【完結】推しの子if ~あかねちゃんと一緒にアクアを救おうルート~   作:日ノ川

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あかねがMEMの名前を呼ぶ際、なんて呼ぶのかちょっと悩みました
YouTubeのMEMちょのチャンネルだとMEMちょ呼びなんですけど、あかねが他者を呼び捨てにするイメージがあんまりなかったので原作を読み返したんですが殆ど名前呼んでないんですよね
今ガチの時に一度だけメムちゃん呼びをしていたのでここではそれに合わせました


第16話 MEMちょの場合・後編

「ふーん。新企画ねぇ」

 

 ノブに釘を指すつもりで始まった宅飲みだが、いきなり言うのもなんだと、とりあえず雑談から入ることになった。

 といってもあかねとゆきは先の件で不機嫌になったままであり、アクたんとケンゴはそれを察して触らぬ神に祟りなしとばかりに黙り込んでしまったため、私が口火を切るしかなかった。

 

 唯一、当事者でありながら気づいていないノブだけが、真剣に考え込む様子を見て毒気が抜かれたのか、ゆきも一つ苦笑してから話に加わった。

 

「私とかは基本モデルしかしてないからわからないけど、ユーチューバーも大変だよね。そうやって色々考えないといけないんだ?」

 

「いやぁ。一つのことだけずっとやる配信者の方が多いけどね。私は元から色々なことに手を出して登録者増やしてるタイプだから」

 

 正直、その登録者も最近頭打ちになりつつある。

 それもあって、目新しい企画が必要なのだ。

 

「考えてみると、今ガチも似たようなところあったよな。みんなでいろんな企画にチャレンジする感じとか」

 

 ゆきが動いたのを見て、ケンゴもこれ幸いと参加する。

 

 確かに今ガチは、恋愛リアリティショーではあるが、基本コンセプトは芸能人が放課後集まって様々な企画やイベントをこなしながら仲を深めていくというものだった。

 最終目標が恋愛なだけで、やっていること自体は企画ものユーチューバーのソレと大差ない。

 

 もっとも今ガチが受けたのは、その恋愛模様に加え、多種多様な才能が、協力し時にぶつかり合うことで起こる化学反応の部分が大きいため、私一人でやってもあまり意味は無いのだが。

 

「……だったら。このメンバーで何かやってみるか?」

 

 ずっと黙っていたアクたんの呟きに全員が目を見張る。

 

「今ガチの延長戦ってこと? でも、契約的に無理じゃないかな?」

 

 あかねの言葉に確かにと皆頷く中、ノブだけが同意する。

 

「いや。今ガチの名前出さなければ、別に許可とかいらなくね? そもそも俺たちが今でもこうやって仲良くやってんのに番組はもう関係ねーんだし、その様子を撮って配信するのは別に問題無いっしょ」

 

「いやいや。絶対そういう意図でやってるって分かるじゃん。そりゃ契約の穴を突こうと思えばいくらでも出来るけど、それで鏑木さんに睨まれたらこの先キツいよー」

 

 そう。契約がどうであれ、問題は相手がそれをどう取るかだ。

 ただでさえ、インターネットによる動画配信の台頭により、テレビ業界の地位が凋落して多くのプロデューサーやディレクター達が頭を抱えて苦しんでいる中、番組の名前を出さずとも匂わせて人気を得るような真似をすれば、よく思われないのは間違いない。

 当然そんな相手をもう仕事で使おうとは思わないだろう。

 

 鏑木Pは私だけでなく、B小町にも目を掛けてくれているプロデューサー。

 不義理を働くわけにはいかない。

 私たち以上に、様々な面で世話になっているアクたんがそれに気づかないはずはないと思うが。

 

「だからさ、不義理にならないように、ちゃんとプロデューサーに話を通して企画としてやったらどうかって話。今ガチも俺たちの時が人気のトップで今は低迷してるらしいし、テコ入れはあっちとしても喜ぶんじゃないか?」

 

「おー。それ良い! 今ガチ同窓会みたいな感じでみんなで集まってなんかやる感じでさ」

 

「良いんじゃない? 毎回来れるかは分からんけど、やるなら俺も参加するよ」

 

「みんなが言うならもちろん私も参加するけど、それならちゃんと番組と連動しようよ。今シーズンの今ガチをみんなで見て見所紹介するとか、カップルになった人たちを呼んで先輩として後輩たちの話聞くとか」

 

「あの、私が休んでた期間にみんながやってた企画とか、改めて参加したい、かも」

 

 それぞれやりたいことを語り出し、話が進んでいく中、アクたんが私に目を向ける。

 

「だってさ。どうする? MEM」

 

「え? 私?」

 

 話の取っかかりが私の新企画だったのは間違いないが、そこまで話が大きくなってしまったらそれはもう私のチャンネルとは無関係の話だ。

 仮に鏑木Pが了承してくれたとしても、新しく専用のチャンネルを開くことになる以上、私が中心になって動く必要は無い。

 むしろそれは言い出したアクたんがやるべきことではないのか。

 

「だって、このメンツでMC出来るのはMEMしかいねーだろ」

 

 心の声に応えるかのごとく、アクたんは皆に同意を求めるように首を振った。

 

「そうだねー。私仕切るのとか得意じゃないし」

 

「そーそー。つーか今日の集まりもMEMちょ主催だしな」

 

「だな。あ、楽曲提供は俺がするって言っといてよ」

 

「抜け目ねーな」

 

 みんなが好き勝手にあれこれ言う中、おずおずとあかねが手を挙げた。

 

「私も、メムちゃんが進行してくれるなら、安心できると思う」

 

「あかね……。うぅ! 分かった、分かりました! 私が企画書作って鏑木Pに売り込んでみますぅ!」

 

 諦めと奮起を同時に背負って言い放つと、皆が沸き立った。

 

「でもダメだった時は普通に私のチャンネルにゲストとして来てね? 全員一緒じゃなければ問題にはならないと思うからさ」

 

 最後にオチを付けるのは忘れずに笑い掛けると、みんなも声を上げて笑ってくれた。

 

 

   ※

 

 

「まぁったく。あの二人は」

 

 企画書の内容を考えてくると言って一人ベランダに出た私が室内を眺めると、仲睦まじく笑い合っているゆきとノブの姿があった。

 そこには気まずさなど欠片も見あたらない。

 しかし、案外あんなものかもしれない。

 

 そもそも二人はケンカをしていたわけではない。

 ただ少し、互いの考えが分からず、すれ違ってしまっただけ。

 それも、こうして集まっておもしろおかしく話していれば忘れてしまう些細なすれ違いだ。

 

 気を揉んでいた自分がバカみたいに思えるが、みんなでまた集まるキッカケが出来たのなら悪くない。

 そんな風に自分を納得させて、ベランダの縁に体を預け、改めて外に目を向ける。

 

 MCというのは考えても見なかったが、元々B小町チャンネルでは、二人が配信慣れしていないこともあって私が進行役を行うことが多かったし、成功すればB小町レベルアップ計画の成果としては申し分ない。

 しかし。

 

「考えはまとまったか?」

 

「……アクたん」

 

 振り返ると一人リビングを抜け出し、ベランダに出てくるアクたんの姿があった。

 相変わらず感情を表に出さない涼しげな顔のまま、私の隣に並ぶ。

 一緒に夜景を眺め、少しの間無言の時間が過ぎてから問いかける。

 

「もしかして、ルビーかかなちゃんに何か聞いた?」

 

 先の提案は、私が新企画のアイデアについて、もっと言えばB小町の一員として、レベルアップするために悩んでいることを誰かに聞いてのものではないか。

 アクたんが一人だけ遅れてきたのも事務所でその話を聞いていたのかもしれない。と思ったのだ。

 

「あいつらからは別に何も」

 

「なら、他の人から聞いたんだ?」

 

 他に私の悩みに気付く相手として思いつくのは昨夜やり取りをしたアネモネくらいだが、まさかアネモネがアクたんに直接連絡することもないだろうが、アネモネが社長に連絡して、そこからアクたんに話が行った可能性はある。

 

「迷惑だったか?」

 

 さらりと話を変えられる。

 情報源を開かすつもりはないらしい。

 

「ううん。でも、なんていうか結局私って一人だとなんも出来ないんだなぁって実感しちゃって」

 

「人気ユーチューバーが何言ってんだよ」

 

「それだって人の真似って言うか、後追い企画ばっかりで、あとは運が良かっただけだからねぇ。今回もみんなが協力してくれるから企画として成立する。私がMCで番組やるから人を集めるなんて言っても多分、ほとんど参加してくれないよ」

 

 付き合いのある友人たちなら、一度か二度くらいは参加してくれるだろうが、毎回人を集めるのは無理だ。

 私個人にも、そして現在のB小町にもそこまでのネームバリューはない。

 

「そんなことは無いと思うけど……。まあ、お前がそう思うなら、この企画を成功させて実績を積めば良いだろ。MCの出来るアイドルってのはなかなか貴重だからな。上手く行けば次の仕事にも繋がる」

 

「それは分かってるよ。分かってるけどさ」

 

 確かにアイドルは基本的に番組に呼ばれる側であり、自分たちで番組を進行することは稀だ。

 アイドル側でそうしたこともできるのは、大きな武器になる。

 だが、何と言えばいいのだろう。

 

 それも含めて私が持っている武器は全て、唯一無二のものではなく、芸能界に入ってくる才能のある者なら、努力して手に入れられるようなものばかり。

 ルビーの見る者の心を掴んで離さないあの瞳や、かなちゃんの演技力に裏付けされた全身を使って周囲に自分を見ろと訴えてくるような輝き。

 ああした選ばれた者だけが持っている才能……俗に言うカリスマというものが、私には無い。

 

 だから今回の新企画でそれが手に入れられればと考えていたのだが、結局は人の力を借りるいつもの二番煎じの企画。

 これでは、今は良くてもいずれ二人に置いて行かれてしまう。

 それが怖い。

 

「──俺が世話になっている映画監督にさ」

 

 突如、アクたんが語り出す。

 

「え?」

 

「昔言われたことがある。お前は凄い演技よりぴったりの演技が出来る役者になれって」

 

「ぴったりの演技?」

 

「そう。言語化出来ない意図までくみ取って演出家の望み通りの演技をする役者。正直、最初に聞いた時は、何言ってんだこのおっさんって思ったよ。せっかく役者やるなら凄い演技が出来る役者の方が良いに決まってるってな。それこそあかねとか有馬、姫川さんみたいな」

 

 みんなで見に行った東京ブレイドの舞台を思い出す。

 上手い役者ばかりだったが、確かに際だって記憶に残っているのは、アクたんが挙げた三人だ。

 個人的にはその三人に加えて、最後に見せたアクたんの演技も凄いと思ったが本人的には納得がいっていないようだ。

 アクたんは続ける。

 

「でも、紛いなりにも監督の助手みたいなことやって作品に携わっていると納得できるんだよな。芸能界は才能の坩堝。凄い演技をする奴は案外居るもんだ。でもぴったりの演技をする奴は本当に貴重だ。そして演出する側としてはそっちの方がありがたい」

 

「どうして? どうせなら凄い演技して貰った方がよくない?」

 

「一つは、そういう奴らはたいてい制御が難しい」

 

「あー」

 

 かなちゃんとあかねとルビーの顔が浮かぶ。

 三人とも得意分野や気分が乗っている時は凄まじいポテンシャルを発揮するが、それ以外の部分ではかなり波があり、特に苦手分野に至っては良くて凡人か悪いとそれ以下だ。

 

「もう一つは、個人的な気持ちっつーか。凄い演技ってのは演出家の頭の中にあるもの以上を見せてくることだ」

 

「あ。知っている。一流と超一流のシェフの違いみたいな奴」

 

 何かのマンガの切り抜きをネットで見た。

 食べたいと思っている物を完璧に出すのが一流。

 しかし超一流のシェフは全く想定外のものを出しながらも、それこそが貴方が本当に食べたかった物なのだと言い当てるという。

 

「料理だったら、それで万々歳なんだけど、演出する側としてはちょっと違う。頭の中にある正解以上のものが出されるんだ。嬉しい反面自分の正解が否定されたみたいで悔しくなる。つーかちょっとムカつく」

 

「ええ? あー、でも、確かにそう言われてみれば気持ちは分からなくもない、かも?」

 

 私だって自分が考え抜いてひりだした企画以上のものをさも当然のように出されたら、自分が必死になった時間が無駄だったように感じてしまうかもしれない。

 

「本当に才能ある監督とかなら、それも計算に入れて喜べるのかもしれないけど、俺みたいな凡人だと嫉妬が混ざるからな。そして映像畑にいるのは凡人の方が圧倒的に多い。だから、ぴったりな演技をしてくれる役者の方が貴重でありがたいって話」

 

「アクたんはそういう役者さんを目指してるんだ」

 

「俺は──どうだろうな。この先ずっと役者続けられるか分かんないし」

 

 続けるか、ではなく続けられるか。ちょっとした言い回しの違いだが妙に気になった。

 まるで自分の意志とは関係なく役者を辞めることになるような……

 

「別にこれは役者に限った話じゃない。アイドルだって同じことだと思うんだよな。B小町で言えば、有馬とルビーはアイドルとしては安定感がなさ過ぎる」

 

「あはは。まあ、確かに」

 

 その二人のモチベーションの大部分を担っているアクたんにだけは言われたくない台詞だ。

 元よりアイドルという仕事に憧れを持っているルビーはともかく、かなちゃんは完全にアクたんの為だけにアイドルをしている節があるので、なおさら。

 でもそうなると私は。

 思考が纏まる前に、アクたんが私を指さしてきっぱりと言った。

 

「その点、MEMならなれるんじゃないか? 凄いアイドルじゃなくて、ぴったしなアイドルに」

 

 その言葉は、私の胸にストンと落ちた。

 私が持っているカードは確かに、努力すれば誰でも得られる物ばかり。

 だが、それを全て持っているアイドルとなれば、その数はとても少ない。

 才能がもっとも重要なアイドルとして選ばれた者は、程度の差こそあれ、先ずはアイドルとしての道を邁進する。

 他の技能を手に入れるとしても自分の限界が見えてからか、あるいは仕事の幅が広がって新しい分野に手を染める必要に迫られた時だ。

 

 しかし、私は一度アイドルの道を諦めて他の分野に行ったからこそ、様々なことが出来るようになった状態からアイドルとしてデビューした。

 アクたんはそれこそが私だけの武器だと教えようと、こんな話をしたのだろう。

 

(まったく。何が凡人だか)

 

 役者としてはどうか知らないが、私が言語化できなかったことをさも当然のように言ってのけるアクたんは、少なくともモチベーターとしては超一流に違いない。

 こんなものを間近で浴びていたのなら、確かにかなちゃんやあかね、ルビーがああなってしまうのも納得だ。

 

「……ホント、アクたんってば。実は役者よりホストの方が天職なんじゃないの? そんな調子の良いことばっかしてると、そのうち酷い目見るよぉ?」

 

「それ、ミヤコさんにも言われたな。……ホストとは言ってなかったけど」

 

「だろうね」

 

「でも、嘘は吐いてない」

 

「そういうとこだよぉ! 全くもー」

 

 手持ちぶさただった両手を組んで、グッと真上に伸ばす。

 こうすれば、腕が影になってアクたんから私の顔は見えないだろう。

 その間に急いで唇を閉め直し、表情を戻して改めてからアクたんを向き直る。

 

「ま。とりあえず乗せられといてあげますか。今の私にぴったしの言葉だったから」

 

「そりゃなにより」

 

 互いに一つ笑い合う。

 その直後。

 

「おーい。いつまで二人で話してんだ」

 

 ガラリと窓が開き、ノブが顔を覗かせた。

 横にはゆきも一緒だ。

 

「そうだよー。あかねがさっきから嫉妬してるよ? 二人きりで何話してるんだろーって」

 

「違っ。嫉妬なんてして無いよ! 心配、心配してただけ。私そんな嫉妬深くないし」

 

「え? でもさっき浮気したら殺すって」

 

「あれは別の人を想定してたから!」

 

 軽口を叩きあって笑う仲間の姿に、私たちはもう一度顔を合わせて破顔する。

 

「あはは。じゃ、戻りますか?」

 

「そうだな。あかねに殺される前に」

 

「もー。アクアくんの意地悪!」

 

 先を歩くアクたんを迎え入れた直後、体当たりするように身を寄せるあかねの姿は、なんと言えばいいのか。

 とても自然体だった。

 

「あ」

 

 思わず息を吐く。

 もう一つの疑問の答えが見つかった気がした。

 私が悩んでいることをアクたんがどうやって知ったのか。

 かなちゃん曰く、あかねは与えられた役への鋭い洞察力と観察力を持って、徹底的に調べ上げることで完璧な役作りを行うタイプらしい。

 

 もしかするとあかねは、ゆきからのラインに気づくのが遅れたことや、何をしていたか聞かれて誤魔化したことなどから、私が何かに悩んでいると推察したのではないか。

 それをあかねはアクたんに伝えて何とか助けになって欲しいと言ったことで、アクたんが事務所で社長なりに話を聞いて動いた。

 

 今ガチの時もそうだったが、基本的に自分の中にため込むばかりで、誰かに頼ろうとしないあかねが、あっさりアクたんを頼って、アクたんもそれを受け入れた。

 これはやはり。

 

「かなちゃんたちには言えないなぁ」

 

 並んで室内に入っていくお似合いの二人を見ながら呟いた声は、誰に届くこともなく窓の外に置き去りとなった。

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