【完結】推しの子if ~あかねちゃんと一緒にアクアを救おうルート~   作:日ノ川

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ようやく本筋スタートですが、登場人物も多いのでなかなか話が進みません


第66話 撮影当日

「今日はよろしくお願いします」

 

 カメラやマイクの準備をしている撮影班の下に出向き、頭を下げる。

 

「……おう」

「どうも」

 

 メインカメラマンと、話していた演出スタッフが共に明らかにやる気を感じない挨拶を返してくる。

 無理もない。

 鏑木Pが座組みしたスタッフは腕は確かだが、かなり癖の強いメンバーばかり。それは何度か手伝いに来た時にも感じたことだ。

 元々カメラや音響といった高度な技術力が必要な面子は良くも悪くも職人気質な者が多い、カントクもその一人だ。

 

 そうでなくても、俺のような何の実績もない高校生がいきなり監督に抜擢されたのは、コネか話題づくりのお飾りとしか思えないだろう。

 こうなることを見越して、カントクからは撮影中は出来るだけ現場に来て顔を覚えてもらえと言われていた。

 加えてカントク自身も不自然に俺を褒めたりして実力があるアピールをしていたが、肝心のアピールの仕方が下手なせいで俺から見ても依怙贔屓にしか見えずハッキリ言って逆効果のことも多かった。

 その結果がこれだ。

 

 カントクが近くにいればまだ気を使うのだろうが、今日は俺が監督だからと、本人は現場には来ないと宣言している。

 それもあって、今も俺をほったらかしで、カメラと演出が勝手に演出プランについて話し合っているくらいだ。

 現場で孤立するのは役者として何度も経験しているが、一役者としてならともかく、現場のトップである監督がそれでは示しがつかない。

 どの道伝えなくてはならないこともある。

 ここはこちらから動くべきだと感じたからこそ、こうして出向いたのだ。

 

「すみません。ちょっと頼みがあるんですが、今良いですか?」

「……なんです? 監督」

 

 三十代後半の演出が一歩前に出てぶっきら棒な口調で言う。

 彼とは例のカット割りを多用するパターンの演出も考えるために、何度か二人だけで打ち合わせをしてきたがいつもこんな感じだ。

 自分の半分くらいの年齢の子供があれこれ言ってくれば生意気に思われても仕方ない。

 だがまあ、この手のタイプのあしらい方は前世の頃から心得ている。

 

「カメラなんですが、一台じゃなく二台のカメラで多角的に取って欲しいんです」

「は? 今からですか? それだと演出プランも変わっちゃいますけど」

 

「プラン自体は大きく変えなくていいので。ただカメラの台数を増やす形にしてもらえれば」

 

「いや、簡単に言ってくれますけど、カメラを一台増やすだけでも撮り方は変わりますよ? カメラ同士がかぶったり、最悪ぶつかり合ったりしないように動線も考えないといけませんし」

 

 正論だ。

 本来ならこんなぎりぎりで言うべきことでもないだろうが、この方法を思いついたのが昨夜だったためこのタイミングしか無かった。

 一応理由はあるので、先ずは説得を試みる。

 

「主演はまだパフォーマンス部分でアイを完全には再現出来てないので、長回しだとボロが出ます。それならいっその事別角度からも撮って適宜使えそうな画を捜した方が上手く行くかと。あかねは元々舞台演技の役者ですから、どの方向から見られても問題ない演技は得意分野ですし」

 

 敢えてあかねの名前を呼ぶと、予想通り何人かのスタッフは眉を顰めた。

 

「あー。そういえば黒川さんは監督の恋人ですもんね。流石、よく分かってるわけだ」

 

 明らかに挑発目的で言ってるのが分かるが、それにもあえて笑って応える。

 

「ええ。あかねのことは俺が一番良く知ってます。だからこそ、一番綺麗に撮ってやりたいんで。急な変更で申し訳ないですが、皆さんなら出来るかと」

 

 今までの礼儀を守った態度から、一転してニヤリと小生意気な態度を見せると、二人は一瞬顔を見合わせてから、同種の笑みを浮かべ、頷いた。

 

「ま、そういうことならここは監督を信じてみますか」

 

「それなら気持ち、寄り目の画増やすか?」

 

 先ほどまでの態度から一変してどこか楽しげに提案してくるカメラマンに、やはりこのやり方は有効なのだと実感する。

 子供の頃カントクに使った手だが、中年以上の年齢になると、若者に砕けた態度を取られることを喜ぶ傾向にある。

 

 俺ぐらいの年齢で効果があるか若干心配していたが、本来は医者時代、病院で高齢者を相手にしていた際に手に入れたスキルである以上、ある程度年齢が離れてさえいれば、効果を発揮するようだ。

 

「そうですね。手足の動きがズレると目立ちますから。なるべく本職である現B小町のカットを多めの方が綺麗な画が撮れますかね?」

「でも、折角不知火フリルが友情出演してくれるんですから、多めに尺取った方が良いんじゃ……」

 

 カメラと演出の会話に助監督も加わり、そのままこちらに目線を送って確認を取る。

 

「その辺りの案配はお任せします」

 

 端役の友情出演だからといって、一流タレントを使うことには変わりない。

 鏑木Pとしては出来る限り出番を多く取ってウリの一つにと考えているだろう。

 その鏑木Pが選んだ演出家に任せる形を取れば、後で文句を言われることもない。

 

「……じゃあ、そんな感じで。時間もありませんし改めて、よろしくお願いします」

 

 その後幾つか撮影プランについて確認した後、改めて頭を下げる。

 

「おう。任せとけ」

「良い画を撮りましょう。監督」

 

 とりあえず、雰囲気が悪い中で撮影に入るという最悪の事態だけは避けられそうだ。

 今できるのはここまで。後はあかねたちがどれだけ頑張ってくれるかに掛かっている。

 俺の仕事はその後だ。

 緊張を隠すように、そっと深呼吸して気持ちを落ち着かせた。

 

 

   ☆

 

 

 元から大して広くない控え室に七人入るとかなり狭い。

 JIFの時の楽屋と言う名の地獄のような場所よりはマシだが、少なくとも超一流タレントである不知火フリルが使うような場所ではない。

 救いなのは本人が特に気にしていないことか。

 いや、それどころか彼女も含めて、メンバーたちは先ほどから延々楽し気な会話を続けている。

 

「おー。流石に時代を感じる衣装」

 

「私こういうヒラヒラの服初めて着た」

 

「そうなの? ファッションモデルなのにぃ?」

 

「ファッション誌にもそれぞれカラーがあるからね。私がよく載せて貰ってるところは、基本シックな奴だし」

 

「そもそもファッション誌の服は売り物前提やしなぁ。この手の衣装は載らんわなぁ」

 

 ファッションモデルであるゆきが感想を言っていると、グラビアとは言え同じくモデルであるみなみも同意する。

 

「そうそう。でも、これ着て動けるかなぁ。油断するとスカートめくれそう」

 

「いやいやゆきちゃん、アイドルの衣装はそうならないように芯入ってるから大丈夫だよ」

「おー。流石現役。しかし、みなみの衣装はこう、良いね。お胸のフレア部分が強調される感じがして」

「そのセクハラやめーや」

 

 ドヤ顔で会話に参加するルビーと、それを褒めつつみなみにちょっかいをかけるフリルと、ため息を吐きながらその視線から逃れるみなみ。

 前にも思ったがどうやらこのやり取りは彼女たちの中では恒例行事らしい。

 だがそうとは知らないゆきは驚いたように目を丸くした。

 

「……不知火さん。普段はこういう感じなんだ」

 

「ねー。私も最初驚いた。でも結構あるらしいよ。清楚売りしている間はボケさせないみたいな」

 

「ルビー。それウチが教えた話やろ?」

 

「え? あれ。そうだっけ? えへへ」

 

「ルビーちゃんは見たまんまだね」

「どういう意味!?」

 

 未だ続くやかましいやり取りから逃れるように、私はさりげなくその輪から外れ、一人スマホを見ている黒川あかねに近づいた。

 

「まったく。小娘どもがうるさいわねー。これから本番だって分かってるのかしら」

「……かなちゃん。言うことがおばさんっぽいよ」

 

 スマホから視線を外したあかねが、くすくすと笑う。

 

「誰がおばさんよ! 私はプロとしての心構えの話をしてんの」

 

 ツッコミを入れつつあかねの様子を確認するが、特に緊張は見られない。

 これならもう少し踏み込んでも良さそうだ。

 

「アンタこそ、大丈夫なんでしょうね? 他の連中はともかく不知火フリルはスケジュールタイトなんだから」

 

 特訓の成果もあり、アイドルのパフォーマンスに関してもかなり上達したが、やはりまだ不安が残っているようだ。

 一人さっさと着替えを済ませて、スマホを見ていたのも僅かな時間でもステップの確認をしたかったからだろう。

 

「……ゆきの話じゃないけど、衣装着てのダンスはまだちょっと不安。でも、うん。みんなも一緒だから大丈夫」

 

「みんな、ねぇ」

 

 含みを持たせるとあかねは拗ねたように唇を尖らせる。

 

「何?」

 

「監督がいるから。じゃないの?」

 

 ここで言うところの監督は五反田監督ではなく、今日のカットを撮るアクアのことだ。

 

「それは。……それもあるけど」

 

 一瞬にして顔を真っ赤にさせる様子に小さく笑う。

 

「はいはい。ゴチソウサマ」

 

 頬を紅潮させたまま、意地悪。と消え入りそうな声で言うあかねに私は再度鼻を鳴らした。

 

「とにかく私たちがフォローしてやるからアンタは全力で踊ることだけ考えてなさい」

 

「──うん」

 

 力強く頷くいた後は、いつもの演技に入った時の黒川あかねに戻っていた。

 

(とりあえず大丈夫そうね)

 

 彼女だけでなく、私の気持ちも。

 誰が見ても分かりやすい惚気を見ても動揺は無かった。

 もちろん一切何も感じないわけではないし、小さな痛みが残ってはいるが演技やパフォーマンスに影響が出るほどではない。

 やっぱり、ちゃんと自分から告白して振られることが出来たからだろう。

 その僅かな痛みも意識的に見ない振りをして切り替える。

 

「ほら、アンタたち! 着替えたらさっさと出なさい。メイクさん待たせんじゃないわよ」

 

 手を叩きながら、未だ雑談を続けている小娘ども+1に指示を出す。

 年頃の女子が複数集まった状況だ。

 その気になればいつまでも話続けるに違いない。

 

 実際はメイクの時間を入れても、まだ撮影開始までそこそこ時間は残っているが、この場面を担当するアクアはこれが監督としての初仕事だ。

 アイツの負担を軽くする意味でも出来る限り撮影の時間を長く取ってやりたい。

 そのためなら、嫌われ役を兼ねたまとめ役は私が引き受けるとしよう。

 これが私なりのアクアたちへの祝福の表し方だ。

 

「はーい」

 

 渋々と言った様子ではあるが、流石は全員プロというべきか、特に文句は出ずにぞろぞろと連れだって外に出ていく。

 私に出来るのはここまで。

 後はあかねの本番強さと、アクアの監督としての力量に期待するしかない。

 

「私たちは先行ってるから。最終確認が終わってから来なさい」

「うん。……かなちゃん。ありがとう」

 

 私の気遣いを理解したのか、正面切って柔らかく礼を口にする。

 もう一度憎まれ口でも叩いてやろうかと思ったが、止めておく。

 代わりに手をヒラつかせて挨拶代わりにすると私も部屋の外に出た。

 

 外では何故かルビーとMEMだけが残って私を待っていた。

 それもニヤニヤとした、癪に障る笑みを携えて。

 

「先輩やさしー」

 

「うんうん。面倒見の良さがかなちゃんの長所だね」

 

「うっさい! 分かってんなら面倒掛けんじゃないわよ」

 

 ピシャリと言い切ってから私は大股で控え室から距離を取った。

 ある程度離れてから周囲を見て、人通りがないことを確認してからルビーに話しかける。

 

「それより。例の件、アクアに話したの?」

 

 私の問いを聞いた途端、ニヤついていたルビーの表情が引き締まり、首を横に振る。

 

「……まだ」

「まあ、話したところで撮る内容が変わるわけでもないんだし」

 

 慌てたように取りなすMEMに、私は眉を寄せた。

 

「確かに、アレは内容云々って言うより、説得材料に近いけど……」

 

 それにしたって、撮影カメラの動きや演技プランの変更は必要になるかも知れないのだから話すだけ話しておいても良いと思うのだが……

 

「あかねちゃんあんなに頑張ってるんだし、もしかしたら今のままでもお兄ちゃんの撮りたいシーンが出来るかも知れないし」

 

 言い訳のように言葉を重ねる。

 ここ数日、直接連絡を寄越してきたあかねの面倒を見てきたのは私なのだから、アイツが頑張っているのは良く理解している。

 

 他のメンバーだとあかねに対して同情や心配が先立ってしまうので、その辺りを無視して厳しく教えてくれそう。という理由だったのには色々言いたいことがあるが、過去のいざこざから私に対して妙に敵愾心を持っていた(私も同様だが)あかねが素直に頼ってきたことには驚いたし、それだけ本気なのだと納得もした。

 ただ、それを加味したとしても、今のあかねが私たちを圧倒するようなダンスができるかと言えば、残念ながら首を横に振るしかない。

 

 だからこそアクアにだけは先に言っておくべきだと思ったのだが、これに関してはルビーの気持ちも分かる。

 ならば──

 

「じゃあ。今日は様子を見ましょ」

「え?」

 

「聞いてたでしょ? フリルのスケジュールの都合で使える期間は三日。内一日はダンス以外の撮影だけど、まだ明日もダンスの撮影は出来る。今日はアクアの言うとおり撮影して問題なければこのまま何も言わない。納得しきれて無いようなら、改めてあの件を話す。動画は持ってきてるんでしょ?」

 

「う、うん。一応スマホの中に移しといた」

 

「なら、アンタがアクアを説得している間に私たちであかねを含めた全員に話しておく」

 

「スタッフさんとか、カントクさんの説得は?」

 

「それは監督の仕事。アクアにやらせれば良いでしょ。逆にそれ以上先に延ばすと説得出来るもんも出来なくなる。だから今日が限度なの」

 

「……うん。そうだよね、分かった」

 

 それまでに覚悟を決めろ。と無言の圧力を掛ける私に、ルビーは僅かに気圧されたような態度を見せつつも最終的に力強く頷いた。

 

「よし。そうと決まったら意識を切り替えなさい。今日の撮影の出来が良くないと説得も何もないんだから。私たちは、全力で三人をフォローするわよ。まあ私とMEMはゆき一人担当だからそこまで心配はしてないけど……」

 

 アイをメインに据えつつ、残るメンバー六人が三人ずつに分かれてそれぞれ別の振りをするのがこの曲の基本形だ。

 私たちはゆきに合わせる形にすればいいが、ルビーはそうはいかない。

 

「分かってるよ。みなみちゃんとフリルちゃんは私がしっかり面倒見る!」

 

「よーし。じゃあ私たちが先陣切って、本家本元B小町の力を見せつけてやろー」

 

「おー! ほら、先輩も」

 

 MEMに合わせて勢い良く拳を突き上げるルビーを冷めた目で見るが、彼女はそんな私にもお構いなしに催促して手を取った。

 ルビーの圧しの強さと面倒くささは私が一番理解している。断っても無駄だろう。

 

「おー!」

 

 若干ヤケクソ気味に拳を突き上げ、私も気合いを入れ直した。




本当はもう少し先まで入れたかったのですが長くなりそうだったのでここで切ります
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