【完結】推しの子if ~あかねちゃんと一緒にアクアを救おうルート~   作:日ノ川

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冗長になるので、演技自体の描写は省いていますが、ここで二人が演じている諍いは原作にあったアイとニノではなく、他のメンバーとのものになります
ニノとの喧嘩は本番に入るので似たようなやり取りはいらないだろう。とカットされた台本という設定です


第37話 成長性

「……私の、勝ち」

 

「うん。私も自分が勝ったと思う」

 

 五セット目が終わり、互いに自分に投票してドローとなった勝負終了後、私は素早く台本を取った。

 十五分と決められた休憩時間を利用して、演技の修正を行うためだ。

 

(やっぱりあかねちゃんはすごい)

 

 台本を見ながら、つい今し方の勝負であかねちゃんが演じた姿を思い出す。

 身長も顔立ちも声も、全然違うはずなのに、そこにママがいるかのように錯覚してしまうような。

 今ガチで最初に見た時とも、勝負が始まる前の雰囲気とも違う、より星野アイに近づいた演技だった。

 これが天才女優の本気。

 

 かな先輩もすごい女優なのは間違いないが、先輩はあくまで自分を全面に出した上で演技するのに比べて、あかねちゃんは役に成りきる演技をする。

 どちらが良いのか私には分からないが、少なくとも今回のように実在の人物を演じる場合、正解となる本人がいるのだから、そちらに合わせた方が良いと思うし、私はそうなるように練習を続けていた。

 その意味で、あかねちゃんはアイを完璧にトレースしている。

 ママの娘であり、一番身近で星野アイという伝説のアイドルを見続けてた私よりも遙かに上手く。

 だけど、あかねちゃんにも付け入る隙はある。

 

 確かに、アイドルとしてのアイの演技は実の娘の私でさえ真似できないくらい遙かに上だ。

 でも、私はあかねちゃんより素のママのことを良く知っている。

 つまり、B小町のアイとしてではなく、星野アイとして日常の中で見せていた、素のママを、あかねちゃんは知らない。

 その分だけ役作りに関しては私に分がある。

 

 あかねちゃんもおにいちゃんから話を聞くことは出来るだろうが、おそらく今回は聞いていない。

 あかねちゃんの演技に、ところどころママがしそうにない違和感があるのがその証拠だ。

 だけど。

 ここに至って私は、正解をより深く知っていることと、それを出力できることは違うのだと気づかされた。そして本物の天才ならば、役を完全に理解する必要すらないのだと。

 

 あかねちゃんの演技は確かに少し違和感がある。

 だが、それを補ってあまりある演技力によって、違和感を強引にねじ伏せている。自分の演技こそが正解だと言わんばかりに。

 なんて大人げない。

 ずるい。

 そこまでして勝ちたいのか。

 等々。

 いろいろ言いたいことがあった。

 

 同時に、あかねちゃんが私に先行を譲った理由も、今更気づいた。

 同じ台本の役を入れ替えて交互に演じる今回の勝負、どちらが先にアイ役を演るか決める際、あかねちゃんは私に先行を譲ってきた。

 アイ役を勝ち取るためのオーディションである以上、一回でも多くアイ役を演じられる方が有利と思ったがそうではなかった。

 

 あかねちゃんはさっきからずっと、私の演技を見た上でそれをブラッシュアップしたような演技を見せてくる。

 私の問題点を直す演技を見せつけることで、力不足だって言いたいのだろうか。

 そこまでされると、今更先行後攻を逆にしてとも言いづらい。

 だったら。

 

(あかねちゃんのやり方を真似する)

 

 違和感のありつつも圧倒するほどの演技を真似て、そこに私のママへの解釈を乗せる。

 もちろん、天才女優であるあかねちゃんの演技を真似するのは簡単なことではないが、頭の中にあるママの姿をそのまま出力するよりはずっと簡単なように思えた。

 だって、この一ヶ月間、私はずっと人の真似をし続けてきた。

 カメラ演技のことなど何も知らない素人だった私に教えてくれた人が皆、私のお手本だったからだ。

 

 特訓が始まる前から、みなみちゃんにカメラ写りに関する技術を。

 フリルちゃんからは演技の基礎と共に技術とはまた違う、己の個性を見つめ直し、それを外連味として放出し注目を集める術を。

 MEMちょからは俯瞰的にものを見る方法を。

 そしてなによりも、私にとってはあかねちゃんと同等の天才女優有馬かな先輩から、マンツーマンで指導を受けていた。

 

 その時間を作るために、ミヤコさん……おかーさんにも迷惑を掛けている。

 それもこれも、すべてはここであかねちゃんに勝って、主演の座を掴み、おにいちゃんたちを止めるため。

 ならば出来る。

 私には出来る。

 出来ないといけない。

 

「よし」

 

 あかねちゃんの演技を想い描きながら、それを自分なりにトレースしてみる。

 頭の中で最初から一通り演じ終えた頃合いを見計らったかのように、あかねちゃんから声が掛かった。

 

「準備は良い?」

「うん」

 

 

   ☆

 

 

(良かった。気づいてくれたみたい)

 

 六セット目が開始されてすぐ、ルビーちゃんの演技が変わっていることに気づき、心の片隅で安堵する。

 これまでルビーちゃんは、自分の母親である本物の星野アイをそのまま出力しようとしていた。

 しかし、それは悪手だ。

 というより、そんなことが出来れば苦労はない。

 私も原作のある作品に出演する際、登場人物が憑依しているみたいだと言われることがよくあるが、本当に役に成りきっているわけではなく、あくまでキャラクターがどんなことを考えているか推察し、それを自分なりに解釈して演じている。

 それが私の役作りの基本だ。

 

 でもルビーちゃんは、本物の星野アイを誰よりも知っているからこそ、それをそっくりそのまま演じようとしていた。

 例え、ルビーちゃんにどれだけ才能と経験があったとしてもそんなこと出来るはずがないのに。

 いくら娘とはいえ、結局アイとルビーちゃんは別人なのだから。

 

 最近ちょっと演じ方が子役時代に戻りつつあるとはいえ、基本は未だ適応型の演技をするかなちゃんから教えを受けたのなら、その辺りのことも説明があったと思うが、なまじ私がアイの物まねから入ったことで、より真に迫ったアイを演じなければ勝てないと思いこんでしまったのだろう。

 それでは勝てないと知らせるために、ルビーちゃんの解釈部分に狙いを絞り、力の差を見せつけて間違いに気づかせようとしたのだが、五度目にしてようやく成功した。

 

(でも、私の演技に寄せてくるのはちょっと予想外だったかな)

 

 てっきり師匠であるかなちゃんの演技を真似るかと思っていたのだが。

 とはいえ、これはこれで悪くない。

 いや、私の狙いを考えるとこちらの方が都合が良い。

 後はルビーちゃんが何回食い下がれるかだが。

 その心配に関しては、杞憂のものとなった。

 

 

   ※

 

 

「私の、勝ち」

「ううん。私の勝ちだよ!」

 

 朝から始めたこの勝負が、夜まで続くことになるとは思っていなかった。

 それでも、ルビーちゃんの気力は一向に衰えない。

 気力だけではない。

 私だって、繰り返し同じ場面を演じ続けたことで、微妙に精細を欠いているのが分かるというのに。

 

 ルビーちゃんは逆に、演る度にどんどん演技が良くなっている。

 私の真似から入った演技は、途中、かなちゃんや他の誰かの真似とおぼしき演技まで取り込み、やがて人真似を超えて、星野ルビーの演技として完成に近づき始めた。

 もちろん技術面で言いたいことは多々あったが、私はそれを演技の形で伝え、ルビーちゃんもそれを受け取って更に自分を高めていく。

 

 今の勝負だって、私が勝ったと思うが、それでも審査員が複数いれば中にはルビーちゃんの方が良い。と言う人が出てもおかしくないくらいには拮抗し始めている。

 

(才能がある子っているんだなぁ)

 

 流れる汗を拭う時間も惜しいとばかりに、書き込みだらけになった台本と向かい合うルビーちゃんを見ながら思う。

 彼女がこんなにもこの役に固執しているのは、母である星野アイ役を誰にも譲りたくないからでも、大好きなアクアくんが監督を勤める作品だからでもないと今更気がついた。

 ルビーちゃんはきっと、私たちの復讐を止めようとしている。

 カミキヒカルはルビーちゃんにとっても仇のはずだが、死んでいることで溜飲が下がったのか、それとも復讐心よりもアクアくんが傷つかないことを選んだのか。

 

(それだと計画のかなり深いところまで知ってることになるから、誰が漏らしたのか気になるけど)

 

 アクアくん本人、ということはないだろうから計画を知っている者。

 現時点で可能性があるのは三人だけ。

 斉藤さんは無いだろうし、鏑木さんもわざわざアイの情報を送ってきた以上、私に勝って貰いたいと考えているはずなので除外する。

 そうなると残るは五反田監督だけだ。

 

 勝負の土台となる台本を用意したり、ルビーちゃんを第二候補に推したりと、精力的に動いているあたり一番怪しいのは間違いないのだが、どうもしっくり来ない。

 第一、アクアくんを止めることが目的なら、それは──

 

「あのう」

 

 背後からおずおずとした声が掛かって、振り返る。

 扉が少しだけ開き、その向こう側に職員らしき女性が立っていた。

 その気まずそうな態度で何を伝えにきたのか、すぐ分かった。

 

「あ」

 

 時計に目を遣ると、案の定予約された時間、というより公民館そのものの閉館時間まで後少しに迫っていた。

 事前に声掛けしてくるのは、時間ピッタリに営業を終了させたいからだろう。

 行政の箱モノにはありがちな正確性だ。

 

「ごめんなさい。時間までに出ますから後少しだけ」

「え? あ! はい。分かりました」

 

 私の顔を見て、驚いたように姿勢を正してから、職員さんは立ち去っていく。

 しまった。変装を忘れていた。

 なんだか芸能人が自分の顔を使って特権を振りかざしたようで良い気はしないが、ここで止めるわけにはいかないので結果オーライということにしておこう。

 ため息一つ落として室内に戻ると、ルビーちゃんは変わらず台本に向かってぶつぶつ小声で呟いている。

 私と職員のやりとりにも、気づいてないみたい。

 すごい集中力だ。

 

「ルビーちゃん。そろそろ閉館だって」

 

 近づいて肩に手を乗せて言うことでようやく反応し、顔を上げる。

 

「え? もう!?」

「そ。だから、次が最後の勝負だね」

 

 何度でも相手をするとは言ったが、物理的な時間の問題は如何ともしがたい。

 今までは勝敗に関して嘘を許してきたが、次はそうはいかない。

 ただでさえスケジュールに遅れが出ていて、鏑木さんとしては早く主演を決めたいだろうし、私のスケジュール的に次の休日はかなり先になる。

 つまり次のセットで正式に決着を付けなくてはならない。

 ルビーちゃんも私の言いたいことが分かったらしく、神妙な顔で頷いた。

 

「分かった」

 

 台本を置き、目を伏せたルビーちゃんは集中するように呼吸を整える。

 やがて。

 

「勝負だよ。あかねちゃん」

 

 目を開き、力強く私を指さす彼女の瞳は、自信に満ち充ちていた。

 金田一さん曰く、人を騙し、嘘を真実だと思わせる力を持った瞳。

 私ともかなちゃんともアクアくんとも、かつての星野アイとも違う。

 誰の物まねでもない、星野ルビーの瞳だ。

 

 ぎりぎりだが、間に合った。

 足りなかった最後のピースを埋めるために。

 

「相手になるよ。ルビーちゃん」

 

 最後の勝負が始まった。




ちなみにルビーがあかねの演技に違和感があると言っていますが、これはあかねが解釈をミスったわけではなく、アイの素の部分として参考したのが、ルビーが見てきたママとしての星野アイか、鏑木Pが見ていたデビューしたてのプロ意識の低い芋娘と呼ばれた頃のアイを参考にしたかの違いなので、現状どちらが正解とも言い難い感じです
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