【完結】推しの子if ~あかねちゃんと一緒にアクアを救おうルート~   作:日ノ川

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今回から本筋に入るつもりでしたがその前にもう一つ入れる必要があるのを思い出したのでまだ撮影には入りません
時系列的には最初のあかねの話は前話直後で、それから少し間が空いてから残る二つの話に繋がる形になります


第65話 発見

 その日私は、苺プロのレッスン室や、ゆきと練習する時に使う例の公民館ではなく、事務内にあるレッスン場でダンス練習に励んでいた。

 正直技術面に関してはもう教えて貰うことは少ない。

 撮影方法の変更によって体にダンスを覚えさせる反復練習に戻ったからだ。

 ここなら遅くまで使えるし、仕事の合間の待機時間にも練習出来ると考えてのことだったが、少しばかり当てが外れた。

 

「あっ」

 

 地面に落ちていた汗に足が取られそうになり、慌てて体制を立て直すと同時に音楽が停止する。

 目を向けると私のマネージャーが心配そうにこちらを窺っていた。

 

「大丈夫です、汗で滑っただけだから。もう一回お願いします」

 

 首に掛けたタオルで汗を拭ってから、立ち位置を変えようとしたところで声が掛かる。

 

「ちょっと休憩しよう。床を掃除しないとまた滑る。俺がやるからあかねは少し休んでいて」

 

「でも」

 

「いいから」

 

 気弱で押しに弱いマネージャーらしからぬ強い態度に、私は渋々従った。

 もう時間が無いというのに。

 

 普段稽古で使う際は同伴することの無いマネージャーが、今回に限って見張っている理由はなんとなく分かる。

 恐らく社長から、私が無理しすぎないよう見張っておけ。とでも言われているのだろう。

 

 私としてはこの作品に全力を注ぎたいのだが、事務所側は人気が出ている今だからこそ。と様々な仕事を入れようとしてくる。

 大抵はインタビューや対談などのあまり体力を使わない仕事だが、それでも疲れている時は頭が回らないこともあるので別の日に移して貰ったり、仕事自体を断ることもある。

 事務所としては撮影は仕方ないにしても、ダンスのレッスンなどは短めにしてその時間を他の仕事で埋めたいと考えているのだ。

 

 恐らくもう少ししたら、無理をし過ぎて怪我などしたら元も子もない。などと言って練習を止めさせようとするだろう。

 水分補給をしながら、さてどうやって説得しようかと考える。

 

 マネージャーだけならなんとかなるかもしれないが、話がこじれて社長が直接出てくるとまずい。

 うちの社長はかなり強引な性格なので、無理やり止めてきかねないからだ。

 ここの使用が禁止されても他の場所でも練習は出来るが、それを探す時間すら惜しい。

 

(本番まで時間もないし、言うこと聞いてる振りしながら騙し騙しやるしかないかな)

 

 でも、それで撮影に間に合わなかったらどうしよう。

 

「もう少ししたら」

 

 そんなことを考えているとマネージャーから話しかけられ視線を上げる。

 

「もう少ししたら社長も帰るから、練習再開はそれからにしよう。様子を見に来るかもしれないから、帰り支度をしているフリをしておいて」

 

「え?」

 

 思いもよらないセリフに驚く私に、床掃除用のモップを手にしたマネージャーがいつもの穏和な笑顔で振り返る。

 

「あかねが頑固なのは分かってるからな。気が済むまでやると良いよ。何かあっても俺が防波堤になるから」

 

「……マネージャー」

「といっても俺が言っても今更信用できないか」

 

 ははは。と自嘲するような笑いは、今ガチの時のことを言っているのだと分かった。マネージャーもまだあの時の事で自分を責め続けているのだと。

 

「そんなこと、ないですよ」

 

 だからこそ、私は笑顔を浮かべて首を横に振る。

 

「え?」

 

 あれは社長とマネージャーのせいでは無く、私が一人で勝手に追い詰められた結果暴走してしまっただけだ。

 むしろあそこでちゃんと相談出来ていたら結果は変わったかも知れない。

 

「マネージャーがそう言ってくれるなら、私は信頼します」

 

 今回はちゃんと本心を伝えようと口にしながら、ふと気付く。

 思い返してみれば最近の自分は、頑固を通り越してちょっと意固地になっていたのかも知れない。と。

 

「そうか。うん」

 

 嬉しそうに頷きながら床掃除を始めるマネージャーを前に、私はゆっくりと呼吸を整えながら思う。

 

 アクアくんが撮り方を戻すと言った時、みんなは急すぎるとか、せっかく上手く行っているのにとか私を気遣うようなことを色々言ってくれた。

 ゆきなんかアクアくんに直談判しようと言ってきたが、それを強く止めたのは私自身だ。

 

 監督がそれを望むのなら応えるのは役者の義務。

 もちろん本当の意味で不可能な無理難題ならともかく、アクアくんはしっかりと私のことを良く理解してくれている。

 だからきっと、今の私なら出来ると思ったからこのやり方に戻したんだと自分に言い聞かせた。

 

 彼の信頼に応えるため、反対しそうな人たちを意図的に遠ざけてしまっていたが、それは間違いだった。

 もっとちゃんと、みんなに私の気持ちを説明して、その上で手伝ってくれるようにお願いするべきだった。

 

「明日、お願いしよう」

 

 ノブくんか、メムちゃんかルビーちゃんか、それとも……

 頼むべき相手を考えながら、私はマネージャーに言われた通り、帰り支度のフリを始めた。

 

 

   ☆

 

 

「しかし、アクたんもいきなりだよねー。もしかすると、初めからこのタイミングで変えるつもりだったのかな?」

 

 珍しくかなちゃんと二人での配信を終えた帰り道、今がチャンスとばかりに私は切り出す。

 

「何が?」

 

「いやほら、ダンスの撮り方の話。あかねがダンスに集中するあまり演技が疎かになることを危惧して──とか?」

 

 最近あかねはちょうどスケジュールが空いていたかなちゃんと一緒に特訓しているらしいので何か話を聞いてるかも。と探りを入れようとしたのだ。

 しかし、そんな私の言葉をかなちゃんは小馬鹿にしたように鼻を鳴らして否定した。

 

「そのくらいのことで、あの演技バカに影響が出るとは思えないわね」

 

「じゃあどうして?」

 

 重ねて問うと、もう一度鼻を鳴らしてから即答する。

 

「……単純にそっちの方が良いものが撮れると思ったんでしょ? 事前に言ってくるだけマシよ。下手な監督だと撮影当日にいきなり内容変えるとか無茶苦茶言い出すんだから」

 

「ひぇー。そんなことあるんだ? 私には絶対無理」

 

「ま、ダンス自体が変わる訳じゃないし、決め所をメインで練習するために振りを分解して動き一つ一つを覚えたでしょうから、後は繋げるだけって考えたら、今のあかねでも何とかなるんじゃない?」

 

「え?」

 

「何よ?」

 

「えっと、いやー」

 

 無意識だとしたら言って良いものかどうか。

 

「だから何?」

 

「かなちゃんがあかねのこと名前で呼んだの初めて聞いたなーって」

 

 恐る恐るではありつつも、正直に告げた私に、かなちゃんは気にした風でもなく言う。

 

「そう?」

 

「う、うん。普段はフルネーム呼びだよ」

 

 私やルビーはもちろん、最近では偶に一緒に練習しているゆきのことも名前で呼んでいるのに、あかねのことだけは一貫してフルネーム呼びのままだ。

 だから驚いた。と続ける私にかなちゃんは小さく肩を竦めた。

 

「別に呼び方くらい大したことないでしょ」

「それはそうだけど……」

 

 つっけんどんな態度。

 理由を教えてくれる気はなさそうだ。

 

 もしかすると例のカラオケに呼び出された日、アクたんに気持ちを伝えたことであかねに向けていた対抗心が無くなったからかも知れない。

 どちらにしてもこのまま話を膨らませたところで良いことはない。と話を戻すことにした。

 

「私たちでなにか出来ること無いかなぁ」

 

「練習見てやるだけで十分でしょ。そもそも演出とかまで口出すのは越権行為だしね」

 

 さりげなくアクたんの考え方を変えさせようと匂わせたことに気づいたらしく、先回りしてピシャリと言い切られる。

 

「やっぱり、そうだよねぇ」

 

 それなら今まで通りダンスの面倒を見るかメンタルケアくらいしかやることが──

 

「あ」

「ん?」

 

「ううん。なんでもない」

 

 なによそれ。と怪訝に眉を持ち上げる。

 気が付いたことがあるが、これもハッキリと言って良いかどうか。

 もしかしたらかなちゃんが急にあかねの名前を呼ぶようにしたのは、気安く接することであかねのメンタルケアをしているつもりだったのかもしれない。

 なんて。

 意地っ張りで素直じゃないかなちゃんに言ったところで、否定されるだけだから。

 

「ま、とりあえず私たちが出来ることはアイツが無理しないように見張っとくくらいでしょ。アンタも気にかけてやりなさい」

 

「それしか……ないよねぇ」

 

 他に出来ることなんて思いつかない。

 友達の力になれない自分に不甲斐なさを覚えつつ顔を持ち上げて天井に向かって深く息を吐く。同時にポケットに入れていたスマホから音が鳴った。

 

「ん? あれ。ルビーからだ」

 

「何だって?」

 

「えっとね。……ん? なんか今から事務所に来て欲しいって」

 

 届いたラインの文字を読み上げながら、途中で顔を上げる。

 

「あかねのことで話したいことがあるんだって」

 

 あかねのことはルビーも気にしていたし、まず間違いなく、今私たちが話していたことに関係していることだろう。

 

「ふぅん?」

 

 かなちゃんもそのことを察したのだろう唇を斜めに持ち上げて不敵に笑う表情は、どこか嬉しそうにも見えた。

 これも言ったら絶対に否定するから言わないけど。

 

 

   ☆

 

 

「ねぇ。お兄ちゃんはー?」

 

 久しぶりにB小町ではなく私単体の仕事を終えて戻った事務所のソファに座りながら、仕事中のおかーさんに声を掛ける。

 

「今日はカントクさんのところに泊まりですって」

 

 パソコンを操作したまま返される気のない返事に私は盛大にため息を吐く。

 

「またぁ?」

 

「仕方ないわよ撮影も佳境だし」

 

「それは分かるけどさー、ここ最近ずっとじゃん。今日も日曜日なのにー」

 

 うちでは日曜日は全員で食事を取る決まりとなっている。

 みんな芸能界で働いている以上、なかなか全員の予定が合わないのは仕方ないが、少し前、お兄ちゃんが初めておかーさんのことを母と呼んだあの記念日以降、どんなに遅くなっても一緒のテーブルに付く時間は取るようにしていたのに。

 ぶーだれる私に、ようやくパソコンから目を離したおかーさんは優しげに苦笑した。

 

「アクアの担当シーンももうすぐだし、なんか内容に変更も加えてるんでしょ?」

 

 言われた瞬間身を起こすと私は声を大にして言う。

 

「それ! そのことについて文句言いたかったの! 折角あかねちゃんが頑張ってダンス覚えたのに、それを台無しにするようなやり方してさー」

 

 あかねちゃんはずっとダンスパフォーマンスを苦手としていたが、それを解決するため、細かく分割して撮影してから最後に一本に繋がるやり方を取ることになった。

 

 結局、そのやり方があかねちゃんに上手くハマったことで、一本目のダンスシーンも上手く撮影できて、もう心配はないはずだったのだが、その一本目の撮影が終わった後、お兄ちゃんが突然元のやり方に戻すと宣言したらしい。

 

 その理由はよく分からないが、とりあえずその結果、あかねちゃんは大分苦労しているみたいだ。

 

 私は他の仕事が重なって忙しかったこともあり、あかねちゃんを手伝うこともお兄ちゃんを問い詰めることも出来ずにいたので今日こそは。と意気込んでいたのだが。

 

「アクアだって、黒川さんを追いつめたくてそんなことしているわけじゃないでしょ。なにか訳があるのよ」

 

 あの日、庇った時も思ったけど、最近のおかーさんはお兄ちゃんに甘い。

 なんだかんだで、おかーさんと呼ぶようになる前から甘えていた私と違って、前世のこともあるのか、常に一定の距離を保ち続けたお兄ちゃんが甘えてきて嬉しい気持ちは分かるけど。

 むっとしたままソファから立ち上がった私は、再びパソコンと向かい合っているおかーさんに後ろから抱きついた。

 

「なぁに。もう」

 

 声は困ったようだが、振り払ったりはしない。

 それが嬉しくて私は何も言わず身を寄せる。

 少しの間互いに相手の髪のくすぐったさに悶えていたが、ふと私はパソコン画面に映るものに目を留め疑問を覚える。

 

「おかーさん。この動画ってアレ?」

 

「え? ああ、そうよ。この間ルビーが寿さんに見せるから探してっていわれたやつ。没になったMVの一つよ」

 

 みなみちゃんから、ママ以外のメンバーの動きや導線が分かり辛いからと頼まれていたものだ。

 

「でも動画は見つからなかったんじゃなかったの?」

 

 あの時は確か動画ではなく、残っていたMVのコンテを元にそれぞれの動きを記載したものをみなみちゃんたちに渡していたはず。

 

「そうなんだけど……」

 

 歯切れの悪い言い方に、何か聞いてはまずかったかと顔を離してじっとおかーさんを見つめていると、諦めたように小さく息を吐いてから続けた。

 

「寿さんのことを信用していない訳じゃないんだけど、これはあまり他の人に見せたくないのよ。没になった理由が理由だから」

 

「どんな理由?」

 

 好奇心を覚えて詳しく聞き出そうとする私におかーさんは再度苦笑する。

 

「アイの調子が悪かったの。別に分かりやすく失敗しているとかじゃないんだけど。完成版と比べるとインパクトが薄くてね」

 

「まぁ、ママだって調子の悪い時くらいあるだろうけど、それなのに最後まで撮影したの?」

 

 MVは撮影後に切り貼りしたり画面効果を入れたりと様々な工程を得てから一本の動画にするのだから、調子が悪かったらその前に気づくはず。

 

「それが撮ってる時はアイが絶好調だったって言ってたのよ」

 

「うーん。やる気が空回ったとかかなぁ」

 

「ドーム直前だったし、今にして思えばそうだったのかもね。ただこれも不思議なんだけど、アイとしては最後までこっちで行きたかったらしいのよね」

 

「へぇー」

 

「まぁ結局、あの時は壱護もとにかくアイをセンターとして推しまくってたからこれを出すわけにはいかないってことで撮り直したんだけど。それが貴方たちも見た完成品ってこと」

 

「……ねぇ。それ、見てみて良い?」

 

 そう言ったことに大きな意味は無かった。

 私にとってB小町のアイは、未だアイドルとして最高の存在だし、超えるべき目標でもある。

 そんなアイをもってしても空回りしてしまった作品に興味があった。

 ただそれだけ。

 

「良いけど、他の人に見せたりしないでよ?」

「大丈夫大丈夫。そんなことしないよー」

 

 ケラケラ笑いながら私はおかーさんの肩越しにマウスに手を伸ばし、動画を再生させた。

 

 

 しかし、結果として私は、この後先輩とMEMちょを呼び出して、この動画を見せることになる。

 それも私たちの為ではなく、あかねちゃんの為にだ。




ちなみにアイのラストナンバーやその時のスタンスも不明なので、その辺りの解釈は独自設定となります
次こそ撮影に入る予定です
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