【完結】推しの子if ~あかねちゃんと一緒にアクアを救おうルート~ 作:日ノ川
「あ、そやルビー、あれ見たでー。あのMV」
「私も」
いつものようにみなみちゃん、フリルちゃんと三人仲良く昼食を取り始めて早々にみなみちゃんが口を開き、フリルちゃんもそれに乗っかった。
「あー、うん」
二人が言っているのは、宮崎で撮影した二本のMVの内、ヒムラさんが作ってくれた新曲『POP IN 2』の方だ。
この話題はあまり触れたくなかったので曖昧な返事をすると、みなみちゃんは不思議そうに首を傾げた。
「どうしたん? メッチャ良かったわぁ。再生回数二千万超えてもまだ増えてるんやろ? スゴいやん」
「そうそう。新人アイドルグループにしてはかなり異例の再生数だって話題になってたよ。それに合わせてB小町全員、別分野で動いてたんでしょ?」
確かに、今回のバズは事前の個別活動で人気を獲得していたのも大きな要因だろう。
先輩は有名な映画監督からのオファーが正式に入り、MEMちょはアクアとあかねちゃんも参加していた今ガチの同窓会チャンネルを新たに開設した。
そんな中、私だけはこれといった活躍もできないまま。B小町レベルアップ計画を提案したのは私自身だというのに……
いや、一つだけ、B小町と関係ない仕事があることはあるのだが。
「……ちなみに二人は、深ワンは見てる?」
私の問いかけに、二人は一瞬視線を合わせてから同時に頷く。
深ワン──深掘れワンチャンは私とアクアがレギュラーとして出演するようになってからもう数回分放送されていた。
今までは怖くて感想を聞けずにいたが、せっかくの機会だと思い直し、意を決して続ける。
「ど、どうだった?」
「んー」
「ちなみにこれ、正直に言って良いやつ?」
みなみちゃんは困ったように眉を寄せ、フリルちゃんはしらっとした顔のまま、単刀直入に切り込んでくる。
「もちろんだよ! というか、正直に言わないでどうするの?」
「いやー、意外と多いんよ。自分から感想聞いといて、ちょっと厳しいこと言うと拗ねたり怒ったりする子」
「その時点で、どう思ってるか分かっちゃうんだけど。……でもきっぱり言って貰って大丈夫! というか言われないと気づけないもん」
「んー。まあ、ルビーなら大丈夫かな」
「せやね。良くも悪くも表裏なくて素直な子やし」
二人でこそこそ話し合っているが、声は丸聞こえだ。そのおかげで覚悟を決めることは出来た。
「それなら私から」
「よし来い!」
「と言っても別に悪い訳じゃないよ? リポーター初めてにしては上手く回せてると思う」
「せやなぁ。安定感あったわ」
「えへー。いっぱい練習したからね」
「でもキャラが薄い」
「薄い!?」
上げてから落とされ、ショックを受けているところに、みなみちゃんも神妙な顔で同意した。
「お兄さんが毒舌クールキャラとして確立しとるからなぁ。セットで見るとどうしてもルビーの印象が薄く見えてまうんよ」
「良いよね、アクアさんの良い感じに傷を抉るクールなツッコミ。自分に求められているキャラと反応が分かってるなぁって感じがする」
感慨深げに、うんうんと頷く。
前々から思っていたが、フリルちゃんはどうもおにいちゃんに甘いというか、気に入っている節がある。
それがどういう感情かは分からないが、とりあえず釘を刺しておこう。
「買いかぶりすぎだよ。おにいちゃんは素で人の心がないだけ。家でもいつもあんな感じだし」
「あはは。だから余計にやろな。お兄さんがすごく自然やから、ルビーのキャラにちょっと違和感あるんよ」
「違和感?」
「天然系で図太くグイグイくる系のキャラやっているのは分かるんだけど。頑張ってそういうキャラしてますって感じが伝わっちゃうのがね。あれって事務所のキャラ付け?」
「うん。というかみんなで話し合って決めた感じ。でも下手にキャラ付けすると嘘っぽくなるから、できるだけ普段の私と変わらないようにしようってなったんだけど……」
「あー、確かに。完全にキャラ作ってるっていうよりは、普段のルビーを誇張してる感じだよね」
「え。そう? 私のキャラクターって可愛くて頭が良くて、気遣いができるところって主張したんだけど却下されて。あれってバカで失礼で図太いキャラ設定なんだけど」
「……まあ、初対面相手に目の前でググってくる子やしなぁ」
「う! あの、もしかしてみなみちゃん。根に持ってる?」
「まさかー。おかげで友達になれたんやし」
「だよね!?」
「教室でいきなり胸のサイズ暴露された事なんて、ぜんぜん気にしてへんよ」
ニコニコとした笑顔はいつも通りだが、声が少しだけ低い。
「それ、気にしてる時の言い方じゃん!」
「ま。冗談はともかく、ルビーの持ち味はそういうことを嫌みなく自然にやれることだと思うんだけど、番組だと誇張しすぎてるせいでちょっと演技っぽく見えちゃうね」
「そうそう。うちはそもそも公表しとることやし、ホンマ気にしてないけど、演技っぽいのと併せて、人によってはちょっとむっとするかもしれんなぁ」
「どどどうしたらいいのかな!?」
「その辺は私たちが口出しして良い問題じゃないよ。事務所と相談したら?」
「責任とれへんしなぁ」
「そんなこと言わないでー。みんな今忙しくて、相談乗ってくれる人いないんだよ。私が思いついたって事にするから! お願い!」
両手を合わせて、深く頭を下げる。
このまま視聴者から嫌われてしまったら、最悪アクアだけ残して私だけクビになりかねない。
ただでさえB小町の中で一人だけ置いてきぼりを食らっているのに。これ以上離されたら、おにいちゃんを……せんせをB小町推しにさせるどころではなくなってしまう。
「うーん。まあ、そういうことなら、あくまでアドバイスっちゅーことで」
「そうね。とりあえず、みなみが言ったように、今のままだと視聴者からも失礼な奴って印象もたれるかもしれないから、愛され属性が欲しいよね」
「キャラクターの方向性としては悪くないと思うしなぁ。もうちょい何か付け足すのがええんやない?」
「とはいえ、生半可なキャラ付けじゃ、私の推しには届かないよ」
ふっふっふ。と不敵に笑いながら、何故かフリルちゃんが自慢顔で腕を組んだ。
「フリルはすっかりお兄さん推しやなぁ」
みなみちゃんから見てもやっぱりそうなんだ。と思った時には、反射的に動いていた。
「駄目だよ! おにいちゃんは私のなんだから!」
思った以上に声が大きくなってしまった。
それを受けて、フリルちゃんはキョトンとして何度か大きな目をしばたかせた。
しまった。
強く言い過ぎた。怒らせちゃったかも知れない。
あわあわと謝罪の言葉を探していると、フリルちゃんは私ではなく、みなみちゃんを見た。
「今の、良いんじゃない?」
「せやね」
「え? なにが」
「だから、キャラ設定。基本失礼だけど、お兄ちゃんにだけはアマアマなブラコンキャラ。まあ、キャラっていうか本気っぽいけど」
「うぅ」
その通りだがはっきり言われると恥ずかしい。
とりあえずフリルちゃんは怒ってないみたいで良かった。
「実際良いと思うよ? アイドルは基本恋愛というか異性を匂わすトークも厳禁だけど、何故かブラコンとかシスコンには寛容なところあるから」
「まあ、そのせいで、兄弟の話すると彼氏との話を誤魔化してるんやないかって疑われることもあるけど、ルビーの場合、お兄さんもタレントやし、本人がちゃんと肯定してくれれば証拠になるからなぁ。双子タレントで売っていくなら、仲良しアピールはありやと思うわ」
「そっかぁ。確かにそれなら演技じゃないし、上手くできるかも」
「演技やないって。前々からそれらしいところはあったけど、最近のルビーは隠さなくなってきたなぁ」
正確に言うと、以前は兄妹としての好意だけだったところに、男女としての恋愛感情が加わっているからなのだが、いくら友達相手とはいえ、禁断の兄妹恋愛をはっきりと口に出して言うのは憚られる。
「あ、一応言っておくけれど、私は別にアクアさんとお近づきになりたいとかは思ってないよ。センスが好みってだけ」
「そうなの?」
「変に仲良くなると純粋に番組楽しめなくなるし、推しとは一定の距離を保つのが一番だからね」
「そうなんだ」
良かった。
あかねちゃんに加えて、フリルちゃんまでライバルになったら、ますます私の勝ち目がなくなるところだった。と安堵して、胸をなでおろす。
そんな私の心を見透かしたかのように、フリルちゃんの目がギラリと光った。……気がした。
「うん。だから、キャラ設定の精度をあげるためにも、二人のエピソードとか色々聞かせて」
「え?」
「あー。うちもそれ興味あるわ。あのクールなお兄さんの子供時代とか。純粋で可愛かったんちゃうん?」
みなみちゃんに言われて思わずドキリとする。
当時はママ……アイの娘に生まれ変われたことに有頂天になっていたせいで、まさかアクアがせんせだなんて微塵も考えていなかった。
単に偶然兄妹になっただけのキモいガキ程度にしか思っていなかったので、あまりちゃんと見ていなかったのだ。
今になって思うと姿形は違う現世とはいえ、大好きなせんせの貴重な子供時代との思い出を堪能しなかったのは人生の損失に他ならない。
実際、最近になって、当時のアルバムなどを見返してみると、めちゃくちゃ可愛すぎて天使かと思ってしまったくらい。
だが、ここで言ってしまうとまたブラコン扱いされてしまうのでグッと堪える。
「いや、アクアは子供の時から基本あんな感じだよ。メッチャ大人びてて、気味悪い子供だった」
心の中でごめんね、おにいちゃんと謝りつつ、当時の気持ちを思い返しながら言う。
「それはそれで見てみたくはあるね。写真とか動画とかないの?」
「さっきからグイグイき過ぎじゃない?! フリルちゃん。適切な距離を保つんだよね?」
明らかにおにいちゃんの情報を欲しがっている様子に思わずつっこむと、フリルちゃんは静かに首を振りながら、私の両肩に手を置いた。
「ルビー」
「な、なに?」
ママとも違う、不思議な魅力を持った瞳に吸い込まれそうになる。
クラスメイトとして仲良くなって、プライベートでは意外とお茶目な一面も見てきたため忘れそうになっていたが、やっぱりトップタレントには凄まじい圧がある。
美少女と聞けば誰もがまず思い浮かべるマルチタレントの名は伊達ではない。
「それはそれ、これはこれ。適切な距離は保ちつつ、知らない情報は聞きたくなるのが、ファン心理というものよ」
「分かるけど! そんな澄んだ目で言わなくても」
ドキドキして損した。
唇を尖らせながら顔を背け、ふと思い立つ。
「だったら、フリルちゃんも教えてよ」
「私?」
「そうそう。フリルちゃんの子供時代ってあんまり知らないし」
「んー。確かにあんまり話さないかも。うちも姉妹そろって芸能人だから」
「あー、不知火ころもさんなぁ。そっちも興味あるわぁ。ほなら、二人とも平等に公開するゆうことで」
にこにこ笑いながら話を纏めるみなみちゃんに、今度は私とフリルちゃんが目線で合図し頷きあった。
「みなみ。一人だけ逃げようとしてもそうはいかないよ?」
「え?」
「そうそう。私たちは友達なんだから、三人平等にね」
「いやいや。うちの子供の頃なんてホント平凡で、なんも楽しくないから」
「いやいやいや。なに言ってるの? むしろ一番気になるなー。特にそのえちえちなお胸がいつから膨らんできたのかチェックしないと」
「言ってることがオッサンやん!」
私の視線から逃れるように、胸を両手で押さえて身を捩るが甘い。
既に意図を汲み取ったフリルちゃんが、先回りするようにみなみちゃんの前に移動していた。
「おおー、スゴい揺れ。眼福眼福」
「こっちにもオッサンがおった!」
ひぃ。と声にならない悲鳴を上げ逃げまどう様子を見ながら、思わず笑ってしまうが、内心では別のことを考えていた。
(良かった。これで、何とかなりそう)
例の事件もいい加減鎮静化したことで(裁判が始まればまた騒がしくなりそうだが)B小町として本格的に活動再開が決まったのはつい先日のこと。
あのMVはその第一歩だったのだ。
それが思いがけずバズってしまったことで、MEMちょがやる気を出し、大手ユーチューバーにコラボの打診を掛けまくった。
正直相手にしてもらえるとは思っていなかったが、二人が先んじて別分野で名を売り始めていたためなのか、思った以上にたくさんの人たちからOKを貰うことが出来た。
B小町はこれからきっと忙しくなる。
そんな中、それぞれのやり方でレベルアップを果たした二人と違って、私はせっかくミヤコさんにお願いして手に入れた仕事でも思うような結果が出せずに焦っていた。
焦っていたのは仕事のことだけでなく、二人も褒めてくれたあのMVも要因の一つだ。
たくさんの人に見てもらい、誰に見せても褒めてもらえる作品となったのは素直に嬉しい。
もちろん、バズったのはかな先輩とMEMちょの個人活動での宣伝に加え、MVを作ってくれたアネモネさんの技術や、ヒムラさんが提供してくれた曲の良さもあるのだろう。
しかし、実際にMVの感想として送られてくるのは普段と印象の異なる私のことばかりだった。
それが自分の実力なら誇れもするが、撮影のことは正直あまり覚えていない。
あの時は確か、せんせの遺体を見つけて、変な女の子からその犯人がママを殺した奴と同一人物で、更に実行犯とは別にもう一人黒幕が居ると聞かされたことで、ママだけじゃなくせんせまで喪ってしまった悲憤と絶望で頭が一杯になったまま撮影を行なった。
それが逆に功を奏したらしい。
問題は、何度やってもあの雰囲気を再現できないことだ。
このままでは、あのMVを見てファンになってくれた人たちをがっかりさせてしまう。
そう考えて、再現できないならせめて別の何かを手に入れようと藻掻いていたのだが、これで一応の目処は立った。
とはいえ。
(本当は、ああいう感じがいつでも出せれば一番良いんだけど)
アクアの前世がせんせであることを知り、真犯人も死んだ以上、あの時のような深い絶望や怒りを感じる理由もなくなってしまった。
なんとかあの時の気持ちを思い出せたら……
(そういえば、せんせと会う前は──)
「ルビー?」
「どうしたの?」
声をかけられ、思考を中断して顔を持ち上げる。
友人たちが心配そうに私を見つめていた。
「ううん。何でもない」
適当に誤魔化すが、二人は何か察しているのか心配そうな顔のままだ。
本当に良い友達だ。
二人だけじゃない。
アクアという世界一信頼している兄兼想い人に、大切な家族であるミヤコさん。
友達にして同じ夢を追いかけている仲間でもある、かな先輩とMEMちょ。
恋に関してはライバルであるあかねちゃんだってそう。
今の私の周りには良い人ばかりだ。
こんなに幸せなんだから、絶望や怒りを望んでは罰が当たる。
ママとは違うかもしれないが、私は私のやり方でアイドルとしての道を邁進しよう。
気持ちを新たに、再度誤魔化す意味も込めて、私は自分のスマホを取り出し、アクアとの思い出を語り始めた。
前世バレによって既に黒星を失っているので、この話のルビーは原作よりアイドルとしての成長が遅い状態です