【完結】推しの子if ~あかねちゃんと一緒にアクアを救おうルート~   作:日ノ川

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前々から触れていたあかねのダンスパフォーマンス問題を解消する話


第61話 特別企画・MEMちょが女優に挑戦してみた!

 以前ルビーがあかねとの勝負に向けて特訓していた際、使っていた公民館の部屋の前。

 私は職員に許可を取った上で、使い慣れたビデオカメラで撮影を開始した。

 

「こんメム~♪ えー、今日は女優デビューが決まったこの私。MEMちょと、その友達にして戦友でもある鷲見ゆきちゃんの特訓の模様をご紹介しまーす」

 

 ゆきの出演と引き換えに約束した女優デビューまでの道のりを私のチャンネルで紹介する動画の撮影だ。

 正確に言うと、女優初挑戦の私が色々語る中で同じく初挑戦のゆきも登場させる形を取っている。

 私たちに加えて、ダンスレッスンを担当しているノブか歌を教えてくれるケンゴのどちらかも一緒に撮影することも多い。

 今日はダンスレッスンの日だ。

 

「ちなみに、今日はダンスのコーチであるノブに加えて、もう一人。スペシャルなゲストもいるとのことで、ちょっと緊張しています! ではでは、早速会いに行きましょう!」

 

 元気良く言い切って一度録画を止め、三脚を片づけてから、改めてカメラを手に持って、借りている部屋の中に突入した。

 

「こんメム~♪ MEMちょが来ましたよー」

「おうMEM。お疲れー」

「まあ、廊下の声丸聞こえだったけどね」

 

 いつも通り爽やかな挨拶を返すノブと、しらっとした目つきでツッコミを入れるゆき、そして──

 

「あはは」

 

 ゆきの隣で苦笑している、あかねにカメラのピントを合わせた。

 

「はい! そんな訳で今日は主演のアイ役を務めている黒川あかねちゃんにも来てもらってまーす」

 

「よ、よろしくおねがいします」

 

 カメラなんて慣れたものだろうに、何故かあかねは私のチャンネルに出演する時は妙に緊張している。

 演技ではなく素の自分を見せる必要があるからだろうか。

 

「あかねー。堅いよー、どうせMEMちょのチャンネルなんだから、そんな力入れなくても、もっとリラックスして良いよ」

「なにおぅ!?」

 

 そんなあかねをリラックスさせようとゆきが言い、私もそれに乗って小芝居を入れた。

 

「あ、これだとリスナーまで煽ってる感じになっちゃうか。カットよろしくね」

「はいはい」

 

 抜け目なく炎上対策としてカットを要求するゆきにこちらも分かってると了承する。

 

「じゃあ改めまして。今日は本職女優も加わったスペシャル回となりまーす!」

 

 珍しいことのような言い方をしているが、実のところ、このレッスンにあかねが参加するのはよくあることだ。

 しかし、普段はあかねを写さないようにしている。

 当然仲間外れにしている訳でも、契約の関係で写せない訳でもない。

 

 単純にあかねのダンスレッスンが上手く行っていないからだ。

 こうしたドキュメンタリーでは、徐々に上手くなっていく様子を映すのが基本だ。逆に、成長が見えづらい部分を何度も見せられるとリスナーにもストレスが貯まるし、なによりあかねの評判にも影響してしまう。

 大衆とは不思議なもので、事前に何度も失敗したところを見せてから完成したものと、一発撮りで完成させたものを見比べた場合、同じ完成度のダンスでも、後者の方がよく見えてしまう。

 だからこそ、あかねがダンスを苦手としているという情報を入れないようにしていた。

 だが、今日は違う。

 

「えー。ではでは。ノブ先生ー。今日はどんな特訓するんですか?」

 

 ノブからあかねのダンスレッスンを上手く進める方法が見つかった。と事前に聞いていたからだ。

 

「あー、えーっと」

 

 あかねと違って、ノブはカメラを向けられても大して動じることはないのだが、今日はちょっと様子が違った。

 思わずカメラを止めて首を傾げるとノブは続ける。

 

「これどこまで言っていいの? なんか撮影手法とかあんま語んない方いいかもってアッくんに言われてんだけど」

 

「あー、そっか。うーん、でもとりあえず私も今日なにするのか詳しく聞いてないし、教えてもらう意味でも全部説明しちゃっていいよ。後でアクたんに確認して不味い所は編集しとくから」

 

「了解ー」

 

 そうして、改めて撮影を再開するとノブは用意されていたホワイトボードの前に立って説明を開始した。

 

「とりあえずダンス自体はゆきもあかねももうある程度覚えてるから、ここからは決め所の練習に入る」

 

「決め所?」

 

「そう。これはどんなダンスでもだいたい一緒なんだけど、流れの中で、一つ一つの動きをピシッと決めるとカッコ良くなる」

 

 すっとしなやかに伸ばされたノブの手が空中でピタリと止まる。その動きに一切ブレは無かった。

 確かに、さりげない動作でもメリハリが強いとそれだけでずっとキマっているように見える。

 

「でも、あかねは……」

 

「うん。それが一番苦手。役に入り込みすぎるとどうしてもワンテンポ遅れちゃうから、ダンスも焦っちゃって」

 

 この辺りは使えないな。と思いつつとりあえず止めることはせずにノブを窺うが、特に焦った様子もなく何も書かれていないホワイトボードのストッパーを外し、ボードをクルリと回転させて裏返した。

 事前に準備していたのだろう、そこにはダンスの動きと共に細かな注釈がいくつも加えられていたが、その中でも一番上に大きく書かれた文章を手で叩くように示す。

 

「そこでコレだ」

 

「カット数を増やす?」

 

 その文章をゆきが読むとあかねが驚いたように目を見開く。

 

「ようするにダンスシーンを一発で撮るんじゃなくて、一つ一つの動きごとに撮影して最後に繋げて一つの映像にするってこと」

 

「あ、そっか。それならずっと演技しないで済むし、キマったシーンだけ繋げて撮れるんだ。あかねは短い時間なら演技とダンス両立できるし」

 

「そういうこと」

 

 得意げなノブと目から鱗とばかりに手を叩くゆきに、私はおずおず手を挙げる。

 

「水を差すようだけどさ。それはそれでかなり難しいよ?」

 

「そうなの?」

 

「うん。私もMV撮る時そうやって何回も同じシーン撮ってそれぞれ一番良いところだけ繋げるってやり方したんだけど、それができるのってダンスが完璧に身に付いているからこそなんだよね」

 

 例えば、一度腕を持ち上げたところでカメラを止め、再び次はその腕を持ち上げた状態からスタートさせるとする。

 人間である以上、全く同じポーズを再現するのは難しく、二つのシーンを繋げると腕が急に瞬間移動したようになってしまう。

 もちろん撮影の場合、切り替えのタイミングで別アングルから撮るなどすればそうした些細なズレは目立たなくなるが、それでも一つの流れがあるダンスを途中から全力で踊れと言われてもそれは結構難しい。

 

 それこそダンスの細かな動きが完璧に頭に入っている状態でやらないと動き以前に気持ちが入ってこないのだ。

 そうした気持ちのズレは、カメラ越しでも案外分かるものだ。

 

「じゃあやっぱりダンスを完璧に覚えてからじゃないと意味ないんだ」

 

 残念。とゆきはがっくり項垂れた。

 反復練習でダンスそのものを体に染み込ませるのは、今まさにあかねがやっていることだからだ。

 

 そもそもの話それが出来ていたら、わざわざカット割りで撮影しなくても複数のカメラを使った一発撮りが出来るためあまり意味がない。

 ゆきと一緒に私も項垂れる。

 これでは今回の動画もお蔵入りにするしかなさそうだ。

 と考えた矢先、あかねがすっと手を持ち上げ、それまでのおずおずした物言いではなく自信ありげに言い放った。

 

「私そういうのは得意だよ。演技でも同じこと結構やるし」

「あ、そっかぁ。むしろドラマの方がそういうの多いもんねぇ」

 

 私やルビーのような素人組には難しいから長回しの撮影が多いが、あかねやかなちゃんたち本物の女優は、一分そこらのシーンを撮るだけでも、細かく細かく分けて何度も撮影しているところを何度も見ている。

 怒りのシーンなんかで、それまで素面だったところからいきなりボルテージをマックスまであげて再開する切り替えの速さなど、見ていて恐ろしくなってしまったくらいだ。

 

「うん。だから一つ一つのダンスを分解して覚える形にすれば何とかなるかも」

「スゴいじゃん。これノブが考えたの?」

 

「え? あー、いや」

「ん?」

 

 珍しく歯切れの悪いノブの態度に、私たちは揃って首を傾げる。

 いつものように自信満々に頷いてみせるかと思ってツッコミも用意していたのに。

 

「実はこれ俺じゃなくて、ケンゴのアイディアなんだよ」

 

 ややあってから、諦めたようにノブが語り出す。

 

「ケンゴくんの?」

 

「おう。一応俺たちも、指導役としてクレジットしてもらえることになったから、こないだ改めて二人で作戦会議してな」

 

 そう言えばアクたんもそんなことを言ってた気がする。と考えている間にノブは続ける。

 

「俺はダンスってのはやっぱ流れが大事っつーか通してやるのが普通だと思ってたから、その精度を高める方法ばっかり考えてたけど、ケンゴは曲のレコーディングで何分割かしたフレーズを何回も録音して一番良い奴を繋げて一本の曲にすることもあるみたいでさ」

 

「へー。レコーディングって一曲まるまるやる訳じゃないんだ」

 

「いや、場合によるらしいけどな。さっきMEMちょが言ってたみたいに繋がりが目立つ可能性もあるから。まあとにかく、それをダンスでもやってみたらって言われて、ピーンと来たって訳よ」

 

「なるほどー。確かにユーチューブの動画だって切り張りして良いとこ取りするし──」

 

 話しながら、ふと頭に思い付くものがあった。

 

「ん? MEM、どした?」

 

「あー、これって撮り方も変わることになるからさ。スタッフさんとかに確認取らなくてもいいのかなって」

 

「ああ。大丈夫、さっきも言ったように俺たちも一応関係者扱いになったから、アッくんに報告してる。そっちは説得してくれるってさ」

 

「良かったじゃん、あかね。これなら間に合いそうだね」

 

「うん!」

 

 ゆきと喜び合っているあかねを見ながら、さっきの続きを思案する。

 このやり方が通用するのは音楽やユーチューブだけじゃない。

 むしろ、映像作品が得意としてる手法だ。

 あかねは元々演劇の人だし、そもそも人のやり方に口を出せるタイプではないので、気付かなくても仕方ない。

 口を出さないって意味なら、かなちゃんも同様だろう。

 でも……

 

(これ。アクたんなら前から気付けたよね?)

 

 思えば、あかねがダンスに苦戦しているという話はずっと聞いていたはずなのに、アクたんもカントクも特に対策らしい対策を講じてこなかった。

 あかねなら出来ると信頼してのことかも知れないが、それならそれで進捗状況を確認に来るはずだ。

 

(あ、でも。こないだはそれで来たんだっけ。結局片寄さんとの賭けのせいでうやむやになっちゃったけど……)

 

 アクたんたちの出生の秘密を黙っているため、提示された条件がこのドラマを名作にすること。

 それを知ったからなのだろう。ここ最近あかねもダンスのレッスンをかなり増やしている。

 私たちB小町もそれに付き合って、あかねに教えるため、アイがいた頃のB小町のDVDとかを何度も見直したくらいだ。

 

 でも、こういう方法があると知ってたらこんな焦ることもなかったし、それに合わせた練習も出来たはず。

 そのことを僅かに不満に思うが、そうした理由も何となく想像はつく。

 

 かなちゃん曰く、良い作品を撮るためなら何でもするというカントクさん同様、アクたんもこのドラマを名作にするために手段を選ばないつもりなのだ。

 多分、こうやってぎりぎりまで追い込むことであかねのダンスパフォーマンス向上を図ったんだろう。

 実際まだ本物のアイや本職のルビー達ほどではないにしろ、普通のアイドルのパフォーマンスと同じくらいには技術は向上している。

 

 カントクとアクたんがそう言う人だって知っているあかねなら、それに気付いたところでショックを受けたりはしないだろう。

 私だって使えるものは何でも使おうとするアクたんの主義は嫌いじゃないし、いつも人のために奔走することこそあれ、人に頼ることは滅多にないアクたんがストレートに私たちにお願いするくらいこのドラマの成功に賭けているのも分かっている。

 

 アクたんは私にとって友人であり、B小町に誘ってくれた恩人であり、正式な所属ではないにしろ同じ苺プロの仲間でもある。

 その彼が必要だと思ってやったことなら黙って受け入れる。

 ただ──

 

「MEM?」

「んー?」

 

 ノブに声を掛けられて思考を中断して顔を上げると、ゆきとあかねも不思議そうな顔をして私を見ていた。

 

(ヤバ。考えすぎた)

「いつまでも解説パートじゃ退屈になっちゃうし、そろそろ特訓パートに行こぉー!」

 

「お、おう?」

「自分から説明しろって言っといて」

 

 突然拳を突き上げて宣言する私に、怪訝な眼差しを向けるノブとゆきを余所に、あかねは苦笑しつつ取りなした。

 

「まあまあ、実際時間もないし、やること決まったなら頑張ろ!」

 

「やる気満々だねー。あかね。ま、愛しのアクア監督の為だもんねぇ」

 

 今度はあかねにからかいの矛先を向ける。

 

「ちょ! そういうのは止めてよぉ、MEMちゃん、ここカット、カットしてね?!」

 

 さっきのゆきを真似るように、両手でハサミを斬る動きをしながら言うあかねの顔は真っ赤になっていた。

 

「えぇ? メッチャ撮れ高稼げそうなのにぃ」

 

 実際、最近のあかねはアクたんのことになると感情的で本当に可愛くなる。

 あの日、かなちゃんから突然カラオケに呼び出された日に色々とあったんだろう。

 きっと二人は恋リアでもビジネスでもない、本当の恋人同士になれたんだ。

 

「ほ、本当に止めてね?」

「はいはい」

 

 念を押すあかねに笑い掛けながら、私は心の中で思案を再開した。

 

 片寄さんとの賭けについて聞いた時、一緒に聞いたこのドラマの本当の目的。

 それは二人のお父さんであり、アクたんが演じている役柄である少年Aこと、カミキヒカルを断罪すること。

 そのために、情報を隠し、切り貼りして大衆の悪意に晒す。

 でも、それって──

 

(あかねが今ガチでやられたことじゃん)

 

 あかねはそれを理解して、納得しているんだろうか。

 アクたんと深い繋がりを手にした今のあかねにだからこそ、私は彼女の友達として確認したかった。




アクアの監督パートに入る前の最後の問題となるのでここから何話か続きます
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