【完結】推しの子if ~あかねちゃんと一緒にアクアを救おうルート~   作:日ノ川

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第107話 星に導かれた日、いつもの日

 お兄ちゃんとの共演を終え、着替えを済ませた私たちはおかーさんが来るまでの時間を二人で過ごしていた。

 

「いやー、成功したねー」

 

「……ああ」

 

「これで大人気になって、第二段三段って曲リリースすることになったらどうしよっか?」

 

「勘弁してくれ」

 

 お兄ちゃんが疲れたように首を回す。

 

「ていうか。着替えるの早すぎたよね。プライベート用にツーショット撮っておけば良かった。ねーねー、もう一回──」

 

「絶対イヤだ」

 

 私の言葉を遮り、本気でイヤそうに顔を歪める。

 まあ仕方ない。そっちは後で私たちのことを撮影していたカントクさんに頼んで動画を貰おう。

 そんなことを考えていると、お兄ちゃんがポツリと呟いた。

 

「やっぱりアイドルは演るより推すに限るよ」

 

 それは現世ではなく、前世のせんせの時の経験から言っているように聞こえた。

 ここ数年、お兄ちゃんは前世の話を殆どしなくなっていたのだが、精神的疲労が口を軽くしたのだろうか。

 

「あー、お兄ちゃんはそうだろうね」

 

 動揺を見せないように、私は軽く返答して、即座に話を変えた。

 

「そう言えば、先輩から連絡来たけど今度のライブツアー。宮崎に見に来るんだって?」

 

「ああ。あかねと一緒に行けるのがその日しか無くてな。他意はない」

 

 話を変えたつもりだったが、場所が場所だけに私が前世の話に繋げようとしていると思ったらしい。

 再び断言され、流石にちょっとムッとした私は、直ぐにニンマリと笑顔を浮かべてお兄ちゃんに詰め寄った。

 

「だったらさ。その時はファーストライブの時みたいにヲタ芸披露してよ」

 

「は?」

 

「だって推す方が性に合ってるんでしょ? なんならお姉ちゃんと一緒にやってくれてもいいよ。メッチャ盛り上がるよ!」

 

「冗談じゃない。あかねにも言うなよ。アイツ結構ガチでB小町というか有馬推しになってるから」

 

「だからこそバズるんじゃん。お姉ちゃんとお兄ちゃんが揃ってやったら──」

「昔の俺たちの動画が発掘されかねないだろ?」

 

「あー、あれね。やっぱりどっかには残ってるのかな」

 

 赤ちゃんだった私たちがママのライブで披露したヲタ芸も大分バズっていた。

 流石にもうSNS上で見ることはないが、どちらもB小町のライブでとなったら、そこから掘り起こされるかも知れない。

 それでせっかく隠し通せているママと私たちの関係に気づかれたら大変だ。

 

 そんな私の心配を察ししたらしくお兄ちゃんは、フッと微笑んで肩を竦めた。

 

「ま、俺たちが子供時代から苺プロで育っていてアイのファンだったことは公言しているから出生はバレないだろけどな」

 

「え? じゃあ別にいいじゃん」

 

「お前はともかく、アレが発掘されたら俺のイメージに傷が付く」

 

「ちょっと。私はともかくって何よー」

 

 真面目くさった顔で言われた私は頬を膨らませつつジトリと睨みつける。

 

「……そういえば母さんたち遅いな」

 

 露骨に話を変えられたが、確かに遅い。

 壱護さんも一緒なので、昔なじみの局のお偉いさんにでも捕まっているのだろうか。

 

「お兄ちゃん、今日はもう仕事終わりだよね?」

 

 事務所のホワイトボードで見た時はそうなっていたはずだが。

 時間を確認する様子がちょっと焦っているように見えた。

 私の指摘に、お兄ちゃんはこちらを見た後、バツ悪そうに頭を掻く。

 

「終わりは終わりなんだけど……」

 

 言い淀む様でピンときた。

 

「分かった。お姉ちゃんの家に行くんだ」

 

「まあ、そういうこと」

 

 お姉ちゃん──あかねちゃんは二十歳の誕生日を迎えたあたりで、実家を出て一人暮らしを始めた。

 

 私も行ったことがあるけど、いかにも一流芸能人が住んでいそうなタワマンの上層階で、防犯もかなりしっかりしているところだった。

 

 お互い忙しくて時間が合わないせいもあるのか、仕事が終わったお兄ちゃんがそのままあかねちゃんのところに泊まることも偶にある。

 今日もそのつもりなのだろう。

 

 私としてはせっかく兄妹出演を果たした後でおかーさんも一緒なのだから家族揃って帰りたかったが、お兄ちゃんが監督をした映画の番宣で忙しくてなかなかあかねちゃんに会えていないことも知っているので仕方ない。

 

「まー、それならしょうがないか。私はおかーさんと二人寂しく帰りますよー」

 

「悪いな。朝母さんにも言ったけど、今度の週末は時間取れるから日曜日にみんなで夕飯食べよう」

 

「いいよ。家族みんなで、ね」

 

 家族を強調して言うと、お兄ちゃんはあっさりと頷いた。

 

「ああ。あかねにも言ってみるよ」

 

「うん。よろしくね。ところで、お姉ちゃんは何時頃帰るの?」

 

「いや、今日はオフだから。家に要るってさ」

 

「え!?」

 

「なんだよ」

 

「だったら早く帰らないとダメじゃん!」

 

「そうは言っても、一応母さんと壱護さんを待って今の撮影内容の確認をしとかないと」

 

「そんなの私がやっておくから! はいはい、帰った帰った」

 

「ちょ、ルビー!」

 

「お姉ちゃんによろしくー」

 

 荷物を持たせ、お兄ちゃんの抵抗を笑顔で封殺しつつ、無理やり控え室から追い立ててから、私はゆっくり息を吐き、胸をなで下ろした。

 

 きっと、お兄ちゃんには気づかれなかっただろう。

 ごく当たり前のように、家族の輪にあかねちゃんを入れている様子を見て、気がついた。

 

 多分、あかねちゃんが正式にお義姉ちゃんになる日は近いのだと。

 元は私から言い出したことだし、芸能界でもずっと仲の良い公認カップルとして過ごしてきた以上、スキャンダルになることもない。

 

 きっとあの二人は、みんなから祝福されて幸せになる。

 

 だから、最初から決めていた。

 今回のお兄ちゃんと一緒のステージに立つこの仕事が終わったら、一区切りをつけると。

 これまでは何かにつけて、三度目はとか来世ではとか言ってきたけど、それももう終わりにしないと。

 

 きっと私が本当の意味でおにいちゃんの……せんせのことを吹っ切れることはない。

 それでも、いつまでもこんなことを言っていては、二人を困らせるだけだ。

 

 だから、もう口にはしない。

 

 誰にも気づかれないように、ずっと心の中に留め続ける。

 そのまま、私たちがママの子供だって秘密と共にお墓まで持っていってみせる。

 

 大丈夫。

 きっと誰にも気づかれることはない。

 だって。

 

「私は、アイドルなんだから」

 

 どんな辛いことがあっても、ステージの上では楽しそうに笑っていないといけないお仕事。

 そうやって初めて、この嘘だらけの世界が、きれいに見える。

 

 なら、その嘘を信じ込ませるためにも、上手に嘘を吐いてあげるのが、本物の『アイドル』というものだ。

 

「見ててねママ。私は絶対、ママを超えてみせるから」

 

 胸に手を当てたまま決意を言葉に乗せる。

 当然だが天井に邪魔されて外の景色は見えない。

 でも、そのずっと向こう側の夜空で、一番星が瞬いてくれているような気がした。

 

 

   ☆

 

 

 ルビーから追い立てられるように仕事場を後にした俺は、その足であかねが一人暮らしをしている都内某所の高層マンション、いわゆるタワマンに向かった。

 

 馴れた足取りでロビーを抜け、二つあるエレベーターを乗り継いでマンションの廊下を迷いなく進む。

 二段階のオートロックを通り過ぎる際も確認したが、念のためもう一度廊下を見回して周囲に不審者がいないことを確認してから俺は猫のぬいぐるみ型のキーホルダーに付いた鍵を取り出した。

 

 あかねから渡されたマンションの合い鍵だ。

 あかねの方が俺より仕事が長引く場合もあるため、待ちぼうけにならないようにと貰ったものだ。

 

 鍵を開けて中に入ってから直ぐ鍵とチェーンロックを閉めると、室内に向かって声を掛けた。

 

「ただいま」

 

 お邪魔しますではなく、ただいまと言う。

 これは合い鍵を受け取った時にした約束の一つだ。

 最初は気恥ずかしかったが、一年も経てばもう馴れたものだ。

 

「お帰りなさい」

 

 奥から私服姿のあかねが顔を出す。

 最初は俺以上に緊張していた彼女も、流石に馴れたようだが、それでも毎回浮かべている嬉しそうな微笑みだけは変わっていない。

 その笑顔を見るだけで、今日の疲れが溶けていくような気さえした。

 

 

   ※

 

 

「今日は忙しかった?」

 

 時間的にお互い食事は終わっていることもあり、俺たちはリビングのソファに並んで腰掛けながら雑談に興じていた。

 

「ああ、朝から不知火と鏑木さんと一緒に出資者に完成報告して昼からは映画雑誌の撮影して……。そう言えばスタジオ行く前、近くでゆきと寿さんに会ったな」

 

「へー。二人とも撮影?」

 

「ああ、撮影帰りにお茶してたんだと」

 

「……お茶してたってちょっとおじさんっぽいよ」

 

 クスリと笑いながら指摘されて、思わずムッとする。

 

「うるせーな。他になんて言えっていうんだよ」

 

「そう言われると困るけど……。えっと二人は元気だった?」

 

「露骨に話し変えやがって。まあ、元気そうだったよ。その後スタジオで、ノブたちのグループとも顔会わせたから、もしかするとそっちが終わるの待ってたのかもな」

 

「あー、ゆきもノブくんとの関係も公表したもんね。ていうか、それってあれだよね。ケンゴくんとメルトくんの三人で組んでるダンスグループ」

 

「そうそう。でも三人じゃなく、そこに鴨志田さん。ほら東ブレで匁役やってた、あの人も入れて四人で活動することになったらしくて、そのジャケット撮影だと」

 

「へぇ。でも同じ日に、ゆきたちだけじゃなくてノブくんたちにも会うなんて珍しいね」

 

 感心するあかねに俺は苦笑と共に首を横に振って続けた。

 

「それ言うなら朝には事務所で珍しく有馬とMEMにも会ってるし、スタジオの後は局の廊下で片寄さんと姫川さんにも会ったよ」

 

「えぇー」

 

 驚きを通り越して若干引き気味のあかねに更に畳みかける。

 

「局には金田一さんと鏑木さんも居たし、カントクにも会った。俺とルビーの撮影だから壱護さんも母さんも居たしな」

 

「……なんというか。スゴい偶然だね」

 

「偶然、か」

 

「違うの? あ、もしかして。実はドッキリ仕掛けられてたとか?」

 

「それなら最後になんか言ってくるだろ」

 

「それもそっか。……でもいいなぁ。私最近誰とも会えてないからさ。またみんなで集まりたいよね」

 

「いいんじゃないか? 全員は無理でも今ガチのメンバーとかは、もうすぐ俺が二十歳になるし、そしたら十代はゆきだけだろ? 全員が二十歳になったら飲みにでも行くか」

 

「いいねそれ。ゆきの誕生日近くで集まれる日と場所私の方で探しておくね!」

 

 目をキラキラさせながらテンション高く言う。

 相変わらず仕切りと段取りを組むのが楽しいらしい。

 そのせいもあって、今でもあかね自身の飲み会参加率は高いままだ。

 いや、二十歳になり堂々と居酒屋やバーに出入りできるようになったことで、以前より高くなっている気さえする。

 

 舞台役者の異性関係の緩さを知っている身としては妙なコナを掛けられないかとヤキモキしてしまうが、タイミングが掴めず、口出しはしていない。

 

「あ。そうだ」

 

「ん?」

 

 思い出したように手を叩いてから、あかねはちょっと言いづらそうな上目遣いでこちらを見る。

 

「えっとね。お父さんから伝言」

 

「理さんから?」

 

 この二年間、時々顔を合わせるようになったあかねの父親、理さんとは割と良い距離感を保てていたと思っていただけに、何かしてしまったか。と知らず姿勢を正して話を聞こうとするが、あかねはそういうことじゃなくて。と苦笑して続けた。

 

「アクアくんがお酒飲めるようになったら一緒にどうかって。なんか、息子と飲みに行くのが夢だったとか、あはは。なに言ってるんだろうね」

 

 消え入りそうな声で、息子と言ってから慌てて付け加える。

 そんなあかねに、微笑ましさを感じつつも俺は僅かに思案しつつ言う。

 

「もちろん喜んでつき合うけどさ。実は他にもいろいろ誘われてるんだよな」

 

「色々って? もしかして共演者の女優とか?」

 

「ちげーよ。カントクとか鏑木さんとか、母さんもだし、ノブたちはゆきが二十歳になってからだろうけど。後は、今日会った時、姫川も誘いたがってるの見え見えだったな」

 

「人気者だね」

 

「まあでも、一番はあかねと一緒に飲んでおきたいな」

 

「え?」

 

「自分の限界は知っといた方がいいし、俺も把握しておかないとおちおち飲みの席に送り出せねーよ」

 

 ここぞとばかりに言えずにいたことを告げてみると、あかねは当然のようにこちらの意図を読み取って意地悪く笑った。

 

「ふーん? 心配してくれてるんだ?」

 

「……なんとなくあかねは酒癖も悪そうだしな」

 

「そんなことないよ!? 私よりむしろかなちゃんの方が」

 

「有馬が酒癖悪いのは見なくてもわかる」

 

 東ブレの打ち上げに参加した際、ジンジャエールだけで酒を飲んでいた他の連中よりよっぽど酔っぱらっているように見えた。

 

 ああいう分かりやすいタイプは、周りも扱いを分かっているため気を使ってくれるが、あかねのように大人しく一見素面に見えるタイプが酔っぱらった時の方が大変になるものだ。

 

「……じゃあ、最初は私と飲もうね。たくさん飲むから、酔っちゃったらアクアくんがちゃんと面倒見てよね」

 

「はいはい」

 

 適当な返事に頬を膨らませつつも、あかねの口元には隠しきれない喜びが浮かんでいた。

 

「ふぁ」

 

 それが気を緩ませたのか、一瞬口が開き掛け、慌てたようにそれを噛み殺す。

 

「眠いのか?」

 

「ううん。大丈夫」

 

 そうは言うが声は僅かに間延びしていた。

 

「今日休みだったんじゃ無かったか?」

 

「そうなんだけど。だらだらしてたら昼にお母さんが来て怒られて、掃除したり買い物つき合わされたりでなんだかんだ忙しくて」

 

 言われてみれば確かに室内はいつもより綺麗になっていた。

 

「それはそれは。じゃあ、今日は早く寝た方が良いな」

 

「えー。だって、折角アクアくんが来てるのに」

 

 自覚したことで眠気が増してきたのか、声がどんどん蕩けていく。

 俺は一つ息を吐いてから座る位置を調整し、隣に座っているあかねの体を引っ張ると、そのままゆっくりと彼女の頭を膝の上に着地させた。

 いわゆる膝枕の姿勢だ。

 

「良いから。無理はするなよ」

 

「でも」

 

「心配しなくても、時間はいくらでもある。俺たちはずっと一緒にいるんだから」

 

 いつか、ルビーにもこんなことを言った記憶がある。

 あの時は、いろんなものから目を逸らし、自分を誤魔化すために口から出た言葉だったが、今は違う。

 本当に、心からそう思っている。

 

「んふふ」

 

「何だよ」

 

「なんか、素直すぎてアクアくんらしくない」

 

「失礼な。でも、まあ。そうかもな。今日、みんなに会って改めて思ったよ」

 

「んー?」

 

「俺はみんながこうやって普通に生きていける世界を守りたい。でも、そのためには何より俺が幸せにならないといけないんだって。自分のこと蔑ろにしてる奴に助けられたって、気を使うばっかで嬉しくないしな」

 

 少なくとも俺の周りには、そんなことをされて喜ぶ奴はいない。

 それを改めて実感できた。

 すっと、下から伸びてきたあかねの手が俺の頭に乗せられる。

 

「良くできました」

 

「子供扱いすんな」

 

 そう言いつつも撫でられる感触が案外心地よくて、俺は黙ってそれを受け入れる。

 

「でも良かった。最近のアクアくんは、なんか仕事頑張りすぎてて心配してたんだ」

 

 言われて思い返してみると、ここ最近は映画の撮影や編集が終わってからすぐ番宣やルビーとの兄妹デュオの練習、苺プロの業務計画の見直しなど仕事を詰め込んでいて、折角入った大学にもあまり通えない状況が続いていた。

 

 周りからはそれとなく休むように言われていたが、俺自身が早く上に行きたいからと無理しすぎていた気もする。

 もしかするとあかねが今日俺を呼び出したのもそれが関係していたのかもしれない。

 

 折角のオフだから。と珍しく強い言い方で誘ってきたのは、こうやって俺を無理にでも休ませるつもりだったのか。

 

「スゴい偶然に感謝だね」

 

「……ああ。でも、偶然じゃなさそうだ」

 

 同じ分野の仕事をしていたり、仕事の少ない状況ならいざ知らず、なんだかんだ忙しく分野も違う大勢の連中に会うのは明らかに異常だ。それもたった一日の間に。

 

「え? やっぱりドッキリ?」

 

「じゃなくて」

 

 苦笑しながら窓の外に目を向ける。

 タワマンの高層階ということもあって、寝る時以外はカーテンを閉めず、開けたままになっている窓の外には絶景と呼ぶに相応しい夜景が広がっていた。

 そして夜空には、大きな月が俺たちを見守るように輝いていた。

 

「月の導きって奴かな」

 

 今日、俺が色々な人に会ったのはきっと、小生意気でお節介な神の導きに違いない。

 いったいどういうつもりなのかは知らないが、おかげで初心を思い出せた。

 今度会ったら、礼代わりにパフェでも奢ってやろう。

 

「……アクアくん」

 

 そんなことを考えていた俺に妙に真剣な声が掛かる。

 

「ん?」

 

「かなちゃんも言ってたけど、中二病は早めに卒業した方がいいよ?」

 

「もう寝ろ」

 

 あかねの手を離して、代わりに俺があかねの髪を撫でる。

 

「きゃー」

 

 やや強引な撫で方に、あかねは悲鳴を上げつつも、嬉しそうに笑っていた。

 そんなやりとりをしばらくやっていると、とうとうあかねの眠気も限界に来たらしく、眠りに落ちてしまった。

 その姿を見ながら俺もまた穏やかな眠気に襲われる。

 

 こんなところで寝るわけにはいかない。

 俺もあかねも明日は仕事だ。

 ちゃんとあかねをベッドに運んで、俺だって着替えとシャワーを済ませないと。

 理性の一部がそんなことを考えていたけど、この心地よさからは逃れられそうにない。

 

 まあでも、偶にはこんな日があっても良いだろう。

 

 幸せな気持ちと温かさに包まれたまま、ゆっくりと夢の中に落ちていく。

 

 完全に意識が消える前に、ふと願う。

 明日もまた、この穏やかで当たり前の日常が続きますように。

 

 誰に祈ったのかは自分でも分からなかったけど、数十億にも及ぶLEDの光にも、月明かりにも負けずに輝く一番星が応えてくれたような気がした。




これで完結となります
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