【完結】推しの子if ~あかねちゃんと一緒にアクアを救おうルート~   作:日ノ川

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本日四話投稿の第三話目
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第106話 月に導かれた日、いつもの日・夕

「アクア。あの女には気をつけろよ」

 

 片寄が去ってから、俺が意図的に真剣な表情と声を作って言うとアクアの視線も鋭くなった。

 

「まだ何かする気だって?」

 

「いや、そうじゃない。アイツ酒癖超悪いから。お前ももう直ぐ二十歳だろ? 飲みに行く時は注意しろよって話」

 

 俺と違って真面目なアクアのことだから心配はいらないとは思ったが、こいつがこれからやろうとしている夢の話は知っている。

 隙を見せないに越したことはない。

 そう思っての忠告に、アクアは鼻を鳴らして答えた。

 

「そもそも二十歳になったからって、飲みに行く気がねーよ」

 

「……それなら良いけど。ところでお前、今日は映画の番宣か?」

 

 アクアが監督をした不知火主演の映画についてはかなり良いものができたと聞いている。

 撮影開始時期に二人が高校生だったことも話題になるため、番宣にも力を入れるだろうと思っての質問に、アクアは首を横に振った。

 

「さっきスタジオで雑誌の表紙撮影して監督としての仕事は終わり。これから別件だ」

 

「ほー、売れっ子だな」

 

「姫川大輝に言われてもな」

 

「それが俺の方は今日仕事じゃねーんだよ。金田一さんのお供」

 

「お供? 金田一さんの?」

 

 訝しむアクアに、僅かに考える。

 本当はアクアが二十歳を超えた祝いに酒に誘って、一緒に飲む時にでも話そうかと思っていたが、さっきの様子を見る限りアクアはあまり積極的に酒の席に来るつもりはなさそうだ。

 そう考えるとここで先に話しておいた方が良いかもしれない。

 

「前にも話したろ? 俺もずっと役者一本でやっていく訳にはいかないからな。これからは金田一さんの跡を継いでララライで演出もやる。今はその修行中ってところだな」

 

「へぇ。話は聞いていたけど、もっと先のことかと思ってたよ」

 

 確かに、以前話した時はあくまで将来的な展望として語っていたが、最近になって考えが変わった。

 

「そのつもりだったんだけどな……」

 

 言いながらチラリとアクアを見る。

 

「?」

「いや、なんでもない」

 

 弟が自分の夢を叶えるために奮起している姿を見て俺もやる気になった。

 なんて。兄の威厳にかけて言う訳にはいかない。

 不思議そうに首を傾げるアクアに俺は明るく告げた。

 

「今ちょうどララライの新作舞台稽古に入ってるんだが、それに役者としてだけじゃなく演出にも口出す権利を貰った。その出来次第では次は本格的に俺演出の舞台をやらせてもらえる」

 

「なるほど。映像と違って舞台演出のことはさっぱりだが応援してるよ。頑張ってくれ」

 

 心の篭っていない淡々とした激励に、けれど俺はニヤリと笑ってアクアの肩に手を回した。

 

「よし。じゃあその時は舞台に出演してもらうからスケジュール空けといてくれ」

 

「ちょっと待て。何で俺が」

 

「応援するって言っただろ? 今回舞台はララライの総力戦に近くてな。その後となると劇団内だけじゃ役者まかない切れないから、人集めもやってみろって言われてるんだよ。いろいろ当たっているが、なかなか捕まんなくてな」

 

 元から交友関係が広くないこともあるが、役者としてはともかく、演出としての実績が未知数ということも関係しているのだろう、どこからもあまりいい返事は貰えていない。

 メルトにも声をかけてみたのだが、今は自分がリーダーを務めているバンドだがダンスだかのグループでの活動に注力したいと断られてしまった。

 

「つーか、出演依頼なら、俺に言わずに事務所を通せ」

 

「堅いこと言うなよ。俺とお前の仲だろ? 兄貴──分の頼み聞いてくれよ」

 

「そんな情けない兄貴分は持った覚えはない」

 

 肩に回した手を外しながらきっぱりとした拒絶されるが、その声は出会った頃と比べるとずいぶんと穏やかに聞こえて、俺は自然と笑みを深めてしまった。

 

 

   ☆

 

 

 元の予定を変更して出向いたテレビ局で、用事を済ませた僕は、喫煙室で偶然会った金ちゃんと雑談に興じていた。

 彼とは旧知の仲ではあるが、こういう場所で会うのは珍しい。

 それだけ今回の公演に力を入れているのかと思ったが、どうやら違うようだ。

 

「へぇ。姫川くんが、演出家として金ちゃんに弟子入りね」

 

 ようするに姫川くんに演出の仕事を見せる一環で挨拶周りのようなことをしているらしい。

 それにしても、役者一筋の彼が演出志望だったとは初耳だ。

 

「ああ。どうも色々やってる星野に影響されたらしい」

 

 ジロリとこちらを睨む。

 アクアくんに色々やらせている側として気まずさを感じて肩を竦めると、反対側から同じく偶然会った五反田くんがタバコの煙を吹かしながら口を開いた。

 

「で。実際のところどうなんだ? モノになりそうなのか?」

 

「さぁな。だが姫川は感覚派だ。そういう奴でも演出家や監督として才能が開花する奴はいるが、どっちにしろ、まずは自分の感覚を他者に伝えることを覚えないと始まらない。今の公演が終わったらアイツに演出任せるとは言っておいたが、まぁ最初は相当苦戦するだろうな」

 

「それを分かった上でやらせるのは、獅子は我が子を谷底にって奴か」

 

「そこまでじゃねーが、アイツは昔から苦しいことはやりたがらない性格だが、演出なんて苦しいこと、面倒なことの連続だ。ちっとは忍耐も覚えてもらわないとな」

 

 鼻を鳴らす金ちゃんの声はいつもと同じぶっきらぼうなものだったが、長い付き合いだからこそ、僕には分かる。

 

「嬉しそうだね金ちゃん」

 

「別に嬉かねぇよ。いつも言ってんだろ、裏方やるのなんて役者やりきってからでも遅くねぇんだ。それなのにアイツと来たら。それもこれも星野のせいじゃねぇのか?」

 

「それは僕に言われても困るなぁ。彼と姫川くんじゃタイプが違う。アクアくんの場合は単にマルチタレントだからってだけじゃなく、マルチタスクというか、いろんな分野を同時並行しても上手くやれるタイプだからね」

 

「こなすことは出来ても上に行くにはある程度注力しないとならねぇだろうが。アイツは役者に専念すりゃ、まだまだ上に行けるぞ」

 

 金ちゃんの言うことも分からないでもないが、才能も知名度もある若手役者が次々でてきている今、アクアくんにとって一番知名度が高く金になるのは間違いなく映画監督としての仕事だ。

 ならばそれを優先させるのは当然。

 

 大人としての考えはこれが正しいが、学生の頃から、既存の劇団に所属することを良しとせず、自由に演劇を行うため自らララライを立ち上げた金ちゃんとしては納得出来ないのだろう。

 それなら。

 

「監督はどう思う?」

 

 こちらを楽しげに見ているアクアくん曰く、映画が撮れるだけのデカい子供に意見を求めた。

 

「俺?」

 

「そ。師匠として、弟子には監督業頑張ってもらいたいんじゃないの?」

 

「冗談じゃねー。少なくとも俺が監督賞穫るまでは別の方面、役者は役者で俺以外の作品に出演して賞穫られるのもイヤだから、タレントとかに力入れてもらいたいもんだ」

 

「よくもまあ、愛弟子相手に臆面もなくそんなこと言えるね」

 

「ばーか。監督デビューした時点で俺にとっちゃアイツはもう商売敵だよ」

 

 サラリと言った台詞はだからこそ本気を感じさせる。

 彼もアクアくんの初監督作品の試写会には呼ばれていた。それを見たからこその感想だろう。

 つまりアクアくんの映画監督としての才能を評価した上で、自分の敵になりうると考えている。

 

 五反田くんの私生活でのだらしなさや、いつまでも大人になりきれない性格はともかく、映画監督としては間違いなく一流。

 その彼から商売敵として認められている以上、アクアくんの映画監督としての才能は本物だ。

 やはりこの方面を伸ばしていく選択は間違っていない。

 

「だったらなおさらアンタの映画に主演で使ってやれば良いんじゃないか?」

 

「それが出来たら苦労しねーっての。俺程度じゃまだまだ役者を自由に決めらんねーよ。せめて映画賞穫らねーと。だからこそやっぱここはタレントで」

「いやいや監督だって」

「本職は役者だろ?」

 

 大の大人が三人揃って、あーだこーだと言っていると、すぐ近くからわざとらしい程大きなため息が聞こえ、僕らは三人揃ってそちらを見た。

 

「本人の居ないところで勝手に人の将来について語るなよ」

 

「うおっ! なんだアクア、いつから居た?」

 

 いつの間にやら喫煙室の中に入り込んでいたアクアくんに、代表して五反田監督が聞くが、当人は気にした風でもなく金ちゃんに目を向けた。

 

「ついさっき。ああ、金田一さん。姫川さんが探してましたよ」

 

「ん? ああ、そうか。じゃ、俺は行くわ」

 

 これ幸いと喫煙室を離脱しようとする金ちゃんを、僕と五反田くんは恨みがましい視線で見送った。

 その後、深いため息と共にアクアくんが睨みつけたのは案の定と言うべきか五反田くんだった。

 

「ずいぶん情けない姿見せてくれたもんだ」

 

「う、うるせーな。試写会が上手く行ったからって調子のんなよ。関係者に好評でも世間受けしなかったり、別の話題作に客取られて爆死する映画なんか山のようにあんだからな!」

 

「小規模作品ならともかく、不知火フリルを起用して、宣伝にも力入れている作品でそれは無いと思うけどね」

 

「うるせー!」

 

「だいたい。そのライバルには本来、五反田監督作品が来るって聞いた気がするんだけどな」

 

「え? 五反田くんなんか撮ってたっけ?」

 

 調べた限りではそんな話は聞いていないが、五反田くんは例年映画賞候補に上がる位にはコンスタントに映画を撮り続けている。

 短期間に撮影を終わらせていても不思議はないが……

 

「それは俺じゃなく、お前の妹に言え! あいつらがいつまで経ってもドームに行かねーのが悪いんだよ!」

 

「ああ。B小町のドキュメンタリーか」

 

 そう言えば、B小町がドームに行くまでの物語をドキュメンタリーとして映画にする話が出ていて、最近正式に五反田くんが監督に就任したというニュースを見た覚えがあった。

 全国ツアーも決まった今のB小町の人気ならいずれドームにも届くとは思うが、正式決定しないうちからずいぶん強気な判断だと思っていたが、元々はアクアくんの作品にぶつけるつもりだったのなら納得だ。

 

「それこそ俺に言われてもしらねーよ。そういうのはプロデューサーに……って壱護さんは? ここにいるんじゃないのか?」

 

 呆れた息を吐きながら、ふと思い出したように言う。

 同時に彼がこの場所にやってきた理由も理解した。

 

「斉藤さんならさっきまで居たけど、君が来る少し前に呼ばれていったよ」

 

「呼ばれた?」

 

 誰に? と続けるアクアくんに僕と五反田くんは顔を見合わせてニヤリと笑って告げた。

 

「飼い主に」

 

「……ああ、やっぱり母さんも来てるのか」

 

 苦々しい顔と共に吐き出されるため息は先ほどまでとは違うものだ。

 

「ちなみに俺がいるのもそれが理由だ。ルビーのついでにお前の雄姿もバッチリ撮ってやるからな」

 

 アクアくんが落ち込むのと同時に、弱みを見つけたとでも思ったのか、調子づいた五反田監督が、ハンディカムのカメラを取り出した。

 そのままアクアくんに向けるが、彼は苛立った様子でカメラのレンズに手を伸ばして自分の姿を映らないようにしながら吐き捨てた。

 

「俺は関係ないんだから撮るなよ。もし映したら出演料貰うからな」

 

 そう言った直後、アクアくんのスマホにメッセージが届く。

 内容を確認した途端、アクアくんは頭を押さえ、ガックリと項垂れる。

 

「お前も呼び出しか?」

 

「ああ。衣装合わせの時間だと」

 

 

   ☆

 

 

 着替えを済ませて控え室に戻ってきたルビーとアクアを出迎えながら俺は大きく頷き、手放しでルビーを賞賛した。

 

「おー。似合ってるじゃねぇか」

 

「えへへー。でしょでしょ」

 

 今回のために新しく作った桃色の衣装に身を包んだルビーが、見せつけるようにその場でくるりと回転する。

 同時に腕周りとスカートの裾についたフリルがふわりと舞った。

 

 こうやって動いているところを見ると映像映えする衣装に仕上がっている。

 今回の立ち位置的にルビーに視線を集めて貰わなくてはならないことを考えると、この衣装に決めたのは、良い選択だった。

 

「こっちも褒めてあげなさいよ」

 

 ミヤコの声が若干震えているのは笑いを堪えているからだろう。

 

「つってもよー。その格好じゃ……」

 

 アクアもすでに衣装に着替えているが、ルビーだけ褒めたのには理由がある。

 

「ウルサい。何も言うな」

 

 低い声で言ったアクアは衣装の上から纏っている薄手のコートを抑えながら、俺たちの視線から逃れるようにそのままフードを被ろうとした。

 

「あー、辞めなさい。セット崩れちゃうでしょ!」

 

 ミヤコに言われて既に髪のセットまで終わっていることを思い出したのか、アクアは仕方なさそうに手を外し、せめてもの抵抗に自分の体を抱きしめるようにして衣装を隠そうとするが、ミヤコはそれも押さえ込んだ。

 

「それもダメ。衣装に皺が寄るから」

 

「だったら俺には触れずそっとしてといてくれ。なんだって俺がこんなふざけた格好を」

 

 頭を抱えるついでにコートから手が離れ、来ている衣装の一部が露わになる。

 といってもそれ自体はそう目立つものじゃない。

 

 ルビーと同じ桃色を基調とした学制服にも見える衣装は派手ではあるが、男性アイドルとして見ればまあ無くもない。

 

 だが、そこに加えて多数の小物。肩章に加え勲章のような装飾品。装着された深紅のマントにはご丁寧にファーまで取り付けてあるのはかなり目立つ。

 ファンタジーもののマンガやアニメのような格好だが、そういうコスプレは普通にあるし、ミュージカルチックな劇などの衣装として見ればそこまでおかしくはないと思うのだが、ルビーが普通の格好だけに余計異質さが際立ってしまうのだろう。

 

「まーだ言ってるの? いいじゃん、いつもは役者とかタレントとか、私がお兄ちゃんの方の仕事に寄せてあげてるんだから、偶にはお兄ちゃんの方が私に合わせてくれても」

 

「そうそう。これは二年も前からルビーが温めてた企画だからな。いつになるんだってずっと催促されてたから実現できて俺も肩の荷を降ろせたよ」

 

 いつだったか。

 あれは確かアクアが黒川あかねを家族に紹介すると言って招待した日だ。

 ミヤコが作った手料理と引き換えに、ルビーからアイドルとしてアクアと共演したいから企画を練ってくれと言われたのだ。

 

「あー! 壱護さんそれは内緒だってば!」

 

 慌ててルビーが止めに入るが既に遅く、アクアがギロリと睨みつけた。

 

「ルビー、お前か。こんなふざけた衣装着せたのは!?」

 

「違うもん! 衣装は私の管轄じゃなくてMEMちょの──あ!」

 

「あいつか。道理でセンスが古いわけだ」

 

「いや、流石にMEMの年齢でもそこまでコテコテなアイドル衣装はねーよ。どっちかっつーとそれは俺とかミヤコの若い頃の──」

「私と貴方を一括りにしないでくれる? 一回り以上離れてるでしょうが!」

 

「……まあ、それはともかくだ。お前にその衣装着せたのはちゃんと理由があってのことだ。アイドルやらせるって言ってもルビーとお前じゃ勝手が違う。……黒川のこともあるしな」

 

 最後に付け足した言葉で、アクアは分かっているとばかりに一つ頷く。

 アイドルの仕事はファンに夢を見させること。

 

 実際はどうであれ、恋愛禁止を掲げるアイドルが多いのはそのためだ。

 それは男性アイドルでも同じだが、アクアの場合、黒川あかねという公式な恋人がいる。

 そんなアクアが真面目にアイドル活動をしてしまい、下手にファンを本気にさせるようなことになってはそれこそアイの二の舞になりかねない。

 

 だからこそ、二人のデュオは出来る限りルビーを目立たせて、アクアはあくまでもサブに回るというのが大前提だった。

 

「それは分かるが、何もこんな格好じゃなくても」

 

「そういう突き抜けた分かりやすいアイドル像だからこそ、お遊びだって伝わりやすいんだよ」

 

 言葉は悪いが、ルビーの可愛さを引き立たせる道化役も兼ねている訳だ。

 それぐらいしないと、オフザケと思って貰えないくらいアクアの顔面偏差値が高すぎるということでもあるのだが。

 

「ほらほら。いつまでもブーたれてないで。アイドルは笑顔が大事なんだから」

 

「そうそう。ほらお兄ちゃんも、にーって」

「……にー」

 

「ぷっ! めっちゃヒキツってる!」

 

「ウルサい。本番ではちゃんとやる」

 

 わいわいやっている双子を見ながら、俺は眉間に皺を寄せつつ、サングラスを持ち上げる。

 いつかのミヤコのように、双子が共演するところをみて感慨深くなった……のではない。

 

 苺プロに戻ってから俺なりに全力で事務所に貢献しているつもりだが、時間としてはまだたったの二年そこら。

 こいつらをほったらかしにしていた期間を考えればまだまだ、そんな気持ちになる資格がない。

 

 だから、気になっているのは別のこと。

 アクアとルビーを比べて見て、アクアの方が目立っていることだ。

 もちろんそういう格好をしているのだから、目立つのは当たり前なのだが。

 俺の狙いとしては、それでもなおルビーの方に目が行くくらいになって欲しかった。

 本職のアイドルだからというより、ドームでライブが出来るアイドルなら、それぐらいの輝きは必要だ。

 

(まだ、アイには届かないか)

 

 双子ももうすぐ二十歳になる

 それはつまり元祖B小町……アイがドーム公演を迎えた歳を超えるということだ。

 

 もちろん十二歳からアイドルをしていたアイと十六歳から始めたルビーではアイドル歴は四年も差があるが、現B小町は全員がかなり売れている。

 有馬はいくつもの映画やドラマ出演してそのいずれでも演技力が評価され続けた結果地上波ドラマに出演が決まった。

 もっともあいつの実力ならもっと早く決まっていてもおかしくはなかったのだが、例のドラマの影響で未だ保守的な考え方をしている者が多い地上波放送の業界人から苺プロ自体が敬遠されていたこともあって、こんなに時間が掛かってしまったのだ。

 だが、こちらから交渉したわけでもないのに声が掛かったということは、及び腰だった連中を動かすほどの実力を有馬が示した証左でもある。

 

 MEMだって単独で他のユーチューバーとコラボすることが多く、どこに呼ばれてもうまく場を回しつつ、自分だけが目立つのでなく他の出演者も立てるように立ち回ることで、互いの登録者が増えるのが評判となり、次々に出演依頼が舞い込んで、自身の登録者を未だ伸ばし続けている。

 

 そんな中、唯一単独の武器を持っていないのがルビーである。

 アイドルとしての実力は十分すぎるほどに持っているがそれを発揮しきれていないというか、後一歩何かが足りない気がする。

 今回アクアと共演させたのは、今一度双子タレントという立ち位置を明確にして、あちこちに顔を売っているアクアとセットで売り出すことで露出を増やそうという意図もある。

 

 全国ツアーが始まる前に、上手いことルビーを目立たせられるといいのだが──

 

「アクアさん、ルビーさん。お願いします」

 

 外からスタッフの声が掛かると、アクアもルビーも同時に表情が引き締まった。

 なんだかんだ言って、こういうところは場数を踏んで成長している。

 

「よし、行ってこい」

 

「ああ」

「行ってきまーす」

 

 控え室を出ていく二人の背を見ながら俺とミヤコは同時に口元を綻ばせて頷き合った。




アクアの衣装は原作一巻の最初に載っていたルビーと一緒に出演しているシーンで着ていた衣装に更に小物を色々つけたイメージです
次でラスト。夕方に投稿します
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