【完結】推しの子if ~あかねちゃんと一緒にアクアを救おうルート~   作:日ノ川

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ちなみに苺プロの事務所兼自宅である家の間取りはどうなっているんだろう?
たまに出てくる外観だと三階建てみたいだけどあまり細かい部分は分からなかったので、この話では大雑把に、事務所が一階で、二階が自宅、三階はB小町の練習などで使われているレッスン室。という感じにしてあります


第27話 家族会議(仮)

 二人が戻ってくるまでの間、気が気でなかった。

 同時に、とうとうこの時が来たと覚悟を決めている自分もいた。

 一般人として生きるならともかく、アクアもルビーももう一端の芸能人。

 特にルビーは顔立ちも年々アイに似てきている上、B小町も継いで注目度も高い。

 事実ネットを検索してみると、それらしい書き込みもいくつか見つかった。

 

 もっとも、アイとの年齢差から実子と考える者は流石に居らず、親戚ではないかと疑う意見がほとんど。中にはアイの栄光を忘れられない事務所が、似た子を捕まえてきた。という荒唐無稽なものまであった。

 そう思われているのなら、責任は全て私にあることになるので気が楽なのだが、それを事実として信じさせるのは難しい。

 

「証拠がこの写真だけってことも無いでしょうし」

 

 椅子に腰掛けたまま天を仰ぎ、目を伏せて息を吐く。

 リークしたのが本当に壱護なら、もっと確実な証拠を持っているはずだ。

 あの人が何故こんなことをしたのかは分からない。

 アクアが居場所を見つけだして半年。

 B小町の飛躍には壱護のコネクションとプロデュース能力が大きく関係している。

 

 アクアとルビーを双子タレントとして売り出し、分かりやすく使いやすいキャラクターを設定した上で、ADやDに積極的に声を掛けさせて関係構築にも尽力した(ルビーはそうした根回しが苦手なので、殆どを社交力に長けたアクアがやっていたようだが)そのお陰もあって、業界関係者繋がりでの仕事の依頼も増えてきた。

 ただ、それだけでは説明が付かない全く無関係な場所からの依頼も多く、そちらは壱護による大胆な営業の成果なのだろう。

 

 有馬さんとメムさんがそれぞれ自分で取ってきた仕事も加わり、新生B小町はマルチな方面で活躍するアイドルグループとして注目を集めている。

 それこそ、かつてのアイに匹敵する、いや速度だけなら彼女以上の速さでスターダムを昇っている最中だ。

 そんな時に。

 

「あのバカ。本当に何考えてるのよ」

 

 裏方とはいえ、自分が育ててきたグループのメンバー、なにより娘同然に大切にしてきたアイの忘れ形見の二人を傷つけるリークをするなんて。

 こうなった以上は私もこのまま黙って待ち構えているわけにもいかない。メールの返信をする前に、アクアから居場所を聞いて真意を問いただす必要がある。

 理由如何によっては一発、いや五発はブン殴ってやる。

 思わず拳を握りしめた直後、自宅のインターホンが鳴った。

 

「帰ってきた」

 

 椅子から立ち上がると同時に、両手で顔を覆い意図的に笑顔を作る。

 アクアはともかく、ルビーはきっと心配していることだろう。せめて笑顔で迎えなくては。

 そんなことを思いながら、ドアの前まで立ったところでハタと気づいた。

 家の鍵を持っている二人がわざわざインターホンを押すはずが無いことに。

 まさか、こちらがメールの返答をする前に記者が押し掛けてきたのかと、リビングに設置してあるインターホンのモニターを起動させる。

 

「ッ!」

 

 相手を確認した瞬間駆け出し、一直線に玄関まで向かうと、勢いそのままに鍵と扉を開けた。

 

「おいおい。このご時世にチェーンも掛けずに玄関開けんじゃねーよ」

 

「いち、ご?」

 

 黒のスーツにサングラスと無精髭というトレードマークはかつてのまま。

 とはいえ、十数年の歳月のせいか顔立ちや皮膚は年齢相応に加齢している。

 それでも、仮にも夫であるその男を見間違うことはあり得ない。

 

 濃いサングラスの奥に見える瞳が一瞬だけバツ悪そうに揺れた気がしたが、隠すようにサングラスのブリッジを押し上げる。

 角度が変わったことで反射が起こり、瞳は見えなくなった。

 代わりにと言うように、壱護はニヤリと不敵な笑みを浮かべて手を持ち上げた。

 

「よう、久しぶり。お前は変わんねーなぁ」

 

 

   ☆

 

 

 着替えが終わったタイミングで戻ってきたおにいちゃんが、自宅近くに記者らしき人物がいるとミヤコさんから伝言を預かったため、もうしばらくカラオケで時間を潰すことになった。

 結局それから一時間くらい留まったが、もう歌う気にはならず、外から覗かれない位置に移動して、私はおにいちゃんにずっとくっついていた。

 おにいちゃんは買い物中に購入した本を読んで、私はスマホをいじる。

 

 会話は無かったが、考えていることは同じだろう。

 いったい誰がママと私たちのことをリークしたのか。

 掲載される記事の内容はどんなものなのか。

 私たちの秘密を知っている人はそう多くは無いはずだ。

 その中の誰かとは思いたくないし、そんなことする理由も分からない。

 しかし、誰かがリークしたのは間違いない。

 

 心の内にドス黒いものが溜まっていくのを感じる。

 おにいちゃんの正体を知る直前、ママに加えてせんせまで殺されたと思い、犯人に対して復讐を誓った時と似た憎悪の感情だ。

 正直なところ、おにいちゃんが事前に公表すると言ったことだって、私は納得し切れていない。

 

 もちろん、裁判が始まる前に公表しなくてはならないのは頭では理解できる。

 私よりずっと優秀なおにいちゃん(中身が元お医者さんのせんせだったのだからある意味当然だ)がそれしかないと考えたのだから、きっと正しいのだろう。

 でもそれを大々的に公表するのは、ママの秘密を使って知名度上げをしているように感じてしまって良い気がしない。

 まして、私たちとは関係ない誰かが、自分の利益のためにやったことだとしたら──

 

「大丈夫だ」

 

 スマホを握る私の手に、おにいちゃんが片手を重ねて握りしめる。

 それだけで手の震えが止まった。

 

「うん」

 

 おにいちゃんを信じる。

 私の気持ちが伝わるように。

 その手を握り返した。

 

 

   ※

 

 

 ミヤコさんからもう大丈夫だと連絡を受けて自宅に戻った。

 タクシーを降りた直後、念のため周囲を見回したが、確かに近くに人影は無い。

 マスコミの人は何日でも張り続けるイメージがあったため、思った以上に諦めが早いのが気になったが、もしかしたら記者が待ち伏せしていたのは、過敏になったミヤコさんの早とちりだったのかもしれない。

 その調子で、記事の方も勘違いだったら良いのだが、流石にそんなことはあり得ないだろう。

 

「ただいま」

 

 小さくため息を吐きつつ、おにいちゃんの後について家の中に入ろうとしたところで足が止まる。

 正確に言えば私ではなく、おにいちゃんが足を止めたため、後ろを歩いていた私も立ち止まるしかなかったのだ。

 

「おにいちゃん?」

 

 不思議に思って顔を覗くと、その視線が足下、玄関に止められていることに気づき、私も下を見る。

 そこには無骨な男物の革靴が置かれていた。

 この家に住んでいる男はおにいちゃんだけだが、サイズが明らかに大きかった。

 第一、おにいちゃんはこんな古くさいデザインの革靴は持っていない。

 つまり、来客者の物。このタイミングでとなれば。

 

「もしかして、外に記者がいなかったのって」

 

 ミヤコさんが取材を受け入れたから?

 でもなんでそんなことを。

 

「いや、この靴……」

 

 私の呟きに、おにいちゃんは一瞬考えるような間を空けた後、乱暴に靴を脱ぎ捨てて、家の中に入っていく。

 慌てて私もその後に続いた。

 光が漏れているリビングに続くドアを開け、中に入ったところで再び足が止まる。

 

「なんでアンタがここに」

 

 驚くおにいちゃんの背中越しに、リビングをのぞき込んで最初に見えたのは、腕組みをしたままテーブルの側に立って、こちらを振り返るミヤコさんの姿。

 眉間に皺を寄せて、困ったような顔をしている。

 そしてもう一人。来客用のソファではなく、普段私たち三人が使っていたダイニングテーブルに、男が一人図々しく座っていた。

 

 後ろ姿しか見えないが、明るい色の短髪にはなんとなく見覚えがある。

 誰だったか思い出すより早く男が動いた。

 椅子の背もたれに手を乗せ、首だけ後ろに倒して私たちを見る。

 その男が誰なのか、直ぐには分からなかったが、直後おにいちゃんが答えを口にした。

 

「壱護さん」

 

 そうだ。

 苺プロの名前の由来にもなった前社長にして、ミヤコさんの夫。

 斉藤壱護。

 ママの死後、行方不明になっていた男がどうしてここに。

 

「よう。アクア、それにルビーか。大きくなったな」

 

 なれなれしく声を掛けられ、私は返事をせずにおにいちゃんの背に隠れる。

 正直、不愉快だった。

 すべてをミヤコさんに押しつけて消えた男が、今更戻ってきて我が物顔で私たちの家に入り込んでいること自体が。

 もちろん、ミヤコさんとはまだ離婚していないことは分かっているが、それでも。

 

「いったい何の用だ?」

 

 私の想いを代弁したかのような硬質な声にドキリとする。

 私を守るように手を前に出したおにいちゃんの言葉だ。

 やっぱりおにいちゃんは……せんせは頼りになる。

 前世も今世も、私が世界で一番信頼できる大好きな人。

 また胸に温かいものがこみ上がってきた。

 その直後。

 

「何の用って、打ち合わせだよ。俺もお前たちの記者会見出るからよ、お前らを売り出す絶好の機会だ。派手に行こうや」

 

 楽しげに語る台詞に、温まっていた心に直接冷水をかけられたように冷たくなった。

 

「どういう、こと? もしかして、ママのことリークしたのって」

 

「おう、俺だ。そろそろ裁判が始まりそうだからな。チャンスは今しかねぇ。幸いお前らも売名って言われない程度には売れてきたしな」

 

「壱護!」

 

「何だよミヤコ。大声出すなよ」

 

「二人の気持ちも考えてよ。アイのことは」

 

「大丈夫だって。自分のお陰で二人が売れるんだから。アイだってきっと喜んでるよ」

 

 その言葉が、最後の引き金を引いた。

 

「ふざけないで! ママがそんなこと言うはずがない!」

「止めろルビー」

 

 にやけ面をひっぱたいてやろうとリビングに突入するが、後ろからおにいちゃんに抱き止められる。

 

「おにいちゃんは悔しくないの!? ママのことあんな風に言われて」

「俺は──」

 

 私を抱き止めているおにいちゃんの体が、一瞬震えたのが分かり、私も少しだけ冷静になれた。

 そうだ。

 せんせだって、アイのファンだったんだ。

 気にしていないはずがない。

 それでも怒らないのは、きっと何か理由がある。

 それが分かるまで下手なことをしてはいけない。

 

「おっかねー。これじゃ家族会議もできそうにねーな。一度出直す。アクア、お前からちゃんと話しておけよ」

「……」

 

 イスから立ち上がり、私たちの横を通りすぎていく。

 おにいちゃんのおかげで一度は頭が冷えたものの家族会議なんて言うふざけた発言も含めて、顔を見たらまた我慢できなくなりそうだったので、俯いたままやり過ごす。 

 しかし、私と違いおにいちゃんは無言のままその後ろに着いていった。

 ちゃんと出ていくのを見届けてから施錠する為か、それとも一言文句でも言うつもりなのか。

 私も着いていくべきか一瞬悩んだが、ミヤコさんに止められた。

 

「ルビー」

「うん」

 

 促されるままリビングのドアを閉めようとした直前、玄関に向かった二人の会話が聞こえてきた。

 

「今更止められるとか思ってねーよな?」

 

 冷たく責めるような声に、こっちまで身が竦む。

 言っている意味はよく分からない。でも、大丈夫。

 きっとおにいちゃんが、せんせが言い返してくれる。

 

「……分かってる。これは俺が始めた復讐だ」

「え?」

 

 今おにいちゃんは確かに復讐と言った。

 これまでずっと、ママとせんせを殺したあいつに復讐しようとしていたことは聞いている。

 私だって一度は考えたし、おにいちゃんからすれば前世の自分が殺される切っ掛けを作った相手でもある。復讐しようとするのは当然だ。

 

 でも、あいつはもうこの世にいない。いったい誰に復讐するというのか。

 なにより、ママのことを世間に公表しようとしていることも、私たちを守る為じゃなくて、復讐の為なのか。

 頭の中を思考がぐるぐる回る。

 助けを求めるように思わずミヤコさんを見たが、何か真剣な顔で考え込んでいてとても声をかけられる雰囲気ではなかった。

 

 声をかけるのは諦め、リビング内に戻って視線を窓に向けると、カーテンに隙間が空いていることに気が付いた。

 このリビングは二階にあるが、今どきはこういう隙間からでもパパラッチに覗かれることがあるからと、いつも気を配っているはずのミヤコさんらしくないが、それだけアイツが来たことに動揺しているのだろうか。

 

 そんなことを考えながら黙ってカーテンに近寄り、閉めようとしたところでベランダの縁に座っている人影を見つけて、一瞬心臓が止まりかけるほど驚いたが、それが誰であるか気づき、私は驚愕した。

 叫ばなかった自分を褒めたいくらいだ。

 

 口に指を立てて、静かに。というポーズを取って子供らしくない笑みを浮かべていたのは、あの宮崎旅行でせんせの遺体を見つけ呆然としていた私に接触してあれこれ吹き込んできた気味の悪い女の子だった。

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