【完結】推しの子if ~あかねちゃんと一緒にアクアを救おうルート~   作:日ノ川

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前回からの続きですが、ここから新編に入ります
ちなみにミヤコさんはルビーとあかねの個人間オーディションが行われることは知っていました
前話でアクアを監視していたのは二人に連絡しないようにさせる意味もあった感じです


キャスティング編
第41話 家族会議


 その後、しばらく経ってようやく落ち着きを取り戻した私たちは、交代で顔を洗うことにした。

 

 私の方が時間が掛かるのだからと、アクアを先に行かせようとしたのだが、気恥ずかしさを誤魔化すように追い立てられ、仕方無しに出来るだけ急いで戻ることにして洗面台に向う。 

 準備を整えてリビングに戻るといつの間にか、ルビーが帰宅していた。

 

「なんだ。その顔」

「おにいちゃんこそ」

 

 まだ私が戻ったことに気づいていない二人が憮然とした態度で言い合う様を見ながら、その微笑ましさに苦笑する。

 同時にアクア同様、ルビーの目元も、はっきりと分かるほど赤くなっていることに気付く。

 あの子が今日、誰と何をしてきたか事前に聞いていた私はそれだけで勝負の結果を理解した。

 

 今のルビーならもしかして。と少し期待していたが、そう上手くはいかなかったらしい。

 それとも黒川さんのアクアへの想いが予想以上だったのか。

 どちらにせよ、最も重要なキャストである主演のアイ役が決まったことで、ドラマ撮影は一気に進む。

 それぞれの事情で疲弊しているため今日はゆっくり休ませて上げたいが、そうもいかない。

 直ぐにやらなくてはならないことが残っていた。

 

 気合を入れ直して、リビングのドアを開くと、その音でルビーが反応し、こちらに笑顔を向けた。

 

「あ、おかーさん、ただいまー。ねえねえ、おにいちゃんと何があったの?」

 

「余計なこと言うな」

 

「だってぇ」

 

 じゃれあいを続けながら、二人が同時に私を見て、ピタリと動きを止める。

 

「何よ?」

 

「家の中なのに!」

「メイクばっちりじゃねぇか!」

「そんなことないわよ」

 

 しれっと返す私を前にルビーは子供のように頬を膨らませた。

 

「あるよ! えー、せっかく三人お揃いになると思ったのにー」

 

「そんなお揃い冗談じゃない。そっちこそ、アイドルなんだから、もうちょっとなんとかしろよ」

 

「それを言ったら、アクアもでしょ? 芸能人なんだから、ちゃんとケアする!」

 

 ブーブー言っている二人をリビングから追いやった後、テーブルの上に置きっぱなしになっていたスマホを操作して、B小町とアイのワードで検索する。

 やはりというべきか、壱護は見事炎上していた。

 

 元事務所社長でありながら、アイの悲劇を止めることもできなかった無能。

 同じく事務所に所属していた元B小町メンバーによる今回の事件にも関わっているのではないか。

 いや、単なる便乗で金稼ぎをしようとしているだけだ。

 等々。

 

 それだけならまだ予想の範囲内だが、拡散速度は凄まじく、既に炎上の火の粉は監督として指名されたアクアにも飛び火しかけていた。

 やはり明日まで待ってる余裕は無い。と私は眉を寄せながら、事前に用意してあった文章の画像を事務所の公式アカウントに張り付ける。

 内容は先ほどアクアに語った既に壱護が自分たちとは無関係であり、ましてアクアの移籍など聞いていないし、本人も否定しているというものだ。

 

「……」

 

 投稿(タップ)する直前、一瞬だけ躊躇する。

 これを押してしまったら、もう後には引けない。

 アイの復讐計画だけでなく、壱護と私の関係も。

 一度は夢を失い堕ちかけていた私を救い、新しい夢を見せて再び立ち上がらせてくれた人。

 これまで、ずっと離婚せずにいたのは、もしかしたらいつかまた戻ってきて、同じ夢を見れる日が来るかもしれないと思っていたからだ。

 でも。

 

「あの子たちの為だもの。……貴方もそうでしょ、壱護」

 

 躊躇したのはほんの一瞬だけだった。

 

「よし」

 

 気合いを入れ直すために、頬を張ろうとして、手を止める。

 

「化粧崩れちゃうわね」

 

 せっかく隠した涙の跡も。

 せめて、心の中でだけ新たに決意を固める。

 大切な私の子供たちを守るために。

 

 

   ※

 

 

 ケアを終えて二人が戻ってきた後、仕事の話ということで、自宅から事務所に移動して、私たちは今後の苺プロの戦略会議を開始した。

 

「というわけで、私の素早い対応のお陰で、炎上したのは壱護だけで済んだわ。アイツが何でこんなことをしたかは説明しなくても良いわね」

 

 ずっと壱護を敵視していたルビーを見る。

 

「……うん」

 

 ルビーはアクアの計画も知らなかったはずだが、ネットニュースの内容を見ても反応しないところを見るに、黒川さんから事情を聞いているのだろう。

 一つ頷き今度はアクアを見る。

 

「アクア、後で撮影するわよ。文章だけだと信じてくれない人もいるだろうし」

 

「いいけど、明日にしてくれ」

 

 目元に手を添える。

 ケアが施されてはいるものの、やはり目元は腫れたままだし、瞳も充血している。

 確かにこの状態で撮影すると逆に勘ぐられかねない。

 

「そうね。じゃあ、とりあえず今の状況と苺プロのスケジュールについて確認しておきましょう」

 

 ホワイトボードに現在決まっていることを書き連ねていく。

 

「アイのドラマ撮影に当たって、総監督に五反田監督。制作会社は壱護が起こした新会社。ただしスタッフに関しては外部から集めた人材に依託って形になるから正社員はアイツ一人」

 

 この辺りは今後の話し合いで決定したという体を取ることになるが、すでに内々に話は進められているため問題なく決まるだろう。

 

「当然、アクアが移籍する話も無し」

 

 良いわね。と言うように視線を向けると、アクアはバツ悪そうに頷いた。

 

「あったりまえでしょー。私に内緒で移籍しようなんて。アクアはずぅーと私たちと苺プロで役者やるんだから。ね?」

 

「ええ。で、最終的にはアイツの里子としてじゃなく、五反田監督の弟子として、いくつかのシーンで監督として起用されることになる、と」

 

 アクアの名前の横に監督と付け足す。

 その下には暫定キャスティングの役名がずらりと並んでおり、アクアの名前は犯人役の隣にも書いてある。

 ここまでは決定事項。

 次に確認するのは。

 

「……主演は」

「あかねちゃんだよ」

 

 私の声を遮るように、ルビーが言う。

 泣きはらした瞼で分かってはいたが、やはり勝負はルビーが負けたようだ。

 力強い声は、無理をしているのが明白で思わず抱きしめて慰めたくなるが、今はできない。

 アクアだけは勝負のことを知らないためか、ルビーに何でお前が言うんだ。とでも言いたげな目を向けているが、余計なことを言う前に話を進めた。

 

「黒川あかねさん、と。これはまだオフレコだけど、アイ以外の元B小町役に現B小町、つまりルビーたち三人を起用する話も来ているわ。ただ、誰がどの役をやるかは少し考えさせて欲しいって伝えてある。アイのこと結構強めに罵倒する役目もあるし、なにより──」

 

「あの人の役か」

 

 カミキヒカルを殺害し、現在裁判待ちの状態であるニノこと新野冬子もまた、元B小町である以上、作品に登場する。

 

「ええ」

 

「というか、初めから登場させないってやり方は?」

 

 アクアの言うように、存在自体をカットして、いないものとして扱う方法もある。というか、それが正しい選択だろう。

 色々言う者は出てくるだろうが、裁判前で容疑者の段階とはいえ、殺人をしたこと自体は本人も認めている。

 事件を起こした役者が出ているドラマの再放送で、その人物が登場した回だけカットして放送することがあるように、大半の視聴者はカットされた理由を察してくれるに違いない。だが。

 

「ダメだよ、そんなの。理由はどうあれ、あの人は私たちに代わってママの敵を取ってくれた人なんだから」

 

 キッパリ言うルビーに、アクアは眉間に皺を寄せたが、反論はしない。

 アクアとしても同じような気持ちがあるのだろう。

 

「そうね。どんな事情があるにせよ。一度は苺プロに所属していた仲間であることは変わらない。決めるのは私たちじゃないけど、少なくとも事務所として反対はしないわ」

 

 これは壱護とも事前に話し合って決めていた。

 

「そうだよ。なんならその役は私が──」

 

 立ち上がったルビーが、自分の胸に手を当てて立候補しようとした瞬間。

 

「ダメよ」

 

 私たち以外の声がそれを遮った。

 声は事務所の外から聞こえてきた。

 その聞き覚えのある声に、眉を顰めたまま鍵を開ける。

 扉の向こうにいたのは、想像したとおりの人物だった。

 

「有馬さん」

 

 急いで来たのだろう。

 額に浮いた球のような汗を乱暴に拭いながら、私を見上げていた。

 

「ど、どうもー」

 

 その後ろからメムさんもこっそりと顔を覗かせた。

 

「お前ら……」

「どーしたの二人とも」

 

 背後で二人も驚きの声を上げる。

 どちらかが呼んだということはなさそうだ。

 

「どうしたの? アクアの話なら明日するって言ったでしょう?」

 

 思い当たることと言えば、先ほどアクアに掛けてきた電話だ。

 明日説明すると言って納得させたが、アクアに恋慕を抱いている有馬さんのこと。

 アクアが苺プロを移籍しないように大急ぎで引き留めにきたといったところか。

 

 メムさんはその付き添いか、それとも彼女に無理矢理つれて来られたか。

 そんな私の推論に、しかし、彼女は小さく首を横に振って否定した。

 

「そのことではないです」

 

 きっぱり言い切った後、視線が向かった先はアクアではなくルビーだった。

 ルビーが連絡したのかと私も同じように目を向けるが、不思議そうに小首を傾げているだけで少なくとも本人が連絡したわけではなさそうだ。

 

「……結果は黒川あかねから聞きました」

 

 二人には聞こえないような小声に、やっと意図を察することができた。

 有馬さんは、この一ヶ月ずっとルビーの稽古をつけてくれた演劇の師匠のような存在、結果が気になるのは当然だ。

 いや、結果を黒川さんから聞いているのなら、直接会いに来たのは、ルビーが落ち込んでいないかの確認と場合によってはケアが必要だと思ったからだろうか。

 どちらにしても、こんな夜更けに駆けつけてくれたことに、ルビーの母親として嬉しく思う。

 

「とりあえず入って」

 

 もう夜十一時を過ぎているため、未成年の有馬さんを事務所に入れるのは良くない。

 壱護の炎上を知ったマスコミが押し掛けてくる可能性もあるからだ。

 長く芸能界にいる有馬さんは、そのことも重々承知しているはず。

 それでもなお、リスクを承知で仲間のために駆けつけてくれた彼女たちの気持ちを無碍にすることはできない。

 いざとなれば自分が呼んだことにすればいい。と二人を事務所内に招き入れた。

 

「話は扉の外で聞かせてもらったわ」

 

 二人の前に立った有馬さんは胸を張って告げる。

 

「堂々と盗み聞きを告白してんじゃねーよ」

 

 ケアしたとはいえ、泣きはらした目を見せるのが恥ずかしいのか、ぶっきらぼうに悪態をつきながら、アクアはそっぽを向いた。

 

「いやいや。ほんと偶然だよ。ほら事務所の外って車庫になってるからさ」

 

 メムさんが慌ててフォローを入れた。

 確かに、自宅と違って事務所の入り口は車庫から直接繋がっている。

 コンクリート造りであることも合わせて音の反響がしやすいのは事実。

 とはいえそこまで大声で話していたつもりはないので、やはり聞き耳は立てていたのだろう。

 

「ルビー。アンタがどう思おうと、世間から見てもその人が殺人をしたのは事実。役者っていうのは、演じる役と少なからず同一視されるものよ。役者以上にファンや顧客に与えるイメージが大切なアイドルが演じるにはリスクが高すぎる」

 

 アクアの悪態は無視して、有馬さんはルビーに言い聞かせるように話しだした。

 

「確かにそうね」

 

 その危険性を失念していた。演技が真に迫っていればいるほど、その傾向は強くなる。

 先ほど自分で語ったように、あの子を自分の母の仇を取ってくれた恩人のように感じているルビーでは確実に演技にもそうした感情が入るだろう。

 演技が下手ならまだしも、今のルビーは有馬さんたちの指導によって、天才女優と呼ばれる黒川さんと競い合うレベルまで成長しているのだから尚更だ。

 

「でも、私は──」

「アンタは! アイを超えるアイドルになるんでしょ!」

 

 まだ反論を試みるルビーを一括する強い声に、ルビーだけでなく私も、そしてアクアもハッとさせられた。

 

「アイドルはファンに夢を見せるのが仕事。そのためなら、自分の気持ちを殺して、嘘を吐きなさい」

 

 言い回しこそキツいが、真理を突いている。

 これは、私が言わなくてはならないことだった。

 かつての仲間であり、私自身、苺プロの夢そのものであったアイの仇を取ってくれたことで甘くなっていた。

 

 せめて、二人が気に病まないよう、彼女の存在をドラマに出さないよう会社として提言するべきか。

 さっきの今で前言撤回するのはなんとも情けない話だが、これも私の見通しの甘さが原因だ。

 一歩前に出ようとしたところで、いつの間にか傍に移動していたメムさんの手がそれを拒む。

 

「メムさん?」

「……」

 

 無言のまま首を横に振り、視線を有馬さんに向ける。

 彼女の話はまだ終わっていない。と言うように。

 それを見ていたわけではないだろうが、有馬さんは落ち込むルビーを元気付けるように明るい声で宣言した。

 

「だから、その役は私がやる。ううん。これは私にしかできない役よ」




現時点でアクアはニノが吾郎やリョースケの事件に関与していることまでは察知していないので、自分より先に復讐を果たした人としか見ていません
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