【完結】推しの子if ~あかねちゃんと一緒にアクアを救おうルート~   作:日ノ川

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第28話 ルビーの決意

「ルビーは?」

 

「さっき部屋を覗いてきたけど、ぐっすり。いろいろあって疲れたみたい」

 

「そう」

 

 安堵の息が漏れる。

 これからの話はルビーに聞かれたくない。

 その為にわざわざ自宅ではなく、事務所に移動したのだから。

 

「俺たちを帰らせないように連絡してきたのはあの人がいたからだよな?」

 

 一度すぐ帰るように言った後、記者らしい怪しい人物が張っているからと帰宅時間を遅らせたのは、先に二人だけで話をするための方便だったのだろう。

 

「ええ。アイのことをリークしたのが自分だって」

 

 憎々しげに爪を噛む。

 話した内容がそれだけにしては、ずいぶん時間が掛かったように思うが、仮にも二人は夫婦、積もる話もあったということか。

 そんな風に考えていた俺に、ミヤコさんはジロリと責めるような視線を送る

 

「それと、貴方のこともね」

 

「俺の?」

 

「ドラマのことよ。貴方、アイの件をドラマにして放送するつもりなんですってね」

 

(そこまで話したのか)

 

 確かに俺は壱護さんに会いに行った際、復讐の内容。つまりアイの事件を映像化することまで話していた。

 そうしなくては、復讐相手が死亡してすべて投げやりになっていた壱護さんを呼び戻すことができなかったからだ。

 問題は内容、つまりドラマの筋書きを使って今は亡きカミキヒカルに復讐しようとしていることまで話したかだが。

 

「聞いたわ。全部、アイの復讐の為なんでしょう?」

「……」

 

 真っ直ぐな視線に、思わず目を逸らす。

 俺や壱護さんのように、復讐に囚われた者やそんな俺に付き合ってくれているあかねのような奴の方が珍しい。いやマトモな感性をしていれば普通は止めようとするものだ。

 だが、たとえミヤコさんが止めようとも今更俺は止まれない。

 止まるわけにはいかない。

 

「ハァ。それに関してどうこう言うつもりはないわ」

 

「え?」

 

「貴方は頭の良い子よ。自分のやろうとしていることの意味も、結果ルビーや私、ううん。貴方を大切に思っている人たちがどう思うかもちゃんと考えた上で決めたんでしょう?」

 

「……ああ」

 

「なら、私から言えることは何もないわ。どのみち、まだ時間はあるしね」

 

「どういう意味?」

 

「例の記事に関しては、壱護の方で手を回して、ドラマの制作発表ができる段階になるまで差し止めさせたそうよ」

 

「どうやってそんなこと」

 

 会社経営者でも何でもない今のあの人に、そんな権限があるとは思えないが。

 

「リークした相手が昔世話してた記者みたいでね。独占記事にする代わりの条件みたい。それとそのドラマ制作に自分が関わるために、新しい会社を立ち上げるとも言ってたから、タイミングを合わせるつもりなんでしょうね」

 

「会社?」

 

「ええ。芸プロじゃなくて、映像製作会社。……貴方をスカウトして二人で動くって言ってたけど、聞いてないの?」

 

(なるほど、そういうことか)

 

 ようやく合点が言った。

 壱護さんが何故突然、アイのことをリークしたのか。

 俺が苺プロを離れることを知っている以上、情報源は鏑木Pだろう。

 

 カントクが言っていた他のプロデューサーへの根回し、それが周り回って壱護さんにも伝わった。

 恐らく壱護さんは、内容を間違って受け取ったのだ。

 

 鏑木Pはカントクが俺を連れて妙な企画を持ち込み、自分が責任を取ると言っているがそれが真っ赤な嘘であると言い触らした。

 実際は鏑木Pが自分以外のプロデューサーに企画を取らせないためのデマなのだが、外様の壱護さんの立場ではそれを正しく理解できるはずもない。

 単純にこのままでは企画そのものが流れてしまうと勘違いして、壱護さんは慌てて計画を前倒しにすることにした。

 

 わざわざこの家にやってきたのは、俺を復讐から逃げ出さないようにする意図も含まれているのかもしれない。

 アイのスキャンダルを自分がリークする以上、壱護さんが予備プランとして用意していた、それ以上の爆弾を投下して、アイの件を有耶無耶にするという計画が使えなくなってしまう。

 そんな中で俺が、自分可愛さに梯子を外すような真似をすれば、壱護さんは娘同然の存在だったアイの名誉を自ら傷つけただけになってしまう。

 

 だから自分の新しい事務所に引き込んで俺を逃がさないようにしていると考えれば、この性急な動きも納得できる。

 もっとも、俺自身今更復讐を止めるつもりなど無いのだが、最近再会したばかりの俺を簡単に信用できるはずもない。

 

「いや、聞いてる。これからしばらくはタレントじゃなくて、ドラマ監督に注力することになるからそっちの方が都合が良い」

 

 俺の言葉を受けたミヤコさんは、目を伏せた。

 

「……そう。ルビーにはなんて説明するつもり?」

 

「しばらくは黙っておく。言わなければ気づかないだろ。ただ、記事が差し止めになったことだけは話す必要はあるな」

 

「そうね。あの子の性格上、貴方が事務所を辞めるなんて知ったら大騒ぎしかねないし、記事の件は私が後日改めて壱護と話して差し止めさせたってことにしておきましょう」

 

「分かった、そっちは任せる」

 

 互いに頷きあったところで、不自然に間が空いた。

 

「フー。……ごめんなさい、アクア」

 

 深く息を吐いてから、ミヤコさんは唇をきつく結び直し、その後何かを決心したように俺を見据えた。

 

「ん?」

 

「やっぱり、一回だけ言わせて」

 

「──ああ」

 

「貴方たちの出生の件は、裁判のこともあるから仕方ないのは分かってる。でも復讐の為にドラマを作るとか、そのために貴方たちが犠牲になるとか、そういうのは諦めることはできないの?」

 

 真剣な眼差しを向けたまま、ミヤコさんは続けた。

 

「あんな奴のことは忘れて、この芸能界でアイの夢を継いで、ルビーはアイドルとして、貴方は役者として、この世界で一番煌めくステージに立つ。そんな未来はないの?」

 

 その瞳に宿っている感情が、俺やルビーへの憂慮だけではないことに気づく。

 

 これは、いつだったか。

 そうだ、アイが殺される直前。

 引っ越し祝いを持ってきたミヤコさんたちが上機嫌に語っていた時と同種のものだ。

 

 ドームに立つのは、社員みんなの夢。

 いつもは社長の深酒を諫める側だったミヤコさんが、嬉しそうに飲んでいたからよく覚えている。

 きっとミヤコさんは今でもその夢を追いかけているのだ。

 だが、その夢に俺の居場所は既にない。

 

「それは、きっとルビーが叶えてくれるよ」

 

 突き放すような言い方になってしまったが、仕方ない。

 これからルビーにもそういう接し方をしていこう。

 事務所を移る件を壱護さんの暴走ではなく、俺の意志によるものだと明確に宣言した上で、ドラマの内容、つまりアイの死を利用して売れようとしていると思わせれば、ルビーも流石に俺を見限るだろう。

 前世のことを知っている分より深く傷つけてしまうことになるが、俺以外に頼れる人間が他にいなかったさりなちゃんの時とは違って今のルビーの傍にはミヤコさんを始め、信頼できる人たちがたくさんいることがよく分かった。

 時間はかかっても、ルビー……さりなちゃんだっていつまでも子供ってわけじゃない。きっと立ち直ってくれるはず。

 だから。甘い夢の時間は、もう終わりだ。

 

「そう。分かったわ。約束通りこれ以上は何も言わない」

 

 そう言いながらも、肩を落とし小さなため息を落とす。

 

「ごめん……」

 

 謝罪の後、続く言葉は口に出来なかった。

 所属タレントとしても、息子としても、迷惑しかかけていない俺には、その資格は無いのだから。

 

「良いのよ。貴方も今日は寝なさい」

 

「ああ、そうするよ」

 

 立ち上がろうと腰を浮かした時、窓の外からカラスの鳴き声が聞こえて、俺たちは同時に窓を見た。

 外は暗いが、それでも今まさに飛び立っていくカラスの姿が、窓から漏れる明かりに照らされていた。

 

「あらやだ。夜にカラスなんて。誰かゴミでも捨てたのかしら」

 

「……」

 

 暢気なことを口にしつつ、ブラインドを閉めに行くミヤコさんを余所に、イヤな予感を覚える。

 

(まさか)

 

 いつもカラスと共に現れる、あの幼い子供の姿をした疫病神の微笑が脳裏に浮かんだ。

 

 

   ☆

 

 

「だってさー。良かったね、みんなが優しくて」

 

 窓枠に腰掛けたその女の子は、口元を隠し、くすくすと忍び笑いをした。

 半身を外に出したままの体勢は危険極まりないが、何となくこの子なら大丈夫なのだろうと確信できた。

 窓の外には複数のカラスが羽ばたいているが、その中の一羽を腕に乗せ、なにやら会話するように頷きあっている様は、漫画やアニメのキャラクターが現実に飛び出してきたかのようだ。

 そのカラスから聞いたという話を、私に話して聞かせる。

 

 ともすれば子供のおままごとにしか見えないが、子供らしからぬ大人びた表情と話した内容、なにより全身から醸し出す異質感が真実味を与えていた。

 そう言えば、宮崎で会った時もそうだった。

 せんせの遺体を見つけたせいで呆然としていたとはいえ、いきなり現れた子供の言葉をすんなり信じ込んで、そのまま相手に復讐を決意したくらいなのだから。

 それは今も変わらない。

 きっと今この子が言ったのは事実だ。

 

「そっか。おにいちゃんもミヤコさんも。みんな、みんな嘘つきばっかりだ」

 

「そうだよ。みんな貴方に嘘をついてる。でも怒らないであげて。それだけ貴方のことが大切なんだから」

 

 白々しい。

 でも、私だって分かってる。

 みんな、これ以上私を傷つけないために嘘を吐いていることを。

 

「別に怒ってないよ」

 

 この優しい嘘の味を、私は知っている。

 ずっと病院の中で過ごした、可哀想な子だった私にみんな嘘を吐いていた。

 お母さんもお父さんも、おばあちゃんもおじいちゃんも、担当のお医者さんも看護師さんも、せんせだってそうだ。

 

 でもそれは私も同じ、みんなが耳当たりの良い言葉で私を慰めてくれていると分かってたから、それに見合った役を演じてきた。

 天童寺さりなとして、病気で苦しみながらも夢を見続ける子供の役を。

 それは、星野ルビーとして二度目の生を受けた今も変わらないのかもしれない。

 相変わらず私は周りのみんなから優しい嘘で守られたままで、それが分かっているにも関わらずに甘えて自分の気持ちにも嘘を吐き続けている私にせんせたちを責める資格なんてないだろう。

 

「どうする? このまま目と耳を塞いじゃえば、後のことはぜーんぶ、大好きなおにいちゃんが何とかしてくれるよ。その代償を払うことも本人は納得してる。貴方は真っ直ぐに夢に向かって進んで、今よりももっと、もっと高い場所に飛んでいける」

 

 歌いあげるように女の子が手を持ち上げると、腕に止まっていたカラスが飛び去り、窓の外へ出ていった。

 その姿を目で追いながら、覚悟を決めた。

 

 私は今までずっと、みんなが……何より自分自身が傷つかないように嘘で身を守り続けていた。

 でも、今日一日デートをして改めて確信した。

 前世の頃と同じく、私はせんせが……おにいちゃんが好き。

 ずっと一緒にいたい。

 だからこそ、今のままではダメなんだ。

 おにいちゃんが何をしようとしているか、その為にどんな代償を払うつもりなのか、私はそれをちゃんと理解して、その上で自分の意思で考えて決めないといけない。

 

 おにいちゃんを助けるのか、それとも……止めるのかを。

 

 そうしないと、私はいつまで経ってもかつての天童寺さりなと同じ、守られる対象でしかない。

 今の私は星野ルビー。

 おにいちゃんと対等な双子の妹で、同じママの子供なのだから。

 

「お願い。おにいちゃんがどんな復讐をしようとしているのか、教えて」

 

「んー。それを考えるのが貴方の役目。って言いたいところだけど」

 

 口元に指先を当てる分かりやすい子供の演技を見せてから、女の子はニンマリと笑う。

 

「元の予定からはずいぶん外れちゃったし、時間も無さそうだしね。いいよ、教えてあげる。私も全部を知った貴方、ううん。貴方たちがどんな選択をするのか、興味があるから」

 

 くすくすと笑う少女からは、子供らしさは完全に消え失せ、妖艶さすら纏っていた。

 ひらりと身を翻して室内に入ってきた女の子とベッドの上で向かい合い、真正面から向き合った。




個人的な意見ですが、原作でも復讐に向いていないと言われているルビーが、アクアが復讐しようとしていることを知れば、もちろんその内容にもよりますが、基本的には止めるか、少なくとも復讐を応援して手を貸すことはないんじゃないか。と思っています
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