【完結】推しの子if ~あかねちゃんと一緒にアクアを救おうルート~   作:日ノ川

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前回の続きで鏑木Pへの頼み事の話
最新話を見て内容を少し変えましたので本筋まで行きませんでした


第51話 スケジュール変更

「撮影スケジュールの変更ねぇ」

 

「はい」

 

 突然頼みがあると言って現れ、神妙な顔で語るアクアくんを前に、ため息と共に吸っていたタバコの煙を吐き捨てる。

 

「……スケジュール管理は、プロデューサーの一番大事な仕事といっても良い。ここがクダクダだと作品の質に影響するだけでなく、それぞれのタレントへの信頼まで損なう。たった一日ズラすだけでも、タレントはもちろん、スタッフや衣装、撮影スタジオのレンタル、そういったものまで全て一から組み直す必要が出てくるから、そう簡単に出来ることじゃないんだよ?」

 

 嚙んで含めるかの如き丁寧な説明は、実際にはかなり誇張している。

 というよりどんな現場であれ、スケジュール通りに行くことなど殆ど無いと言う方が正しい。

 一つの仕事で何十人、規模によってはそれ以上の人数が関わっているのだから、それらが皆完璧な行動を取れるはずなど無いからだ。

 

 役者としてのみならず五反田くんの弟子としても、それなりに現場を経験していたアクアくんは、そのことも重々承知している。

 その上で敢えて理由として挙げる以上、実際は説明出来ない本当の理由があるのだと聡い彼なら分かるはず。

 そんな僕の思いに反し、アクアくんは真剣な顔をしたまま続けた。

 

「ズラすならそうでしょうけど、元々の予定を入れ替えるだけならなんとかなりませんか? 撮るのは同じスタジオですし、本来予定されたシーンに出演するのはあかねと俺だけだった。彼女は今この撮影に集中してほかの仕事を入れてないから融通は利くはずです」

 

 僕の意図を理解した上での反論は、要するに表向きの理由では納得出来ないと暗に伝えるためのものだろう。

 仕方ない。と諦めの息を一つ落として、アクアくんに告げる。

 

「うん。君たちはそうだろう。でももう一人は?」

 

 二人が問題ないとしても肝心の最後の一人はそうはいかない。

 

「そちらも大丈夫のはずです。だって彼女は今余裕あるでしょう?」

 

「そうだね。今回が復帰作で、他の仕事も入れてないんだから、確かに余裕はあるだろう」

 

「だったら──」

 

「ただ、それは理屈の話だ。感情はそんな簡単に割り切れるものじゃない。仕事が無くて融通が利くって理由だけでスケジュールを崩されたら、便利に扱われている。いや、舐められてるって考える。新人や売れないタレントならまだしも、彼女は……片寄ゆらはそうじゃない。SA芸能の稼ぎ頭だ。本人以上に事務所がそんな扱いを許さないだろうね」

 

 そう。

 アクアくんの望みとは、本来中盤以降に撮影が予定されていた、片寄ゆらの出番を直近のあかねくんの撮影日と入れ替えるというもの。

 ただでさえ、大事な復帰作が問題の多い作品になったことに不満を持っているSA芸能にこんな提案をしては火に油だ。

 本人の強い望みで出演を決めた以上、降板は無いと思うが絶対ではないし、何より問題なのは、今後、事務所との付き合いに確実に悪影響が出ること。

 プロデューサーとして認めることは出来ない。

 

「そもそも。僕が君に協力しているのは、君たちの将来性に期待しているから、つまりはいつもの投資の一環だ」

 

 本当はそれだけではなく、別の理由もあるのだが、ここで言う必要はない。

 

「将来、僕らがもっと売れた時のキャスティング戦争で有利にするため、ですよね?」

 

 以前語ったことを当然アクアくんも覚えている。大きく頷いてから続ける。

 

「そう。かつてのアイくんがそうだったように君たちが将来何億という金を動かすタレントに成長する金の卵だと思うからこその投資。ただ、それはあくまで可能性だ」

 

 本当に売れっ子になるか分からないし、そもそも、このドラマ自体危険な賭けであり、下手を打って新野冬子が裁判で出生関係を暴露すれば、全てオジャンになるかも知れない。

 

「対して、現時点で既に売れっ子の片寄ゆらはキャスティングすれば億の金が動く超一流タレント。拝金主義者の僕がどっちを選ぶかは言うまでもないよね?」

 

 以前五反田くんが言っていた言葉を引用して笑いかける。

 もちろんアクアくんにも何か狙いがあってのことだろうが、ただでさえ危険な仕事なのだから、これ以上面倒事はゴメンだ。

 悪いけど話がそれだけならこれで終わり。と短くなったタバコを乱暴に灰皿に押しつけて、立ち上がろうとしたところで待ったが掛かる。

 

「それなら尚更です。これは女優、片寄ゆらの価値を守るためでもある」

 

「……どういうこと?」

 

「彼女にオファーを出したのは鏑木さんですよね?」

 

「ああ。キャスティングは僕がする。それが条件だったからね」

 

 僕の問いには答えずに確認するアクアくんに頷きつつ、話が長くなりそうだと、新しいタバコに火を付けた。

 

「実際に、彼女が出演してくれると思ってのオファーだったんですか?」

 

 煙を吐き出してから、唇を斜めにして笑う。

 

「鋭いね。あの時は復帰するって話も無かったし、ダメもとというか、オファーを出すこと自体に意味があった。だから了承の返事が来た時は驚いたよ」

 

 それも事務所の意向ではなく、本人の希望となれば尚更だ。

 

「その理由は分かってますか?」

 

「姫川愛梨のファンだからだと思ったけど……。その言い方だと違うんだね?」

 

 その場合、脚本内容に文句を付けてくることもあり得ると危惧し、制作側であり、座長でもあるアクアくんにも話していた。

 結局本読みの時に問題が無かったのは、事前にアクアくんが上手く説得したものだと思っていたが、どうやら違ったらしい。

 

「僕は最初、アイのファンなのかと思いました」

 

 その名を聞いて、タバコを持つ手が震えそうになるのを意志の力で抑え込む。

 動揺を顔に出さないまま小さく頷く。

 

「確かに、年齢的にはギリギリそちらの可能性もあるね」

 

 それなら脚本の内容に文句が出なかった理由も説明が付くが、この歯に物が詰まったような言い方は、アイくんのファンでも無かった証だ。

 となると──

 

「どうやらあの人がこのドラマに参加した理由は、アイでも姫川愛梨でもなくて──」

 

「待った。いい。それ以上は聞きたくない」

 

 アクアくんが答えるより一瞬早く、その二人を除き、片寄ゆらと関わりがあった人物と聞いて一人思い浮かび、慌てて止める。

 

「前にも言っただろう? 僕は死者の墓を暴くような真似は好きじゃない。だから、結論だけ聞こう。彼女はこの撮影で何かするつもりなのかい?」

 

 他ならぬ姫川愛梨の息子である姫川大輝の願いだから了承したが、正直に言えば、姫川愛梨と上原清十郎のことを公表することも、個人的にはあまり良い気はしない。

 元劇団の一員としてだけでなく、未だその時のことを悔いている僕の友人、キンちゃんの気持ちを考えると尚更だ。

 だからそれ以上詳しい話は聞かず、死者の墓と告げることで、検討が付いていることだけ匂わせつつ確認を取る。

 

「絶対とは言えません。ただ、あの瞳を見て分かりました。今のあの人は女優じゃなく単なる復讐者だ」

 

「復讐者ねぇ。確かにそれは面倒だ。そういう人は理性より感情を優先するからね」

 

 かつての君のように。と言外に言い含めた。

 少し前までのアクアくんも復讐を成し遂げる為なら、どんなことでもするという覚悟と気概があった。

 しかし、悲しいかな、芸能界という特殊な世界は気持ちだけで出来ることは少ない。だからこそ、彼は一つ一つの仕事を全力でこなして上を目指していたのだ。

 

 対してタレントとして遙か格上の彼女なら、復讐の手段もそれを叶える人脈も多く抱えているだろう。

 だが、復帰作でそんな問題を犯せば、彼女の価値も暴落する。

 僕の思考が、そこまでたどり着いたと理解したらしく、アクアくんはこちらを真っ直ぐ見つめながら続けた。

 

「何か仕掛けてくるとすれば僕との撮影の時。だからこそ、あちらのペースを乱す必要がある」

 

 どんな方法を使うか分からないからこそ、時間を与えない意味でも早急なスケジュール変更が必要だと考えたらしい。

 ただの説得だけなら、プライベートでいくらでもチャンスはあるだろうに。と思っていたが、そういうことなら納得できる。

 

「……分かった。その線で動こう。ただし、今回のドラマは全て斉藤さんが責任を持つことになっている。当然ここでも彼に泥を被って貰うことになるが、いいんだね?」

 

 本来自分がするはずだった責任を、斉藤さんに肩代わりさせていることに思うことがあるのも分かった上での問いに、けれどアクアくんは間を置かず頷いて見せた。

 

「もちろんです」

 

 アイくんに似た輝きを持つ瞳が真っ直ぐに僕を貫いている。

 いや、今日に限って言えば、その瞳はアイくんというより、むしろ……

 それ以上考えるのは止め、彼の瞳から逃れるように僕はまだ半分以上残っていたタバコを灰皿に押しつけた。

 

 

   ☆

 

 

 鏑木さんとの面会後に立ち寄った展望台。

 丸太を組み合わせただけの囲いに身を預けながら、ぼうっと眼下に広がる景色を眺める。

 こんなことをしている場合では無いことは分かっている。

 

 それでも俺は、一人になりたくて、ここに来た。

 景色は良いがアクセスが悪いせいなのか、殆ど人の来ないこの場所は一人で考えごとをするのにうってつけだ。

 

「フッ」

 

 手に持ったヌイグルミに目を落として、自嘲する。

 本当に一人になりたかったのなら、これも自宅に置いてきたはずだ。

 それでも持ってきているのは、もしかしたらあかねが会いに来てくれるのを待っているのかも知れない。

 

 自分で避けておいて情けない限りだが、本心では俺はあかねに相談したいのか。……いや、どちらかと言えば。

 自分で考えた片寄ゆらを止める方法を伝えて、大丈夫だと言って欲しかったのだろう。

 だが、それでは──

 

「おまたせ」

 

 鈴を鳴らしたような綺麗な声が聞こえ、自然と顔をしかめていた。

 その顔のまま振り返ると、不自然に舞っているカラスの羽と、その中心に佇む少女の姿があった。

 

「待ち合わせてたみたいに言うな。疫病神」

 

「ひどーい。私たちが会う場所はいつもここでしょ? 君も私のこと待ってくれてたんじゃないの?」

 

「お前が勝手に来てるだけだ」

 

 吐き捨てるように言って視線を外に戻そうとするが、それを許さない。

 

「ふふふ」

 

「何が可笑しい?」

 

「んーん。いつものキレがないなぁって。でも気持ちは分かるよ」

 

 相変わらず子供らしくない、いやらしい笑みを浮かべたまま、疫病神は続ける。

 

「あの女優さんは君たちの父親のことを知っている。その上で、今のドラマ内容に納得していない。これからの君の出方次第によっては世間に公表しちゃうかもね」

 

「本当に、お前はどっから俺たちのこと監視してるんだ?」

 

 最初はいつも連れているカラスを使って見聞きしているのかと思っていたが、建物の中に入り込むことはできないはずだ。

 もっとも、魂を転生させるという超常的な力を持った者が存在する以上、その関係者だというコイツにも何らかの超能力みたいなものが宿っていてもおかしくないのだから、方法など考えても意味は無い。

 向こうも俺の問いが本気で答えを求めたものだとは思っていないらしく、無視して話を進めた。

 

「だからこそ。君が早めに口封じを考えたのも理解できるし、その為に、あのプロデューサーさんを利用して、操ったのだって仕方ないことだよ」

 

 つい先ほど決まったばかりの内容まで知っていることに眉を寄せるが、どうせその理由も答える気はないだろうと、そこには触れずに答える。

 

「利用しただの操っただの、人聞きの悪いことを。あれは互いに利益がある公正な取引──」

 

「そうかな?」

 

「……何が言いたい?」

 

 含みのある言い方に睨み付けるが、気にした様子もなく続ける。

 

「君は知っていたはずだ。あの人が君たちに協力しているのは、自分の利益やお金のためだけじゃないってことを」

 

「……」

 

「彼は自分が星野アイを劇団に紹介したことを悔いている。そのせいで、彼女が死んだのだと。君はそれを分かっていながら、敢えて口にせず罪悪感を煽った上で、このまま女優さんを放置してはまた同じことが起こるかもしれないと匂わせた。結果、彼は自分の意志で君のお願いを聞いてくれた。これを操っていると言わず何と言うの?」

 

 朗々と長台詞を語る疫病神を眺めながら、やっぱりこいつの気味悪さは子役として十分通用するな。と全く関係ないことを考えていた。

 図星を突かれての現実逃避。という訳ではない。

 

「こんなのカノジョが知ったらどうなるかなぁ?」

 

 反応が無いことに不満を抱いたのか、畳みかけるように煽ってくる。

 これは流石に無視できず、あかねの顔が思い浮かんだ。

 優しく微笑む彼女の姿も、けれど俺の足を止める理由にはなり得ない。

 

「どうもしない。俺がやるべきことはもう決まってる」

 

 柵から離れ、出口に向かって歩き出す。

 そんな俺を観察するように、じっと見つめたまま動かない疫病神の横を通り過ぎたところで、足を止め振り返る。

 

「何してるんだ。行くぞ」

 

「え? 私も?」

 

「当たり前だ。子供を一人でこんなところに置いていけるか」

 

 俺の言葉に、いつもは年齢不相応に醒めて、睨めつけているようにも見える半眼の瞳を、大きく見開き何度か瞬きさせる。

 

「ふぅん? 私を子供扱いするんだ」

 

「お前の中身がどうであれ、体は普通の子供なんだろ?」

 

「……まあ、そうだけど」

 

「だったら、お前みたいな子供を一人で置いて帰ったところを誰かに見られでもしたら面倒だ。これでも芸能人なんでな」

 

 ほら。と再度声を掛ける。

 少しの間、自分の頭上を飛ばせていたカラスと俺の顔を交互に見ていたが、直に無言で俺の側まで近づいてきた。

 表情はすっかりいつもの仏頂面に戻っていた。

 

「そう言うことなら仕方ないね。どうせなら、手でも繋ごうか? 親子に見えるかもよ?」

 

「冗談、それこそスキャンダルだ」

 

「残念」

 

 どこまで本気で言っているのか知らないが、肩を竦める疫病神を見て、ふと疑問が湧いた。

 

「そう言えばお前、名前とかあんの?」

 

 特に興味が無かったので聞いていなかったが、もう俺の前に姿を見せるな。と言ったところでコイツが言うことを聞くとも思えない。

 いい加減呼び方くらいは知っておこうと聞いてみる。

 そんな俺の意図が伝わったのかどうか、少しの間考えるような間が空いた。

 

「──ツクヨミ。とでも呼んでくれれば良いよ」

 

「そうか。行くぞ、ツクヨミ」

 

 つまらなそうにそっぽを向いて、それらしい名前を口にする疫病神、もといツクヨミに声をかけ、改めて歩き出すとあちらも黙って着いてくる。

 

「こういう甘いところは、昔も今も変わらないね」

 

 ポツリと何か呟いたような気がしたが、頭上で空気を読んだように騒ぎ出すカラスの鳴き声でかき消され、俺の耳には届かなかった。




今更ですが原作では主演が素人のルビーだったため撮りが頭から順になっていましたが、このドラマではそうした制約はないので、撮る順番は一部を除き結構バラバラになっています
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