【完結】推しの子if ~あかねちゃんと一緒にアクアを救おうルート~   作:日ノ川

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思ったより書く時間が取れなくて時間が掛かりました
前回に引き続き、今度は陽東高校メンバーの話、今回は一話に纏めたかったのでいつもよりテンポ優先で会話多めになっています


第63話 陽東高校ダンス部(仮)

「というわけで。今日は私が教えてあげるわヒヨッコ共、しっかり着いてきなさい!」

 

 苺プロの三階にあるレッスン室の中、鏡を背にして立った先輩が私たち三人に向かって言う。

 

「うわー。体育会系やなー」

 

「かな先輩って、先輩ぶれる時はメチャクチャノリノリなんだよねー」

 

「まあ、体育会系は陽東高校の伝統みたいなところあるから」

 

「うちの学校って普通科芸能科問わず地味に上下関係厳しいしなぁ」

 

 みなみちゃんと私とフリルちゃんが口々に言う。

 この三人が今日レッスンをするメンバーだ。

 本当なら私もプロとして先輩と一緒に教える側に回るところなのだが、ドームメンバーである七人のパフォーマンスは、アイをメインとしてその他の六人を三対三で分けてダンスするパートが多いため、三人一緒に練習した方が効率が良いという判断だ。

 

「確かに今日のメンバーはみんな陽東高校だね。あ、だったらここじゃなくて、もっと広い学校の体育館とか借りても良かったかも」

 

 このレッスン室でも動きの確認は出来るが、当然ながら本番のステージよりはずっと狭いため、立ち位置や動線の確認までは難しい。

 体育館ならば、その問題も解決すると思っての発言だが……

 

「流石に無理やろ。部活で使っとるやろうし」

 

「だったら私たちで陽東高校ダンス部みたいの作るとか?」

 

「それこそ無理やて。あ、でもチーム名としてはええかもね」

 

「いいね。ベタにお揃のTシャツとか作ろうか。『団結』とか書いて」

 

「あはは、体育祭かい。ってかフリルちゃん。よく参加する時間あったなぁ、仕事は大丈夫なん?」

 

 つらつらと雑談を続けている最中、ふと思いついたようにみなみちゃんが聞いた。

 

「まあ、私だけ練習しないでいきなり本番って訳にも行かないからね。結構無理して時間作ったから後でしわ寄せ来そう。夏休み短くなっちゃうかも」

 

「今まさに夏休みじゃん」

 

 もう八月に入っているため、すでに学校は夏休みに入っている。

 そんな私の疑問に対し、フリルちゃんは軽い調子で応えた。

 

「そうじゃなくて、私大きな仕事終わったら一、二ヶ月くらい休み入れることにしてるから。それが若干短くなるなーって」

 

「ええ!? そんなこと出来るの? 仕事ってこっちの意志と関係なく入ってくるもんだとばかり」

 

「スケジュールに口を出せないようじゃまだまだ一流とは言えないからね。もちろん、いくら一流でも一か月以上の休みを取るとなるとタレント力だけじゃなくて、所属してる事務所の方にも相応の力が求められるけど」

 

 若干ドヤ顔のフリルちゃんに、みなみちゃんが苦笑する。

 

「事務所とタレント力の格差社会やなー。羨ましー」

 

 それからもしばらく会話が続いていたが視界の端で、先輩の小さな体がプルプル震えているのが写った。

 次の瞬間。

 

「アンタら。人の話聞きなさいよ!」

「あ、キレた」

 

 爆発した先輩を前に、私たちは小さく身を竦めた。

 

 

 いつまでもフザケている訳にはいかず、練習が始まったが、そこでも先輩の鬼軍曹振りは健在だった。

 

「寿! 疲れを顔に出さない!」

「はいィ」

 

「不知火! 自信ないとこなあなあで流すな!」

「はい」

 

「ルビー! 二人が心配だからって周りに合わせすぎ。逆にアンタが遅れてるわよ!」

「はいはい」

 

 

   ※

 

 

「はぁ、先輩細かすぎ」

 

 ダンスの練習自体は好きだけど、大きい所から細かすぎる所まで、やいやい言われ続けては流石に辟易する。

 私でもこうなのだから、二人はもっとキツいんじゃないか。

 そんな風に思いながら恐る恐る休憩中の二人を窺う。

 

「いやー、良い汗かいたね」

「そやなー」

 

(あれ?)

 

 思ったより普通、というか全く不満を抱いたりしている様子がない。

 私は前世で人の顔色ばかり窺っていたこともあって、表面を取り繕うくらいの演技は見抜けるので間違いない。

 

「ね、ねぇ。二人とも大丈夫?」

 

 先輩が席を外している今がチャンスとばかりに、本音を引き出そうと話しかけると二人は、顔を見合わせてから一緒に首を傾げた。

 

「何が?」

 

「いや、ほら先輩が厳しすぎるとかそういうやつ。普段はあそこまで高圧的じゃないんだよ? なんか知らないけど最近妙にやる気が凄くて。あ、でも二人がキツいって言うならおかーさん……社長に言って、誰か他の人付けて貰おうか? 私たちの時はぴえヨンが着いてくれたし、今回も行けるかも」

 

 言い訳するように語り続ける私にも二人はあまりピンと来ていないようだったが、不意に視線が私からスライドするように上に向けられた。

 

「何言ってんのよアンタは」

 

 呆れたような声と共に頭の上に衝撃が走る。

 

「痛たっ! って先輩?!」

 

 いつの間に戻ってきたんだと問う前に続ける。

 

「ほら。ちゃんと水分補給しときなさい。クーラー効いてても夏は熱が内側に籠もりやすいんだから」

「う、うん」

 

 頭上に乗せられたペットボトルを受け取り、そのまま飲む。

 言われたとおり、いつの間にか水分が失われて喉が乾いていたらしく、冷たいスポドリが体に染み渡っていく。

 

「不知火と寿。アンタたちもちゃんと飲んどきなさいよ」

 

 しらっとした顔で二人に声を掛ける先輩に、フリルちゃんは小さく頷いてから、自分で用意していたスポドリを手に取った。

 

「あ、私のことはルビーみたいにフリルで良いですよ」

 

 蓋を開けながらフリルちゃんが言う。

 

「そう?」

 

「ええ。私もルビーに合わせて、有馬さんのことパイセンって呼ぶから」

 

「わざわざ捻らないで、普通に先輩って呼びなさいよ!」

 

 フリルちゃんの天然っぽくボケる面白キャラを見慣れている私たちと違って、先輩は真剣に受け取ったらしく、真顔で声を張った。

 そんな様子を見て、みなみちゃんが笑いながら割って入る。

 

「あはは。ならウチのこともみなみでええですよ。先輩」

 

「りょーかい。アンタは素直ね、みなみ」

 

 私を放置して仲良くなっていく先輩たちを前に、目を白黒させていると、先輩はそんな私に向かって鼻を鳴らした。

 

「この業界で生きてく以上、ちょっとやそっと怒鳴られたくらいでキレる奴なんていないわよ」

 

「そうそう。もちろん理不尽な理由なら話は別だけど、指導で怒鳴られてふてくされるようだと上まで行けないよ」

 

「そういうこと。アンタもいい加減プロ意識持ちなさい」

 

「持ってるよ、失礼だなー」

 

 相変わらずの上から目線に唇を尖らせ、ジトリと睨むが先輩はさらっと受け流す。

 

「そう見えないって言ってんの。……でもアレね、楽曲出してるフリルはともかく、みなみもちゃんと踊れてるのはちょっと意外ね。練習してきたの?」

 

「ええ。事務所にお願いして、ダンスと演技で個人レッスンの講師呼んで貰いました」

 

「へぇ。アンタ確かキャノファよね? いいわね。ちゃんと大事にされてるじゃない」

 

「そうなの?」

 

「最後にちょっと出るだけのゲスト出演の役で個人レッスンまで受けさせてくれるなら、期待されてるってことでしょ」

 

「へー、凄いね。みなみちゃん」

 

 感心する私を余所に、みなみちゃんは大きく息を吐いて首を横に振った。

 

「むしろプレッシャーなんよ。ようするに事務所がサポートしたるから、これを期に仕事の幅広げられるくらい目立って来いゆう意味やから」

 

「それもあるでしょうね。台詞が少ないのに演技のレッスンもやるってことは、ダンス方面か演技方面か、どっちにも行けるようにってことかしら」

 

「まあグラビアはずっとやれるわけやないし、その後を考えると有り難いことではあるんやけど、競合相手がなぁ」

 

 チラリと視線を向けた先に居るのはフリルちゃんだ。

 

 主要キャストであり、登場機会も多い私たち初期メンバーと異なり、最後のライブ場面でのみ登場する追加キャストは、二人に加え、今ガチに出てたゆきちゃんも含めて三人。

 その中で誰が一番目立つかなんて言うまでもない。

 国民的マルチタレントにして、さっき本人が言っていたように大人が決めるスケジュールにまで口を出せる超売れっ子のフリルちゃんだ。

 本来なら映画やドラマの主演級を張るレベルの人がちょい役で出るのだから当然といえばそうなのだが。

 

「まぁ、そこまで気にしなくて大丈夫だよ。みなみの場合、私たちの中で一番目立つ武器を持ってるし」

 

 相変わらず澄まし顔のまま、フリルちゃんの視線がゆっくりと下がる。

 私もまたその視線の先を追うと、動きやすいゆったり目のレッスン着越しでも激しく主張しているご立派な膨らみがある。

 

「またオッサンみたいなこと言うて」

 

 ため息混じりに両手で胸を抱えるようにして、身体ごと捻るように視線から逃れる。

 狙ったわけではないだろうが、そうやって避けた先には先輩がいた。

 笑顔を浮かべているが、その笑顔は張り付けられた仮面のようだ。

 持たざる者としては色々思うところがあるに違いない。と同情しつつ、私は先輩に助け船を出す意味でも、これ以上この話を広げないよう話題を変えることにした。

 

「ねぇねぇ。休憩がてらDVD見ない?」

 

「は? 何よ急に。時間無いってわかってんでしょ?」

 

 助け船を出してあげた先輩からの辛辣な言葉に、若干イラッとしつつも笑顔はキープする。

 

「そうじゃなくて、練習の一環としてだよ。みんな振りも覚えてきたし、そろそろ正解を見ておくのもいいでしょ?」

 

「正解って?」

「あれじゃない? 元祖B小町のMVとか」

 

 不思議そうに首を傾げるみなみちゃんに、フリルちゃんが答える。

 

「その通り! この曲のMVは珍しくドラマパートがほとんど無くて、ダンスパートだけで構成されてるんだ」

 

「それって珍しいん?」

 

「うん。アイドルのMVって踊りパートとドラマパートで分けて撮ること多いんだけどね。あれってメインの全体ダンスの中にちょくちょく個々の可愛さ切り取ったカットを挿入して、尺を稼ぐ目的もあるんだ」

 

「へぇ。ああ、でも確かにルビーたちのMVでもそんな感じやったなぁ。流石現役アイドル」

 

「えへへ。まぁねー」

 

「偉そうに。それってアネモネさんの受け売りでしょ?」

 

 褒められて得意になっている私に先輩が冷や水を掛けてきて、思わず頬を膨らませる。

 

「うっさいなーもぉ。とにかく! そうなると肝心のダンスがどんな振りなのか分からない場所も出てくるんだけど、この曲はダンスパートだけだから、その心配もなくてお手本に最適なの」

 

「でも何で、この曲だけそんな構成になっているの?」

 

 フリルちゃんの疑問に、私と先輩は思わず目を合わせた。

 私たちも最初にMVを見直した時、同じ疑問を抱いておかーさんに聞いたことがあった。

 その理由についてはちょっと言いづらい。

 

「ま。取りあえず見てみましょ。ルビー準備するわよ」

「はーい。二人はちょっと待っててね」

 

 私と同じことを考えたらしく、今度は先輩がやや強引に助け舟を出して話を切り替え、動き出すのに合わせて私もDVDやモニターの準備を開始した。

 

 

   ☆

 

 

(なるほど)

 

 MVを見ながら、さっき二人がなぜ言葉を濁したのか理解した。

 

「いやぁ。なんだかんだでちゃんと見たの初めてやったけど、アイは今見てもぜんぜん色褪せてへんなぁ」

「そうでしょ? もう輝きからして違うっていうか。やっぱりアイは地上最強のアイドルだよね」

「同じ事務所の大先輩だからって褒めすぎよ」

 

 キラキラした瞳で語るルビーとそれを諫める有馬さん。

 さっきから語られているのはセンターのアイのことばかり。

 それもある意味当然で、このMVは殆どの場面でアイが最も目立っていたからだ。

 

 センターなのだから当然かもしれないが、それにしたって、他のメンバーの見せ場のシーンでも端に写っているだけのアイが最も可愛く見える。

 これほど格差があっては、かつてのB小町がアイとそのバックダンサーという扱いを受けていたのも納得してしまう。

 

 恐らくこのMVがドラマパートを廃してダンスオンリーになった理由もそこにある。

 ドラマパートの役割は、ルビーの言うようにアイドルの可愛さを全面に出すことで尺を埋めるのともう一つ、ファンサービスの側面もある。

 アイドルとして一番可愛い部分のみを切り取ってアピールする。

 ダンスだってその手段の一つに過ぎない。

 

 そして、そんなダンスの流れの中だけでも最も輝いているアイが、本気で可愛さのみを追求した画を撮ってしまったら。

 他のメンバーとの差は、センターとバックダンサー程度では済まないだろう。

 そうならないように、ダンスパートのみのMVを作った。

 つまり事務所側の他メンバーへの温情のようなものだ。

 

(確かこれはドーム公演直前に出したアイの生前最後の楽曲。……なら仕方ないのかな)

 

 アイはアイドルとしてトップの証でもあるドーム公演当日に亡くなった。

 それはつまりその頃が、アイドルとしての全盛期だったということでもある。

 

(そんな状態のアイを演じるなんて、黒川さんも大変だな)

 

 とはいえ、撮影自体はすこぶる順調に進み、問題とされていた黒川さんのダンスパフォーマンスの特訓も大分進んでいるとルビーから聞いている。

 

 願わくば、このまま何の憂いもなく撮影が成功して欲しい。

 だって……

 

「なあなあ、この娘がウチが演じる人やんな?」

 

「うん、そうだよ」

 

「ちなみに。同じ曲のライブ映像とかある? あの人が出とる奴で」

 

「あー、この曲ってライブ映像殆ど残ってないんだよね。でもどうして?」

 

「いや、位置的にちょこちょこ見切れているところがあったやん? 振りはともかくその時の立ち位置とか導線とか分かる映像無いかなぁって」

 

「そっか。あ、でも事務所のデータ調べてみたらなんか残ってるかも。おかーさんに言って探して貰うから見つけたら送るね」

 

「頼むわぁ」

 

 私の友達があんなに頑張っているのだから。

 

 運動神経はそこまで良い方じゃないみなみが(私としてはあの規格外のスタイルが影響していると思っている)今日の練習では私は疎か、本職であるルビーにも付いていけるくらい仕上がっていた。

 いくらダンスレッスンを受けていたからといって、この短期間であそこまで仕上げるのは並大抵のことではない。

 それをおくびにも出さないのは、この芸能界で努力の量を誇ることの無意味さを良く知っているからだろう。

 

(あとは変に気負っている所、見せたくないのかな)

 

 みなみは誰に対しても優しい。

 私みたいな売れっ子でも、入学当初のルビーみたいにまだ芸能活動が始まっていない子でも。……そんな子が自分を追い抜いてしまった後ですら、変わらず朗らかに笑って接している。

 でも決して向上心が無いわけでは無い。

 その姿を見せずにひた向きに頑張っている子だ。

 

 そして、ルビーは様々な欲望と情念が渦巻く芸能界でどんどん成長しながらも、未だ汚れることなく真っ直ぐ前に突き進んでいる子。

 

 こういう子たちだからこそ、私は友達になれた。

 こういう子たちだからこそ、一緒の現場で共演し(遊び)たい。

 

 だから絶対に何事もなく成功して──

 

(あ。でもこうやって祈ると逆にフラグが立っちゃうか)

 

 芸能人は案外こういうゲン担ぎを大事にする。

 しょうがない。と心の中で息を吐いてから、私はみんなに向かって宣言した。

 

「私、この撮影が終わったらMEMちょとデートするんだ」

 

 私の言葉に、ダンスの内容に付いてあーだこーだ言っていた三人の動きが止まった。

 しかしそれも一瞬のこと。

 

「ふ、フリルちゃん?」

「急にどうしたん!?」

 

 直ぐに私を心配して駆け寄ってくる友達たちに向かって微笑む。

 

「いや、フラグ建てまくれば逆に大丈夫かなって」

 

「何のフラグよ」

 

 呆れた口調の先輩には応えず薄く笑みだけ返しておく。

 みなみのこともそうだが、黒川さんの方も心配ない以上、あと問題があるとすれば、私のスケジュール、そして──新人監督の力量。

 どちらも自分ではどうしようもないことだからこそ、ゲン担ぎは大事なのだ。

 

「よし。さあ、時間も無いから練習しよう。陽東高校ダンス部、ファイトー」

 

 心配が杞憂に終わることを祈りつつ、迷いを振り払うように拳を突き上げる。

 未だ状況を理解していない三人に向かって私は再度笑いかけた。




ここでのフリルは友達と共演できるとあってちょっとテンション高めになっています

多分次も一週間くらいかかると思いますが、後一話か二話、準備回を入れてから監督編の本番に入ります
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