【完結】推しの子if ~あかねちゃんと一緒にアクアを救おうルート~   作:日ノ川

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苺プロでの話
撮影スケジュールが変更した関係であかねに時間が出来たので、午前中はゆきとノブにダンスを教わり、その後苺プロにやってきて仕事の終わったB小町と合流した。という状況です


第53話 ちっぽけな意地

 突然撮影が休みになったとかで、苺プロにやってきた黒川あかねも加わえて行われたダンスレッスンは、日が暮れてからも続いていたが、私たちは午前中B小町の仕事で体力を消耗していた為、休憩を入れることにした。

 そんな中、あかねは一人、休むことなく鏡の前に立ってステップを確認していた。

 

「……あんだけやってるのに、なかなか上達しないわねぇ。大丈夫かしら」

 

 散々茶化した自分が言うのもなんだが、あれほど根を詰めているのを見ると流石に心配になる。

 飲み物を飲みながら呟いた私の声を拾い、隣に立つルビーが胸を張った。

 

「まぁ、アイのパフォーマンスはホンと難しいからねー。子供の頃ずっと見てたけど、動き一つ一つが完璧なのは当然として、元から世界中から愛されるために生まれてきたような人が全力で愛を振りまいてるんだから、いくら素質があっても簡単に真似できるようなものじゃないのは当然っていうか」

 

 ドヤ顔でつらつら語り出す。

 ルビーとアクアがアイの子供だと私たちにカミングアウトしてからというもの、隙あらばこんな感じだ。

 同じく、アイのファンだったというMEMは良く話に乗って、そのまま強火のアイドルヲタトークに移行するのだが、そのMEMが練習直後で体力を使い果たしてダウンしているから、こちらに寄ってきたのだろう。

 

「はいはい、そうねー」

「むー!」

 

 適当にあしらう私に、ルビーは頬を膨らませて飲み物を取りに行ってしまった。

 もちろん私も新生B小町として活動するにあたり、旧B小町のライブ映像などは確認した。

 確かに映像の中のアイは不動のセンターと呼ばれるだけあって、パフォーマンスは群を抜いていたしファンサービスも完璧だった。

 

 ただ私としては、そんなアイのカリスマ性より、あれを間近で見せられ続けた他のメンバーたちに感情移入してしまう。

 特に私が演じるニノは、後から入ってきたアイにセンターだけでなく、ファンや他のメンバーからの親愛も奪われた。

 その時の彼女はどんな気持ちだったのか。

 そして何故、そんなアイの為に殺人まで犯したのだろう。

 実際脚本でもニノがアイに憤りをぶつける場面があるが、基本的には仲間に嫉妬をぶつけられてもめげることなく前を向くアイの無敵さを示すイベントとなっている。

 そのシーンはまだ撮影していないが、前半の山場でもあるので、今からどう演じたものか考えているところだ。

 

「みんなちょっといいー?」

 

 レッスン室の扉の向こうからミヤコさんが声をかけてきた。

 珍しい。

 いつもならノックなんかしないで普通に入ってくるのだが。という疑問は続く言葉でかき消される。

 

「アクアが帰ってきて、ちょっと練習見たいって言ってるんだけど」

 

 キュッと一際大きなステップ音が響いたのち、音が止まる。

 それを合図にして私も慌てて立ち上がった。

 

「ちょっと待ってください!」

 

 一つ叫んで鏡の前に移動する。

 女しかいない空間だったこともあり、格好や髪型などいっさい気にせずにいた。

 着替えなどをしている時間は無いが、流石に髪くらいは整えないと。

 

 そんなことを思いながら鏡に向かっているとすぐ横で、黒川あかねがステップを止め、私と同じように髪を直しているのが見えた。

 先ほどまで、こちらが何を言っても聞き入れず練習を続けていたというのに。

 鏡越しに睨みつけているとあちらも視線に気づいたようで同じくジトリと睨みつけてくる。

 

 更にその横にはルビーが並びなにやら楽しそうに鼻歌交じりに髪を整えている。

 唯一MEMだけはその余裕すらないようでぐったりしたまま動かない。

 

「いいよー」

 

 全員の用意が整ったのを確認後、代表してルビーが答えるとミヤコさんと連れだってアクアが入ってきた。

 仏頂面はいつもと同じだったが、少し髪型が違う。

 なんというか、いつもよりも──

 

「うわー。お兄ちゃんなんか若いね。かわいー」

 

「撮影からそのまま来たからな。つーか若いって、十七に言う台詞じゃねーだろ」

 

「そうねー。でもアンタ、年齢の割におっさん臭いからギャップデカいのよね」

 

「……おっさん」

 

「か、かなちゃん。ダメだよ。アクアくんそのこと気にしてるんだから」

 

「まーお兄ちゃんがおっさん臭いのは、昔からだし仕方ないよねー」

 

 なにやら訳知り顔でニヤつくルビーをひと睨みして黙らせると、話を変える。

 

「俺の話はもう良い。それで、ダンスの出来映えはどんな感じ? カントクから確認して来いって言われてんだけど」

 

 それを受けて、今度はあかねの顔が曇った。

 

「正直まだまだ時間掛かりそうよ。まったく、わざわざ撮影後ろにズラしてもらったのに」

 

「うぅ。ごめんなさい」

 

「まーまー。動き自体はかなり覚えてきてるんだけど。アイの演技を維持しながらやるのに結構苦戦してる感じかなぁ」

 

 すかさずMEMがフォローを入れる。

 元々役にどっぷりと入り込む没入型の役者である黒川あかねだが、今回のアイの演技はそれこそ本人が乗り移ったと紛うほどの出来映えではあるが、それはあくまで演技をしている間のみ。

 

 ダンスシーンのような激しい動きを続けていると踊りの方に意識を割かざるを得ず、そのせいで集中力が途切れて役を演じ続けるのが難しくなってしまうようで、元の性格がアイとかけ離れているからこそそのギャップが大きく目立ち、違和感を生む……意識を行動や状況に合わせる適応型と違って、一点に全ての意識を集中する没入型であるが故の弱点といえるだろう。

 だからこそ、ステップやダンスをきっちり体に染み込ませて、意識しないで踊れるようになれば演技に集中出来るはず。

 今やっている反復練習はその為のものだ。

 

「そうか。……あかね、ちょっと良いか?」

 

 口元に手を当て、少し考え込んでからアクアは視線を下方、恐らくはアクアたちの自宅である二階に向けた。

 

「う、うん。ちょっと行ってくるね」

 

 やや緊張した顔で一声掛けてから、二人は連れだって階段を降りていく。

 

「演技指導かしら?」

 

「さあ? 案外いつまで経っても上達しないから発破でもかける気じゃないですか?」

 

「えー。それはないでしょ。あかねが頑張ってるのはアクたんだって分かってるだろうし」

 

 ミヤコさんも含め四人で雁首揃えて閉まったドアを見ながら語る中、ルビーが口を開いた。

 

「どうかなー。単純にイチャつくつもりかも。撮影始まってから忙しくて二人ともなかなか会えてないみたいだし。もー、いいから練習再開しようよ」

 

 軽い口調に、全員の視線が集まった。

 言っている内容以上にアクアの恋愛話をルビーが当たり前に認めていることに驚いたのだ。

 少し前までのルビーなら、言うにしてもきっと不満を隠そうともせずグチグチ文句を言っていたはずだ。

 これはやはり、完全にアクアのことを諦めたということなのだろう。

 アイ役を兼ねた勝負で負けて以後、一歩引いているのは分かっていたが、ここまでとは。

 

「え、ええ。そうね。黒川さんをセンターとして目立たせるためには、三人のパフォーマンスが揃ってないと意味ないもの」

 

「りょ、了解でーす」

 

 ミヤコさんとMEMもルビーの言葉に合わせて、視線を戻し、元の位置に戻っていく。

 私も続き、練習を再開させたが、ついルビーのことを意識してしまう。

 疲れを感じさせない軽やかなステップは、やけっぱちで踊っている様には見えない。

 アイドル活動を本心から楽しんでいるいつものルビーだ。

 

 簡単に踏ん切りがつく程度の気持ちだった──なんてことはあり得ない。

 アクアとルビーの間には、ただの双子以上の何かがあるのは、同じ人を好きになった私だからこそ見て取れた。

 第一、黒川あかねとの勝負に勝つため、あれだけ努力を重ねていたこの娘の気持ちがそんな軽いものであるはずがない。

 それでも切り替えることが出来たのは、やっぱり。

 

(黒川あかねの想いがそれを上回った)

 

 ルビーが完全に負けを認めてしまうくらいに。

 心の中に、もやもやが溜まっていく。

 このまま私は、何も知らないまま、ただ二人の関係が深まっていくのを見ていることしか出来ないのだろうか。

 いや、そもそももう何もかも手遅れなんだろう。

 もう二人は正式に恋人同士で、私が入る隙間なんて最初から──

 

「有馬さん?」

「え?」

 

「一人だけ遅れてるわよ」

 

「あ、すみません」

 

 謝罪してから、慌てて頭を切り替える。

 生まれた時から芸能界で生き続けてきた私にとって、感情を切り替えるのは慣れたものだが、今日はどうしてだろう。

 いつまで経っても黒い靄が消えることはなかった。

 

 

   ☆

 

 

「ふーん? そうなんだ」

 

 三階にあるレッスン室から二階の自宅兼リビングに降り、俺と片寄ゆらが交わした勝負の内容を聞いたあかねは、案の定というべきか、如何にも不満ですと言いたげに頬を膨らませた。

 

「なんだその顔」

 

 理由はだいたい想像がつくが、とりあえず聞いてみると、今度は唇を尖らせる。

 

「頼ってくれるって言ったのに」

(やっぱそこか)

 

 あの日、あかねと共犯者になってから、俺たちは何かあれば互いに頼り合うことを約束し合った。

 だが今回、俺はその約束を無視して、勝負内容を一人で考えて、交渉も誰にも相談せずに一人で行った。

 俺なりに考えがあってのことだが、それをあかねにハッキリ言うのは憚られる。

 かといって、ここで時間を掛けると本来の相談をしている時間が無くなる。

 覚悟を決め、あかねと向き合う。

 

「悪かったとは思ってる。だけど、最近の俺はどうもあかねに頼りすぎてる気がしてな」

 

「そんなこと──」

 

「いや、頼ること自体はまだ良い。あかねは俺の共犯者だからな」

 

 共犯者と言うと、膨れ面が元に戻り少しだけ機嫌が良くなった。

 そう。あかねは俺の共犯者だ。

 しかし──

 

「けど、これはあくまで俺の復讐。自分に出来ないことを手伝ってもらったり、どうすれば良いか分からないことを相談するのならともかく、なんでもかんでも頼って、決断まで相手に委ねたら、それはもう依存だ」

 

 対等な関係を好むあかねにはこういう説得が聞くだろうと敢えて強い言葉を使うと、あかねの顔色がはっきりと変わった。

 

「うん。そう、だよね」

 

 思った以上の変化を不思議に思いつつも、一気に続ける。

 

「だから主犯として、決断だけは俺がする。もちろん手伝って欲しいところは頼る。実際これからのことで聞きたいこともあるし」

 

 あかねが何か言う前に早口で畳み掛ける。

 ご機嫌取りではないが、あかねは人に頼られることにやりがいを感じるタイプなので、なんでもかんでも自分だけでやるつもりはないと付け加えた。

 そんな俺の言葉をしかし、あかねはどこか上の空な様子で聞いていた。

 

「あかね?」

 

「え? ああ、うん。大丈夫。それで、聞きたいことって?」

 

 スイッチを切り替えたように、いつもの笑顔に戻る。

 何かを誤魔化しているのは明白だが、そこを突いて、これ以上さっきの話が蒸し返されても困る。

 そう。さっきの言葉は別に嘘ではないが、もう一つ、俺個人の感情による理由もあった。

 

(いくら何でも最近の俺は情けなさすぎた)

 

 一番顕著だったのは、復讐を止めるべきか悩んでいる時、あかねにどうすればいいか決めて貰おうとしたことだが、それ以外でも細かいところで、何かとあかねに力を貸して貰うことが多かった。

 あかねは人から頼られることも好きだが、それ以上に対等な間柄に拘っている節がある。

 そんな彼女にこれ以上、格好悪いところを見せたくないというちっぽけな意地とプライドが、一人で行動した理由。

 そして、察しの良いあかねに俺がそんなことを考えているとも気づかれたくない。

 

「アクアくん?」

 

「ああ。大丈夫……」

 

 さっきのあかねと似たような反応をしていることに気づき、俺たちは思わず視線を合わせた。

 

「フッ」

「ふふっ」

 

 互いに苦笑し合い、それから気を取り直して話を続ける。

 

「で、本題なんだが今俺がした話、みんなにも言うべきだと思うか?」

 

「片寄さんとの賭けの内容のこと? どうしてわざわざ……。あ、そっか」

 

 疑問を抱きながら、早々に理解する辺りは流石の察しの良さだ。

 

「ああ。名作にするなんて言うのは簡単だけど、それが出来たら苦労はない。打てる手は打っておきたい」

 

 カントクやスタッフは信頼しているし、SNSや広告を使った宣伝などを行うのはまだ早い。

 今俺が出来ることがあるとすれば、座長として役者陣を奮起させ、良い演技をして貰うこと。

 その一環として、俺たちの事情を知っている出演者に今回の件を告げれば、やる気を出して感情が乗った良い演技をしてくれるかもしれない。

 だが、そうしたやる気が空回りするタイプもいるので、誰に言って誰に言わないか、それとも誰にも言わない方が良いのか。それを決めておきたい。

 

「といっても、事情を知ってる役者は俺たちを除けば、姫川さんとルビーだけなんだが」

 

「姫川さんは、多分言っても言わなくても演技に影響は出ないよ。良くも悪くも自分に求められたことはしっかりこなすタイプだから」

 

 確かに、東ブレの舞台では役名も知らない状態からでもすぐに、情報量の塊のような感情演技を見せていた。

 役や感情に流されず、どんな時でも最高のパフォーマンスを出せる演技力は、若くしてトップ俳優に名を連ねるだけのことはある。

 

「なら、後はルビーに言うかどうかか……。というか、アイツ演技の方はどうだったんだ?」

 

 片寄ゆらのパーソナルな部分を見極めるため、ずっと映画を見ていたせいでまだルビーの演技は見れていない。

 本人曰く演技の特訓をしていたらしいが……

 

「うん。とっても頑張ってるし、監督さんにも合格点は貰えてるよ?」

「そうか」

 

 どこか誇らしげなあかねに僅かに疑問を覚える。

 俺の知らない所でルビーの特訓に付き合ったりでもしていたのだろうか。

 そんな疑問を余所にあかねは続けた。

 

「ただ。今のルビーちゃんならやる気次第でもっと上に行けると思う」

 

「ってことは言った方が良いってことか」

 

「うん。空回りしないように、それこそ私が見ておくから」

 

「よし、なら俺からルビーとスケジュールを管理するミヤコさんにも伝えるから、あかねは悪いけど有馬とMEMを──」

 

 決断し、さっそく行動すべく話を進める。

 皆が帰った後伝えても良いのだが、今は時間が惜しい。

 

「それなんだけど」

 

 俺の言葉を遮ったあかねは、その後何かを言いよどむような間を開けた。

 

「ん?」

 

「多分だけど、かなちゃんとメムちゃん。アイさんとアクアくんたちの関係知ってるんじゃないかな?」

 

「二人が?」

 

「うん。さっきルビーちゃんがアイの話しようとしたら、かなちゃんが遮ってたから、あれは私が知らないと思ってるからじゃないかな? でもルビーちゃんは私がそのことを知っていること気づいているはずなんだけど……」

 

 付け加えられた疑問の答えはなんとなく分かった。

 

「ルビーは多分、あかねが知ってるって有馬たちに話したつもりだと思うぞ?」

 

「え? そうなの?」

 

「ああ。で、有馬はそれを知らないから必死に隠そうとしてるんだろうな……そうか。アイツらも知ってるのか」

 

「で、でも気持ちは分かるよ。私から見てもB小町の結束は固いし、二人なら話しても大丈夫だって思ったんじゃないかな?」

 

 考え込んだ俺に対し、ルビーを庇うようにあかねが言うが、別に二人に話していたとしても、俺がどうこう言うつもりはない。

 そもそも俺だって、自分の判断であかねに話そうとした(実際は俺が話す前からあかねは気づいてたが)のだからルビーを責めるのはお門違いだ。

 だから今考えているのは別のこと。

 

 二人がそのことを知っているのなら、いっそのこと勝負の件を上のみんなに伝えても良いかも知れない。

 MEMは姫川さんとは違う意味で安定したパフォーマンスを見せるタイプだし、反対に有馬は思い切り感情で演技の質が変わるタイプだが、勝負ごとになれば燃える質だ。

 名作を作るためと言えばきっと普段以上のものを見せてくれるはず。

 

「使える物は何でも使わないとな」

 

 我ながら酷いセリフだとは思うが、それがあかねやルビー達みたいに特筆するような才覚を持たない俺の基本戦術であるのも事実。

 そしてアイツらなら、文句くらいは言うかもしれないが、最終的にはそれを理解した上で乗ってくれるだろう。

 いつの間にかそんな風に人を信じている自分が居ることには、気づかないふりをした。




この話のアクアは原作より素直になっていることもあり、人に頼ることも覚えましたが、それでも今まで一人でやるのが基本だったため、頼ることに慣れておらずちぐはぐな行動を取ることもあります
ちなみに今更ですが、原作の方で話が進み設定が開示されたことで、自分がアンチ・ヘイトだと思っていたところがそこまで問題にならなそうだったのでタグを外しました
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