【完結】推しの子if ~あかねちゃんと一緒にアクアを救おうルート~   作:日ノ川

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レベルアップ編
第12話 B小町推し化計画


「あかねちゃんが強すぎて勝てない!」

 

 事務所前を張っていたマスコミが完全にいなくなり、久しぶりにB小町全員が集まって早々、相談があるとルビーが話を切り出した。

 妙に真剣な顔つきで相談と言われたので、なにを言いだすのかと、内心身構えていただけに、肩すかしを食らってしまった。

 

「勝てないってなに? あんた演劇に興味でもあったの?」

 

 私同様に身構えていたのだろう、かなちゃんも呆れた息と共に言う。

 

「まあ、ちょっとはあるけど。それは今関係なくて、おにいちゃんとのこと!」

 

 アクたんのことが話に挙がった途端、つまらなそうに頬杖を突いていた、かなちゃんの目の色が変わった。

 

「アクアの?」

 

「うん。今日もあかねちゃんと出かけるって外行っちゃったんだよ。ここのところ毎日」

 

「毎日!?」

 

「そう。ミヤコさんも取材されたら困るからあんまり外出るなって言ってた癖に何も言わないし」

 

 隣の部屋で仕事をしてるだろう社長に聞こえないように、ルビーは声を落とした。

 

「まぁ、もう外にマスコミの人もいないしねぇ。そっちは大丈夫だと思うけど」

 

 しかし、毎日会うのは確かに妙だ。

 あかねとアクたんはあくまでビジネス上の付き合い。

 あかねが本気になっているのはなんとなく分かっていたが、アクたんの方は内心が読みづらいので何とも言えない。

 

「毎日……」

 

 虚ろな目で呟くかなちゃん。

 かなちゃんはアクたんに好意を持っている。

 もっと言えば惚れている。

 

 聞けば、私と同じくアクたんのスカウトでB小町に入ったらしいが、考えてみれば元々アイドル志望だった私と異なり、子供の頃からずっと役者だったかなちゃんが、すんなりアイドルになったのはおかしな話だ。

 きっとかなちゃんは、アクたんの為にアイドルをしている。

 それ自体には、特に思うことは無い。

 モチベーションは人それぞれだ。

 

 しかし、アイドルの仕事そのものに思い入れが無いからこそ、かなちゃんのやる気はアクたんとの関係性によって浮き沈みする。

 浮いている時は信じられないほど高いパフォーマンスを見せるが、沈んでいる時はその逆らしい。これはよろしくない。

 

「きっとアレだよ! アリバイ作り。あかねたちこの間まで、東ブレの舞台で急がしくて、インスタの投稿とかぜんぜんしてなかったし」

 

 宮崎旅行で色々写真を撮ったようだが、直後あの事件が起こったこともあり、そちらの写真はお蔵入りにしたらしいので、新しい写真を撮りに行くこと自体は不思議は無いはずだ。

 

「……そう、かな。そうよね。きっとそう!」

 

 自分に言い聞かせているように聞こえなくもないが、かなちゃんもどうにか元気を取り戻した。

 ほっと、胸をなで下ろしたのもつかの間、ルビーが冷や水を差してくる。

 

「でも、毎日だよ! おにいちゃん結構面倒くさがりだし、アリバイ作りのために毎日出かけたりしないって!」

 

(ルビー! 私もそう思ってたけどぉ!)

 

「そうよね。アイツそんなマメな奴じゃないし」

 

「それにこの間なんて、部屋に呼んだんだよ! 途中から私のことも追い出して!」

 

「……私、アイツの部屋なんか行ったことない」

 

(もうやめてー!)

 

 声にならない悲鳴は、もちろん二人には届かない。

 これはさらに落ち込んでしまうかと、恐る恐る様子を窺うとかなちゃんは、俯いたまま深いため息を吐いた後、勢いをつけて顔を持ち上げた。

 そうして正面を向いた時には(少なくとも表面上は)落ち着きを取り戻していた。

 

「で? それが何よ。アンタ黒川あかねに懐いてたじゃない。お姉ちゃんとか言っちゃって。二人が仲良いなら結構なことでしょ」

 

 流石芸歴が長いだけあって、かなちゃんのこういう切り替えの早さは目を見張るものがある。

 

 だが、それは本心を隠すのが巧いというだけなので、逆に言えば不満を誰にも言えずにため込んでしまうという短所にも繋がっている、だからこそ何かの拍子でいつか爆発しそうで心配だ。

 しかし、それ以上の爆弾が直後、ルビーの口から投下されることになった。

 

「ちょっと前まではそうだったけど、今は違うよ! 私、おにいちゃんのことが大好きなの。だから絶対、誰にも渡したくない!」

 

「「ブー!」」

 

 私とかなちゃんが同時に吹き出す。

 

「ちょ! アンタ、本気で言ってんの?!」

 

「いやいや、それあれだよね? 大事なお兄ちゃんを取られるのがイヤ的な奴だよね」

 

 一縷の望みを託して確認するが、残念ながらルビーは真顔のまま首を横に振った。

 

「違うよ、異性として。私だって流石に兄妹が結婚出来ないことは知ってるからね。結婚とかはしないけど、ずっと一緒に暮らすの。生涯独身とかアイドルっぽくて良くない?」

 

「双子の兄妹で一生一緒とか。爛れっぷりがアイドルのソレじゃないよぉ」

 

「そうよ! 第一、アンタ初恋の先生が居るとか言ってたじゃない! その人に見つけてもらうためにアイドルやってるとかなんとか」

 

「え? なにそれ。初耳」

 

 三人グループの内、二人だけの秘密があることにちょっとだけ悲しい気持ちになるが、今はそれどころではない。

 まさかルビーもアイドルそのものに憧れてではなく、誰かの為にアイドルをしているタイプだったとは。

 だが、それだと確かに急にアクたんに惚れたのは解せない。

 

「そうそれ! そのせんせが実はアクアだったの」

 

 瞳を輝かせながら語るルビーの話を纏めるとこうだ。

 ルビーは子供の頃、ショックなことがあって一時期引きこもり同然になっていたことがあったらしい。

 そんな時に出会った先生とやらにメールで励ましてもらい、アイドルになったら推してくれるという言葉を信じて、外に出られるようになり、それからはアイドルを目指して、ここまでやってきた。

 最近になってその先生の正体が実は、引きこもったルビーを心配したアクたんが、メールを使ってなりすましていたのだと判明したらしい。

 

(自分を救ってくれた初恋の王子様が、すぐ近くにいた。しかも相手はあのアクたん。ぶっきらぼうで愛想もないけど、実は情に厚くて優しい。なにより顔が良い! これは十六歳の女の子には劇薬過ぎる)

 

 加えて血の繋がった双子の兄という背徳感も、レディコミチックでむしろプラスに働きかねない。

 ルビーが本気になってしまうのも無理はない。

 

(これは今説得しても無駄というか、逆に燃え上がっちゃうな)

 

 かなちゃんにアイコンタクトを送ると、向こうも私の考えを察して、小さく頷いた。

 ルビーはともかく、アクたんが(いくらシスコンといえど)血の繋がった妹を相手に本気になるとは考えづらい。

 時間を置けば、上手いこと諦めさせてくれるだろう。

 

 というより、ここ最近あかねと頻繁に出かけていること自体、二人の仲の良さをアピールしてルビーを諦めさせようとしているのかもしれない。

 ならば、私たちに出来るのは静観しつつ、配信やライブなどの公の場で迂闊な発言をしないように注意していくことだ。

 

「そ、それで。ライバルとしてあかねが強すぎるって言ってたんだぁ」

 

「そうだよ。あかねちゃんは顔はもちろんスタイルも良くて、性格も優しい。同じ役者同士でおにいちゃんと話も合うだろうし、ついでにお料理も得意らしくて頭も良いんだよ! なんなの、このハイスペック。私が勝ち目あるのなんて、顔の良さだけだよ!」

 

「ルビーは顔の良さに、絶対の自信持ってるねぇ」

 

 B小町の中、いや現在活動しているアイドルの中でもトップクラスで顔が良いのは認めよう。

 アクたんが面食いなのは周知の事実であることも含め、それも大きな武器には違いないが……

 他にルビーがあかね相手に勝ってるものと言えば初対面の相手にも物怖じしない度胸を始めコミュ力の高さだろうか。

 

「顔つってもアンタら双子じゃない」

 

「うぅ。わかってるよぉ……だからこそ、私はそれ以外の部分で勝負しないといけないの」

 

「……ようするに、ルビーはどうやったらアクたんを落とせるか、私たちに相談したいってこと?」

 

「ううん。実はもうどうすれば良いかは考えてあるの。二人にはそれを手伝ってもらいたくて」

 

「とりあえず言ってみなさいよ」

 

 話はそれから。と言うように続きを促す。

 かなちゃんもアクたんがどうしてあかねと頻繁に出かけているのか分かって、安心したようで本当に落ち着きを取り戻したようだ。

 もちろん、それが事実である保証はないが、こういうのは本人が納得することが重要なのだ。

 

「おにいちゃんをB小町推しにさせるの」

 

「推しって。大分推されてない? JIFの時なんて、箱推し気取りで全員分のサイリウム振ってたわよ。それをアンタ一人にしたいってこと? それは、ちょっと」

 

 自分で言いながら、かなちゃんはまたも落ち込んでいく。

 うーん。本当に浮き沈みの激しい子だ。

 そんなかなちゃんの様子に気付いているのかどうか、ルビーは明るく手を横に振って否定した。

 

「違う違う。さっきも言ったでしょ。私一人じゃあかねちゃんに勝てない。だから、先ずは三人で勝とうって話。だいたい推してるっていうけど、おにいちゃんぜんぜん推し活してないよ。部屋にポスターも張ってないし、グッズも飾ってない。ライブにもあんまり来ないし、来ても握手会とかチェキとかには並ばないで帰るしー」

 

「並ばれても困るけどねぇ」

 

 互いどんな顔をすれば良いのかわからない。

 

「でも推し活ってそういうことでしょ? 今はまだ、妹と知り合いが居るから応援してる程度だけど、それを本物にしてやりたいの。私の経験上ファンには二種類いる。一つは純粋にアイドルとして応援してくれる人。そしてもう一つは、出来るなら結婚したいと本気で思って恋する人。そしておにいちゃんは後者!」

 

(まあ、確かにアイにはかなりガチっぽかったけど)

 

 アクたんがアイドルにガチ恋しているところは想像できないが、少なくともあかねを意識し始めたのは、彼女がアイの真似をしてからだ。

 それを考えるとルビーの言っていることにも一理あるのかもしれない。

 もっとも、それでもアクたんがルビーに本気で恋愛感情を向けるとは思えないが、これは使える。

 

「まぁ目標があるのは良いことかもねぇ。アクたんをB小町推しにさせる。で、そっから先は各人の自由ってことでどう?」

 

 チラリと、かなちゃんに視線を送る。

 

「そ、そうね! アイツがガチオタになって応援しているところ見たら、黒川あかねだって幻滅するでしょうし、そしたら自分から離れていくでしょ」

 

「あ。それは良いかも。正直に言って私だって一度は姉と呼び慕ったあかねちゃんから、おにいちゃんを奪うのは気が引けるけど、向こうから離れた後なら問題ないよね?」

 

(あかねがそれくらいでアクたんから離れるかなぁ?)

 

「そこで傷心になったアイツを、私が慰めてやると」

 

「そうそう。ん? 今、先輩私がって言わなかった?」

 

「まーまー! でも実際アクたんを落とすってのも難しいよねぇ。今私たちB小町としての活動は休止中だし」

 

 犯人がダンマリを決め込んでいるため、ニュースとして流すネタはなくなったようだが、現在の自分たちの主戦場であるB小町チャンネルなどには未だに、事件に関して説明を求める声が届いている。

 いかにも裏がありそうな内容に加え、過去のアイの事件とも繋がるかもしれないのだ。

 陰謀論好きの人たちにとっては、どこからでも良いから情報を引き出したくて溜まらないのだろう。

 B小町を継いで活動している上、SNSを通してコンタクトも取りやすい私たちは格好の的ということだ。

 

「だからこそだよ。ミヤコさんも言ってたでしょ、機を見計らって新曲MVをお披露目するって。それまでソロで活動ってことだけど、単にソロ活動するんじゃなくて、ここで一人一人レベルアップを計る。ついでにおにいちゃんたちに内緒で三人での連携も高めておけば。ほら、あれ。なんだっけ、なんとか効果」

 

「相乗効果?」

 

「そうソレ! それですっごいパフォーマンスができるようになる。それを見たおにいちゃんは感動して、B小町推しになるってわけ」

 

 ルビーの口から語られたのは、思った以上にまともな方法だった。

 

 一時的なバズは運でもできるが、定着化させるのは簡単ではない。

 方法は色々あるが、どんなやり方をするにしろ、実力が伴っていなければ意味がない。

 

 今のうちに個々人で出来ることを増やしておけば、チャンネルでのネタもでき、外部とのコラボもしやすくなる。

 そうして得た力を、B小町の活動解禁に併せて一気にバズらせれば、ネットアイドルとしての地位を確立させられる。

 さながら。

 

「三つの力を一つにする。ゲッターロボみたいだね!」

 

 自信満々に言い放つが、二人はシラッとしたまま首を傾げるだけ。

 

「は? なにそれ。アンタ、ロボット好きだったの?」

 

「え? いや、ほら。ちょっと前に流行ってたでしょ、ネットミームにもなったし」

 

「あー、私も良く知らないけど、昔のアニメだっけ。なんか替え歌が流行ってたような」

 

「……あのさぁ。私たち一応ネットメインで活動してるグループなんだから、流行り廃りくらいの情報は入れておいてくれないかなぁ」

 

 お気楽な二人に苦言を呈しつつも、とりあえず胸をなで下ろす。

 これでしばらくの間は、アクたんよりB小町の活動に全力を注いてくれるはず。

 

 後は、いつか来るであろう、アクたんと誰かか付き合うことになったあとに備える時間も出来る。

 

 誰が選ばれて、誰が選ばれなかったとしても、三人とも私にとっては大切な友達だ。

 悲しんでいる友達がいたら、なんとかしたいと思うのは、当然のことなのだから。




ここからしばらくはB小町の面々がそれぞれレベルアップを計るべく個人活動する話が続きます
最初はかなちゃんの予定です
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