【完結】推しの子if ~あかねちゃんと一緒にアクアを救おうルート~   作:日ノ川

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ここまでがプロローグとなります


第5話 作戦会議

 マスコミの取材応対。

 警察からの情報提出依頼。

 仕事の関係先への事情説明や、今後の対応に関する協議。

 様々な仕事をこなし、くたくたになりながらも、どうにかこうにか、アクアたちが泊まっているホテルにたどり着いた。

 

 体は一刻も早く眠りを欲していたが、二人、特にルビーが心配だ。

 芸能界という特殊な世界で生きている者たちは多かれ少なかれ早熟の傾向があるが、ルビーは芸能界に入って日も浅く、精神的にはまだまだ未成熟の子供。

 そうでなくても宮崎で、偶然遺体を発見するというアクシデントに見舞われてから様子がおかしくなっていた。

 単純に遺体を見てしまったことへのショック以上に、アイのことを思い出してしまったのだろう。

 

 そこに来て、今回の事件だ。

 心穏やかではいられていないはず。

 母親代わりである私が頑張らなくては。

 強い決意と共に体にむち打ち、ルビー用に取った二人部屋に向かうとそこにはなぜか、有馬さんとメムさんだけが待っていた。

 不思議に思いながらも、とりあえず事情を説明する。

 

「対比する為でしょうけど、今のB小町。つまり貴女たちの映像も使わせてくれって依頼がバンバン来てる」

 

「あー、アタシにも色々来てました、全部事務所に聞いてくれ。で通しましたけど」

 

「それで良いわ。もう折角だから、ここぞとばかりに宣伝用の映像渡してやったわよ」

 

「宮崎で撮ったMVがあれば新曲の宣伝にもなったのに、惜しいですね」

 

「まあ、流石に昨日の今日じゃね。面倒に巻き込まれたくもないでしょ? と言うわけで、しばらくの間はB小町としての活動は自粛。それぞれソロで活動してもらうことになると思うからよろしくね」

 

「まー、揃って行動したら絶対事件について聞かれますもんね。でもそうなると、あのMVはどうするんです?」

 

「もちろんお蔵入りなんかさせないわ。そもそも今回の事件に私たちには何の落ち度もないんだから。ただ少し時期を見計らう必要があるわね。アネモネさんには作業はそのまま進めて貰えるよう話しておいてもらえる?」

 

 本来なら社長である自分から伝えるべきなのだろうが、今回の撮影はメムさんの個人的な伝を使用したものであるため、彼女から連絡してもらった方が話が早い。

 

「分かりました。アネモネも拘りたいって言ってたから時間貰えるならむしろ喜んでくれると思います。すっごいの作ってもらって、自粛解除と共に大々的に宣伝しちゃいましょう!」

 

 必要以上に明るく言うのは、彼女なりの気遣いだろう。

 有馬さんもそれに乗っかった。

 

「そーねー。アンタとルビーにとっては、練習時間が取れるのは良いことかもね。MVがバズれば、場合によって新曲の生歌で披露することもあるかもだし。そんなことになったら放送事故だわ」

 

「相変わらず辛辣だねぇ。いやまあ、頑張るけどさ」

 

「ふふ。……ところで、そのルビーは?」

 

 ルビーの名が出たので、これ幸いと訊ねると、二人は途端に表情を変えた。

 やはり何かあったのか。 空気を察したメムさんが苦笑いのまま手を振った。

 

「ルビーならアクたんのところに行ってるんで、問題無いですよぉ」

 

「問題無い? あれがぁ?」

 

 アクアと一緒と聞いてほっとしたかけたのもつかの間、今度は有馬さんが忌々しげに顔を歪める。

 

「ちょっと。それどういう意味? 二人に何かあったの?」

 

「あー。別に喧嘩しているとかでは無いんで大丈夫ですよ。むしろ逆って言うか」

 

「逆?」

 

「行ってみれば分かりますよ。まったく、宮崎でも大変だったみたいだし、アイの大ファンだって聞いてから色々気ィ使ってやろうと思ってたのに」

 

 ぶつぶつと文句をはき捨てる有馬さんの様子にさらに不安が募るが、結局詳しい話は教えてもらえず、そのまま部屋を出た私は、アクアが借りている部屋に向かった。

 意を決してチャイムを押す。インターフォン越しに名乗った私を出迎えたアクアの表情を見て、思わず息を呑む。

 見るからにげっそりとやつれたアクアの様子に言葉を失う。

 

(そうだ。アクアだってまだ十六歳)

 

 アイの死後、PTSDのフラッシュバックで発作を起こしたこともあった。

 カウンセリングに通って完治したはずだが、今回の事件で再びその頃のことを思い出していても不思議はない。

 アクアは精神的に大人だから。と気楽に考えていた自分に腹が立つ。

 とにかく先ずはアクアを休ませないと──

 

「おにーちゃーん。はーやーくー」

 

 背後から気の抜けたルビーの声が聞こえ、伸ばし掛けた手が止まる。

 

「ん?」

 

「良いところに来てくれた」

 

「え、ええ。アクア、貴方大丈夫なの?」

 

「大丈夫じゃない。ルビーを止めてくれ」

 

 声は切実だが、せっぱ詰まった雰囲気はないことを不思議を思っているとアクアはドアノブを握ったまま身体をズラした。

 

「とにかく中に」

 

 なにがなにやら分からぬまま促されて部屋に入る。

 短い廊下を抜けた先にあるベッドルーム。

 シングルなので当然一つしかないベッドの上にはルビーが寝ころんでいた。

 備品であろう枕を抱きかかえたままなにやらその場で足をじたばたと暴れさせている。

 

「ルビー。貴女、なにしてるの?」

 

「あ、ミヤコさん。お疲れさまー。ほらおにいちゃん。早く戻ってよ」

 

「もう、いい加減にしろ。ミヤコさんも来たんだから」

 

「やだ!」

 

「今だけって言っただろ」

 

「今は兄妹として甘えてるからいいの! ほら早く早く」

 

「ハア」

 

 魂ごと吐き出すかのような深いため息の後、アクアがのそのそと歩き出し、ベッドに座る。

 その間だけ身を起こしていたルビーは意気揚々と再び寝転がるが、頭はアクアの太股の上。

 いわゆる膝枕の体勢だ。

 

「なにこれ。どういうこと?」

 

「おにいちゃんに甘えてるの!」

 

「見ての通りだ。なんとかしてくれ」

 

 対照的な声音で言われても、どちらに対してもなんと答えていいのか分からない。

 元々年齢の割には距離間が近い兄妹だったが、最近ではルビー側が思春期らしく無邪気に甘えることはなくなっていたが、それだけ事件の影響が強かったのか。

 

 とはいえ、そこまで深刻ではなさそうなので、下手に刺激するようなことはせず、向かい側に置かれていたイスに腰を下ろす。

 アクアには目線で詫びる。

 彼は小さく肩を竦めて、それを受け入れた。

 

「それで、事務所の方は今どんな感じ?」

 

「まあいろいろ大変だったけど、何とかひと段落って感じね」

 

 先ほどメムさんたちにしてきたのと同じ説明を繰り返してから、あの場では言えなかった話題に触れる。

 

「取材の申し込みも何件か入ってるけど、今のところB小町の後輩として、先輩が起こした事件に対してどう思うかって類のものばかりね」

 

「つまり、俺たちとアイの関係についてはバレてないってことか」

 

「今のところはね」

 

「なんか、含みのある言い方だな」

 

 流石にアクアは鋭い。

 ルビーも母親の件に触れたからなのか、今までアクアの膝の上で蕩けきっていた顔付きを引き締め、視線だけこちらに向けている。

 それでも膝枕の格好は解かないため、微妙にちぐはぐな印象を受ける。

 

「新野さんがずっと黙秘してるのは知ってるわね?」

 

 二人とも無言で頷く。

 動機に関して、アイの敵討ちをしたと宣言したものの、その詳しい理由やアイとカミキヒカルとの関係性、なぜ彼女がそれを知ったかなど事件に関する情報については黙秘を続けているそうだ。

 自分で殺したことを認め、動機についても話しているのに、黙秘を続けているからこそ、過去のアイの事件についても再びスポットが当たり、妙な憶測を生んでいるのだ。

 

「これはまだニュースにも流れてない、ついさっき入った情報なんだけど。あの子、事件の詳細については裁判で全部話すって言い出したみたいなの」

 

「裁判って、それまではずっと黙秘するってことか。でも、警察がそんなの許すか?」

 

「黙秘権は誰にでも認められた権利だもの。もちろん取り調べは続けるでしょうけど、自分たちでも改めてアイの事件についての捜査を始めたみたいよ。私はそれこそ彼女の狙いなんじゃないかと思ってる」

 

「実はカミキがアイの件に関わっている証拠はなくて、警察にアイの事件を再捜査させて証拠を見つけさせようって? ドラマでありそうな展開だな」

 

「茶化さないの。事実は小説より奇なりって言うでしょ。私が心配してるのは再捜査で貴方たちのことまで調べられないかってこと。戸籍は移してあるから大丈夫だと思うけど……」

 

 アイの事件後、双子が詳しく取り調べを受けなかった理由がそれだ。

 二人共、事前に私と夫の里子として戸籍を移動させていた。

 だから公式には、アイが所属している事務所の社長夫妻の子供を、ドーム講演が始まるまで一時的に預かっていた。ということになっているため、二人の素性についてもそこまで調べられることはなかったが、それはアイとはほとんど無関係のストーカーが犯人だったからだ。

 

 だが、今回の被害者、カミキヒカルまで絡んでくると話は別。

 芸能事務所の代表であり、昔は役者だったこの男とアイの関係については私も知らないが、憶測はできる。

 

 多分、二人もある程度は分かっているはずだ。

 警察も同じように二人の素性を詳しく調べられる可能性はある。

 それがマスコミに流出でもしたらどうなるか。

 

「まあ。そういうことで、さっきしばらくの間、B小町は活動自粛してそれぞれソロでの活動をメインにするって話したけど、ルビー貴女はレッスンメイン。学校が終わったらまっすぐ帰宅しなさい」

 

 最悪の状況について考えるのは後にしようと、思考を切り替えてルビーを指す。

 ソロでの活動について、メムさんにはユーチューバーとしての仕事があるし、有馬さんも役者としてのオーディションを受けたり稽古の時間を多めに取るなどしてもらえば問題ないが、現状ルビーはこれといって一人で出来る仕事はない。

 それを利用してしばらく表に出さないでおけば、万が一警察が来たとしても、私が保護者として同行するなりして力になれる。

 

「えー」

 

 案の定ルビーは不満そうだったが、手はある。

 というより、ここに来て新しく見つかった。

 

「文句言わない。アクアも舞台終わってスケジュールしばらく空いてるでしょ。二人ともなるべく表には出ないで自宅待機してて」

 

「俺も?」

 

「当たり前でしょ。ルビーとアイはB小町関係で繋がりがゼロじゃないけど、貴方は基本無関係なんだから。外でアクアが警察から接触しているところが撮られでもしたら、あれこれねつ造されかねないわ」

 

 マスコミ関係者はまだ訴えられないようにある程度真実ベースで書くから対応策も取れるが、一億総監視社会と言われる現在、気を付けるのはむしろ一般人に見つかることだ。

 かつて、アイがたまたま街で会った同級生との写真が拡散されて、様々なストーリーが練り上げられた結果、最終的に淫乱だ何だと誹謗中傷にまで発展したこともあった。

 そうならないようにするには、そもそもストーリーを作らせないことが重要だ。

 

「え。おにいちゃんも一緒なの? ならしょーがないなぁ。私も我慢してあげる」

 

 思惑通り、ルビーは先ほどまでの不機嫌さをどこへ捨てたのか、嬉しそうに言う。

 対照的にアクアはこちらを責めるように見てきたが、今度は目線だけでなく両手を合わせて詫びておいた。

 二人の間になにがあったのかはよく分からないが、これでルビーもしばらく大人しくしていてくれるだろう。

 とはいえ、この対策もあの子が裁判で話そうとしている内容によってはなんの意味もなくなる。

 その可能性は高いように思われた。

 

(妙なことを言われる前に、こっちから真実を公表する手段もあるけど、今の状況でそんなことをしたら売名行為だって思われる)

 

 第一、それではアイの名誉が傷つけることになる上、二人も無事では済まない。

 でも、裁判での発言によってはどのみち……

 答えの出ない問題に悩みながらも、自分のするべきこと、しなくてはならないことだけは初めから理解していた。

 

「あ。でも、それなら久しぶりにみんなでご飯食べられるね。おにいちゃん最近約束破ってばっかりだったし」

 

「舞台稽古が続いたんだから仕方ねーだろ」

 

「言い訳禁止ー。罰として頭撫でて」

 

「お前の頭を撫でるのは罰ゲームってことになるけど良いのか?」

 

「揚げ足取るのも禁止!」

 

 じゃれ合う二人を見て表情が弛む。

 絶対にこの二人だけは守り抜いてみせる。

 かつて所属タレントを守れなかった事務所の人間としてだけでなく、この十数年間二人を育ててきた母親代わりとして。

 どんな手段を使っても。

 未だ体は休息を欲していたが、気力に関しては今まで以上に強く沸き上がって来るのを感じた。




書き溜めが尽きたのでここからは数日ごとに投稿します
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