【完結】推しの子if ~あかねちゃんと一緒にアクアを救おうルート~   作:日ノ川

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第105話 月に導かれた日、いつもの日・昼

「うーん。どうしたもんかなぁ」

 

「せやねぇ」

 

 珍しく同じスタジオ(ブースは別だが)で仕事を行った私とみなみは、仕事が終わるとそのまま、撮影スタジオのすぐ近くにあるコーヒーショップのテラス席で向かいあっていた。

 

 単純に時間があるからおしゃべりしているわけではなく、二人で組んだ『これから来る同盟』の会合のようなものだ。

 議題は言うまでもなく、もっと上に行くにはどうしたら良いか、である。

 そもそも撮影が終わった後、別の現場に行くこともなく、こうしてノンビリ出来る時間があること自体が問題なのだ。

 

「ドラマの影響でもう少し跳ねると思ったんやけどね」

 

「あかねとアクアが話題持っていき過ぎなんだよ」

 

 元からゴシップ性の高い作品では合ったが、ドラマ内にも登場し黒幕ポジションにいた芸プロ社長が、いくつもの殺人事件に関わっていたと判明した後でドラマが放送されたことで、視聴回数は爆発的に増えた。

 

 本当か嘘かも分からない考察がSNS上にも溢れ返り、今なお語り継がれる作品となっている。

 といっても世間の興味は私たちが演じた最終ライブを含めたアイドルシーンではなく、アクアが少年A名義で演じた後の芸プロ社長との関係ばかりなので、私たちにはあまり恩恵が無かったのだ。

 

「ハァ……ん?」

 

 思わずため息を吐いて何の気無しに顔を上げると、店内で購入したカップを片手に気まずそうに立っている男が一人。

 

「……おう」

 

 今まさに話題に上がっているアクアの姿があった。

 しかもこの感じだと会話内容も聞こえていたらしい。

 

「あれ? お兄さん。珍しいところで会いますね」

 

 みなみも気づいて笑い掛けるが、その声は僅かに上擦っていた。

 私もみなみもそんなつもりは無かったが、図らずも陰口を言っているような状況になってしまったことに後ろめたさがあるのだろう。

 アクアもそのことに気付いたのか、一瞬苦笑めいたものを浮かべてからすぐに気を取り直してこちらに近づいてくる。

 

「ゆきに寿さん。珍しい組み合わせだな」

 

「そうでもないよ。私たちあのドラマ以来仲良しでよく一緒に遊んでるもんね?」

 

「そうそう。今日は偶然スタジオと撮影時間が被ったんでこうして少し話そかーって。お兄さんこそ珍しいですね。モデルの仕事ですか?」

 

 みなみがサラリと話題を変える。

 

「いや、今日は映画監督としての仕事。映画雑誌の表紙撮影。本当は鏑木さんと来る予定だったんだけど何か別件入ったとかで一人で来たら早く着きすぎた」

 

「おーおー。羨ましいー。映画雑誌とはいえ表紙ですかー」

 

「ウザがらみしてくんじゃねーよ。そういうお前こそ、こないだファッション紙の表紙飾ったんだろ? あかねから聞いてるよ」

 

「そうなんですよー。あの雑誌で表紙務めるって並大抵のことじゃないですからねぇ。羨ましいのはこっちやわー」

 

「そんなこと言って。アクア、みなみのセカンド写真集の話聞いてる? タレント写真集部門で二位取ったんだよ? やばくない?」

 

「あー、そっちはルビーから聞いた。二人とも順調なようで何よりだ」

 

「余裕ある言い方。流石マルチタレントとして多方面で活躍している人は違うねー」

 

「絡むなよ」

 

 深いため息と共に面倒くさそうに手を振る。

 ちょっとウザがらみをし過ぎたか。と反省し何か言うより早く、みなみがフォローに入った。

 

「あー、いやいや。別にそういうつもりや無いんですよ? うちら今ちょうど横方向の仕事を伸ばすにはどうするかー。みたいな話してたからマルチタレントのアクアさんにちよっとアドバイスを貰えへんかなーって」

 

「横に?」

 

「そうそう。モデルは年齢制限あるからね。今から少しずつでも別の方面の仕事探していかないと」

 

「ふーん。どっちにしても俺に聞いても意味ないぞ。俺の場合、マルチタレントとしても一流とは言えないしな」

 

「謙遜しすぎ。映画監督に役者にモデル。タレントもやってて全部の分野で評価されてるってのにさ」

 

「あくまである程度の評価だからな。俺の場合は一分野だけじゃ一流には届かないから、色々と手を広げてるだけだ。その点お前らは違うだろ?」

 

「え?」

 

「どっちもモデルとしてトップ目指せる才能があるんだから、先ずはそれぞれの分野で認められてからでもいいんじゃねーの?」

 

 サラリと告げられた台詞に動揺しそうになる自分を押さえ込み、私はみなみに言う。

 

「ほら出た。みなみ、気を付けなよ。アクアはいつもこうやって歯の浮くような台詞で女の子をその気にさせるくせに一切靡かないで有名なんだから」

 

「人聞きの悪いこと言ってんじゃねーよ」

 

「だってあかねが言ってたもん。アクアは未だに周りに思わせぶりな態度をとってばっかりだって」

 

「フリルちゃんもこないだ言うてたわぁ。撮影の時のアクアさん、指導が細かくて自分の良いところよく見て引き出してくれるから勘違いしそうになるて」

 

「うわー。あかねに言ってやろー」

 

「言いたければ言えよ。今更そんなことでどうこうなる関係じゃねーし」

 

「めっちゃノロケるやん」

 

「ふーん。あ。じゃあ良いこと考えた。アクアに私たちの雑誌と写真集買ってもらって売り上げに貢献してもらおう」

 

「何でそうなる?」

 

「だって、あかねは嫉妬しないんでしょ? 私たちも一応彼女持ちに買って貰うのはどうかなーって思ってたけど、それなら問題ないよね」

 

「せやなー。うちらがトップになれる才能があるって言ってくれたんなら、それくらいしてくれても罰は当たらんなー」

 

「……はぁ。はいはい分かったよ」

 

 真顔になったアクアはそのままスマホを取り出し操作を始める。

 チラリと見えた画面は、本も取り扱っているネット通販アプリだった。

 

「え?」

「お、お兄さん。冗談、冗談ですよ?」

 

 みなみが慌てて止めに入る。

 当然と言えば当然の話だが、グラビアアイドルであるみなみの写真集は男性向けのものであり、同性である私が見てもかなり扇情的なものだった。

 

 さっきのもそうだが、あかねはあれで結構な焼き餅やきだ。

 いくら深い絆で結ばれているとはいえ、アクアがそれを見ていて良い気がしないのは確かだろう。

 

 自分の写真集が火種になっては困ると慌てるみなみに、アクアはニヤリと笑ってから何故かこちらを見た。

 

「ちょうど、知り合いのダンサーに渡す誕生日プレゼントを考えていたところだ」

 

「ちょっ!」

 

 アクアの知り合いのダンサーで誕生日が近い相手と考えたら思いつく相手は一人しかいなかった。

 

「そういうことなら。お買い上げありがとうございますぅ」

 

 さっきまでと打って変わって営業スマイルのまま頭を下げるみなみ。

 

「このうらぎりものー!」

 

 私の悲鳴が周囲に響きわたった。

 

 

   ☆

 

 

「お? あれ、アクアじゃね?」

「だな」

「おーい。アッくん、どうした? こんなところで」

 

 撮影スタジオの廊下を歩いている途中、見かけたアクアに俺たちは三人揃って声を掛けた。

 

「……どっちかって言えば俺の台詞だな。そっちはなんでスタジオに?」

 

 視線が、スタジオの中に移動する。

 俺たちがこうしている理由は分かっていても、この場所にいる理由は想像がつかないのだろう。

 

「ジャケ写の撮影。見ろよこの格好。この後取材も入っているから、着替えられねーの」

 

 スーツに似た衣装を指しながら、ケンゴさんが気恥ずかしそうに笑う。

 普段バンドマンをやっている時は私服が衣装のようなものだから、こうした全員揃った衣装は着慣れないのかもしれないが、髪型的に一番似合っているので気にしなくて良いと思うのだが。

 

「忙しそうだな」

 

「アクアは惜しいことしたよなー、一緒に活動できるはずだったのにさ」

 

 俺の言葉に二人も同意した。

 

「そうそう。折角メルトが鏑木さんに許可貰ったってのによ」

 

「前に歌教えて欲しいって言って来たからてっきり参加する気なのかと思ったのにねぇ」

 

「仕方ねーだろ。別件と被ったんだから」

 

 ケンゴさんの言葉を、アクアは面倒くさそうに躱す。

 

 以前、ドラマの打ち上げで行った海で出たみんなでバンドかなにか組もうという冗談が発端となり、俺が社長に話したところ、直ぐに鏑木さんに話を持っていってくれてトントン拍子に事が進んだ。

 

 とはいえ、やはり期間限定のユニットでバンドでもなく、歌と踊りをメインにしたものではあったが、それでもいつも俺がやっている顔売りを目的とした楽曲とは違うものがやりたいと色々と話し合った。

 ダンスはノブが考え、歌はケンゴさんから提供して貰ったことで、少なくとも俺が昔ネットで言われたようなお遊戯会にはならない楽曲が完成した。

 そんな中、俺の役割は何かと言えば。

 

「ところでリーダー」

「え? あ、うん。何?」

 

 突然話しかけられて、体をビクつかせた俺をみんなが訝しげに見るが、愛想笑いと共に誤魔化す。

 そう。

 一応このグループのリーダーは俺が務めている。

 

 理由としては俺が発起人だから。となっているが、肝心の歌もダンスも微妙な俺がリーダーになっているのは、単純に事務所の力によるところが大きい。

 ようするに一番力が強く金も出してやるから、所属タレントを目立たせろ。と社長が圧力を掛けたわけだ。

 そのことに情けなさを感じつつも、拒否することも出来ず、皆も反対しなかったこともあり、この座に付いている。

 

「いや。あの人遅くない? 取材の人いつ来るか分からないし、場所把握してた方が良いんじゃない?」

 

「そ、そーだな。ちょっと待ってて」

 

 こうやって俺のことをリーダーとして扱い、さりげなく立ててくれるケンゴさんには感謝しかない。

 

「あの人?」

 

「アクアの代わりって訳じゃないだろうけど、三人だと見栄え的に寂しいからって鏑木さんが連れてきたんだよ。ほらあの、東ブレでアクアたちと一緒の舞台に出てた」

 

「鴨志田さん?」

 

「そーそー」

 

 ノブとアクアが雑談してる間にも俺は電話を掛け続けるが、鳴りはするが一向に出る気配がない。

 

「……ダメだ。出ねー、何やってんだ?」

 

「ちょっと休憩とか言ってたけど、タバコとか?」

 

「いや、あの人は、タバコは吸わない。ヘラヘラしてるけど稽古はしっかりする人だから、タバコで体力落としたくないってタイプだ」

 

 それは間違いない。と続ける俺に、二人は感心したように頷いた。

 

「……関係があるかは知らないが」

 

「ん?」

 

「ここに来る前、外のカフェに寄ってきたんだけど」

 

「鴨志田さんはカフェって柄でもない気がするけど」

 

「いや、そこでゆきに会ったんだよ」

 

「ゆきと?」

 

「それと寿さんも一緒だった」

 

「寿って、あの海に来てたグラビアの子?」

 

「ああ」

 

 ケンゴさんの言葉で俺も海で会ったあの規格外のスタイルの女の子を思い出し、同時に叫んでいた。

 

「それだ!」

 

 言うなり俺はスタジオの外に向かって駆け出した。

 いつか、東ブレの舞台稽古の時に、アクアの妹と一緒にやってきたあの子にコナをかけていたことを思い出したのだ。

 

 俺たちのグループは、全員男で顔立ちが整っているメンバー揃いなので、メインターゲットは当然若い女性。

 そんな時にスキャンダルなんて起こされたらマズイ。

 

 俺はまだまだリーダーを張れるような器ではないかもしれないが、だからこそ、やれることは全力でやるしかない。

 

「おーい。もうゆきが撃退したって言ってるぞー」

 

 後ろで何か言っている声が聞こえた気がしたが、目標を定め一直線に突き進む俺の足は止まることはなかった。

 

 

   ☆

 

 

「……うわ」

 

 テレビ局の廊下で私の姿を見た瞬間、星野アクアがほんの僅かに顔を歪めたのが分かり、私は逆に笑みを深めて近づいた。

 

「今うわって言った?」

 

「……言ってませんよ。お久しぶりです片寄さん」

 

「ええ、ええ。お久しぶりね。監督さん」

 

 監督を強調すると、これ見よがしな息を吐く。

 そんな彼に、私は更に嗜虐的な笑みを深めて続けた。

 

「第二作目の評判も上々なようで良かったわね。でも初監督作品の方の宣伝も忘れてないでしょうね?」

 

 ここで言う第二作とは先日完成試写会が開かれたという不知火フリル主演の作品のことだが、一般的にはあれが星野アクアの初監督作品という認識になっている。

 実際、ドラマの時は上に総監督がいたのだから当然なのだが、私はあえてそちらを彼の初監督作品と定義している。

 

「俺がやるまでもなく十分話題になってるし、評価もされていると思いますけど?」

 

「ゴシップ作品としてでしょ? しかもあの女の供述のおかげだし。あーもう思い出したらムカムカしてきた」

 

 苛立ちを覚える私に向かって、大きなため息が聞こえた。

 

「まだそんなこと言ってんのかよ」

 

 呆れを多分に含んだ声は、星野アクアのものではなく。

 

「大輝くん」

「よう。虹野さんの舞台以来だな」

 

 私たちが立ち話をしていた廊下の角から、相変わらず演技している時とは全く違う、ぼけっとしたやる気のない表情の大輝くんが顔を覗かせた。

 

「口出しはやめてくれる?」

 

 鋭く拒絶する私に大輝くんは呆れたように肩を竦めた。

 

「アンタもニュース見たんだから知ってんだろ? アイツがどういう男だったかってこと。しかもアンタ自身も狙われてたっていうじゃねーか。そんな奴の名誉なんて今更どうでも良くねーか?」

 

「む」

 

 確かにそうだ。

 私自身、新野冬子の供述が話題になってから初めて気がついたのだが、私は確かにあの女と会ったことがあった。

 ミキさんを迎えに来ていたらしい女と軽く挨拶を交わしていたらしい。

 

 あの日はずいぶん酔っぱらっていたから、記憶が定かではなかったが、後にマスターに確認してみたところ、ミキさんが私のことを才能ある女優だと紹介してくれた時、一瞬小馬鹿にしたような視線を向けていたらしく、私がヒドく憤慨していたとのことだ。

 

 警察から参考人として事情聴取を受けた際、後々は私も殺すつもりだったと聞いた時は愕然としたものだ。

 今にして思うと、私があの女を殺したいほど憎んでいたのは、ミキさんのことだけでなく、その時に感じた蔑みや殺意に知らず知らず反応し、やられる前にこっちから。というような思いがあったからなのかもしれない。

 

 どちらにしてもミキさんが優しくしてくれたのは、私を気遣ってのことではなく、その逆。

 自分の欲望を叶えるためだった。

 そんな人物のための勝負なんて意味はない。

 

 彼が言いたいのはそういうことだろうが、それでもやっぱり、あの女の言葉を全面的に信用はできない。

 まだ裁判も全て終わっていない以上真実が明らかになったとは言えないのだから。

 

「これは私と監督の勝負なんだからほっといてよ。あの女が出所して戻ってきた時に見せつけてやるためにも、あの作品は名作としてずっと残っててもらわないと」

 

「それは俺も同意します。勝負から逃げる気も無いですよ。ただ今動くのは得策じゃないんで時期を待ってるだけです」

 

「時期って?」

 

「片寄さんの言うように今はまだゴシップ的な見方しかされてませんが、それも今だけです。裁判が全部終わってある程度落ち着いたら、冷静な目で見られるようになる。その時に俺が映画賞でも穫っていたら」

 

「あー、毎年恒例だよな。映画賞穫った後、その監督の過去作が特集されるの」

 

「そういうこと。そうすれば自然ともう一度注目が集まる。何しろ勝負期間は百年もあるんだ。のんびりやるさ」

 

 ニヤリと笑うその表情に、私は不満げに顔を歪めて吐き捨てた。

 

「そうねー。せいぜい頑張りなさい。言っとくけど、私は何年経とうと忘れたりしないから。百年後名作になってなかったら、絶対記者会見開いて公表するからね!」

 

「ハッ。今から百年生きる気かよ」

 

 大輝くんの言葉に、私はフフンと鼻を鳴らすと自信満々に言い放つ。

 

「当たり前でしょ。せっかく拾った命だもの。一生役者続けて、百年残る名作の主演を張った伝説の大女優って呼ばせてやるんだから!」

 

 以前は気恥ずかしくて、ミキさんにも言えなかった私の夢も、今では胸を張って言えるようになった。

 

 兄弟揃って色々思うところがある奴らだが、そのことだけは感謝してやっても良い。

 もちろん、それを口にするつもりはないけど。

 くるりと踵を返し、私は意気揚々と歩きだした。




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