【完結】推しの子if ~あかねちゃんと一緒にアクアを救おうルート~   作:日ノ川

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第32話 特訓開始

 その日、今ガチ同窓会の収録を終えた私に、かなちゃんから連絡が入った。

 アクたんとあかねに内緒でとある公民館まで来るように。との内容だった。

 二人に内緒。とわざわざ付け加えられたことになんとなく思うところがありつつも、とりあえず一緒に収録していたアクたんには適当な理由を付けて事務所には戻らないことを伝え、私は呼び出された公民館に向かった。

 

 入り口で待っていたかなちゃんに挨拶もそこそこに、既に借りてあった公民館内に連れ込まれた。

 

「こういう所って個人で借りられるんだねぇ」

 

「私も良く知らなかったけど、意味分からないほど安く借りられたんですって。お金がない劇団とか地下アイドルとかもレッスン用で借りてるらしいわよ」

 

「へぇ。いくら?」

 

「二時間で二百円」

 

「意味分からないほど安い! そっかー、私も今度配信用に借りてみようかなぁ」

 

 いつもは自室か事務所で撮影するが、広さが必要な内容を撮る際は便利そうだ。と思いながらなんの気なしに言うと、かなちゃんは僅かに眉を持ち上げつつ振り返る。

 

「いいけど、あんまり人に広めないでよ。借りづらくなっちゃうから。最低でも一ヶ月後にして」

 

 確かに配信者仲間に話したら、話題づくりも兼ねて挙って予約を入れかねない。

 しかし、一ヶ月後と期間を区切るのはどういうことなのか。

 その頃に何かあっただろうか。

 そんなことを考えながら、案内された会議室の前に立つ。

 入り口には借り主名として、個人間オーディション用レッスンと印刷された紙が貼り付けられていた。

 

「個人間オーディション?」

 

「なにもまんまの名前で予約取らなくてもって思ったんだけど、あの子、変なところ素直だからね」

 

 さっきもそれらしいことを言っていたが、予約を入れたのはかなちゃんではないらしい。

 となると他にも誰かいるのか。

 そんなことを考えながら、かなちゃんの後に続いて部屋の中に入る。

 

「あ! MEMちょ」

 

 入って早々耳に入ってきたのは、聞き慣れた声。

 

「ルビー?」

 

 今日はオフだと聞いていたルビーが待っていたことに驚く。

 これでB小町全員揃ったことになる。

 もしかすると、全体レッスンか何かをするつもりなのか。

 それなら事前に言っておいて欲しかった。

 レッスン着も用意してないし、なにより収録後の疲れた体には厳しい。

 

「別にレッスンじゃないわよ。ほら」

 

 私の心を読んだかのように、かなちゃんが部屋の中を顎でしゃくる。

 示されるがまま室内を見ると、元から用意されたものらしい会議用の長テーブルを全て後ろに下げて作られた広い空間が取られ、その地面にはバミリらしきガムテープが張り付けられている。

 ダンス用のものではなく、どちらかというと演劇やドラマでの立ち位置を示すもののようだ。

 

「ごめんねー、仕事開けに。ちょっと見て欲しいものがあってさ」

 

「見て欲しいもの?」

 

「そ。私だけだとどうしても役者目線っていうか、細かい部分が気になって粗探しみたいになっちゃうからニュートラルに見れる第三者が必要なのよ」

 

「ん? 役者ってもしかしてかなちゃんの演技をチェックして欲しいってこと? それこそルビーで良いんじゃ」

 

「違うわよ。私じゃなくて、ルビーの演技を見て欲しいの」

 

「ルビーの?」

 

 ルビーに目を向けると、彼女はもじもじと恥ずかしそうに身を捩ってから、覚悟を決めたように両手の拳を握りしめ一つ頷いた。

 

「とにかくやってみるから、MEMはカメラお願い」

 

 それね。と指さされたのは事務所でよく使う撮影用の小型カメラだ。

 地面に貼り付けられたバミリが良く映る位置に置かれている。

 なにがなにやら分からないまま、とりあえず私がカメラ前に立つと、ルビーとかなちゃんはそれぞれの位置に移動し、こちらに合図を送ってきた。

 言われるがまま撮影を開始すると同時に、二人の演技が始まった。

 

 

   ※

 

 

「……アンタ、思った以上に吸収早いわね。正直ビックリしたわ」

 

 一通り演技が終わり、一呼吸置いてからかなちゃんが言い、私も手を叩いて同意した。

 

「うんうん。なんか良く分かんないけど上手かったよ。ルビーって歌以外はなんでも器用にこなすよね」

 

「歌以外?」

 

「そうね。歌はいつまで経っても音痴のままだけど、演技はやる度に上手くなってるわ」

 

「先輩はっきり言い過ぎじゃない!? 言うにしても、そこはこう、歌はアレみたいに遠回しに伝えてきて私が引っ掛かりを覚える。みたいなことを数回やってから言うべきじゃない?」

 

「そんなコントやってる時間は無いのよ。とりあえず一回見て、細かくチェック入れていくわよ」

 

「ちょっと待ってぇ! 私結局なんの説明も受けてないんだけど!」

 

 映像を再生しようとするかなちゃんを制して告げる。

 成り行きでつき合ってきたが、流石に事情くらいは教えて貰いたい。

 

「え? ああ、そっか、そうね。何となく分かったでしょうけど、ルビーがスペシャルドラマの主演を賭けたオーディションをする事になったのよ」

 

「ルビーが主演!? すごーい!」

 

「いや、まだ決まった訳じゃなくて。それに正式な奴でもないし」

 

「どゆこと?」

 

「実は──」

 

 首を傾げる私に、かなちゃんが説明をする。その内容を聞きながら、私は顔をしかめそうになる自分を必死に押さえ込んだ。

 

(よりにもよって相手はあかねかぁ)

 

 一部とはいえアクたんが監督を勤めるドラマの主演。

 ブラコンどころか、兄妹の垣根を越えるレベルでアクたんに好意を寄せるルビーとしては、是が非でも主演の座を勝ち取りたいだろう。

 しかし、その意味で言えば、同じくらいアクたんのことが好きであろうかなちゃんは納得しているのだろうか。

 ちらりと様子を窺うと、その視線に敏感に反応し、かなちゃんは小さく肩を竦めた。

 

「今回の役は私とはイメージ合わないみたいだから。譲ってやるわ」

 

「あはは。私の言いたいことよく分かったね」

 

「アンタ、割と顔に出るからね」

 

「え? そう?」

 

 むしろいつも笑顔で誤魔化して、感情が読みづらいと言われるくらいなのだが。

 というか、かなちゃんには言われたくない。

 そっちこそ感情が顔どころか全体のパフォーマンスに直結していて、非常に分かりやすいのに。

 今回に限って私の思いは伝わることなく、かなちゃんはふふん。と自慢げに胸を張った。

 

「そうそう。そして今は黒川あかねとルビー、どっちを応援すれば良いか悩んでるってところね」

 

「それは分かってても言わなくていいよぉ!」

 

 事実ではあるが、その片割れがいる前で言わなくても。

 私にとってルビーは同じB小町のメンバーで、年齢差があっても変に気を使うこともなく、対等に接してくれる大事な友達だ。

 だがそれはあかねも同じ。

 今ガチ同窓会の収録中はもちろん、今でもゆきを含めて、一緒に遊んだり仕事をしたり相談ごとをしあう仲だ。

 どちらかを選べというのは正直難しい。

 

「あはは。ホント分かりやすーい。でも、別に私のことを応援しろなんて言わないよ。ただ、毎日じゃなくて良いから、時間のあるときにこうして練習につき合って欲しいの」

 

「でも私、演技のことはぜんぜん分かんないけど」

 

「さっきも言ったでしょ。視聴者目線が必要なのよ。今回は周りには内緒にしないといけないからね」

 

「あー、そっか。業界的にはこーゆうのタブーなんだっけ」

 

「そ。ある程度事情知ってて口が堅い奴ってことでアンタが選ばれたわけ」

 

「そういうことなら、うん。協力するよ」

 

 元々勝負としては、一流役者であるあかねが絶対的に有利な状況だ。

 心情的にどちらかへ肩入れはできずとも、手伝うくらいしても罰は当たらないだろう。

 

「納得したところで再生するわよ。時間はいくらあっても足りないんだから」

 

 言うなりカメラの再生ボタンを押し、先程も見た映像が流れ始める。

 五分程度で終わる短い内容だが事情を知ってから改めて見ると、かなちゃんとルビーの差は如実だ。

 

 そういえば、東京ブレイドの舞台を見に行った際も、一人だけ微妙な演技をしている人がいた。

 周りが上手いからこそ、余計に浮き彫りになってしまい、正直可哀想な気もしたが、彼の場合は自分の見せ場の最後だけ感情の乗った演技を見せたことで全体的な印象の悪さを払拭できていたが、この短さではそれも難しい。

 それでも、ルビーの芝居がある程度見られるのは、画面に映る彼女がとても可愛く映っていたからだ。

 

 あばたもえくぼではないが、見目麗しい人がすることは、どんなものであれ何となく正解のような気がしてしまうあれだ。

 とはいえ、外見の整ったアイドルや女優なら誰でも同じことができるかと言えばそうではなく、ルビーの場合は特にそれが顕著なのだ。

 

「ど、どうかな?」

 

 再生終了後、おずおずと切り出すルビー。

 

「技術的には言いたいこと無限にあるけど、とりあえずカメラ演技は出来てるわね」

 

「そうそう。ルビーってホントカメラ写りいいよね。すっごく可愛いよー」

 

「えへへ。結構難しいって聞いてたけど案外出来るもんだね。本当はこれがライブでも出来れば良いんだけど、やっぱりステージ上だとどの角度からでも可愛く見えなきゃいけないから難しくて。でもよく考えたら、こっちはたった一人カメラに可愛く思って貰えばいいんだから、そんなに難しくないの当然だよね」

 

 さも当たり前のように言うルビーに、ゾクリと冷たいものが背筋を伝う。

 それは言うほど簡単なことではない。

 特にステージ上でどの角度からでも可愛く見えるなんて、実質不可能に近い。

 

 私自身、ステージ上では暴走しがちな二人のフォローに回るため、なるべく俯瞰的に見ようとしているが、自身のパフォーマンスやダンス、歌との兼ね合いもあってまともに出来ているとは言いがたく、まして観客の視線にまで気を配ることは出来ない。

 それはカメラで撮影するMVや配信でも同じことだ。

 全力でこなすことで、カメラの向こうのファンに可愛く見えたらいい。と祈るので精いっぱいだ。

 

 だが、よく考えればルビーは宮崎で撮ったあのMVでもそうだった。

 誰かに訴えるようなあの眼差しはカメラではなく、画面の向こう側にいる視聴者に直接爪痕を残していた。

 あの時限定のものかと思っていたが、その才能が演技の場でも発揮されるというのなら……

 

「アンタ……」

 

 かなちゃんも私と同じことを考えたのだろう、ルビーを前に言葉を失った。

 そんな空気を察したのか、ルビーは自分の眼前で大げさに手を振る。

 

「なんてね、うそうそ。実は今日まですごい練習してきたんだ」

 

 コロリと表情を変えて笑うルビーを見て、何故かほっとする。

 

「だ、だよねー。びっくりしたぁ。でもあれだね、この台本ちょっと分かりづらいっていうか、なんか台詞回しとか変なところあったよね?」

 

 ついでとばかりに、さっきの演技を見て最も気になったところを告げる。

 芸能人二人の掛け合いがメインの場面なのは分かるのだが、互いがどういう立場なのかが不鮮明で、喧嘩をしている場面もあるがどんな理由でもめているかも分からないのだ。

 

 かなちゃんが演じた側は真に迫った演技で気にならないのだが、ルビーはその辺りがたどたどしいというか、考えながら言っているように見えて、それこそ演じているのが明らかで気になってしまった。

 

「それはあれよ。名前とか立場とか変更して台本の方イジってるからでしょ?」

 

「え? そうなの?」

 

「だってこれドラマの台本でしょ? 私たち関係者じゃないんだから、内容ばらす訳にはいかないってこと」

 

「あ、そっか」

 

 色々緩いところのある芸能界だが、守秘義務に関しては厳しいのは企業案件の配信で何度も経験していたので納得したが、ルビーは小さく頭を振ってそれを否定した。

 

「ううん。そうじゃないよ、この台本は本番では使わないやつだから。役名とかを隠しているのは別の理由……」

 

 小さく笑うルビーは、一度目を伏せ、それから何かを決意したようにかなちゃんと私を順繰りに見た。

 

「さっきのカメラ写りの話、あれを言って実行してたのは、私じゃなくてママなんだ」

 

 神妙な顔つきになったルビーは、表情と同じくらい真剣な声で告げた。

 そんなルビーの態度に、私は恐る恐る確認する。

 

「……ママって、ミヤコさん。じゃないよね?」

 

 プライベートなことなので、これまで触れないようにしてきたが、双子とミヤコさんは血の繋がった親子ではない。

 名字も違うし顔つきも似ていない。

 なにより、二人がミヤコさんのことを母と呼んでいるところを見たことがない。

 関係が良好なのは誰が見ても明らかだというのに、あえて呼ばずにいる以上、二人にとって本当の母親と言うべき誰かが他にいるのだろう。と漠然と察してはいた。

 

「うん。ミヤコさんは大切な家族だけど。私のママは別の人」

 

「ちょっと待ってルビー。これ、私たちが聞いて良い話? 今まで黙ってたってことは、なんか言えない事情があったんでしょ?」

 

 話を続けようとするルビーをかなちゃんが遮る。

 

「うん。でも、本番と違う内容だとちゃんとした練習にならないかもしれないし。それに、この話はもう少ししたら、週刊誌に載ることになるから。二人にはその前に聞いて欲しい」

 

「私たちに?」

 

「そう。私にとって大事な友達で、一緒に苦労してきて、これからも同じ夢を見る仲間だから」

 

 真剣なルビーの言葉に、かなちゃんは小さく頷いてから確認するようにこちらを見る。

 当然私も頷き返した。

 

「分かったわ。聞かせてちょうだい」

 

 かなちゃんが言うとルビーは背筋を伸ばし、それを見て私たちも自然と同じように聞く姿勢を取った。

 

「十七年前、十六歳で私たちを生んだママは、アイドルだった」

 

 十七年前に十六歳。

 かなり若くして生んだことになるが、それ以上にアイドルという言葉に息を呑む。

 十六歳のアイドルが、妊娠出産なんて確かに大スキャンダルだ。

 二人が内緒にしていた理由も分かる。

 

(あれ。でも、十七年前って……)

 

 私が小学生の頃に居たアイドルと聞いて一人の人物が思い浮かぶ。

 まさかそんな。

 でも、それなら現在双子の親が居ないことも、苺プロのミヤコさんが面倒を見ている訳も、なにより双子が生まれ持ったスターとしての才能にも理由がついてしまう。

 ゆっくりと息を吸ってから、覚悟を決めたルビーが答え合わせと言うように、口を開いた。

 

「元祖B小町のセンター。星野アイが私たちのママなの」

 

 誰より鮮烈に、なにより美しく輝き続けた、完璧で究極なアイドルの姿が、私の脳裏に瞬いた。 




ちなみに公民館については、アクアに個人間オーディションのことを知られたくないルビーがフリルから人目に付かない練習場所として紹介してもらいました
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