【完結】推しの子if ~あかねちゃんと一緒にアクアを救おうルート~   作:日ノ川

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前回の続きでかな視点。今回は短めです

ドラマ準備編と言いつつキャスト集めがメインになりそうだったので編名を変更しました


第42話 元祖B小町(初期メン)役

「先輩だって、アイドルじゃん」

 

 頬を膨らませたまま唇を尖らせるルビーは、天真爛漫でともすればちょっとアホの子入っているいつものルビーそのものだ。

 演技のようにも見えないし、本当に切り替えができているらしい。

 

(アクアの移籍騒動で切り替えざるを得なくなった。……違うわね。完全に負けを認めて逆にすっきりしたのかしら)

 

 黒川あかねからルビーのことを頼むと連絡が入った時、私の胸中に去来したのは、やっぱり。とまさか。という相反する二つの感情だった。

 前者は言うまでもない。

 黒川あかねは、私を始め演技をやっている人なら誰もが認める天才だ。

 いくら才能があろうとひと月そこらの特訓で勝てる相手ではない。

 

 だが同時に、星野ルビーは『本物』だ。

 演技どうこうではない。

 母親から芸能人として最も重要で得難い資質を受け継いでいる本物の偶像(アイドル)

 そして演じるのは、誰よりも近く、その気持ちを理解していたであろう星野アイの役。

 

 練習を重ねるごとに、上手くなっていくルビーを見て、私はこの役に限っていえば、そして本番で全ての力を出し切ることができたのなら、黒川あかねにだって勝てると思っていた。

 元からルビーは本番に強い。

 逆境をはねのけ、いや逆境すら力にして練習以上のパフォーマンスを本番で発揮するタイプだ。

 そのルビーが負けた。

 

 それも悔いを残すこともないとすれば、全力を出しきった上で黒川あかねがそれを上回ったのだ。

 本当に、あの女はつくづく天才だ。

 ああいう本物の天才がいつだって、私の欲しいものを持っていく。

 

「先輩?」

 

 思考の海に潜っていたところに声をかけられてハッとした。

 今はそれどころではないと思いなおし、話を再開させる。

 

「──そうね。確かに今の私はアイドルよ。でも私は、タレントの有馬かなはアイドルである前に女優なの。もちろん、これまで通りドーム公演に向けて全力で突っ走るつもり。だけど、私のアイドルとしての夢はそこまで。その後は女優に戻るつもりよ。……社長、いいですか?」

 

 ルビーに向かって滔々と語った後、社長に確認を入れた。

 勢いで宣言してしまったが、私はあくまでアイドルとして契約して苺プロに入った身だ。

 アイドルを辞めるのも女優に戻るのも、勝手に決めて良いことではない。

 

「……ええ、もちろんよ」

 

 少しの間、考え込むように目を伏せていた社長は、それでも優しい微笑みと共に了承してくれた。

 社長には本当に世話になってばかりだ。

 B小町……何よりアクアとルビーの二人と出会っていなかったら、きっとタレントとしての有馬かなは本当に死んでいたに違いない。

 だからこそ、アイドルでいる間に、社長を初めとした苺プロの悲願であるドーム公演だけはなんとしても叶えてみせる。

 

「先輩」

 

 ルビーは眉を寄せ、寂しそうに呟いた。

 場に満ちたしんみりとした空気を吹き飛ばすように、私は努めて明るい演技で続ける。

 

「ようするにアイドルのうちからそういう役をやっていたっていうのは、女優に戻った時に大きな武器になるってこと」

「あー、アイドル上がりの女優ってNG多いって言うもんねー」

 

 こちらの意図をいち早く察したMEMが調子を合わせてくれる。

 

「そ。かといって何でもやりますって営業かけて安売りするわけにもいかないものね。殺人犯の役ってのは私にとってはちょうど良い宣伝になるわ」

 

 しまった。

 言ってから、例の被疑者がアイの仇を取った二人にとっては恩人ような存在だったことを思い出す。

 こんな言い方では、気を悪くするに決まってる。

 私はいつもこうだ。

 自分の気持ちを素直に言えず、悪態を吐いてしまう。

 そのせいで他人も、そして自分も傷つけてしまうと分かっているのに止められない。

 私は本当に──

 

「ハァ。まったく。本当にこの先輩は素直じゃないなぁ」

 

 ルビーの声は呆れこそすれ、怒気は孕んではいなかった。

 

「え?」

「まぁまぁ。それがかなちゃんだから」

 

 MEMも同じような呆れとも苦笑ともつかない笑みを浮かべている。

 

「しょうがない。そんな素直じゃない先輩だからこそ、あの人の役はぴったりかも。ね、お兄ちゃん」

「ああ」

 

 これまでずっと黙って、私たちの様子を見守っていたアクアもまた落ち着き払った声と共に頷いた。

 改めて指摘するのは野暮なので黙っていたが、アクアはその目元同様、声も少しだけ涙で濡れていた。これも黒川あかねとルビーの勝負に関係しているのか、それとも全く別口なのか。

 どちらにせよ、アクアにも何かがあったのだろう。

 私の知らないところで、私とは関係のない何かが。

 ここでもやっぱり、私は蚊帳の外。

 

「確かに、俺もこの役は有馬にしかできないと思う」

「え?」

 

 こんな時に。と思いつつ、アクアの言葉で胸が高鳴った。

 しかし。舞い上がった気持ちは、続く言葉で地面にたたき落とされる。

 

「お前の演技は作品の内容に応じる適応型で、あかねみたいな一人の役に入り込むに没入型じゃない。だからこそ、同一視されづらいだろ」

「……ああ。そういうこと」

 

 私の演技そのものではなく、作風に適応する演じ方が批判を受けづらいからという理由に加え、こんな時でも黒川あかねを引き合いに出されるなんて、本当に惨めだ。

 いや、ちょうど良かったのかもしれない。

 度を越すブラコンのルビーすら負けを認めたのだから、私もアクアを諦める良い機会に──

 

「今から脚本の内容を変える必要が出てきた以上、あの人の役はより重要になる。こうなると俺の知る限り、今のあかねと互角に演れるのは有馬だけだ」

 

 さらりと。

 ごく自然に。

 アクアは言う。

 

「えー。私だってここ最近、すっごいがんばったんだけど?」

 

「俺見てねーし」

 

「なにおぅ」

 

「こーら。やめなさいルビー」

 

「あはは」

 

 あれは私を気遣ったとか、誉めてやる気を出させようとしたわけじゃない。

 その証拠にアクアだけじゃなく、他のみんなも、ごく当たり前のように話を流している。

 これはつまり、アクアの言葉に誰も疑問を持っていないってことだ。

 

 私があの天才に。

 黒川あかねに。

 互角に張り合えると本気で思ってくれている。

 それがたまらなく嬉しい

 

(ホントにもう。コイツらは)

 

 私が諦めようとする度に。

 現実に押し潰されそうになる度に。

 コイツラは私を変にさせる。

 

「~~っ! アンタたち!」

 

「ん?」

 

「そういうわけで、この役は私がやるから、足引っ張るんじゃないわよ!?」

 

 照れ隠しも込めて強い口調で宣言する。

 

「はいはい。大丈夫ですよーだ」

 

「俺はそもそも共演シーン自体無いからな」

 

 我ながらあっさり元気を取り戻した私をどこか呆れたように見ている双子を余所に、おずおずと手が持ち上がった。

 

「あのう。さっきから聞きたかったんだけどぉ」

 

「どうしたの? メムさん」

 

「さも当たり前みたいにB小町がドラマに出ることになってますけど、もしかして私も入ってません?」

 

 MEMの指先がホワイトボードを指し示した。そこには元祖B小町役と書かれたキャスト欄に、私たち三人の名前が並んでいる。

 そんなMEMに、何を今更と言わんばかりに三人が視線を合わせた後、社長が代表して答える。

 

「そうよ? 元祖B小町を現B小町が演じるっていうのが売りの一つでもあるから。まあ、後半は七人に増えるわけだから、そっちも別にキャスティングする必要は出てくるけど」

 

「なら後三人かー。あ、でも入れ替わりもあったよね? それで初期のメンバーが途中でいなくなっちゃって……」

「えぇ? そこまで完璧にしなくても良くない?」

「でもコアなファンはそういうとこ細かいからな。いや、予算を抑えるにはそっちの方が──」

 

 ホワイトボードに記されたB小町メンバーの内、まだ候補名すら書いていない役名を前にアイディアを出し合う私たちに、MEMが爆発した。

 

「話を! 進めないで! もらえるかなぁ! 私、完全初心者なんですけど!? そういうことならもっと早く言ってよぉ。そしたらルビーと一緒に私も特訓したのにぃ!」

 

 MEMの悲痛な叫びが響き渡る。

 

「まあまあメムさん、落ち着いて。一応まだ想定キャストの段階で決定ではないから」

 

「え? あ、そうなんですね!」

 

 社長が取りなすと途端にMEMの瞳が輝くが、当然そうは問屋がおろさない。

 

「ほらメムさんは業務提携とはいえ、FARMさんのお世話になっているんだから、そっちへの報告も必要でしょう? だから後で苺プロから正式に女優業務として依頼を出すから改めて返事をして。ね?」

 

 ニコニコ笑う社長がMEMの肩に置きながら告げる。言外に、断らないわね? という強い意志が込められていた。

 実際それも売りの一つになるのだから、MEMだけ外す訳にはいかないのだろう。

 

「あー、いや、その……はい」

 

 その辺りの理屈も分かっているMEMが、ガックリと項垂れ、諦めたように頷く様を見つつ、私はニヤリと笑って告げる。

 

「じゃあ、今度はアンタの特訓ね」

 

「そうそう。今度は私が教えてあげるよ。MEMちょは私のことを師匠と呼ぶように」

 

「え、演技歴ひと月のくせにぃ!」

 

 私たち三人が、B小町のメンバーで集まってあれこれ話していると、アクアと社長は気を使ったように少し離れた場所に移動した。

 それを目端で捕らえた私は何となく、そちらに目を向ける。

 おそらくルビーを見ているのだろう。

 どこか慈愛に満ちた優しい瞳をしている。

 その視線は、前までの大切な妹を見る目ともどこか違うような……

 

「っと」

 

 私の視線に気づいたアクアはバツ悪そうにそっぽを向くと、誤魔化すようにテーブルの上に置いてあったパソコンを手に取って作業を始めてしまった。

 そんなアクアを、私はこっそり指さす。

 初めてのライブと同じように。

 

 もう分かってる。

 

 アンタとルビーの間には、ただの妹としてじゃなくて、もっと何か私の知らない絆のようなものがある。

 黒川あかねは、お互いを尊重してて分かり合ってる、お似合いの恋人同士。

 それは、どちらも私にはないものだ。

 

 結局私は、アンタの推しの子にも、恋人にもなれないのは……分かってる。

 でも。

 まだもう少し。

 私の心の整理がつくまで。

 

(諦めないことを許して欲しい)

 

 

   ・

 

 

『少年A役』

 

 マルチタレント 星野アクア……決定

 

『元祖B小町・初期メンバー役』

 

 B小町 有馬かな……決定

 B小町 星野ルビー……決定

 B小町 MEMちょ……内定

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