【完結】推しの子if ~あかねちゃんと一緒にアクアを救おうルート~   作:日ノ川

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話数が増えてきて、今後も長くなりそうなので編分けを行うことにしました
それに伴い、プロットを練り直した結果、タイトルと内容に剥離が出てきそうだったので、別名としていた方を正式タイトルに変更しました
混乱させてしまったら申し訳ありません


第19話 ライブに向けて

 B小町チャンネルの撮影場所としてよく使っている私の部屋に、B小町のメンバーが集まっていた。

 

「よしっ。これくらいでオッケーかな」

 

 配信用の尺が稼げたと思ったところで、カメラを止めて振り返る。

 

「ふぅ」

 

「お疲れー」

 

 ソファに体を預けて伸びをする二人に笑い掛けた。

 今日の撮影はフリートークに近いものだったが、カメラが回っているのといないのでは精神的疲労はまるで違うものだ。気が抜けても仕方ない。

 もっとも、疲労を感じているのは精神だけではないのだが。

 

「みんなお疲れ様」

 

 それをよく知っているからなのだろう。ミヤコさんは労いを口にした後、少しだけ気まずそうな顔で明日以降の予定を続けた。

 

「明日は踊ってみたの撮影で、明後日は──」

 

 つらつら並べられる仕事は、B小町単独のものよりもコラボの方が多い。とはいえ数ヶ月前までは考えられなかった仕事量には違いない。

 嬉しいのは間違いないが、この忙しさにはやはりまだ体が慣れていない。

 もっともコラボに関しては私が方々に打診した結果なのだが……

 

「いやー。忙しくなったねぇ」

 

 知らずため息が漏れる私を余所に、かなちゃんとルビーは、鼻息荒くミヤコさんに詰め寄った。

 

「それは良いんですけど。社長、もう少しライブレッスンの時間取れませんか?」

「そうだよミヤコさん。私たちのセカンドワンマンまでもう時間ないよ」

 

「ちょっと、落ち着いて。気持ちは分かるけど、個人練習はしているんでしょう?」

 

 ぐいぐい迫る二人に、たじろぎつつ落ち着くように言い聞かせる。

 

「全体練習が足りないよー。もっと集中して練習したい! 仕事の合間に詰め込めないの?」

 

「ダメよ。これ以上はオーバーワークになるわ。そうじゃなくても貴方たちは、今それぞれ別の仕事もこなしているんだから」

 

 ミヤコさんの言う通りだ。

 B小町としての仕事だけなら、新人アイドルにしては忙しい程度のものだが、私たちは例のB小町レベルアップ計画によって得た複数の仕事を抱えている。

 

 かなちゃんは自分で取ってきた有名映画監督であるシマカンのドラマ作品を皮切りに、女優として幾つかの作品に出演を果たした。

 まだ主演級の仕事は無いが、短い出番の中でも丁寧で周りに合わせた演技をすることに定評があるらしい。

 それでいて、ここぞという時だけは、主演も食いかねない程目を引く演技を見せる事もあり、特に嘗ての彼女を知るファン達からは十秒で泣ける天才子役が遂に帰ってきたとまで評され、それはアイドルとしての活動中でも遺憾なく発揮されている。

 

 ルビーは深掘れ☆ワンチャンでアクたんと多く絡み、双子タレントとしてある程度の認知され始めた。

 単純に顔の良い双子が珍しいこともあるが、途中からルビーがアクたんにべったりのブラコン妹というキャラクターを確立したのも大きい。

 そんなルビーをさらりとあしらうアクたんのクールさも併せて、分かりやすいキャラクターが受けているらしく、二人セットの仕事もちょくちょく入っている。

 

 私はといえば、例の今ガチ同窓会の企画が無事通り、新たに立ち上げたチャンネルのMCを勤めている。

 炎上したあかねが出演するということもあってか、かなり注目を集めた配信となったが、思いの外好評を博した。

 当初の予定通り、私たちだけでなく、別クールでカップルになった今ガチメンバーを呼んで配信を行うことも増えてきた。

 当然その際は初対面の人を相手にすることになり、気心の知れた仲間たちと異なり難しい面もあるのだが、アクたんに言われたとおり、ぴったりなアイドルになるべく、今までなんとなくやっていたMCを一から勉強し直している最中だ。

 

 そこにコラボ配信の動画撮影まで加わることで、今のB小町はこうして公式チャンネルで配信する動画を作るだけでも、時間調整が必要となるくらい忙しくなっているのだ。

 

「お願ーい、ミヤコさーん」

 

 ルビーの甘えた声に、ミヤコさんは渋い顔をしつつも手帳を捲り、あれこれと考え始めた。

 やっぱりルビーに対して甘過ぎる気がする。

 

「……今からレッスンの時間を増やすとしたら夜しかないわよ?」

 

 それなりに時間を掛けて思案してから、渋面を作ったまま言う。

 確かに、ここから更にライブのレッスンを入れるとなると、ただでさえ短いプライベートの時間を削ることになってしまう。

 それは同時に休息の時間を削ることにもなるため、体力面の懸念も含めて軽々に認めたくないミヤコさんの気持ちも分かる。

 しかし──

 

「それで良いです」

 

 かなちゃんは一拍も置かずに即答し、ルビーも無言で頷いて追従する。

 

「簡単に言わないで頂戴。何で急にやる気だしてるのよ」

 

「えー。だって、ワンマンだよ? 私たちだけを見る為に集まってくれるんだから、良いところ見せないと。ねぇ?」

 

「そうですよ。有料配信もする以上、禁止しても録画する人は出てくるでしょうし、ずっと記録に残るって考えたら下手なパフォーマンスは見せられないじゃないですか」

 

 言っていることは筋が通っているが、どこか空々しい。

 

「いっその事、ライブ当日まで事務所に泊まらせて下さいよ。JIFの時みたいに。そうすれば移動時間も取られずに済みますし」

 

「あ! それ良い」

 

「あのねぇ。芸能人ではあっても貴女たちはまだ高校生なのよ? 芸能科は授業日程の融通は利いても成績に関してはそうはいかないんだから」

 

 深々としたため息と共にミヤコさんがジロリと睨むと、ルビーはさっと視線を逸らした。

 かなちゃんはまだしも、ルビーは成績に不安があるらしいので、そのことだろう。

 ミヤコさんは社長である前に、保護者としてルビーの学業が疎かになることを心配しているのだ。

 

「うぅ。これ終わったら頑張るから、ね?」

 

「なんでしたら、休憩中に私が教えますよ?」

 

「え? 先輩がー?」

 

「文句あんの? 私一応学年トップよ?」

 

 かなちゃんがフォローに入った瞬間、これまで阿吽の呼吸で協力し合っていた二人の間に亀裂が走った。

 

「いや、どうせならおにいちゃんに教わりたいなーって」

 

「そんなことだろうと思った。ダメよ、アイツだって忙しいんだから。下手に手伝わせて、ライブに来る時間が無くなったら本末転──あ」

 

 しまった。と言うように口を押さえたかなちゃんに、ミヤコさんは呆れた様に頭を押さえる。

 

「そういうことね」

 

「だって、あんまりライブ来てくれないおにいちゃんが、久しぶりに見に来てくれるって言うし」

 

「アイツも忙しくなってるから、こんな機会次はいつになるか分からないじゃないですか。……というかMEM! あんたはどうなの? さっきからずっと黙ったままだけど」

 

 勢いで誤魔化すつもりなのか、矛先がこっちに向けられる。

 

「あはは、ごめんごめん」

 

 どうも最近MCの勉強になるからと人を観察する癖が付いている様だ。

 軽く謝罪してから私はんー。と考える。

 かなちゃんとルビーからは祈る様な、ミヤコさんからは二人を止めてくれと言わんばかりの視線が向けられる。

 どちらの気持ちも分かるし、体力面では私が一番不安があることも理解しているが、それでも答えは決まっていた。

 

「もちろん私も練習したいよぉ。二人と違って学校行ってない分、時間に余裕もあるし」

 

 私の目指すぴったしなアイドルとはファンに向けてだけでなく、仲間内の調和を保ち完璧なパフォーマンスを見せることも含まれている。全体練習はむしろ一番重要だ。

 

「メムさんまで……」

 

「ほらほら。みんなこう言ってるんだからさ」

 

 長い沈黙の後、ミヤコさんは再度深々と諦めの息を吐いた。

 

「……分かったわ。ただ、前の時みたいにサポートは付けられないから、くれぐれも体調には気を付けて。無理だけはしないでね」

 

「やったー!」

 

「そうと決まればさっさと戻りましょ」

 

「あ。私も泊まりの荷物準備するから、二人は先に車に戻っといてぇ」

 

「しょうがないわねぇ、急ぎなさいよー」

「なさいよー」

「真似すんな!」

 

 最後まで漫才のようなやり取りを続けて出ていった二人を見送り、室内には私とミヤコさんだけとなる。

 それを確認してから私は未だ眉間に皺を寄せたままのミヤコさんに声を掛けた。

 

「……心配ですか?」

 

 なんだかんだ言っても、今がB小町の売り出し時なのは間違いない。

 そのために仕事を詰め込まなくてはならないことは、社長であるミヤコさんが一番分かっているはずだ。それなのに、ここまで渋っているのは何か他に理由があるはず。

 

「二人とアクたんのこと」

 

 その理由についても、見当は付いていた。

 

「それはそうよ。アイドルだからって恋愛するなとは言わないけど、全員同じ事務所のメンバー。ルビーに至っては双子の兄相手なんて。世間に知られたらどうなるか」

 

 隠しても無駄だと悟ったらしく、ミヤコさんは胃の辺りを押さえながら、大げさに顔を顰めた。

 

「あはは。でも、今のルビーはブラコン妹キャラで売ってますし、その延長線上ってことになりませんかね」

 

「キャラとして受けているのと実際にそういう関係になるのじゃ違うわよ。私個人としても物凄く複雑。……まあ少なくともアクアにはその気は無いみたいだし、それに──」

 

 何か言いかけて口籠る様子で、ピンときた。

 

「あかねのことですか?」

 

「……やっぱりメムさんは知ってたのね。黒川さんから聞いたの?」

 

「いえ。でも私は今ガチ同窓会の配信で二人と会ってますから、その時の雰囲気で何となく」

 

「そうだったわね。配信だと今までと変わってないように見えたけど、直接見ると二人の雰囲気も違うものなの?」

 

「あ、見ててくれたんですね」

 

「もちろんよ。うちの子たちが出ているんだから」

 

 うちの子たち。

 アクたんだけでなく、正式な苺プロ所属タレントでもない私も入れてくれているのが嬉しい。

 たまに今世話になっているFAMEから正式に移籍しようかと考えることもあるのだが、事務所の移籍は色々と面倒な手続きや場合によっては双方に遺恨を残すこともあるため保留にしている。

 

「いや、アクたんは特に変わりないんですけど、あかねの方が。カメラ回っている時はちゃんとしてますけど、素の状態だと案外分かりやすい娘なので。だから配信だけなら気付かないのは無理ないですよ」

 

「そっか。一度ちゃんと会いたいって言ってるんだけど、恥ずかしがってるのか連れて来ようとしないのよねぇ」

 

「あー。アクたんは絶対嫌がりそう」

 

「でも、それならあの二人も気付いてないかしら」

 

 それまでの冗談混じりの口調が一変する。

 これが本題らしいと察し、私も真剣な表情と声で答えた。

 

「いえ、多分ですけど、二人とも何となくは分かってるんだと思います」

 

 さっきの特訓提案も、きっとそれが理由だ。

 二人はアクたんが直接見にくる今回のワンマンライブで、アクたんをB小町推しにさせる例の計画を実行に移すつもりなのだ。

 そうしてドルヲタ活動をするアクたんをあかねが見れば、幻滅して向こうから離れていくはず。というのが計画の骨子らしいが、それが無理なことはもう分かっているのだろう。

 アクたんが推しになるかはともかくとして、そこでどんな醜態を晒そうとあかねがアクたんから離れることはない。

 今の二人からはそれぐらい強い絆を感じる。

 

「その上で、悔いが残らないようにちゃんと、やり切りたいんじゃないですかね」

 

 諦めるにしても、何もしないのと、やるだけやってから諦めるのではまるで違う。

 一度挑戦しないまま夢を諦めるしかなかった私にはそれがよく分かる。

 きっと二人も同じ気持ちなんだ。

 

「……そっか。そうね」

 

 視線を下げて言葉を噛み締める様を見て、何となく、ミヤコさんも似た経験があるのかもしれない。と思った。

 

「でも。やりきっちゃって、モチベーション下がったりしないわよね? せっかくB小町としても軌道に乗り始めたのに、そんなことになったら」

 

 その後、気持ちを切り替える様に顔を上げてからもう、普段の仕事の出来る女社長の顔に戻っていた。

 

「いやー。それは流石に……」

 

 無いとは言い切れない。特にかなちゃんは。

 ルビーはアイドルの仕事自体にも夢を持っている様だから大丈夫だろうが、かなちゃんは明らかにアクたんの為だけにアイドルをしている。

 結果がどうあれ、恋愛として一区切り付いたら卒業して元の役者に戻ってしまう可能性は十分ある。

 とはいえ、今の社長をこれ以上追い詰めるのは気が引ける。

 

「今からそんな先のこと心配しても仕方ないですよ。ほらほら、そろそろ行かないと二人が怒り出しちゃいますよ。私荷物準備していきますから、二人のところ行って宥めといて下さい。時間掛かり過ぎて怪しまれるかもしれませんし」

 

 敢えて明るく話を変えると、意図が伝わったらしくミヤコさんも苦笑しつつ首を横に振った。

 

「大丈夫よ。時間掛かるの何て当たり前なんだから」

 

「え?」

 

「文句言ってきたら、大人の女性が泊まる時、どれだけ準備が必要なのか教え込んでやるわ。大したケアしなくても問題ない小娘どもと違ってスキンケア用品だけでもどれだけ種類が必要か。あ、なんなら私の少し使ってみる?」

 

 ミヤコさんの美貌を支えるスキンケアには非常に興味があるが、確実にアラフォー超えのミヤコさんと一緒にされるのは流石に複雑だ。

 ここはビシッと言っておかなくては。

 

「是非お願いします!」

 

 意気込みと違って私の口からは元気の良い返事が飛び出していた。

 

 お高いスキンケアの誘惑には勝てなかったよ……

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