヤバい”の?」

 

カイザーローンにお金を借りているのは少々まずいのではという顔をするヒフミにまたホシノが聞く。ヒフミの回答は別にまずいと言うわけではないが、法のギリギリを突く色々と悪名が多い多角営企業である事には間違いない。どこの学区にも進出しているがその噂の多さによりトリニティの生徒会組織でさえ目を光らせているという程だ。

 

「ふーん。アヤネちゃん。あの現金輸送車の走行ルート出せる?」

 

「………やってますが、ヒットしません。おそらく全部オフラインで管理しています」

 

ここまで隠された戦車の情報。更にはそれと同じぐらいには隠された現金輸送車の入って行った先であるカイザーローン。もはやこの二つを分けて考えることが出来ないほど繋がっている。

 

「……うーん。集金記録があればいいんだけどね……」

 

「おそらくもう銀行の中でしょうね……」

 

先生のぼやきにヒフミも賛同する。論ずるより証拠だ。確たる証拠があればどうとでもなる。だがその決定的なモノが厳重に仕舞われた銀行の中であるのなら厳しい。また別の手段を探そうと先生はアビドス生の顔を見渡した。

 

そこには目を輝かせていたシロコがいた

 

「ん。ん!」

 

「うへぇ……シロコちゃぁん……でもそれしかないかぁ……」

 

「あはは♤楽しくなってきましたね〜!」

 

「え……えっ!?」

 

胸元からいつかのシロコが言っていたアビドスの現状を覆す手段のブツを取り出し、目をしいたけ状に輝かせてアビドスの全員に配っていく。そんなシロコから手渡された目出し覆面帽を手に取りホシノは“これしかないかぁ…”と意外と乗り気に見える。その横でノノミはもう既に目出し帽をつけている辺り本気の様だ。慌てているセリカだけが今の先生とヒフミの混乱を現していた。

 

「………シロコ、まあ何となく分かっているけど……今から何するの?」

 

「ん…… 銀行を襲うの

 

一応確認しておこうという先生の質問に一切の曇りなく答えたシロコ。

そう。少し前にシロコが言っていた現状を覆す手段というのは銀行強盗である。確かにお金を大量に持っているであろう銀行を襲えばお金は簡単に手に入るけど倫理的にも色々な意味でもアウトである。

 

サムズアップするシロコに先生は諦めた様に頭を二、三回掻き、諦めた様に笑いハンドサインでカイザーローンを指差しその指を下に向けた。つまり…先生からもやってしまえという許しができてしまった。

 

「え、えええぇええぇえええ!!??」

 

そんな消極的だが乗り気の先生に、ヒフミが慌てる。

確かにこれは銀行を襲撃する方が早くないですか?と自分でも思っていたが、それを実行しようとするとは到底考えていなかった。そんな中、明らかに自分たちに近くてそれでいて信頼できる大人であるシャーレの先生まで乗り気というのだ。それを見てヒフミも腹を括った。

 

「………でもそうするしかないん、ですよね」

 

「………まあそうだね〜」

 

「あ。でもヒフミの目出し帽は作ってない……」

 

その瞬間の覚悟のキマり様が間違いなく凡人とはかけ離れているが言わないうちが華だろう。そんなヒフミにホシノは少し訝しむが、こうしてスイッチが入ると頼もしくなって見えてくる人種がいる事はよく知っていた。今はまだそんな覚悟だけだが将来的には多くの人の目を焼いてそうだ。何なら既に1人ぐらい焼いていてもおかしくない。とホシノは知っている例が例なだけに眩しそうに目を少し細める。その横でシロコが目出し帽がヒフミの分だけ無い事にどうするか考えていた時だった。ノノミからさっきまで食べていたたい焼きの入っていた紙袋に目穴を開け始めたのは。

 

「……これでどうでしょうか〜?」

 

見事に銀行強盗団…覆面水着団のボスである5番のナンバーを振られ、準備完了。

やることは決まったとサムズアップするヒフミ…ファウストたちに先生はこちらも準備できているとサムズアップする。

 

「よし……銀行を襲うよ!!」

 

この後、めちゃくちゃ銀行強盗をした。

 

 


 

 

〈数日後・名もなきビル〉

 

銀行強盗を見事成功し、無事集金記録を強奪したホシノたち。その間に色々とあったが現実はそれ以上に闇雲だった。今まではあくまで推測に過ぎなかった借金の行き先が間違いなくカイザーコーポレーションの息がかかっていることが分かりそこでまた色々とあったが、とりあえずの進展の喜びに一旦休憩している最中ホシノはたった1人でアビドス郊外に出歩いていた。

 

勿論、外に行くとは言っていないしどこに行くとも誰にも言っていない。

誰の目や耳があるか分からない以上、ホシノは神経質なほど周囲に気をつけてそのオフィスの中に入っていた。

 

「…………」

 

「………おやおやおや。これはこれは」

 

ムカつくほど綺麗に整えられているオフィスの中に入り、ホシノは奥にある机の前まで歩いて行く。近づいた所でようやく背を向けられた椅子から声がかかる。どうせ入った所から私の存在に勘付いていただろうにと内心思うが今ここでそんな事を言っても意味がないだけだとホシノは無言で近づく。

 

「お待ちしておりましたよ暁の……いえ。ホシノさんでしたね」

 

これは失礼。まだキヴォトスには馴染めていなくて…とその声の正体が分かる。

その格好のスーツまでは普通だが、そこから見える首以降と手はまるで影の様に漆黒に塗りつぶされており顔全体にはまるで目や口の様な光の亀裂が走った異形がそこには立っていた。

 

「こちらへどうぞ。ホシノさん」

 

「………黒服の人さ。何用なの?」

 

その名前は黒服。それは人知れず連邦生徒会副会長と契約していたゲマトリアの1人。副会長が決して信用さえもしてはならない。目先の利益だけを見せ付け、本質的な利を喜んで奪い取るまるで蛇の様だと言った黒服がそこにはホシノに向けて笑っていた。

 

「くっくっく……いえ。少し状況が変わりましてね」

 

今度は再度、アビドス最高の神秘をお持ちのホシノさんにご提案をと思いまして。

そういけしゃあしゃあと嘯く黒服にホシノも顔を歪ませる。

 

「提案!?ふざけるな!!それは……」

 

「まあまあ落ち着いてください」

 

隙を見せれば殺してやるとばかりの激情を浮かべながらホシノは黒服に食って掛かる。だがそんな熊でさえも腰を抜かしそうな激情を前に微笑みを崩さない黒服は側に置いてあった黒色のキャッシュケースの中身をホシノに見せる。

 

「そ、れ、は…………ぁ………!?!?」

 

その中身をホシノが見て、何か分かった瞬間。ホシノの激情は困惑へと変わった。自分の目を疑いたい“ソレ”。自分の認識が間違っていて欲しい“ソレ”。“ソレ”が黒服が持っているという現実を前にホシノの困惑は緩やかに絶望へと転化して行った。

 

「これは特にホシノさんには関係のない話ですがね」

 

先日、“お得意様”より“契約”の証として“友好的”に渡されたモノなのですが。

とまるで何の関係のない事を黒服は喋っている様に見えるが、間違いなく全て分かっていて“ソレ”を見せたのだろうとホシノは胸の内にずっとずっと秘めていた想いが軋みながら黒い“何か絶望”に呑まれていく様に感じた。

 

“ソレ”が偽物なら良かった。“ソレ”の偽物が流通している所まではどうにか飲み込めた。だがそれ以上に本物である“ソレ”が黒服の手元にあるという事実を飲み込むにはホシノでも大分無理だったのだろう。

 

「…………………ぁ」

 

誰にも触れられたくないのに。誰にも踏み入れて欲しくなかったのに。

今まで、今までホシノが頑張ってこれた想いが。今の今までホシノを支えていた柱が見るも無残に砕かれていく。目の前で黒服が何か喋っている様だが、今のホシノはそれが分からなかった。

 

まるで地面が突然穴になったかの様にホシノは崩れ落ち、地面に膝を付ける。

いつものホシノなら、例え突然地面に穴が空いても避けるか上手く着地できただろう。だというのに今のホシノはまるで茫然自失しているかの様に腕を揺らし、ただオフィスのカーペットを見ていた。

 

「ぅ……………ぁ」

 

虚無と諦観がホシノの心を凌辱する。

あの人でさえも黒服には勝てなかったのだから。自分では太刀打ち出来ないのが当たり前じゃないか。だってあの人は私たちのアビドスを少し良くするだけでなく、多くの学校を良くして、そしてあのブラックマーケットでさえも少し良くした。こんなアビドスというキヴォトスの辺境まで聞こえてくるあの人の名声、そして実力でさえもこの黒服には勝てなかったのだという事実が、ホシノの心を闇に沈める。あの人…連邦生徒会副会長でも勝てなかったという免罪符を前にホシノの心は折れていた。

 

「それでは、貴方に決して拒めない………おや?」

 

そんな間違いなく廃人一歩手前のホシノを前に黒服は畳み掛ける様に契約を持ちかける。確かに今のホシノは哀れだと思うし非常に心が痛む。だがそれはそれこれはこれであると黒服は悪辣な大人の無関心さと冷酷さを持ってホシノに語りかける。

 

「ぉねがいします、おねがい…します……あの子たちには、手を出さないでください………」

 

顔を真っ青にし、膝を折ったまま震えて今まで嫌っていた筈の“悪い大人”に懇願するその少女の姿は今までアビドスを守り続けた勇姿とはかけ離れたまさに手折られる前の一輪の花に過ぎなかった。それも無理もない。心が折れたモノにとって出来ることなど高が知れているのだから。

 

「………ええ。勿論ですともホシノさん。」

 

そんなホシノを前に黒服は微笑みながら手を差し伸べる。

その手が間違いなく、自分の尊厳さえも奪ってしまう恐ろしい死神の腕だとしても……今のホシノはその手を振り払うことなんて出来なかった。

 

 

 

 






小鳥遊ホシノ

希望の色が濃いほど絶望の色は濃くなる。
ホシノにとってのたった1人の同胞が“悪い大人”に堕とされたという事実はホシノの心をへし折るには十分なほどの悪夢だったのだろう。




望みを絶たれるのが『絶望』だと言うのなら。
過去の春の記憶も、いつか夢見た未来も踏み躙られたならそれは何というのだろうか。
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